スタートはいろはちゃん視点から!
いろはside
見つけなきゃ
探さなきゃ
この胸のざわつきの正体を
夢に出てくる女の子の正体を
神浜に行けばきっと見つかるはず!
「おーい!そこの人―!」
「え!?」
これが私と優依ちゃんの出会い
胸がざわついて落ち着かない。
何か大事な事を忘れてる気がして仕方がない。
特に最近はそれが更に強まった気がして耐えられなくなった私「環いろは」は迷いながらもついに決心して、この不思議な気持ちは一体何なのかはっきりさせるため放課後、電車を乗り継いで「神浜市」に向かった。
どうして神浜なのかというと前に一度訪れてから不思議な女の子の夢や胸のざわつきを覚えるようになったから手がかりはきっとそこにあると思う。
「うぅ・・建物が沢山・・」
無事神浜に着いたのは良かったんだけど何を探せばいいのか何を手がかりにすればいいのかも分からない。
魔女を探せばどうにかなると思ったんだけど魔女の反応が多すぎて混乱しそう。
反応が示すままにしばらく歩いていたら気づけば見知らぬ住宅街の中にいた。
周囲を見渡しても私以外誰もいない。
かなり歩いたけど結局何の手がかりもなくて今日はもう諦めて帰ろうかなと思った矢先に私に声を掛けてきたのが優依ちゃんだった。
私は元々人見知りで初対面の人と話すのは緊張するのに、優依ちゃんは近くで見ると声を失っちゃうくらい可愛い顔してたからいつもより焦っちゃって支離滅裂な事をかなり言ったと思う。
きっと優依ちゃんから見た私はすごく慌てふためいた情けない姿だったかも。
彼女が私に声を掛けたのは道を聞くためだったらしい。
神浜は初めてで迷子になったって言ってたから出来ることなら力になりたかったけど私も神浜に住んでないし何よりここがどこなのかも分かってない。
それ謝りながら伝えたら優依ちゃんがとっても落ち込んじゃって思わず「あの、」って口を開いていた。
困ってる人を見過ごせない。何とか力になってあげたい。
その思いで自分は方向音痴なのに一緒に駅まで行こうと言ってしまったけどこれで良かったと思う。
だって優依ちゃんとっても嬉しそうに笑っていたから。
今思い出しても一緒に行く選択をして良かったって心からそう思う。
優依ちゃんとの出会いは波乱に満ちていて時間はあっという間に過ぎていった。
まさか駅に行こうとした直後に使い魔に遭遇していきなり魔法少女だって事がバレるとは思わなかったし、探していた小さいキュゥべえはあっさり目の前に現れてそこから何故か追いかけっこになったりとよく分からない展開になってしまって慌ただしかった。
小さいキュゥべえは中々捕まらない上に足を引っ張ったと落ち込む優依ちゃんを慰めつつ本音は少しこの状況が楽しいって思ってた。
だってこうやって歳の近い子と一緒に行動するのは初めてだったから。
必死に追いかけるのもそうだし休憩のついでにお店に寄って沢山おしゃべりしたりと前の私が見たらきっとビックリするくらい充実した時間を送っていたと思う。
優依ちゃんには申し訳ないけどこの状況がまだまだ続いてほしいとすら願っている自分に驚いちゃった。
・・でもそうは言っていられない。
優依ちゃんに気付かれない程度に何度も観察する。
ネガティブの化身のように優依ちゃんは肩を落としているから全く気付いていないけど油断は禁物。
「・・・・・・はぁ」
私のソウルジェム、ピンク色だったのに今はかなり黒く濁ってる・・。
思わずため息が出てしまう。
小さいキュゥべえを追いかけている内に何度も使い魔に遭遇した。
その度に変身して戦っていたけど相手は最初に遭遇した使い魔みたい。
どうやらあの時、標的にされたみたいでずっと追いかけてくる気配がしてて注意してたけど完全に目を付けられたみたい。
親の魔女を倒せば使い魔も一緒に消えてくれるけど、その使い魔でさえちゃんと倒せないくらい強くて逃げるので精一杯。
魔女は使い魔よりももっと強いから私じゃどうにもならないのは予想がつく。
それに間が悪い事に今はグリーフシードを持ってないからソウルジェムを浄化する事が出来ない。
今は何とかなってるけどこのままだと戦えなくなってしまうのも時間の問題。
そうなったら魔女の餌食になるのを待つだけ。
それまでに何としてもスマホを取り返さなきゃ!
