この◯◯のない世界での没ネげふんげふん。世界観等が特に変化のない場合というIFネタです。
これデレマスの拓海じゃね? とか思った方。僕もそう思ったのでおかしくありません。途中からなんか悪ノリが入りました(震え声)
「お前達、何をやっているんだ!」
顔を真っ赤にした某テレビ局のディレクターを名乗る男は、私ともう一人、公演の舞台に立つ少女を指さしてそうがなり立てる。おいおい、薄くなった髪の隙間から赤く染まった肌が見えてるぜ? こいつはこれからタコと呼んでやろうと心に決めていると、もう一人が「どうする?」と言わんばかりの表情でこちらを見ている事に気付く。
ああ、そうか。私と違ってお前さんは真っ当なアイドルなんだな。こういう場合の
「良いか、お前は左手。私は右手だ」
「? オッケー」
「おい、聞いてるのか! お前達に言っているんだぞ」
「はい、いっせーの」
グッと右手の中指を天に突き立て、私は
「うるせーんだよこのタコ!」
アイドルを志して一年。ようやく巡ってきたチャンスをフイにされた鬱憤の全てを込めて。ここ数か月で最高の笑顔を浮かべながら、私は茹で上がったタコのような頭をしたディレクターに向かってそう吠えた。
神様転生やらチート転生やらという言葉は聞いたことがあるだろうか。最近なろう系なんて小説やらアニメやらが増えてきてるから、どこかで目にしたことはあるかもしれない。何故こんな話から始めるのかというと、有体に言えば私も一度死んで、そしてチートらしき肉体に生まれ変わらされたチート転生者の一人だからだ。生まれた瞬間から特別な才能を持っていたり両目が金と銀で別れていたりとかそんな感じのアレである。
まぁ、そんな痛い感じに生まれ変わってたらもう一回死んでたかもしれないが、私は幸いなことに容姿が良くて身体能力や頭脳面が大分強化されている位だった。もしかしたらチート転生じゃなかったかもしれない。というのも、神様らしき存在との会話が
【はい、転生してきてね。グッバイ】
『はぇ?』
等という感動もへったくれもないやり取りで、気付いたら赤ん坊になっていたからだ。元々スペックの高い体に生まれ変わらされてただけの可能性もあるから、少し分類分けが難しいんだよな。
しかし何度思い返しても腹の立つ会話である。私も私ではぇってなんだよはぇって。
まぁ、そんなやり取りがあった後。気付けば私はとある夫婦の娘として再び日本に生を受け、若干違うが凡その所は似通った昭和の日本で赤ん坊からやり直す事になった。元中年の喪女(プラモ趣味)としてはリアルタイムで見逃していたロボットアニメやらをまた毎週追いかける事の出来る夢の様な環境である。
ああ、喪女に元がついてるのは、今現在は華も恥じらう女子中学生だからだ。流石にJCの段階で女を喪いたくはない。周りの連中と話が全然合わないせいで友達居ないけどな。お手手繋いで~とか流石にこの精神年齢でやる気もなかったしこれは仕方ない。
実際、幼児らしくしようと心がけていた赤ん坊の頃は恥ずか死するかと思う位の恥辱を味合わされていた。お陰で今じゃあ子供っぽい仕草をするだけで蕁麻疹が出そうになるから、「私は違うんだぞ」みたいな空気をかもし出して、幼稚園から小学校に入った位までは一人孤高の女をやってたりして自己防衛してたんだよ。
お陰で今じゃ立派な
チート転生というだけあって身体能力や頭脳面、それに容姿なんかも一級品のモノを持ってるはずなのにやたらと周りから恐れられてるというか。私は出来るだけフレンドリーに対応してるんだけどなぁ。
「姐さん、北コーの連中がアイサツしてーって来てますよ」
「……そうか。意外と早かったな」
