ほむらside
「やっぱり優依が作った料理は美味しいわね」
「そんな大げさな!もっと褒めてくれてもいいんですよほむらさん!」
締まりのない笑顔でデレデレしている優依は面白い。
本当に美味しいからもう少し褒めてあげようかと思ったけどこの娘の性格を考えるとすぐ調子に乗りそうだから止めておいた方が良いでしょうね。
・・いつも独りだったから分からなかったけど誰かと一緒にご飯を食べるのはこんなにも幸せな事なのね。
今日はとても楽しかった。私の一生の思い出。
この日をずっと忘れない。
『ほむら、今日は気分転換に一緒に出掛けないか?』
突然優依にそう言われた時、私に衝撃が走ってしばらく動けなくなってしまった。
デートに誘われたんだと思ったから。
でも実際は違った。単純に遊びに行こうって話でその時の私の落胆ぶりと怒りは今思い出しても腹立たしいものだ。
きっと優依はこうやって無自覚に人を誑し込んでるに違いない。少しだけ巴マミと佐倉杏子に同情するわ。
案の定デートではなかった(しかも白い物体のオマケ付き)けど少しでも意識してもらおうと精一杯おしゃれしたら優依に褒めてもらえて嬉しかった。少し褒め過ぎで狼狽えたけど。
それからは優依の服をコーディネートしたり、書店で(半分)冗談を言い合ったり、クレープを食べながらのんびり歩いたりした。この娘と一緒に出掛けるのとても楽しくて久しぶりに心の底から笑えてたと今なら思う。
一緒にいられるのは嬉しくて嬉しくて仕方がなかった。
中でも一番嬉しかったのは、とある理由で私が無理やり優依を連れ込んだ雑貨店での出来事。
「はい、これあげる。俺からのプレゼント。気が向いたらつけてね」
「え・・?」
そう言って優依が差し出してきたのは赤い蝶のカチューシャ。
最初は突然のことに困惑したけど優依はそんな事構わず私にそのカチューシャを握らせてきた。
あまりの手際のよさとセンスの良さだったから他の女にも同じことしてるんじゃないかって疑って思わず眉間に皺が寄ったけど優依が「女の子にプレゼントするのは初めて」と言ってそんな疑いは瞬時に消えた。
思わずガン見してしまい優依を驚かしてしまうもそんな事に気が回らない。それよりも本当か確認しなくては。
「今まで誰かにプレゼントした事ないの?つまりそれは私が初めてって事?」
凝視しながら確認するとぎこちないながらも優依は首を縦に振っていて「初めて」なのが事実だと悟り、珍しく気分は有頂天になりソワソワしてしまい抑えられなかった。
そうと分かればこれは絶対私のもの。
いくら優依でも渡さない。
優依は私のおかしな態度を見て気に入らなかったと勘違いしてたみたい。
返品するためにカチューシャを渡すように言ってたけど絶対に嫌。盗られないように抱え込んで結局優依が折れた。
その様子を確認して私はドキドキしながら鏡を見てカチューシャをつけた。
鏡にうつる自分はいつも通りだけどこの赤いカチューシャは黒髪によく映えている。カチューシャについている赤い蝶は頭にとまっているみたい。
私は案外こういう髪飾りが似合うらしい。
優依のセンスに舌を巻きそうになる。
デザインは少し派手だけど悪くない。
これから毎日つけていこう。
鏡の自分に笑って自画自賛しつつそんな事考えてた。
このだらしない笑顔を引っ込めることは出来ない。佐倉杏子からもらった髪飾りが憎らしいと思っていたのに、単純ね。
「ふふ、優依の”初めて”は私がもらったわ」
顔を綻ばせながら冗談めいて言ってみるも「誤解されそうだからやめてくれ」と優依にげんなりした顔で言われてしまった。大方浮かれる私を見て呆れているのかもしれない。
でもね優依、それは誤解じゃないわよ?
