魔法少女オレガ☆ヤンノ!?   作:かずwax

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誰かああああああ!タイピング速くなる方法教えてくださああああああい!!


36話 二人きりの夜

「久しぶりだなービジネスホテル!」

 

前世のサラリーマン時代の記憶が蘇り懐かしさもあって俺はホテルの廊下をルンルン気分で歩く。

 

俺が今日泊まっていくと言ったら杏子が何故か金縛りになりようやく解放されるとめちゃくちゃご機嫌だった。でもそのあと明日朝一で帰るって言った時は一気に不機嫌になってしまって大変だった。晩飯の牛丼六杯くらいヤケ食いしてたし。何であんなに不機嫌になったのだろうか?

 

今日家に帰らないので母さんには今日友達の家に泊ると連絡してあるから問題ない。あながち嘘ではないし。

マミちゃんには・・メールで連絡しておいた。連絡遅くなった事と用事で学校休んで休日も忙しいと伝えておいた。ついでにシロべえにも連絡してマミちゃんを見張ってもらってる。彼女は大丈夫だろう。多分。

 

しかしシロべえの奴、俺が風見野に泊まるって言ったら絶句してたな。

最後に「気を付けてね」って意味深な事言ってたし。

まあ・・・気にしないようにしよう。

 

 

晩飯の牛丼食べた後は泊まるホテル探し。風見野駅近くのビジネスホテルが運よく部屋が空いていてそこにチェックインする。

 

こんなとこもあろうかと風見野駅のロッカーにお泊りセットが入ったバッグを預けておいたのだ!

死亡フラグ満載の原作が始まりいつでも逃げられるようにと用意したものだ。

念のために持ってきて良かった!

日用品は入れてあるのでコンビニとかで買わなくてすんだ!

俺冴えてんぞ!

 

まあ・・結局、夜食は必要ってんでコンビニに入る羽目になったんだけどさ・・。

 

 

 

 

今日はいろいろあったし疲れてる。明日は始発で帰る予定なので早めに寝よう。

 

今夜の予定を頭の中でおさらいしながらスキップする。

 

「アンタこんなホテルに泊まった事あんのか?」

 

「え!?えっと前に・・」

 

「ふーん。意外だな」

 

隣で不思議そうな顔してる杏子に慌てて取り繕う。

 

ヤベ・・懐かしさで思わず口に出てたか・・。

うっかりヤバい事喋らないように次から気をつけよう・・。

 

「あ、ここだな」

 

フロントで渡されたキーの番号を確認しながら俺達が泊まる部屋の鍵を解除してドアを開け中に入る。

 

「おお、どこのビジネスホテルも一緒なん・・って、あれえええええええええええええええええ!!?」

 

「どうした優依!?」

 

突然の悲鳴に後ろにいた杏子が駆け寄ってきた。

俺は驚きで床に尻餅をつき悲鳴の元凶を震える手で指差した。

 

「? ベッドがどうした?」

 

「何で?・・何でベッドがダブルなんだよおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!?」

 

そうなのだ。俺達が入った部屋で一番存在感がある大きめのベッドが中央でドンと居座っている。

 

おかしい・・。俺は確かにフロントでツインベッドがある部屋にして下さいと言ったはずなのに!

あのフロントのおっさんだってツインですねって確認してたじゃん!

・・まさかホテル運営してんのにダブルとツインの違いが分からないとかじゃないだろうな?

 

冗談じゃない!俺の家ならいざ知らずホテルで杏子と二人きりな上に一緒のベッドで寝るなんて精神的にアウト!

 

今すぐクレームつけてツインの部屋に変えてもうおう!

 

 

 

「優依?」

 

スクッと立ち上がった俺を杏子は不思議そうに見上げている。

 

「ちょっとフロント行って部屋変えてもらってくる!」

 

そのままダッシュで扉を開けようとするも取っ手に触れた手に何かが覆いかぶさる。

 

「!?」

 

「いいじゃねえかよ。アンタの部屋でも同じベッドで寝てんじゃん。気にする事もないだろ?」

 

俺の手と重なるように置かれたのは杏子の手。背後に気配を感じ振り返って見ると目の前に楽しそうに笑う杏子と目が合った。個人的にその目が獲物を見てるような獰猛さがあるような気がする。

 

「明日早いんだろ?さっさとシャワー浴びて寝た方が優依のためだぜ?」

 

「げ!」

 

そのまま鍵をかけ、俺は担がれる形で部屋の中に連行され扉との距離は遠のいていく。

 

 

いやああああああああああああああ!!