「あの辺りの番張ってる小田がシャテーになるからよぉ。尻尾振って来てんっすわ」
そう言って私が通っている中学の元番長がゲラゲラと笑うと、それにつられるように周囲の馬鹿共が笑い始める。そういえば中学に上がってすぐだったか。目の前の男が私の容姿に惹かれたのか、自分の女にすると勝手に宣言して絡んできたのは。
なんだこいつはとボコボコにしたら次の日にはその下の連中がやってきたのでやっぱりボコボコにして、その噂を聞きつけた隣の中学の番長とかいうのが校舎の前で「血濡れの魔女を出せやぁ」とか阿呆みたいな名前で人を呼びつけてきたのでその場でお望み通り血まみれにして。やっぱりその噂を聞きつけた他の中学の番長をドミノ倒しのようにぶちのめしていたら、気付いたら県下の中学を全て傘下に収める事になっていた。
そして、そうなると今度は来るんだ。上の世代が。あわよくば県の中学全てを支配下に、なんぞと最初に考えた馬鹿は、今では立派な運転手として私の送り迎えで働いている。更に先週の日曜日、のんびりと模型店を散策していた私にケンカを売ってきた小田とかいう近隣でも有名なヤンキーをボコボコにした為、今では県内の殆どの高校が私の支配下に収まった事になる。天ケ瀬タクミ、中1でまさかの県内支配である。
正直さ。嫌ってわけじゃないんだよ。私だって一人の人間だし、前世で40年位喪女ってたからさ。ただのんびり学校きて家に帰って宿題してプラモ作ってみたいな生活だけだと色々空しくなるんだ、将来が怖くなるというかさ。その点今の生活は、ちょっと強面が多いけど若い男達にちやほやされるから嬉しくないとは言わないんだ。
嬉しいんだけどさ……私がモテたいのはもっとこう、紅顔の美少年とかどっかの青髪で自称「クソ真面目な男」みたいな感じのタイプで、君たちみたいな「夜露死苦ゥ!」とか「喧嘩上等ォ!」とか言ってるタイプじゃないんだよね。眉間をビキビキ言わせないと一々会話できない君らとは別種族の若い男の子と出会いたいんだよこっちは。
というかこいつらが周りに固まってるせいで私友達居ないんじゃないか?
「これはどげんかせんといかん」
「姐さん、次は九州制圧ッスカ!」
「違うわい!」
平成にも入ったというのに未だにパツキンリーゼントなんぞと気合を入れている自称舎弟のT君を小突いて、私は一つの決心を固めた。
最近俄かにまた盛り上がってきたアイドルブーム。この流れに乗って、私も一般の男達からモテまくりの人気者になる。今世では折角美人に生まれたんだし、前世では喪ってしまった女としての幸せを取り戻し、ちやほやされるのだ。
「タクミ姐さん、俺らいつでもイケますよ!」
「ミナミの連中チョーシくれてっから、シメちまいましょう!」
立ち上がった私の姿に周囲でヤンキー座りでたむろっていた馬鹿共が口々にわめき始め、硬く握り締めた私の右手に「おぉ~!」と歓声を上げる中、私は計画を練り上げ始める。
まずは形を整える所からだ。アイドルをやるからにはまず衣装、歌、歌う場所。どこかの事務所に所属できれば一番だが、この時代の芸能界の不穏さは前世のニュースなんかでも良く見ていた。やるからには上を目指すが何が何でもトップになりたいという訳でもない。忙しすぎてアニメ鑑賞やプラモ作成に障りが出たら不味いしな。
少し時代を先取りするが、個人事務所を立ち上げて地域に特化したアイドルを目指すのなんかが良いかもしれない。上手い事行けばあの県の人気者、くらいの知名度をキープできるし、その程度ならファンにひたすら追いかけられるなんて事も無かろうしな。20を超えた辺りで趣味に理解のある旦那を捕まえて二人は幸せなキスをして終了ルートが最上の結末と言えるだろう。天下? 私は私の幸せを極限まで追求するぞ?
