天羽奏とフィーネ。向き合う二人の間に流れるどこかで聞いたような男の声。
「なっ」
奏は驚きながら胸元に手をやり、そこに光るリングを手にして。
『奏、俺を指にはめな』
懐かしい呼び声。リングについた装飾。小さな頭蓋骨が生きているかのように動き、喋る。
「……お……お師さん……?」
『おいおい。泣き虫は翼の専売特許だろ?』
脳裏に映る思い出。いつだって。それこそ戦いの場ですら笑顔を絶やさなかった、穏やかな声音。
「お師さん……お師さんっ!」
ぎゅぅっとリングを胸に抱き、奏は叫んだ。
ポロポロとこぼれ落ちる涙を気にもとめず、奏は泣きじゃくるように叫んだ。戦場であることを忘れ、戦士から幼子に戻ってしまったかのように涙を流した。
そんな奏の様子に、指輪はしょうのないやつだ、と苦笑いを浮かべ――同じく呆然とこちらを眺めるフィーネへと視線を向ける。
『よぅ、了子』
「……亡霊が。迷い出たか」
『迷ったわけじゃないさ。俺の目的地はここだ。――奏』
「あ、わ、わかった」
再び声をかけられて奏は慌てたようにリングを紐から外し、壊れ物を扱うような優しい手付きで左手にはめる。フィーネはその様子を苛立たしげに眺めながら、ふんっと鼻を鳴らしてムチを振り上げ。
「……歌、だと?」
耳元を優しく流れていく、どこからか聞こえる少女たちの歌声に気づいた。
『了子』
「その名で私を呼ぶな亡霊っ!」
『シンフォギアは、歌。歌に込められた強い想いに応えてより強く輝く。そう、お前は俺たちに言っていたな』
「なに? ぐっ!?」
突如後方から襲いかかってきた衝撃に、フィーネは数mほど弾き飛ばされ膝をつく。
「くぅっ、何が……」
『歌さ』
自問自答するようにつぶやくフィーネに、リングが光りを放ち答えを返す。その言葉にキッと顔を上げたフィーネの視界の先で、光りに包まれ、立ち上がる未熟な一人の戦士の姿。
「まだ歌える。頑張れる……戦える!」
「貴様、まだ戦えるだと!? 何を支えに立ち上がる。何を握って力と変える? 鳴り渡るこの不快な歌の仕業か!?」
『いい歌だ。穏やかで、心が洗われる』
「黙れ亡霊! そうだ、貴様が身に纏うそれは何だ? 心折られ、砕かれて何故、何をお前はまとっている? それは私がつくったものか?」
先程までの余裕はすでになく、半狂乱に陥りながらフィーネは響を指差した。
「おまえがまとっているそれはいったいなんだ、なんなのだっ!?」
叫ぶフィーネの言葉を受け、立花響は立ち上がる。強い光を宿した瞳。決意に満ちたその瞳にフィーネがうろたえ、後ずさる。
そして、彼女の全身から吹き出すように光の奔流が沸き起こる。呼応するかのように更に1つ、2つ光柱が立ち上り。そして、この場にいる奏もまた。
「シィンフォギアアアアアアアアァァァァッ!」
再構成されたギア。光の翼を得たそれを身に纏い、天に向かって立花響は叫ぶ。彼女の叫びに応えるように、倒れ伏した筈の翼とクリスが、新たなるギアを身に纏い再び戦場に舞い降りる。
「すまない奏、立花。復帰が遅れた」
「構わんさ。大戦果じゃないか」
「ンだよ、美味しいとこは譲ってやったのにまだ終わってねェじゃねーか」
「クリスちゃん、良かったぁっ!」
「わ、こら抱きついてくるな!?」
相棒同士のやり取り。戦場でなければ他愛もない年頃の少女たちの戯れ。
それを苦々しく見上げる、一対の瞳。
その視線を真正面から受け止めて、響は口を開いた。
「みんなの歌声がくれたギアが、わたしに負けない力を与えてくれる。クリスちゃんや翼さん、奏さんに、もう一度戦う力を与えてくれる!」
「それがどうした小娘っ!」
「歌は戦うだけの力じゃない! 命なんだ!」
「知ったような口で!」
