ワンピのとあるキャラに神様転生した男の話
「貴方は死んでしまいました」
「……は?」
自宅に帰り、部屋のドアを開け。さて寝るまでに何をするか。漫画でも読むか……等と考えていた矢先。
ドアの向こう側は雪国も真っ青な白い世界でした。というか壁も無ければ地平線もない。あるのはやたらと豪勢な造りをした王座のようなデカい椅子と、その椅子に座りこちらを見るよぼよぼの老人。
「あれ、聞こえませんでしたか? あなたはー! しんだんですー!」
「聞こえてるよ!」
そしてその老人の斜め前に立つ天使の輪っか……らしきものを付けた女性。何を思ったのか呆然と立つ俺に向かって両手を口の前で広げて叫び始めるファンキーな女だ。
「あはは、すみません。普段から耳の遠い方とお相手してるので!」
「あ、うん」
いやーまいったまいったと朗らかな顔で笑う女性の言葉にそのまま視線をデカい老人に向ける。
……こいつ、居眠りしとる。
「あの……部屋のドアを開けたらそのままここに来てたんだけど。ここどこ……ですかね? 俺、死んだってどういう事?」
「あ、その辺りはあんまり気にしないでください。実際の自分の死因なんて見ない方が良いですよ? ただ死んで、貴方は今魂だけの存在としてここ、神の間に立っているって。それだけ知ってれば大丈夫です。これ、割と善意で言ってます」
そう言ってにこやかな表情を浮かべたまま、女性は少しも笑っていない目でこちらを見る。
あ、これ逆らったらあかん奴だ。背筋の辺りにゾクゾクと走る悪寒に、慌てて首を縦に振る。そんな俺のビビりまくった様子に満足したのか、うんうんと頷きながら天使女はにこやかな表情で口を開く。
「うん、素直が一番ですよ! 実を言うとうちの神様が垂らした涎が隕石になって貴方の脳天に直撃した何てそんな事はありません!」
「ざっけんなゴルァ!!!」
「……はっ、しまった!」
「嘘つけ絶っ対ぇワザとだろ今の!!!?」
口元に両手を持ってきて驚愕の表情を浮かべる女神に中指を立てる。間違いない、この女めちゃくちゃ性格が悪い。
「まぁ、そんな些細な事はどうでも良いんです」
「些細じゃねぇだろ俺の死因」
「私にとっては些細な事ですよね?」
「こ、このクソアマ……っ」
殴りに行きたいこの笑顔。しかし、俺の体は少しも微動だにせず……殺意を視線に込めて睨みつけるも、女は飄々とした顔でそれを受け流した。
「さて。十分楽しませてもらいましたしそろそろ本題に行きましょうか。な、なんと! 今回偶然にも、正直なんでこんな爆笑必至の死に方してしまった貴方は、こちらに負わす神様仏様ちくわ大明神様のご厚意で! 好きな世界に転生できちゃうんです! わー! どんどんぱふぱふ!」
「おい、誰だ最後の」
「突っ込むのそっちかーい! で、どこの世界に転生したいですか?」
「……………………えっと。と、To LOVEるが」
「好きな女の子がリトハーレムに」
「ごめんなさい無理ですこころがしにます」
「あ、はい。ええっと……ハーレム物とかは、その。止めといた方が良いですよ?」
「はい……すみません」
その光景を頭に思い浮かべ、一瞬で心が砕け散った俺は静かに頭を下げた。腰が動かないから首だけを必死に下げた。サラマンダーよりはやーい!はゲームだから許されるんであって、リアルでは立派に裁判沙汰である。ゲームでも俺は許さなかったがな。許さなかったがな!
「ええと、じゃあ同じジャンプ作品で……」
「なんでもいいです……あ、ただバトル物だと俺、正直戦えないんで……」
「そこら辺はちゃんと補正が効きますんでだいじょーぶです! あ、ワンピース全巻持ってるんですね……中々タフなファンじゃないですか」
「ガキの頃から読んでるんでそのまま……」
「ふむふむ、なら思い入れが結構ある、と。良いですね、思い入れって大事ですよ!」
俺の言葉にうんうんと女は頷き、右手を何もない空間に伸ばしたかと思うと、どこからか一冊の分厚い本を取り出した。
見たことも無い光景に目をパチクリさせる俺に、女は得意げな笑みを浮かべたまま本を開き、その中身を見ろ、と言わんばかりに俺の方へ向ける。
ええと、何々。好きなキャラに……転生!?