そう思って何とか優依ちゃんを立ち直らせる事がなんとかできた。
休憩の最中、少しからかわれたり料理の話をしていたら思いのほか楽しい。
クラスメイトの皆と話すのと違って変に気を遣うこともない。
気持ちがとても楽で優依ちゃんとなら何でも話せる気がする。
優依ちゃんとおしゃべりするのが本当に楽しくて実は小さいキュゥべえの事すっかり忘れてた。
その小さいキュゥべえは忘れた頃のタイミングでやって来てすごい騒ぎに発展しちゃったけどその際、ぼそっと呟いた忘れてた発言の独り言は多分優依ちゃんに聞こえてないはず。
あまりの急展開に呆然としてる間に優依ちゃんが持っていたバッグでキュゥべえを叩きつぶす勢いで押さえてたから慌てて救助のためキュゥべえを抱きしめた途端、何かが私の中に入ってきてそのまま気を失ってしまった。
目が覚めるまでの間、私はずっと夢を見ていた。
『――ちゃん』
それはいつもの女の子の夢。
でも、いつもと違う。
前は声が聞こえなかったのに今はちゃんと聞こえる。
『お姉ちゃん!』
不思議な夢に出てきた女の子が私に笑いながらそう呼びかける。
お姉ちゃん・・?誰?
私に向かって女の子は『お姉ちゃん』と呼びかけて楽しそうに色んな話をしている。
疑問に思いながらもその笑顔を見ると何故か私まで嬉しくなってうんうんと相槌を打ちながら聞いていた。
だけど場面が変わって突然、女の子が苦しみはじめ不安そうに私を見上げている。
『お姉ちゃん・・私、本当に退院出来るのかな・・?』
泣きそうな表情でそう聞いてくる。
とっても苦しそう・・。
さっきまであんなに楽しそうだったのに!
『出来るようい!』
耐えられなくなった私は気づけばそう叫んでハッとする。
うい・・?
誰の名前?この知らない女の子の名前?
! 違う!知らない女の子じゃない!
この娘の名前は「環うい」たった一人の大事な妹。
病気で入院していてあまり外に出られないけどいつも楽しそうに笑って周りを明るくしていた優しい子。
そこから更に場面が変わって私は自室でキュゥべえと対峙している。
『お願い!妹の病気を治して!そのためなら私何でもするから!』
泣きながらキュゥべえにそう叫んでいる私が映る。
・・そうだ・・。
私はういの病気を治すために魔法少女になったんだ!
何でこんな大事な事今まで忘れてたんだろう・・?
ごめんね・・うい・・。
夢から目を覚ました時、私の目元は濡れていた。気を失っている間に泣いていたのかもしれない。
私はベンチで横になっていた上半身を起こして足元を見つめる。考えるのはもちろんさっきの事。
「・・・うい」
たった一人の大事な妹の名前を呟いたら自然と涙が零れてくる。
「うい・・今まで忘れててごめんね」
謝っても謝りきれない。
「うい」が今ここにいない寂しさ
「うい」の存在を忘れて今までのほほんと生活していた自分への怒り
このまま「うい」に会えないんじゃないかという不安
それらが一気に私に押し寄せてきて胸が押しつぶされてしまいそう。
それに合わせて涙もどんどん溢れて止まらなくなっていく。次第に身体が震えてきてそれを抑えるように自分を抱きしめるけど全く震えはおさまらない。
私は一体どうすればいいんだろう・・?
誰でもいい。お願い、助けて・・!
