イキれクソ音!   作:ふかし芋

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入学後
入学


 

「”私はちょーゆーしゅーです”」

 

 鏡に向かってひとこと呟きます。

 

「“雄英においても素晴らしい成績を修めてみせます”」

 

 鏡の中にいる私に笑いかけて、不敵な笑みを浮かべます。

 私にはそれくらいお茶の子さいさいなのです。

 健全な肉体は心から。口に出すことでそれらは育てられます。

 

 

 理由はなんであれ、所属学科がなんであれ、私は雄英に入学出来ました。

 零と一とでは大きな違いがあります。つまり、私はよくやっている。すごくないですか? 雄英に入学出来たなんて! 私ってやっぱりすごい! もっと褒め称えられてもいいと思うんですけど、両親以外は褒めてくれません。両親からのそれって、お世辞のように感じられてあんまり嬉しくないですし。

 私はえらい。私は今日もいけてる。

 

「やっぱり私ってば……」

 

 

 そこまで言ったあとに、私を呼ぶ声が聞こえました。

 母親が起こしにきたようです。

 

 だから、これで今日のルーティンは終わり。

 思考を切り替えましょうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 制服に着替え、部屋から出て、朝食を摂ります。

 家で用意されるのは和食だけなので、洋食派の私は居心地が悪いのです。でも、そんなこと口に出したりはしません。うっかりでも個性を使ってしまったらいただけませんし、自炊をするときには思う存分色々作るので、まあ構いませんし。

 

 

 初日から遅刻なんてしたらよくないですから、故に万が一でも遅刻しないように早めに家を出ました。

 

 もちろん一人で、です。自立した大人である私は、計画性と余裕をもって行動するのです。家を出て、電車を乗り継ぎ、そして雄英の敷地前へとたどり着きました。

 

 ぼうっと雄英の校門を見ていたら、出久に声をかけられた。当然、こいつもまた雄英に入学するのだ。

 だから心優しい私は親しみを持って会話をし、そして雄英の敷地へと一歩足を踏み入れたわけです。

 もちろん八つ当たりなんてせずに、物腰柔らかく接することが出来たでしょう。

 

 

 

 ユニバーサルデザインやらバリアフリーやらを意識してなのか、中学と比べてひとまわりもふたまわりも大きい扉が前に存在していた。私は、ため息を吐いてそのドアを開ける。

 

 

 辺りを見渡すと、ただ単純に勉強ばかりやってきたのだろう顔の暗いやつ、劣等感にまみれているやつらばかりだ。

 多少は嬉しそうな生徒もいますが、基本的に冴えませんね。せっかく天下の雄英に入れたのだから、喜べばいいのに。いえ……これはブーメラン刺さってますかね?

 同じ学校の生徒は爆豪と出久しかいないのだから知り合いがいるはずもない。

 軽く一通りの同級生と話したが、どいつもこいつも無価値な無個性ばかり。普通科に入学したことを少し後悔した。

 でも、ここにいれば爆豪といる時間は増やせる。同じクラスじゃないのは少し……というかかなり悲しいが、それでもゼロよりはマシだ。

 

「爆豪元気かなぁ……」

 

 窓の外を見る私は、憂う乙女。さながら未亡人の如き魅力を出していることでしょう。

 

 爆豪勝己は、とても眩しい存在です。そんな彼は、ここ雄英ではどんな立ち位置になるのでしょうか。爆豪はとても強くて。個性も強くて、戦闘センスがあって、頭の回転も速くて、超優秀で、それが雄英でも通用するのでしょうか。

 まだ爆豪は実戦経験は積んでいませんし、まだまだ成長が見込まれます。

 それでも、雄英では中の下の成績だったりするのでしょうか。ああ、それは……それはそれで見てみたいです! あんなにも自信家な彼がへし折れるところが見てみたいものです。

 

 そう考えていると、自然に頬がゆるんでしまいます。引き締めて、別のことを考えることにしました。

 

 別のことといえば、耳郎響香はどちらのクラスに入ったのだろう。ヒーロー科に入ったのは間違いないことでしょうけど、果たしてどちらのクラスか……出久に聞けばすぐ分かるのだろうけど、あいつに頼るのは(しゃく)に障る。

 ……いえ、彼女のことなんて別にどうでもいいですし?

