魔法少女オレガ☆ヤンノ!?   作:かずwax

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いろはちゃん番外編、本編二話分の文字数軽く超えてる・・。
それに比例して投稿までの作業も軽く二倍超えてる・・。

正直、今週はもう投稿無理だと本気で思ってましたが何とかなりましたw


番外編 もしも神原優依がマギレコの世界に転生していたら 環いろはの場合②

「・・・うぅ」

 

 

小さく呻く声が聞こえてくる。

試しに俺の目線より下にいる目に優しいピンクさんの方に顔を向けると予想通り「環いろは」が目を覚ましたらしくうっすら目を開いている。

 

 

「起きた?」

 

「モキュ!」

 

 

突然気を失ってしまった環さんの容体を確かめるため顔を覗き込む俺とチビべえ(=小さいキュゥべえ)。

 

気絶した理由は分からないがチビべえを抱きしめた瞬間にいきなり環さんが倒れてしまったのでひょっとしたら単なる貧血とかじゃなくてマジでこの白い悪魔が何かやらかしらのだと思ってビビった。

 

気を失ってすぐ容体を確認してみると呼吸ははっきりしていたからおそらく大丈夫だろうと思い目を覚ますまでベンチで寝かせ待機していた。

 

俺の本音としてはそのまま放置して帰りたかったが流石にかなり暗い人通りの少ない公園の中に意識のない女子中学生を放置出来ないし、神浜での死亡フラグ遭遇率を考えると一人で歩くのは危険過ぎると判断したので渋々留まっていたのだ。

 

 

気づけばもう辺りは夕暮れなんてとっくに終わって真っ暗です。泣きたい。

 

 

環さんが目を覚ますまでぶっちゃけ暇なので彼女の様子を見つつそこら辺に生えていたねこじゃらし草を引っこ抜いてチビキュゥべえと戯れていた。

 

環さんが気絶してから何故かコイツは逃げる事はせずそのままここにいる。

最初は姿は多少違えどあのインキュベータ―な訳だし警戒していたがしばらく一緒に過ごす内に少し打ち解けた。

言葉も話せないようで「モキュ」しか言わないし見た目通り可愛いので今の所無害だ。

 

そのため勝手に命名。

「チビべえ」と名付けておいた。

 

無害だがあくまで今のところなだけだ。決して油断はしない。

なんせ劇場版で奴らはただのマスコットのフリをしていた前科があるし、今回も油断させる作戦なのかもしれない!

油断した時に背後から・・なんて冗談抜きでありえそうで怖い!

絶対にコイツに隙を見せないようにしないと!

 

 

 

まあ、それも環さんが目を覚ますまでの辛抱で今は彼女も目を覚ましたしこれで絡む事もないだろう。

 

 

思考を切り替え、寝起きだからかボーっとしてる環さんに近づく。

しかし彼女は心ここにあらずといった感じで俺の接近に気づいていないのか顔を上げない。

 

 

「気分はどう?いきなり倒れてビックリしたよ」

 

 

仕方ないので直接顔を覗き込んで体調を聞いてみる。

律儀な環さんならちゃんと答えてくれるだろう。

 

 

「・・・・・」

 

 

え?無視?無視なの?

 

 

どれだけ待っても全く返事をしてくれない。

 

 

無視された事にショックを受けつつ様子を見ると俺の言葉どころか存在すら無視していそうな環さんはどこか思い詰めたような表情で俯いてる。

落ち込んでいるのは明らかだがいかんせん何か反応してくれないと流石に対応の仕様がない。

 

 

これはどうしたものか・・。

 

 

「・・・うい」

 

 

ようやく口から出た言葉は俺の予想外の言葉で反応に困る。

 

うい?え?独り言?

言葉を発したのは良いが何それ?新しい返事なのだろうか?

 

 

「何でこんな大事な事忘れてたんだろう・・?」

 

「環さん?」

 

 

か細い声でそう告げた環さんは自分を抱きしめて小刻みに震えだす。

そのまま顔を下に向けているから表情が見えなくてどう対応していいのか分からずオロオロするしかない俺って一体・・。

 

 

「・・・・ぐす」

 

 

突然聞こえる何かをすする音。

環さんの顔から落ちる小さな液体の一粒。

 

それらを総合して考えるとある一つの仮説が成り立つ。

 

 

彼女はまさか・・泣いている!?何故!?

 

え?俺なんかした!?寝てる間になんかしたっけ!?

ねこじゃらし草振り回してだけなのに!

まさかそれが原因なのか!?

 

考えても考えても今日会ったばかりの人だし思いあたる節はない。

俺が頭を捻っている間も環さんは静かに泣き続けている。

 

 

慰めたいのは山々だ。しかし俺の勘が囁いている。

 

 

 

主人公が泣いてるという事は大体厄介事が絡んでいると!

 

 

これに関してはほぼ間違いないと踏んでいる!

だって主人公がいきなり倒れて目が覚めたら泣き出すんだもん!

絶対厄介ごとに違いない!

 

関わらないのが吉!うん、そうしよう!

よし!環さんは今お取込み中みたいだし第三者が口を挟んで邪魔しちゃ悪いから今の内にトンズr、退散してしまおう!

 

俺が一人でいる時に魔女と出くわさないか賭けだが目の前で見るからに厄介事ですよーと言わんばかりのシチュエーションが転がっている事に比べればマシなはずだ!

 

 

ごめんね環さん!何かお困りみたいだけど俺は力になれそうにないよ!

てか、俺関係ないし!一般人Bだからマギレコ主人公とは何の関わりもない!

相談ならこれから会うかもしれないレギュラー陣にしてくれ!

 

俺は(ヤバそうな)相談なんてお断りだ!

 

 

そろっと立ち上がるも環さんは嗚咽を交えながら本格的に泣き出しているためか俺に気付いていない。これは絶好のチャンスだろう。

 

 

逃げるなら今だ!

 

 

「何かお取込み中みたいだから俺はこの辺で、「モキュ!」げ!離せ!」

 

 

聞いていないであろう別れの挨拶をしつつそそくさ逃げようとする俺を阻止するためかチビべえが足にしがみついてきた。

すぐに引き剥がそうとしても全く離れない。なんて力だ!