響きの言葉に激昂しながら、フィーネはソロモンの杖を振るう。杖の先から現れるノイズの群れに装者達の視線が険しくなる中、表面上の激情とは裏腹に彼女は冷静さを保っていた。
限定解除されたシンフォギア装者達の力は、甘く見ることは出来ない。流石に完全聖遺物に並ぶとは思えないが、人数の差は歴然。亡霊の存在も気にかかる。
まずは数の利を取り、稼いだ時間で完全聖遺物デュランダルを回収。デュランダルとネフシュタンの鎧2つを持って小娘共を叩いて潰す。
脳内で組み上げた戦術をシミュレートし、実行できると判断したフィーネは表面上は錯乱したかのように振る舞いながらソロモンの杖を振るい、ノイズの群れを呼び出し続ける。
彼女の取った戦術は間違いではない。再生能力を有するネフシュタンの鎧とはいえ、単独では限定解除された4名のシンフォギア装者を相手にすれば不覚を取る可能性もある。
だから、集の力を圧倒する個の力を。デュランダルの生み出すエネルギーとノイズの力を束ね、有象無象を蹴散らす圧倒的な力。それがあればこの不安は拭い去れるだろう。
全てを薙ぎ払い、その力を持ってして世界を制し更地になったこの地に再度カ・ディンギルを建造すればいい。己の勝利を確信し、フィーネは頬を釣り上げる。
『なんて思ってる顔だな、あれは』
「え、指輪さん、人の心が!?」
『んな訳ねぇだろ。相手が付き合いの長い了子だからだよ』
増加していくノイズの群れ、群れ、群れ。フィーネが杖を振るえば振るうほどに増えていくノイズ達を、さりとて慌てずに見下ろしながら、4人と1個は密やかに作戦会議を行い各自の行動を決めていく。
『翼。そっちの指輪を、指につけな』
「……せんせい?」
『おう。まぁ、あれだ……立派に、なったな』
「せんせい――せんせいっ!」
『……泣き虫は変わらんか、おい?』
苦笑を漏らすような指輪の声。脇目も振らず奏の左手に抱きつく翼に、響とクリスがoh!と両手で目を隠しながらもチラ見する中、事態は進行する。
準備を終えたフィーネは、動こうとしないシンフォギア装者達に違和感を感じながらも行動を開始する。呼び出したノイズ達による一斉飽和攻撃。放火による粉塵が舞い上がる中、フィーネはデュランダルを呼び出した。
こちらに対処できないように間を作り出し、デュランダルとノイズをその身に受け入れる。ネフシュタンの鎧と同化した今の己ならば、これらの力を束ねることすら可能である。
己の勝利を再度確信し、フィーネはその頬を釣り上げる。
そして、それを。
『待ってたぜ』
黄金色の風は待ち続けていた。
『2つの完全聖遺物が一つに集う、この瞬間を』
【 いつの日かお前には 分かって欲しい 】
歌が聞こえる。
【 戦いだけに生きた 俺の胸の内を 】
ノイズ達の一斉砲火により舞い上がった粉塵が晴れる。仕留めたなどとは露ほどにも思っていなかった。その程度で仕留められてくれるならば、どれだけありがたいことだろう。そう心の中でひとりごち、フィーネは己が眼で敵を見る。
風にのって聞こえる歌の主……黄金色の騎士を幻視する。
【 愛にはぐれ 愛を憎み 愛を求める 】
だが、そこに居た姿は彼女の知る姿とは全く別の代物だった。思い出の中にある重厚な黄金騎士の姿は無く、そこに飛び立つのは二人の可憐な少女の姿だった。
【 僅かな安らぎさえ打ち棄てた 誓いだから! 】
黄金色に輝くシンフォギアを身に纏う、少女たちの姿だった。
「バカな……知らない。そんなものを! 私はっ!」
何度目かの理解を超える状況に、フィーネの動きが止まる。本来、戦うものではないフィーネの弱さ。それは、戦うものであれば咄嗟に動ける、動かないといけない場面でこそ如実に現れる。
