それを購入した全参加者は、夢のような心地でゲームへと入り込み、生身の体を失った。
かれらのあしたはどっちだ!()
クロスオーバー杯参加作品
クロスオーバー
例えば自動車やオートバイの一形態、例えばマルチウェイスピーカーの各帯域ユニットの周波数の境界。漫画や音楽のタイトルに使われている事もある。
異なる要素がお互いの境界線を越えて交じり合う事を指す言葉。
クロスオーバー
様々な事柄に使われているこの言葉が、今日、また一つその意味合いを増やすことになる。
2XXX年冬。アプリ【クロスオーバー】。
かつて存在した、または今も存在する漫画やアニメという媒体で発表されていた、その中でも著作権が切れたものを中心に集められた凡そ数万にも及ぶ作品群。
それらのキャラクターを用いた超大規模な国盗りシミュレーションゲームの発売は、日本から全世界へ、果ては木星まで広がった人類圏全域に跨るOTAKUと呼ばれる人種を歓喜・興奮させた。
その興奮は凄まじく、1度目の発表延期では発表を心待ちにしていた有志一同による開発会社への敵対的買収を、2度目の発表延期では延期の原因である著作権保持者及び関連会社への一揆打ち壊しという社会問題の引き金となった。
そしてようやく完成したアプリの、全世界同時配信。
ある者は自宅で、ある者は勤務先で、出先で、遊行中にetcetc...
もはや――文字通りの意味で――体の一部となった通信端末に自動インストールされるそのデータに数億の人々が一喜一憂しながらその瞬間を待ち続け。
ナノマシンにより体と同化している通信端末は、送られてきたゲームデータを反映。神経網に電気信号を送り、脳髄に過負荷をかけその全てを抹殺する事に成功する。
有史以来稀に見る大虐殺。逮捕された社長の「OTAKUなんて滅べばいい」という言葉と共に伝説となったその事件は、人類史上最も下らない大量殺人事件として歴史に刻まれる事となる。
だがOTAKUは死滅していなかったっ!!!
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キャラクターメイキングを行ってください
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ようこそ、クロスオーバーへ
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どこか遠くの方で声が聞こえてくる。
ここは夢の世界だろうか。何かを考えることも出来ない、眠っているような、起きているような不思議な感覚。
ゆらゆらと微睡むようによくわからない世界を漂っていると、ふっとした瞬間、遠くで聞こえていた声が少しずつ近づいてくる。
夢の時間は終わり、現実がやってくるのだろうか。
また辛い現実と向き合うことになる。重たくなる気持ちに寝起き早々ため息を付き、目を開くと。
「よぅ」
ウホッ! いい男。
「じゃねぇよ!!」
バサッと寝かされていたベッドから跳ね起きる。知らない天井だ、とかいうテンプレ発現を頭の中で思い浮かべながら、俺は寝床脇に立つ男に視線を向ける。
そこに居たのは背の高い、体格のいい男だ。水色のツナギを身に着けた男は値踏みをするようにこちらを見ると、おもむろに全面についているファスナーを開き始める。
阿部さんですね。この動き(白目)
これはヤバい。何がヤバイって唐突すぎて何の行動も取れていない事がヤバい。アレか、もしかしなくてもこのままじゃ声を上げる間もなく捕食されるのか。あの迷シーンを自分で再現してしまうのか。
ネタはネタだから笑えるんであって現実になると草も生えんぞ。
「あの、俺はノンケなんで」
「この部屋あっちぃな」
「うん?」
「ん?」
頭を下げてそう口にする俺と同じタイミングで推定阿部高和が口を開き、互いに互いの言葉の意味が理解できず首を傾げ合う。
しばらく?マークを頭に浮かべながらお見合いをしていると、唐突にぽん、と手を叩いて推定阿部高和が吹き出すように笑い出した。
「ああ、安心しろ。流石に俺も獣姦の気はない」
「喧嘩売ってんのかこのやろう」
確かに生まれ持ってカエル顔だの人心獣面だの言われてきたがなぁ! 好きでこんな面しとるわけじゃねぇんだよぉ!
やるか、デカかろうが関係ないぜ、とばかりに唸り声を上げると、推定阿部高和は「いや、それはな」と困ったように口にしてオロオロと視線をさまよわせる。
うん? 思ったよりも弱腰だな。これは俺様の体中から溢れ出る覇王色の覇気とでも呼ぶべきオーラにあてられたか? ごめんねぇ、強くってさぁ!
と心のなかでイキリ散らしていると、殺風景な部屋の中、唯一ちょっと頑丈そうな材質でできたドアがバンッ!と音を立てて開く。
開いたドアに目を向けると、そこには。
「おう、阿部よぅ。ワン公が目ぇさましたんかい」
体格の良い阿部をも上回る上背。恐らく数人では効かない人間を殺しただろう精悍な面構え。
口に加えたパイプをイキらせて、セーラー服を着た
「ワシは私立
蛇に睨まれたカエルのように体を硬直させる俺を両手で抱き上げ、
「愛でたる」
発情したガマガエルのようなその声と、抱きしめられた腕と分厚い胸板の感触の余りの気持ち悪さ。
そのダブルパンチに限界を迎えて精神がシャットダウンする数瞬の間、一つの確信を持って俺は現状を認識する。
こんなに気持ち悪いものが夢であるわけがない、と。