ぱちぱち小ネタ集   作:ぱちぱち

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どっかで見た覚えのある人とどっかで見た覚えのある人のコラボ。
ヒロインは登場してません()


【自作品クロス】この多摩

 会ってほしい人がいる。

 スタンさんが俺に対して頼みごとを言ってくるのは、実を言うと割と少ない。

 まぁ少ないというか、大体が「映画に出てくれ」とかそういった類のお話なんだが。

 

「こういう感じで誰かに紹介ってのは、確かに初めてかもね!」

「そうだな。ええっと、セントラルパークのすぐそばって聞いてるんだけど」

「ゴッグルマップだとそろそろみたいだよ……あ、あのデカいビルじゃない?」

 

 スマホを眺めていた一花が顔を上げてついっと指さす方向を見る。公園沿いに面した通り。聞いていた通りの場所だ。

 てか、これはでかい。100階はあるんじゃないか?

 

「よし、外に居ても寒いだけだしさっさと行こうか」

「……エキサイトプロ?」

「一花?」

「あ、ごめん。何でもないよ……どっかで聞いた覚えがあるんだけどにゃぁ」

 

 首を傾げながらビルを眺める一花を促し、ビル内部へと入る。

 ビルの内部は少し古めの外観とは異なり、随分と真新しい印象を受けた。綺麗に清掃された床や壁、各所に置かれた大型のディスプレイとソファ。

 それらで流れているのはミュージックビデオだろうか。ソファに座った楽器を持ったミュージシャンらしき人達がディスプレイを見ながらうんうんと頷いていたり、楽譜を書いたりと忙しそうにしている。

 

「へぇ。音楽系の会社が入ってるのかな」

「……思い出した。エキサイトプロって音楽系じゃ世界一って言われてるアメリカの超大手プロダクションだよ」

「世界一? なんでそんな場所に俺ら呼ばれたんだ?」

「まさかの兄妹デュエットでCDデビューかな!」

「帰ろう」

「待て待て待ってお兄ちゃん。冗談、冗談だって」

 

 半ば本気で帰ろうとすると一花が縋りつく様に止めてくる。いや、分かってるんだが一瞬不安を感じてな。

 帰っちゃダメ? ダメか。

 

 

 

 受付でスタン氏の名前を出すとわざわざ案内の人付きで目的の部屋まで連れてきて貰ったでござる。

 

「マーブルもここの系列だしね。あ、ござる」

「わざわざ合わせなくても良いから」

『ご兄妹仲が良いんですね』

 

 にこやかな笑顔で案内をしてくれる黒人の女性が、俺と一花を見ながらそう話しかけてくる。

 とても頭のいい自慢の妹なんですよ、へへ。

 

『兄妹仲が良いのは良い事ですね。うちも兄弟が多いんですが、皆仲良しなんですよ。あ、と。スタン氏は今こちらに向かっているそうです。こちらの休憩室で少しお待ちください』

『わかりました。ありがとうございます』

『いえ、仕事ですから。それではごゆっくりお寛ぎ下さい』

 

 兄弟仲について熱く語り始めたお姉さんは、途中で正気に戻ったのか。恥ずかしそうな顔を浮かべて去っていった。相当家族の事が好きなんだろうな。何となく共感を覚えつつ部屋のドアを開ける。

 休憩室というその部屋は、どちらかというと遊戯室という言葉の方がしっくりくるような内装をしていた。

 部屋から入ったらまず靴置き場があり、そこで靴を脱いで柔らかい床材が敷き詰められた部屋に入る。そのまま寝転がっても気持ちよさそうな部屋だ。

 室内にはおそらくこれをつかって座ったり眠るのだろう。大きなクッションが山のように積まれた区画と、たくさんのゲーム機とディスプレイが並ぶ区画。それに飲食もできるようにだろうテーブルと、壁際には埋め込み式の自販機まである。至れり尽くせりだな。

 

「お、兄ちゃん見てみて。最新のゲーム機がずらっとあるよ!」

「休憩室……?」

「いい休憩になるじゃん。ね、スマッシュブラボーやろうよ」

「ふっ。俺のラリオに勝てると思うのか?」

「ピンクの悪魔は最強ってそれ皆言ってるから」

「おいおい、私のビッチ姫に勝ってから言ってくれよ」

 

 京都の花札屋が作った最新のゲーム機、ウィーアー!を見つけた一花の言葉に俺の中の闘争本能が燃え上がる。

 いや、俺のラリオも強いから。普通に強いから。一花が上手すぎるだけで。

 