優依が”初めて”秘密を打ち明けた人は私。
優依が”初めて”贈り物をした少女は私。
他の娘との対応が明らかに違う。
だって私は優依の特別だもの。浮かれるに決まってる。
もちろん、貴女が想像してる”初めて”も私がもらうわ。
さっきのは宣言よ。
優依は誰にも渡さない。巴マミにも、佐倉杏子にも、ね。
デートの事を振り返りつつ私は食事に夢中な優依の様子を目を細めて見ていた。無性に愛しさが込み上げてくる。
「なんだか私たち一緒に暮らしてるみたいね」
「え?そう見える?」
何気なく呟いてみると優依はキョトンとした表情で私を見つめていてその様子がおかしくてまたクスリと笑ってしまう。
そんなに意外そうな顔しなくてもいいのに。
「ええ、ルームメイトみたい」
「ふーん」
別段興味なさそうな表情ね。それは仕方ない。
しかしこれは良い流れね。前から考えていた事をここで優依に提案するのは悪くないかもしれない。
「ねえ、優依さえ良ければの話なのだけど・・」
「ん?」
間を空けて優依の様子を見る。私のそんな態度が気になったのか優依は食事を止め顔をあげて私を見た。それを合図に話を切り出す。
「『ワルプルギスの夜』を倒したらここで一緒に暮らさない?私は一人暮らしだからいくらでも部屋は余ってるわよ」
「え?」
「別に良いでしょ?すぐにとは言わないし、将来家を出るかもしれないなら私の所に住めば良いわ」
「あー・・考えとく」
「しっかり考えてちょうだい。良い返事を期待してるわ」
困り顔の優依に念を押しておく。押しに弱いから強引に迫ればいけるかもしれないから。
でもその前に「ワルプルギスの夜」を倒して・・、そしてその後は優依を狙う魔法少女達と白い保護者を蹴散らさなきゃいけないのは厄介ね。敵が多いわ。
今のうちに対策でも練ろうかしら?
まあ、私には優依を連れて逃げ切る手段があるわけだしあまり真剣に考え過ぎない方が良さそうかもしれないけど。
自分の中指にはめている指輪を見てこれからの事に思いを馳せる。
私にはまだまだやるべき事がある。今はやる事は一つ。
私は急いで食事を終わらせて席を立った。
「どうしたほむら?」
急に立ち上がった私を優依が不思議そうに見つめている。こんな時でも茶碗から手を離さないのね。
「今から魔女狩りに行ってくるわ。遅くなるから先に寝てて構わないわよ」
「あ、そっか分かった。行ってらっしゃい。気を付けてね」
「ええ、行ってくるわ」
何も知らない優依はのんきに手を振って私を見送ってくれる。それだけで幸せ。もう少し堪能していたいけど私の望みを叶えるためには一つでも多くのグリーフシードが必要。集めるだけ集めておかなくちゃ。
「あ」
外に出て少し経った後、何気なく見つめたガラスに自分が映ってる。その頭には優依からもらったカチューシャがある。
「ふふ・・」
「あれ?ほむらこんな所で何してるんだい?今から魔女狩りかい?」
ついガラスに向かってほほ笑んでしまった。
だってこれを見ると私は優依の特別なんだって証明してくれるから。
「今は行かない方がいいよ?彼女に出くわす可能性が高いし。ていうかそのカチューシャどうしたの?」
改めて見ると本当にこのカチューシャは可愛い。
優依から貰ったんだもの大事にしなくちゃ。
そっとカチューシャに触れて位置がずれていないかガラス越しに確認する。
「え?ちょっとまさかの無視?聞いてる?罵倒されるより無視される方がはるかに傷つくんだけど」
ああ、そうだったわ。私はグリーフシードを集めるために今から魔女狩りに行くんだった。こんな事してる場合じゃないわね。
ガラスから視線を外して少し早歩きで街を目指す。
「ちょっとほむら!話聞いてよ!今行っちゃダメだって!ねえ!」
? そういえば誰かに声を掛けられた?