「あ、あの環さん!俺で良かったら相談のるよ?」
頭上から少し緊張した声をかけられて顔を上げると優依ちゃんが優しい笑顔で私の顔を覗き込んでいた。
そこで私はようやく今は独りじゃない事を思い出す。
話そうか迷っていると優依ちゃんはそれを察していたみたいで「無理に話さなくていい」と私を気遣ってくれて嬉しかった。
私は全部話そうと決めた。
それから私はさっきの夢で思い出した事を全て話した。
優依ちゃんは私が話し始めた時は驚いた様子で表情が引き攣っていた気がするけどそれはきっと気のせい。優依ちゃんは時々質問しつつも静かに聞いてくれた。
誰かに話すと気持ちが整理されるって本当みたいで話している内にさっきまであんなに胸を押しつぶしそうだった暗い気持ちが少しずつ晴れていってやらなければいけない事が見えてくる。
「やっぱりおかしいかな?こんな突拍子のない話信じられないよね。私の記憶の中だけの話だから妄想だって言われても言い返せないし」
頭の中で今起きている事を冷静に纏めていくにつれてだんだんこの話が現実味のない空想のように思えてくる。私の思い出した記憶がはっきり現実だと告げているけど他の人が聞けば突拍子のない話できっと信じてもらえない。
いくら優しい優依ちゃんでも・・。
そう思ってたのに優依ちゃんはただ一言「信じる」と言ってくれた。
私がどうして?と聞けば私が魔法少女だからって答えた。
確かに常識的に考えれば魔法少女なんてありえないと思う。私自身が証拠なんだ!
「俺は環さんを信じるよ」
そう微笑んでくれた時私はとっても泣きそうなりながら優依ちゃんにお礼を言った。
いや実際は泣いていてただ「ありがとう」って言うのが精一杯。
本当はもっと伝えたい。
もう今はほとんど夜になってる。
今気づいたけど私が気を失っている間、優依ちゃんはずっと私に付き添ってくれていたみたい。
本当に優しくて可愛い女の子。
だからこそ優依ちゃんを無事に送り届けなきゃ!
でも、それは叶わなかった。
気づけば私たちは再び見覚えのある結界に取り込まれていたから。
優依ちゃんがバランスを崩して尻餅ついちゃって手を貸したその時にようやく気付いた。
そしてこの結界の中には使い魔とは比べものにならない強い魔力を感じる。
・・・・まさか!
「U▽☆※@◆#!」
不安は的中して私たちの前に女の子の人形みたいな魔女が現れる。
どうしよう?使い魔でさえ倒せないのにそれより強い魔女が現れるなんて!
チラッと見た私のソウルジェムはもう元の色を残さない程黒く濁っていて焦りが募っていく。
きっと一度でも魔力を使うと完全に真っ黒になってしまって魔法が使えなくなるかもしれない。
これじゃ戦うどころか逃げる事すら出来ない。打つ手がない。
魔力もそうだけど何故か身体がダるくて思うように動かない。
ならせめて、この娘だけでも逃がさないと・・!
「神原さん!私が隙を作るからその間に逃げて!」
ほとんど気力で変身するもその反動からかふらついて倒れそうになる。
不安そうな表情の神原さんに余計な心配はかけたくないから何とか踏ん張って攻撃のための魔力をかき集めた。
「キュゥべえをお願い!ここにいたら危ないし私も後で合流するから!」
きっともう私はここから出られない。
薄々そんな事は分かっていたけど不安にさせないためにここはそう言った方が良い。
この攻撃に魔力の全てを込める!
おそらく私の魔力はこれでなくなってしまうだろうけど構わない!
「やあ!」
気合を入れるために声を上げて魔女に矢を放つ。
「○△※!?」
今注げるだけの魔力を込めた矢が魔女に当たり目に見えるダメージはないけど怯んでいるから今なら脱出出来るはず!
