※誰得注意※
10数年位前のお約束ネタパロディです
誤字修正。残念無念で不書感想様ありがとうございます!
「気持ち悪い……」
彼の顔に移る少女はそう言って顔を歪め、そしてその姿を赤い水へと変貌させ母なる赤き海へと帰っていく。
人類全てが溶け込んだ見渡す限りの赤き海へ。彼だけを残して。
「…………」
残された少年は今しがたまで少女の姿があった砂浜をぼんやりと眺めながら、数回口をパクパクと開け閉めを繰り返し――深いため息を吐いた後に天を仰ぐ。
「あんだけ散々こき使っといて最後のセリフがそれかよ……」
崩れ落ちるように砂浜に手を付き、少年――かつて碇シンジと呼ばれていたナニカはそう言って嘆きの声を上げる。ところで君、アスカが日本に来たその日に「犬とお呼びください」って言いながら足舐めに行ったよね?
「女王様系統かなって原作見て思ってました(震え声)」
普通の人なら気持ち悪い以外の言葉は出てこないんじゃないかなって。
「そんなバカな。伝統的なYOKOSHIMAスタイルが仇になっていたとは!」
その伝統は君の前世でも十数年位前には終焉してた筈なんだけど、君の中ではまだ続いていたんだね。古典を継承していくのは大事な事だと思うよ。
「はっ。ま、まさか綾波が全然ナデポしてくれなかったのも……っ!」
一般常識的に考えて撫でられただけで惚れるってそれどう考えても精神疾患の類だから。
むしろ途中から撫でられるの迷惑そうにしてた事を忘れてはいけないと思うんだけどその辺りどうお考えかな?
「す、好きの反対は無関心だから」
無関心というか考えたくもないとかその辺りに分類されてたんじゃないかなって。まぁ、何だかんだ君も生き残れたし、綾波も君の事は多少気にかけてたんだろうけどさ。
でも生き残ったとはいえ世界がこんなんだし君も一人ぼっち。で、どうすんの? このままその身が朽ち果てるまで『僕』としりとりでもやってる?
「ふふん。それは勿論!」
勿論?
「寂しいから他の世界に行く」
あ、はい。うん、まぁこの世界に残る理由はないよね。でもどうやって? その体に憑依した時みたいにまた別世界の誰かに魂を間借りするの?
「それについてはこいつを使おうと思う。出でよ、ATフィールド!」
そう言いながら少年が目の前に両手をかざすと、手の先からオレンジ色の八角形が層をなして手の先に現れる。
おお、ATフィールドの自力展開。いつの間に人間を辞めたんだい?
「はっはっはっ! これぞお約束! スーパーシンジ略してスパシンならATフィールドかぁ↑らぁ↓の! ディラックの海経由の移動は基本装備だよチミィ(粘着質な声)」
なんで一々叫んでるのかは兎も角として、使徒の不可思議パワーを身に着けてたんならさっきからの自信も頷けるってもんだね。その前段階で最後の仲間に赤っ恥かかされてたのは忘れてあげるよ。
「は、恥ずかしくなんかないから(震え声)」
はいはい。
「ぐすん。い、いいんだよ別に。これから俺はきゃわいい女の子が一杯居る世界に旅立って良い感じに女子中学校に何故か副担任として赴任して『ふぅ、やれやれ。しょうがないなぁネギ君は(大山のぶ代風)』的な立ち位置で過ごすんだい!」
仮に旅立ってもくろみ通りの世界に行けたとしても教師が自分の学校の生徒に手を出そうとか考えちゃダメじゃないかな。というかいつの間に一人称が僕から俺に変わったんだい?