何か白いものが見えた気がしたけどきっと気のせいね。
「反応がある。近い」
片手にソウルジェムを持って心霊スポットになりそうな廃墟を歩く。ソウルジェムの光が強くなってきているから魔女は近いかもしれない。
でもその前にさっきから私を見張ってる誰かさんを何とかした方が良さそうね。
ため息を吐いて立ち止まる。尾行してるのを全く隠す気がないなんて呆れるわ。
「一体何の用かしら?
巴マミ」
真っ暗な空間の中、相手に届くように少し声を張り上げる。
「あら、気づいていたの?」
私の背後に気配がする。
ジャリっと地面を踏む音が聞こえて横目で見ると魔法少女に変身した巴マミが立っていた。
表情は微笑んでいるのに全身から溢れる殺気で表面上の笑顔だとすぐ分かった。一応笑顔なのに似つかわしくない程凄まじい迫力がある。
「隠す気がないのに白々しいわね。ずっと私に殺気をぶつけていたでしょう?もしかしてずっと見張っていたの?」
隙を見せないように淡々とした表情で質問する。
その間にこちらも魔法少女に変身していつでも対応できるように銃を忍ばせておいた。
優依と出掛けていた時に感じた殺気。あれはやはり巴マミで間違いなさそう。
佐倉杏子の事も疑ったけど彼女の性格なら見張る事はせずそのまま目の前に現れるだろうからすぐにその線は消えた。
あの時は優依と一緒にいたから店に入ってやり過ごしたり見逃したけど私一人なら話は別。
魔女を探して街を歩いてた途中から見張られてる気配がしたからカマをかけてみたけど思いの外すぐに姿を見せるとは驚いた。
「見張ってたとは失礼ね。私は優依ちゃんを見守るためにしていたのよ。いつ貴女に襲われないか気が気じゃなくて。貴女を撃たないように抑えるのは大変だったわ」
ゆっくり巴マミの方に振り向くと彼女は私を真っ直ぐ見てすっと目を細めている。
どうやら私の事を殺したいと思っているみたい。今にも銃を構えてきそうなくらい殺気を向けてるもの。
「物は言いようね。そんなに私が嫌いならどうして私を攻撃せずつけてきたのかしら?」
「貴女にお願いがあるの」
「お願い?」
「単刀直入に言うわ。優依ちゃんを解放して。さもなければ容赦しないわ」
「・・・・・」
お願いにしては物騒な物言いになってるの気づいてないの?
お願いというより脅しに近いわね。どうしたものかしら?
ここで私が嫌だと言えば躊躇なく攻撃してくるはず。現に巴マミの周辺に魔力が集まっている。
ベテランである巴マミとの戦闘ははっきり言って分が悪い。
いつか戦う日が来るとしてもそれは今じゃない。
出来るだけ戦闘は避けたいから刺激するのは厳禁。ここは慎重に答えないと。
必死に頭を回転させ相手を刺激させないように慎重に言葉を選ぶ。
「私は何もしていないわ。あの娘自ら私に会いに来たのよ」
「嘘よ。優依ちゃんが貴女に会いに?冗談はやめてほしいわ」
私に向けられてる殺気が更に上がった。何とか弁論しようとしたが逆効果だったみたい。だったら巴マミの弱点を突いて動揺させた方が良い。躊躇ってる時間はない。
「貴女、自分が何したか忘れたの?どうしてわざわざ優依が貴女と険悪な私の所まで来たと思ってるの?」
「・・・・・・・・・・・」
「貴女が嫌がる優依を無理やり魔女の所まで連れていった挙げ句かなり危ない目に遭わせたでしょう?荒事に慣れてない一般人であるあの娘は怖い思いをしたのよ?それに懲りずにまたそんな所へ連れて行こうとする人を避けるのは当然でしょう?」
「っ!」
