シロえもんの力を借りてマミかちゃんの所にたどり着いた優依太君。
しかしそこには恐ろしい敵が待ちかまえており絶体絶命のピンチ!
果たして優依太君はマミかちゃんを救う事が出来るのか!?
「え・・?」
目の前で大きな口を開けていてマミろうとしていた元なぎさちゃんが何故か遠く離れた壁に激突している。
「間に合った!」
何が起こったのか皆目見当つかなかったが俺の隣でカツンと何か金属を叩き付けたような音が響く。
「うわ!?」
何だろうと顔を横に向けるよりも先に腕を引っ張られる。
その際にマミちゃんを離してしまい時間停止が発動して地面に倒れる寸前で停止した状態で固まっている。
抵抗虚しく何かにすっぽり俺の身体を覆われる。感触は柔らかい・・?
正体を確かめようと顔を上げようとするも頭を押さえつけられているから視界が真っ黒で何も見えない。
「???」
「無事で良かった。優依、もう大丈夫だぞ」
「・・へ? ぐえ!」
とっても聞き覚えのある声にポケーっと呆けるも徐々にギューとキツく身体を圧迫されて呼吸が苦しくなり生命の危機を感じ始める。
苦しい!酸素!酸素!
「ぷは!死ぬかと思った!・・ん?」
なんとか酸素を求めて顔だけ拘束から抜け出し俺を窒息死寸前まで追い詰めた犯人の正体を見るため目を開けた。
「・・・・・・・・・・」
とっても見覚えのあるその顔と至近距離で目が合う。
相変わらず赤い瞳がよくお似合いで。
距離が近いから息がかかってくすぐったい。
もう少し離れてくれないと一歩間違えればマウストゥマウスしそうだ。
そう、俺を助けてくれた者の名は・・・・!
「ジャイ杏!」
「あぁ?」
鋭い目で睨まれてしまった。超おっかない。
そんなんだから俺やシロえもんに「ジャイ杏」って呼ばれるんだろうが。
凄まじい眼力を至近距離でモロに受けてしまい怖くて逃げだしたいけどジャイ杏こと佐倉杏子はガッチリ俺を抱きしめていて全く離れる素振りがない。
何でだ?マジで怒ってる?
ていうか、前に助けてくれた時もこうして抱きしめられた気がするけど俺の気のせいか?
取りあえず今は怒りを鎮めなくては!そのためには怖いけど話しかけるしかない!
現に今も凄いプレッシャーを感じるし!頑張れ俺!
「杏、子?えっと・・さっき助けてくれた方の・・?」
目の前にいるのが俺の知ってる杏子かドッペルゲンガー的な存在の杏子(?)か知りたかったので聞いてみる。俺の勘は後者だと囁いているけど果たしてどっちだ。
「そうだよ。・・たく、また危ない目に遭いやがって」
この反応から目の前にいるのはさっき「セーラー蜘蛛戦士」から俺の助けてくれた杏子(?)だというのは理解出来たけどやっぱり俺の知ってる普段の彼女に似つかわしくない我慢強さに違和感を覚える。
「はぁ・・こんな事ならあの時ロープで括りつけておけば良かったか?今度からそうしてやろうか?」
「いや、それは勘弁!」
やれやれといった様子でとんでもない事を仰られるので激しく両手を振って全力で拒否の意思を表現しておく。
だって目が本気と書いてマジだもの!
「だったら次はもっと気を付けろ。これでもアタシなりに譲歩してるんだから。・・本当は目の届く場所にアンタを閉じ込めておきたいけどそんな事出来ないしさ」
そんなガチトーンで不穏な事言わないで欲しい。
心配してくれてるのは正直ありがたいが本気で実行されたらたまったもんじゃないから。
ていうか、
「・・何で動けんの?一応まだ時間停止は起動中なのに・・」
この不穏な雰囲気から話題を逸らすために振ってみたが改めて考えてみると結構大事な事に今更気づいた。
念のために最悪のデザインセンスな腕時計を確認するも起動中と表示されており、まだ解除まで五分はある。
つまり俺以外は時間停止されてるはずなのに杏子(?)は平然と動いている。何故だ?
