魔法少女オレガ☆ヤンノ!?   作:かずwax

45 / 98
多忙を極め感想の返事を返せなくてごめんなさい!
近いうちに返事はしますので!

なお、投稿だけは死守する所存なのでご安心を!


杏子ちゃんIFシリーズ続きです!
忘れた人、知らない人は番外編の章にある一話を読んであげて下さい!
その内これも番外編の章に移動します!


番外編 もしも神原優依が魔法少女になる前の佐倉杏子に出会ったら②

どうする?どうすんの俺?

 

俺は今究極の選択を迫られている。

 

ここは破滅都市「見滝原」の繁華街にあるとあるスーパー。

主婦たちが安い食材を求めしのぎを削る戦場だ。我が家の台所を任されている俺もここで品を見極める目を養い群がるハイエナ達から割引のシールが貼ってある獲物を勝ち取る術を得た。今では猛者たちにも引けを取らないと自負している。

 

しかしそんな百戦錬磨の俺でも手を出せない大物は存在する。

 

そしてそれは今俺の目の前に立ちはだかっている。打つ手がなく立ち往生するしかない。

 

 

「くそ・・!まさか特産米三十㎏が超特売セールしていようとは・・!何故俺はこの情報を掴めなかったんだ!?」

 

 

そう、俺の目の前の棚には『超特売セール』の札が大々的に掲載された米がデンと鎮座していた。

 

A級品質でこの値段はありえない!

是非とも買っておきたい!

でも無理!三十㎏はキツイ!持って帰れない!

 

いくら俺の家がここから数分といえど運動神経皆無な女子の身体がこの重さを背負っていけるわけがない!途中でペシャンコに潰される未来しか見えねえ!

 

 

「ここは一旦引いて母さんが帰ってくるのを待つか?そしたら車があるし・・いやでもそれまで売り切れる可能性が高いし・・」

 

 

改めて件の米を見るも数は残りわずか。横目で確認するとたくましい主婦たちがヒイヒイ言いながら戦利品を持って帰っている。このままでは売り切れになるのも時間の問題だろう。母さんを待っている余裕はない。

 

「どうしたものか・・」

 

特売米の前で俺は一人頭を悩ませながら立ち往生するしかないのか?

 

 

 

 

「アンタ・・優依か?」

 

「!!?」

 

 

うんうん悩んでいた俺の背後にすごく聞きたくない声が聞こえた。その声に戦慄を感じ背中に汗が流れるのが分かる。

 

幻聴だよね?

だって最近の俺疲れてたし・・。

 

 

「やっぱり優依だ・・!優依!良かった・・やっと会えた・・!」

 

 

喜びを抑えきれないのか興奮気味な声をしているが語尾の方はなんだか泣きそうな感じだった。

 

駄目だ俺!振り向いたらアウトだ!

あくまで他人のふりをするんだ!

 

 

「後ろ姿に見覚えあったから、ひょっとしてと思ったんだ!あれから全然会えなかったから会えてすごく嬉しい!」

 

 

全部スルーしているのに後ろにいる奴はお構いなしに語りかけてくる。

 

冗談じゃない!俺は会いたくないんだよ!

貴様との縁は一週間前に切れたはずだ!

インターホンのモニターに赤い髪が映れば居留守使ったし街に出かける時は変装もしてた。

 

クソ!もう会わないだろうと油断してた時に来るなんて最悪だ!

 

 

「・・ねえ優依、何でこっちを振り向いてくれないの・・?何でなにも言ってくれないのさ?」

 

 

俺の脳が奴の正体を断定するのを放棄している。

 

嫌だ!どっか行ってくれ!人違いだ!

俺は優依なんて名前じゃない!

通行人Yです!

 

「・・・優依、アタシの事忘れちゃったの・・?」

 

今にも泣き出しそうな声に罪悪感で押しつぶされそうになるが、俺の命がかかっているのでこのまま諦めて去ってくれるまで無視を決め込むしかない。

 

諦めてさっさと帰ってくれ!

 

「!?」

 

しばらく膠着状態だったが突然背中に衝撃が走る。何事かと思って振り向くと先ほどから俺が無視を決め込んでいた奴、赤いポニーテールこと「佐倉杏子」が俺の背中にしがみついてた。

 

やられた!これでは嫌でもスルーする事なんて出来ない!声を掛けるしかねえじゃんチクショウ!