そして……それを黄金の息吹を受け継ぐ戦士が、戦士たちが無駄にするはずもない。
まず、空を走ったのは黄色い先行。もう一人のガングニール使い、立花響。つなぎ合う力、響き合う唄を胸に秘め、彼女は空を翔ける。体の一部を変形させて迎撃しようとするフィーネの攻撃を嘲笑うかのように軽快に空を飛ぶ彼女は、ある程度注意を引き付けたと判断した瞬間に、声を張り上げた。
「クリスちゃん!」
「あいよ!」
その言葉とともに放たれるミサイルの山、山、山。全周囲から放たれているのではと錯覚するほどのミサイルの雨。更にフィーネは体を更に変化させてそれらを撃ち落とそうとするも、明らかに反応しきれずに大部分を直撃。爆風の中で身動きが取れない彼女の眼前で響が限界までパワーを引き絞った一撃を見舞う。
【 立て! 修羅のごとく 魔戒の剣士よ 】
その風景を。頼もしい仲間たちが注意を引き付けてくれている姿に、風鳴翼は笑みを浮かべる。青と金色に包まれたシンフォギア、 天羽々斬を身に纏って歌う。右手にはめた指輪は彼女を守る黄金色の篭手となり、彼女に共に歌う力をくれる。
もう彼女は、一振りの剣ではないのかもしれない。ともに戦う仲間が、そばにいてくれる仲間が居るのだから。その右手に師の形見を握りしめ、左手に己のアームドギアを握る彼女はキッと眼前の敵。さながら黙示録の赤き竜とでも言うべきそれに相対する。
【 運命の唄の 命ずるままに! 】
朱と金色に包まれたシンフォギア、ガングニールを身に纏った天羽奏は、己の半身を包む鎧に左手をそえる。暖かな心地だった。戦場の中、殺意を持って見やる敵と相対しているというのに、安心感すら感じながら自分はここに立っている。
この感覚を自分は覚えている。天羽奏の心の原風景。あの山中で、黄金色の腕に抱かれたあの時と同じ感覚。
『奏』
「わかってる! 響、クリス! 離れてくれ!」
鎧に組み込まれた師の言葉に従い、奏は二人の前に立つ。あの時、腕の中で振るえていた少女はもう居ない。ここに飛び立つのは、悩み、苦しみ乗り越えて立ち上がった一人の戦士。
いや。二人で一対の『翼』だった。
「そんなバカな。聖遺物2つの融合だと? 何故だ。何故貴様らが纏える? それを束ねられる!?」
【 月夜に輝く 孤高の戦士よ 】
「何故、牙狼剣がここにあるっ!!?」
黄金色に輝く『翼』をはためかせ、二人が赤き竜へと迫る。それを妨げるように竜の息吹が二人に向けて放たれ――
『準備が終わったのは、こちらも同じだぜ……了子』
その息吹に向けて、限界まで高められたフォニックゲインを乗せた牙狼剣の一閃が、風鳴翼から放たれる。
放たれたそれは竜の息吹を捉えると一瞬の拮抗の後、衝撃波となって弾け散る。周囲に向けて無作為に分かたれた膨大なエネルギーを、防ぐのは黄金の鎧を身に纏うもう一翼の翼、天羽奏。
己自身を基軸に、奏が生み出した黄金色の風は荒れ狂うエネルギーの全てを巻き込み、更に激しく、強く熱く成長を続け、やがて竜巻へと至る。
限界点にまで達したそれを槍を媒介にして束ね、奏は赤き竜へと向けて解き放つ。
牙狼剣とデュランダル。2つのエネルギーを纏め上げた竜巻は触れる全てを巻き込み、バラバラにし、分解させながら突き進む。
【 迫りくる影を 一網打尽叩き斬って 】
「ひっ!?」
己を砕かんと押し寄せる竜巻に、フィーネは心中に沸き起こる恐怖に任せて、再度竜の息吹を放つ。だが、十分な力の蓄積もされていない苦し紛れの一射は、竜巻を少しも押し止めることが出来ず。逆に更に勢いをまして、黄金色の竜巻は赤き竜を飲み込み、砕く。
【 気高く 吼えろ! 】
