魔法少女オレガ☆ヤンノ!?   作:かずwax

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誰か時間を止めてわたくしめに執筆する時間をお与えください!!


37話 ターゲットロックオン

杏子side

 

「ダブルの部屋に変更ですね?かしこまりました」

 

優依は電話してくると言ってここにいない。

ホテルのフロントにアタシ一人だから都合がいい。

今の内にフロントでツインからダブルに変更しておく。

 

何が「帰らない。杏子と一緒にいる」だ。

紛らわしい言い方しやがって。

勘違いして舞い上がっちまっただろうが!

上げて落とすなんて酷い奴だな。

 

これはせめてもの仕返しだ。

 

アタシはダブルの部屋のキーを受け取り優依を待っていた。

 

 

「ごめん!電話長引いちゃって、待った?」

 

「別に待ってねえよ。ほら、部屋の鍵だ」

 

「ありがとう。じゃあ行くか」

 

何食わぬ顔で優依に鍵を渡す。何も知らないコイツはそのまま鍵を受け取り上機嫌でスキップしながら部屋に向かっていく。その様子に内心ほくそ笑みながらその後を追った。

 

 

どんな反応するか楽しみだ。

 

 

 

わくわくしながら扉の前で待機してると優依が部屋に入った直後に叫び声が聞こえた。最初は何かあったのかと思って駆け寄ったが単純にダブルベッドに驚いていたみたいだ。まさかここまで驚くとは思わなかったがイタズラが成功した事にこっそり笑ってしまい、誤魔化すのに一苦労だ。

 

 

「優依?」

 

すると突然優依がスクッと立ち上がったが一体どうしたんだ?

 

「ちょっとフロント行って部屋変えてもらってくる!」

 

 

逃がさねえぞ?

 

 

ふざけた宣言してそのまま扉にダッシュしやがったのですぐ追いかけて取っ手にかけている優依の手をアタシの手で覆うように握って阻止。

 

 

「いいじゃねえかよ。アンタの部屋でも同じベッドで寝てんじゃん。気にする事もないだろ?」

 

 

今のアタシはすごく楽しそうな顔してると思う。

振り返った優依が怯えた顔してたからな。きっと獲物を追いつめる目をしてるんだろう。

 

怯えてる隙に鍵をかけ、優依を担いでベッドに運ぶ。逃げ出そうと抵抗していたが魔法少女のアタシに一般人の優依がかなうはずもなく特に苦労せずベッドの上に下ろす。

 

キッとアタシを睨んでいたが上目遣いが可愛いだけで全く怖くない。むしろ煽っているようにしか見えないので逆効果だ。快眠がどうのとか文句言っていたが寝顔を毎回見てるが幸せそうに寝てる奴がそんな事言っても説得力がない。

 

優依の部屋に泊まりにいった日は必ずといっていい程ベッドに侵入して寝てるから間違いない。その時にすやすや眠る優依の寝顔を眺めるのはアタシの特権だ。確かにこれは幸せなんだが満足しない。だからつい我慢できなくてアタシのモノだという証の甘噛みをしてしまう。特に嫉妬や独占欲が抑えきれない時なんかは何度も甘噛みを繰り返す。優依がやめるように言ってくるが直す気のない悪い癖だ。

 

そのまま朝を迎えると最初に目に入るのはアタシの腕の中で眠る優依。この瞬間が最も満たされていて最高なんだ。

 

 

優依を近くで感じたいんだ。

たとえお互い違うベッドで寝ていても眠ったところを見計らって潜りこむつもりだが、今回はアタシを振り回したお詫びに最初から一緒に寝てもらう。

 

 

力なくベッドに座り込む優依を放置してアタシはシャワー室に向かう。その途中で扉に魔法で作った鎖をかけてアタシがいない内に部屋の変更や逃亡の防止対策をしておいた。背後で優依が何か叫んでいるが無視。

 

今日はこのままアタシと一緒にいてもらうから覚悟しろ。

 