「まともに優依の話に耳を貸さなかったんだから避けられてもおかしくないわ。実際、貴女の魔女狩りに同行した後にやってきたあの娘は少し自棄になってたわよ」
事実は自分の役立たずぶりに絶望してただけだったけどあながち嘘じゃない。魔女狩りに一般人を巻き込むなんて正気の沙汰じゃないわ。
といっても私も優依に頼み込んで魔女狩りに同行してもらったから言えた義理じゃないけどあれ一回きり。何度もそこに連れて行こうとする巴マミよりはマシよ。
彼女には悪いけど優依は渡さない。
魔法少女の真相を知った途端心が壊れて自棄を起こすような人には任せておけない。
「・・そうね・・確かに後輩が出来るって浮かれてた私は優依ちゃんの言葉に耳を貸さずに無理やり連行して危ない目に遭わせた。その結果あの娘は私から離れていった」
「・・・?」
自嘲するように言い捨てる様子に違和感を覚える。顔を俯かせているからどんな表情をしているのか分からない。
「全て私のせいよ。離れていって当然。会ってもくれないし連絡も素っ気なくて辛かったわ」
「・・・・・」
「でも、だからこそ気付いたの」
「?」
「私には優依ちゃんが必要だって事。一緒にいてくれないとおかしくなっちゃいそうなの」
「! 貴女、様子が・・・」
顔を上げた巴マミはうっとりした様子で微笑んでいて目の焦点が合っていない。その姿は夜の廃墟と相まって不気味さが際立っている。無意識に後ずさりしてしまいそう。
「私が優依ちゃんを守るの!魔女からも貴女からも!危険な物全てから守れば優依ちゃんはずっと私と一緒にいてくれるでしょう?」
舞台女優のように両手を広げて廃墟全体に響くくらいの声で狂った事を叫ぶ。
私に問いかけるように聞こえるけど実際はそんなつもりで言っているようには思えない。
巴マミに一体何があったのかは分からないけどこれだけは言える。
絶対に優依を今の彼女と接触させてはいけない!
「何をするつもり?」
今は情報が欲しい。相手を刺激しないようにしつつ情報を聞き出さなきゃ。
「さあ?貴女には関係ないわ暁美さん。私と優依ちゃんの問題だもの」
「あの娘の嫌がる事をするつもりなの?」
「私が優依ちゃんの嫌がる事なんて絶対しないわ。・・私知ってるのよ?優依ちゃんが貴女の家に泊まってる事。どおりで何度もあの娘の家に行っても留守だった訳だわ。羨ましいわね。私がしたかった事を貴女がやってるんだもの」
「っ!」
緩んでいた殺気が再び波のように私に押し寄せてくる。さっきまであんなに楽しそうにしていたのに今は憎悪を隠しきれない表情で私を睨んでいて、怯みそうになるもすまし顔を維持しつつ睨み返す。
過去の時間軸の巴マミとは比べ物にならないくらい落差が激しい。
この様子だと協力なんて不可能だわ。彼女は諦めるしかなさそうね。
それにしても一体どこから情報が洩れてるの?
尾行してた?でも気配で分かるはず。一体どうして?
「私の家にいるなんてどうして思うの?」
「私の友達が教えてくれたのよ」
まさかあのインキュベーターが?
一瞬あの口の悪い白が頭をよぎるのもすぐにかき消す。あの個体なら優依を危険に晒すような真似はしないはず。
「誰よ?」
「ふふ、内緒。明日の学校が楽しみね。やっと優依ちゃんに会えるんだもの」
私の質問に答える様子もなく巴マミは妖艶に笑って背中を向ける。まさかこのまま帰る気!?
「待ちなさい!まだ聞きたいことがあるわ!」
ジャキっと銃を向けて制止するように呼びかける。
こうなったら武力行使しかない。実力は及ばないがどんな場面でもやりようはあるはず!