竜巻が己を襲う瞬間、フィーネは悲鳴をあげながら咄嗟に右手に持つデュランダルを盾にした。何か考えがあっての事ではない。ただただ迫りくる恐怖から逃げようという、生物ならばどんな存在でも持つ本能に従ったことだった。
そして、それは彼女の命をつなぐという意味では、最善で、最も愚かな選択であった。
ビキッ、ビシッ
「デュランダル……?」
強い衝撃。全てを根こそぎ吹き飛ばしかねないそれに耐えるフィーネの耳に届いた、小さな音。目を開ける事も難しい暴風の中、僅かに目を開いたフィーネは、それを見た。
エネルギーを生み出し続けながら、音を立ててひび割れていく完全聖遺物の姿を。
そして――黄金色の竜巻の中を翔ける、一翼の翼の姿を。
「フィィィィィィィィネェェェェェェェッッ!」
デュランダルの破損。身動きできない現状。そして、迫りくる一刃の翼。戦士ではなく巫女でしかなかったフィーネの処理能力を容易く上回る事態の数々。
「オ、オノレエエエエェェ!」
故に、その場で彼女が取り得る選択肢は唯一つ。
右手に持ったデュランダルを振りかぶり、ただただ恐怖に任せて振り下ろす。それだけが、フィーネが選べる唯一の選択肢で。だから。
『行け、翼。牙狼剣を――押し込めっ!』
「うわあああああああああぁぁぁぁぁ!!!!」
【 ガロォォォォォォォォッ! 】
振り下ろしたデュランダルごと、ネフシュタンの鎧ごと。フィーネの意識は牙狼剣に砕かれ、闇に包まれた。
「せんせい、せんせい、せんせいっ!」
『お、おう』
「ちょ、やめ、やめろよ翼! 気持ちはわかる! わかるけど!」
「あのすまし顔女が良くもまぁ」
「翼さんも奏さんも、嬉しそう!」
女3名よれば姦しいとは言うが、4名も集まればそれは祭りと評するほどに騒がしくなるらしい。普段のクール打った態度が嘘のような翼の取り乱し用に乾いた笑いをもらしながら、指輪はそう内心で独り言ちた。
あの時。寿命を使い果たしたあの病院のベッドの上で、指輪は死んだ。いや、指輪と言うよりは、本来の牙狼の継承者であった男が、というべきか。
ここで教え子に頬釣りされている指輪は、厳密に言えば男本人ではない。弟子二人を残していく事を心配した、お節介な男が最後の力を振り絞って己が身につけた指輪に込めた残滓、それを媒介に魂を宿した外法の存在だ。
そう。仮にあそこでフィーネ……櫻井了子が細工を施さなくても、彼は恐らく一年も生きることは出来なかったのだ。
だが、そうだとしてもこの身は戦士であり、師でもある。託したとは言え、まだまだ鼻の青い教え子たちの行く末が見たかったこともある――今際の際で。心残りが出来たのも、ある。
故に、彼は少しだけ道を外れたのだ。もう一人の己との融合の際、少しだけの外法を持ってして彼は今、この場に居る。
全ては。
「…………」
『目、覚めたか。了子』
この時のために……てな。
「………呼ぶな」
『了子』
「私を呼ぶな……っ」
『了子』
「私をっ! その名で、呼ばないでっ!!」
悲鳴のような櫻井了子の声に、姦しかった少女たちの声が止む。彼らと、戦いが終わった後に這い出るように地下から出てきた避難民達――弦十郎たち二課の面々や、少女たちが通う学校の生徒たちも含む彼ら――の視線を一身に集めながら、フィーネと名乗る櫻井了子は震える体を抱きしめて、叫びを上げる。
全ての手段を砕かれた。ネフシュタンの鎧も最早力を失っている。鎧と同化している己も、この身を朽ち果てさせるのはそれほど遠い未来ではない。永遠の刹那に生きる巫女フィーネ。かつてと同じように彼女はまたいつかどこかの時代に現れるまで眠りにつくことになるだろう。
彼女にとって、ただそれだけの話。
だから、その目に光る涙も。悲鳴を上げる櫻井了子だった名残も。フィーネにとっては、一時の気の迷いだとか、幻のようなものだった。
そう。