 

 

 

シャワーを浴びながら魔力で聴覚を強化し聞き耳を立てる。案の定優依はアタシがいない内に部屋から出ようとしていたようで扉を開けようと必死だ。予想通りで笑えてくる。しばらく優依は扉をどうにか開けようとガチャガチャと音を立てて奮闘していたがやがて諦めたようでボフンとベッドにダイブする音が聞こえた。悔しいのか「うー」と可愛らしく唸っていて微笑ましい。

 

「怒ってるな。さすがに可哀そうだから後で甘やかしてやるか。ホント世話が焼ける奴だ」

 

誰に聞いてもらうわけでもなく愚痴が出てくる。

小さい子供を相手にするようで呆れるがそれを嬉しいと思う自分も確かに存在する。

 

アタシ無しじゃ生きていけないようにドロドロに甘やかしたい。

 

そんな事考えててさっきからニヤつく自分の口を押さえつけられるのが大変だ。

 

 

 

 

「・・・ん?」

 

耳が何かのメロディを拾う。少し耳を澄まして聞いているとサングラスした奴がアイルビーバックしそうなイメージのある曲だった。

 

携帯の着メロか?

何で優依はこれに設定したんだ?

 

頭の中で疑問符が大量に発生する。

 

 

 

「もしもしトモっち、何か用か?」

 

「!?」

 

優依の口から最も聞きたくない奴の名前が飛び出し条件反射で顔を声がする方に向ける。楽しそうな声が聞こえてきて目つきが鋭くなる。

 

 

せっかく優依と二人きりなのに何で邪魔するんだよ・・・!?

 

 

さっきまで感じていた穏やかな気持ちは一瞬で消え去り代わりに冷たい怒りと爆発しそうな殺意が胸を支配した。ここにはいない奴を睨み付けながら聴力を更に強化し一字一句聞き漏らすまいと神経を集中させ、通話内容の盗み聞きに専念する。

 

どうやらあの憎たらしい幼馴染は夏休みに優依に会いに行くようだ。

 

頭に血が昇りそうになる。

 

冗談じゃねえ!来るな!!

アタシと過ごす時間が減るだろうが!

何より優依と一緒にいるところなんて見たくない!!

さっさと断れよ!!

 

 

 

「・・・え?マジで!?もちろん!大歓迎だわ!分かった!早めに予定考えといてよ!楽しみにしてる!」

 

 

「・・・・・・・っ」

 

嬉しそうな優依の声が嫌でも耳に入って言葉に詰まる。物音がしたから嬉しくて身体を動かしてるのが簡単に想像ついた。せわしなく物音が聞こえる。あちこち身体を動かしているのだろう。余程嬉しいらしい。

 

 

 

「・・へえ?幼馴染が会いに来るのそんなに嬉しいんだ?アタシと一緒にいるより嬉しそうだな?今アタシがいるの忘れてるんじゃないの?」

 

震える声で優依に向かって呟いた。

 

グツグツ煮えたぎる怒りを紛らわそうとシャワーをひたすら浴びるも怒りは募るばかり。その間も優依の楽しそうな声が耳に入ってくる。

 

 

「チッ」

 

流石に限界が来てシャワー室から出て扉を乱暴に開けた。その音で気づいてくれるかもと淡い期待をしたが話に夢中の優依は背を向けて話し込んでいる。その姿に更に苛立ちが募っていく。慌てて出てきたから今下着しかつけてないが普段はこの格好で寝るから気にする必要もない。そのまま背後に立ってみるも全く気付く気配がないため腹立たしい。

 

 

 

そんなに幼馴染が好きなのか?・・アタシよりも?