「今だよ!」
急いで優依ちゃんの方を振り向いて急かす。
私の合図で優依ちゃんは小さいキュゥべえを抱えてで口まで走っていく。
その際、「環さん気を付けて!」と言ってくれてその気遣いが嬉しかった。
良かった・・。神原さん何とか無事脱出出来そう・・。
結界の出口に走っていく優依ちゃんを見届けて私は崩れるように砂の上に座り込んでしまった。
さっきの攻撃で殆どの魔力を使ってしまったから当然の結果。
せめて優依ちゃんが逃げられる時まで・・!
それだけの思いで動いていたからそれを果たした今、もう私は戦うための魔力がなくて魔女が目の前にいるのにもう立ち上がる気力さえない。
「うぅ・・」
それだけじゃない。
キュゥべえを追いかけていた時から感じていた不調。
それは結界に囲まれて戦う度に増していた気がするけどここにきて一気に悪化した気がする。
身体の底から冷えていく感じ。
頭がボーっとしてもうちゃんと考える事も難しい。
そう感じてる間にもどんどん体温が奪われていってこのまま凍りつきそう・・。
・・・・・・・・。
どれくらい時間が経ったんだろう?
「――――!」
遠くで叫び声が聞こえるけど首を動かして見る事すら叶わない。
今は意識を失わないようにするだけで精いっぱい。
「○★@%!」
頭上から声にならない声が聞こえる。
ふらふらする頭を何とか上げると魔女が目の前にいた。
さっきの攻撃が思ったよりダメージがあったみたいだからきっと怒ってるんだ。
魔女が腕を振り上げる。
その腕の下にいるのは私だからもしかしなくてもそのまま腕を振り下ろしてペシャンコにするつもりみたい。
避けなきゃ潰れちゃう。
そんな事は分かってるのに身体は言う事を聞いてくれない。
もう視界もぼんやりしてきて魔女の姿もぼやけて見えるけどとうとう腕を振り下ろす。
私は動けず痛みに耐えるように顔を下に向けた。
うい・・ごめんね
お姉ちゃんここまでみたい
やっとういの事、思い出せたのに見つけてあげれなくて本当にごめん
「環さん!」
その時、かなり近くで私を呼ぶ声が聞こえてハッと我に返った。
声がした方に向かってゆっくり首を動かすと優依ちゃんが目の前にいた。
それも至近距離といってもいいくらい顔が近い。
「神原さん・・?きゃあ!?」
そのまま身体全体に衝撃が走って私は背中越しに後ろに吹っ飛んでしまってスザザァという砂に引きずられる音が耳元に聞こえた。
「うぅ・・」
痛い。全身が痛いけど特に背中が痛くて涙が出てきそう・・。
突き飛ばされた衝撃と体調不良のせいで上体を起こせないし、何より私の上に何かのってる・・?
「環さん!俺の声分かる!?」
近くで優依ちゃんの声が聞こえたかと思うと私の上にかかっていた圧が取り除かれ代わりに身体を抱き起された。
「環さん」と何度も私を呼ぶ声にうっすらと目を開ける。
「・・神原・・さん?」
見ると優依ちゃんが泣きそうな表情で私の顔を覗き込んでる。
ううん、完全に泣いてて瞳に溜まっていた涙が私の頬に落ちてきて何故か暖かった。
それよりも聞かなきゃ・・!
「どう・・し、て・・?」
優依ちゃんに向かって言葉を発しようとするも、もう声すら満足に出せないみたいでかすれてちゃんと喋れない。
でもこれはちゃんと聞いておかなくちゃ。
もう一度口をどうにか動かして優依ちゃんに問いかける。
「どうして・・私・・」
でもやっぱり声が掠れて最後まで言えなかった。
“どうして私を助けてくれたの?”
これを聞きたかった。
だって優依ちゃんが私を突き飛ばしてくれなかったら私は今頃魔女に潰されてペシャンコになっていから。
実際、私がさっきまでいた場所は振り下ろされた魔女の腕で地面が凹んでいる。
優依ちゃんのおかげで助かった。でも何で?
何でこの結界から抜け出せるチャンスを捨てて戻ってきたの?