 

 

「マジかよコイツ!力強っ!?」

 

「モッキュ!」

 

「うい・・今まで忘れててごめんね」

 

 

俺がチビべえと格闘してる中、環さんは泣きながら誰かに向かって謝っている。

事情は分からないが深刻そうだ。誰か優しい人がこの光景を見たらきっと手を差し伸べるだろう。

 

だが俺は違う。聖人君子でもなんでもない。

ただの性転換した一般人だ。

 

 

はっきり言おう!俺はもう一ミリも関わりたくないんだ!

一刻も早く環いろはから離れたい!

神浜から脱出したい!もううんざりなんだよ!

死亡フラグに怯えるなんざ二度と味わいたくない!

 

 

その思いを力にこめて必死にチビべえを引き剥がそうとするも一ミリも動かない。

 

 

「モギュゥゥゥゥゥ!!」

 

「痛てててててててて!」

 

 

それどころか奴の締め付けが徐々に強くなっていく。まるで底なしのようだ。

血が止まりそうなくらいの圧迫感を感じる。チビべえがしがみついている所を中心に血の気がなくなっていく。

 

 

このままじゃマジで血が止まりそう!

 

何をそこまでコイツを駆り立てるのか分からないがきっと環さんが関係していると思う。だってたまに心配そうに彼女の方を向いてるから。その間も込められた力が一切緩まない謎仕様なのはなぜなのか教えてください。

 

 

い!掴まれてる足がミシミシいい始めた。

血が止まるよりも先に足捥がれそうなんですけど!?

 

 

く!やむを得ない!

 

 

「分かった!分かったよ!話を聞くぐらいしか出来ないけど環さん慰めてみる!それでいいか!?」

 

「モキュ!」

 

ついにギブアップした俺はそう口走ってしまってすぐに後悔の念に襲われる。

 

しかしそれが正解だったらしく分かればよろしいという雰囲気を醸し出してるチビべえは俺から離れた。

ただしピッタリ俺の足にいつでもしがみつけるように近くで待機している。

おそらく俺がきちんと環さんの相手がするか見張るためだろう。

ついでに逃走防止のためな気がする。

 

 

信用ないのね俺って・・。自覚はあるけど。

 

 

ため息を吐きつつ気を取り直して環さんの方を見ると今も静かに涙を流していて非常に声をかけづらい。出来ればそっとしておきたかったけど足元にいるチビべえが早よ声掛けんかいと言わんばかりに尻尾を叩きつけてくるため

一応声だけ掛けてみるしかない。

 

 

 

駄目そうならそれまでだ。

 

その時はどうしようもない!

だって相手してくれないなら慰める事なんて不可能だからな!

俺にはどうしようもないからチビべえがしがみつこうが堂々と胸を張って帰れるというもんだ!

 

 

よし!元気出てきた!

取り敢えずダメ元で話かけてみるか!

 

 

「あ、あの環さん!俺で良かったら相談のるよ?」

 

 

なるべくかるーい感じで環さんの隣に座って自然を装った態度で聞いてみる。

どうせコイツは聞いちゃいないだろう。それはそれで大歓迎だ。

 

 

「ひっぐ、・・え・・?いいの・・?」

 

 

「へ?」

 

 

さっきまで泣いていた環さんが泣き止んで予想外に俺の方に顔を向けている。

瞳に大粒の涙が溜まっておりすぐにでも頬を伝ってしまいそうだ。

 

まさかの上々な反応が返ってきて口が引き攣るのを隠せない。

ここは普通返事せずに泣くのがセオリーじゃないのか?

 

無視してくれればどれだけありがたかった事か・・!

 

 

不安そうに見つめてくる環さんに思わずため息が漏れそうになるがここは何とか我慢して言葉を続ける。

 

 

「うん!全然構わないよ!あ、でも気が向かないなら別に話さなくても良いからね!」

 

 

予想外の反応にたじろぎつつも無理やり笑顔を作ってヤケっぱちで首を縦に振る。

気が変わって話したくないという時のために無理に話さなくていいからねーと保険もつけておく。

 

話してほしい?否!全くそんな事思ってない!

むしろ話さないでほしい!これ以上関わりたくない!

 

俺は平凡でいたいんだ!!

 

 

 

 

 

 

「・・私ね、妹がいるの」

 

 

 

 

 

俺の願いは届かなかった。

 

 

 

環さんは俯きながら呟くように話し出す様子で俺は軽く絶望する。

 

 

うわー・・この娘話しだしちゃったよ・・。

遠回しに聞きたくないって言ったのに

てか、いきなり妹の話なんかしてどうしたんだよ?

 

何で妹?・・ん?

 

 

「あれ?さっきは一人っ子だって・・」

 

 

確か俺が環さんはお姉ちゃんみたいって言ったら自分は一人っ子だと言っていたような・・?

 

 

「私もさっきまで自分は一人っ子だって思ってた。ううん、思い込んでた」

 

 

俺の疑問に思ったことが分かったのか環さんは答えてくれた。

しかしこの答えだけでは全く全容が掴めない。

というかこの説明だけじゃ下手すりゃ寝ぼけてるか妄想としか思えないぞ。

 

 

「妹・・『環うい』って言うの」

 

「へえ」

 

 

今は環さんの語る事に耳を傾けた方が良さそうだ。

正直あまり聞きたくない話な気がするが人は悩みを誰かに話すだけで心が軽くなるっていうしセラピー感覚で聞くしかない。

 

なにより俺の足もとに「モキュ」と鳴く白い生命体の存在がいるので真面目に聞いた方が身のためだ。

 

 

「ういは病気で身体が弱くて病院に入院していて・・それで」

 

 

言葉を切って環さんは少し考える素振り。

ようやく決心がついたのか俺の方に泣きそうな表情を見せて重々しく口を開いた。

 

 

「やっと思い出した。私が魔法少女になったのはういの病気を治すため・・」

 

 

どうやら環いろはの願い事は「妹の病気を治してほしい」だったらしい。

 

なるほど、それなら治癒魔法が得意なのは納得だ。

さやかも同じような願いで契約したから同じように癒しが得意だったし。

似たような願い事は似たような魔法傾向になるんだ。へえ、知らなかった。

 

 

「明るくて優しい私の自慢の妹。でも一体どうして忘れてたのか分からないの」

 

 

この前にもさり気なく妹自慢をしていたから軽くシスコン疑惑を抱いていたがようやく本題に入ったみたいだ。俺の手に余りまくる全く歓迎できない話で頭痛を覚えてこめかみを軽くおさえる。

 

 

「行方不明なの?」

 

「もっと複雑みたい。まるで最初から存在していないみたいにういが消えてるの。一緒の部屋で寝ていて半分はういのスペースになってるはずなのにあの娘の私物は全部消えてて、お父さんもお母さんも、ういの事忘れてるみたい」

 

「それはまた・・」

 

 

環いろはから語られる話は俺の予想以上に厄介な話だった。

 

 

勘弁してくれえええええええええええええええええ!!