 

 

 

「早くトモっちに会いたいなあ」

 

 

ブチッ

 

 

恋い焦がれるような優依の声を聞いた瞬間、アタシの中で何かが切れる音がした。

 

 

・・・・・・いいよ。

 

 

アンタの幼馴染が来るんなら歓迎する。

今まで優依が世話になったお礼をしないといけないからね。

一生忘れられない日にしてやるよ。

 

 

 

獰猛な笑みを浮かべてアタシはソウルジェムの指輪をなぞった。

 

 

 

でも、その前に、

 

 

 

「ははは、じゃあまたな」

 

 

目の前にいるコイツをおしおきしないとな?

 

 

 

スッと目を細め、電話を切って一息をついた優依に声をかける。

 

 

 

「随分楽しそうに電話してたな?」

 

我ながらかなり冷えた声が出た。かなりイラついてるから仕方ない部分もあるが優依がかなり怯えているようで小刻みに震えだす。どう言い訳するのか楽しみにしながら待っていると振り向いた優依が突然叫んだ。ベッドの時よりも慌てていて顔を真っ赤にしてアタシから目を逸らす。

 

「何で下着姿なんですか!!!?」

 

真っ赤な顔そのままで優依が叫んだ。その様子が可愛くて微笑ましいものを見る表情で近づくも後ずさりされる。

 

アタシのこの格好が恥ずかしいらしい。

しどろもどろで説明する優依が物凄く可愛い。

 

良い情報が手に入った。今度新しいの探しに行こう。

って、違う!そんな事考えてる場合じゃねえ!

 

恥ずかしがる優依の様子に和んでいたがふと目的を思い出し再び怒りが湧いてくる。今度は絶対問い詰めるつもりで顔を至近距離まで近づけて優依の顔をじっと見る。はぐらかしを許さない心持ちで正面から見据えて口を開く。

 

 

 

 

「さっき電話してたの優依の幼馴染だよな?」

 

 

 

幼馴染の単語を口にする時、無意識に憎しみがこもってしまい、それに合わせて優依を睨む。抑えきれない殺気が身体から溢れ出てるみたいで部屋全体の空気が重くなった。

 

 

 

「何の話してた?」

 

「た、ただの雑談・・・・」

 

優依はあくまで誤魔化してくる。

 

ふーん?言う気が無いって事か。

正直に話せば許してやろうかと考えてたけどとぼける気なら容赦しない。

どうやらこいつには少し躾が必要みたいだ。

 

 

「優依」

 

何か言っていた優依を遮り、怒りを込めた笑顔を向ける。アタシの笑顔を見て失礼な優依は顔を青ざめ震えだした。その隙に肩を掴みベッドに押し倒し、そのまま上に覆いかぶさる。抵抗しないようにガッチリ腕を押さえてある。優依は最初訳が分かっていなかったみたいだが次第に状況が分かって来たのか顔が百面相のようにせわしなく動かしていてその様子に声を出して笑ってしまった。

 

笑い終わったあと、アタシは優依を問い詰めた。

さっきの電話の事と魔女が原因であやふやになったおかしな質問。

 

何で事情聴取みたいにアタシの行動聞いてきたのかずっと気になってた。

 

アタシの問いに心当たりがあるのか優依はひたすら目を泳がしていた。確証がなかったがこれで何か隠してるのは確定だ。

 

 

核心を得て他にも気になっていた事を確認してみることにした。ゲーセンにいた時偶然見てしまったものだ。

 

優依が巻いていたショールを剥がし剥き出しになった首を見て目を見開いた。

 

 

 

 

「これ何だ?」

 

 

 

 

そこには痛々しい絞め跡があった。改めてみると余程強く締め付けられたのかくっきりと赤い線が何本も優依の首にあった。それを撫でてながら優依を問い詰める。誤魔化してきたがバッサリ切り捨てた。

 

コイツに何があった?

誰にやられたんだ?

その白い肌にこんな痛々しいもん残しやがった奴が憎い!

必ず見つけ出して首をズタズタに裂いてやる!