 

 

「・・何してるのかな?」

 

「優依!ようやく振り向いてくれた!何で返事してくれなかったの?」

 

 

顔が引きつる俺に対して満面の笑みを浮かべている杏子。こうなったら適当に相手してさっさとさよならした方がよさそうだ。

 

 

「ごめん。考え事してて、佐倉さ「杏子」・・杏子が話しかけてたの気づかなかった」

 

 

ただの知り合い程度だから苗字呼びしようとしたら鋭い目力で睨んできたので結局名前呼びになった。どうやらこの頃から原作の荒々しい気性の片鱗はあるらしい。

 

 

「そっか、考え事してたら仕方ないよね。良かった、てっきりわざと無視されたのかと思ってたからさ」

 

 

わざと無視してたんですけどね。

コイツと関わったら命がいくつあっても足りないし。

多分杏子は既に契約して魔法少女になってるだろうから関わりたくなかったんだけど。

 

 

しかしここで俺はとある事を思いついたのでにっこりと杏子に微笑む。

 

 

「ごめんね。私も杏子と会えて嬉しいよ」

 

「ホント!?」

 

 

嬉しそうに笑う杏子の肩をがっしり掴む。本当に会えて嬉しい。ベストタイミングだ!

 

 

 

荷物持ち発見☆

 

 

 

こうなったら魔法少女の身体能力を有効活用してやろうじゃないか!

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・大丈夫?水飲む?」

 

「はあ、はあ、だ、大丈夫・・はあ、はあ・・・・ぷは!」

 

 

俺んちのソファでぐったりしている杏子に水を差し出す。受け取った杏子は一気にそれを飲み干した。

 

さすがにお米三十㎏担がせて歩かせるのはまずかったか?いやでも魔法少女ならこれぐらい余裕のはず。実際原作の杏子は片手でさやかを持ち上げてたしどうなってんだ?

 

 

・・ひょっとしてコイツ契約してないのか?

 

 

「そういや優依、あの時はありがとう。アンタが作ってくれたサンドイッチとっても美味しかったよ。家族のみんなもすごく喜んでた」

 

 

先ほどの疲れがもう吹き飛んだのか乱れた呼吸をしなくなった杏子がにこっと笑って感謝の言葉を述べている。

 

 

「どういたしまして。・・あれから何かあった?」

 

 

俺は先ほどから思っている疑問を解消すべく遠まわしだが杏子に尋ねた。

 

 

「あれから・・?特に何も・・。ああ、アンタのおかげで父さん元気になってくれてさ、もう一度頑張ってみる!って立ち上がってくれてたんだ!・・成果はでてないんだけどね」

 

「え?ひょっとして・・またお腹空いてる?」

 

「うん・・アンタからもらったサンドイッチ以来あまり食べてないかな?」

 

 

そう言ってシュンと項垂れてしまった。

 

 

この杏子の様子といい、話の内容といい、まだ魔法少女の契約してないみたいだ。

よく見ると指輪もしてないしな。

 

これで決定的。杏子は人間のままだ。

 

何で?俺が阻止しちゃったからか?それで未来が変わったとか?

でもあのキュゥべえがそう簡単に諦めるとは思えない。

これからどうなんの杏子の未来?

 

ていうかどうなんのこの時間軸!?

原作始まってないのに早くも想定外だぞ!?

お先真っ暗じゃん!!

 

うわあああああああああ!!

メンドクセエエエエエエエエエエエ!!

契約阻止したのは悪かったけど先が見えない死亡フラグの奴なんかと関わりたくない!

とばっちりくらう前にご飯与えてさっさとお帰り願おう!

 

 

「ねえ、もうすぐお昼の時間だから一緒に食べようよ」

 

「え・・?でも・・」

 

「遠慮しないで?お腹空いてるんでしょ?すぐ作るから待っててね(食べたらすぐ帰れ)」

 

「・・・うん、ありがとう!」

 

嬉しそうな杏子を尻目に俺は一刻も早くコイツと縁を切るために大急ぎで調理を開始した。

 

 

 

 

「ご馳走様!優依はホントに料理が上手だね。とっても美味しかった!」

 

「どういたしまして(はよ帰れ)」

 

 

昼食後お互い向かい合って座りお茶を飲んでいる。

 

昼ごはん、杏子には

 

・鮭とレタスのチャーハン

・中華スープ

・牛乳プリン

※いずれも冷蔵庫にあった残り物の食材使用

 

を食べさせた。別にいいだろ?コイツは食い物を粗末にしない主義なんだから。

 

ちなみに俺は照りマヨ丼(高級地鶏使用)を食べた。超美味しかった。

 

 

「優依の手料理がまた食べられるなんてホント嬉しい!それに優依にまた会えるなんて神様には感謝しなくちゃね!!」

 

俺は邪神を恨むわ!