少し考えてひょっとして俺が触れてるから時間が動いてるのかもと思い、試しに彼女から離れてみるも平然と俺を眺めながら腰に手を当てている。
さっき杏子(?)に引っ張られて、手を離してしまったマミちゃんは地面に倒れる寸前の構図で空中で静止しているというのにこれはどういう事だ?
! ひょっとして奇跡のポンコツ具合で杏子(?)には効かなかったとか?
元なぎさちゃんみたいに?
だとしたらありがたい!
これで俺のマミる可能性はなくなったに等しいというものだ!
良かった!天(邪神除く)は俺を見捨てていなかったんだな!
ありがとう感謝します!
「アタシにそれは通用しないよ」
「え?」
ひたすら天に感謝の祈りを捧げていたから最初杏子(?)が言っている意味が分からなくて聞き返すも、視線がぶっちゃけ見て欲しくない黒歴史な腕時計に注がれているので「それ」を指しているのものが嫌でも理解出来た。
「理由は話せないけどそのダサい腕時計の時間停止は全くアタシには効かないのさ」
「そ、そっか」
戸惑いながらも頷いておく。
何でこの目の前にいる杏子(?)に時間停止は通用しないのか全然分からない。
一つだけ分かる事はやっぱり第三者から見てもこの腕時計はセンスないという事だけだ。
早急に外したくなってきたなぁ。
あれ・・・?
そういえばこの腕時計、シロべえが言ってたけど確か時間停止の対象外は俺の因果だと言っていた。俺以外に効かない奴がいるとしたらそいつは俺の因果を持ってるって・・。
その理屈で言えば時間停止が通用しないこの杏子(?)は俺の因果を持ってるって事になるんじゃ・・?
「貴女は本当に誰ですか!?」
たまらず俺は叫んでしまったが膨らんだ恐怖を押し戻すことが出来ない。
人間、得体の知れない存在に出会うと恐怖を覚えるって本当なんだね!
今日一番の恐怖体験だ!まさかあのなぎさちゃんを超えるなんて!
「急になんだ?佐倉杏子だっつんてんだろ。何回言わせんだよ」
「またか」という呆れの視線が突き刺さるもますます得体の知れない存在と化していく疑惑の杏子(?)からすぐに後ずさって距離を取る。
マジでこの杏子(?)何者!?
もはや魔法少女すら越えてる気がするぞ!実は宇宙人だったりしない!?
「はあ。・・まあ勝手に怖がってくれても良いけど今は時間がないからそろそろ行くぞ」
「! うわ!?」
距離を離したはずなのに目の前に赤色が過り視界が反転して身体が宙に浮く感覚がする。
「え?ええ?」
「口閉じないと舌噛むぞ?」
よく見ると俺、杏子(?)にお姫様抱っこされてるうううううううううう!?
驚く俺を安心させるように優しく微笑んでくれるがぶっちゃけ脳内パニックを起こしてる俺にとっては全く安心出来ない。むしろ恐怖が倍増するだけだ。
混乱してる間に景色が少しずつ変わっていく。いや、俺を抱えた杏子(?)が移動してる。どんどん出口に向かっている気がする。
「ちょ、杏子どこ行くの!?」
「どこって、優依をここから避難させるんだよ。危ないからな」
しれっとそう言い切ってスタスタ歩いている。その足取りに迷いは一切感じさせない。
「あの!それはありがたいけどせっかく時間も止まってる事だし魔女(元なぎさちゃんには悪いけど)倒してよ!そうじゃないとすぐにでも襲い掛かってくるよ!」
慌てて周囲の様子を見る。
すっかり忘れてたけどここはお菓子の魔女もとい元なぎさちゃんの結界の中だ。
まさかの時間停止が解除され動き出すなんて洒落にならん!マジでシロえもん殺す!