だけどそんな私の様子を巴マミは冷ややかに見ていた。
「私にはないわ。機会があれば懲らしめてあげようかと思ったけど気が変わったの。今は一刻でも早く貴女から離れたい。顔も見たくないわ」
「随分な言いようね。言いたい放題言って帰るなんて子供みたいよ」
「おそらくちゃんと話すのもこれで終わり。次会ったら戦いは避けられないわよ」
徐々に言い方が辛辣なものに変わっていいる。
これ以上引きとめたら戦闘は避けられない。ここが潮時のようね。
深呼吸した後、銃を降ろした。
「・・なるべく努力するわ。私も貴女と会っていたら理性が抑えられそうにないもの。もちろん優依にも会わせないわ。今の壊れた貴女は危険だもの」
「それはどうかしら?・・優依ちゃんの隣は私のものよ!貴女じゃない!!」
最後に皮肉を込めてみると今まで堪えていたのか涙声で吐き捨てて廃墟の暗闇に向かって駆けて行った。すぐに闇に溶けてどこにも巴マミの姿は見えなくなった。
「優依・・!」
廃墟に一人取り残された私は不安に駆られその足でそのまま自宅に走り優依を探す。
名前を呼んでも返答がなかったから悪い想像をしてしまったが寝室のドアを開けるとベッドにくるまった優依が寝息をたてて熟睡している。
「優依、良かった・・・」
さっきまで緊迫していた巴マミとの会合の後とは思えないほど能天気な寝顔をしている優依を見て安堵と呆れでずるずると床に座り込んでしまう。
「全くこの娘は」
そのままベッドに近づいて優依の頬に触れる。柔らかくてスベスベした肌で羨ましいわ。
『私が優依ちゃんを守るの!魔女からも貴女からも!危険な物全てから守れば優依ちゃんはずっと私と一緒にいてくれるでしょう?』
先程の巴マミの不穏な発言は気になる。学校で何かする気なのか?私一人で彼女を対処できるのか分からない。
相手は屈指の実力を持つベテラン魔法少女。どうしようもない不安が胸を過る。
私は優依を守れるのかしら?
「んー・・ほむ、ら・・」
「優依?」
一瞬起きたのかと思って身構えたけど、再び寝息が聞こえてきたからさっきのは寝言のようだ。
「私の夢でも見てるのかしら?夢の中でも優依を独占出来て嬉しいわ」
あどけない寝顔を見てクスリと笑う。
何を悩んでいたのかしら。巴マミが何か仕掛けようが関係ない。私は優依を守る。
そうなれば巴マミ、おそらく佐倉杏子とも戦う事になるかもしれない。
最悪一人で「ワルプルギスの夜」と戦うはめになるかもしれない。
それでも構わない。優依は渡さないわ!
『優依ちゃんの隣は私のものよ!貴女じゃない!!』
いいえ、巴マミ。貴女のものじゃない、私のものよ。永遠に。
「愛してるわ優依。巴マミや佐倉杏子よりもずっとね」
眠る優依の頬に軽く口づけを落とした後ベッドに潜りこんで彼女を抱きしめ目を閉じた。
「友達何人出来るかな?」
「は?」
「という訳で本日『お友達大作戦』を決行する!」
「・・いきなり立ち上がって何を言ってるのよ貴女は?」
ほむらが絶対零度の眼で俺を見ているがそんな事は気にしない!ほむらの通常運転だから。
爽やかな朝が今から学校に向かう俺達を優しく照らしてくれるはずがこの無骨なSF部屋は日の光を一切遮断してしまっているので情緒もへったくれもない。この部屋はほむらの空気読まない性格がよく表現されてると思う。
今はお互いに制服。学校への準備はバッチリだ!
後は学校でまどか達と会ったらどうするかというミーティングのみ!