あんだけ杏子と会わないようにしてたのにひょっこり出くわすんだもん!

絶対アイツが絡んでるに決まってる!

 

それにしても目の前にいる杏子はよく笑うなあ。一週間前に会った時はあんなにおどおどしていたのに。

 

まあ、そんな事はどうでもいい。

早く杏子を追い払わないと最悪俺が食事提供する人認識されてこれからも関係が続くかもしれない!

それは絶対阻止!

 

「ねえ、そろそろ帰らなくて大丈夫?お父さんとお母さん心配してない?」

 

最終手段、親を持ち出す!

家族を大事にしている杏子なら必ず効果があるはずだ!

 

 

「・・・・・」

 

「杏子?」

 

 

さっきまであんなに笑顔だったのに一瞬で悲痛な表情に切り替えて俯いてしまった。何かまずい事言ってしまったのだろうか?とても気まずい空気が流れている。

 

 

「優依」

 

「何?・・うわ!?」

 

「アンタにはとても世話になったのにこんな事頼むのは図々しいと思ってる!恥を承知で頼みがあるんだ!」

 

「な、何かな・・?」

 

 

杏子がずいっと俺に顔を近づけてきてたじろいでしまう。

 

嫌な予感がする・・・。

頼みって何だ?これからしばらく食べ物恵んでくれとかか?

やだ。絶対断ろう!

 

即決断して次の言葉を待っているとしばらく躊躇っていたが意を決した杏子が口を恐る恐る開いた。

 

 

 

 

「アタシの父さんの話を聞いてくれないかな?」

 

 

予想より嫌な頼みだった。

 

 

ホントに図々しいお願いなんだけどおおおおおおおおおおおお!?

 

何が悲しくてあんな脳内お花畑なおっさんの話を聞かにゃならんのだ!

厄介事の匂いしかしねええええええええええええええ!

コイツは(見た目)子供の俺に何させようとしてたんだ!?

俺を巻き込まないでくれ!!

 

「あのね、アタシは教会に住んでて・・」

 

超ド級の厄介な頼みごとを聞いた後、概ね知ってる杏子一家の境遇を悲壮感たっぷりに説明してくれたが罵詈雑言の嵐が脳内で吹き荒れる俺にとってはほぼ聞く気がなかったので半分スルー。

 

 

結論だけ言わせてもらえばお前の親父の自業自得としか言いようがないわ!

 

 

「すっごく苦しくて辛かったけど、優依と出会ってアタシ救われたんだ」

 

 

やめてくれない?そんな救世主を見るみたいな目で俺を見るの。

 

 

「嬉しかったんだ。みんなアタシ達を無視して冷たくするのに優依は初対面のアタシに優しくしてくれた」

 

 

杏子が俺をベタ褒めするたびに俺の罪悪感が募っていく。

 

真相は優しくしたんじゃなくて食べきれない食パンを押し付けただけだ。

あと俺もそのみんなと同じでアンタらと関わりたくないです。死亡フラグなくても面倒な地雷案件だもの君ら一家は。

 

「そんな優依だから父さんの話を聞いてほしいの。父さんは間違った事を言ってない。ただ人と違うことを言ってるだけなんだ。お願い。今からアタシと一緒にウチに来てほしいの。そこで父さんの話を聞いてあげてくれないかな?」

 

断る!

 

誰が好き好んで休日返上で厄介事に関わらなくちゃいけないんだ!

断ろう!速攻で断ろう!これ以上杏子と関わりたくない!

 

 

「えっと・・話は聞きたいのは山々なんだけどウチ無宗教なんだ。母さんに至っては無神論者(嘘)でさ。そういう宗教関係と関わっちゃいけないって言われてるの」

 

 

ごめんよ母さん!貴女をダシに使って!でもあながち嘘じゃないじゃん!

神がいようがいまいがどっちでもいいって言ってた無関神論者なんだから今回は許して!

娘の死亡フラグ回避に役立たせるから!