幸いな事に私にはこれらをなんとかできるだけの能力が備わっている。一歩一歩、着実に進めていけば高校に上がる前にはある程度の形が出来上がっているはずだ。
「っしゃぁ! やったるわぁ!」
「オオオオオオォォォ!」
「兵隊集めろ! 姐さんのシュツジンだぞオラァ!」
「ミナミ今日でシメっぞ!」
私の内心とは裏腹に盛り上がる男共を尻目に、私の頭の中では燦然と輝く未来予想図が浮かび上がっていた。どっかでキリコ(最推し)みたいな18歳と出会ってそのままお姉さんが手取り足取り……あ、私まだ13だわ。妹キャラで通そうかな。
なんて不順な事を考えながらアイドル目指してたのが悪かったのか何なのか。
「あ、タクミ君だっけ。ごめん、君の出番無くなったわ」
「はぇ?」
「今売り出し中の×××が出演OKになったからさ。枠が無くなったんだよね」
呆然とする私に「部外者は長く居ちゃ駄目だからね。早く帰って?」と一言声をかけて〇×TVのディレクターは足早に廊下を歩き去っていった。アイドルを志して一年。持ち前の身体能力を駆使してライブなどで暴れ回り、面白いアイドルが居ると噂される位には知名度も上がってきたところに巡ってきたチャンス。ここで上手くいけば一気に全国区も夢ではないという所で、まさかのドタキャンである。
地道にセルフプロデュースをしてきたのだ。地元の商店街や店舗等と交渉して地元地域の案内なんかをラジオ形式で纏めた小番組を流して知名度アップを図ったり。高校生の舎弟のツレなんかにバンドマン系が居ればその伝手を使って曲の演奏をしてもらったり、気に入って貰えればイベントに出して貰ったり。この一年、家にいるよりも外にいる方が多いって位に動き回って、掴んだ最初のチャンスだったのだ。
それが、ドタキャンか。
そうか。それがそちらの答えか。
宜しい。ならば
持ち込む予定だった機材を台車に乗せて私はテレビ局を後にする。これらの機材は全てお年玉を頑張って貯めて手に入れた機材かライブハウスなどで廃棄されそうだった物を私が修繕したお手製の機材たちだ。舎弟が山ほどいるのに何故自力で集めるのかって? 舎弟から金とってアイドル活動なんかやるわけないだろうが。これはあくまでも私の夢の為の機材だ。それなら全て、私が自力でかき集めるべきだろう。
近くに確か結構大きな公園があった。あそこなら小さなステージか舞台代わりになる遊具もあるだろう。収録の為に客も集めてるって言ってたな? 全部私がかすめ取ってやる。売られた喧嘩は万倍にして返す。それが私の流儀だ。
公園にあった小さなお立ち台のようなステージの前に台車を置き、吠え面かかせてやるからなとテレビ局に向かって私は中指を立てる。
「ねぇ」
「あん?」
そんな明らかな不審人物である私に、声をかける物好きが居たらしい。おいおいまだ演奏は始まってねぇぞと振り向くと、そこには私より少し年下だろう、栗色の髪をした少女が立っていた。
誰だこいつは、と思う間もなく、少女は台車からマイクを抜き取ると、そのまま私が立つステージの隣に立つ。
その姿に、思わず息を飲みそうになる。こいつは随分と雰囲気のある小娘だ。
「私も、ドタキャン食らったんだよね」
「……ああ、お仲間か」
ステージの上に立った少女の姿は堂々としたものだった。まるでここに立つのは自分であるのが当然であるとばかりに自信満々で、そして、輝いている。私と同じ境遇という事は恐らく新人なんだろうが、こいつを追い出した上の連中は見る目がねぇな。出なくて正解だったかもしれない。
「そ。仲間だからさ。私も一緒に、やらせてくれない?」
「お前さんも、話が分かる方の馬鹿か。良いぜ名前は? 私は天ケ瀬。天ケ瀬タクミだ」
にやり、と笑った少女の笑顔に同じく笑顔を浮かべて私は右手を差し出す。その右手を強い力で握り返しながら、栗色の髪をした少女は覇気を漲らせながら答える。
「私は舞。日高舞よ」
握手を交わす二人の少女によるゲリラライブは、周辺を歩く人々を引き寄せるように膨れ上がり、最終的には千人規模の人間が集まる異常事態へと発展していった。当然大きな騒ぎとなり、駆け付けた警官等により私達が盛大な雷を落とされるのはまた別の話である。
テレビ局のディレクター? あのタコがどうなったかなんて聞くまでもない話だろう。まぁ、それ以降見る事は無かったかな。
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