最悪優依ちゃんも魔女の攻撃に巻き込まれて潰れちゃう可能性もあったのにどうして身を挺して助けてくれたの?
ちらっと横目で確認した結界の出口は使い魔が立ちはだかっていて出る事は不可能。
私自身も魔力がなくなった上に具合が凄く悪くて戦う事は不可能なのにどうすればいいんだろう?
もう結界から脱出する手段がないよ・・!
「良かった!環さんが無事で本当に良かった!」
「!」
八方ふさがりになって泣きそうになっている私を優依ちゃんが嬉しそうに抱きしめてくれた。
優依ちゃんの体温が冷たくなっていく私の身体を温めてくれてとっても暖かい・・。
「俺、環さんに死んで欲しくない」
「!?」
「俺、環さんと一緒じゃなきゃ嫌だよ」
「神原さん・・・」
すごく安心したみたいな表情をして抱きしめてくれる。
何となく優依ちゃんが助けに来てくれた理由は分かったかも。
ひょっとして私がピンチだったから何も考えず身体が動いちゃったのかもしれない。
危険なのはきっと覚悟の上だったはず。
そう考えるとなんだか体の内から暖かくなってきて不思議。
身体以上に心が軽い。
私をここまで思ってくれる人なんてきっとこれから先そういないと思う。
「!」
気づくと私たちの周りは使い魔で囲まれていてその後ろに魔女が控えている。
かなりピンチの状況を察してか優依ちゃんはギュッと私を抱きしめる力が強くなっていたけどそれもごく僅か。
微かに震える腕が心境を語っている。
危険を承知で助けてくれたんだもの!私が諦めちゃダメ!
絶対優依ちゃんを守らないと!
私の大切な人なんだもん!
気づけば私は震える優依ちゃんの手を握っていた。
「大丈夫だよ神原さん。・・貴女の事は必ず私が守るから」
不安で押しつぶされそうな私に優依ちゃんを安心させるためちゃんと出来てるか分からない笑顔を浮かべる。
優依ちゃんは泣きそうな顔で私を見ているけどもう手は震えていなかった。
「う・・!」
その直後だった。
さっきと比べものにならないくらいの苦痛が襲ってきてそれをただひたすら耐える。
苦しい。そのまま意識が真っ暗な闇に消えてしまいそう。
気を緩めてしまったら一巻の終わりな気がする・・!
・・私はこのまま消えてしまうの?
「環さん!」
! 遠くで優依ちゃんの声が聞こえる。
そうだ・・私今は独りじゃないんだ・・。弱気になってる場合じゃない!
絶対優依を守るんだ!
そう決意した直後の事はあまり覚えていない。
まるで幻のようにアッという間に過ぎ去って私自身どうなったか理解出来ない。
かぶっているフードが脱げて私の髪が生きてるみたいに集まったかと思うと気づけば浮いてるんだもの。
パニックになりながら私を宙に引っ張ってる原因を見ると私の髪と繋がってる大きな鳥みたいなものがいた。
それに驚いてる間に鳥が急降下しだして髪が鳥と繋がっている私も当然それに引きずられて一緒に急降下。
このままじゃ魔女にぶつかっちゃう!
でも、そうなる前に大量の白い布が魔女や使い魔に覆いかぶさって姿が見えなくなった。
布に覆われてよく分からなかったけど魔女は倒せたみたい。空間が歪んで元の公園に戻っていたから。
私の髪と繋がっていた鳥も一緒に消えていて元の髪に戻っていた。
あれは一体何?
「環さん!」
訳が分からなくて頭が混乱してる時にいきなり優依ちゃんに抱き着かれて頭が真っ白になりそうだった。
優依ちゃんは何故か興奮しててあの鳥の事を「ス○ンド」って言ってたけどそういう名前なのかはよく分からない。
・・ただ分かるのはあの大きな鳥は私から出てきた事
そしてあんなに濁っていたソウルジェムが元のピンク色に戻っていた事
許容範囲をはるかに超える出来事が続いて頭がパンクしそう・・。
「何だか私、自分が怖いよ・・」
その恐怖が全身に広がっていて気づけば私は自分を抱きしめていた。
だって・・・!