いやこれどう見ても一般人に話す内容じゃないよ!?

魔法少女に話して初めて対処できる案件ですよこれ!?

 

ああああああああああああああ!

 

聞かなきゃ良かった!

いくら小さい白のボディビルダーが邪魔をしてもさっさと帰るべきだった!

 

トラブルしか起きない気がするぞこれ!

事態はとても複雑みたいで胃が重い!

どうにかして巻き込まれないようにしなきゃ!

 

 

 

 

「やっぱりおかしいかな?」

 

 

この厄介ごとをどう回避しようか計算中のさなか環さんは自嘲めいた笑顔で俺を見ていた。

この様子から自分でもおかしな事を言ってる自覚はあるらしいが微妙な反応をする俺の態度に若干傷ついてもいるみたいで瞳が大きく揺れている。

 

ひょっとしてまた泣きそう・・?

 

 

 

「こんな突拍子のない話信じられないよね?私の記憶の中だけの話だから妄想だって言われても言い返せないし。ごめんね?急にこんな事話してもう忘れ「信じるよ」・・え?」

 

 

慌てて取り繕う環さんを遮るように少し大きな声で割り込んだ。

環さんは言われた事が理解できないのかポカンと口を開けて俺を見ているだけで何の反応もしないので今度はちゃんと理解出来るようにゆっくりはっきりと言う。

 

 

「環さんを信じる」

 

 

「・・どうして信じるの?ういの事知ってるのは私の記憶だけかもしれないんだよ?」

 

 

俺の反応が信じられないのか再度念を押してくる。

 

自分で言っておきながらそんな寂しそうな顔しないでほしいんですけど?

まあ、それも仕方ないか。妹の事を思いだせたはいいけど、聞く限りじゃ妹ちゃんがいたというちゃんとした証拠がなくて頼りになるのは自分の記憶だけで不安になっているのは想像に難くない。

今は肯定の言葉が欲しいのかもしれない。

 

 

「環さんが言ってる事本当だと思う。だって今、俺の目の前に空想だと思ってた本物の魔法少女がいるんだ。魔法なんてとっても非現実的だ。ありえない事だ!それなら人が初めから存在しなかったように消える事もありえない事はない!」

 

「・・・・・・・」

 

「俺は環さんを信じるよ」

 

 

 

 

にっこり笑ってそう言い切る。

俺にはある可能性が思い浮かんでいるからすんなり環さんを信じられる。

 

 

 

「・・ありがとう神原さん・・」

 

 

俺の気持ちが伝わったのか泣きそうな表情になりながらもなんとか取り繕って笑顔を浮かべるなんて健気だ。

どうやら落ち着いてくれて何よりだ。また泣かないか結構ヒヤヒヤしたが。

 

 

まあ、俺が信じる根拠なんて単純に目の前にいるピンクが主人公だからだ。これに尽きる。

 

 

だって外伝とはいえあの「まどマギ」ですよ?

 

 

ただの記憶捏造とか妄想とかで済む話で終わるとは到底思えない。

絶対それ以上にヤバい展開が待ってそうだ。

 

環さんの妄想で済めばどれだけ良い事か・・。

 

 

 

後は・・既にそういった事例を知ってるからってのもある。

 

具体的に言えばピンクの先輩にあたるツインテールさんが神様にワープ進化して最終的に存在が消えてしまう事案だ。

結果紫さんを除く全ての人がピンクさんを覚えていないのだ。

前例が既にあるからまるで人が初めからいなかったように消える事はありえる。

 

 

 

あれ?そこから考えるとコイツの妹は神様なのか?

 

 

まあ、詳しい事は分からないが上記の理由から妹さんはおそらく実在すると俺は踏んでいる。

推測するにおそらく妹を探すのがストーリーの要になりそうだ。知らんけど。

 

 

絶対巻き込まれないようにしよう!

 

 

 

 

「ごめんね?いきなりおかしな話したのに聞いてくれて」

 

「別に大したこと言ってないよ。はい、ハンカチ」

 

「え?」

 

「涙拭った方がいいよ」

 

 

カバンから取り出したハンカチを環さんに差し出す。

俺に気遣いが出来るまでに冷静さを取り戻したらしくさっきよりも顔色が明るくなっている。

これでもう大丈夫そうだ。良かった良かった。

 

無事に解決できるならハンカチの一枚や二枚犠牲になったって構やしない!

 

 

「え!?いいよ!ハンカチ汚れちゃうし!」

 

「だーめ。これ使って。環さんって泣くより笑ってた方が可愛いんだから」

 

「えぇ!?」

 

 

ボンという幻聴が聞こえた気がする。

 

何ださっきの音?てか何で固まってんのこいつ?

俺は本当の事を言ったまでなのに・・。

 

 

「ほら早く!」

 

「あ、ありがとう・・」

 

 

中々受け取ろうとしないのでしびれを切らし頬にハンカチを押し付ける。

流石に涙でぬれたハンカチを返すわけにはいかずおずおずと受け取って目を押さえている。

 

心なしか顔が赤い気がするけどきっと泣きすぎたせいだろうから触れないでおこう。

 

 

ハンカチで目を押さえてる環さんの横でボーっと空を眺める。

もうすっかり夜になってしまって星が爛々と輝いている。星が綺麗だ。

 

 

 

・・こんなはずじゃなかったのにな・・。

 

 

 

ちなみにチビべえは人の膝でリラックス中だ。

環さんが立ち直った際によくやったと言わんばかりに尻尾でバシバシ叩いてめっちゃ痛かった。

 

 

 

 

「遅くなっちゃってごめんね?そろそろ帰ろう。ハンカチは洗って返すから」

 

 

 

少しまだ目は赤いが泣き止んだらしい環さんはスクッとベンチから立ち上がって俺を見下ろしている。その顔はどこかスッキリしていて晴れやかだ。

 

 

「帰るの?」

 

「うん、ういを探さなくちゃいけないけどそれはまた今度。もうすっかり遅くなっちゃったし早く帰らないとお母さんに怒られちゃう」

 

「あ、それもそっか」

 

 

そういえば忘れてたけど環さんは中学生でしかも制服。

夜にふらふら歩けるような年齢じゃないし親は許さないだろう。納得。

 

 

 

「神原さんをちゃんと無事に駅まで連れて行くって約束したから守らないと」

 

「た、環さん・・!」

 

 

良い子!この子果てしなく良い子!!

