マミside
「優依ちゃん・・どうして・・?」
夕暮れになりつつある休日の時間、私は自分のベッドにくるまってただひたすらポロポロと流れる涙を拭う。
もうすぐ魔女が活発に動きだす夜の時間が来るというのに身体を動かす気力が湧いてこない。
魔女退治だけじゃない。何をする気にもなれず一日ずっと部屋に籠って泣いていた。
理由は分かってる。優依ちゃんの事。
昨日の夜、優依ちゃんから連絡があって「魔法少女体験コースに参加しない」と言われてしまった。納得できなかった私は家に押しかけて問い詰めたけどあの娘はずっと「怖い目に遭ったから嫌だ」と繰り返しすだけだった。実際に危険な目に遭わせた負い目もあるから渋々承諾したけど、他にも聞きたい事があった。
それは暁美さんの事。
暁美さんと対峙した後、優依ちゃんは用事が出来たと告げて制止するのを聞かずに走り去ってしまった。暁美さんが去った方角と同じ方へ・・。
それについてずっと引っ掛かりを覚えてて時間も遅いし聞き出したら長くなりそうだから次の日の学校で問い詰めようと思った。・・・でも、
「え?優依ちゃんお休みなの?」
優依ちゃんは学校に来なかった。
「そうなんです・・」
「電話した時はそんな事言ってなかったんですけど・・」
クラスメイトの鹿目さんと美樹さんも知らなかったみたい。
二人は自分たちのせいで学校を休んでいると思ってるみたいだけどおそらく違う。本当は私と会わないようにするためでしょうねきっと。
「あの・・マミさん?」
「何?」
「大丈夫ですか?顔色悪いですよ?」
その時の私は随分と酷い表情をしてたみたいで心配されてしまった。
二人からもしばらくの間は魔法少女体験コースに参加しないと言われてしまったけど正直それでも構わない。今の私にはそんな事を気にする余裕はなかったから。
ずっと頭の中では優依ちゃんの事をひたすら考えてたもの。
放課後、お見舞いのため優依ちゃんの家に行ったけど留守だった。
ピンポーンとインターフォンが鳴るだけで誰かの足音やドアが開く素振りは一切ない。
欠席を知った時からずっと電話やメールをしてるんだけど返事はない。試しにもう一度連絡を入れてみたけどやっぱり応答してくれなかった。
虚しくて悲しくて視界が涙で滲んでしまい優依ちゃんの家の輪郭がぼんやりになる。
どうして拒否するの?
どうして学校を休んだの?
どうして家にいないの?
どうして連絡をくれないの?
どうして私の傍にいてくれないの?
どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?
「ぐすん・・優依ちゃん、優依ちゃん、会いたい・・貴女がいないと寂しくておかしくなりそう」
あれからどうやって帰って来たのか覚えていない。気づいたらベッドの中で泣いていた。
狂ったように何度も電話やメールを送ったけど返ってきた返事は
「用事で学校休んでるから返事遅くなったごめんね。あと忙しいから休日も連絡出来ないよ」
という素っ気ないメール一通のみだからますます涙が止まらない。
「優依ちゃん優依ちゃん優依ちゃん優依ちゃん・・」
「マミ、そんなに優依の名前を呼んでも意味ないよ。それに返事がない内にまた連絡を入れると相手はうんざりすると聞いた事があるから控えた方が良い。あと聞きたいんだけどそのぬいぐるみは何だい?優依にそっくりだけど君が作ったのかい?」
ベッドにくるまる私が心配なのかキュゥべえはそっと私に寄り添ってくれている。その視線は今、私の胸に抱いているぬいぐるみに向いていた。
「ええ、私が作ったの。とっても可愛いでしょ?こうやってギュッとすれば優依ちゃんを抱きしめているみたいで落ち着くの」
キュゥべえの予想通りこのぬいぐるみのモデルは優依ちゃん。
あの娘と友達になってすぐに作ったもの。
夜は必ずこれを抱いていないと眠れないし優依ちゃんに会えない日は日中でも必ず抱きしめている。
名前はもちろん「優依」ちゃん。
「ふーん、君の裁縫の腕は賞賛に値するよ。それに君がそこまで優依の事を大事な友達だと思ってくれている事もね。その調子で鹿目まどかや美樹さやかとも仲良くなればいいんじゃないかい?二人とも優依とは友達なんだし上手くやっていけると思うよ?そうなったら孤独から解放されるし優依に執着する必要もなくなる。未来の事を考えたらそっちの方が君にとっては良い選択にならないかい?」
「え・・?」
最初キュゥべえの言っている事がよく分からなかった。時間が経つにつれて意味が理解できる。
つまり優依ちゃんの事を諦めて鹿目さんや美樹さんと仲良くすればいい。
未来の後輩になるかもしれないからその方が良いだろうって言いたいんでしょうね?