あの鳥まるで「魔女」に見えた
どうして?私は魔法少女のはずなのに・・?
私は魔法少女?魔女?
分からない。もし自分が魔女だって思うと怖い。
一度悪い事を考え出すとどんどん深みに嵌って悪い事ばかり考えてしまう。
でも優依ちゃんは怖がる私にとっても優しかった。
「俺は全然怖くなかったよ」
怖がる私と違ってあっけらかんとそう言い切って思わず「え・・?」と止まってしまった。
不思議がる私に優依ちゃんは何度も励ましの言葉を言ってくれる。
「環さんのおかげで俺こうして生きてるよ!」
笑顔でお礼を言われてしまったときは我に返った。
お礼言うのはこっちの方。
だって優依ちゃんは何度も私を励ましてくれて身体を張って助けてくれた。
感謝してもしきれない!
でも私も笑ってありがとうと言うと優依ちゃんはポカンとしてたけど何でだろう?
そんなことを疑問に思う暇もなく突然、力が抜けちゃって優依ちゃんに倒れ込んでしまってそれどころじゃなかった。
ごめんなさい。全く力が入らないなんて恥ずかしいよ。でも、
「貴女を守れて本当に良かった・・」
あの時守れなかったらきっとこの温もりも感じる事が出来なかった。
もう少しこうしていたい。優依ちゃんを感じていたい。
そう思いながら私は優依ちゃんの背中に腕を回した。
そういえばどうして優依ちゃんって呼んでるかについても触れておかないと。
神浜を出る時には随分暗くなっていた。
魔女を倒した後、何故か身体がとても怠くて優依ちゃんに支えてもらわないとちゃんと歩けないくらい程だった。
話を聞くと優依ちゃんが住んでる町は私の最寄駅を通るみたいだから夜遅い事もあるし家に泊まるように誘ったの。
最初は優依ちゃん遠慮してるみたいだったけど諦めずに誘ったらOKしてくれて良かった。
家に着くとお母さんは私が友達を連れてきた事に驚いてた。
今まで家に友達連れてきたことなかったから当然だと思う。
予定よりかなり遅い帰宅になったし無断で連れてきたから怒られるかもと思ったけどそんな事なくてむしろお母さんは凄く喜んでて優依ちゃんに挨拶してこっちが驚いちゃった。
何であんなに喜んでたんだろう?優依ちゃんをモデルか何かと勘違いしてるのかな?
ひょっとして優依ちゃんってモデルさん!?
確かに可愛いしありえるかも!?
ちなみに小さいキュゥべえは神浜にいる。
本当は連れて帰りたかったけどどうやら神浜の外には出られないらしくて動こうとしなかった。
魔女に襲われないか心配だったけど優依ちゃんは大丈夫でしょとあまり心配していなくてキュゥべえの方も「大丈夫!」と言っていたから渋々置いてきちゃったけど少し心配。
優依ちゃんは「チビべえ」って呼んでたけど私もそう呼んだ方が良いのかな?
話は戻るけど優依ちゃんを家に連れてきたのは夜遅いから泊まってもらおうと思ったからだけどあと二つ理由がある。
一つは私の手料理を食べてもらう事。
優依ちゃんと料理の話になった時、豆腐ハンバーグ食べた事ないけど興味あるって言ってたから誘ってみた。
本当はその時誘うつもりだったんだけどキュゥべえが突然現れてその後もそれ所じゃなくなったけど、上手く誘えて良かった。
作ったのはもちろん豆腐ハンバーグ。ういの好きな料理。
モデルさん(?)に自分の手料理を食べてもらうのは凄く緊張したけど美味しいって言ってもらえて良かった。
そしてもう一つは私の決意を聞いて欲しかったから。
神浜に行ったその日はすっごく慌ただしくて訳が分からない事ばっかり起きて不安になったり怖いと思ったりした事もあったけどそれをひっくるめて良い日だって自信を持って今なら言える。
だって優依ちゃんに会えたんだもん!