そういえばマミられそうになった直前、真横に吹っ飛んでた気がするけど杏子(?)がやったのだろうか?
「・・て、あれ?動かない・・?」
探さなくても簡単に元なぎさちゃんは見つかった。
吹っ飛んだ方向にいるにはいたが壁に激突したままで元なぎさちゃんはピクピクと黒い大きな身体を小刻みに動かしているだけで起き上がる様子がない。余程強い衝撃を受けたみたいだ。
「さっきの攻撃で気絶させた。あの程度の魔女ならアタシの敵じゃないし」
何ともない風に言ってのける頭上の杏子(?)に畏怖の念を込めて見上げる。
本当に何とも思っていないのか涼しい表情だ。
「だったら今の内に倒しとこうよ!絶好のチャンスじゃん!!」
「悪いけどアタシが優先するのは優依の安否だ。いくらアンタの頼みとはいえ魔女を倒すなんて二の次さ。どうせこの後すぐやって来るほむらが倒すだろ?勝つって分かってるのに戦うなんて面倒なだけだし、他の連中、特にインキュベーターに姿を見られるのはちょっとまずいんだよね。目の前で魔女を倒したりなんてしたら怪しまれそうだし」
「そ、そうかもしれないけど!常識人枠の君までまどか最優先のほむらみたいな発言しないでくれ!魔女を倒さなくてもいいからせめてマミちゃんをどこかに避難させよう!このままじゃマミっちゃうし!」
「大丈夫だろ。不意を突かれなきゃマミは強いし、仮にもアタシの師匠だ」
「今は不意突かれてマミられそうになってるから!お願い杏子!せめてマミちゃんを避難させるの手伝って!」
「・・・・・・・・」
「・・ダメ?」
「うっ・・」
半ば本気で目をうるうるしながら見上げていると頬を赤く染めてたじろぐ杏子(?)の顔が見えた。お、これはイケるか?
「はあ・・・しょうがねえな。今回だけだぞ」
「やった!杏子ありがとう!」
諦めた表情で折れてくれた杏子(?)の首にギュッと抱き着いて全身で感謝を表現。
「どういたしまして」
「!?」
これが俺の知ってる杏子なら慌てふためくはずなのに目の前のコイツは更に俺を抱き寄せて密着度を上げてきた。
ついでに俺の頭頂部付近で奴の吐息を間近に感じるんだけど何やってんのコイツ?
「・・優依、マミを連れてくるから一旦離してくれるかい?」
「え?うん」
首から手を離すと地面に優しく降ろしてくれた。
そのままマミちゃんがいる所に駆けていく。
「ふぅ・・」
安心して一気に脱力感に襲われ目線を下に向けるもこれで一安心だ。
良かった。これでマミちゃんマミらなくて済みそうだ。
-ガンッ-
「!? マミちゃん!?」
何か金属をぶつけた音がして慌てて顔を上げる。
ダランと動かないマミちゃんを杏子(?)は背中の服を掴んでずるずる引きずりながらこっちに向かっているのが見える。
肩にかけているいつの間にか取り出していた槍の柄が心なしか赤い液体がついてる気がするのは俺の幻覚?
何度も目を擦ってる内に俺の所まで運ばれたマミちゃんはよく見ると頭部には柄と同じ赤い液体が付着していた・・・。
「連れてきたぞ優依」
「・・・・・・・」
「優依?」
「人殺しいいいいいいいいいいいいいいいい!完全に人殺しだよお前!!」
「あん?気絶させただけだ。マミに見つかると色々面倒だしさ。そもそもアタシら魔法少女はソウルジェムさえ無事なら死なないし」
全く悪びれた様子のない態度でマミちゃんを首根っこを掴んでいる。
完全に物扱いですよ!仮にでも君の師匠なのに!