いいわけないだろうが!

同じベッドで寝てんのはお前が勝手に侵入してくるからだろうが!

寝る時は別々なのに朝起きたら俺のベッドの中に杏子がいるんだもん!

しかも相変わらず人を抱き枕にしてるし、寝ぼけてやってんのか身体のあちこちに噛み跡出来てるんだよ!

 

幸い今は無事だが近い将来圧死か絞殺、噛み傷からの出血死とか嫌だ!

「死因;佐倉杏子」とか笑えない!

 

 

 

「そんなに気にする事ないじゃん。アンタ枕変えたら寝られないタイプでもないだろ?布団入ったらすぐ寝ちまうくせに」

 

ダダこねる子供を諭す親みたいな態度の杏子は俺をベッドの上に下ろす。そんな赤親をキッと睨む。

 

「気にするよ!快眠出来るかどうかがかかってんのに!」

 

「何が快眠だよ。幸せな夢でも見てんのかいつもマヌケな笑顔で爆睡してんだぞ?アンタは」

 

「そうなの!?」

 

思わぬ暴露に立ち上がってしまう。

 

「まあな。何なら証拠に写真撮ってやろうか?」

 

「いや・・いいです」

 

なんだか馬鹿馬鹿しくなって力なく再びベッドに座り込む。

 

「? たかがベッドくらいで何をそんなに落ち込んでんだか?・・動く気ないなら先にシャワー行くからな」

 

「え!?話これで終わり!?このままダブル確定!?」

 

話は終わりとばかりに杏子がさっさとシャワー室に入ってしまった。少し経ってからシャワーの音が聞こえる。どうやら本当にシャワー浴びてるみたいだ。この時間なら俺は自由!チャンスだ!

こっそり部屋を出るなら今しかない。杏子がいるシャワー室に細心の注意を払いながら音を立てないように忍び足で扉に近づき取っ手に手をかけた。

 

ガチャガチャ

 

「・・・・あれ?」

 

鍵は外したはずなのに何故か扉は開かない。不思議に思って扉を見ると赤い鎖がびっしり巻きつけられてた。こんな事出来る奴なんて一人しかいない。

 

やられた!杏子のほうが一枚上手だった!

 

「何がしたいんだよチクショウ!!」

 

悔しさのあまり扉の前で思わず叫んでしまう。

 

 

 

 

 

「はあ・・」

 

あれから何度も開けようとしたが魔法で作られた鎖は頑丈でとても壊せそうにない。八つ当たりまがいにベッドに正面からダイブしうつ伏せのままグチグチ文句をたれる。目を離してる隙に部屋交換しようとすんの見越していたようだ。付き合い長くなったから俺の考えそうなことをある程度予想されてるみたい。

 

俺自身もある程度杏子の考えてる事は予想出来るが今回は全然分からん。

お手上げ状態。マジで何がしたいんだ?

そこまでダブルの部屋が良いのか?

 

「うー」

 

分からない事だらけなので唸ってしまう。最近の杏子は予想外の行動ばかりだ。

 

 

 

 