話を聞いてる限り結構深刻な状況だというのに俺の安全を最優先に考えてくれてるなんて!

 

大丈夫!きっと良いことあるよ!

だってこんな親切な娘が不幸になんてなったらそれこそこの世界救いようないから!

 

環さんといると俺の汚い心が洗われていくようだ!

リアル天使に出会えた事に感謝しなくては!

 

 

 

「あとね・・」

 

 

「?」

 

 

じーんと一人感動する俺の目の前にいる環さんとっても挙動不審

で動作がどことなくモジモジしてる。

 

 

「もう少し神原さんとお話したいの」

 

「・・・・・」

 

 

前言撤回。

俺はもう少しも君と関わりたくないです。

なんか嫌な予感するし。

 

照れた感じではにかみながらそんな事言われたら普段ならキュンと来るが今はただその笑顔に恐怖を感じる。具体的にいうと何かが起こりそうな(不吉な)予兆めいたものを。

 

それはともかくこれでやっと帰れる!

もうこんな物騒な街とはおさらばだ!

駅まで行けば環さんともおさらば!

そうすれば俺は完全に死亡フラグから解放される!

 

今日は厄日だが無事に乗り切れて良かった!

 

平和万歳!

 

 

「!」

 

「神原さん!?」

 

 

しかし浮かれた気分のせいだったのか突如、足場が不安定になってそのままバランスを崩し尻餅をついてしまう。

 

この年になって人がいる前で尻餅つくなんて恥ずかしい。

穴があったら超入りてえ!!

 

 

「大丈夫?立てる?」

 

「いててて・・。ありがとう。たく一体何なんだよ・・」

 

 

環さんに手を貸してもらって何とか起き上がれたがホント情けない。

仕返し上等で俺が尻餅ついた原因を探るため下に視線をおろすも見たものが理解できなかった。

 

 

「え・・?」

 

 

思わず口から声が漏れる。

何度も何度も目を擦って見るもそこにあるものは変わらない。

 

俺の足は少し砂に埋もれていた。公園の地面はタイル張りだったはず。

一瞬、俺の足元だけかと思ったが少し視線を上げると環さんが立っている場所も砂に変わっている。

慌てて周囲を見るとさっきまでいた公園がいつの間にか今日何度も見た砂場の光景になっていた。

 

これってもしかしなくてもあの蟻どもか!?

これだけ遭遇するって事はやっぱり因縁つけられてるとしか思えない!

勘弁してくれよ!やっと帰れる寸前だったのに!

 

 

「魔女の結界・・」

 

 

だが事態は俺の予想よりもはるかに悪いらしく顔を青ざめてる環さんを見て俺まで不安に駆られてくる。

 

 

「と、とにかく急いでここから、きゃあ!」

 

「U▽☆※@◆#!」

 

 

環さんの声が途切れる。そりゃそうだ。

パーマがかかった女の子の人形らしきものが目の前に現れたんだから!

何だあれ?新手の使い魔か?

 

 

「! 魔女・・」

 

「マジで!?」

 

 

環さんがポツリとつぶやいたのを俺は聞き逃さなかった。

嘘だって思いたかったけど何気なく見た環さんの顔が青を通り越して白になりつつあるので嫌でも真実なのが分かる。

 

つまり今、目の前にいるのは彼女は今日俺たちが神浜で初めてお目にかかった魔女らしい。

 

 

 

最悪だあああああああああああああああああああああ!!

 

 

やっと帰れると思った矢先に立ち塞がるように魔女が現れた!?

なんなんだ今日は!?厄日か!?

環いろはに出会った時点で厄日なのは確定みたいなもんだけどさ!

もうちょっとイージーモードでも良くない!?

 

クリア寸前で油断しきってた時に裏ボスお出ましとか俺ならそんなゲームぶん投げる。

 

 

「ポー!」

 

「!」

 

 

後ろから滅茶苦茶聞き覚えのある声が聞こえたのでビビりながら後ろを見ると俺たちを囲むようにカラフルな使い魔蟻たちが包囲している。

 

 

あわわわわわ!どうしよう!?

こいつらは環さん曰はく「使い魔なのにとっても強い」らしく対峙しても牽制だけであとは逃げるばっかりだった。

それなのにその使い魔共の親玉の魔女が出てくるなんて!

 

 

万事休す!俺終わった!?

 

 

 

 

「神原さん!私が隙を作るからその間に逃げて!」

 

 

いつの間にか変身した環さんが魔女から庇うように俺の前に立っている。逃げるという選択肢は大変ありがたいがそんな顔しないでほしい。なんか今から特攻しにいきそうな悲壮感みたいなものを感じるから胃が痛くなる。

 

 

「えっと俺が逃げるのはいいとして環さんはどうするの!」

 

「私は魔法少女だよ?そう簡単にやられないし、魔女が悪さをする前に倒さなきゃ」

 

 

絶賛大ピンチだというのに環さんは責任感の強い性格からか逃げる素振りは一切見せない。

正義の魔法少女の鑑とは彼女の事を言うのかもしれない。

でもやっぱりどことなく悲壮感が漂ってる気がするのは俺の気のせいか?

 

これがテンプレなら「環さん一人置いていけないよ」とか言えばいいんだが、ぶっちゃけ俺はただの足手まといにしかならないのでここは素直に従っておこう。

 

俺に出来る事なんて何もないです。

だってただのヘタレな一般人だもん。

 

 

「向こうに出口があるから私が合図したら走ってね!」

 

 

環さんが視線を向けた先に目を向けるとそこに空間の歪みがあった。

うねりがあるからぼんやりにしかわからないが歪みの先には俺らがいたであろう公園の景色が見える。

ここからそんなに距離は遠くない。

 

 

あそこまでなら襲われずに行けるかもしれない!