 そんなことよりも、まずは今後私がどうするべきか考えるべきだろう。

 

 自分のことだからとネットで情報を探ったりもしていたのですが、その中でひとつ明らかになったことがあります。

 ズバリ、雄英の普通科であってもヒーロー科に編入出来る可能性があるということです。

 これ、とても重要なことですよね。自分の価値さえ示せられたならヒーロー科に入れるんでしょう? まあ、もちろん知っていたから雄英に入ったんですけどね。割合としては爆豪から離れたくなかったってのもありますけども!

 

 不良生徒をヒーロー科に入れてくれるほど、雄英は甘くはないだろう。圧倒的な力量、自分の優位性を見せつけなければならない。それに加えて、素行もよくなければきっとヒーロー科になんて入れない。

 つまり、つまり、今私は一挙手一投足を見張られているのだと考えながら行動したほうがよい。

 

 見られていなくとも、私は見られていると思いながら行動したほうがよいのでしょう。

 普段の行動が全て本番に繋がるのですから。

 

 ……見られながらの行動。それってしかんってやつでしょうか。少し恥ずかしいですね。

 

 そんなことを考えている間に担任らしき先生が入ってきて、廊下に並ぶように私たちに命令しました。だから、そして体育館と思わしき広い建物内へと移動したのです。しかし、しばらく経てども、一年のA組だけはやってきませんでした。A組担任の意向らしく、さらにいうのならばよくあることらしい。

 とんだアウトロー教師もいたものだ。とはいっても、そのアウトロー教師が私の担任になるのだから、懇意にしておきましょう。顰蹙(ひんしゅく)を買ってしまうのが一番駄目ですし。

 入学式は、普通に終わりました。しいていうのならば、本当に校長が鼠らしいということだけが得た情報です。その他は、私にとってはどうでもよいことでした。

 

 

 簡単なガイダンス。入学セレモニー。そして、教室に戻って簡単な自己紹介。

 

「初めまして、私は魂月言音です」

 

 私はお淑やかでたおやかな女性である。故に、挨拶は丁寧に、人当たりよく。できる限り親しみやすいように行なった。悪目立ちだけは避けなければなりません。

 ……評判は良いに越したことはありませんし!

 

 ヒーロー科に編入してから、自分の立ち位置を確立させればいいのです。

 

「慣れないことばかりで、ご迷惑をおかけするかもしれませんが、優しく接してもらえればと考えております。皆さま、どうかよろしくお願いします」

 

 頭を下げると、まばらに拍手の音が聴こえてきた。

 そして、私は着席する。

 

「……」

 

 あまりよろしくない視線を感じたのでそちらを見ると、そこには目つきの悪い男子生徒がいた。目つきが悪い、とはいっても爆豪ほどではないが、少し荒んでいるように窺える紫色の髪の男子生徒だ。

 私が笑みを浮かべて頭を下げると、彼も小さく頭を下げ、そして前へと向き直る。礼儀がなっていないわけではないらしい。それに食ってかかるような好戦的な性格ではないと。

 

 ……はて、それならなぜよろしくない視線を感じたのか。まだ敵認定されるようなことは何もしていないはずだが……あまり気にしなくてもいいか。

 

 

 

 自己紹介も終わり、帰りのホームルームも諸連絡も終わり、私は帰りの身支度を整えていました。

 周囲は騒がしい。私はとても落ち着きを持った女性なのでこういった賑やかな場所も得意なんですよね。

 

 

 ──魂月さん、魂月さんはどんな個性なの?

 

 女子生徒が話しかけてきた。正直面倒くさい。この時間があるのなら爆豪に会いに行きたい。でも、まだ爆豪に会いに行く勇気はないので会いませんけど。まだ私は己を磨く期間だと思うんですよね。

 これも訓練。私は円滑なるコミュニケーションというものを耳郎響香との会話で身につけましたし、今回は実践です。相手を不快にさせることなく会話をしてみせましょう!

 

 ……それにしても、挨拶ついでに個性聞いてくるのなんなんです?