「はい、じゃあディラックの海行きます」
おい? 答えもせずに……ああ。発動しちゃったか。
「うっせーバーカバーカ! お前の母ちゃんでーべーそー!」
ブーメランって言葉知ってるかな。
そういう『僕』の言葉もどこ吹く風。拗ねたような口調であっかんべーをしながら、碇シンジと呼ばれていた存在は虚空の中に開いた穴へと消えていった。まぁほぼ視界を共有してるから僕も付いて行ってるんだけどさ。何に向かってあっかんべーしたんだろうか。彼の行動は良く分からないな。
さて。虚空に出来た穴の中は、ただむやみやたらと広い無機質な空間だった。前に入った時は第12使徒の時だっけ。相変わらずの風景だね。
「まぁ、別の宇宙に繋がってるって事以外は俺も良く分からんが、ワープなんかの最中は大体こんなもんなんじゃないか?」
そんなもの、なのかな? とはいえ確認しようにもこの世界じゃ調べようもないからね。この話は止めておこうか。
所でその、すぱしん、だったかな。君のような他次元からやってきた人の事を差すんなら、この海の中にもしかしたら君以外のすぱしん、とやらも居るのかな。とても迷惑なことに。
「どやかましいわい。まぁ、居るかもしれんが向こうも向こうで勝手にやってるだろうからこっちに手を出す事はないだろ、多分」
言葉を切るようで悪いけど前危ないよ?
「あん? ぶれらっ!」
バチン、と大きな音が何もない空間の中に響く。
どこかの世界の入り口だろうか。オレンジ色の八角形で封じられた『出入口』と書かれた何かに盛大に顔を打ち付け、びたーん、と壁に貼り付けられたようになった碇シンジはずる、ずるずると滑り落ちる様に落ちていく。
……この謎空間にもどうやら重力があるらしい。
しかし成程、向こうも向こうで好き勝手やってる。確かにそうみたいだね。態々封鎖してる辺り関わり合いになりたくないというオーラも感じるしあそこの事は忘れておいた方が良さそうだ。
さて、最初の出入り口はダメだったし次の世界にでも、と言いたい所だが肝心の
このままではどこまで行くか分からないな。と落ちる先を眺めていると、恐らく他の世界の出入り口だったのだろう空間の中に開いた穴のような物が視界に移る。
あ、これはアレだな。お約束って奴だ。
「あ~れ~」
さもありなんと頷いていると、吸い込まれるかのようにシンジはその世界の入口へと入っていく。細い穴の中に入ると、そこは宇宙空間のように何もない真っ暗な空間だった。
いや、何もない、というのは語弊があるだろう。穴の奥の方には光のような物が見えており、そこに向かってシンジの体は高速で移動しているのだから。恐らくあの光の先が出口なんだろうね。
「う、うーむ」
おや、どうやら気が付いたらしい。熱烈なキスのお味はどうだった?
「鉄の味がする」
ああ。LCLか。まぁそんな事はどうでも良いんだけどさ。
「どうでも良いってお前……いや、……何だここ。知らない天井だ」
お、持ちネタを使うタイミングは逃さない。そこに呆れる反吐が出るぅ。
「どやかましい」
さて、不可抗力とはいえ何かしらの世界に入り込んだようだがここはどうなっているんだろう。やけに暗い……いや、これは……人魂、かな?
周囲に無数に浮いている人魂らしき物体に、それに照らされる船やらなにやら。ううん、ここはもしかして水難事故で死んだ人達が集う地獄のような場所なのかな?
どう思う、シン――
「……素晴らしい」
はい? 急に真顔になって何を変な事を……と彼が見ている方向に視線を向けると、小舟に乗った女の子と小さな男の子の姿がある。水着を着ているようだし海難事故にでもあったのだろうか。まだ若いようなのに可哀そうに。
「……いや、違う。あの子たちはまだ生きてる」
――へぇ? という事はここは地獄や何かではないって事か。周りにある船を見るにどうやら僕らが渡ってきた世界に近い年代のようだけど。
「そんな事はどうでもいい。あの子は、自分の恐怖を押し殺して弟を勇気づけている。なんて心の強く美しいお嬢さんなんだ!」
美しいにやけに情感が籠ってるね。可愛い子だもんね。まぁ、うん。言いたいことは分かるよ、人間自身の命がかかった時にこそ本当の姿が見える。
ミサトさん然り、綾波然り。君の下心がふんだんに盛り込まれた意見に賛同するのは癪だけど、彼女はとても素晴らしい女の子なんだろうね。
で。そんな彼女を熱心に眺めて、どうするの?