 

 

「キュゥべえをお願い!ここにいたら危ないし私も後で合流するから!」

 

 

実は傍にいたキュゥべえを俺に押し付けた後、環さんはそっと視線を魔女の方に戻す。

その後すぐに装備しているクロスボウに光が集まりだしてやがて矢の形になり、それをそのまま魔女に向かって放つ。

 

 

「○△※!?」

 

 

かなり魔力を込めたのだろうか?

放たれた矢は魔女の身体を貫通し、周囲に声にならない絶叫が響き渡っている。

 

 

「今だよ!」

 

 

「うん分かった!環さん気を付けて!」

 

 

魔女が怯んだと同時に環さんは鋭い声で俺に向かって合図してくれたのでそのままチビべえを抱えて出口まで駆けだす。

幸いなのは魔女が怯んだことで使い魔の統率にも乱れが出ているらしく走る俺に目もくれず蟻どもはオロオロするばかりで動こうとしない。

 

 

おっし!これなら逃げられそうだ!

 

 

ありがとう環さん!君のおかげで俺は無事脱出することが出来そうだ!

せめてもの支援で脱出出来たら安全な所で君の無事を祈る事にするよ!

 

 

「ひゃっふううううううう!・・て、あれ?環さん?」

 

 

ハイテンションながら後ろの様子が気になるためチラッと振り返ると何故か環さんはじっと動かずそれどころか魔女の目の前で座り込んでいる。

 

環さんはどうしたんだろうか?まさか休憩!?

実はさっきので魔力使い切っちゃったとか?そんなまさか!

 

きっと大丈夫だ!何てたって環さんはこの世界の主人公。

主人公補正があるだろうからこんな所では死なないはず!

 

 

絶対そうだ!今はまずここから脱出する事だけを考えないと!

頑張れ俺!出口までもう少しだ!

 

 

「モギュゥゥゥゥゥ!」

 

「おい!」

 

 

自分を鼓舞しなんとか無事空間の歪みの目の前まで辿り着いた直前いきなりチビべえが暴れ出したので力を込めて拘束を強める。

正直言うとチビべえはきっと死なないだろうし連れて行くメリットは皆無だと思うが逃がしてくれた環さんの頼みである手前なんとかしてコイツも脱出させなければならない!

 

 

「こら暴れんな!あ!?」

 

 

俺の頑張りは虚しくあっさり腕の拘束から抜け出された。

捕まえる暇もなくチビべえはさっさと環さんの所に向かっていく。

 

一瞬追うか迷ったがやめておく。そこまでする必要はないと判断したからだ。

いくら環さんの頼みといえどチビべえ本人は嫌がってたし頑張り虚しく逃げられてしまったのだ。

 

義務は果たした。ならば俺一人で脱出するまで!

 

 

俺はそのまま脱出するために出口の方に足を踏み出そうとした。

 

 

「モキュ!」

 

「・・・? !」

 

 

だけど出来なかった。

チビべえが一際大きな声で鳴いて俺の方に顔を向けて立ち止まっている。

そして俺は見てしまったのだ。奴が咥えているものを。

 

 

 

「てめえええええええええええええ!!」

 

 

 

それを目にした瞬間、俺は再び走っていた。

 

 

使い魔?関係ない!命の危機?それも大事だけどアレも大事!

今は一刻でも早く取り返さなくては!

 

 

 

「俺の財布返せこらああああああああああああああ!!」

 

 

 

 

結界内で俺の声が盛大に響く。

俺の声に驚いたのか使い魔たちはビクッと反応し密かに後ずさっているが気にしてられるか!

 

 

 

チビべえ本日二度目の窃盗「財布」

 

 

 

あれがないと俺帰れない!それだけじゃない!

身分証明するものもそうだし今日に限って家のキーもそこに入っている!

重要なものが全てあそこに集約されているのだ!

 

 

チクショオオオオオオ!!

 

 

スマホといい財布といい何で取られたらヤバいものばっか盗んでいくんだアイツは!?

 

くそ!逃げたくても逃げられない!分かってやってんのか!?

やっぱり見た目は変わっても奴はインキュベータ―!

 

 

 

悪魔そのものじゃねえかああああああああああああああああ!!

 

 

 

チビべえを追いかける内にどんどん出口から遠ざかっていく。

 

チラッと後ろを見ると出口の周りには既に使い魔が立ち塞がっており、もう出口に向かうのは不可能だろう。俺の鬼気迫るオーラのせいか奴らは様子を見るだけで襲ってはこない。だけど出口は完全封鎖確定。

 

 

 

くっそおおおおおおおお!こうなったら環さんの所に戻るしかない!

その方が今一番生存率が高そうだ!

せっかく逃げる手配してくれたところ申し訳ないけど命かかってるから背に腹は代えられない!

 

 

 

うん、そうしよう!

魔法少女は一般人を守る義務があると思うんだ!

 

 

 

どうやら盗人チビべえも環さんの元へ向かっているみたいで走りに迷いがなく彼女に向かってまっしぐら。幸い俺の周りに使い魔はいないからなんとか環さんの元へ辿り着けるだろう。

 

 

しかし気になることがある。

 

 

環さんは一体どうしたんだ?

何で目の前に魔女がいるのに座り込んで動かないんだろう?

 

じっと確認するも現に今尚さっき見た光景のままだ。

砂の上に座り込んだままで動く気配がない。俯いているから表情はよく見えない。

 

 

近づいてみれば分かる。今はそれを気にしている余裕はない。

環さんの近くには魔女がいるとっても近づきたくないが後ろからカサカサと砂を踏む音が複数聞こえる。

見なくても分かる。使い魔が俺を追いかけてるんだ。

どうやら吹っ切れたらしい。足音になんの迷いもなさそうだもん。

 

 

うおおおおおおおおおおおおおお!

怖ええええええええええええええ!

 

助かるためにも急いで環さんの所に向かわなきゃ!!

そしたら彼女がなんとかしてくれるさ!

 

 

今は走る事に集中しよう!止まったら死ぬ!

! そうだ!足の速い友人が言ってたけど早く走るコツはゴールだけを見る事らしい。他は見ないんだと。

 

ならば俺は環さんの事だけ見よう!

うん!そうしよう!生き残るために!

 

 

全力で走る中ただひたすら環さんを見る。それ以外何も見ない。

 

 

見えるのはゴール(=環さん)のみ!

 

 

走れ優依!

