主要人物たちと交流を深めた一週間の休日、俺はバスに揺られている。
行先は風見野。勿論、佐倉杏子に会うためである。
理由は前回の会いに行くという約束を果たすため、家に押し掛けるのを阻止するため、そして今膝に抱えている俺の手作り弁当を届けるためである。
実は俺、家では家事全般してます。勿論料理もします。
前世は料理どころか包丁すら家庭科の授業でしか握ったことなかったのに、人間変わるものだ。
というもの俺の今世の母親、家事壊滅的。
特に料理なんて某人気漫画の人間をかけたメガネの姉上が作る暗黒物質のようなものを作り出す才能の持ち主なんです。
母さんに任せていると俺の行き着く先は餓死か中毒死の二択しかないので、必死で料理を覚えた。じゃないと俺は生きられません。
料理は長年やっているからそこそこ自信がある。
マミちゃんからも好評だったので、問題ない。
そもそも食の守護神である杏子は仮に不味くても食べないという選択肢はないだろうしね。アニメ観る限り、杏子はお菓子やジャンクフードばっかり食べている。
彼女の栄養面がとても心配だ。
成長期の女の子にとって非常にそれはいただけない。
会いに行く約束ついでに栄養をあるものを食べていただこうかとこうして手作り弁当持参で来ている。
「・・・いないんですけど」
風見野に着いた俺は早速杏子を探しに彼女がいそうな場所を中心に探すが、見つからない。今はベンチで休憩中。
逃げたら追いかけてくる、追いかけたら逃げられる。
典型的なツンデレですねありがとうございます。
それにしてもいい加減にしてほしい。
腕が疲れてきた。だって持ってきたの重箱だから。
しょうがないじゃないですか。あの暴食娘ですよ?
通常の弁当箱の量じゃ少ないって文句言われそうだし。
そしてこの重箱の中には俺の分も入っているのだ。見つからずに作り損とか嫌だ。
ポツンと俺一人もくもくと重箱をつつく未来とか笑えない。
こうなったら意地でも見つけてやる!
その思いが疲れた体に鞭を打ち、俺は再び歩きだした。
「・・・やっぱりいないんですけど」
俺は再びベンチに座っている。あれから更に歩き回ったが見つからない。
こんな時いかに携帯が便利なものか痛感させられる。
でも杏子絶対持ってないだろうし、そもそもちゃんと日時と場所決めとけばよかったと何を今更感が胸を駆け巡る。
何だかなあ・・
もういい加減に諦めて帰ろうかとやさぐれている俺の目に赤いポニーテールが歩いているのがうつる。
間違いない!杏子だ!
諦めようとした時に現れるとは何というツンデレだろうか!
見つけるがはやいが俺は杏子に声を掛けようと後を追っていくといきなり杏子が魔法少女に変身し、空高く飛び上がった。
すげーなーパンツ見えそうだなーという俺のアホな感想を尻目に杏子があるものを一点に見つめ、槍を構える。
「!まさか!?」
杏子の見つめる先には国民の友ATM。
ということはリアルで犯罪に鉢合わせしちゃったってことですか!?
確信するやいなや俺の行動は素早かった。
出来るだけ駆け出し、重い重箱を両手で上に掲げ力の限り叫んだ。
「杏子さああああああああああああああん!!お弁当お持ちしましたああああああああああああああああ!!!!」
目の前でATM破壊はやめてください・・。
杏子side
「はい!実は今日お弁当作ってみたんだ。味は保証するから食べてみてよ!」
優依はさっきの出来事なんてなかったかのようにアタシに手作りらしいお弁当を突き出している。どう反応していいのかわからない。
無言で優依の方をみる。
そろそろ金が尽きそうだから調達しようと思ってたまたま目に入ったATMを破壊することにした。
首尾よくいってた筈なのにいきなりアタシを大声で呼ぶ声がして振り返ったら優依がこっちに走って来ていて、何故か重そうな箱を上に掲げていた。
結局未遂に終わってしまったが、問題は優依に見られたことだ。
どうしよう?よりにもよって一番見せたくない奴に見られてしまった。
未遂とはいえ簡単に想像がつくだろう。
時間帯を確認すればよかった。
日付を確認すればよかった。
そうすれば・・いや見られてしまった以上はどうしようもない。
・・嫌われちゃったかな?幻滅した?
