「え、えーと杏子さん何でここに・・?」
「・・・・・・・・・」
「あの・・・」
ひたすら俺の顔をじっと見続ける杏子が気まずくて話しかけてみるも無視。
助けてもらっておいてこんな事言いたくないんだけど早く離れて欲しい。
いつまで俺を抱きしめてるんだ?もう結界は消えて元の河原に戻ってるぞ?
こんな光景、誰かに見られたらどうする気だ?
間違いなく俺は引きこもっちゃうよ?
「あのさ杏子、うわ!?」
いい加減離してもらおうと再度口を開きかけるもそれを知ってか知らずか杏子は元々近かった顔の距離を更に詰めてお互いの唇が触れられそうな距離までずいっと寄せる。杏子の息が顔にかかってくすぐったい。
「どうしたの・・?」
「やっぱり優依は可愛いなぁ!」
「うわ!ちょっと!?」
そのまま俺に覆いかぶさってきて内心パニックになる。
俺のそんな様子を気づいていないのか杏子は上機嫌で頭を撫でたり頬擦りしてきたりとやりたい放題。
その行為に比例して俺の中の杏子のキャラが一気に崩壊していく。
やめさせたいけど助けてもらったことの負い目もあるし、杏子との力の差が歴然なので成すがままになるしかない。この世は無情だ。
「怪我はなかったか?それかどこか痛い所は?」
「え?ないけど・・てか離れてくれ」
杏子は一通り俺で遊んでいたがふと思い出したようにそんなことを確認してくる。
怪我がないかを見るためなのか全身を見渡したりペタペタ触ってくるのだが正直それを言い訳にして俺にセクハラしているようにしか思えない。
別に触り方はやらしい物でなく本当に俺を気遣っている優しい手つきだからこそ余計に居たたまれない。
「どうやら怪我してないみたいだな。それなら良かった。たく、お前ここ最近ずっと危ない目に遭ってたろ?少しは自重しろよ?可愛いお前に傷がついたら大変だ」
「え!?」
心配そうな表情でどんでもない爆弾発言してきた。
マジでどうした!?
杏子がこんな事言うなんて頭でも打ったのか!?
やめて!なんか口説いてるようにしか見えないよ!?
普通の女の子なら赤面するであろう場面だが俺は杏子のあまりの変貌ぶりにドン引きして鳥肌が止まらないよ。
おかしいぞコイツ!
風見野で会ったときはいつも通りのツンデレ不良だったのに!
目の前にいる奴は砂糖成分過多のデレしか発揮されていないから胸焼けして吐きそうだ。
「それ・・」
「へ・・?うぉ!?」
「言った通りちゃんと付けてくれてるんだ。嬉しいぞ!」
「髪乱れるから頭触んなって!」
今度は杏子からもらった髪飾りに触れている。
嬉しそうに声を弾ませてまるで子供のようだ。
危ねえええええええ・・・!
今日も付けてきてよかった。
朝はめんどくさくてしないでおこうかと思ったけど俺の勘が「していけ!」と囁いていたからな。命拾いしたな俺。やはり自分の直感を信じることも必要だと再確認できた。今度も素直に従っておこう。
てか、俺何やってたんだっけ?
! そうだ今から「マミる」じゃん!こんな事してる場合じゃねえわ!!
「杏子!俺急いでるんだ!離してくれない!?」
予想外の杏子の登場ですっかり忘れていたがマミるをようやく思い出し、再び病院へ向かおうとするも今も杏子が俺を抱きしめていて動けない。離すように頼んでみるもとっても楽しそうな杏子の様子に不安が募る。
俺の言葉は彼女の耳に届いてるのだろうか・・?
ここで立ち往生している時間がもったいないので何とか抜け出そうとするも魔法少女の中でもパワーに定評がある杏子はビクともしない。もがけばもがくほど時間が過ぎていき徐々に焦りも出てくる。
急がないとマミちゃんが危ないって言うのに!