 

 

 

 

・・それが災いしたのだろう

 

 

 

 

 

「環さん!いっ!?」

 

 

環さんの元へ辿り着く直前、俺は足元に出来た窪みに気付かずにそのまま足を取られてしまった。

全速力しかもブレーキの事なんて考えずに走っていたから身体は前のめりの体勢でバランスを取ることが出来ずそのまま宙に浮いて前方にダイブ。

 

俺の前にいるのは環さん。このままいくとぶつかるのも環さん。

分かっているのにどうすることも出来ずスローな感覚で徐々に環さんの元へ飛んでいく。

 

 

環さんが気づいたのはぶつかる直前。

 

頭上を見上げていた環さんはようやく横の異変に気づいて俺の方を見たが時すでに遅し。

その時には彼女のピンクの瞳と至近距離で目が合っていた。

 

 

「神原さん・・?きゃあ!?」

 

「ぐへら!?」

 

 

偶然出来た渾身のすてみタックルは環さんの無防備な横腹にクリーンヒット。

タックルの威力のままに俺は彼女を押し倒すもそれでも勢いは止まらずズザザザァと痛そうな音を立てて砂を滑っていく。

 

 

「いったぁ・・」

 

 

ようやく止まったので顔を上げ自分の身体に怪我はないか確かめるも奇跡的に俺は無傷。

 

 

「うぅ・・」

 

「!?」

 

 

その代わり環さんは俺の下で苦しそうに唸っている。

どうやら俺の身代わりに全てのダメージを受けたらしく身体を起こす素振りが全くなく目はギュッと固く閉じられていた。その様子を見て俺は一つの可能性に至る。

 

 

 

 

え?俺ひょっとして・・主人公殺っちゃった・・?

 

 

 

ああああああああああああああああああ!!

 

 

 

すぐさま環さんから飛び退き身体を抱き起すもダメージが大きいのか呼吸が荒いままだ。どうにかしようと思うも頭真っ白で何も思い浮かばずただバカみたいに声を掛ける事しか出来ない。

 

 

 

「っ!環さん!?しっかりして!死なないで!お願いだから返事してええええええええええええええええええ!!」

 

「モキュ!」

 

「お前に聞いてねえよ!てか、何で人の頭の上に乗ってんだ!?」

 

 

上から元気な返事が聞こえてくる。声からしてチビべえ。

道理で頭が重いと思ったらいつの間に!?

 

速攻で引きずり降ろしたかったがそれよりも環さんの安否の方が心配だ!

頭の上に乗ってる白い悪魔も背後から聞こえるドスンという鈍い音も今は気にしている場合じゃない!

 

 

 

「環さん!俺の声分かる!?」

 

 

 

“魔法少女殺し”“原作崩壊”というワードが脳裏に過り半泣きになりながらも環さんを呼び続けているとそれが功をなしたのか彼女はうっすらと目を開けた。

 

 

「・・神原・・さん?」

 

「環さん!?良かった!生きてた!」

 

 

主人公をうっかり殺していなかった事に安堵した俺はついポロリと目から出た液体を零してしまいそれが環さんの頬に落ちる。

最初状況を理解出来なかったのか環さんはキョトンとしていたがやがて弱々しいながらも口を開く。

 

 

「どう・・し、て・・?」

 

 

か細い声でようやく出てきたのは何故か疑問だった。

 

 

「え?」

 

「どうして・・私・・」

 

 

途切れ途切れに呟く環さんに逆にこっちがどうして?と聞きたい。

彼女は何故「どうして」と呟いている?

 

そこで俺はピンときた!

 

彼女は言いたいのはつまり“どうして私を攻撃したの?”だ!

きっとこれで間違いない!

 

 

すみません!違うんです!わざとじゃないんです!

不可抗力なんですううううううううう!

 

どうしよう!言えない!

環さんガン見してたら足元お留守で足引っかけてこけてしまったら前方に貴女がいてそのままぶつかってしまったんです!!なんて言えない!

 

 

でもそんな事口が裂けても言えない。

だって環さんの目が「せっかく逃がしたのに戻ってきた挙句攻撃するなんて!」と非難めいたものを感じる!

下手な言い訳するといくら温厚そうな環さんでも怒りそう。

 

 

 

く!こうなっったら、なあなあにして誤魔化せ俺!

 

 

「よかった!環さん生きてて本当に良かった!」

 

「!」

 

 

すぐさま環さんを抱きしめて非難めいた目をシャットアウト。

俺の作戦はこうだ。取り敢えず今は緊迫した状況だしそれっぱい空気出せばなあなあになるんじゃない?

 

そんな保身に満ちた今回の作戦。

 

突拍子のない行動だから環さんは対応できないはず!

 

実際抱きしめられた環さんは固まってる。上々な反応だ。

緊迫した雰囲気も多分それっぽく出来てるはずだから後は機嫌を直してもらうのみ!

 

 

「俺、環さんに(さっさと魔女を倒してもらわないと困るから)死んで欲しくない」

 

「!?」

 

「俺、環さんと一緒じゃなきゃ嫌だよ(その方が生存率高そうだし)」

 

「神原さん・・・」

 

 

泣きそうな声でつぶやく環さん。

これはお怒りを鎮めるの成功か?

 

 

 

「はあ、はあ・・」

 

「!? うおい!しっかりして!?」

 

 

突如、環さんはさっきよりも更に体調が悪化したみたいで呼吸が荒く汗が滲んでいる。

それなのに身体は体温を奪われていくように徐々に冷たくなっていってる。

 

これまずいんじゃない?

病院に連れて行ったほうがいいかも。

じゃないと冗談抜きで死にそうだよこの娘。

ここら辺って近くに病院あったっけ・・?

 

 

すっかり忘れてたけど、それよりも先に魔女をどうにかしないとヤバ・・!?

 

 

「げ!?」

 

 

様子を見るため顔を上げると俺たちを逃がさないようにみっちり包囲している使い魔たちがズラリ。

 

 

「▽○@%$!!」

 

 

更には横から声がするのでギギギと壊れた機械のように首を向けると背後には魔女がスタンバイ。いつの間にか最強の布陣が出来上がっていた。

 

 

 

終わったあああああああああああああああああ!!

 

 

完全に終わったよこれ!!

脱出どころか逃げ場なんてどこにもない!

 

俺死んじゃうの?こんな所で死んじゃうの!?

 

何より「マギレコ」主人公ってこんな所で死んじゃうわけ!?

予想外にもほどがある!