「それ自白したようなもんだよ!?俺の想像通りでいいの!?君が槍の柄でマミちゃんの頭を殴ったって事でいいの!?凄い音したけど何か恨みでもあんの!?」
音と怪我の状態から渾身の一撃をお見舞いしたように思えるけどそこまでやる必要あるか?
私怨が混じってたとしか思えないぞ。
「まあ、このマミは優依を危ない目に遭わせてたしな。それのお仕置きも少しあるが・・。で、どうするんだ?マミがいなくなってからほむらが来るまでの時間、まどかとさやかが危ないぞ?」
「それもあるけど・・げ!」
さり気なく話題を変えられた事に突っ込もうとしたけど、ズズッと何かが這いずる音がしたと思ったら元なぎさちゃん復活してて俺たちを見下ろしている。
相変わらずにっこり笑って舌なめずりをしていらっしゃった。
「いやああああああああああああああ!トラウマ復活したああああああああああああああああ!・・ひえ!?」
叫んでて見過ごしたけどいつの間にかなぎさちゃんが地面に叩き付けられてる。
杏子(?)の周囲に槍が鎖を纏って宙に浮いている事から察するにどうやらまた目で追いつけない程の速さで攻撃したらしい。そんなに強いならそのまま倒してくれても良くないか?
「もうすぐ時間が元に戻る。優依!仕方ねえからお前が持ってる身代わり人形を出せ!囮に使うぞ!」
「え!? はい!」
この際、杏子(?)がどうして身代わり君の事を知っているかなんてツッコまない。
すぐに隠し持っていた新しい身代わり君を取り出して何を思ったのかマミちゃんの指でボタンを押させた。
あっという間に身代わり君はマミちゃん(魔法少女ver)に姿を変える。
「ごめん!マミちゃん(身代わり君)!マミちゃんの代わりにマミられて!」
テンパってる俺って本当に何するか分からない。
何気にえげつない事を命令してしまい後悔に苛まれるもマミちゃん(身代わり君)はコクンと頷いて元なぎさちゃんの方に走り出してしまった。元なぎさちゃんの方もマミちゃん(身代わり君)に狙いを定めたのか大きく口を開いて向かっている。
グロイ場面なんて見たくない俺は慌てて引き留めようとするも腰に何かが巻き付いてそのまま後ろに引っ張れ宙を舞う。
「よし、ここに隠れてやり過ごすぞ。仮に襲ってきても守ってやるけど大人しくしとけよ優依」
「はーい・・・」
杏子(?)に連行され気づけば隅っこにあったお菓子の物陰に座っていた。
傍には本物のマミちゃん(仮死状態)がうつ伏せで倒れている。
気を失っているとはいえ、ピクリとも動かないのは心配だ。
さっきの一撃が致命傷になってなきゃいいけど。まさか死んでないよね・・?
「・・・・・」
それにしても杏子(?)さん。
隠れるのは大賛成だけどスペース充分あるんだからこんなに密着しなくてもよくないですか?
お互いの距離ゼロよ?しかもご丁寧に人の肩に手を回して更に密着度増してるし。
「解除まであとどれくらいだ?」
「んー・・あと一分かな?もうすぐ解除されるよ」
「そうか」
腕につけてある時計は六十秒を切ってカウントダウンが始まっている。
こんな緊迫した雰囲気の中でなんて嫌な仕掛けなんだ。プレッシャーに弱い俺にとってはテンパる要因にしかならないというのに。
ふむ・・まだ解除まで時間があるのか。
「・・あのさ」
「ん?何だ?」
杏子(?)が俺の方に顔を向けてきた。近い近い。
まだ時間もあるし聞きたいことがあったからこの際聞いてみようと思ったけどやりづらいな。
「さっきは行けないって言ってたけど結局ここに来て俺を助けてくれたじゃん。それなら先回りして魔女を倒す事も出来たんじゃないの?さっきの実力も圧倒的だったし。もう相変わらずツンデレさんだなぁ杏ちゃんは!」
そうなのだ。俺が思った疑問。
この杏子(?)はどうして今更現れた?