だからそれも含めてういを探す決意を優依ちゃんに聞いてほしかった。
一緒に過ごした思い出は一日しかなくてひょっとしたら夢かもって思っちゃう日もあるけど私には確かな証がある。
それは優依ちゃんと一緒に撮ったプリクラ。
一応プリクラの事は知ってるけど撮った事がなくてどういう表情すればいいのか分からなかったから映っている私の表情は固いし見れたものじゃないけどこれは私にとって大事な宝物。
優依ちゃんと過ごした過ごした大事な思い出だから一生大事にするつもり。
うい。お姉ちゃんね今日初めて友達が出来たよ。
名前は優依ちゃん。モデルさんみたいに綺麗でとっても優しい女の子。
会ったら絶対驚くよ!すっごく美人だもん。
私の大切な友達だからいつかういに紹介するね!
着信『えろは』
「・・・もしもし」
『もしもし優依ちゃん?いろはです。今大丈夫かな?』
環いろはからの電話に俺は今日も死んだような表情でスマホを耳に当てて彼女の声を聞く。
早く終わってくれと願うがいろはの電話はぶっちゃけ長いから今日も軽く一時間は超えるだろう。
怒涛の神浜脱出劇を終えてこれでもう大手を振って過ごせると思ってた俺は救いようのない愚か者だと思う。
神浜に行ったあの日。
ス○ンド発動し魔女を倒した環いろはもといス○ンド使いは使用した代償からか疲労感でしばらくまともに歩けない状態だった。
休憩挟みーの、徒歩の付き添いやりーので夜はどんどん更けていって気づけば補導されかねない時間帯になっていて俺涙目。
でもそれだけならまだ良かった。
まさかの帰宅電車が同じだったため一緒に乗車していると環いろはから「今日は泊まっていかない?」という死刑宣告が下って俺発狂寸前。
全力で断ったが実は意外と頑固らしい彼女はめげず最終的に押しに弱い俺が折れて環家という名の処刑場に連行されていった。
その時出会ったいろはママがすっごいインパクトがあって今でも鮮明に思い出せる。
だって俺の顔を見るなりいきなり手を掴んで、
「いろはが友達を連れてきた!しかもこんなに可愛い子を!」
とハイテンションで喜んでいたから。
この様子から察するにどうやらいろはさんは一度も家に友達を連れてきたことはないらしい。
俺の中で環いろはぼっち説はほぼ確定した瞬間であった。
ちなみにチビべえは一緒に来ていない。
いろはの奴は連れて行くつもりだったが何故かチビべえは神浜から出たがらなかった。
仕方なく置いてきたがいろはの奴は心配しているみたいだ。
まあ、あいつならきっと(というか絶対)大丈夫だろう。
中々の強かさと逃げ足の速さがあるから危険に遭う事もほぼないと俺は確信している。
話は戻るが俺が環家で何をしたかというといろはがご飯作ってくれました!
豆腐ハンバーグ美味しかったっす。
全体的に薄味で健康志向が凄まじい気がするけど。
いろは曰く「妹が食べれるように作ってたから」らしい。
まあ、薄味だったけど可愛い女の子の手料理を食べられるというのは至福と言える。
前世では決して味わえなかった経験と言っていい。
こういう時つくづく性転換して良かったと思う。手放しで喜べはしないけど。
「ここが私とういの部屋だよ」
食事後は部屋にいろは&妹ちゃんの部屋を見せてもらった。
話に聞いた通り部屋の半分が物が置かれてなくて不自然に殺風景な光景。
本当に半分だけ消えちゃったような感じでこれはいよいよいろはの言ってる事に信憑性がでてくる。
何もない部屋半分は確かに気になるが俺個人として気になるのはいろはのベッドにもたれかかっている意外とでかいウサギのぬいぐるみの方だ。
何だあの存在感は?