 

 

「そっか・・そうだよね。こんだけ世話になっといてアタシ何してるんだろう?図々しかった・・ごめん」

 

 

拒否の言葉を聴いて杏子は俯いて泣きそうな声で謝ってくる。

いや、ひょっとして泣いてるかもしれない。心が抉れそうになるがこれも俺の生存のために心を鬼にするしかない。

 

「大丈夫だよ。根気よく頑張れば必ず誰か聞いてくれるよ!」

 

 

さすがに申し訳ないので根拠のない慰めをしながら震える杏子の背中をそっと撫でてやった。

 

 

「・・もう駄目かもしれないんだ」

 

「え?」

 

「父さん、相当追い詰められてる。このままじゃ本当に駄目になっちゃうかもしれない!絶望に負けちゃうかもしれないんだ!」

 

「・・・・!」

 

 

勢いよく顔をあげた杏子の目に涙が溢れていて今にも頬を流れてしまいそうだ。

 

 

「ねえ優衣どうしよう!?アタシどうしたらいい!?苦しむ父さんを見るのは辛いよ!父さんを助けたいよ!!」

 

「わ!ちょっと!!」

 

我慢の限界がきたのかついに杏子は泣き出し何故か俺に抱きついてきてテンパってしまう。

 

 

俺に聞かれても困るわ!お前は俺に一体何を求めてんだ!?

子供の俺には何も出来ないぞ!

つうかお前の親父の問題って大人に聞いても困る案件だろうが!

 

どうやら彼女自身相当追い詰められてるのは間違いなさそうだ。とりあえず今は感情的になっているから泣き止むまで待つしかない。俺は杏子が落ち着くまで抱きしめながら頭を撫でた。

 

 

 

 

 

 

「落ち着いた?」

 

「うん・・・ねえ優依」

 

「ん?」

 

 

ようやく泣くのも落ち着いて口を開いたから顔を下に向けて俺の胸の辺りで顔を埋めている(何故か離れてくれない)杏子を見た。

 

 

「どんな願いでも一つだけ叶うチャンスがあるって言われたらどうする?」

 

「は・・?」

 

待って?ひょっとしなくてもそれって・・?

 

 

「・・・やっぱり魔法少女になるしかないのかな・・?」

 

「!?」

 

 

独り言みたいだが俺の耳にはしっかり「魔法少女」と聞こえた。

 

やめてえええええええええええええええ!!

それ破滅フラグだから!

 

何で俺の前でその禁断ワードを言っちゃうんだよ!?

何?実は俺を精神崩壊に導こうとしてんの?

 

まずい!このままの流れだと

 

 

杏子が俺の家から帰宅途中にQBと遭遇し契約

     ↓

願いが叶い信者大量GET

     ↓

カラクリがばれて杏子パパ激怒のち精神崩壊

     ↓

一家心中し杏子が自棄になる

     ↓

原作通りに進んでいく

     ↓

俺デッドエンド

 

 

うわああああああああああああああ!!

 

今考えた未来が来そうで怖い!

ひょっとして今って俺の生存がかかった重要な出来事なんじゃね!?

ここでどうするかで俺の未来が変わる!

 

その瞬間俺の迷いは消えた。

 

よし!杏子の父親の話を聞こう!

それで少しでも俺の死亡フラグが減るなら休日返上しても構わない!

必要事項と割り切ろう!俺の命の為に!!

 

 

「ぐす・・」

 

「杏子」

 

「?」

 

 

未だ俺にしがみついて泣いてる杏子の背中を優しく撫でながら声を掛ける。

 

 

「貴女の気持ちは痛い程分かった。いいよ。私(めんどくさいけど)話を聞くよ」

 

「・・・え?いいの?でも、どうして急に?」

 

 

杏子が驚いて俺の顔をまじまじと見ている。よほど驚いたのかさっきまで溢れんばかりに流していた涙が止まっている。

 

 

「杏子の姿に胸を打たれちゃってね。こんなに一生懸命お父さんのために何かしようとする杏子を放っておけないよ。父親思いの優しい杏子だもん。きっとお父さんも優しくて素敵な人だよね。私会ってお話聞いてみたいな」

 

 

実際はコイツが魔法少女なんて口走るから俺の死亡フラグ回避の先手と契約を止められなかった時の自責の念の予防のためなんだけどな。一家心中だなんて耳に入れたくないし。

 

だいたいお前の父親は食べ盛りの子供がいる家庭もってんのに働かない脳内お花畑な駄目親父だぞ?悩んでる暇あったら取りあえず働けよコラと殴りたい。

 

でも大丈夫!俺、君のお父さんの事好きじゃない(むしろ嫌いだ)けど一日くらい我慢するさ。

これも全て俺の平穏のためだ!

