「ほら着いたよ。ここが風見野駅。」
結局俺は、面倒臭がる杏子を頼み倒し、風見野駅まで連れてきてもらった。それにしても俺って意外と体力あるんだな。徒歩で隣町まで来たぐらいだし。・・・運動神経皆無なのに。
「たく、何でアタシがこんな事してんだか。時間の無駄だったな。助けなきゃよかった。」
だるそうに悪態ついてる割には杏子さん。貴女結構楽しそうに「あそこのラーメン屋旨いんだぜ!」と風見野のグルメ情報教えてくれてたじゃないですか。なんだかんだでこの娘、本当は優しい娘なんだよね。普段の態度悪いけど。
「ありがとうございます!おかげで助かりました!貴女みたいな親切な人に出会えて私すごく嬉しいです!」
ふふふ、十三年間女子として生きてきたからな。これくらいの口調は余裕だ!
「は、はあ?ただの気まぐれに決まってんじゃん!」
顔真っ赤にして否定しても信じませんよ?ツンデレめ。
「はい!それでもありがとうございます!些細なお礼しか出来ませんが、これ受け取ってください。」
俺は今日の晩、ヤケ食いしようと思って買っていた板チョコ(箱買い)を杏子に渡す。
「へえ、まあ、食いもんはもらうけど一つ忠告しとく。アンタあんまり見ず知らずの奴に付いて行かない方が良いぜ。抜けてそうだし、危なっかしいから見てらんないぜ。」
「・・・・・・・・返す言葉もございません。」
魔女に喰われそうになったり、原作キャラだからって安心してついていった手前、ぐうの音も出ない。
「ま、次からは気を付けな。アタシはもう帰るから。」
そう言い残すと颯爽と帰っていく杏子さん。ほんとかっこいい。
「うん!ありがとう!さよなら!」
助けてもらった事の感謝ともう二度と会いませんようにという願いを込めて満面の笑みで俺は手を振った。
杏子side
何なんだ?コイツは?見た目か弱い美少女のくせに、怪我してるとか言って無理やりハンカチ巻きつけてくるし、ここどこだ?っておかしな事聞いてくるし、挙句の果てには、このアタシに駅まで案内しろなんて厚かましい。あまりにも必死で頼んでくるから、仕方なく案内した。
・・・久しぶりに年の近い子と話すから、結構楽しかった。ついつい余計なおしゃべりをしちまうくらい。
恥ずかしくなって悪態ついても気にしてる様子もなく、お礼と言って板チョコ渡してきた。盗まなくても手に入るなら、たまには親切にするもんだな。それにしてもコイツ。迷子とはいえ、知らない人間にほいほい付いていくか?心配になるな。・・・かわいいしさ。
一応忠告したが、分かってんのかホントに?
「ま、次からは気をつけな。アタシはもう帰るから。」
そう告げてアタシは早足に離れる。何かコイツといると調子狂うから。
「うん!ありがとう!さよなら!」
ちらりと横目でアイツを見ると満面の笑みでアタシに手を振ってた。何でそんなに笑顔なんだか。ホント調子狂う。あんな奴初めて会った。
・・・もう会う事もないだろうし、名前だけでも聞いとけば良かったかな?
はやる鼓動を抑えつつ、アタシはひたすら早足で駅を離れた。
「まさかのエンカウントかよ・・。」
なんとかバスで帰ってきたが、今になって恐怖が噴き出してきた。
あああああああああ!!!もうううううううううう!!!
ピンポイントで魔女に出くわすし、「佐倉杏子」に出会ってしまうし、今日でこれって明日からの中学校がますます不安だ。
出来る限り関わらない!!これは決定事項!!じゃないと命がいくつあっても足りません!
決意を新たにベッドに入る。
明日の不安と魔女の恐怖と佐倉杏子に出会った戸惑いと嬉しさ、そして一枚くらい板チョコをとっておいた方が良かったというどうでもいい後悔の中、俺は眠りについた。
杏子ちゃん編これで終了です!
次は見滝原中学校へ行きます!主人公の名前もでてきますよ!