『……女の涙は、惚れた男にだけ見せるもんだぜ?』
その涙を拭う、その右手も。
主無く立つ鎧の奥に秘められた、彼女を気遣う視線もまた――一夜の幻でしかないのだろう。
「指輪が……お師さん!?」
『ありがとよ、奏。だが、そろそろタイムアップだ』
指から抜け落ちるように外れ、飛ぶよう鎧に向かう指輪。咄嗟に奏は手を伸ばしたが、不可視のバリアに阻まれたたらをふむ事になる。
「牙狼剣がっ? 先生!?」
『翼。お前は良い剣士になった……親父さんと、仲良くな』
手に持つ牙狼剣に弾かれ、驚きの声をあげる翼の耳元で、風が優しく囁いた。
『そっちの、ええと。立花響と、雪音クリスだったか』
「……はい」
「……おう」
『こいつらどっか抜けてる所があるけどよ。支えて……共に戦ってやってくれ』
振り返った鎧の言葉に、響とクリスが頷きを返す。その返事に、表情が見えないはずなのに笑顔を向けられたということだけは伝わって。何が起きるかもわからないのに響は溢れ出てくる涙を止めることが出来ず、クリスはほぞを噛んだ。
「……何をする気、貴方」
『最後の始末さ――俺と、お前の。弦十郎! 後は、頼んだっ!』
櫻井了子の言葉に、常と変わらない調子で応え――黄金騎士は、櫻井了子をその両腕で抱きしめ、光の柱となる。
「きゃっ」
「せん、くっ」
駆け寄ろうとした奏と翼二人だが、光柱から生じた暴風に押し戻される。シンフォギア装者が近寄る事も出来ないエネルギー。
余りの眩しさにその場にいるほぼ全ての人間が光を抑えるように手で目を庇う中、ただ一人。風鳴弦十郎だけは、その光から目をそらさず、全てを目撃した。
霞む視界の中、光の柱から飛び立つ黄金色の翼を。
黄金騎士を身に纏う、櫻井了子の姿を。
「どういうつもり?」
自由意志で動く唯一の場所。口を動かして、櫻井了子は鎧に問いかける。大気のない宇宙空間であるが、念話を使用できる了子にとって空気は相手に意思を伝える上で必要な物質ではなかった。
では、何故口を動かしたのかと言えば……それがなぜかは、彼女にもわからない。
――櫻井了子の口調が自然と出てきたことと、もしかしたら関わりがあるのかもしれない。
『言ったろう、最後の始末だと』
「だーかーらー! 何をする気かってことよ!」
『サプライズは本番まで取っておくから、サプライズって言うんだぜ?』
苦笑するような鎧からの思念。それに臍を噛み、了子はしかしどこか気安さのような感情を抱いていた。
どうせ間もおかずに滅ぶ身。ならば最後くらい、この酔狂な鎧の酔狂に付き合ってやるのも一興であろう。
そんな考えだったからか。二人は宇宙を行きながら、会話を続けた。己が死んだ後のこと。己が殺した後のこと。互いの視点で、互いの心の内を話していった。
月が間近に見えるまで、予想よりも早く着いた事に驚くまで。
櫻井了子と黄金騎士は、話し合った。
「……そ」
『そういうこと』
そして、たどり着いてしまったから。この時間は、もう終わり。
欠けた月に降り立ち、黄金騎士と櫻井了子は視線を上げて地球を見る。
青く輝く地球を見て、そして。
牙狼剣を欠けた月に、突き立てた。
【 行け 疾風のごとく 】
背に生えた黄金色の翼を羽ばたかせ、剣の柄を掴み。根本まで剣を差し込み、そして全力で月の破片を推していく。
どこからか流れてくる唄。鎧が歌っているのか、もしくは付き合わされた了子がやけくそになって歌っているのか。
動かせないならば更に翼を強く大きく羽ばたかせ。少しずつ巨大化する翼が、地球からも見える程に成った時。
わずかにだが、少しずつ月の欠片が月へと近づいていく。
【 宿命の剣士よ 】
