最悪だ。今日何故かさやかが怪談話しようとふざけた提案したせいでプチ百物語をするはめになった。ホラー系が大の苦手な俺にはダメージが凄まじい。ビビる俺を見つめるさやかのにやついた顔が腹立つ。ちなみにまさかのダークホースがまどかだった。一番怖がるかと思ってたのに、臨場感たっぷりに語るその様子はマジで怖かった。恐怖のあまり、さやかと二人抱きあいっこしてしまった程だ。終わった後は「ただの作り話だよー」と笑うまどかを見て、俺の中で彼女にS疑惑が浮上した。
こういう怖い事を思い出すのは決まって夜、特に眠る時間帯である。恥を承知でキュゥべえに一緒に寝てくれと頼んだら
「何で僕がそんなくだらない理由で君の抱き枕にならなきゃいけないのさ?」
と冷たい言葉を残し、マミちゃんの所へ行ってしまった。薄情な宇宙人め。・・・は!そうか!マミちゃんだ!珍しく俺に天啓が訪れる。
この際プライドなんか関係ない!というか俺に守るべきプライドなんてない!頼み込んで泊めてもらおう!キュゥべえに馬鹿にされようが関係ない。俺の快眠がかかっているのだ!幸いまだ中学生が出歩いても問題ない時間帯だ。よし、急いでマミちゃんの所に行こう!俺は明るい気分になり、泊まる準備をするため自室に軽やかな足取りで向かう。
「お化けなんてないさ♪怖くなんてないさ♪っ!?ぎゃあああああああああああああああああああああ!!!」
気分よく自室に入り、明かりをつけると丁度俺の位置から正面になる窓に赤毛の女の子が立ってる!?こっ怖いいいいいいいいいいいいいいいい!!!
「どうした優依!?何の悲鳴だ!?」
俺の悲鳴を聞き、駆けつけたらしいスーツ姿の母さん。どうやら今から出掛ける所だったようだ。
「窓の外に女の子が・・・あれ?いない?」
指差す窓には女の子は立ってなかった。恐る恐る窓の外を確認するも誰もいない。幻覚だったのだろうか?
「疲れているのかもしれないな。今日は早く寝た方がいい。私は明日まで帰らないからな」
「明日だっけ?対決」
「ああ、今から最終の打ち合わせだ」
ひょっとしたらこのやり取りで分かるかもしれないが、俺の母さん弁護士です。スーパーならぬハイパーな。そのため超多忙。こうして夜に出かける事も少なくない。
「うん、わかった。夜だから気をつけて。頑張ってね」
「ああ、検事共に一泡ふかせてやる」
そう力強く断言する母さんの後ろ姿は魔王を倒しに行く勇者の背中だった。
母さんを見送り、俺は自分の部屋に戻る。考えるのはさっき窓に立ってた女の子だ。冷静に考えると物凄く見覚えがある気がする。女の子は赤毛だった。俺の知り合いの中で赤毛の女の子は一人しか思い浮かばない。・・・まさか・・
「いきなり悲鳴ってさ、酷くない?」
声がした方に振り返ってみると赤い幽霊こと佐倉杏子が窓の外に立っていた。Why?
「・・何でいるんですかね?」
杏子を部屋の中に入れてやり、最も気になる事を質問する事にした。
「はあ?アタシ言ったよな?会いに来なかったら優依の家に押し掛けるって。ここ最近ずっと来なかったじゃねえか」
なんかとても責められてるような気がする。
「・・・そーでしたねー」
マジで杏子俺の家に来ちゃったあああああああああ!!そういやそんな事言ってたね!まさか実行するとは思わなかったよ!見滝原に来るなんて想定外!マミちゃんに会うリスクそっちのけかよ!?確かに全く君に会いに行ってないもんね!お弁当届けた時以降行ってないもんね!その後俺いろいろあったから行けなかっただけだから!ていうかそもそも
「何で俺の家分かったの?」
人のベッドを我が物顔で寝転ぶ赤い不法侵入者にドン引きしながら聞いてみる。
「知りたいか?」
「やっぱりいいです。やめときます」
杏子がニヤリと邪悪な笑みをしてるので、知らないほうが良さそうだ。引きつった顔の俺をよそに杏子が横目で俺を睨んでくる。なんか怒ってらっしゃる?