「助けゆ」
あ、そ。じゃあ頑張っ……てもう行っちゃったよ。うわ、「そこの綺麗なお嬢さん、こんな所でどうされました」って今時言う奴居るんだね。センスも古典で止まってるんだろうか。
ほらやっぱり怪しまれて……ない? え、嘘。普通に女の子も男の子とも会話交わしてる。
おお、名前まで聞いてまぁ。麻子ちゃん、か。元気そうなお嬢さんだ。少しアスカを思い出す勝気そうなイメージの女の子だけど、やり取りを見る限りアスカほど自己中って感じじゃないな。
ふむふむ。浜で知り合った男の子と一緒にボートで遊んでたら急に蛇のような化け物に飲み込まれた、と。災難にもほどがあるだろう。
しかし驚愕の事実が一つ発覚したね。この空間生き物?のお腹の中だったらしい。まさか異世界渡航してすぐに捕食される事になるとは持ってるにも程があるね、君。
「うるさいやい」
「……ど、どうしたの?」
「あ、いや何でもないよ。は、ははは」
思わず、と言った様子で口走った文句を麻子に聞かれ、シンジは慌てたように誤魔化すように笑い声をあげる。その様子に「変なの」と麻子がくすりと笑い、釣られるようにタツヤという男の子も笑顔を浮かべる。
うん。変な人扱いされてるけど結果オーライって所かな。そんなに睨まないでくれよ、不可抗力じゃないか。
「ありがとう。少しだけ、元気が出た。所で、貴方は……?」
「そ、そう言って貰えるとありがたいかなって。ぼ……俺は、その。えーっと……碇、シンイチです」
え。どうしたの急に。シンジって親からもらった大事な名前があるだろう?
(皮肉言うなし。いや、そりゃ14年間使ってるけど別にこの世界にゲンドウやユイさんが居る訳じゃないし? 乗っ取りしといてなんだけど、碇シンジって名乗るのは恐れ多いからこの世界では碇シンイチと名乗ろうかなって)
君色んな方面に喧嘩を売るのは止めといた方が良いんじゃないかなって。
所でそこ、危ないよ?
「うん? どう!?」
『僕』の声に反応して周囲を見回そうとした碇……シンイチの顔に河童のような何かの拳が突き刺さる。周りを見渡すとボートの周辺を囲むように緑色の肌をした蛇人間のような何かが表れている。
彼らに殴り飛ばされたシンイチはそのまま水? 胃液の中に大きな水柱を上げて落ちていき、蛇人間達はボートを囲む数体以外はシンイチを追いかける様に水の中へと飛び込んでいく。
「い、碇君!?」
麻子が悲鳴のような声を上げてシンイチの落ちていった方向へ手を伸ばそうとするが、それを遮るように蛇人間たちは小舟を取り囲み、彼女と少年に向かって威嚇のように声を上げる。
これは、不味い。
シンイチの方は兎も角この二人はどう見ても一般人。化け物じみた相手に抵抗できるようには到底見えない。
シンイチ君、早く上がってくるんだ。このままじゃ二人が――
ピィシャアアアアンッ
『僕』がシンイチへと呼びかけるよりも早く、その雷鳴は周辺を囲う蛇人間達を一掃し、ぼろぼろの何かへと変えていった。
何が起こったのか。呆然と周囲を見る麻子と少年、そして蛇人間が消えた事でフリーとなり、水の中から浮かんできたシンイチが上を見上げる。
そこには――全身を金色の毛並みで覆った、虎に似た巨大な何かの姿があった。
「……ここうしおととらやん」
呆然とした表情を浮かべたまま。ぽつりと口の中でシンイチがそう呟き、そして天を仰ぐように視線を上に向けて、そして手で目を覆う。
何か悲しい事があったんだろうか。そっとして置いてあげよう。
――麻子にとって、彼との出会いは超常現象の中での唐突なものであった。
明らかな異常。少年と二人で取り残された彼女は自身の恐怖を押し隠して少年を抱きしめる。怖い時に怖いと思ってはいけない。心が挫けてしまう。
少年に語りながら、彼女は自分自身にも言い聞かせる様にその言葉を口にする。