嫌よ!
真っ先に出てきたのは拒絶。
そんな考えは受け入れられない!受け入れたくない!
優依ちゃんが離れていくなんて考えられない!
私にとって優依ちゃんは大事な友達なのよ!
”本当に?”
そう頭の中で言い切ったのにもう一人の私が嘲笑いながら囁く。
その言葉が頭の中で響いて慌てて耳を塞ぐ。
「マミ?」とキュゥべえが心配そうに声を掛けてくれるけど返事をする余裕すらない。
冷酷な私の声が更に響いてくる。
”本当に優依ちゃんを友達だと思ってるの?”
ええそうよ!大事な友達よ!
”自分の気持ちを偽ってるだけじゃない。ただ見て見ぬフリをしてるだけ”
そんな事ないわ!私は自分の気持ちくらい分かってるもの!
”じゃあどうして貴女は今そんなに苦しんでるの?優依ちゃんがいなくなっても鹿目さんと美樹さんがいるのにどうして満足しないの?あの娘達は優依ちゃんと違って未来の後輩になるかもしれないのよ?優依ちゃんより大切な存在でしょう?”
それは・・・。
強気に反論していたけど次第に答えづらくなって言いよどんでしまう。
そんな私に容赦する事なく声は更に語りかけてくる。
”別にいいでしょう?優依ちゃんが他の誰かと仲良くしてても関係ないのだから。嫌われたって構わないはず。だって可愛い後輩が出来るんだもの。さっさとあの娘の事忘れてしまいましょう?”
そう言われて咄嗟に思い出したのが何故か魔法少女体験コースの前に渡された退職願。
あの時は浮かれていたから軽く冗談で流してたけど本当は傷ついてた。
だって私と縁を切るって言ってるようなものですもの。
あれが優依ちゃんの本心だったら・・?
そのまま私を捨てて暁美さんと仲良くしたら・・?
いや!それだけはいや!
二人が仲良く話をしている姿を想像してしまって心が激しくかき乱されていく。
優依ちゃんが私以外の誰かと仲良くするなんて嫌!
私の事忘れちゃうなんて嫌!!
そんなの耐えられない・・・・!!
”なら、いい加減に認めてしまいなさい。本当はあの娘をどう思ってるの?”
・・・・・・・・。
「・・・・違うわキュゥべえ」
気付けば私はそう口に出してた。さっきまで霞んでいた視界がはっきりしてくるのが分かる。
「? 何がだい?」
不思議そうに聞いてくるキュゥべえに薄く笑いかける。
私のその表情を見たこのコは何故か後ずさりしていたけど何故かしら?
「優依ちゃんじゃなきゃダメなの。たとえ鹿目さんや美樹さんが私の傍にいてくれても優依ちゃんがいなきゃ辛いの」
「そ、そうなんだ・・」
「そうよ!優依ちゃんさえいればいいの!この先ずっと一人ぼっちで戦う事になっても構わない!魔法少女仲間が出来なくても良い!あの娘がずっと私の傍にいてくれるなら正義の味方なんてやめてしまっても構わないわ!!」
優依ちゃんの事を思い浮かべながら両手を結んで天井を見上げる。
心なしか部屋が明るくなった気がする。世界はこんなに明るいなんて今まで知らなかった。
私はようやく本当の気持ちを受け入れる事が出来た。
優依ちゃん貴女が好き。大好きよ。
友達として好きじゃない。
これは異性に向けるような・・そう「恋」だわ!やっと分かった!
今まで優依ちゃんが他の人と仲良くする事に嫉妬していた事も私だけ見て欲しいと思った事もそれは全部優依ちゃんを愛していたから!
やっと気づいた私の気持ち。
本当は最初から惹かれていたはずなのに女の子同士だからって気づかないふりをしてただけ。でも、もう誤魔化さない。
私の願いは優依ちゃんと一緒にいる事!
あの娘さえいれば他に何もいらないわ!
たとえ誇りに思っていた正義の魔法少女に戻れなくても!