 

憎しみを募らせながら優依の答えを待つ。部屋はしんと静まり返っていて聞こえるのはお互いの呼吸だけ。

 

 

 

 

 

 

 

「・・・だんまりか」

 

 

どれだけ待っても優依は話してくれなかった。悲しむ表情を見られないように顔を横に逸らす。

 

・・そっか。

アタシってそんなに信用出来ないんだ・・。

きっとあの幼馴染に聞かれたら優依は素直に答えるんだろうな。

優依にとってアタシは所詮、ただの友人。それだけだ。

 

 

胸を抉るような痛みが襲う。目の前が真っ赤になり頭が沸騰しそうだ。

 

 

もう・・どうでもいいや

 

何もかもどうでもいい

 

 

今まで必死に抑えていた激情に身を任せながら自然と出た笑みを浮かべて優依を見る。

 

 

「なら仕方ねえよな?話す気がないなら直接身体に聞くしかないじゃん。・・・優依が悪いんだからな?アタシに何も話してくれないから・・・」

 

全部優依が悪いんだ。

アタシにこんな思いさせる優依が・・・

 

 

戸惑う優依にゆっくり顔を近づける。躊躇いなんてない。両手を固定されているコイツは身動きはとれない。アタシの思うがままだ。

 

 

 

このままアタシのモノにしてしまおう

 

アタシの事しか考えられないようにしてしまえばいい

 

 

 

 

唇が触れる瞬間、額に衝撃が走り痛みのあまり思わず呻きながらベッドに倒れこんでしまった。

 

 

 

「ごめん杏子!俺がシャワー浴びてるうちに正気に戻ってくれ!」

 

 

額を押さえてる間に遠くで優依の声が聞こえ、この激痛の犯人がアイツだと悟る。

 

 

「・・・・・」

 

少し経ってシャワーが流れる音が聞こえてくる。それ以外何の音も聞こえない。痛みがようやく引いてぼーっとそのままベッドに倒れこんでいたが虚しくなってきて布団にくるまった。

 

「・・・ぐす」

 

布団の中で優依に勢いで迫ってしまった自己嫌悪と拒絶された悲しみがごちゃ混ぜになり自然と涙が出てきた。

この後どんな顔して優依に会えばいいか分からないが確実に嫌われただろう。

想像しただけで身体が震えてきた。しばらく経って優依がシャワー室から出てきて話しかけてきたが色々悪い事を考えすぎて情緒不安定だったアタシは癇癪を起こした子供みたいに喚いてしまった。すると突然ドサッという物音が聞こえて優依がアタシに謝罪してきた

 

 

「杏子ごめんよ!俺パニクってたんだ!血迷って頭突きしちゃって・・その」

 

 

テメエ!アタシに頭突きしやがったのか!?

めちゃくちゃ痛かったんだぞ!!

 

文句を言うため顔だけ出したら優依はいつかの百合を思い出すような土下座していた。アタシと目があった途端顔を青くしている。

 

 

「本当にごめんなさい!何でもする・・のは無理だけどお詫びはするから!!」

 

「・・・だったら話してくれる?」

 

「それは無理です!!」

 

 

再び拒絶の言葉を吐かれついに我慢の限界がやってきた。

 

 

「・・・何でだよ?」

 

「それは・・・」

 

言いよどむ優依の様子が更に怒りを煽って制御が効かない。

 

 

「何でだよ!?」

 

驚く優依の前に立ち感情のままに叫んだ。優依は少しだけアタシを見た後すぐに目を逸らされてしまう。そんな些細な事でも怒りが湧いてくる。

 

「なんで何も話してくれないんだよ!?アタシに言いたくないからか?アタシは信用できないからか?」

 

一度口に出してしまうと止まらない。感情が溢れでてきて今まで言えなかった事を一気に吐き出した。宥めようとする優依を押しのけヒートアップしする。

 

 

「・・・・杏子」

 

 

 

なのに突然優依は叫び、土下座の体制からアタシに飛びついて来てそのまま押し倒された。あまりの事に頭が混乱して身体を動かせない。その間に優依はアタシの上に乗ってお礼を言ってたり、頬擦りしたりして頭が沸騰しそうになる。

 

 

 

そしてパニックになっていたアタシを見下ろしながら優依はにっこり笑っていた。

 

 

 

 

「杏子大好きだ!!」

 

 

!?