 

取りあえず半分くらい聞き流して適当に感想言えば大丈夫だろう!

 

 

「ありがとう優依・・本当にありがとう!!」

 

 

俺のそんな保身まみれの考えなど知らない杏子はまた抱きついてきてお礼を言っている。その天使の微笑みは俺の心を押しつぶしそうだ。

 

 

「じゃあ今から行こう!案内するよ!」

 

「あ、待って!もうしばらく後でいい?」

 

 

うきうきした表情で手を引っ張る杏子を引きとめる。俺のその行動に杏子はキョトンとしていた。

 

 

 

「え?何で?用事?」

 

「手ぶらで行くのは失礼でしょ?今からおにぎり作るからそれ持っていっていい?杏子の話じゃまたほとんどご飯食べてないんでしょ?」

 

「・・うん」

 

「じゃあもうすぐご飯炊けるからおにぎり作って持っていこうよ。そしたら今日の晩ご飯は大丈夫だよね?」

 

「いいの!?ありがとう!アタシも手伝う!」

 

「うん、お願い!」

 

 

尻尾があれば左右に振ってそうな程上機嫌な杏子を宥めつつ準備に取り掛かる。

 

何でわざわざおにぎり作ってあげるかって?

さっきヤバい事に気付いたんだ。今日買って封を切ったお米がウチの米びつに入りきらない事に。

 

このままでは食パンの二の舞なので早急に消費する必要がある。

都合の良い事に今からバキューム一家がいる教会に行くので今回も協力してもらおう!

 

 

大量に作ったおにぎりを重箱に入れ、荷物を全て杏子に持たせて俺は家を出た。

 

 

 

あの世間知らずなおっさんに会うの嫌だなあ・・とっとと終わらせてストレス発散のゲーム三昧しよう!

 

 

出来るだけ早く帰れますように!

 

俺は心中でそう願った。

 

 

 

 

 

 

杏子side

 

「何故だ?何故、誰も私の話を聞いてくれないんだ・・・?」

 

「・・・父さん」

 

アタシは項垂れている父さんを物陰から見つめていた。苦しむ父さんを見るのは辛い。

 

一週間前にアタシが優依に出会って食べ物をくれた事に凄く感激した父さんはもう一度立ち上がってくれたんだけど結果は散々で誰も相手にしてくれなかったから前より更に落ち込んでる。

 

どうすればいいんだろう?

優依、アタシはどうすればいいの?会いたいよ・・。

 

この一週間、優依に会いたくて何度も家を訪ねたり、街をぶらぶらしてたけど会えなかった。

 

 

「私は一体どうすれば・・」

 

「父さん!」

 

「杏子?」

 

 

今にも絶望しそうな父さんを見ていられなくて傍に駆け寄った。このままじゃ父さんが駄目になっちゃう!

 

 

「父さん諦めないで!希望を見失っちゃったら駄目だよ!」

 

「杏子・・」

 

「ちょっと出かけてくる!アタシが何とかするから待ってて!」

 

「杏子!待ちなさい!」

 

 

父さんの静止する声を振り切ってアタシは教会を飛び出した。

 

目的はただ一つ優依に会う事。

優しい優依なら父さんの話を聞いてくれる!

父さんが正しい事を言ってるってちゃんと理解してくれるはずだ!

 

 

 

早速優依の家に行ってインターホンを押すもいつも通り反応はない。

 

 

「どうしていつも優依はいないの・・?」

 

泣きそうになりながら玄関先で待ってみるも帰ってくる様子はない。

 

いつもなら諦めて帰るけど今回はそうはいかない。

このままじゃ父さんが絶望に負けちゃう!何とか優依を見つけて父さんの話をきいてもらわなくちゃ!

でも出かけてるならどこにいるんだろう?優依はどこにいる?

 

この一週間何度も街中を歩いて優依を探したけど見つからなかった。会ったのは一度きりだからどこに行くのか見当もつかない。

 

「あ・・!」

 

そこでアタシはある事を思い出した。

 

初めて会った時、優依はアタシに料理を振る舞ってくれた!

ひょっとして買い出しも自分でやってるかもしれない!だったら今スーパーにいるかも!

可能性は低いけど闇雲に探し回るよりはいいかもしれない!