「ヤバ、失敗しちゃった・・」
ふと、そんな声が聞こえた気がするけど想いを自覚して気分が高揚した私にはどうでもよかった。
◆◆◆◆◆◆◆
次の日もキュゥべえは私の様子を見にきてくれた。
でも首に優依ちゃんから貰ったリボンをしていないのね。朝出掛けた時はしていたのに。
ここ最近ちょくちょく来てくれる。
朝出て行ったけどまたすぐ戻って来てくれて嬉しいわ。
そんなに心配するくらい私はおかしいのかしら?本当の気持ちに気付いたからもう大丈夫なのに。
キュゥべえは私に会いに来るたびにリボンをしていたりしていなかったりする。
そういう気分があるかもしれないけど一日に何度もそういう事あるものなの?
「そういえば神原優依を見かけたよ?」
「え!?一体どこで!?」
キュゥべえから恋い焦がれていた優依ちゃんの事が出て思わず頭が真っ白になる。
さっきまで考えていた事が一瞬で吹き飛んでしまった。思わず寝転がっていた身体を勢いよく起こして次の言葉を待った。
「彼女が休んでいた日にバス停で見たよ。乗り込む直前だった。確かバスの行先は風見野と表示されていた気がするよ」
「え・・・?」
興奮した私にキュゥべえは驚きもせずただ淡々と答えるけど予想外の情報に思わず固まってしまう。
風見野に行ってた?優依ちゃんが?まさか・・・?
「彼女は魔法少女の事を知っている。ひょっとしたら佐倉杏子に会いに行ったのかもしれないね」
キュゥべえのその言葉に何も答える事が出来なかった。私もそう考えていたから。
彼が去った後もしばらくずっとその事を考える。
佐倉さん。昔は苦楽を共にした大切な仲間だった女の子。
意見の違いから喧嘩別れに近い形でコンビを解消してしまった。
その後彼女は見滝原を出て行ってしまったけど今頃どうしてるのかしら?
・・いいえ。そんな事、今はどうでもいいわ。問題は優依ちゃんよ。
佐倉さんと知り合いだなんてあの娘から聞いていない。
私に隠していた?どうして?佐倉さんから口止めされていたの?
今も佐倉さんと会ってるの?だから素っ気なかった?
私は優依ちゃんに会いたくてこんなに苦しいのに!
・・あぁ駄目だわ。こんなに怒っちゃ。
前みたいにカリカリしてたら優依ちゃんがまた怖がって離れていっちゃう。
うんと優しくしなくちゃ。佐倉さんの事なんか忘れてしまうくらい。
そういえば優依ちゃんは私の作ったお菓子が大好きだって言ってたわね?
「ふふふふふ・・」
ベッドから起きてキッチンの方におぼつかない足取りで向かう。
「やあマミ遅くにすまな「ねえキュゥべえ?」・・何だい?」
虚ろな表情で笑っていた所に丁度リボンをつけたキュゥべえがやってきてそのまま話しかける。何か話しかけていたけど気のせいね。
「優依ちゃんは甘いもの大好きでしょ?ケーキやクッキー、プリンもそうね。私が作ったお菓子はどれも美味しいって言ってくれたけど今度は何を作ろうかしら?種類はどうしましょう?チョコにホイップ、カスタード、一体どれが良いと思う?」
「マミ・・一体何の話をしてるんだい?」
珍しく戸惑った声を出すのねキュゥべえ?そんなに私はおかしい事言ったかしら?
「何って、もちろん優依ちゃんがウチに来た時に振る舞うお菓子を考えてるの。美味しければ美味しい程、ここにいてくれるでしょう?そしたら他のものに見向きもしないわよね?」
「・・・・・・・・・マミ、少し気分転換しよう?動画はどうだい?最近撮ってないよね?久しぶりにやるかい?」
何か不穏なものを感じたらしいキュゥべえが提案してくるけど今はそれ所じゃない。
「ごめんなさい。今は優依ちゃんのためのお菓子を作りたいからそんな気分じゃないのよ。また今度にしましょう?」
「そうかい・・。まあ、君がそれで満足するなら構わないよ」
「ふふ、ありがとう。うんと美味しいお菓子を作らないとね。あぁそうだわ。出来立てが一番美味しいから直接届けてあげた方が良いわね」
「え!?えっと、さっき家に寄ってきたんだけど優依は今いないみたい!また後日にした方が良いよ!」
「あら?それなら仕方ないわね。また明日にしようかしら?」
「えー・・多分明日もいないんじゃないかな・・?」
◆◆◆◆◆◆◆
「繁華街の方に行くといい。運が良ければ神原優依と会えるかもしれないよ」
「本当!?キュゥべえ、それは本当なの!?」
今日もキュゥべえは私に会いに来てくれた。もうリボンの事に気が回らない。
昨夜は日付が変わってもひたすらお菓子作りをしていたから寝不足。
でもそんな私を一瞬で目を覚まさせる情報をキュゥべえが持って来た。
優依ちゃんに会えるかもしれない・・!