これだけ強くて前の会話からマミる未来の事も知ってる素振りを見せていた。
それなら先に結界に侵入して魔女を倒す事だって出来たはず。
どうしてそれをしなかったのか不思議で仕方がない。
俺の質問が気に入らなかったのかフンと鼻を鳴らして不機嫌そうな顔をしている。やべ、怒らせた?
「誰が杏ちゃんだ。勘違いすんな。そもそもここに来たのは優依が危ない目に遭ってたからで本当に来るつもりじゃなかったんだ。お前がいなきゃ誰が行くかよこんな場所」
「えー・・・・」
「あと今後のために言っとくけどアタシは優依が近くにいないとこっちに来れねえ上に長時間留まれない。状況によっては助けたくても助けられないかもしれないんだ。今回だって結構無理して来たんだからな」
「え?そうなの?」
意外な事実に目を丸くする。
どうしてそんなややこしいハンデがあるのか知らないけど先回りしなかった理由は分かった。
それとピンチになったら杏子(?)セコムに頼ればいいやと思っていた俺の浅はかさも。
つまり絶対助けにきてくれるわけじゃないって事か。
助けを求めながら死ぬとかやだ!今度は気をつけよう。
てか、危ない目に遭わないようにしよう!
て、そんな事考えてる場合じゃない!
少しでも情報を入手しておかないと!
最悪コイツが敵か味方かくらいはハッキリさせておこう!
「あのさ・・来れない理由を聞いてもいい?というより杏ちゃんってぶっちゃけ敵?味方?何者?」
何だこの質問?俺のバカ!
もっとマシな質問の仕方があっただろうが!
どんだけテンパってんの!?
怒らせたかもと思い恐る恐る杏子(?)を見るが意外にも怒っておらず申し訳なさそうにしてた。
「悪いけどそれは言えない。事実を話したらどういう影響が出るか分かったもんじゃないからな。ごめん。ただ一つ言えるのはアタシは優依だけの味方だ。お前を悲しませる奴はみんな許さないし傷つける奴は全部叩き潰してやる」
「いえ!それだけ聞ければ充分です!むしろそれ以上の情報はこちらから願い下げです!ありがとうございました!」
マジな目と真剣な声色、洒落にならないオーラを感じて慌てて頭を下げておく。
これ以上触れたら駄目な領域だ!
奥まで踏み込んだら戻らなくなりそうな気がするぞ!
頭の片隅で好奇心は猫を殺すという諺が浮かぶ。
頭を下げている間にガチリという機械音が腕時計から響き、
ついに長いようで短かった時間停止が解除された。
皆の時間はこれで動き出し、決着の時が訪れる。
囮にマミちゃん(身代わり君)がいるしマミる予定は・・・。
げ!ちょっと待って!
本人じゃないけどこのまま行けばどのみちマミる現場が出来上がるんじゃ・・?
「ひ!」
「二人とも!願い事を決めるんだ!」
やっぱりいいいいいいいいいいいいいいい!!
背後からまどかかさやかの小さな悲鳴とキュゥべえの営業トークが聞こえてくる。
そして何かが何かををグチャグチャと咀嚼する音。
どう考えても絶賛マミる(身代わり君)進行中のようだ。
うぅ・・怖い。でも怖いもの見たさもあるし覗いてみようかな・・?
学習しない俺は好奇心に負けて恐る恐る現在進行形で続いているであろうマミる光景を見ようとするも、
「あれ?・・杏ちゃん?」
≪ほら、これで大丈夫だろ?≫
何も聞こえない。何も見えない・・?
俺の耳にそっと何かで塞がれて一切音がしなくなり、そのまま引き寄せられて何か柔らかいものに顔をダイブさせられた。
杏子(?)の声が頭に響いて来たから、奴の仕業なのは間違いない。
大方手で耳をふさいでいるのだろう。
ならば、視界いっぱいに広がる赤と顔に当たっている柔らかい膨らみを察するに・・・これは!