 

「神様お願いします。優依に会わせてください」

 

口に出して神様に祈りを捧げながらアタシはこの近くのスーパーに向かって駆け出した。

 

 

 

走ると数分でスーパーにたどり着いて自動ドアをくぐる。

 

「うわあ・・」

 

あんまり縁がないからほとんど入った事ないけどスーパーってこんなに広いんだ。

 

物珍しさでキョロキョロしていると米が置かれているコーナーにたどり着いて目を見開いた。絹みたいな色素の薄い綺麗な髪がアタシの視界に入ったからだ。

 

 

 

「アンタ・・優依か?」

 

 

思わず口に出す。人違いかもしれないからじっくり後ろ姿を見るも前に会った時にあの娘を食い入るように見ていたからアタシが間違えるはずがない。

 

この後ろ姿は間違いなくアタシが会いたかった女の子のもの!

 

 

「やっぱり優依だ・・!優依!良かった・・やっと会えた・・!」

 

どうしよう!やっと優依に会えて喜びを抑えきれない!

今すぐにでもその華奢な背中に抱きつきたい!

ああもう!嬉しすぎて涙まで出てきちゃった・・。

 

神様ありがとうございます!アタシはようやくアタシの女神様と再会出来ました!

 

 

心の中で神様に感謝を捧げつつ興奮気味に優依に話しかけるも返事は返ってこない。

 

 

「・・ねえ優依、何でこっち振り向いてくれないの・・?何でなにも言ってくれないのさ?」

 

流石におかしいと思ったアタシは恐る恐る優依に聞いてみるも返事はなかった。

人違い?でも隅々まで見たから優依だって断言できる。わざと無視してるの?何で?

 

もしかして

 

「・・・優依、アタシの事忘れちゃったの・・?」

 

その可能性はある。会ったのは一週間前だしほんの数時間程度。

アタシにとってはかけがえのない時間だったけど優依にとっては日常のちょっとした出来事かもしれない。初対面のアタシにあれだけ優しくしてくれたから優依は普段の日常で見ず知らずの人達に親切にしてるのかも。

 

 

ここでお別れなの?

アタシは優依と知り合いにさえなれない赤の他人?

 

そんなの嫌だ!

アタシは優依ともっと仲良くなりたい!

優依の特別になりたい!

 

だったら何とか振り向いてもらうしかない。会話できなきゃ何も始まらないじゃん!

 

どうやったら優依の意識をアタシに向けられる?

 

 

! そうだ!

 

アタシは思い切って優依の背中にしがみついた。こうすれば嫌でも気づくはず。

密着してると優依の柔らかい綺麗な髪がアタシを包み込んでなんだかくすぐったい。

それにすっごく良い匂いがする。花の匂いだ。香水でもふってるのかな?

 

 

「・・何してるのかな?」

 

少しの間だけ優依に包まれてるようで幸せな気分に浸っているとようやくアタシに気付いたらしくぎこちない顔だったけどこっちに振り向いてくれた。その事実にアタシは嬉しくて思わず笑顔になる。

 

 

 

「優依!ようやく振り向いてくれた!何で返事してくれなかったの?」

 

「ごめん。考え事してて、佐倉さ「杏子」・・杏子が話しかけてたの気づかなかった」

 

 

アタシの事覚えててくれたのは嬉しいけど思わず睨んでしまった。

だって苗字呼びなんて他人みたいでやだ。

アタシは優依に名前で呼んでもらいたい。

前は一度もアタシの事名前で呼んでくれなかったから。

 

でも優依に「杏子」って呼んでもらえて凄く幸せ。なんだかくすぐったいや。

 

話を聞けば優依は考え事してたみたいでアタシに気付かなかったみたい。それを聞けて良かった。もしわざと無視されてたら人目なんて気にせず大泣きしてたかもしれない。

 

 

そんな内心不安だったアタシを慰めるように優依は可愛い笑顔をしている。その笑顔を見てると心臓がドキドキしてうるさいけど。

 

「私も杏子と会えて嬉しいよ」

 

「ホント!?」

 

夢みたい!アタシに会えて嬉しいって!

ああ駄目だ!顔がだらしなく緩んじゃう!

 

顔を真っ赤にして浮かれるアタシを優依はひたすらニコニコ笑っていてそのままがっしりと肩を掴んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「優依の手料理がまた食べられるなんてホント嬉しい!」

 

優依の家に再び招待され一緒にご飯を食べて凄く幸せ!