 

何より俺は今世でたった十四年しか生きてないんだ!

まだ死にたくないいいいいいいいいいいいいいい!

 

 

 

 

「・・ふぇ?」

 

 

 

迫りくる死を前に涙目な俺の手に何か温かいものが触れている。

下を向くとそれは環さんの手だった。俺の手と重ねるように触れている。

 

 

 

「大丈夫だよ神原さん。・・貴女の事は必ず私が守るから」

 

 

「いろは様・・!」

 

 

俺を安心させるためか環さんは笑っている。

容体からしてものすごく辛いはずなのに笑顔を無理して作ってくれる環さん。

 

 

良い子!もはや女神の域にまで到達しそうなレベルの良い子!!

その慈しみの籠った微笑みは女神様そのものだ!

 

 

感極まってとうとう涙出てきたよ俺!

 

 

環いろは様は文句なしの主人公!

明らかにツインテールの先輩より主人公してるううううううううう!

 

 

 

「う・・!」

 

 

俺に笑顔を見せた直後、明らかに苦しみだした環さん。

本格的な苦痛なのか苦しそうに表情を歪めている。

 

 

「環さんしっか、い゛!?」

 

 

それに呼応するように添えられている手にも力が籠る。

もちろん環さんが握っているのは俺の手だ。手には尋常じゃないレベルのダイレクト圧力がかかっている。

 

 

「う・・うぅ!うああ!」

 

「いてててててて!ちょっ、環さん!?ストップ!リアルにストップ!手が潰れそう!」

 

 

苦しみ方が尋常じゃない!

それに呼応するように俺に伝わる痛みも洒落にならん!

 

 

うぐぅぅぅ!力が強くて離せない!

 

 

く!こうなったらせめて別の事でも考えて気を紛らわせるしかない!

取りあえず環さんは何で苦しんでるかについて考えよう!

 

 

 

えーと?ついさっきまでは元気だったのにいきなり苦しんでいる。

魔法少女って基本みんなQBの魔改造で身体は頑丈になっているはずだ。

 

よく考えれば知ってた事じゃん!何で忘れてたんだ俺!?

 

 

魔法少女がこんなに苦しむ時はあるか?

それこそ攻撃を喰らった時くらいだろう。

 

 

 

他に苦しむ理由なんて・・。

 

 

 

 

! いや待って?

 

 

確か「まどマギ」でこんな苦しみ方してる子がいなかった・・?

 

 

 

 

そうだ!主人公のまどかだ!

 

 

 

 

えーと、確かメガほむちゃんの初めてのループ時のワルプルギス戦の後、急に苦しみだしたまどか。

原因は真っ黒になったソウルジェム。

結局それはグリーフシードに変化してしまい、まどかは魔女に・・。

 

 

 

 

 

 

魔女に・・・? ! まさか!

 

 

 

 

 

 

思考のダイブからすぐに環さんに視線を戻す。

バサッという音がして彼女がかぶっていたフードが外れピンクの髪が露わになる。

 

 

 

「!」

 

 

そのまま環さんのピンクの髪がうねうねと動きだし重力に逆らって上に上に伸びていく。

まさかのホラーな光景に小さく「ひっ!」と声が漏れたが不可抗力だ。

だって俺の目の前では現在進行形で環さんの髪が生き物のようにうごめいて一つに固まっていく。

それは徐々に形を成していき、とある姿に変化した。

 

 

 

 

「鳥・・・?」

 

 

 

 

大きな鳥がいる。

 

 

 

一言で表すならそれが適当だ。あれが一体何なのか分からない。

だが少なくとも普通の鳥じゃないのは俺で分かる。

 

 

一見鳥のように見えるそれはピンクの布で全身を覆い、黒くて長いくちばしを生やしている。

何よりおかしいのがその鳥が環さんの髪と連結されてるみたいなのだ。

 

 

・・・可哀想に環さん。

謎のでかい鳥と髪がドッキングしているから引っ張られる形で宙づりになっていて頭皮がとても痛そうだ。

 

 

「え?え?何これ?どういう事!?」

 

 

当の本人は自分にくっついている鳥を驚きの表情でひたすら凝視している。

 

どうやら環さん自身も分かっていないみたいだ。

俺は少し顔を上に上げて環さん&ピンクデカ鳥の様子をチビべえを胸に抱きつつ見守る事にする。

決して巻き込まれたくないからとかそんな理由じゃない。

 

 

「きゃあ!?」

 

 

鳥は空高く舞い上がっていたが一気に急降下しそれにつられて環さんも急降下。

それと同時にデカ鳥の背中に背負っている白い布が伸びて大量に落下してくる!?

 

これはまずい!

落ちてくる場所にいたら潰されて死ぬか運よく助かっても窒息して死ぬかの二択しかない!

 

避難しなきゃ!

 

しかし悲しいかな。

俺の周りには魔女&使い魔に包囲されてるからどこに逃げ場なんてない。

 

 

「うわ!」

 

 

仕方なくその場でうつ伏せになり来たるべき布流星群に備える。

逃げ場がないならせめて生存率をあげそうな行動をとらなければ!

 

 

「プイ」

 

「! てめえ!」

 

 

チビべえの奴!俺の下に潜り込んでガードしてやがる!

一匹だけズルいぞチクショウ!

 

 

そんな事考えてるうちに布流星群がやってきたのですぐに頭を下げて衝撃を待った。

 

 

 

 

「・・・・あれ?」

 

 

 

しかし一向に待てども何の衝撃もないから恐る恐る顔を上げる。

 

 

「○★@$!?」

 

 

「わ!」

 

 

俺には振ってこない代わりに俺の周囲にいた魔女や使い魔が布に覆われ押し潰されていく。

どんどん上から布が落ちてくるからあっという間に姿が見えなくなった。

 

 

 

ピンクデカ鳥強い!すげえな何だあれ!?

 

 

 

そこで俺はピンときた。

 

 

 

 

おそらくあれはス○ンドだ!!間違いない!

 

 

 

さながら魔法少女verのス○ンドと言ったところか!

すごい!これが主人公補正というやつか!?

 

 

あくまで想像の域を超えないがそれでも俺は興奮しまくり食い入るようにス○ンド(仮)を見上げる。もちろん俺の心のアルバムに刻むためだ。

 

 

ありがとう環さん!まさかブラックな世界観の中、俺の目にス○ンドを見せてくれるなんて!