せっかく会えるようになったのに・・もう会えない?
そんな考えが頭の中でぐるぐると渦巻く。
アンタはどう思ってる?
「アンタさ・・」
唇が震えてる。体の方も震えてるみたいだ。でも聞かなきゃ。
「アタシが何しようとしたか分かってんのか?」
怖い。もし二度と会いたくないなんて言われたら、立ち直れるかわからない。
アタシは優依が何と答えるかただひたすら待っていた。
杏子さんが悪いことしてお巡りさんに補導された子供みたいな顔してる件について。
何とかATM破壊は阻止に成功し、俺が座っていたベンチに連行し、我ながら高評価な自然体な振る舞いができたと自負していたのだが、渡そうとしたお弁当に手を付けず、じっとこっちをガン見してるんですよ・・怖い。
「・・・・・」
さっきから無言なんですよ!キツイのなんの・・。
しかもなんか怯えた顔で震えてるんですよ!?
その気にならんでも俺をどうにか出来んのに何でこんなに怯えられてんですか!?
俺はお巡りさんじゃないのに・・。
「アンタさ・・」
杏子がポツリと口を動かした。
おお!やっとしゃべってくれたか!沈黙はきつかったよマジで!
「アタシが何しようとしたか分かってんのか?」
「・・・・・」
正直いうと開き直ってくれた方がよかった。
せっかく俺がなんでもない風に接したのに、何故に自分から自白しようとしてんの!?俺は神父さんじゃないから懺悔されても困るんですけどおおおおおお!?
「何のこと?何も起こってないじゃんか」
苦肉の策として惚けることにした。
実際未遂で何も起こってないし。
「ふざけんな!見てただろ!?アタシが何やろうとしてたかを!」
ばっちり見てました!
更に君の事情もばっちり知ってました!
杏子は喰ってかかったが、ぶっちゃけ巻き込まれたくない俺は宥めにかかる。
「訳があるんだろ?(知ってるけど)」
「・・・・」
「そうしなきゃいけない訳があるんだよな?(知ってるけど)」
「・・・・・・・・」
杏子は答えない。
うん!それが狙いでした!言えないよね!
自分は魔法少女で天涯孤独だから盗み働いて生きてるって言えないと思う。
むしろ言わないで欲しい!
言われたら最後、俺魔法少女に関わる羽目になるし、何より君の壮絶な過去を聞くメンタルは持ち合わせていないので絶対に言わないでね!
ただの友達ポジでお願いします!
「まあ、理由は(聞きたくないから)聞かないけど、ちゃんと(魔法少女関連以外は)言ってくれる時まで待ってるからさ。ただ覚えていてほしい。俺は杏子が理由もなく悪さする子じゃないと思ってる。本当に悪い奴だったらさ俺の事助けてくれなかったし、こうして律儀に付き合ってくれないよ?」
俺は杏子の目を見たふりして鼻の方に視線を向ける。
いやだって単純に巻き込まれたくないだけで良いこといっても中身スカスカなので目線合わせられません。
相手に威圧感与えたくない方は鼻を見るのがおすすめです。
目を合わせてるように見えるそうです。杏子は泣きそうな顔でしばらく俯いていたが、やがて、
「はっ・・変な奴」
「変な奴で結構!さ、食べよ?まさか食べないとか言わないよね?」
「アタシが食いもんを粗末にするか!そんなに勧めて不味かったらタダじゃおかねえからな!」
さっきまでの泣きそうな様子から一変、物凄い速さで重箱にがっついてるんですけど。まじか?
俺のあのスカスカな言葉で立ち直ったの?
凄いな杏子。とりあえず俺は自分の分が無くなる前に急いで食べる事にし、慌てて箸をとった。
杏子ちゃんてかなり荒んだ生活送ってそうですよね・・