「慌てる姿も結構良いな。ホントにお前は可愛いよ優依」
「まだ言うか!?風見野で別れた後、一体君に何があったんだ!?」
全然人の話聞いてねえよコイツ!!
目の前にいる杏子は可愛いものを愛でたくてたまらないといった表情を俺に見せて更にギュゥと抱きしめてくる。肺を圧迫され呼吸しづらくてめっちゃ苦しい。
マミちゃんの頭がマミる前に変なテンションの杏子によって俺の命がマミられそうだ。
「優依!大丈夫かい!?」
「シロべえ・・?」
少し意識が遠のきかけた所で救世主の声が俺の耳にしっかり届いた。
助かった・・・!
シロべえが来たから杏子も多少は冷静になって俺を解放してくれるはず!
そうだ!シロべえと一緒にマミちゃんを助けてほしいと説得すればマミる回避率が更に上昇する!
しかもそのまま杏子と協力関係になればマミちゃんとの仲も解消できるかもしれないし、さやかとの衝突もなくなるかもしれない。
そしたら杏子が死ぬ未来もなくなるはずだ!
おぉ!まさかの棚ぼたってやつ!?
これは思わぬチャンスだ!早速杏子を説得しよう!
「杏子あの、」
「・・・・」
話しかけてみたが無視されてしまった。何だろうと様子を見ると杏子がこっちに駆けてくるシロべえを見ている。
・・いやあれは睨んでる?それも多少の怒ってるとかそんな優しいものじゃない。
明確な殺意が宿った憎悪の目だ!
「? 杏子? ッ!?」
俺が何か話しかける前に杏子は俺を離し、シロべえがいる方角に向き直る。
そして自身の武器である赤い槍を取り出し、
「ひっ!」
それをシロべえに向かって投げた。
「チッ、外したか」
シロべえが慌てて急ブレーキをかけて立ち止ったから槍は当たらずギリギリ目の前の地面に刺さる。
もしあとわずかに止まるのが遅れていたら串刺しになっていただろう。
あまりの展開に茫然と立ち尽くす。
杏子はどうしてあんな事したんだ・・・?
「テメエ・・随分とナメた事してくれんじゃねえか?あぁ?」
「な、何の事だい・・・?」
ドスの効いた声でシロべえに話しかけている。
何やら杏子はシロべえに対して怒っているらしいのは分かる。
対してシロべえはそんな杏子に怯えているが火に油を注ぐつもりなのかシラを切っている。
物凄く震えてるけどそんなに怖いなら誤魔化さなきゃいいのに。
「とぼけるんじゃねえ!アタシをおびき寄せるために優依を餌にしやがって!精神疾患つっても所詮本性はインキュベーターなんだな!やり方が気に入らねえ!!」
シロべえがあくまでとぼけた事が気に入らなかったのか激怒した杏子が声を荒げている。
その凄まじい気迫に俺は思わずたじろいでしまった。
・・・ん?杏子さっき何て言った?
「し、仕方なかったんだよ!現に結界から出る方法は限られてたんだから」
俺だけでなくシロべえも激怒する杏子を怖がっているのか小刻みに震えながらも必死に弁解している。
そりゃ必死になるわな。
だって杏子の奴、また槍を取り出していつでもシロべえを攻撃出来るように構えてるし。正直に答えないと後が怖いもん。
「まだ惚ける気かい?ホントはあったろ脱出する方法。何で使わなかった?」
「え・・?」
今なんて言った?脱出方法あったの?
でもシロべえはさっきないって・・・。
「あるにはあったさ!でもそれは最終手段だったからね。タイミングを図っていたのさ。そしてもう一つは君の存在を確認しようと思ったんだ」
「そんなくだらねえ理由のために優依を囮にしたのか?」
「くだらなくなんかないよ!たださえイレギュラーな事態が起きてるんだから今後のためにもなるべく不安要素は排除しておきたかったのさ!」
・・・・・・・・・。
二人の会話を聞いてなんとなく状況が掴めてきた。
つまり俺は杏子をおびき寄せるためにシロべえに囮にされたって事?
