「本当に、本当にそんなチートがもらえるのか!!?」
見渡す限りに白が埋め尽くす空間の中。
少年の喜びの声に、目の前に立つ好々爺と言った風情の老人はにこやかな笑顔を浮かべながら一度、二度と頷いた。
「おぉ、おぉ。勿論じゃとも。お前さんを殺してしまったのはワシの失態。お詫びに好きな能力をやるし、なんなら元の世界ではなく好きな世界に生まれ変わらせてやろうとも」
「やった! 神様、ありがとう!」
「ふぉふぉふぉふぉふぉ。お礼は良い。あくまでもお詫び、じゃからのぉ」
無邪気に喜びの声を上げ、神様、と目の前の存在に畏敬の念を向ける少年。神と呼ばれた存在はそんな彼の様子にうんうんと唸っずきながら「さて」と話を切り出した。
「それで、お主の希望を聞こうではないか。ああ、思い浮かべるだけでよいぞ」
「え、あ。そう、そうだな。えーと、えーと」
そう問われ、少年は指を一つ一つ折りながら頭の中であーでもない。こーでもない、と考え――やがて心に決めたのか。
「決まった。これで、お願いします!」
「うむ。ほぉ……一つ一つの人間は分からぬが、中々」
少年の頭の中のイメージを読み取った老人は、「うぅむ」と唸るように声を上げる。彼にとっても思っていたものとは違うものだったのだろう。そんな老人の様子に、少年は少し不安げな様子を見せる。
「む、無理か……無理でしょうか」
「いや、少し驚いただけじゃよ。しかしお主も中々欲張りじゃのぅ」
「へへへ」
苦笑を漏らす老人に少年は気恥ずかしそうに笑いながら鼻の下を指でこする。
確かに欲張りと言えるのかもしれない。何せ彼が望んだチート、それは――
「自身の知る
「はい。お……僕、ヒーローになりたくて……でも、どんな人の力を選んでも『あの時、別の力を選んでいれば』って後悔しそうだったから。だから、全部持っていきたい」
「なる程。なるほど、成程……いや、わかった。お主の知る全ての英雄の力、授けようではないか」
「本当ですか!?」
「うむ。最初に言ったじゃろう。どんな力でも、とな」
そう言って笑う老人に益々畏敬の念を抱きながら、少年が頭を下げる。その少年を静かに見下ろしながら、老人は右手を動かし、少年に向かって掌を向ける。
数瞬の後、少年に向かって光のような何かが降り注ぎ、そして老人は手を下した。
「これで良し。使い方は頭の中に思い浮かぶ通りの方法で良い。だが、使いこなせるかはその人間次第じゃ」
「は、はい! 頑張ります」
「うむ。ああ、それと転生したい世界に希望があるかのぅ」
「あ、はい! ええと、じゃあ……ワンピースの世界で!」
「ふむ……うむ、理解できたぞい。ではその世界に送ってやろう」
老人の言葉に再度少年が頭を下げるが、老人はいやいやと手でそれを押しとどめる。
そして老人は笑顔を浮かべたまますっと右手を上げ、少年の背後を指さした。
「さて、ではあの黒い円の上に立つと良い」
「え、あ。はい」
「ほれ、早く移動しなさい。時間は待ってはくれんぞ……取れ高も稼げたしのぅ」
良く分からない言葉を呟く老人に、少年は初めて怪訝な顔を見せるが、自分の体の中にある確かな力の感触――今ならばなんでもできるという感覚に誤魔化され、少年は言われたとおりに黒い円の上に立った。
その姿に老人はにこやかな笑顔を浮かべたまま一つ、二つと頷き。
「はい。では第29478114514回ドッキリ企画『え、そんなチート貰って転生!?』の結果発表の時間になりました。今回エントリーは間抜け面で寝ていた所を隕石に脳天貫かれた少年、バカ田抜作君……あ、違う名前だっけ? ごめん瞬で忘れっちゃったわ名前。でした」
「……え?」
老人の口から矢継ぎ早に放たれる言葉に少年が呆気に取られる中。
口元を歪にゆがめた老人が右手の親指をゆっくりと立て、そして一気に下に向ける。