この部屋で一番気になると言っても過言ではないくらいプレッシャーを放ってるぞ!?
あ、ちなみに何で俺が「環さん」呼びから「いろは」と名前呼びに切り替わっているかというと、このお部屋拝見時の会話が原因です。
↓以下のその会話
「神原さん」
「何?」
「私、これからも神浜に通ってういを探しに行くよ」
「そっか、見つかるといいね妹さん」
「うん、ありがとう。それで・・神原さんにお願いがあるんだけど、いいかな?」
「何?」
「ういが見つかったら神原さんの事、ういに紹介していいかな?・・私の友達として」
「え!?」
「や、やっぱりだめ?そうだよね・・いきなりこんな事言われても困るよね?」
「あああああ!いや!そんな事ないよ!友達代表として恥をかかないように努めますのでよろしくお願いします!」
「え?じゃあ私たち友達?」
「うんそうだね!友達だ!」
「! ありがとう!あ、だったらもう一つお願いがあるんだけどいいかな?」
「・・何でしょうか?」
「神原さんの事これから『優依ちゃん』って呼んでいい?」
「ふぁ!?」
「・・・だめ?」
「問題ありません!」
「ありがとう!じゃあ優依ちゃんって呼ぶね。私の事も名前で呼んでくれると嬉しいな」
「うん分かったよ!いろは!」
「あ、それと携帯番号交換しよう?」
「!!?」
会話終了
色々きつかった・・。
控えめなフリしてグイグイくるピンク。
遠慮がちに頼んでくるくせに断る雰囲気でさえ見せようものなら今にも泣きそうな表情を浮かべてじっと見てくるから断れない!しかも一個OK出したら更に要求が増えてくる。しかも折れる気配なし。
最終的に携帯番号も頑固一徹な評価が下りつつあるいろはに押し負けて渋々交換してしまった。環いろは恐るべし。
夜も環家に友達が来た事ないから当然来客用布団なんてない。
何が悲しくて死亡フラグ主人公と一緒に寝ないかんのだ!?
まあ、お別れしてしまえば距離がある事もあって疎遠になるはずだ!
・・そう思っていた時期がありましたよ俺に。
『それでやちよさんが・・』
ピンクから二日に一回ペースで電話がかかってくるのはこれ如何に?
マジで地元に友達いないのかというくらいのハイペースで電話がかかってくるんですがどうなってんの?
嫌なら拒否すればいいじゃんと思うかもしれないがそうはいかない。
主人公の話は大体ストーリー展開を掴むために必要なものだ。
彼女は今も妹探しのために神浜に通っているらしく、よく話題になる。
例えば、
チビべえは元気にしてるとか、
別の魔法少女に追い出されそうになったとか、
魔法少女の調整屋さんに出会ったとか、
噂が現実になるとか、
まさに情報の宝庫だ。(聞きたくない方の)
今は仲良くなったらしい「七海やちよ」の名前がしきりに出ている。
以前は神浜から追い出されそうになったらしいのによく仲良く出来るな。俺だったら無理だ。
きっとあのピンクの頑固が発揮されたんだろうなとこは簡単に想像がつく。
やちよさんご愁傷さま。
「七海やちよ」について分かっている事は現役大学生モデルにして俺が知ってる中でも魔法少女最年長。
つまりギリ未成年という事だ。
容姿はインタビュー特集をやっている雑誌を見たことあるので知っている。クール美人といった感じだった。
俺が最も苦手とするタイプ。是非とも縁などないように願いたいものだ。
といってもどうせもうこれから先あの魔窟のような神浜に行くことはない。
てか絶対行くか!!命がいくつあっても足りないわ!
「神浜行き論外」と結論付け、楽しそうないろはの声を半分聞き逃しながら俺はやさぐれ気分で電話を続けた。
いろはちゃん番外編でした!
長かった・・・。
次マギレコキャラ書くとすると誰だろう・・?
やっぱフェリシアちゃんかな・・?
まあ、それはともかく次は本編に戻ります!
さやかちゃんのお話です!