「~~~~~~////!!」
≪暴れんな。大人しくしてねえと見つかっちまうだろ≫
俺の今の状況を察して何とか抜け出そうともがくもガッチリ顔を掴まれ膨らみに押さえつけられている。
逃げられない!どうしよう!?
幸せだけど俺セクハラで訴えられないよね!?
≪しばらくこうしててやるから安心しろ≫
何をどう安心すればいいのか分からない。
取りあえず早く離してくれ!てか俺、実はマミる見たいんですけど!
「どうやら終わったみたいだな」
「・・へ?」
バッと離され、訳が分からずぐいっと顔を向けられた先には真っ赤な液体が地面に広がっていた。
どうやらマミる(身代わり君)は終わったらしい。
「・・・・・・・」
「良かった。偽物とはいえお前の綺麗な目にあんな光景を見せるわけにはいかないからな」
茫然とする俺の頭を優しく撫でる杏子(?)の手が何故かグサッと来る。
どうせ見たって後悔したんだろうけどさ・・うん。
過保護だねこの人・・・。
マミちゃん(身代わり君)を捕食したらしい元なぎさちゃんは今度はまどかとさやかがいる方を見ている。
二人は抱き合って震えており、その隙をついて鬼畜営業マンが尚も営業を続けている。
これはヤバいか・・?ほむらはまだ?
「その必要はないわ」
「あ、来た」
一際響く声で結界全体に広がり全員が最深部にある一つの穴を注視している。
「こいつを倒すのは私」
出てきたのは予想通りやっと到着したほむら。
宙に一回転して着地する姿は満点をあげたい。
シロべえの言っていた事は正しかったようだ。
ほむらはマミちゃん救出に間に合わなかった。もしあいつが俺をここに強制的にテレポートさせなかったらと思うと恐ろしい。
この後は原作通り、ほむらは時間停止の魔法を発動させて元なぎさちゃんを翻弄。
まんまと罠に引っかかった元なぎさちゃんは爆弾を食べている。
「終わったな」
「うん、終わったね」
元なぎさちゃんの口の中で黒い煙が立ち込める。
この後、連続で爆発して倒されるのも時間の問題だろう。
ごめんよなぎさちゃん!
俺は君を助ける事が出来なかったけどいつか君を救ってくれる女神様が現れるから希望は捨てちゃ駄目だよ!
だから間違っても夢枕に立って恨み言とか言わないでね!
「それじゃアタシは帰るよ」
「え・・帰るの?」
「あぁ、決着はもう着いたし」
杏子(?)が立ち上がって俺の頭を撫でている。
人を子供かなんかと勘違いしてるんじゃないだろうか?俺によく触ってくるし、なんか過保護だし。
「あ、それとここから出たらシロべえの馬鹿に伝えとけ。ぶっ殺すってな」
「はい!」
怨念のこもった声に思わず高速で首を縦に振る。
よっぽどシロべえに怒っているらしいのか顔が恐ろしい事になっている。いいぞ、もっとやれ。
あ、また助けてもらえるようにお礼言っておかないと!