 ヒーロー科ならともかく、普通科で使う機会なんてないでしょうに。好奇心の為せるわざ? 不快な気持ちになる人もいるんだってことを知ってほしいですよね! それってぇ、個性蔑視に繋がることですからね……!

 いえ、私は不快になんてなりませんが、聞いた相手が私の個性の優秀さに心を打たれて心を折られてしまうかもしれませんし? 私は相手のことを想って言っているんですよ! ……あれ、私はまだなにも言ってませんでしたっけ? 言ってませんでしたね、これは早計でした。

 それならば、伝えるのはやめておきましょう。

 

 

「ふふ、なんだと思いますか? 私の個性は……当てられたら教えてあげます」

 

  そう冗談めかして告げました。多分そこまで相手を不快にはさせていないでしょう。

 完璧に決まりました。これは大和撫子です。

 そもそも個性を教えてもらいたいのならば自分から……あ、やっぱりいいや。興味もない。 

 

 

 

 

 

 私は完璧なるトーキングスキルで、女子生徒からの猛撃を凌ぎ、追撃を喰らわないように受け流し、のらりくらりと躱して、その場をあとにしました。

 今日はこれで終わりにしても、明日からも同じように話さなければならない……中々に苦行です。でもプロヒーローになったらこれ以上の苦難が私を迎えるのでしょう。そう考えるとゾクゾクしてきますし、こういった何の実にもならなそうな会話も価値のあるものに思えてきます。無意味なことなどないのです。一分一秒も無駄にしないように行動しなければ!!

 

 

 小さく拳を握り、そして廊下を歩く。

 意味もなく教室を出たわけではありません。もちろん、帰るつもりでもないのです。

 

 向かうは担任の教師のいるであろう職員室です。

 先生方も初日で忙しいかとは思いますが、私だって聞かなければ方向性が定まらないので。

 

 

「先生、少しお話しがあるのですがお時間よろしいでしょうか?」

 

 

 そういった切り口で、言葉を紡いだ。

 

 担任はその言葉に頷き、そして私の話を聞いてくれた。そして私は、担任へとひとつだけ質問を投げかけた。

 

 ズバリ、私がヒーロー科に入れるかどうかという質問だ。

 

 確かに私は、普通科であってもヒーロー科に編入出来るらしいという情報を得ている。しかし、情報を得たのはネットやSNSですし、今一信憑性にかけるのですよね。それだったら、雄英の先生から本当のことを聞こうと思いまして。

 

 そして返ってきた答えは是。優秀な成績を納めれば、そして体育祭で自分の力を示すことが出来るのならば私はヒーロー科に入れるだろうという言葉をいただいた。

 

 一筋の希望が見えた。いや、それは一筋の希望というよりはもっと太く、はっきりとした道だった。だって、私の個性はさいきょーだ。爆豪以外は誰も敵う事はない素晴らしい個性なのだ。もちろん個性だけではなく、それを扱う私だって爆豪の次に強い。それなら、A組にだって余裕で入れる。

 

 

 

 私はヒーローになりたい。

 理由は自分のためです。でも、その願いのためなら命だってかけられます。

 

 死んでしまったらそこで終わりではありますけど、それはそれで素晴らしいことだと思います。命を賭して人々を守る……そんな美談が出来上がれば素晴らしいことですしね。まあ、もちろん無意味に死にたくはないですが!

 

 

 

 見たところ、普通科の生徒にはそれらしい人材は揃っていない。言音ちゃんアイは優秀なのですが、それでもこうなのだから、少なくともこのクラスには私の敵になりそうな人物はいません。

 

 私が今やれることはそうありませんが、こうして先生から話を聞いて、私のひとまずの目標は決まった。

 体育祭で優秀な成績を収めること。及び、周囲からの注目を得ること。

 

 これをやれれば勝ちも同然! それならば今からでも訓練をしましょう!

 

 私は心を踊らせて、そして帰路へとつくのでした。

 





一応伝えておくと、この作品は体育祭や合宿らへんで終わらせるつもりです。作者がまたエタらないように祈っておいてください。

シリアス展開について

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