「ほーん。お嬢さんも腕に自信あり、か。どっちのピンクが上か、楽しみじゃねぇか」

「ビッチ姫も復帰能力は凄いけどねぇ」

「ビッチはしぶとくないといかんだろ」

「それだね!」

「あははははは……で、誰だお前ら」

「「いやこっちのセリフだよ!?」」

 

 クッションの山からもこっと出てきた誰かに向かって、俺と一花は声を合わせてそう叫んだ。

 

 

 

 その人は、正直に言えば異様、としか言えない外見の人だった。全身を包帯で巻いているせいで分かりづらいが、声は女性の物なので恐らく女性なのだろう。

 彼女は足が動かないらしく、手と補助具を巧みに扱って床を這うように動くと、テーブルの傍にクッションを置いてそこに腰かける。

 促される形でテーブルについた俺達は、特に何かを言うわけでもなく自販機から出したジュースを片手に時間を潰し始める。

 流石に無言も座りが悪いし、名前でも尋ねるべきかな、と考え始めたとき。休憩室のドアが開かれ、外からスタンさんが入ってきた。

 

『あ、スタンさ』

『久しぶりじゃないかクソガキ』

『そっちこそなジジイ。まだくたばってなかったのか』

「お兄ちゃん、いきなり空気最悪だよ」

「お、おう」

 

 遅れてやってきたスタンさんは開口一番に謎の人物に悪態をつき、謎の人物もスタンさんの顔を見るなり悪態をつく。

 普段見知っている笑顔満面の気のいいスタンさんの姿からは想像もできないその一コマに愕然とする俺と一花を尻目に、二人の小学生のようなやり取りは続く。

 流石にこれは埒が明かないと俺が口を挟もうとすると、ちらっとこちらを謎の人物が見ているのが目に入る。

 

『で、なんだこの坊主共』

『お前が会いたいと言ったんだろうが。はぁ……待たせてしまってすまないね。イチロー君、イチカ君。この二人がスズキ兄妹。お前さんが前に会いたいと言っていた、冒険者だ』

『……あー、ああ。そうか、この子らか。なるほど、ね?』

 

 スタンさんのため息交じりの紹介に謎の人物はポンっと手を叩き、興味深そうな視線を俺と一花に向けてくる。

 その値踏みするような視線に少し居心地の悪さを感じ、スタンさんに助けを求めるように声をかける。

 

「ええと、スタンさん。こちらの方は?」

「タクミちゃんだよヒーロー。しがない企業経営者、さ」

「え」

「ヒーローじゃないです。タクミちゃ、さんですね。よろしくお願いします」

「ちょ、お兄ちゃ」

「うん。よろしく!」

 

 ビシッと手を立てるように敬礼のようなポーズで返事をしてくるタクミさんに思わず同じ形で返礼を取る。

 随分とノリのいい人だな。声の感じはいくつか分からないが、もしかしたら結構若い人なのかもしれない。それでこんな大きなビルに入った会社の経営者って、もしかしてすごい人なんだろうか。

 

「めっちゃ凄い人だよ……」

「凄かねぇって。今じゃ世界一有名な日本人の鈴木一郎に比べりゃー」

「いやぁ、その名前返上したいですね」

「ははっ、ぬかしよる」

 

 あ、この人めっちゃノリ良い人だ。雑談がいつまで続くかわからないくらいに。

 多分同じことを思ったのだろう、スタンさんはコホン、と咳ばらいを一つして場の空気を引き戻す。

 

『さて。彼を連れてきたのも目的の一つだが。テーマソングの件、考え直してくれたかな』

『嫌だね。私はもー引退したんだ。悠々自適にアニメやゲームしながら暮らしたい。それに、この体だしな』

『あの時とは違う。今ならば魔法医療という手段が出来た。お前の体もきっと元通りになる』

『興味ないね。第一、私を治すのはあいつの仕事だ。他の奴に私たちの約束を邪魔させない』

『……彼が行方不明になってから、もう10年も経つんだぞ!』

 

 ドンッとテーブルを叩き、スタンさんは声を荒げてそう叫んだ。

 その鬼気迫る様子に隣に座る一花が俺の手を掴んでくる。分かってる、と手を握って二人の間に入ろうとし、

 

『それが、私とクロオの約束を妨げるなんの障害になるんだ?』

 

 底冷えするようなその声に、目の前の女性から発される圧力に、思わず体の動きを止められた。

 