「彼の望んだチートは『自分の知るヒーロー全ての力』でした。一応世界も聞いておきましたが爆笑ですね。さぁ今夜も汚い花火のお時間ですよ~笑」
「ちょ、か、神……神様!?」
「俺、神様じゃないんだよね。じゃ、ばいばーい」
足元が消失する感覚。神と呼んだ老人に手を伸ばそうとすると、伸ばした手が何か見えない壁のような物にぶつかる。そんな少年の姿を指さして笑う老人――いや。すでに老人の姿ではない。黒い人型のような何かの姿。
少年が騙された、と思う間もなく、彼を襲う浮遊感。堕ちている。そう感じながら彼は咄嗟に自分に与えられた能力――『自分の知るヒーローの力』を使おうと体の中に意識を向ける。
空を飛べるヒーローの数は多い。舞空術や魔法、いや。それらを上手く操れるか分からない以上は――何か、べ
そこまで思考した時、少年は唐突に悟った。
自分の中にあるヒーローとしての力。それこそ数百人にも及ぶヒーロー達の力。
それが、今。
弾ける。
パァン
乾いた音を立て、少年だったものはあふれ出る自身の力に耐え切れずはじけ飛んだ。
その様子を眺めているだろうナニカからの喜びの波動。あの存在の恐らく望んだ通りの光景。
土台無理な話なのだ。たった一人の人間に数百人分の情報を詰め込むなど出来る事ではない。恐らくあのナニカの補助であの空間の中では無事だったが、そこから一歩でも出ればこうなるのは必然だったのだろう。
バラバラの少年”だった”肉片と血はそのまま落下しながら次元のはざまを抜け、そしてやがて青い空の下へと到達する。
そのまま放置すれば間違いなく海か島に落ち、動植物の栄養となるか腐り果てて朽ちる事になるだろう。助けてくれる存在ももういない。いや、あれは助けたのではなく全て自作自演。少年の死からあの会話まで全てがあの存在の掌の上だったのだろう。
こうやって少年が汚い花火とやらになってはじけ飛び、そして消えていくまでがあの存在の趣味の悪い娯楽のようなものだったのだろう。
おのれ邪神!ゆ゙る゙ざん゙!!
その時、不思議な事が起こった。
バラバラになった筈の少年の体の一部から光が溢れだしたのだ。
その光は自身の周辺にある少年の血と肉全てを光の幕となって包み込む。光の幕はまるで意思持つように動き、それぞれが分かたれる形で世界中に散らばっていったのだ。
その数百に及ぶ光の流星はまるで自ら落ちる場所を選んでいるかのように空を行き、あるものは陸に、あるものは海の奥深くに、あるものは山脈に、あるものは島へと落ちていく。
そして、今。
「星が落ちて来たぞ、相棒!」
「ああ。隕石、という奴か。噂では聞いたことがあるが、まさかうちの船に落ちてくるとはな」
海の上を行く船の上。海賊旗を掲げるその船の上に一つの光の幕――光球が落ちる。
「光――いや、これは人か?」
「ロジャー。何かわかるのか?」
「いや、わかんねえ! だが、面白ぇ!」
それは時代の流れを大きく変える一つの奇跡の産物。
「光の玉が、人に?」
「わっはっは! やっぱりなぁ! よう、そこのお前さん! 名前はなんてぇんだ!?」
海賊の王と呼ばれた男と、一人のヒーロー。そして、世界に散らばった数多のヒーローたちが織り成す『
「……俺は」
己のシンボルとなる右拳を眺め、男は口を開いた。
「俺はサイタマ。趣味でヒーローをやっている者だ」
そして彼らはうねりを上げる時代の荒波の中へと進んでいく。
「水先星島」への上陸
「違ぇ……ここは」
「何か感じたのか、ロジャー」
「
「いいや。確かに感じる。この先……本当の最果ては別にある!」
最果てと信じた場所の偽り。冒険は未だ終わらず。
ゴッドバレー事件
「ロックスッッッッ!!!」
「なんて覇気……っ!」
「お、ガープも居る……キャプテンアメリカ? あいつ海軍行ったのか」
「おい、サイタマ!俺をあいつに向かって投げろ!」
「あいよ」
「馬鹿ッ!