「また助けてくれてありがとう!これからも頼りにしてるよ!」
にっこり営業スマイル!これくらいお手のものだ。
「あんまり頼りにすんなよ?いつでも助けにいけるとは限らねえんだから」
「分かってるよ!それでも杏ちゃんが来てくれると嬉しいよ!(守ってくれるから)」
「~~~ああもう!可愛すぎんだよお前は!」
「?」
顔を真っ赤にした杏子(?)が俺の肩を掴みグイッと自分側に俺の引き寄せる。至近距離に杏子(?)の顔がある。
「ひゃあ!?」
直後に頬に柔らかいものが当たり、慌てて杏子(?)を見ると悪戯が成功したみたいな笑顔を浮かべていた。
「本当はこっちにやりたかったんだけどな」
「????」
混乱する俺の唇に親指を這わせている。
何度も爆発音が聞こえたいたはずなのに今は全くそんな事が気にならない。
てか、聞こえない。周りに音が存在しないみたいだ。
「あんまり可愛い事すると歯止めが効かないから自重しろよ?」
耳元でそう囁かれたと同時に空間が歪み元の病院に戻っていたが杏子(?)の姿は消えていた。
いるのは俺と気を失ったマミちゃんだけ。また杏子(?)は煙のようにいなくなっている。
「・・・修羅場ってんな」
考えても仕方ない。
状況整理とまどか達の居場所を探すため周囲を見渡していたが遠くでさやかの怒声が聞こえたので俺がいる木々の先を覗いてみると丁度三人を発見した。
さやかがほむらの襟元を掴んで泣きながら叫んでいるという中々修羅場っぷりだ。
どうやら向こうからはこちらが死角になっているらしく俺たちに気づいていない。
ここは俺が声を掛けた方が良いだろう。
「優依ちゃん・・?」
そう思って足を踏み出した矢先、下から俺を呼ぶ声が聞こえて顔をそちらに向ける。
「あ、マミちゃん気づいた?良かったー。マジで死んだかと、はむ!?」
「本当に優依ちゃんなのね?」
死の疑惑があったマミちゃんが目を覚ましたのは良かったけど突然俺の頬をサンドしてムニムニと挟みながら触れている。
今の俺の顔はマヌケな表情でとても見れたものじゃないだろう。
俺はどうしてこんな事に?
マミちゃん頭殴られておかしくなったのか?
「優依ちゃぁん・・大丈夫?怪我はない・・?」
「マミちゃん!?ぐは!?」
ポロポロと目から涙を落とし、力の限り俺を抱きしめる。
尋常ない力に背骨がミシミシいっている。これはさっきの杏子(?)の比じゃない!
「大丈夫!大丈夫だから!でも急いで離してくれないと大丈夫じゃないかも!もしくは抱きしめる力を緩めるのでも可!」
「嫌よ!こうやって優依ちゃんを抱きしめるのなんて久しぶりだもの!ずっとこうしていたいわ・・!」
「せめてもう少し力を抜いて!俺死んじゃう!」
非常に柔らかい質量に挟まれ心地よいが拘束力が笑えない。
マミちゃんは俺を殺す気かもしれない!
本人の説得は不可能みたいだ!自身が死ぬかもしれない状況下にあったからか錯乱状態だ。
く・・!こうなったら!
意識が若干薄れて来るが最後の希望を込めて後ろを向いている黒髪に向かって叫ぶ。
「ほむら助けて!こっち向いて!俺をマミちゃんという名の天国みたいな地獄の拘束から解放してくれ!」
マミちゃんに対抗出来るのはほむらしかいない!
奴が来てくれたら俺は解放される!
そう思って助けを求めるもほむらは背中を向けたままで反応してくれない。
「おいほむら!無視してんじゃねえぞこらあああああああああああ!」
あいつ心なしか身体震えてない?俺の醜態を笑ってんのかコラァ。
「ちょっとほむら!ほんと助けて!今洒落にならないくらい死にそうだから!」
俺が必死に叫ぶ間もマミちゃんはどんどん抱きしめる力を上げていく。
やば・・意識が遠のく。
マミるが解決したのに俺が死にそうって何それ・・面白くないわ・・。
「マミさん!?」
「え?ホントだマミさんだ!」
「! 巴マミ!優依を離しなさい!顔が真っ青よ!!」
「!? 優依ちゃん大丈夫!?しっかりして!!」
意識が朦朧とする中、こちらに気付いたらしい皆の声が遠くから聞こえてきた。
こっちに向かって走る足音が複数聞こえる気がする。
出来れば・・もう少、し・・早く気付いて欲しかった・・・よ・・
結局全部おいしい所は杏子(?)ちゃんに持っていかれましたw
少しだけ彼女の事も判明しましたがまだまだ謎は多い!
あんまり出番なかったけどマミちゃん編はまだ続きます!