こうして向かい合って座っていると・・一緒に暮らしているみたいでなんだか緊張する。

 

 

優依と奇跡的に再開出来た後は大変だった。

 

突然優依が酷く困ったような表情をして「お米買いたいけど重くて持ち運べないの・・」と落ち込んでいたからすぐに「アタシが運ぶから大丈夫!」と答えた。

 

優依は嬉しそうに笑って「これお願い」とかなり重そうな米袋を指差した時は正直顔が引きつっちゃった。

運動神経には自信があるけどこれは運べるか分からなかったから。

でも優依に頼られるのは嬉しいしお願いされてしまったからお米を担いで優依の家まで気合で運んだ。

 

一週間分の体力は使ったと思う。到着した時はしばらく動けなかったけど優依が喜んでくれて良かった。その後優依がこの一週間何してたのか聞かれてサンドイッチのお礼を改めて言ったんだけど優依は首を傾げてたのは何でだろう?

 

で、話を聞いた優依はどうやらアタシがまた空腹だと悟ったらしく昼ご飯を作ってくれたんだ!

 

チャーハンと中華スープ、しかもデザートのプリン付きとまた贅沢!

すっごく美味しかった!

優依は丼ぶり食べてたけどあれだけで良かったのかな?

ひょっとしてアタシがお昼のご飯食べちゃったから仕方なくそれにしたのかもしれない。

相変わらず優依は優しいけど悪い事しちゃったな。

 

久しぶりの優依との会話に浮かれちゃってアタシは締まりのない顔で優依にひたすら会話をふる。

 

あーやっぱり優依は可愛い!

たわいのない話をしてるだけなのに凄く幸せだと思う。

ずっとこの時間が続けばいいのに!

 

 

「ねえ、そろそろ帰らなくて大丈夫?お父さんとお母さん心配してない?」

 

 

そう言われて優依に会いに来た理由をやっと思い出した。

 

まずい!優依に会えた事が嬉しくて父さんの事すっかり忘れてた!

 

 

 

「優依」

 

アタシはずいっと優依に顔を近づける。アタシの突然の行動に優依は驚いた顔してるけどそんな表情さえ可愛くて胸が高鳴ってしまう。何とかそれを振り切りようやくアタシは本題を切り出す。

 

 

「アタシの父さんの話を聞いてくれないかな?」

 

 

その時の優依は何とも言えない表情をしていた。

 

アタシはすかさず我が家の境遇を伝える。

 

・ウチが教会という事

・父さんが文言を破って新しい教えを説いたから本部から破門された事

・寄付がなくなってアタシ達の生活は成りたたなくなった事まで全て伝えた

 

 

「すっごく苦しくて辛かったけど、優依と出会ってアタシ救われたんだ」

 

アタシはそう言って優依を見る。

 

あの日世の中に絶望しそうになってたアタシを救ってくれた優依はアタシにとって神様みたいな存在だ。

凄く眩しくて暖かいアタシの聖女様。

アンタがいてくれたからアタシは今まで頑張れたんだ。

アタシを導いてくれる光そのものだから。

 

 

「そんな優依だから父さんの話を聞いてほしいの。父さんは間違った事を言ってない。ただ人と違うことを言ってるだけなんだ。お願い。今からアタシと一緒に協会に来てほしい。そこで父さんの話を聞いてあげて」

 

疲れた様子の父さんを思い浮かべながら優依に懇願するも断られてしまった。

優依の家の事情だからどうする事も出来ないんだって。

アタシは愕然としてしまった。そんなアタシの様子に同情したのか慰めてくれたけど今のアタシには響かない。

 

出掛ける直後に見た父さんの疲れ切った顔。

優依が父さんの話を聞けば何とかなるかもしれないなんて確証もない中途半端な希望を持たせて更に絶望させてしまう事になる。

 

優依はアタシにとっての最後の希望だったのに!

それなのに父さんの話すら聞いてもらえないなんて・・!

 

 

我慢していた涙がついに限界が来てとうとう頬を濡らす。

 

 

「ねえ優衣どうしよう!?アタシどうしたらいい!?苦しむ父さんを見るのは辛いよ!父さんを助けたいよ!!」

 

「わ!ちょっと!!」

 

戸惑う優依を気にせずアタシはしがみつく。今はこの温もりに縋っていないとアタシまで絶望してしまいそうだったから。最初は戸惑っていた優依だったけど今は黙ってアタシをあやしてくるからそれに甘えてひらすら泣いた。

 

 

 

「どんな願いでも一つだけ叶うチャンスがあるって言われたらどうする?」

 

 

ようやく落ち着いてきた頃、一つの考えが浮かんだきたから優依に聞いてみた。

優依を頼れない以上ひょっとしたらこれしか方法がないのかもしれないから。

 

 

 

「・・・やっぱり魔法少女になるしかないのかな・・?」

 

本当は契約したくないんだけど。

 

この一週間キュゥべえは何度も「契約して願いを叶える気はないかい?」とアタシに付きまとった。相変わらず弱った所に付け入るようなやり方で気にくわないから断ってたけど。

 

前のアタシならきっと心折れて契約してたかもしれないけど優依に救われた事で辛くても希望は捨てないと改めて決めたんだ。

 

優依との思い出を振り返った後、すぐにキュゥべえの姿を頭から振り払う。

 

・・うん、駄目だ。楽な方法で願いを叶えるなんて駄目!