「何?」
「・・アンタは何とも思ってねえのかよ?全然アタシに会いにこなかったくせに」
まるで拗ねてるみたいだな。いや、拗ねてんなこれ。
「ひょっとして俺に会えなくて寂しかったとか?」
「んなわけねえだろ!アタシとの約束すっぽかしたのを怒ってんだよ!今日はそれのおしおきに来たのさ!勘違いすんな馬鹿!!」
わざわざ起き上がって真っ赤な顔で否定しても全然説得力ないなー。ツンデレ最高。・・そっかー寂しかったんだー。
「寂しい思いさせてごめんな。最近ちょっと忙しくて会いに行けなかったんだ」
「だから違うっつってんだろ!!」
必死でかわいいなー。忙しかったのは本当だよ・・・主に魔法少女関連で。うん、杏子とのやりとり癒されるわ。もう少しこのままの関係でいよう。魔法少女の事の打ち明けはしばらく先にするか。俺がそんな事を考えてる間に杏子が不貞腐れて再びベッドに倒れ込む。
「チッ、ったく。わざわざ来てやったのに、へらへらしやがって」
不機嫌そうに持参してきたであろう菓子をつまんでいる。俺の目の前で。
そうだ。こいつリアルホームレス中学生。主食お菓子とジャンクフード。我が家の台所を預かる俺の前で堂々と菓子を食っている。喧嘩を売ってるとしか思えない。
「食うかい?」
俺の視線に気づいたのであろう。杏子が菓子を差し出してくるが、それを無視し腕を掴んだ。
「杏子・・・お風呂入ろうか」
「はあ!?」
そう言うが早いが、杏子をお風呂場まで引っ張っていき、風呂入るまで出てくんなと言い残す。そして、杏子の着ていた服を洗濯する。替えの服は・・・まあ俺の服でサイズ大丈夫だろう。洗面所に置いておく。セクハラだろと言われそうだが、この娘ホームレス。しかも性格ガサツな所があるので、一日二日風呂と洗濯しない可能性が高い。そんなの俺が許しません!そもそも今俺も女です!性別上は!
とにかく人の部屋に押し掛けた以上は俺の洗礼を受けてもらう!杏子が風呂入っている間に夜食を作ることにした。晩御飯だったが明日の朝食用に残しておいた豚汁を温め直し、卵焼きとおにぎりを作る。夜食の準備が終わる頃、杏子がリビングにやって来た。淡いピンクのフリルキャミソールに黒のキュロットの姿だ。俺のチョイスGJ!
「おい、これでいいだろ?」
杏子がブスッとした物言いで言ってきた。いいわけあるか!髪乾かしてないじゃん!この娘ホントガサツだな!
「ちょっとそこ座って。髪乾かすから」
杏子を無理矢理座らせ、後ろからドライヤーで乾かす。
「・・・何でここまですんだよ?」
不機嫌そうな声で聞いてきた。
「思春期の女の子がそんなガサツでいいの?却下。俺が許しません。杏子かわいいんだから、もう少し意識しようよ?」
「かわ!?」
「あー大人しくしてくれよ?乾かせないから」
誉められるの慣れてないな。耳まで真っ赤なんですけど。髪と同色になってる。そもそも事実なんだからそんな騒ぐことじゃないのに。杏子は言われた通り大人しくしていた。だが何故か俺の太ももの上にうつ伏せで寝転がってきた。太ももに杏子の胸が当たってるんですけどおおおおおお!?意外とボリュームありますね・・それより俺の貧弱な太ももが杏子の体重に耐えられない!
「杏子!足痺れるからどいて!」
「んー」
生返事で退く気ゼロ!動こうともしませんよ!く!こうなったら暗示だ!神原優依!お前は今しているのはでかい猫の手入れだ!お前はトリマーなんだ!決して人間の女の子の髪を乾かしてるんじゃない!そう錯覚してるだけだ!みろこの猫を!気持ちよさそうに喉を鳴らしてるじゃないか!やっぱり猫じゃないか!その調子だ!
俺はひたすら自分に暗示をかけ、無心で杏子の髪を乾かした。結構髪の量ありますね・・・。
「やっぱ優依の作った飯は旨いよなーいくらでも食えるぜ」
「・・・うん」
何とかドライヤー地獄から解放されたはいいが、俺の作った夜食を完食しちゃった杏子ちゃん今とっても素敵な笑顔。まさか全部食べるとは・・。明日の朝食用に残してた豚汁が一滴も残ってない。弁当の時で学習してろよ俺!
「・・・それで?ここまで至れり尽くせりの理由は何だ?まさか会いに来なかったお詫びだけじゃねえだろ?」
杏子がさっきまでの笑顔が嘘だったように真顔になる。何かあるのかと思ってるんだろうか?アタリだけど。ここまで世話したのは約束を反古したお詫びと杏子の私生活を心配したからという理由だけじゃない。もうひとつ理由がある。最も大事な事だ。俺は杏子の両肩に手を置いて真剣な表情で彼女を見つめる。杏子もただならぬ俺の雰囲気を感じて少し身構える。心なしか怯えてるように見えるのは何故だろうか?しばらくの沈黙のあと俺はゆっくり口を開く。
「今日ウチに泊まってくれませんか?」
「・・・・・・・・はあ!!!?」
杏子が意味が理解出来なかったのか無言だったがしばらくして大声を出す。いや俺にとっては大事な事だから。死活問題だから。それにしても今日一番の声量だったねさっきの。
まさかの杏子ちゃん襲来でした!
まあ優依ちゃんに振り回されてましたが!
ほとんど登場しませんが、まどかとさやかはよく一緒にいます!マミさんがいない場合はこの二人といることが多いです!
自分の中ではまどかちゃんは絶対Sだと思ってます!