「少ししか姿を確認出来なかったけどあの膨大な素質の彼女を僕が間違えるはずがないよ」
「そう、ありがとう!優依ちゃんに会いに行ってくるわ!」
「気をつけた方が良いよ。彼女は一人じゃない。暁美ほむらと一緒のはずだから」
急いで支度をしようとする私を止めるように告げられたキュゥべえの言葉にピタリと動きがとまった。
「暁美さん・・?」
出てきた名前に思わず眉を顰めてしまう。
どういう事?どうして優依ちゃんが暁美さんと一緒にいるの?
「マミには黙ってたんだけどこの前見たんだ。暁美ほむらが神原優依に銃を突きつけてるところをね。ひょっとしたら優依は脅されてるのかもしれないよ」
「・・繁華街に今、優依ちゃんがいるのね?」
確認のために声を出しただけ。それなのに自分の声が驚く程低いものになっている。
優依ちゃんなら怖がるだろうけどキュゥべえは特に反応を示さなかった。
「そうだよ。暁美ほむらとね」
「・・・・・とにかく行ってくるわ」
急いで着替えて繁華街に向かって駆け出した。
優依ちゃんに会える。優依ちゃんを救いださせなきゃ。ただそれだけを考えながら。
なのに・・・!
「ふふ、優依の”初めて”は私がもらったわ」
はにかんだ笑顔を優依ちゃんに向けている暁美さんの表情はとても幸せそうだった。
赤い蝶がついたカチューシャはとっても似合ってる。
繁華街についてすぐ魔法少女の魔力を追っていると辿りついたのはとある雑貨屋さん。
ようやく二人を見つけた時に視界に入ったのが優依ちゃんと暁美さんが楽しそうに話し込んでいる姿だった。まるでデートみたい。
二人だけの世界が出来上がっていて私が入り込む余地はないと思えるほどそこは甘い空間に支配されていた。
今すぐ暁美さんの頭を撃ち抜きたかったけど優依ちゃんの目の前でそんな事できない。だってあの娘は血が嫌いだもの。これ以上怖い目に遭わせるわけにはいかない。
正直暁美さんを殺してしまいたい!
私の可愛い優依ちゃんがあんな泥棒猫と一緒にいるなんて耐えられないもの!
・・でもまだダメ。絶対ダメ。
チャンスを待たなきゃ!
内側から出てくる衝動を抑えながら二人を尾行していたけど結局二人はその後離れる事なかった。仲睦まじく一緒の方向に帰っていく姿を見届けたあと私は家とは反対方向のスーパーに向かって歩き出していた。
「おかえり、マミ出かけてたの?それにその大荷物は何だい?一人暮らしの君はこんなにいらないだろう?」
大量に詰め込まれた食料と日用品の袋を上機嫌でウチまで運んでいると私を待っていたらしいキュゥべえがちょこんと座って待機していた。リボンはつけてるみたいね。
「これからいるのよ。二人ならこれくらいの量すぐになくなっちゃうかもしれないでしょ?」
そんな彼ににっこり笑って答えてあげる。だって私は今とても気分が良いもの!
「二人・・?」
「そう、二人。二人っきりよ」
意味が分からなかったのかキョトンと首を傾げているけどこれ以上は話すつもりない。
あの二人を尾行してる時、私はある事を考えてた。
それは優依ちゃんをこの部屋で”お世話”する事。
だってそうすれば優依ちゃんは私を見るしかないもの。
もう誰かに嫉妬する事もない。優依ちゃんに会えなくて苦しむ事もない。
抗いがたい程の魅力があるから躊躇いなんてない。
優依ちゃんを守るためには必要な事だもの仕方いないわ。
でもこれから先あの娘の自由を代償にしてもらうんだから心を込めてお世話しないとね?