「え、マジで?」
「はい! あ、勿論転生と言っても貴方の知るワンピース本編とは別。よく似た平行世界って奴に入る事になります。貴方が入り込んだ瞬間から変化は始まるって感じですね!」
「じゃあシャンクスに転生させてください」
「おっと早いなぁ。え、ここはルフィとかゾロとか原作沿いにガッツリ」
「シャンクスにしてください」
「でも」
「シャンクスになりたい」
「はい」
有無を言わさぬ俺の物言いに思わず、といった様子で女が頷きを返した。いや、女じゃないな。こんな素晴らしい特典を下さる彼女は天女。後ろで居眠りかましてるちくわ大明神に比べたらよっぽど神様やってるわ。間違いない。
シャンクス……かっこいいよね。イケメンで強くて男気もあってしかも多分色んな場所に恋人がいる。マキノさんだけじゃないって絶対。
勿論中身が俺になっては彼本来の姿とはかけ離れたものになるかもしれないが……その辺りは女神が言っていた補正とやらに期待したい。
他力本願極まれないが、今の状況は完全に俺がどうこう出来るレベルを完全に超えてるからな。他力本願上等。なんならチートをつけてくれても私は一向に構わんッ! のだが。
そんな俺の様子にぶつぶつと「あっれー? なんか思った反応と違う……まいっか」と呟いた後、かりかりと手に持つ本に何かを書き込み。
「はい、シャンクス……『赤髪』ですね。オッケー、じゃあ転生先はこれで決定ね!」
「あの、補正ってのは」
「補正は精神的なものがまず一つ。現代日本人にいきなり切った張ったやれって言っても無理でしょうからね! 次に物質的なものが才能。努力すれば間違いなく頂点に食い込める力を与えるわ。これはどのキャラクターでも。元々そういう才能を持ってるキャラクターだとあんまり意味ないですが」
「おかのした」
「うん、じゃあ了解を得られた所で!」
俺の返事を聞いた後、女神様は俺の前に立ち――頭に手を置いて、数回髪をかき上げる様になでた。
「人の子よ。貴方のこれからの人生が実り多きものであることを」
飄々とした表情は鳴りを潜め。慈愛に満ちた笑顔を浮かべたまま彼女はその言葉を口にして……俺の意識は闇に落ちていく。
めがみ……さ……あり……
「あ、間違えた」
――は?
ぽつり、と女神の呟きが耳に入り。それを問い返す前に俺の意識は完全に無くなってしまい。
彼女の言葉を理解したのは生まれ変わってしばらく経ってからの事だった。
――新世界。とある船の上にて。
「それもこれも全部あんのクソアマのせいだァァァァァ!!!」
一日一回、憎悪の絶叫を叫んだあと、俺は生き残るために学び始めたばかりの覇気を剣に込める。
降りしきる砲弾の雨。雨。雨。これを全て人間が拳で打ち込んでるとかあのオッサン本当に同じ人間だろうか。サイボーグゴリラが人の皮を被ってる、と言われた方がまだしっくりくるぞ。
「いい調子じゃないかシャンクス」
「レイリーさん!」
砲弾の雨を自前の剣で切り落とす見習いに、副船長のレイリーは目を細め笑みを浮かべる。いまだ少年の身ながら、すでに才能の片りんを彼は示し始めていた。
次の世代は着実に育っている。その事を確認し、レイリーは……俺に視線を向ける。
「ほらほら。砲弾は待ってはくれんぞ?」
「死ぬ! これ、これ死ぬ奴ですよレイリーさん!!?」
「大丈夫、まだ口は動くだろう?」
「ミギャアアアアア!!?」
明らかに幾つか直撃コースの砲弾を、野太い悲鳴を上げながら懸命に叩き落す。切る? 俺に出来る訳ねぇだろうがっ!!?
なんせ俺は『赤髪』のシャンクスじゃねぇ。
「死、死ぬ! 死ぬ!?」
『赤鼻』の
「バギー、頑張れ!」
「た、たのむシャンクス! たすけ」
「大丈夫、お前ならできるさ!」
「その根拠のない信頼はギャアアアアア!!?」
”数多の大海賊が鎬を削る熱き時代”
「ミギャアアアアア!!?」
「わっはっはっ! いいぞバギー、見聞色はもう一級品だな!」
「わっはっはっじゃねぇぞ
「わっはっはっ……誰がオッサンだクソガキャアアア!?」
「いや船長もう40超えてるっしょ……」
”ある大海賊の船に二人の若き見習い海賊がいた”
「クソアマァァァァァァ!!! 絶対に、許さねぇからなアアアアァァァァァ!!!?」
「また始まったよ、バギーのあれ」
「毎日海に向かって。よくも飽きねぇなぁ」
”どちらも『赤』をトレードマークにした二人の少年は”
「なぁバギー、そろそろ飯行こうぜ」
「……お、おう。……本人目にするとやっぱ罪悪感がやべぇな」
”やがて青年となり、そして大人へと成長していく”
そして――
「俺と一緒に来いよ!! バギー!!」
「おうよ!」
歴史が変わる瞬間は、えらく簡単なノリですませられ。
かつて日本人だった誰かは、
その先はもう誰も分からない。そんな未知と危険と財宝に彩られた、冒険の海へと。