 

優依は何て言った?

大好き?誰を?アタシを?

 

え・・・・・?

 

 

えええええええええええええええ!!?

 

 

その後の事は覚えていない。気づけばアタシはベッドで寝ていて、傍には心配そうにアタシを見つめる優依が座っていた。気を失う寸前、告白された記憶がある。恥ずかしさのあまり寝返りを打って顔を見られないようにした。あの告白が夢なのか現実なのかどうしても確認したいが決心がつかずうじうじ悩む。その間お互い口をきかずとても静かだった。

 

あああああ!悩んでるなんてアタシらしくない!

思い切って聞こう!

 

沈黙に耐えられなかったからついに確認する事を決心し優依の名前を呼んだ。すぐに返事が返って来てバクバクする心臓を抑えながら震える唇を開く。

 

 

「さっき言ったこと・・本当か?」

 

「さっき?」

 

「アタシの事・・大好きって・・」

 

 

言ってて顔が赤くなる。もし気のせいだなんて言われたら二度と優依の顔見れない。一生穴に入って暮らそうと思う。

 

 

「本当だって!俺、杏子のこと大好きだぞ!」

 

 

これは現実か・・?

 

普段消極的なのに優依の方から告白してくれるなんて。

 

幻でもいい!アタシもきちんと気持ちを伝えなきゃだめだ!

 

 

「アタシも優依のこと大好きだ」

 

優依の方を振り向き自分の想いを口にする。頬が火照っていて目に熱がこもったおかしな表情だったけど、一世一代の告白する時ぐらい好きな奴の顔を見て言いたかった。アタシの告白に優依は嬉しそうに笑っていて、ありがとうって言ってくれた。

 

 

アタシの気持ちようやく言えた。

 

優依と両想いになれたんだ!

 

夢みたい!・・夢じゃないよね?

 

幸せ過ぎておかしくなりそう・・

 

 

「・・・告白に免じて今は何も聞かないでおいてやるよ。いつかちゃんと話してくれればいいから」

 

 

気付けばそう口にしていた。

 

とても気分が良い。さっきまであんなに苦しかったのに今は穏やかだ。

 

「やれるとこまでとことんやればいい。それで無理だったらアタシを頼りな。助けてやるからさ」

 

魔法は全て自分のために使い切ると誓っていたが可愛い優依の為なら構わない。必要ならどんな事だってしてやる。障害があるなら叩き潰してやるし、傷つけようとする奴がいたら排除する。

 

アタシの優依が望むなら何でも叶えてあげなきゃな?

 

この後は優依を抱きしめながら一緒に寝た。下着のままだったから肌に直接、優依の感触が伝わる。想いが通じ合ったからか噛みつきたい衝動が起きず、ひたすら優依を撫でてたらいつの間にか眠りについてた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・帰るのか?」

 

「うん!杏子のおかげで解決出来そうなんだ!急いで帰って終わらせてくるよ」

 

今アタシ達は風見野駅で優依の帰りのバスの前にいる。朝起きてさっそく優依は帰る支度をしていて寂しさを覚えた。今までも別れる時は寂しかったが今回は過去の比じゃない。

 

 

 

せっかく両想いになれたのに、何で離れなくちゃいけないんだ・・?

