ぱちぱち小ネタ集   作:ぱちぱち

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【修正前】このオタクなき世界で 前

握手するだけで相手の右手を破壊してしまうロックミュージシャンが居るらしい。いったいどんな美少女シンガーなんだろうか。

 

 

 

『だからあれほど感情と身体のコントロールを手放すなと』

 

『ひ、罅が入っただけだから(震え声)』

 

 

 

 黒いローブにドクロが下がったペンダントをぶら下げた怪しい男はピザをもちゃもちゃと食べ、片手に持ったコーラでそれを流し込む。隣に座る私も同じようにポップコーンを鷲掴み、パリポリと噛み締めた後コーラを煽る。

 

 

 

 部屋の中央に据え付けられたTVでは最近始まったTVアニメ『ウォッチメン』が流れており、その内容をあーでもないこーでもないと駄弁り混じりな感想を述べ合う。米国に来る度に必ず行う厳しい訓練の1シーンである。

 

 

 

 え? ただダラダラしながらTV見てるだけだって? 

 

 

 

 それが難しいんだよ。なんせ今、ポップコーンとか意識せずに摘むとそのまま粉にしちまうからな。潰すとかそんなちゃちなレベルじゃない。

 

 

 

「あ”!? コ、コーラのグラスに罅が入った!?」

 

『なに? ああ、グラスに罅が入ったのか。雑念を思い浮かべたな? それと日本語だと私はわからん。英語を使うことも意識から外すんじゃない』

 

『お、おうけい』

 

 

 

 余計な事を考えてしまったのが原因か。左手に力を入れすぎ、気づけば指の形にグラスを変形させてしまう。こんな事を今日の朝から繰り返している。

 

 

 

 この訓練の原因、というか発案者は隣に座る怪しいおっさん。アラン・アームストロングだ。

 

 

 

 数年前、日常生活にすら支障を来し始めていた身体能力についてこのおっさんに相談した所、ならば。と始めたこの訓練。普通に生活しているだけに見えるだろうが、実は結構色々やってるんだよね。

 

 

 

 例えば思考を分裂させて体のコントロールに回す。力のかけ方、体重移動、呼吸の強さ、言葉の選択に映像や音の取り捨て選択。それら全ての、本来なら身体に刻まれた動作を全て意識し、新しい基準に作り直す。

 

 

 

 普通の人は全て自動で行っているそれらを、私はオートではなくマニュアルで行っているのだ。そして身体の使い方が再度調整できたら一先ずは完了とし、また粗が目立つようになったら調整に来る、と。

 

 

 

 言ってみれば成長を続ける身体能力への行動の最適化だね。最低でも年1くらいの頻度で必要なこの作業の為にオッサンの所に来るようになって早……何回目だろ。暇が出来たら来たりしてるからわっかんねーな。

 

 

 

『私も暇ではないんだがな、入り浸られても困る』

 

『まぁまぁ。あ、お土産冷蔵庫に入れとくね』

 

『……和牛か?』

 

「イエース」

 

 

 

 ぶつくさと愚痴をたれるオッサンを宥めすかし、お土産に持ってきた和牛肉を冷蔵庫にシューッ!超!エキサイティンッ!

 

 

 

 くっくっく。日本人の美味いものを作るための執念は今生でも同じ。いや、気性が荒い分むしろ強化されたと言ってもいいだろう!

 

 

 

 仏頂面を浮かべてるつもりだろうが口元がにやけてるぜ、アランのオッサンよぉ。というわけでまた遊びに来っから!

 

 

 

 ……いや、このオッサンの家面白いんだよね。変な骨とかおどろおどろしい本とか置いてるしコミックだって最新のが揃ってる。なによりこの人、基本誰に対してもこんなざっくばらんな対応だから気が楽なんだ。

 

 

 

『有名人なんてなるもんじゃないねぇ』

 

『世界一影響力の有る個人、だったか。つまらない記事だった』

 

『お。知ってるとは意外だわ』

 

 

 

 つい先週、ニューヨークのどこぞの雑誌が新しく行った企画について彼が知っているとは思わなかった。前世でもニュースで流れたりした有名な企画だし、こちらの世界でも話題になってるのだろうか。

 

 

 