そこで俺は打ち合わせと称して昨日から考えていた作戦を打ち明けたという流れだ。
なのにこのKY紫は俺の素晴らしいアイデアを胡散臭そうに見ている。
「何か失礼な事考えなかった?」
「いえ、何も。それよりも今は『お友達大作戦』の方が重要だ!話を続けよう!」
「だからその作戦が何なのかさっぱり分からないんだけど」
「簡単だ!お友達作戦は言うなればお友達を作ろうという作戦だ!」
「そのままじゃない。・・・何故急に?」
「いくら理詰めで対策しても一人で対処するのには限界がある。やはり仲間が必要だ!人数が増えればそれだけ出来る事が増える!」
「本音は?」
マミちゃんの所から朝一でやって来たシロべえは的確に俺の本音を追及してくる。恐ろしい奴だ。取りあえずここは本音で語ろうと思う。
「気まずい空気は無理です!!」
俺の本心を部屋全体に届くように叫ぶ。
だって現・俺の味方であるほむらはぶっちゃけ他の魔法少女(&候補)と仲が悪い。顔合わせたらいがみ合いが始まるのは目に見える。
そんな状態にはさまれたら俺が辛い!
状況を打破できるなら喜んで協力しよう!
そのための「お友達大作戦」です!
「でしょうね」
「そんな所だと思ったよ」
「そんなはっきり言わんでも!」
そんな俺の浅い考えが読まれていたのか特に反応しない二人は淡々としている。
俺をいじめる時は息ピッタリだなこいつ等!
「これは大真面目に提案してるんだぞ!特にほむらに!」
「どの辺が真面目なのかしら?」
胡散臭そうな表情で見つめてくるほむらに怖気つきながらも俺は懸命に説明を開始する。
「まあ、聞いてくれ!君は数多くの挫折を経験して誰にも頼らないと決めたみたいだけどそんなもん驕りだ!現にそれで成功したか?むしろ誰かと協力した方が上手くいきそうだったんじゃないのか?」
「・・・それは、そうだったけど。今の私には貴女がいるじゃない」
「おーい、シロべえが抜けてるよ。今は一人じゃないけど俺もシロべえも戦力外じゃん。戦闘では役に立たないぞ?ほむらは戦闘力高い訳じゃないし、チートな時間停止も対策されたら一気に弱体化する。それにその時間停止も期限があるし」
「ぐ・・・」
悔しそうに唇を噛んでいる。
超怖いが俺の言葉は聞いているようで良かった。
それなら早速俺の作戦のプレゼンを開始させていただこう!
「そこで俺は考えたのだ!それならばほむらが他の魔法少女と深い絆で結ばれればいいじゃない!と。そうすればオールOK!」
「意味が分からないわ」
「何を言ってるんだほむら!深い絆があれば魔法少女のヤバい真相だって『ワルプルギスの夜』だって乗り越えられる!それは結果的にまどかを救う事に繋がるんだ!まどかの性格上自分だけ助かっても喜ばないけど、みんながいれば喜んでくれるよ!」
「そう上手くいくかしら?」
「ほむらは思ったよりコミュ力があるから何とかなるんじゃない?誠実な所を見せれば信頼はGET出来るよ!大丈夫!俺も協力するから!」
思ったより疑い深いな。それは性格上仕方ないか。
そもそもこの作戦、昨日のほむらとのお出かけで思ったよりもコイツはコミュ力があった事が判明したから思い付いただけだ。だいたいほむらが失敗した理由って、ぶっちゃけ他の魔法少女と上手く信頼関係築けてなかったのが原因だと俺は考えてる。もともと内気で人見知り激しい不器用な娘だったみたいだしな。そりゃ難しいわ。
ならば俺が協力すれば良いだけの話!
ほむらがつまずきそうになった時に俺が上手くフォローすれば順調に仲良くなれるんじゃない?