 

 

 

引きとめたかったがやる気に満ち溢れ覚悟を決めた優依の様子を見て思い留まる。優依の服を掴むだけの抵抗にしておいた。

 

「あ、もうすぐバスが来そうだ」

 

優依が向いている方向に目を向けると遠くに見滝原行きのバスが来ていた。別れが近い事を確信してしまい、更に力を込めて服をギュッと掴む。アタシを安心させるように優依はにっこり笑ってた。

 

「昨日から付き合ってくれてありがとう!とっても楽しかった!杏子に会いに来て良かったよ。俺やれるとこまでやってみるけど、もし助けが必要になったら・・頼っていい?」

 

不安そうな顔でアタシに上目遣いする優依が可愛くて無意識に頭を撫でる。

 

 

「構わねえよ。アタシはいつでもアンタの味方だからな。いつでも頼れ。それと・・これ大事にしろよ?せっかく作ってやったんだから」

 

頭を撫でていた手で優依の髪につけている髪飾りを触る。優依はきょとんとしていたがすぐに笑顔になって頷いた。

 

「もちろん!大事にするさ!本当にありがとう!また会おうな!」

 

「・・ああ、またな」

 

丁度来たバスに乗り込み、優依はアタシに手を振った。それと同時に扉が閉まり、バスは出発する。アタシはバスが走り去った方向に顔を向けた。

 

 

見滝原にはマミがいるから優依が魔女や使い魔に襲われる確率は低いがそれでも心配だ。

 

もし、マミの奴が取り逃がした魔女や使い魔が優依を襲ったら?

 

考えただけで震えてくる。

 

それに優依の首を絞めた奴もおそらく見滝原にいる。

今度はもっと酷い目にあうかもしれない。

最悪殺されてしまう。

しかも優依はあんなに可愛いし狙ってる奴らも沢山いるだろう。

 

 

優依に想いが通じて舞い上がりそうな程喜んだけどそれと同時に失う怖さも生まれてしまった。

 

 

守るために一緒に行きたいと告げたかったが先に釘を刺されてしまった。むっとしたけど優依にお願いされてしまい渋々了承したまでだ。

 

苦しい

 

寂しい

 

怖い

 

・・前よりずっと

 

痛みを抑えるようにギュッと胸の部分の服を握ってみるけど何の効果もなかった。このまま頭を抱えてうずくまってしまいたい気分だ。

 

 

 

 

 

 

 

・・・そうだ。

 

 

優依を閉じ込めればいいんだ!

 

 

 

そしたらアタシは優依を守る事が出来るし、ずっと一緒にいる事が出来てもう不安や嫉妬に苦しむ事なんてない!

そうしよう!優依だって嫌じゃないはずだ!

だってアタシのこと大好きだって言ってた。

優依にとってアタシは大切な人で一緒にいたいって言ったんだ。

だったら問題ないじゃん。

 

アタシ達は両想いなんだから

 

 

「なるべく早く来いよ優依。そしたらずっと一緒だから」

 

 

見滝原に続く道を見ながらアタシは微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お帰り。無事に帰ってきて一安心だよ」

 

「ただいま。心配し過ぎだって。杏子がいるから大丈夫だって言ったろ?」

 

「佐倉杏子だから心配なんだけど・・」

 

 

風見野から戻った俺は早速シロべえと連絡を取り公園で合流した。現在はベンチに座りお互いの情報を報告している。

 

「マミちゃんの見張りご苦労様。どうだった?あの娘の様子は?不安定になってない?」

 

「特に問題はないよ」

 

「それなら良かった」

 

 

シロべえからの報告に一安心し、ほっと息を吐く。様子がおかしかったから心配だったけど杞憂で終わったようだ。

 

 

「いつも通り情緒不安定だったから特に問題ないよ」

 

「え・・?」

 

「昨夜はマミお手製の優依そっくりなデフォルメ人形を抱きしめて一晩中『優依ちゃん、優依ちゃん』ってうわ言を呟きながら泣いてただけさ」

 

「ちょっと待てえええええええええええええ!!とんでもねえ大問題じゃねえかあああああああああああああ!!」

 

淡々としながらとんでもない報告をやらかすシロべえに俺は待ったをかけるためベンチから立ち上がり叫んだ。ツッコミどころ満載な気がするが気のせいか?