 

~~~♪

 

うんうん唸っていたらどこからともかく未来から人型の殺人ロボットがやってきそうなメロディが聞こえた。

迷わず上体を起こしバックから携帯を取り耳にあてる。

 

「もしもしトモっち、何か用か?」

 

そうです。この着信メロディはトモっち専用です。昨日設定しました。どっかの死の着信メロディは即削除。代わりに今から厄介事がやってきそうなこのメロディになりました。

 

杏子がシャワー浴びてて部屋からも出られない。退屈なので思わぬ救いだ。近くに杏子がいるのは怖いが鬼が居ぬ間になんとやら。聞かれてなければ問題ない。

 

 

 

「・・・え?マジで!?もちろん!大歓迎だわ!分かった!早めに予定考えといてよ!楽しみにしてる!」

 

 

トモっちからの思わぬ話にテンションMAXになり思わず上体を起こした。

 

電話の内容は夏休みに見滝原に遊びに行っていいかという事だった。

「ワルプルギスの夜」を倒した後はトモっちに会いに行こうと思っていたからこれは嬉しい話だ。今から夏休みがとても楽しみになってくる。

 

・・俺に夏休みはもちろんこの先未来があるか不確定だけどさ・・。

 

 

 

「ははは、じゃあまたな」

 

不安はあるが希望を持っていようと思うので来る前提で話は進め、日時は後日決めるとして他にも少し駄弁り電話を切った。

 

昨日も電話(死の着信メロディの怒りの苦情)をしたがやはり気心知れた奴と話すのは心が安らぐものだ。今度は電話じゃなくて直接会えるようにしたい。その願いが今の俺の希望になっている。

 

絶対俺はこの先、生き残って笑顔で親友に会えるようにするんだ!

よし!頑張るぞ!

 

一人決意を新たに意気込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・ふう」

 

 

 

 

 

 

 

「随分楽しそうに電話してたな?」

 

「!?」

 

 

 

 

 

 

しんと静まり返った部屋でため息を吐くと背後から底冷えしそうな声が聞こえた。その声が聞こえた直後全身の毛穴が逆立った気がする。悪い事したわけでもないのに後ろめたさを感じながらゆっくり後ろを振り向いた。

 

「杏子・・これは・・え?ええええええええええええええええええええええ!!?」

 

後ろにいるであろう杏子にどう言い訳しようか考えながら振り向くも飛び込んできた光景に目を見開き声をあげる。

 

「叫ぶんじゃねえよ。今度は何で驚いてんだ?」

 

「いや!だって!・・杏子!・・それは・・!」

 

あまりの事に語彙力は低下して思うように言葉が出てこない。当の杏子は呆れた視線でこっちを見ていて腰に手をあてて立っていた。

 

 

 

 

 

「だから何だよ?」

 

「何で・・?」

 

ふるふると唇が震えながらも一生懸命言葉を絞りだす。

 

 

くそ!耐えていたが限界だ・・!

 

 

 

覚悟を決めて息を吸い込む。

 

 

 

 

 

 

「何で下着姿なんですか!!!?」

 

 

 

 

 

 

俺は真っ赤な顔で部屋中響き渡る大声で叫んだ。

 

杏子の今の恰好はブラジャーとパンティーのみという男が喜びそうな肌面積を誇り上下ともセクシーな黒でフリルまでついてる仕様。シャワーを浴びたからか肌はみずみずしく頬がほんのり赤い。

普段はポニーテールに纏めている赤い髪も今は下ろしており全体的に中学生とは思えない色気だ。

 

 

「何でって・・暑いにからに決まってんじゃん。寝間着用意すんの面倒だし。優依の部屋に泊まる時は服借りてるけど普段はずっとこの格好で寝てるぞ?楽なんだよ。・・おい、何で後ずさるんだよ?」

 

「そんなの簡単さ!杏子が近づいてくるからだよ!後、恥ずかしいから!」

 

理由は不明だが俺にじりじりと近づいてくる笑顔の杏子に対して俺はぎこちないながらも後ろに後ずさる。

今の杏子は目の毒だ。なるべく視界に入れないようにしないと。

 

「へえ、恥ずかしいんだ?女同士なのに?結構ウブだなアンタ。・・良い事聞いたな」

 

「え?」

 

ぼそぼそと口にされ、恥ずかしさと余裕のなさもあり最後の方は上手く聞き取れない。

 

 