震える体を叱咤し、少しでも少年の恐怖を和らげる……彼女のそんな姿を、彼は見ていた。
碇シンイチ。そう名乗る少年は唐突に、そう。本当にいきなり、彼女と少年の前に現れた。白い髪、赤い瞳。まるで普通の人間とは思えない雰囲気の彼は気取った様子で「そこの綺麗なお嬢さん、こんな所でどうされました?」等と話しかけてきたのだ。
その様子に呆気に取られ、思わず素直に応対してしまったのが最初の会話だっただろうか。まるで日常の中でナンパな男に声をかけられたかのような錯覚を覚え、つい笑ってしまったのを覚えている。
その後、訳の分からない化け物に襲われ、金色の化け物に助けられ、そして……黒く長い髪の少年に助けられ。彼との出会いのインパクトは薄くなってしまったが。
それでも何故か同じ中学校に転校してきた彼と再び顔を合わせた時、思わず声を上げてしまった位には、麻子の中で彼との出会いは特別なものだったのだ。
「いや、やべーんだってこの世界マジでやべーんだって。妖怪とかマジ勘弁あいつらATフィールド効くの? 効いたな! なら大丈夫だな!」
さとりって妖怪居るんだっけ。
「
ATフィールドって精神的な物だからね。心を読んでくるとか心を侵食してくるとかってのには弱そうな気がするけど。
「い、いや。うん、原作の流れにさえ乗っからなければ大丈夫、大丈夫なはず。あくまで一般ピーポーとして」
ところで君、今どこに居るんだっけ?
「旭川だよちくしょぉぉぉぉおおお! めっちゃめちゃ原作沿いじゃねぇかよぉぉぉぉおおお!」
「ギェェェェエエエッ!」
人から妖怪へとその身を変え始めた少年、蒼月潮の槍をATフィールドで捌きながら、悲鳴のような声をシンイチが上げる。
彼の背後には蒼月潮と縁の深い少女達5名。いや、光覇明宗の僧である二人の少女も含めれば7名の少女たちを背にし、悲鳴を上げながらも獣と化した潮の攻撃に対処するその姿は流石に歴戦のEVAパイロットって所かな。
「シンイチ君、凄い……」
「結界使いめ、やりゃあ出来るじゃねぇか」
この世界に来てからの付き合いである麻子の呟きに、とらの皮肉めいた声が被さる。まぁこの世界に来てからも大分戦闘経験増えたしね。主に飛行機事故とか遠野とか。
それにとらが皮肉言いたくなるのも分かる。君、本当に危険からはさっさと逃げようとばっかするしね。
(だってきゃわいい女の子との出会いイベントだぞ!!? 参加するっきゃないだろうが! あと妖怪とかマジ危険で危ないから!?)
その女の子たちがみーんな潮君にハートマーク送ってる現状をどうお考えでしょうか。
(死にたいです……)
まぁ、しょうがないよね。君基本的に潮君の金魚の糞みたいに付いて行って被害が広がらないように結界張ってただけだし。
(おかげで結界使いなんて変な異名貰って光覇明宗からもマークされるわジエメイさん(女幽霊:2000歳)にもこき使われるわ散々だけどな!)
でも君、蒼月君に頼まれたら大概うんって言ってるじゃない。一時期のアスカに媚びへつらってた頃を彷彿させるイエスマンっぷりだったよ。
(……あいつの頼み事は、聞いてやりたいって思っちまうから卑怯なんだよぉ)
しょぼくれたように心の中で呟きながら、シンイチは眼前に迫る槍の一撃をATフィールドで防いだ。
シンイチの気持ちも分かる。蒼月潮――『僕』達が入り込んだこの世界、うしおととらの主人公は不思議な魅力の持ち主だった。メインヒロインに「馬鹿で考え無しで落ち着きがなく喧嘩ッぱやい」等と称される人物だが、彼はそれら全てを補って余りある……むしろ魅力へと引き上げてしまうほどの心根の正しさと優しさを持っている。
まだ出会ってからそれ程時間がたったわけではない。けれど、シンイチは……いや、多分『僕』も、か。
彼の魅力にコロッとやられてしまったんだな。ありていに言えば大好きって奴か。
(友達として、だからなっ!)