 

「別に騒ぎ立てる程の問題じゃないよ。マミはいつも君の人形を抱きしめているからね。まあ昨日は特に不安定だったみたいで片時も離さなかったけど」

 

「え?何その情報?知りたくなかったよそんな裏話!つうか何でお前そんな平然としてんの!?」

 

マミちゃんの知られざる裏話のせいで身震いが止まらず、震えを抑えるために自分を抱きしめる。

 

「僕の自我が生まれる前から見てるから何とも思わないよ。それはともかく無事な君の姿を見れてホントに良かった。佐倉杏子に会いに行くって言った時は心配したんだからね?彼女の様子はどうだった?」

 

「・・何か引っかかる事言われたようなだけど?・・元気だったよ。あっ、それより聞いてくれよシロべえ!杏子が困った事があったらいつでも助けてくれるって言ってくれたんだ!あの杏子がだよ!?」

 

「え・・・!?」

 

「・・・え?」

 

杏子の助力が得られそうだと自慢げに報告したのに何故かシロべえは固まってしまった。ピキーンと石にでもなったのかと思うくらい唐突だった。

 

 

「シロべえ?」

 

 

全く動く気配がしないのでほっぺをつついてみたり、ゆすったりしてもビクともしない。

 

 

「・・・それって魔法少女の事話したの?」

 

「え?違うぞ?話してないけど・・あの、シロべえさん?何でそんなに震えてるんですか!?」

 

 

ようやく口を開いたシロべえにありのままを話すと何故か奴は白いくせに顔を青ざめ心配になってくるぐらい震えだした。

 

 

「優依!杏子に何やらかしたのさ!?ただでさえ色々まずい事してるのに自信満々に報告してくるからかなりヤバい事やらかしたね!?」

 

「失礼な!俺の思った事をありのまま伝えただけさ!それ以外してないよ!」

 

「それが問題なの!少しは自重してよ!ああ、どうしよう!本番前なのに取り返しのつかない問題が発覚してしまった!!デスバトル確定だよ!!」

 

シロべえはこの世の終わりみたいなオーバーな表現で念仏唱えている。俺はそんな奴ほっといて今日の予定を頭の中でシミュレーションする。

 

 

思い立ったら即吉日。

決意が鈍らない内に行動してしまおう!

 

 

「シロべえ準備はOK?」

 

「・・OKだよ。今ならマミは来ないから今の内に行った方がいい。僕も出来るだけフォローはするよ」

 

半ばヤケクソ気味だがシロべえの頼もしいサポート宣言が背中を押してくれた。そう俺は今回ある目的のために早朝からシロべえを呼び出し、こうして情報交換も兼ねて作戦会議をしていたのだ。

 

「ありがとう。心強いよ。じゃあ、行くか」

 

ベンチから立ち上がり目的地まで歩く。道中マミちゃんに出くわさないか内心ビクビクしていたけどシロべえが手を打ってくれたのか会う事はなかった。無事目的の建物にたどり着きネームプレートを確認してインターホンを押す。

 

 

扉を開けた人物は目を見開いてた。

 

 

 

「おはよう、暁美ほむらさん。朝からごめんね?今日は話があって来たんだ」

 

 

「・・・・そう」

 

 

 

俺の前に立つほむらが息を呑んだのが分かる。緊張しているようだ。正直俺も緊張してて足が震えている。

 

俺がここまで来た理由はほむらに秘密を打ち明け協力関係を結ぶため。

 

ぶっつけ本番。失敗は許されない。

 

 

「ここでする話じゃないのでしょう?・・入ってちょうだい」

 

「うん、お邪魔します」

 

どうやら部屋に入れてくれるみたいで良かった。第一関門突破!

 

さて、ここからが本番だ。




魔性の女 優依ちゃんの次なるターゲットは暁美ほむら!
果たしてほむほむはその毒牙から逃れられるか!?






と盛大に予告してますが次は番外編いきます!
杏子ちゃんの続編投稿予定です!


本編の杏子ちゃん病みが極まってしまいました!
次会ったら優依ちゃん終わりますねw

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