「それより優依」

 

「・・・!」

 

さっきまでのからかう様子の笑顔は一瞬で無くなり代わりに冷たい雰囲気を纏っている真顔の杏子を見て息をのむ。テンパってて思うように身体を動かせず気づけば距離を詰められ息がかかりそうな程顔を近づけられている。

 

「な、なんですか?」

 

勇気を振り絞って口を開く。射抜くような鋭い目に怯えながら返事を待った。

 

 

 

「さっき電話してたの優依の幼馴染だよな?」

 

形ばかりの疑問形で俺に聞いてくる。幼馴染の単語を口にした瞬間、部屋の空気が重くなった気がしないでもない。

 

 

「・・・・・えっと」

 

「何の話してた?」

 

「・・・・・・」

 

「言えないのか?」

 

「た、ただの雑談・・・」

 

「・・・・・・」

 

 

恐ろしいほどの沈黙が部屋中を支配している。杏子を中心に全体の気温が下がっているみたいだ。この空気を作り出している張本人は無表情で俺をじっと見てて怖すぎる。

 

さすがにこの空気は気まずい!何か話さなければ!

じゃないと俺が耐えられない!

 

 

「杏・・「優衣」な、何?」

 

何か話そうと口を開くも遮られてしまった。さっきまでの無表情が嘘のように今度はニッコリといっていいほどの笑顔を浮かべてる。その笑顔に何だかゾクッと感じ無意識に身体が震える。

 

「話す気がないのは分かった。だったら素直に話したくなるようにしないとな?」

 

「・・へ?」

 

肩を押されそのまま後ろに倒れこみ目の前には俺を見下ろす杏子がいて背後には天井が見えた。

 

何で?どうなってんの?

落ち着け。冷静に状況を見ろ。

 

えーと俺が倒れてるのはベッド。

俺の上に覆い被さってるのは杏子。

 

えっと・・?

 

・・・・・・・・・・・・え?

 

えええええええええええええええ!!?

 

俺ひょっとして杏子に押し倒されてるううううううう!!?

何故!?どうして!?こいつに何があった!?

 

「あははは!驚いてる!アタシの格好見て顔赤くしてたから、もしかしてこういうのも初めてかもと思ってたけど予想通りだな!」

 

俺の百面相を見ながら楽しそうに笑ってる犯人。言いたいことは沢山あるけど頭がパニックになって思うように言葉が出ず口をパクパクするしか出来ない。

 

 

 

「・・さっきの電話以外でまだ聞きたいことがある。お前さ今何やってるんだ?アタシに隠してることあるだろ?」

 

ひとしきり笑った後杏子はふっと顔を笑顔からさっきの無表情に変え声をひと回り低くして聞いてくる。核心を突いてきたことと押し倒されたパニックもあって目が泳ぎまくる。

 

「今日昼飯食った後、アタシに妙な事聞いてきたよな?あれどういう意味だ?それと・・・」

 

俺を押さえつけていた手が首に移動して今日巻いていたショールを取り払われた。

 

「これ何だ?」

 

「・・・っ」

 

杏子の手が俺の首を労わるようになぞっている。

ヤバイ!見られてた!

昨日の魔法少女体験コースの時マミちゃんのうっかりミスでつけられたリボンの締め跡!

結局くっきり残ってしまって見られないようにショール巻いてきたのに!

 

「・・ゲーセンの時さ、優依の首に腕回しただろ?その時に見えたんだよ。その内、話してくれるだろうってそっとしておいたけど隠してばかりだから流石に限界だっつーの。・・・誰にやられた?」

 

あの時か!

くそ!もっと警戒しておくんだった!

ていうか杏子怖っ!

最後のなんて地を這うような声だったよ!?

 

「いや!これはついうっかりこけてそれで縄にひっかかって・・」

 

「嘘だね。こんなに丁寧に巻かれた跡があるのについうっかりなんてありえると思ってんのかい?正直に言えよ。そしたらアタシがソイツをぶっ潰してやるからさ」

 

余計言えるか!!これやった犯人オメーの師匠だよ!!

冗談だと思いたいがもし杏子が本気ならマミちゃんが危ない!

見滝原に血の雨が降りそうだ。

あれ?よく見ると目が据わってる・・ガチだ!

絶対言っちゃだめなやつだこれ!

シロべえの言う通りじゃん。事情がややこしい時期に杏子が来たら更にややこしくなる未来しか見えない!

 