ふと視線をキュゥべえに移すと首元のリボンがあった。
「そのリボン似合ってるわね」
キュゥべえの首に巻いてある緑色のリボンを見る。
優依ちゃんのお古だというそれは汚れ一つ無い所を見ると文句を言ってても何だかんだで大事にしているらしい。
「これかい?優依が昔つけていたらしいからお古だけどね。気に入ってるから別にいいけど」
「ふふ、とっても羨ましいわ。私も用意しておかなくちゃ」
「用意・・?」
「さ、忙しくなるんだから準備だけして早めに寝ないとね」
追及してくるキュゥべえをかわして準備に取り掛かる。この部屋で快適に暮らしてもらうためには色々とやっておきたい事もあるし。
あと黄色いリボンを用意しておかないと。
優依ちゃんならどんな色でも似合うだろうけど個人的には黄色が一番似合うと思ってる。
首に巻くから痛くないようなものにしなくちゃ。
この前みたいに間違って跡が残っちゃったら可哀そうだもの。
私の優依ちゃんという証明になればいいのだからキツく縛りつける必要はない。
「ふふふ・・」
「マミ?」
「何でもないわ。明日がとっても楽しみだって思っただけだから」
リボンを首に巻いた優依ちゃんを想像してつい笑いが押さえられなかったみたい。
それは仕方ないわ。だってすごく可愛いもの。
早く明日にならないかしら?
今すぐにでも優依ちゃんに会いたいわ。
◆◆◆◆◆◆◆◆
「はあはあ、はあ・・はあはあ・・」
部屋に帰った私は血で汚れたままノートを開く。シャワーはその後。
一刻でも早く邪魔は消したいもの。
「佐倉さんはまず反撃も逃亡も出来ないように足を狙って・・それから両手を吹き飛ばして、最後は頭。まずは彼女の行動パターンを知っておかなくちゃ。近いうちに風見野に行って尾行したほうが良いわね。その次は暁美さん。下手に反撃されないように学校で襲った方が良いかしら?でも、向こうも私を警戒してるはずだから隙はないかも。かといって魔女退治に出かけてる間は余計に警戒してるだろうし・・」
優依ちゃんを連れてくる事は失敗してしまった。暁美さんの妨害と謎の攻撃によって。
そのせいでボロボロになってしまったけど気分が良いから気にしない。
だって優依ちゃんの本心を知れたんだもの!こんなに嬉しい事はないわ!
「優依ちゃん・・」
優依ちゃんが巻いてくれた包帯を愛しさを込めて見つめながらそっと触れる。
暁美さんの事が大事だと言った時は絶望して無理心中を図ったけど未遂に終わって良かった。あやうく私はとんでもない間違いをするところだったわ。
優依ちゃんは私の事を大事に想ってくれてる。
でもそれだけじゃない。あの娘は私に言ってくれたんだもの。
「愛してる」って。私とっても愛されてたのね。なのに早とちりしちゃって。
・・そこは反省しなきゃ。
優依ちゃんの想いを知れて良かった。
だからこそ私から優依ちゃんを奪う存在が許せない!
相手が自己中心的な悪い魔法少女なら尚更。
私がこの手で引導を渡してあげるわ!
それがたとえ苦楽を共にした大切な仲間でも関係ない!
手癖の悪い泥棒猫は生かしておけないもの。
それに私はもう正義の魔法少女じゃないもの。躊躇いはないわ。
ある程度書き終えたノートから視線を外しベッドに置いてあった「優依」ちゃんを手に取ってそのまま抱きしめる。
「もう少し待ってちょうだいね優依ちゃん。邪魔がなくなったらまた二人きりでお茶でもしましょう?ふふ・・ウフフフフフフフ・・」
誰もいない部屋で私は声をかみ殺してひたすら笑い続けた。
「あああああああ!どうすんだよ!?これじゃ『お友達大作戦』どころじゃないぞ!」
「その作戦は美樹さやかをトップバッターにした時点で破綻していたんだからしょうがないでしょう?私は初めから上手くいくとは思ってなかったけど」
「え?・・じゃあなんで付き合ってくれたのさ?」
「やる気に満ち溢れた貴女に水をさすのは悪いと思ったからよ」
「マジかよ。ほむらって意外と気配り出来るんだな。マミちゃんの時はやらかしてくれたけど」
「うるさいわね」
放課後、俺はほむらと二人並んで並木道を歩く。
俺がこの先の展開に絶望して半分八つ当たりを込めて訴えるも全く取り合ってくれない。
マミちゃんとの意味不明な戦いの後、結局俺達は昼休み後の授業を一限休む羽目になってしまった。理由はアクシデントによる心労とほむらによってつけられてしまった血の汚れのせいである。ちなみにほむらは戦闘からの消耗だ。
まあ、制服に関して言えば問題ない。
シロべえクオリティ「きれいきれいクリーナー」を使ったらみるみる内に血の汚れはなくなって残りの授業はきちんと受ける事が出来たのだ。
その功労者のシロべえだが先程連絡があって、今日はマミちゃんに会わない方が良いというお達しが来た。理由は不明。納得がいかなかったがほむらもシロべえに賛成しており、まさかの三日連続で俺のほむホームお泊りを勝手に決められてしまった。
そろそろ家に帰りたかったが危険だと強く訴えられたので仕方がない。
ここは折れるしかないようだ。
・・・俺はいつになったら自分の家の玄関を開けられるのだろうか?