 まぁ前世の奴と違ってこちらだとトップ10までしか発表してないから、100位まで発表してた前世の奴を見たことのある身としてはちょっと物足りなさもあるんだがね。その分各人の項目は結構な厚みとなっていて、一人3,4ページ分は経歴を書いた文章が有るという。

 

 

 

 私? 私は何故か以前書いた半自伝的な奴の感想文が乗ってたよ。面白かったらしい。

 

 

 

『ふん。お前の語録で言うならアンテナを立てる、だったか。知識とは力だ。特に創作活動を行う上では、な』

 

『いちいちごもっとも』

 

 

 

 そう言ってアランのオッサンはグビリとコーラを喉に流し込んだ。そのローブ姿でコーラ飲んでんのか、と最初は違和感しか覚えなかったが、よく考えれば米の国だとピザとコーラは国民食だからな。格好がどうあれ日本人がおにぎり食ってるようなもんなんだろ。

 

 

 

 おにぎりといえば、最近は握りつぶしちゃって食べれてねぇんだよなぁ。ほんと年々力の加減が難しくなってきてやがる。

 

 

 

『……おそらくは、身体が完成に向かっているのだろう』

 

『完成?』

 

『人間の身体と同じだよ。成長し、最もバランスが取れた形になることを完成と表現するなら。成長の加速度からみて、恐らくは18前後くらいだろうな』

 

『私は立派な人間だよバッキャロー』

 

 

 

 聞き捨てならない発言に文句をつけつつ、新しく入れ直したコーラをグビリと呷る。素で「え?」みたいな表情するのやめてくれ。割と自分でも本当に人間なのか怪しく感じてるんだから。

 

 

 

 ……ま、まぁそれはそれとして、だ。

 

 

 

『アンテナを立てるって言うならさ』

 

『うむ?』

 

『今回の顛末。見といたほうが良いよ?』

 

 

 

 それだけ情報を重視してるんなら、世話になってる好でこれは伝えておいたほうが良いだろう。このオッサン、なんだかんだでメディアミックスの重要性を知ってるからな。自作のアニメ化にもノリノリだったし。

 

 

 

『誰にとっても活かせればチャンス。でも活かせるかはわからない。機会は平等であるべきだ。そうだろ?』

 

『ほぉ』

 

 

 

 興味が湧いた、という顔をするアランに口元を引き上げ、不敵な笑みを浮かべて応える。今回の件は有る意味いい機会だったかもしれない。私も10年そこら、なんとか前世並に娯楽文化が花開くのを夢見て頑張ってみた。が、流石にこれ以上は手を広げるのにも限界がある。

 

 

 

 今回の件だって私自身にも幾つか案はあるが、とはいえ仮に私主導で何かを起こすとなるといくらなんでもパンクする。今オッサン家で遊んでるだろって? 定期的に調整してないと本当に人殺しかねないしストレス解消にもなるからこの時間だけは死守しないといけないんだよ。ストレス怖いんだぞ、ストレス。

 

 

 

 という訳で、まぁ。例にもよるんだが。

 

 

 

『人が居ないわけじゃない。アメリカで、そして日本でそれは証明された。後は、チャンスを作るだけ。私はその場を整えるだけでいい』

 

『成程。全米オーディションを作り上げたお前が言うのならば、そうなんだろうな』

 

『ま、あれとはちょっと形式が違うけどね。似たようなものさ』

 

 

 

 最も、ただ才能のある若者を見出すという点に特化したオーディションと違って、今回のソレは見出す側にも行動が求められる。その行動如何によっては――

 

 

 

『幸運の女神様の前髪、掴みそこねちゃうかもねぇ』

 

 

 

 誰にとってもチャンスで、誰にとっても試される場所。クリエイターってのは本来、それくらいシビアな方がいい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『クナイちゃあああああああっ!』

 

『ほあっ!ほあっ!ほあああああああっ!』

 

『目線お願いします!』

 

 

 

 米国のとある地方のイベントホール。そこはその日、ある種の熱気に包まれていた。

 

 

 

 コミックのヒーローやヒロイン、歴史上の人物、著名な怪物……そして最近流行のゲームキャラクター。それらの衣装に身を包み、キャラクターになりきった彼ら彼女ら。それらを写真で撮影する人々。あるいは机などを設置し、そこに自身の作成した物品を起き販売する人々。