『ぐっ』

『私は、自分が決めた事を曲げるつもりは一切ない。そうやって生きてきて、そしてそうやって死んでいくって決めたんだ。それを誰かに邪魔されるつもりも、邪魔させるつもりも、ない。私を治すのはクロオなんだ。あいつが私の治療を終えるまで、私は誰の治療も受けない』

 

 女性からの圧力に、スタンさんが苦し気なうめき声をあげる。信じられないことに、手も使わず。恐らく魔力すら持たないその女性の威圧だけで、かなりの魔力を持ったスタンさんが気圧されている。

 魔力を持てば持つほど生物としての強さは跳ね上がる。冒険者としてその事を熟知している俺と一花にとっては、夢にも思わなかった光景だ。

 

「お兄ちゃんっ」

 

 一花の声に我に返り、とっさにスタンさんを庇うように間に入る。魔力を持ち、体力が向上したとはいえスタンさんは100歳近い老人だ。

 そんな彼がこんな圧力にさらされていたら、それがどれだけ負担になるかわかったもんじゃない。

 ただ、ちょっとだけ間に入った事を後悔する事になったが。重力でも持ったのかという気当たりに、足が震えるのを感じた。

 この人、マジでどんな人なんだ!?

 

「……あー、いや。すまんなちょっと熱くなった」

 

 そんな俺の犠牲が功を奏したのか。女性はぼりぼりと髪を掻きながら、俺に向ける圧力を弱めた。

 

「お前さんらに当たるのは……いや、スタン爺さんに当たるのもおかしいんだ。ただ、大切な、約束だったから」

「タクミさん……」

 

 弱弱しい声音で、タクミさんはそう呟く。先ほどまでの姿が嘘であるかのように、彼女の姿は小さく、か細く見えた。

 

『タクミ……』

『すまん、爺さん。歌は――楽曲提供は、してもいい。でも、歌うのは勘弁してくれ』

『……分かった。すまない』

 

 そんなタクミさんの姿に、スタンさんは痛ましいものを見るように顔を歪め小さく首を横に振った。

 タクミさんは小さくもう一度「すまん」と呟き、目元を包帯で巻かれた手で拭う。

 

「さて、辛気臭い話は終わりだ。ようヒーロー、会ってみたかったぜ」

「……ヒーローは勘弁して欲しいですね」

「ははっ。なんだお前もしかして恥ずかしがりか? こないだのニューヨーク散歩のニュース見たぜ。レオパルドンが居ないのが残念だったが」

「東映版じゃないっすか」

「日本版なら同じだろ?」

 

 ケラケラと笑う彼女の言葉に思わず突っ込みを入れると、タクミさんはまたケラケラと笑って首を横に振る。

 いや、確かに日本のスパイダーマンって括りだとよく同一視されるけどさ。たまに動画で「俺は地獄からの使者!」とか言ってるけどさ。

 

「ほら、言ってるじゃん。乗っちゃえよーYOU乗っちゃえよー」

「うううん、じゃ、じゃあ」

「お兄ちゃん!?」

「ハッ! 俺は正気に返った」

 

 思わず乗せられそうになったが一花の声で正気に返ることが出来た。

 お、恐ろしい。これが大企業(予測)の経営者の話術か。

 

「いや、どっちかというと君が乗せられやすいだけだよ?」

「あ、はい」

「面白い子だね、君。ちょっと失礼」

「えっ、タクミさん?」

 

 乗せられやすいのは自覚しているため頭を掻くと、苦笑したタクミさんはそう言ってすすっと近寄ってくる。

 「大丈夫」と小さく微笑んだ彼女はそのまま俺の顔を小さな両手で触り、彼女は何かを見るようにじっと俺の目を見る。

 普段なら女性にあんまり近寄られると緊張してしまうんだが。何故だろうか、この人からは何故か母さんや一花のような安心感を感じる。

 

「……お仲間かと思ったんだけど、違ったか」

「えっと?」

「あの、タクミさん。早くお兄ちゃんから離れて……その、お兄ちゃんまだ20歳で親子ほど歳が」

「歳の話を言うのはこの悪いお口かなー?」

「や、ちょ、やめ!」

「ふはははは。良いではないか良いではないかー!」

 

 足が動かないとは思えない程機敏な動きでタクミさんは一花ににじり寄ると、両手で一花の口を引っ張ったりと弄び始めた。

 情けない悲鳴を上げる一花の姿に苦笑を浮かべていると、ふとこちらを見たタクミさんと目が合う。

 彼女は俺の苦笑を見て何を思ったのか。くすりと笑ってまたすっと傍に寄ってくる。

 