何とかして誤魔化さないと!

 

必死に考えを巡らせようとするも既に頭がキャパオーバーを起こしていて思うように思考できない。部屋はしんと静まりかえっていて杏子の息遣いしか聞こえない。焦りばかり募っていき無情に時間だけが過ぎていく。

 

「・・・だんまりか」

 

どれだけ時間が経ったか分からない。結局何も言えないまま杏子が口を開いた。顔を横に逸らして俺からはどんな表情なのか見えないがその声は何かに耐えているような震える感じのものだった。

 

「杏子・・その・・っ」

 

何か言い訳しようと声をかけるも途中で止まってしまう。再びこっちを見た杏子の表情は陰がある笑みだったからだ。不似合いのその暗さに思わず息が止まりそうになる。

 

「なら仕方ねえよな?話す気がないなら直接身体に聞くしかないじゃん。・・・優依が悪いんだからな?アタシに何も話してくれないから・・・」

 

「え?・・ちょ、ちょっと!?」

 

杏子の顔がゆっくり俺に近づいてきてる。止めさせようにも両手をがっしり押さえつけられ馬乗り状態だから身動き取れない。顔に熱が集まってくる。頭がオーバーヒートだ。

 

はわわわわわ!どうしよう!?杏子はどうしたんだよ!?

酔ってる?それとも今になって魔女の戦いの後遺症とか出た?

きっとそれだ!そうとしか思えない!今日様子がおかしかったもん!

魔女の口づけとか喰らってんのか?

見た限りは分からないがとにかく目を覚まさせないと!

どうすれば・・・?

 

「っ!」

 

考えに集中していて気づけば触れられそうな距離に杏子の顔がある。迷っている時間はなさそうだ。

 

・・どうやら頭を使うしかなさそうだ。

 

覚悟を決めて杏子を見据える。

 

 

今こそ発揮せよ!俺の石頭よ!杏子の目を覚まさせるのだ!

 

「どりゃあ!!」

 

杏子の額めがけて頭突きをするため頭を勢いよく上げた。

 

「う!?」

 

ゴツンという音が響き見事額にお見舞いすることに成功し痛みに呻く杏子は額を押さえて仰け反りながらベッドに倒れこんだ。その隙に俺はベッドから離れシャワー室に駆け込む。

 

「ごめん杏子!俺がシャワー浴びてるうちに正気に戻ってくれ!」

 

 

 

そう叫んで扉を閉める。シャワーの間、俺はひたすら般若心経を唱え続けた。

 

 

 

 

一〇八回読経が終わり、聖人になったのでシャワー室から出てベッドを見るとどっかで見たことある布団の塊が出来上がってた。

 

 

「・・杏子、大丈夫?」

 

「うるさいうるさいうるさいうるさい!!」

 

一応声をかけてみると思いのほか元気な返事が返ってきた。

 

冷静になって自分のやったことを振り返り身悶えているとみた。どうやら正気に戻ってくれたようだ。安堵の息を吐く。ベッド端に座り布団の塊を観察する。

 

・・心なしか震えてませんか?

 

あ・・これ痛がってない?

それって俺のせいじゃん!ヤバい!泣いてる!?

まずは頭突きしたことを謝らなくては!

 

俺は床に座って土下座した。

 

「杏子ごめんよ!俺パニクってたんだ!血迷って頭突きをしちゃって・・その」

 

「・・・・・」

 

杏子が頭だけ出してくれた。その顔は俺を睨んでいたが真っ赤で涙目だ。額は頭突きしたせいか赤くなっていた。赤くなった部分を見て顔を青くする。

 

俺は血迷ってなんてことやらかしてしまったんだあああああああああああ!!

女の子に頭突きなんて最低だああああああ!!

 

「本当にごめんなさい!何でもする・・のは無理だけどお詫びはするから!!」

 

「・・・だったら話してくれる?」

 

「それは無理です!」

 

やっと喋ってくれたと思ったら許す条件が悪い!ひとまず土下座は継続させるしかなさそうだ!

 

 

「・・・何でだよ?」

 

「それは・・・」

 

「何でだよ!?」

 

「!?」

 

言い澱んでいるといきなり大声だされてビクッと身体を固くする。震えながら顔を上げると俺の前に杏子が立っていた。涙目で俺を睨んでいる。俺はさっと顔をそらした。

 

いやだってまだ下着姿なんですよ!?

服来てくれないとまともに見れないから!

 