やがて翼だけでなく、月の欠片に突き刺した牙狼剣も大きく、長く、強く姿を変えていく。剣は月の欠片の反対側まで突き抜けると、そのまま月本体へと突き刺さる。そして、そのまま月の反対側まで突き抜けて。
月が月のかけらと串刺しのような姿になった時、巨大な光の翼は一度だけ大きく羽ばたいて、その姿を消した。
【 闇に光を…… 】
そして、これが。
『ルナアタック』と後に呼ばれる事になる大事件の終焉であり。
黄金騎士とフィーネが目撃された、最後の瞬間であった。
パ、パラッパ、パラパラ♪
高らかに鳴り響くラッパ音。軽快なドラムロール。ゆらゆらと揺らめくスポットライトが淡くステージを照らし出す。
楽しいステージ♪ 素敵なステージ♪ 喜劇のステージ♪
パ、パラッパ、パラパラ♪
ラッパとドラムに合わせてどこからか聞こえてくる歌のリピート。誰一人居ない観客席から聞こえてくるそれに、答えるように舞台袖から役者が飛び出した。
「ハァァァァイ! さっきぶりだねエブリワン! 今日も来たよ来ちゃったよ♪ 悲しい寂しいおさらばが♪」
それは少女、いや。もしかしたら少年かもしれない。白と赤で構成された衣服をまとった、雪よりも白い肌と紅蓮よりも赤い瞳を持った子供。
全てを笑うように、嘲笑うように右頬を釣り上げて、デタラメなリズムで歌を歌いながら、彼もしくは彼女は幾億幾兆幾京では数え切れない視線を浴びながら、怨嗟と称賛と絶望と希望を一身に受けながら。紅白は己のステージ上で両手を広げた。
「さぁ、今回の子羊のご登場です!」
デロデロデン、という音と共にステージの上にふわりと火の玉のような何かが現れる。それはぐにょりぐにょりと人形へと変わり、やがて先程まで動画を見ていた人間には見覚えのある、男の姿がそこに現れた。
観客たちの視線にさらされた彼は居心地の悪そうな顔を浮かべながら、ぺこりと頭を下げる。画面内では飄々とした彼のその姿に、リスナーと呼ばれている存在たちの多くは苦笑のようなものを漏らす。
「えー、皆様。ワタクシ、いえ。俺の生涯をご覧いただきありがとうございました。此度、ご覧頂きました戦姫絶唱シンフォギアは『こいつ直接脳内に!?』でお馴染みの魂魄動画で全話配信中なので是非御覧ください。あ、この動画から飛んで頂ければ俺にもボーナスげふんげふん」
「お前♪ ダイマしてんじゃねぇぞ♪」
ゲラゲラゲラ
「お愛想ありがとうございます」
「もうちょっとお前は愛想笑いしろや♪ さ、皆様さまご傾注! これよりリザルトを始めます♪ 彼の動画を見て楽しんだ方、笑えた方、俺もやりたいと思った無謀な貴方はコーコ♪ ポイント注ぎ込めよ♪」
「皆様方のポイントを力に変えて、我々死に様動画は運営させていただいております」
「次の動画撮影のためにも♪ ガンガン押せ♪」
ゲラゲラという存在達の笑い声。カーテンコールに合わせてどんどん押されていくポイントボタン。メーターのようなモノに貯められていくナニか。
少しずつカーテンで閉じられていくステージの中、頭を上げた紅白がふわり、と空を飛びカメラの前までやってくる。
「それじゃあ、今日はここまでだ♪ お前ら皆、またいつか♪ 私のステージ楽しみに♪」
パ、パラッパ、パラパラ♪
高らかに鳴り響くラッパ音。軽快なドラムロール。ゆらゆらと揺らめくスポットライト。
楽しいステージ♪ 素敵なステージ♪ 喜劇のステージ♪
どこからか流れていく唄をバックミュージックに、画面は少しずつ、少しずつ闇に染められ消えていく。
そして全てが闇に染められた後に。
Finと描かれた文字が白く空に浮かび、そして、消えた。
死に様動画をお楽しみ頂きありがとうございました。
またのご来援を心よりお待ち申し上げております。
かしこ。
メインの話は終わりです
裏話があるかは未定。