強敵……否。最強の敵との闘いを乗り越え。
エッド・ウォーの海戦
「俺は支配にゃ興味ねぇんだよ! シキ!!!」
「そうか……なら、ここでモガッ!!?」
「シキ様ぁ!? な、なんで操舵輪が!?」
「あ、ごめ。まさか当たるとは」
「てめぇハゲマントぉぉぉ!」
ライバルたちと鎬を削り。
白ひげ海賊団との激突と宴
「まさかお前がこっち来るとはなぁええと……スキヤキ?」
「そりゃ親父の名前だっ! てお前まさかワの国の」
「ワの国ってなんだ?」
「知らんのかーい!」
「おう。いつか行ってみてぇな」
新たなる仲間との出会いを経て。
彼らの旅は、一つの結末を迎える。
世界の果て。辿り着いた先で見たその光景に。
「ジョイボーイ……俺は、お前と同じ時代に生まれたかった……!」
笑っていた。誰も彼もが。古参も、新入りも。その光景を見た誰も彼もが。
「こいつは笑うっきゃねぇなぁ」
「ああ。とんだ笑い話だ」
「なぁ、皆」
サイタマとレイリーの言葉に頷く船員たち。そんな彼らに向けてロジャーの声が響く。
「800年も行きつけなかったこの島に。こんな名前をつけねぇか?」
彼の言葉に笑いをかみ殺しながら、船員たちはロジャーへと目を向ける。
その視線にニィッと笑みを浮かべ、ロジャーは口を開いた。
「
その一年後。ロジャーは海軍に自首し、そして処刑される。
今わの際に、この世界全てを塗り替える一言を残して。
「俺の財宝か? 欲しけりゃくれてやる。探せぇ! この世の全てをそこへ置いてきた!!!」
世界が変わるその瞬間。落ち行く友の首を背に、彼は歩き出した。
「頼まれちまったからな」
ぼんやりとした表情のまま、彼はてくてくと歩き出す。居り悪く降りしきる雨に体を濡らしながら。彼の姿を見つけ追いすがる海軍の兵士を”ワンパン”で叩きのめし、ゆっくりと。
別れを惜しむかのように、彼は歩いていく。
それが、この海から最強とすら言われた男……”一撃男”の姿が消えた日。
彼が再び世に出るまでの、24年前の事。
「馬鹿な……っ!」
ミシリ、と音を立てて。サカズキがめり込んだ壁が崩れ落ちる。
「貴様は、24年前! 消えたはずだ!」
感じる圧力。聊かも衰えていないそれに全身から冷や汗が噴き出してくるのを感じながら、センゴクは声を張り上げた。
自軍が委縮している。それを肌で感じたためだ。
かの存在がかつてと同じ……いや。海軍に所属するキャプテンアメリカ達から彼らの存在がどういう物なのかは聞いている。衰えず、寿命もない存在。同じ存在から分かたれ、今も繋がっているというヒーロー達。
余りにも我が強く、海軍にはそれほど多く参加していないが、それでも彼らは民衆を守る事を使命とする存在で、海軍の手が届かない部分をカバーしてくれる頼もしい味方であった。
極、一部の例外を除いては。
「……叔父貴」
「おう」
「なんで……俺なんかを助けに」
「馬鹿やろう」
俯いたエースの頭に、サイタマの右手がかかる。そして、ぐしゃぐしゃと髪をかき混ぜながら、サイタマは苦笑を浮かべながらこう答える。
「お前が死んだら、ルージュにドヤされちまうからな」
「……すまねぇ」
「あほ。よく生きててくれた……もう、変えられなくて後悔すんのは、嫌だったからよ」
涙を流すエースの姿にサイタマは再び苦笑を漏らす。
「サイタマァァァァァァ!!!」
そんな二人のやり取りを見てか。雄たけびを上げて、海軍に所属する一人の男が彼に向かって飛び掛かる。黒崎一護、サイタマと同じく一人の人間から分かたれた人物の一人。
そんな彼にサイタマは「お、久しぶり」と軽く右手を上げて。
一護の放った月牙天衝ごと、彼を”一撃”で殴り飛ばした。
その光景に、再び戦場が静まり返った中。
「久しぶりだね、サイタマ」
「キャップか」
一人の海軍将校……いや。ヒーローが彼の前に立つ。
キャプテンアメリカ。祖国を失った、祖国の名を関したスーパーヒーロー。彼らがこの世界に落ちてから、最も早く海軍に協力し最も長きにわたり海の平和を守り続けている英雄。
「君がこれから行う事がどういう事なのか。僕らと同じ君ならわかっている筈だ」
「ああ、まあな。というか、今更って気もするけどよ。色々変わってんだろ?」
「まぁね」
サイタマの言葉にキャプテンアメリカはふぅ、と一つため息を吐く。決意は固い。いや、彼の立場なら当然の答えか。全世界に散らばった数百の同士たちはそれぞれがそれぞれの日常を送っている。
彼等には彼等の。自分には自分の。そして、彼には彼の大切なものがある。
それが相反してしまうのなら……戦うしかない。
戦闘態勢へと移行していくキャップを尻目に、サイタマはぐるりと彼を見渡す海軍と海賊に向かって視線を向け。腰に手を当てて口を開く。
「エースは俺が連れていく。文句あんならかかってこい」
彼にしては珍しく大きく声を張り上げて。その宣言に海軍が唸り声を、海賊側が勝鬨の声を上げて叫ぶ。
24年の月日を経て、彼等は知った。
”一撃男”が、戻ってきたと。