「なんで何も話してくれないんだよ!?アタシに言いたくないからか?アタシは信用出来ないからか?」

 

「・・・・」

 

改めて見るとその顔は怒り一色だった。あまりの迫力に声が出ない。今まで何度か杏子が怒ったところは見たことあるがここまで本気で怒った表情は初めて見た。

 

「あの時だってそうだ!あんなに泣いてたくせに何があったか一言も話さなかったじゃん!人を心配させといて勝手なもんだ!」

 

あの時ってひょっとしてほむら犯罪中継の事か?

言えるか!あんなヤバい事件!

 

「大丈夫だって!杏子に言えないのは迷惑になるからだってば」

 

何とか落ち着けようと宥めにかかるもそれが火に油を注いでしまったようで杏子の怒りが更にヒートアップする。

 

「前にもアンタは大丈夫だって言うから信じてた!・・でも今は信じられない!何も話してくれないから・・。事情を話さない奴をどうやって信用すんのさ?信じろっていう方が難しいに決まってるだろ!」

 

「・・・」

 

「相手を説得したいなら、まずは自分から腹割って話さないと意味ねえんだよ!何が怖いのか知らねえけど都合悪いこと伏せてるだろ!?知られたくないこともあるだろうけど時には伝えることも必要なんだぞ!説明不足で納得すると思ってんのか!?」

 

「!」

 

杏子の言葉を聞いて雷が打たれたような錯覚を覚える。

 

「何も分からないから身動き取れないのは辛いんだぞ?一人で泣いてる優依を見たくない。少しはアタシの事で困ればいいって思った。だからさっきからかってやったのさ!アタシの気持ちを思い知ればいいって!」

 

「・・・・杏子」

 

「なんだよ!?今アタシが話して・・・ひゃう!?」

 

「ありがとおおおおおおおおおおおお!!」

 

俺は土下座から杏子に飛びかかって抱きしめた。勢い余ってバランスを崩しそのまま二人してベッドに倒れ込む。

 

「そうだよな!やっぱり信用を得るには腹割って話すのが一番だよな!分かっていても勇気がなくて中々前に進めなかったんだ!でも杏子の話を聞いて決心ついたよ!」

 

「にゃ、にゃにしてんだ!?//」

 

興奮して倒れこんだまま杏子を抱き締める。格好だけみたら俺が押し倒してるみたいだ。

 

「今まで悩んでたんだけど杏子のおかげで決断出来そうだ!ありがとう!君は俺の救世主だ!!」

 

「~~~~~っ///やめろ!頬擦りするな!!」

 

解決の糸口が見つかった喜びに思わず杏子の頬をすりすり。

 

やっぱり頼りになるわ!

厳しい中にもきちんと俺にアドバイスしてくれる優しさは尊敬に値する!

さっきの押し倒しも俺を激励するためだったんだな!

 

「杏子大好きだ!!」

 

感謝と親愛の意を込めて満面の笑顔ではっきり告げる。トモっち以外で初めて親友と呼ぶべき相手かもしれない。いや、俺は杏子を親友だとはっきり言いきれる!

 

前世を含めて初の女の子の親友だ!

自分が嫌われるかもしれないのにここまでして俺のために動いてくれる人はそうはいないだろう!

俺は幸せものだ!

 

 

俺は笑顔で新たに親友の顔を見る。

 

「・・・・キュゥ////」

 

「え?杏子?杏子おおおおおおおおおおおお!?」

 

親友は顔を真っ赤にして目を回していた。

ひょっとして俺、杏子を窒息させてた!?

 

俺は慌てて胸の動きを見て杏子の生存確認を行った。

 

 

 

 

 

 

 

「大丈夫か?」

 

「・・・なんとかな」

 

あのあと意識を取り戻した杏子はベッドに転がったまま全く俺を見ようとしない。結構寂しいもんだ。

 

その会話のあとお互い沈黙になる。

俺も杏子を窒息死させそうになったので言いにくい。

 

「・・・なあ」

 

「うん?」

 

杏子はそっぽ向いたままだが沈黙を破って俺に話しかけてくれた。

 

「さっきの言ったこと・・本当か?」

 

「さっき?」

 

「アタシの事・・大好きって・・」

 

どうやら照れてるらしい。背中向けてるのに耳が真っ赤だからな。

 

その姿が微笑ましく思わず笑顔を浮かべる。

 

「本当だって!俺、杏子のこと大好きだぞ!」

 

はっきりと杏子に告げる。