あの死にそうになった事はそもそも経験しなくても良かったって事?
「てめえええええええええええええええええ!!ふざけてんじゃねえぞおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
「きゅぷ!!」
気づけば俺は怒りのままにシロべえを首根っこを掴んで力の限り締めていた。
俺は悪くない!
こんな暴力的なことをしても許されるくらいシロべえはえげつない事やらかしたんだから誰も文句は言えないはずだ!
≪優依やめて!必要な事だったんだよ!≫
≪やかましい!人を死にそうな目に遭わせといて必要な事だっただと?どの口が言うんだ?そもそもお前口動いてねえだろ!!≫
≪それは言わないお約束だよ!て、そうじゃない!君の尊い囮のおかげで僕の予想通り杏子がいる事が分かったんだ。お手柄じゃないか!それに彼女の様子を見るに君もまどかと一緒でセコムがいる事も分かった事だし良いことずくめさ!上手くいけば君は無傷でこの一か月を乗り込えられるよ!≫
≪さっきから何言ってんだお前は!?セコムって杏子の事か!?杏子が来てくれたから良かったものの一歩間違えれば俺死んでたんだけど!?その辺どう言い訳するつもりだ!?あぁん?≫
≪完全にキャラ変わってるよ優依!その場合は僕が用意してた緊急脱出装置を起動させるつもりだった!本当だよ信じて!僕は君を見殺しになんて絶対しないから!どうしても今まで謎だった君を助ける存在を確かめたかったんだよ!それと杏子が現れたことで興味深いことも発見したんだから!!お願いだから首絞めるのやめて!≫
テレパシーによるシロべえの言い訳がとっても見苦しい。
どこまで本当の事か疑わしいったらありゃしないな。
コイツのお仕置きどうしてくれようか?
「あー・・・その様子じゃアタシは何もしない方が良いみたいだな。優依、その辺でやめとけ。シロべえだっけ?ソイツにはまだまだ働いてもらわなきゃいけねえんだから」
俺のあまりの激昂ぶりを見てさすがにまずいと思ったのか杏子が止めるように忠告している。
そんな事言ってるけどお前さっきシロべえ殺そうとしてなかったっけ?
まあ、確かにシロべえにはこれからも働いてもらわないといけないけど何をしてもいいかとは話が違ってくる訳で・・。
・・・・・・・え?
「杏子・・シロべえの名前知ってたっけ?」
ふと感じた違和感に気づいて杏子に聞いた。
シロべえと杏子はお互い面識がないはずだ。少なくとも杏子の方にはない。
それなのにどうして杏子は名前を知ってるんだ?
それにさっきスルーしちゃったけどシロべえの事「インキュベーター」って言わなかった?
杏子はキュゥべえの正体を知らないはず。少なくとも今までは知らなかったはずだ。
俺の中からどんどん出てくる疑問と同時に自然と身体が警戒してしまい身を固くしている。俺のそんな様子にやれやれといった表情を見せる杏子は地面に何かあるのに気付いたのか視線を下に向けている。
「ほらよ」
「わ!え?これって・・?」
地面に落ちていたものを拾いそのまま俺に向かって投げた。
杏子が投げてよこしたものを慌てて受け取る。
咄嗟の事だったからシロべえを離してしまい下から「きゅぴぃ!」という悲鳴が聞こえた気がするが空耳だろう。
手を開いてみるとそれはグリーフシードだった。どうやらさっきのセーラー蜘蛛戦士のものみたいだ。
「それやるよ。今からマミを助けにいくんだろ?アイツの事だからどうせ必要になると思うしさ」
「・・・・・・え!?」
杏子の言うことに耳を疑う。
だってグリーフシード欲しさに使い魔見逃すあの杏子が俺にそのグリーフシードをくれるって言ってんだよ!?