 

 

 

 そこは、この州のマニアたちが数ヶ月に一度集まるイベント会場だった。

 

 

 

 以前から、彼らのような同好の士による集いというものは開かれていた。基本的にオタクという人種、この世界ではマニアと呼ばれる彼らは知識欲が旺盛で、同じ仲間と群れることを好む。自身の知識を語り合い、ひけらかすことが出来るからだ。

 

 

 

 そういった彼らは何かしらの方法で仲間を見つけると、群れて固まり、小さなコミュニティーを形成していた。彼らの趣味は千差万別であったが、千差万別であったからこそ細分化され、排他的になっていった。マイノリティは排除される。それが彼らの共通認識で、そして事実であった。

 

 

 

 だからこそ彼らは身を隠し、社会の中に紛れて目立たないように生きていた。

 

 

 

 黒井タクミの登場により、全てが変わるまでは。

 

 

 

『全部見てやる、もってこい』

 

 

 

 今では伝説となった、第一回ナッノジーン開催時の言葉。全てのマニアと呼ばれる人々が心の支えとするその一言が、彼らの”これまで”生き様を強烈に肯定した。

 

 

 

 人は認められたいという意識を誰しもが持っている。隠れ潜み、ほろ暗い場所でひっそりと生きていた彼ら彼女らの、長年蓋をしていた感情は結果として――

 

 

 

『諸君! 私はイベントが好きだ。諸君!! 私はイベントが好きだ! しょぉくん!! 私はイベントがだぁいすきだぁ!!!』

 

『誰かあのデブを壇上から引きずり下ろせーっ!』

 

『蜘蛛×蝙蝠本、新刊だよー!!!』

 

『迷子のお知らせをします! こんなイベントに幼児を連れてきたクソバカはすぐに運営ブースに出頭してください』

 

 

 

 ハジケた

 

 

 

 ハジケすぎてブレーキがないまま彼らは突っ走った。その様は一度ニューヨーク州のとあるイベントを見学に来たタクミをして「うる星やつらの文化祭思い出すなぁ」と最大限の賛辞で評されたほどであった。

 

 

 

 彼らは情熱のままただひたすらにひた走った。この会場を見ても分かるが、彼らの試みは決して洗練されているとはいえない。ジャンル分けどころかジャンルという概念すら未発達な状況。一種混沌としすぎていて逆に調和が取れているという不思議な風景。

 

 

 

 しかし、情熱のみを原動力に動く彼らの行動力だけは本物であった。故に、年に二度ある”本祭”以外にもこういったイベントは米国中で行われており、マニア文化とでも呼ぶべき彼らの文化は大きなうねりとなって米国を、更には世界中に波及していこうとしている。

 

 

 

『キャアアアアァァ!』

 

 

 

 だが。

 

 

 

『へっへっへ! 色っぺぇ格好じゃねぇか!』

 

 

 

 光あるところに影は有るという。

 

 

 

『よぉ姉ちゃん、俺らと遊んでいかないか?』

 

 

 

 コスチュームプレイを楽しんでいた少女を複数人の男たちが囲んでいる。モヒカンに棘のついた肩パット、肌面積の多い革ジャケットに身を包んだ見るからに荒くれ者という輩たちだ!

 

 

 

 おお、何ということだ。哀れにもいたいけな少女は狼どもの毒牙にかかってしまうのか。余りの事態に周辺が固まったように彼らと彼女の動向を見ている。助けは……来ない。

 

 

 

『「待てぇい!」』

 

 

 

 ――その瞬間までは。

 

 

 

 男たちの注意を引くように声を張り上げながら、人垣をかき分けるように彼らは現れる。

 

 

 

 黄色いトラックスーツを来た男だった。細身ながら、鍛え上げられた身体をしたその男は、少女を囲む荒くれ者達に鋭い視線を向けた後、親指で鼻頭を弾く。

 

 

 

 黒い道服を着た男だった。彼は男たちに品定めするような視線を向け、鼻で笑うように息を吐くと手に持ったヌンチャクをもう一人に投げ渡す。

 

 

 

 ざわつく衆目を尻目に二人の男たちは荒くれ者たちに向き合い、荒くれ者達も彼らに視線を向ける。互いの視線が交わりヒリつくように周辺の温度が上がっていき――唐突に戦いは始まった。