愛してるぜ親友よ!今後も頼りにさせてもらうからな!

 

「そっか・・アタシも優依のこと大好きだ」

 

俺のいる方向に寝返りをうってはっきり言ってくれた。頬を染めて幸せそうに微笑んでる。

 

うおおおおおおおおおお!!

嬉しい!自分が観てたアニメキャラとこういった友情関係になれるなんて夢みたいだ!

俺はさやかじゃないから役不足だけど心意気だけは頑張るよ!

 

 

「ありがとう。俺の一方通行かと思ってたから嬉しいよ」

 

 

心中の叫びは悟られないように平静を装いながらお礼を言う。俺の言葉に杏子はまた嬉しそうに笑った。

 

夢じゃない!杏子も俺を親友と思ってくれてるみたいだ!今にも天に舞い上がりそうだ!

 

 

「・・・告白に免じて今は何も聞かないでおいてやるよ。いつかちゃんと話してくれればいいから」

 

「え・・?」

 

一人舞い上がっていたので最初の部分を聞き逃した。言ってる内容はどうやら杏子は引いてくれるみたいだ。

さっきの態度と一八〇度違くね?

 

「やれるとこまでとことんやればいい。それで無理だったらアタシを頼りな。助けてやるからさ」

 

「杏子・・・!」

 

慈愛に満ちた笑顔できっぱり言いきってくれた。

 

何でこんなに優しいんだ!?

俺泣きそうだよ!?

 

「ありがとう!杏子だけが頼りなんだ!うん!助けが必要になったらよろしくね!」

 

俺の尻拭い頼みますよマジで!

 

 

 

「可愛いなお前。あ、そうだ・・・ほら」

 

「?」

 

幸せそうな笑顔の杏子が上体を起こして両手を広げている。

 

「アタシに飛び込んでこい。話さないのは許してやるけど頭突きしたことは許してねえからな。優依からギュッてしてくれたらチャラにしてやるよ」

 

「え・・でも」

 

「なんだよ?嫌なのか?」

 

「せめて服着てください!」

 

そうなのだ。依然として杏子は下着姿のまま。

さっきはテンションがおかしかったから抱きつけたが素に戻った状態でほぼ裸同然の杏子に抱きつけると思っているのか?

 

「だめだ。アンタを感じたいからこのままがいい。そもそもさっきアタシに抱きついたくせに何で今は出来ないんだよ?」

 

「いや、あれは」

 

痛いとこをついてくる。

つうか、何でそんなに下着にこだわってんの?

嫌だ!何としても拒否りたい!

 

 

「はやく来ねえとまた押し倒すぞ?」

 

「失礼します!」

 

ドスのきいた声にマジな気配を感じ躊躇わず杏子に抱きついた。

 

うう、肌が柔らかい。石鹸の良い香りする。

 

「最初から素直になれば良いんだよ」

 

杏子は嬉しそうに話かけ俺の頭を撫でながら背中に手を回し、そのままベッドに寝転がった。

 

「今日は疲れたろ?このまま寝るぞ」

 

「え!?」

 

反論するより先に電気を消された。杏子の手と足がガッチリ俺の身体を固定してるので身動きが取れない。このまま寝るしかなさそうだ。

 

 

 

抱き締められた肌の柔らかさと体温が心地良い上に頭を撫でられているのですぐにまぶたが重くなる。頭がぼーっとしてきた。

 

 

 

今まで散々迷っていたが杏子のおかげで迷いは晴れた。

俺も腹を括る時が来たのかもしれない。

 

 

 

 

暁美ほむらに俺の秘密を打ち明けよう

 

 

 

 

どんな反応されるか分からないが協力を得るにはそれしかない。本人もそれを望んでるし。正直言ってかなり怖いがやるしかない。

 

上手くいくよう祈るのみだ。

 

・・とりあえず今日はもう寝てしまおう。

段取りは明日決めればいい。

 

そう結論づけてまぶたを閉じる。

 

「おやすみ優依」

 

杏子がそう言ったあと俺は意識を手放した。




またやっちまった!
R18じゃないのにやっちまった!

そしてヤバい方の勘違いも炸裂!
杏子ちゃんこれ見滝原来たらマジで暴れそうで怖すぎる!


とりあえず杏子ちゃんのお話も次でおしまいです!
作中で優依ちゃんはほむほむに秘密を打ち明けるつもりみたいですけど上手くいくでしょうかね?

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