そうだね。
さて、今の現状は簡単だ。獣化した蒼月潮を人間に戻す為、身を挺して獣化した潮の注意をシンイチが惹きつける中一人、また一人と少女達が潮の髪を櫛削っている。
獣の槍を使うと潮の髪は長く伸びるんだけど、恐らくあれが獣の槍の力の具現化したもので、それを削って力に飲まれた潮君を助けるって理屈かな。
「ギェェエエエエェ!」
「っと、あぶねぇなぁおい」
その髪がシンイチを拘束するように自在に動いてくるも、身を翻してシンイチはそれをかわす。直後に、彼が立っていた場所に獣の槍が突き刺さる。
人であった頃の潮に比べれば大分弱く感じるが、獣と化したせいで動きが人のそれじゃなくなってるのは脅威かな。まともにATフィールドで受けるのも少し怖いし。接触した感じ、まだ大丈夫だと思うけど連続で受けたら下手すると突破してくるかもしれない。
避けられるのならば避ける。仮にロンギヌスの槍の様に貫いてきたら磔にされた弐号機よりひどい目にあいかねないからね。
(怖い事思い出させないでクレメンス)
これであの槍、まだ封印が効いてる状態なんだから大概だよね。
っと、最後の娘。麻子が潮君の髪を櫛削ったね。でも、どうやらまだ人間には戻れないみたいだ。
「いや、ここまで来りゃ十分だ」
うん、どしたの急に? ATフィールドで潮君を拘束して近付い……行ったー! シンイチ君の右ストレートが潮君の顎に行ったー!
壊れたテレビじゃないんだから殴って元になんて戻、
「うっ、うぅ……」
戻った……!?
「あとは最後の切っ掛けだけだったからな。本当なら麻子ちゃん辺りのキスがお望みだったかもしれんが」
「ちょ、シンイチ君!?」
「へへ。そんな羨ましい事させねーよ。じゃ、ごゆっくり」
冷やかす様に笑うシンイチに麻子が顔を真っ赤にして腕を振り上げる。その様子におお、怖っとそそくさと退散を決めシンイチが麻子と潮に背を向ける。
「……麻子、し、んいち?」
「……潮」
「潮君! 良かった……ほんとに」
ああ、うん。この場面は邪魔しちゃいかんね。駆け寄ってくる少女達と反対に彼らから距離を取るどうしたんだい、君にしてはやけに空気を読んだ行動じゃないか。
(麻子ちゃん達が良い子過ぎて生きるのが辛いし太陽が眩しすぎる)
今は夜だからね。涙拭きなよ。
――去っていくその背中を見て、井上真由子は心を痛めていた。
彼は、泣いていた。潮と麻子の姿を見て。去っていくその時、確かに涙を流していた。
碇シンイチという少年は、真由子にとって少しだけシンパシーを感じる相手だった。何故なら、きっと自分と同じだから。
……潮が大好きで、でもそんな潮はきっと麻子が大好きで。二人ともが好きな自分と、きっと同じだから。
彼が最後にうしおくんを殴りつけた時。隣にいた女の子達が悲鳴を上げる中、真由子はその拳に沢山の想いが込められているのが見えた。
『しっかりしろよ』、『みんなまってるぞ』、『はやくおきろ』。きっと、もっと沢山の感情が、あの右手には込められていた。だから、きっとうしおくんは目を覚ましたのだ。
人を殴るのは、とても痛い。ましてやそれが大好きな誰かなら、とても痛い。それが分かるから、真由子は潮に駆け寄りながらその瞳でシンイチをずっと見ていた。
彼の姿が消えるまで、ずっと。
(まぁそろそろおじさん達の結界が限界っぽいからな。代わってくるわ)
うん……あ、本当だ。一部の結界から結構な数の婢妖が漏れて。あ、杜綱さんの式神に漏れ出た分が食われた。
(という訳でちょっと不味いので行ってくるわ。ディラックの海展開か~ら~の移動&ATフィ~ルドッ相手は死ぬ!)
死なないし防いでるだけだよね?