きっと君は前世でジョ○ョ的な感じの奇妙な冒険をしていたんだね!

出し惜しみなく見せてくれるなんて君はどこまで良い人なんだ!

 

 

一人キャーキャーしてる間に魔女は倒されたらしく空間が歪みいつの間にか俺たちは元の公園に立っていた。ここにいるのは俺と俺に抱きしめられてるキュゥべえ。そして茫然としている本日のMVP環さん。

 

 

「・・勝ったの?この子が倒した?」

 

「環さん!」

 

「ひゃう!?」

 

 

生ス○ンドを見れた興奮が冷めずハイテンションのまま環さんに抱き着いた。

突然の俺の行動に環さんは驚いてたみたいだけど無理に引き剥がそうとせずそのままにしてくれる。

 

 

ちなみに環さんに引っ付いていたス○ンドはいつの間にやら消えていて髪も元の状態に戻っている。

 

 

「すごいよ環さん!まさか君がス○ンド使いだったなんて!」

 

「え?ス○ンド?」

 

 

心なしか心臓の音がうるさいがひょっとしてこの娘も興奮しているのかもしれない!

ス○ンドを知らないのにはちょっと引っかかったが気にしないでおこう!

 

 

興奮中の俺から解放された環さんは困惑したままでふと自分の手を見つめていたがやがて驚いたのか目を見開いている。

 

 

「あれ・・?おかしいな、さっきまであんなに濁ってたのに・・?」

 

 

「え?何が?」

 

 

手元を俺が覗き込んだので見えやすいように位置を変えてくれた環さんの手のひらにはある物が置いてあった。

 

 

手の中にはピンク色の宝石。

 

 

どう見てもソウルジェムじゃん・・・。

 

 

 

「これ、ソウルジェムって言うの。今は元の色に戻ってるけどさっきは面影がないくらい黒く濁ってたの」

 

「! なぬ!?」

 

 

思わぬ暴露に顔が引き攣る。

 

 

 

つまりさっきまで魔女化寸前だったって事ですか!?

 

 

あっぶねえええええええええええ!!

 

 

ひょっとして俺知らない間に危ない橋渡ってた!?

 

しかし今は綺麗なピンク色。

どこにも濁っているか

 

まさかこれもス○ンドの効果か!?すごいな!

まさかのソウルジェムの浄化まで出来るなんてオールマイティーじゃないか!

 

 

「一体どうなってるの?それにさっきの鳥みたいなの何・・?頭が混乱して訳が分からない・・」

 

 

偉大なス○ンドの能力に感激する俺と違い環さんの表情は強張っている。

 

無理もない。立て続けに得体の知れない事が身の回り(というか自分自身)に起きていて気味が悪いのだろう。

身体は震えておりそれを抑えるように自身を抱きしめてる。

 

 

「何だか私、自分が怖いよ・・」

 

「そうかな?俺は全然怖くなかったよ」

 

「え・・?」

 

「訳が分からなくても俺を助けてくれたのは間違いないじゃん!おかげで俺、こうして生きてるよ!」

 

「・・・・」

 

 

ス○ンドがあるとはいえソウルジェムを濁らせるのは非常にまずいので気休め程度に慰めておこう。ついでにニコッと笑って安心感を増量しておかないと。

 

 

だから取り敢えずやめて?そんな感動したような表情で俺見るの!

別に大した事言ってないから!

 

 

「と、ともかく俺を助けてくれて(そしてス○ンドを見せてくれて)ありがとう環さん!君なら絶対大丈夫だって信じてたよ!」

 

「そんなお礼なんて!むしろ私がお礼言わなきゃいけないのに!」

 

「え?」

 

「お礼を言うだけじゃ貴女にしてもらった事のお返しは出来ないけど言わせて?ありがとう神原さん!」

 

「は、はあ・・?」

 

 

 

俺、何かしたっけ?全然心当たりないんですけど?

 

 

した事と言えば環さんの足を引っ張った事とすてみタックルお見舞いした事くらいだ。

ぶっちゃけ今日一日俺はロクな事やってない。

 

 

それなのに目の前にいる女の子はどうしてにこにこ笑いながら俺にお礼を言っているのだろうか?

 

 

実は隠れMなのか・・?

 

 

 

「じゃあ今度こそ本当に帰ろ・・あれ?」

 

 

馬鹿な事考えてる間に環さんは元の制服に戻っている。

そこまではいい。しかし何故またふらついているんだい!?

 

俺もう支えるのやだよ!

倒れるならベンチの傍か木の近くにしてください!

 

 

「あ・・・」

 

「また!?」

 

 

再びふらついた環さんは何故かまた俺の方に倒れ込んできたので巻き添えをくらわないように重心を整えて必死に支える。

重い!全く力が入っていないのか環さんの体重全てが俺に負荷をかけてきている!

 

 

「ごめんね・・ちょっと力が入らないや・・」

 

 

とかなんとか言いつつさり気なく俺の背中に腕を回しているのは何故でしょうか?

ていうか俺に身体を預けたまま動く気ないだろ!?更に重みが増したもん!

 

 

 

 

「神原さん」

 

 

 

「な、なに・・?」

 

 

 

必死に倒れないように支える俺に環さんの呑気な声がかかる。

 

 

 

「あれが一体なんなのか私には分からないけど・・」

 

 

 

「?」

 

 

 

「貴女を守れて本当に良かった・・」

 

 

 

 

ポツリとそう呟いて環さんは目を閉じた。

 

 

お願い目を開けて!俺をこのままにしないで!

しかし悲しいかな。環さんからすぅすぅと穏やかな寝息が聞こえてきて俺は涙を流す。

 

 

「く・・!もう少し・・!」

 

「モッキュ」

 

「お前は良いよね!見てるだけだから!」

 

 

ホントにただ見てるだけのチビべえ(財布は取り戻した)に文句を垂れつつ爆睡中の環さん近くのベンチまで引きずっていく。

 

 

頑張れ俺の筋肉!

少なくともこのピンクをベンチに運ぶまでもってくれ!




いろはちゃんのドッペル登場は第三章からですがここは端折って第一章に登場してもらいました!

いつの時期から神浜でドッペルを出せるか詳細は不明ですが多分この頃から発動可能だったんじゃないかなーと。

文句は受け付けません!


個人的にはドッペルとス○ンド似てると思うんですけど皆さんはどう思います?

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