「ちょっと予想とは違ったけど、会えてよかったよ。君は面白いし、一花ちゃんは可愛いし」

「一花が可愛いのは、確かに。でも俺は面白くないですよ?」

「面白いよ。君の在り方は、とっても面白い。私は自分だけで完結できちゃう奴だから、誰かの為に命を懸けられる君は少し眩しいかな」

 

 少しだけ羨ましそうな口調でそう語り、タクミさんはすっと右手を差し出した。

 

「また会いましょう。今度は映画が終わった辺りで、今度はお友達も連れてきて。美味しいご飯を御馳走したげる」

「はい、その時はもう是非」

 

 美味しいご飯を食べられるならどこでも飛びますよ。と笑顔を浮かべて、彼女の右手を握る。

 その瞬間。

 ごっそりと、魔力が一気に抜き取られるような不思議な感覚が俺を襲った。

 

「はっ?」

「えっ」

 

 タクミさんと一花の呆けたような声。声を出す余裕もなく、俺は抜かれていく魔力を必死に繋ぎとめようとした。しかし、水が高い所から低い所へ落ちるように、どんどんと抜かれていく魔力をせき止める事は出来ない。

 そしてついに右腕の形を維持できない程に魔力がなくなった時。

 

 目の前に立つタクミさんの全身から、白い炎が噴き出した。

 

『タクミ!?』

「タクミさん!?」

 

 スタンさんと一花の声が耳を打つ。声を出す余力もない俺は、それでも何とか気力を振り絞ってタクミさんへと目を向ける。

 白い炎はタクミさんの全身を隈なく覆うように燃え上がり、やがて消えていく。

 そして、あとに残ったのは。

 

『……神よ』

「もう……40歳の筈だよね?」

 

 少しずつ戻ってくる魔力。一気に魔力がなくなるとやっぱり気分が悪くなるんだな、と場違いな事を考えながら顔を上げると、そこには一人の女性が一糸まとわぬ姿で立っていた。

 いや、それだと表現が足りないかもしれない。

 正しくは、女神と形容すべき女性が、一糸まとわぬ姿で立っていた、だな。

 まるで透き通るような肌。小ぶりだが魅惑的な胸。抜群のプロポーション。男性の劣情を催す全ての要素を備えている筈なのに、不思議とそんな気分は沸いてこない。

 

 これがタクミさんの、本来の姿なのだろう。

 

「……なるほど、な」

 

 自分の姿に、そして足が問題なく動いている事を確認していたのだろう。細部を見るようにタクミさんは自分の体を触っていく。

 

「うん、わかった。そうかそうかそういう事だったのか」

 

 にこやかな笑みでタクミさんはそう言って――

 

「クソがアアアアアアアァァァァァ!!」

 

 絶叫した。

 

「私の世界でぇぇ! 私の大事な幼馴染をぉぉぉ! 連れ去った野郎がぁあ! 置き土産までつけやがってよぉぉぉぉ!」

『タ、タクミ?』

『爺さんさっきの話受けるわ! でもやる事できたからその合間な!』

『あ、ああ』

 

 猛るタクミさんの勢いに促されるような形でスタンさんが首を縦に振る。

 そのままタクミさんはギロリ、と俺と一花に目を向けた。

 

「おい、鈴木兄妹! 私を冒険者にしろっ!」

「え、あ、はい!?」

「一番前に進んでんのお前らなんだろ? 協力すっからとっとと最奥まで行くぞ。私はそこに用がある」

「わ、わかりました!」

 

 有無を言わさぬ口調でそう語るタクミさんに思わずはいとイエスしか返事が出来ないと謎の考えを頭に浮かべながら俺は頷いた。

 隣にいる一花もこくこくと頭を縦に振るロボットになっており、反対意見はどうやら出てこないらしい。

 

「おぉし良い返事だ。安心しな、モンスター殴った事ぁ無ぇが神様ぶん殴った経験ならあるぜ」

「それ安心要素じゃないんですが」

「それな。ま、細かい事は気にすんなよ!」

 

 ばしばし、とタクミさんは女性とは思えない力で俺の背中を叩き、「じゃ、ちょっくら服取ってくるぜ」と裸で外に出ようとしたためその場にいる全員で慌てて呼び止める。

 すったもんだの押し問答の末、結局スタンさんのコートを借りて自室へと戻っていく彼女の背中を見ながら、俺と一花はぽつりとため息を溢した。

 

「凄い人だったね」

「うん」

「あの人冒険者になるってよ」

「……うん。教官頑張って」

「お兄ちゃんもね」

 

 正直勘弁して欲しい。ダメ? ダメか……

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