「碇君っ!?」
「蒼月さん、こっからは俺が受け持ちます」
「! そうか、潮が……しかし、一人では」
「問題ありません。俺、防ぐだけなら自信あるんで」
結界の一翼を担っていた壮年の男性――
その顔に何を思ったのか。蒼月紫暮は一度だけ頷くと踵を返して走り去っていった。
「いや、実際潮の相手するより100倍こっちのが楽だから」
ただ防ぐだけだからねぇ。所で数万とか下手すると数億の単位で空飛ぶ目玉が襲って来てるけど大丈夫なの?
「余裕でしょ。第三使徒のパンチ一発よりも圧弱いぞ」
すっと手をかざし、紫暮が抜けた穴から入り込もうとした婢妖達をATフィールドで押し返しながらシンイチはそう答える。うわぁ、突撃してきた婢妖が後ろのに婢妖に押し潰されてるや。エグい。
そのままATフィールドの展開を進めていき、現在張られている結界のエリアを代替する形で赤い壁が覆った所で他の結界を張っていた法力僧達も引いていくようだ。
「実際一部は力尽きそうだったしな」
しかも一番人数の多い場所が、だよね。4人で他の3名一人分の活躍も出来ないモブ法力僧ぇ……
「いや、他の3名が最強クラスなだけであいつらも頑張ってるほうだと思うんだけどな」
なんてシンイチと無駄話をしていると、背後の方から高速で飛んでくる金色の影が表れる。
その背中に長い黒髪を棚引かせる少年を乗せて、大妖怪・とらが婢妖の群れに突っ込んでいくのだ。
「復活即大暴れってか。すげぇな原作主人公」
一瞬だけこちらに目配せをしてきた潮に苦笑を浮かべてATフィールドに穴をあける。その穴に向かって殺到する婢妖達を文字通り薙ぎ払いながら、うしおととらは夜闇を光のように切り裂いて空を駆けていく。
かっこいいね。同じ原作持ち主人公とは思えないや。
「……ああ。まぁ、な」
随分としおらしいじゃん?
「いや。自分としてもな、色々『本物』って奴を見てると思う所が出てきてなぁ。他のスパシンも皆こんな感想を抱いたのかなってさ」
槍にとらの雷光を落とし、反射した雷で婢妖を殲滅した潮の姿を眺めながらシンイチはそう一人ごちる。
まぁ、そうだね。彼を見てると『僕』達がどれだけ流されて生きて来たのかが良く分かるよ。でも、それは仕方ない事だと『僕』は思う。好き勝手に生きられるほど君も『僕』も強くなかった。その結果が、この様だろうね。
「……そう、だな」
強くなりたいね。
「ああ。強くなりたい……なれるかなぁ」
なれるさ。君と『僕』で二人で一人。二匹で一体の彼等にだって負ける理由なんかないだろう?
時間はたっぷりあるし、良い見本も居るんだ。ゆっくりスーパーシンジになっていこうよ。シンイチ。
「ああ。そうだな……シンジ」
見上げた空の上では、シンイチに向かって大きく手を振る蒼月潮と、へんっ、とばかりに顔を横に向けて嫌そうな顔を浮かべるとらの姿がある。まずは、目標は彼等だ。
なに、大丈夫さ。『僕』達二人なら。きっとね。
「でも流石に白面相手はキツイかなぁって!」
「シンイチ、次が来るぞ!」
「気ぃ抜くなよぉ、結界使い!」
襲い来る巨大な尻尾をATフィールドで受け流しながらシンイチは豚のような悲鳴を上げる。前途は多難かな?
「助けてくれぇ、シンジィ!!」
はいはい。世話の焼ける兄だよ、君は本当にね。
まぁ二人で頑張って、何とか今回も切り抜けようか。うん。
ダイジェスト気味だって?
>力尽きたんだよ言わせんな恥ずかしい(本当に)
人物紹介
碇シンイチ
本人は碇シンジに憑依したと思い込んでいるが!実際は他世界の人物と融合した際、そちらの知識を取り込んだせいで「自分は異世界の人間である」と思い込んだ碇シンジ本人の人格
共にいる彼がシンジと呼ぶ分身の方が実は異世界からの来訪者の残りかすであるが、知識を全て本人格側に譲り渡しているため前世の事を何も覚えていない。それで良いとも思っている。