仮に契約する日が来るとしたらそれはきっと家族や優依を守らなきゃいけない時だけ!

 

これ以上馬鹿な事言って優依を困らせるのはやめなきゃ!

 

そう考え直し今のは忘れてくれと言おうとしたんだけどその前に優依がアタシの背中を撫でて「杏子」って先越されちゃった。何だろうって続きを待ってると

 

 

「貴女の気持ちは痛い程分かった。いいよ。私話を聞くよ」

 

そう言ってほほ笑んでて思考が止まる。

 

 

え?まさかのOK?何で?

 

あまりの驚きに流していた涙がピタッと止まっている。そんなアタシがおかしいのか優依は苦笑いしながら口を開く。

 

「杏子の姿に胸を打たれちゃってね。こんなに一生懸命お父さんのために何かしようとする杏子を放っておけないよ。父親思いの優しい杏子だもん。きっとお父さんも優しくて素敵な人だよね。私会ってお話聞いてみたいな」

 

 

その言葉でまた涙が出そうになる。

 

 

「ありがとう優依・・本当にありがとう!!」

 

アタシは感激して優依に思いっきり抱きついた。

 

 

本当に優依はアタシの女神様だ!

 

 

 

感謝してもしきれない!アタシは優依に恩を返せる日が来るのかな?

ずっと一緒にいるためにはどうすればいい?

心優しい優依にアタシは何が出来るんだろう?

 

そこでふっとある考えが浮かんだ。

 

 

・・魔法少女になるのもありかもしれない。

 

 

願いを叶えるためじゃなくて優依を守るために。

そしたらずっと一緒にいられるかも!

 

まあ、それは後で考えればいいや。今は早く優依を連れて帰らなきゃ!

 

一刻も早く教会に案内しようと興奮気味に優依の手を取ったんだけどストップをかけられキョトンとしてしまう。

 

 

「手ぶらで行くのは失礼でしょ?今からおにぎり作るからそれ持っていっていい?杏子の話じゃまたほとんどご飯食べてないんでしょ?」

 

「・・うん」

 

 

何だろうと見ていると優依は呆れた表情でアタシに諭す。

 

 

「じゃあもうすぐご飯炊けるからおにぎり作って持っていこうよ。そしたら今日の晩ご飯は大丈夫だよね?」

 

「いいの!?ありがとう!アタシも手伝う!」

 

共同作業で出来上がったおにぎりが入った重箱をアタシが持って父さんがいる教会に向かう。

かなり疲れるけどさすがにこんな重い物を優依に持たせたくないし「持ってほしい」と頼まれてしまったからつい笑顔で引き受けちゃった。

 

だってこんなに可愛い優依に頼られたら嬉しいもん。

 

 

我が家に連れて行くのドキドキするなぁ。

優依は教会に行くの初めてだって言うし気に入ってくれるといいな。

もし気に入ってくれたら将来一緒に暮らs・・じゃなくて!

 

すぐに父さんの話を聞いてもらおう!

 

優依が父さんの話を聞いてくれるならもう大丈夫なはず!

優しい女神様みたいな性格だからきっと父さんの言う事も分かってくれるよね!

 

父さん元気になってくれてまた立ち上がってくれる!

 

 

そしたら優依はすぐ帰っちゃうしまたお別れなの?

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

 

 

やっぱり嫌だ、寂しい。少しでも優依と一緒にいたい!

 

 

 

今日はウチに泊まってくれないかな・・・?

 

 

 

 

隣で歩く優依をぼんやり見ながらアタシはそんな事を願ってた。




思ったより長くなりそうな予感がします・・
ぶっちゃけエンディングどうするか悩んでるんですよねー

その内ハッピーエンドかバッドエンドにするかのアンケート取ろうかと考えておりますのでよろしくお願いします!

次回は本編行きます!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。