 

 

 

 まず先制したのは黄色いタイツスーツを着た男だった。瞬く間に荒くれ者の一人に駆け寄った男は肘打ちをボディに入れ、たまらずくの字に身体を折り曲げた荒くれ者の顎を下から掌底で打ち上げる。

 

 

 

『てめぇ!』

 

『俺は春龍って立派な名前があるウー』

 

 

 

 あっという間に仲間を一人倒された荒くれ者の一人が激昂し、黄色いタイツスーツを来た男、春龍へ襲いかかった。攻撃を放ち、隙きを見せた春龍への絶妙なタイミングの一撃。彼がもし一人であれば、ここで手痛い一撃を受けていただろう。

 

 

 

 だが、彼は一人ではなく。攻撃の隙きを狙うのは、荒くれ者達だけではない。

 

 

 

『俺を忘れたなっ!』

 

『あべしっ!』

 

 

 

 目の前で横顔を見せた荒くれ者の右頬を、大福星矢と名乗る男の同じく掌底が貫いた。速度の乗った一撃を頬に受けた荒くれ者は、悲鳴を上げながら吹き飛び、錐揉み回転しつつ他の荒くれ者を巻き込んで地面に落ちる。

 

 

 

『礼は言わないチェン、内原』

 

『今の俺はウッチー・チャンだ二度と間違えるなフゥッ! ハァッ!』

 

 

 

 二人を与し難しと見たのか。荒くれ者達は彼らを円を描いて彼らを囲むように動く。それらを油断なく見据え、互いに背中を預けた二人は一言、二言声を掛け合うと不敵な笑みを見せ、襲い来る荒くれ者達を打ち払っていく。

 

 

 

 木の棒を持った荒くれ者達はその手に持つ木の棒を素手で叩き折り。木の板を持った荒くれ者達は肘打ちで木の板ごとくの字にへし曲げ。ヌンチャクを振り回し当たるを幸いに群がる荒くれ者達をなぎ倒し。

 

 

 

 気づけば荒くれ者達は全て地に伏せ、苦しそうなうめき声を上げている。

 

 

 

『強い……強すぎる』

 

 

 

 荒くれ者達の中でもひときわ体格の大きな男のうめき声。十数名の屈強な男たちを物の数ともせずに叩き伏せた男二人は周囲から湧き上がる歓声に手を上げて答えながら懐から一枚のCDを取り出した。

 

 

 

『そうだ、我々は強い。そんな我々に憧れたそこの君。カンフーについての全てを収録したこのCD、今ならな、なんと! 本体価格100ドルの所を半額の50ドルにしてお渡しするぞ!』

 

『安い、実際安いウー!』

 

 

 

 ビシッとCDを手にポージングする二人に観衆達はまばらな拍手を送った後。興味がなくなったのか波が引くように人々は背を向け、各々のイベント活動へと戻っていく。

 

 

 

『…………』

 

『………………』

 

 

 

 無言でポーズを取り続ける二人の間を、冷たい風が吹き抜けていく。パシャリ、と観客の一人がそんな二人をカメラで撮影し、ペコリと頭を下げて周囲の人混みに消えていった。

 

 

 

『あ、自分たちはもう上がりますんで』

 

『おう、お疲れ様だホイ。またやる時は連絡いれるチョー』

 

『春龍くんッッ!』

 

『あーうるせー』

 

 

 

 寝転がっていた荒くれ者達が立ち上がり、ペコリと頭を下げて去っていくのを見送る中。仁王立ちのまま叫び声を上げるウッチーにガリガリと頭をかきながら春龍は向き直る。

 

 

 

 そんな彼に向かって、ウッチーはビシッと掌底を腹部に向けて放ち。当たる直前に止め、口を開いた。

 

 

 

『さっきの俺の掌底の受け方だが、彼らには指導が足りていなかったのではないか。俺は彼らにこう、抉るような凄まじいパワーをかけたのだが。彼らはこういう受け方ではなくこういう』

 

『見栄えのする受け方なんて素人に求めるのが間違ってるチェン』

 

『……春龍くんッ!』

 

『真面目な話ホイ。最初のナッノジーンじゃ大受けだったけど、最近じゃこれだウー』

 

 

 