「で?どうすんのよ?マミちゃんと意識的に敵対しちゃって。このまま険悪な関係が続けば「ワルプルギスの夜」攻略は難しいし、それどころか下手すりゃ世界滅んじゃうよ?どう立て直すつもり?」
ほぼヤケクソ気味になりながらもほむらに聞いてみる。
これで何も考えてないなんて言ったら三つ編みメガネの刑にしてやる。
「そうね。その時は貴女を連れて・・」
「? 何?」
「何でもないわ」
意味深に笑いながらじっと俺を見るほむらの意図がわからないので首を傾げる。
ほむらもそれ以上喋るつもりが無いのかただ笑っているだけだ。
「・・変なほむら。略して変ほむ。 う!?」
仕方ないのでからかってみたが失敗だったようだ。
鞄が俺のお腹にお見舞されてしまいパァンと結構良い音が響いた。
「かなり痛いぞほむら様・・!」
「ごめんなさい。優依の様子が変だったから正気に戻す必要があったの。もう一度した方が良いかしら?」
「いえ大丈夫です!この通り正気に戻りましたので!」
「ならいいわ」
全く悪びれてないなコイツ。
最近日常になりつつあるほむらの暴力に耐えながら二人一緒にほむホームに向かって歩く。
どうやら今日はここまでのようだ。
あんなに張り切ってたのに『お友達大作戦』失敗に終わったな・・。
本命のピンクさんは多分今日はもう会えないだろうしさ・・。
・・・もとよりそんな気力もうないです。
「はあ・・・」
「優依ちゃん!ほむらちゃん!」
「?」
誰かが俺達を呼んでいる?後ろからか?でもだるい。
疲れ果てた状態だから後ろを振り向く気力もない。
そのまま無視して歩こうとするもほむらが立ち止まって後ろを見ている。
「ほむらどうした?」
「・・まどか?」
「え!?」
ほむらがありえない名前を呟いているので急いで後ろを振り返るとこっちに向かって走ってくるピンクのツインテールが目に入った。
間違いない。ほむらの言う通り、まどかだ。
でも何で?一体何のようだ?
疑問に思いつつそのまま待っているとやがて俺達の所までたどり着いたまどかは息を切らしながらも沈痛な面持ちでこちらを見つめている。急な展開に俺とほむらはどうすればいいのか困り果てて顔を見合わせた。
まさかの真打登場は超ラッキーだけど今日の失敗があるので素直に喜べないわこれ。
「えっと・・まどか?一体何の用かな?」
中々口を開かないまどかに痺れを切れたので俺の方から振る事にした。
さもないとほむらの余計なツンデレが発動して事態を悪化させるのは目に見えているからな。
「あの・・・・」
「うん・?」
しばらくモジモジしていたまどかだがやがて意を決したのか真剣な表情で俺を見ている。
「・・っ。ごめんなさい!!」
「え!?まどかさん!?」
まどかが突然大きな声で謝りながら勢いよく頭を下げている。
それも腰の角度が直角になる程の深さだ。
予想外の行動にどう対応していいのか分からない。慌てふためくしかない。
全く訳が分からないよ・・・。
補足
マミさんが想いを自覚した日
↓
優依ちゃん、杏子ちゃんの所へハプニングお泊りデート
マミさんが優依ちゃんと杏子ちゃんの関係を軽くチクられた日
↓
優依ちゃん、命がけのほむホーム突撃&魔女狩り同行
マミさんが優依ちゃんをストーキング&監禁の企てた日
↓
優依ちゃん、ほむほむと恐怖のデート
マミさんが血まみれで暗殺計画を考えた日
↓
優依ちゃん、『お友達大作戦』決行日&紫vs黄色
シロべえとキュゥべえの見分け方
シロべえは首に緑色のリボンをしています!
お忘れかもしれませんが随分前にそういった描写はありますので暇つぶしに探してください!
不穏な気配満点ですが次はとうとう本来の主人公である
まどかちゃんの話になります!頑張れ優依ちゃん!