そんな単純だけど試してみる価値があるのがこの作戦だ。
「貴女が絡むと余計に拗れそうなのだけれど?そもそも今日は学校休みなさいって私言わなかったかしら?何があるか分からないのよ?」
朝、俺を抱きしめたまま起きたほむらの第一声が「今日は学校休みなさい」だった。理由は答えてくれないので不明。理由が分からないのに休めとだけ言われて納得できるか。不安な気分で家に閉じこもってたら鬱になるわ。
しかも夢までほむらが出て来たし悪い夢だ。(出てきたのは悪魔ほむらだったし)
「無茶言うな。先週の金曜日休んじゃったし、これから先の事態によっては学校休む必要があるかもしれないから今日は行くよ。それに急がないともうすぐマミるんでしょ?幸いそれが起こるのは今日じゃないなら今の内に手を打っておこう!」
「でも・・」
ほむらがあまりにも渋るんでいい加減、ムカついてきた。
お前それでも魔法少女か!?悪魔なラスボスか!?
「ほむらが守ってくれるんでしょ!」
「!」
「なら安心じゃん!」
暴論だがぶっちゃけ今の俺を物理的に守ってくれそうなのはほむらなので自信はつけてもらわないと。
「・・そうね!そうだったわね!大丈夫よ優依。必ず私が貴女を守ってみせるわ!」
「え?うん・・・」
さっきまで不安そうな表情だったのに今は凄いやる気に満ち溢れた顔を俺に近づけて手を握っている。まあ、納得してくれて何よりだ。これで俺は気軽に学校に行けそう。
「やれやれ、あっさり陥落しちゃったねほむら。優依を引きとめてくれるかと思ったけどチョロ過ぎ」
「何ですって?」
余計なひと言にカチンときたほむらが鋭い視線をシロべえに向けている。
やば・・。ほむらの全身から怒気が溢れてるよ・・。
何でシロべえ余計な事言ったんだ?
怒りのボルテージが急上昇してるほむらを無視してシロべえは俺の方を向いている。何?俺にも毒舌あんの?
「優依、僕言ったよね?君の考えた事を実行したらロクでもない結果になるって。昨日言った事なのにもう忘れちゃったのかい?」
「いや、でも・・」
シロべえの淡々と諭すような物言いにタジタジになってしまう。確かに昨日もそんな事言われた気もするが俺的には良い案だと思うんだよな。
「君は大人しくしてインキュベーターと魔法少女をおびき寄せる餌をしてればいいんだよ」
「ほお・・?」
反論しようと思ったけどやっぱりやめた。シロべえ最近言いたい放題だからお仕置きした方が良いだろう。決してさっきの発言がムカついた訳じゃない。
怒りに震えるほむらの方を向いて彼女に声をかける。
「・・ほむら、俺、今面白い遊びを思い付いたんだ。モグラ叩きならぬシロべえ叩き。ストレス発散になりそうじゃないか?」
「・・それは面白そうね。是非やりたいわ。少し待ってて、確か向こうにトンカチがあったはずだからそれを持ってくるわ」
俺の意図を察したほむらが訳知り顔で頷いている。
心なしか目がキラキラしてるけど見逃してあげよう。同士がいてくれて良かった、
「あ、待って。俺も手伝うよ」
「ちょっと待って!冗談だよね!?さっきのは言い過ぎた!ごめん謝るから!本気でトンカチ探すのやめて二人とも!」
いそいそと部屋を出る俺達の背中にシロべえが慌てた声で謝罪しているがもう遅い!
口は災いの元と思い知れ!毒舌宇宙人が!
何はともあれほむらは学校にいるピンク、青、黄色と仲良くなる必要がある。
もし上手くいけば万事解決は間違いない。
俺の作戦が成功することを願うだけだ。
「待ちなさい!インキュベーター!」
「やめてえええええええええええええええええええ!!トンカチ振り下ろさないでええええええええええええええええええええええええ!!!」
さて、もうすぐ学校だ。
今言いたいこと
マミさんお久しぶりです!軽く一か月出番が無かったけど元気そうで何よりです!
優依ちゃん!君のその作戦間違いなく失敗するよ!