どうなってんだ一体!?
「あの・・」
「ん?どうした優依?」
「・・・貴女は誰ですか!?」
ついに耐えきれなかった俺は大声で愚かなことを叫んでしまった。
だっておかしいもん!
目の前にいる杏子は普段なら絶対しないであろう事をしまくってるから!
別人としか思えない!既に俺は思考はキャパオーバーを起こしてしまっている!
佐倉杏子ってこんなキャラだっけ?
「はあ?何言ってんだお前?佐倉杏子だよ」
「嘘だ!あの杏子がこんなに優しい訳ない!だって俺の知ってる杏子は乱暴でガサツで怒らせたら超おっかないんだもん!」
「お前・・アタシを何だと思ってるんだ?」
「ツンデレな食の守護神」
「・・・・・・・」
怒らないように耐えているのか眉間に皺を寄せて難しい顔で目を瞑っている。
もうこの時点で俺の知ってる杏子とは程遠い気がする。
だって杏子ってかなり短気だからあんな事言ったら間違いなくすぐ怒るはずなのに。
いや待て。案外、油断させてからの爆発とかありそうだな。
それだったらヤバい!
すぐ謝ったほうが良いかもしれない!
「僕も是非知りたいね。君の正体」
謝ろとした直後、火に油を注ぐつもりなのかシロべえはダメ押しでそんな事言い出したので全身の毛穴から汗が大量に吹き出す。
やめてシロべえ!これ以上杏子を怒らせないで!
じゃないと俺らの命ないぞ!
「・・何度も言ってるだろ?佐倉杏子だって」
「本当にそう言い切れるのかい?」
尚も煽り続けるシロべえに本気で泣きそうになる。口を押えてみるも虚しい結果に終わりそうだ。
だって口で発声していないから全く効果がない。あれ?前もこんな事なかったか?
「・・何が言いたい?」
シロべえのその態度が気に入らないのか杏子は眉間に皺を寄せて睨んでいる。
「君は僕らの知ってる佐倉杏子じゃない」
「八ッ!何を根拠に?」
「僕は優依を人知れず守っているのが君だと最初から疑っていてね。でもそれなら説明できない事もあるんだ。そこで試しに風見野にいる佐倉杏子に優依を通して発信機を付けることにしたんだ。こちらの事情も含めて彼女の居場所が分かればどうとでもなるからね」
「・・・・・・」
「え?何してんのシロべえ?」
まさかの暴露に頬が引き攣りそうになる。
そうか、だからあの時、風見野に行くの反対しなかったって訳か。
杏子に発信機をつけるために。いつの間にそんなことを。
てか俺何気に犯罪の片棒担がされてない?
やっぱりインキュベーターって怖い!
そして杏子も怖い!
さっきからシロべえを殺しそうな目で睨んでるもの!
「でもそれならおかしいんだ」
まだあるんかい!
涙目になりながら成り行きを見守る。
正直逃げ出したいけどこの緊迫した雰囲気がそれを許してくれそうにないから。
早く終わってほしい!切実にそう思う!
「僕が発信機を付けた杏子は
今も”風見野”に反応があるんだよ」
「え・・・?」
シロべえ何て言った?杏子は今も風見野にいる?
え?それなら目の前にいる杏子って一体・・?
「ッ!」
思わず杏子(?)から距離を取る。
急に目の前にいる彼女が得体の知れない存在に見えてしまい恐怖を感じる。
確かに言われてみれば彼女はおおよそいつもの杏子に似つかわしくない言動や行動が目立った。
でも見た目は何回も見ても杏子にしか見えない。
幽霊?ドッペルゲンガー?