 そう言って春龍は周囲を見渡すように視線を巡らせる。釣られるように周囲を見渡したウッチーも、彼の言いたいことを理解したのか口をへの字に曲げて黙り込んだ。

 

 

 

 散っていった観客たちの中、残ったのは数名の女性のカメラマンたちだ。彼らが自分を見る目はウッチーが求めていたものではない。近年流行っているアイドルを追いかけるようなそんな視線。

 

 

 

『――不純だ』

 

『アクションスターも人気商売だウー。これはこれで大事なものだが、俺たちの目的とは程遠い。CDも売れねーチェン』

 

『それは……わかっている』

 

『やっぱり故郷で売れないソロコメディアンやってた方が良かったんじゃねーかウー』

 

『俺はソロじゃない! 相方が、その。落語に行ってしまっただけで』

 

『それはソロっていうんじゃないか?』

 

『ソロじゃない。目的も……忘れてはいない』

 

 

 

 思わず真顔で尋ねてくる春龍の視線から目を逸しながら、ウッチー……内原光隆は呟くようにそう口にする。

 

 

 

 自身なりの拘りを持つウッチーだが目的を見失っているわけではない。第一回ナッノジーンで見せたパフォーマンス。あの黒井タクミにも絶賛されたソレに自身の渡米は間違っていなかったと確信を持ち、春龍という同じ目的に向かって走る同士を得て幾数年。

 

 

 

 エキストラとしての映画出演やアルバイトなどで糊口をしのぎ、演技や体術の研鑽を行い。後は資金を貯めれば、彼らの夢へ向かっての一歩を踏み出せる。

 

 

 

 そんな中での、この結果。各地のイベントに顔を出し、資金源であるCDの販売なども行っているがゲームなどに比べればその売れ行きは芳しくない。

 

 

 

『その目的ってのはなに?』

 

『我々の目的は……英雄になる事だ』

 

『英雄? そらまた壮大な』

 

『といっても流石に本物じゃねーウー。言ってみればアクション映画の主演って思ってもらえれば大体合ってるホイ』

 

 

 

 そう。一言で言い表すならば英雄だろう。故にウッチーはアメコミ文化でヒーローという概念が浸透している米国に渡ってきた。彼なりのアクション、傾倒したカンフー技術を磨き、演技の技術を身に着けて。それらを磨き、表現したい夢があったのだ。

 

 

 

 彼は、彼らはそうなりたかった。だから渡米した。アメリカンドリームを掴むため。己の表現したい正義をこの世に知らしめるため。

 

 

 

 銀幕の中で踊る英雄になり、世界中に己の力を、正義を見せつける。そんな夢を持って。

 

 

 

『なるほどね。うん、まさかのヒーローショーだったから覚えてたけどこりゃ当たりだったかな』

 

『ヒーローショー? うむ、良い名だ。次からはそ、う名乗っ……』

 

『……驚いたホイ』

 

 

 

 うむうむと唸りながら話しかけてくる女性に顔を向け、ウッチーが凍りついたように立ちすくむ。彼ほど露骨ではないが、春龍もまた顔を引きつらせながら彼女を見、そう絞り出すように口にした。

 

 

 

 そこに立っていた人物。帽子とサングラスで簡易的な変装を施していた彼女は、彼らにとって一つの切っ掛けだった。彼女と初めて合ったあの第一回ナッノジーンの事を彼らは一瞬たりとも忘れたことがない。

 

 

 

『前にあった時に送った言葉。それ続けてけばいつか花開くっての。信じてくれてたんだ?』

 

『あ、あの。俺、いや僕。私は、ウッチー・チャン……じゃなく、内原光隆という日本人で』

 

『お、日本人? こっちでオタ活してるとは珍しいね。そっちのあんたも?』

 

『俺は香港生まれだウー』

 

『あ、こりゃ失礼。というか日本人と中国人のコンビとは珍しいね。ま、それはいいんだ』

 

 

 

 そう言って彼女――黒井タクミは不敵に笑いながら彼らに右の手を差し出した。

 

 

 

『君たちの夢を叶えるチャンス。欲しくないかい?』

 

 

 

 そう口にする彼女とその右手を交互に眺めて、二人の男は奇しくも同じタイミングで口を開いた。

 

 

 

『『――チェン?』』

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