「僕が作った発信機はそうそう取れるものじゃない。それに杏子の魔力にしか反応しないように仕組んである。という事は佐倉杏子は今も風見野にいる。なら今僕らの目の前にいる”佐倉杏子”と名乗る君は一体何者なんだい?」
「・・・・・・・」
「僕は今まで優依を守っていたのは風見野にいる佐倉杏子ではなく目の前にいる自称”佐倉杏子”の君だって考えてる。そうだよね?」
「・・あぁ、そうだよ。もうそこまで断言されたら隠してもしょうがないしね。ほむらの銃を壊したのも、魔女の攻撃から守ったのも、あの馬鹿二人の喧嘩を止めたのも全部アタシだよ」
「え?マジで?」
まさかの真相に思わず恐怖を忘れて杏子(?)をまじまじと見る。
俺を守ってくれた謎の存在って杏子(?)だったのか!?
マジで!?ひょっとして前から俺のセコムやってくれてたとか!?
それなら大歓迎です!
たとえ貴女が杏子の偽物だとしても関係ありません!
喜んで迎え入れますんで!
「・・何が目的だい?」
俺の心情とは裏腹にシロべえは警戒心むき出しで杏子(?)と向き合っている。
警戒するのは当然か。訳の分からない存在だし俺を守る理由も判明していないからな。
一体何の目的でこんな事してるんだ?
少しでも情報を得るため奴の表情をじっと観察する。
「別に?ただアタシの可愛い優依が危ない目に遭わないように守ってるだけさ」
かなり警戒されてるというのにこの杏子(?)は何の躊躇いもなくそうきっぱり言い切った。
表情も「それ以外何がある?」と不思議そうな様子だ。ある意味凄い。
「本当かい・・?」
「ふん、そんな詮索してる暇あるのかよ?早くしないとマミの奴、頭から丸かじりにされるぞ?」
「え?何でその事・・?」
「さあな?説明する義務はあるのかい?」
「あるさ。出来れば君も一緒に来て協力してほしいからね」
「! そうだよ杏子・・さん?一緒に来てよ!君がいれば百人力間違いなしだ!」
シロべえに便乗して俺も杏子(?)の勧誘に乗り出した。
頼む!いいと言ってくれ!大事な師匠の命がかかってるんだぞ!?
「・・・・・」
しかし杏子(?)の肝心の反応はいまいちで俺たちを冷めた目で見ている。
「やだ」
「え!?何で!?」
ぷいっと顔を逸らされて却下されてしまった。
何でダメなんだ?まさか本当に見捨てるつもりかよ!?
「悪いな。アタシは行けないんだ。個人的にマミの勝手な振る舞いにもムカついてるしさ」
「そんな個人的な理由で助けないの?」
「まあ、それもあるが一番の理由は違う。ていうか正直言うとあんな危険な場所に優依が行くのを阻止したいんだけどな?」
「!」
それだけ告げてチラッと俺の方を見る杏子(?)に反射的に身を固くしてしまう。結構ガチトーンで言ってたから本気にしか思えない。
「はあ、そんなに警戒しなくてもしないからそう怖がるな。アタシはマミを助けるのに協力できない。・・もういいだろ?アタシは行くからな」
「大丈夫だよ。協力は得られなかったけどある程度情報は得られたからね」
「・・そうかい。ただ二度目はねえぞ?今度優依を囮になんてしたら首と胴体繋がってないと思え。分かったな?」
「分かってる。肝に銘じておくよ」
シロべえに向かって脅しに近い低い声でそれだけ告げて杏子(?)は背中を向けて歩き出そうとしていた。
このままだとすぐいなくなるだろう。
「あ!待って!」
「優依!彼女に近づいたら危険かもしれないよ!」
シロべえが厳しい声で警告するも俺はそんな事には構っていられない。
俺のセコムしてたっていうのが本当ならこれからも続けてもらわなくちゃ困る!絶対に困る!
この先どんな危険があるか分からないのに今回の事でへそを曲げられて守ってもらえなくなったら洒落にならん!
さっきから何だか杏子(?)の機嫌が悪かったからここで直していってもうらわないとまずい!
「杏子!」
「ひゃ!?・・・優依?」
そのまま去ろうとする杏子(?)を逃がさないため彼女の背中に思いっきり抱き付く。
なんか女の子らしい声が出てきた気がするんだけど今は気にしていられない。
「杏子!今回もそうだけど今までの事もお礼が言えてなかったね?ありがとう!杏子のおかげで今もこうして生きてるよ!魔女はとっても怖いけど杏子がずっと守ってくれたって知れて本当に心強いよ!おかげでこれからも頑張れる気がする!」
暗に”これからも守ってくれ”と伝えつつ背中に抱き付いたまま満面の笑顔でお礼を言っておいた。
人間感謝されればそれだけで機嫌が直るというものだ。
これからも彼女には頑張ってもらわねばならないからな!俺の生存のために!
そのためならこれくらい安い安い!
「・・優依は本当に可愛いな」
眩しそうに目を細めて俺を見る杏子(?)はこちらに向き直り俺の右手を取って持ち上げる。
「え?・・え!?えええええええええええええええええ!?」
俺は思わず声をあげてしまった。
だって・・だって・・!
杏子(?)が俺の手の甲にキスしてるんですけどおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?
え?なにこれどういう事!?
お前いつから騎士みたいな事するようになったんだ!?
「いつもとは言えねえけど危なくなったらこれからも助けてやるからな」
「な・・ななな・・・な」
俺の手の甲から唇を離した杏子(?)は慈愛に満ちた表情で俺を見つめてそうはっきりと告げる。
混乱してて声が出ないけど言ってる事は理解できた。
どうやら杏子(?)はこれからも俺を守ってくれるつもりらしい。
それはとっても嬉しいが出来ればさっきの行為の意味を説明してください!
「ほら時間もないから早く行け。マミを救うんだろ?」
「きゅぷ!?」
「わ!ちょっと背中押さないでって・・あれ?杏子?」
いつの間にか近づいてたシロべえは蹴っ飛ばされ、そして俺は背中を押されて倒れそうになるも辛うじて踏みとどまる。
文句を言おうと振り返るもそこには杏子(?)の姿はなかった。
あたりを見渡してみるも人影らしき姿もない。まるで幻が消えたみたいに痕跡はなくなっていた。
これが幻じゃないという証拠は俺の手の中にあるグリーフシードだけだ。
「消えた・・・?何だったんだ一体?」
「さあね。分かるのは彼女は優依の知ってる佐倉杏子じゃないという事と随分と君にご執心らしいという事かな?」
「それとこっちの情報もある程度知ってるみたいだったな」
「それもあるね。とにかく今後も接触するかもしれない。用心に越した事はないね。彼女は何だか不気味だ」
「そうか?違和感を感じたけど杏子に思えるぞ?」
さっきの杏子(?)の正体をシロべえと考えてみるも情報が少なすぎてさっぱり分からない。
シロべえはあの杏子(?)の事をかなり警戒しているみたいだ。まあ怖い目に遭ったから当然か。
だけど俺はあまり警戒していない。俺の事を守ってくれてたみたいだし敵じゃなさそうだ。
これからも頼りにしています!杏子(?)セコムさん!
「ワルプルギスの夜」を倒すまで警護お願いしますね!
それから先はプライバシーの問題で遠慮しますけど!
「! こうしちゃいられない!早く病院に行かなくちゃ!」
「そうだね急がなくちゃ!」
色々と謎が深まったがそれは後回しだ。今はマミちゃんの事に集中しなくちゃ!
俺達はその場を後にし急いで病院に向かって駆け出した。
そして俺は今夜のシロべえのご飯はなしと心に決めた。
今まで優依ちゃんを守っていたのが杏子ちゃんだと判明しましたが更に謎も深まりました!
この杏子ちゃんは一体何者なんでしょうかねー?
いつか分かると思いますよ?