魔法少女オレガ☆ヤンノ!?   作:かずwax

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いきなり波乱なさやかちゃん編!
優依ちゃんは彼女を説得できるか!?



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64話 Mission「美樹さやかの契約を阻止せよ!」②

さやかside

 

 

階段に座る優依はじっとあたしを見下ろしている。

 

ただ座ってるだけだっていうのにやたら顔が整ってるせいか見下ろす様は心なしか迫力がある。

出入り口から漏れる夕日に背中を照らされた優依は何だかとっても幻想的だ。

 

 

「そんなに急いでどこに行くんださやか?」

 

 

静かにそう告げた優依は優しく微笑んでる。

夕日の効果もあって笑顔が儚く見える。

 

その様子が絵になってるからあたしとした事が少し間見惚れちゃってて「さやか?」って呼ばれてようやく我に返るほど。ホント美人は役得で羨ましいよ。

 

 

「優依こそ何でここにいんのよ?」

 

 

屋上に急いでるあたしはとても苛立っていてついつい語尾が強くなる。

しかも優依は何だかのんびりした雰囲気だから余計に苛立ちが募っていくし悪循環。

 

どうしてよりにもよってこんな時に優依がいるの!?

まさかあたしを邪魔しにきたの!?

 

 

「俺がここにいる理由か?さやかに会いたくなってここに来たんだ」

 

「・・はあ!?」

 

 

まさかの爆弾発言。

 

内心どころか表面にまで驚きを隠せなくて頭がパニックなりそう。イライラした気持ちなんてどこかに吹き飛んでしまっていた。

 

からかってるのかと一瞬思ったけど優依の表情からはそんな様子は感じないし、まさか本気で・・?

 

 

「~~~///」

 

 

今絶対顔が赤い!でも幸いな事に今は夕暮れだからそれを指摘されても誤魔化せるはず!

 

て、そうじゃない!ここで焦ってちゃ優依の思い通りになる!

ここは何とか平静を装わないと!

 

 

「へ、へえ、そうなんだ。あ、ところでさ、あんた自分の事「俺」って言ってんの?初めて聞いたんだけど」

 

 

噛みそうになりながらもなんとか平静を装えたと思う。

 

 

勘違いさせそうな事言った仕返しついでにさっき気になった普段とは違う優依の口調にも突っ込んでおこう。

さっきあたしをからかった罰。思い知らせてやるんだから!

 

場違いだけど悪戯心で様子を見るも慌てると思ったあたしの予想とは裏腹に優依は特に反応しない。

首を傾げていると向こうは淡々とした様子で口を開いた。

 

 

「あぁ、これが俺の素の口調だよ。もう隠す必要もないと思ってね」

 

「! ふーん・・じゃあ今までの態度って全部演技って事?つまりあたしは素を出すほどあんたに信用されてなかったんだ」

 

 

普段より低い声が出てあたし自身が驚いてる。

どうやら自分が思うよりも傷ついてるみたいで胸がズキリと痛い。

 

 

だってしょうがないでしょ?

 

 

仲良いと思ってた友達は実は仮面の表情しか見せてなくて今まで一緒に過ごした時間は何だったの?って叫びたくなる。

 

 

優依は・・マミさんには素を見せてたのかな?それか転校生・・?

 

 

何故か涙がこみ上げてくるあたしとは対照的に優依はどこまでも冷静で少しため息を吐いている。その面倒くさそうな態度にカチンと来るも涙を堪えるのに必死で何も言えない。

 

 

「さやか、それは随分勝手な思い込みだ」

 

「え・・?」

 

 

思わず顔を上げると優依は困ったような笑顔であたしを見下ろしてた。

 

 

「こうは思えないの?今まで一緒に過ごして信用できると思ったからこうやって素の口調で話してるんだって」

 

 

苦笑いしながらそう説明する優依。

その穏やかな表情に内心ほっとする。

 

 

良かった

 

 

あたしの事ちゃんと友達だって思ってくれてるんだ

 

 

 

 

「・・・あっそ」

 

 

でも内心とは別に出てきたのはこんな素っ気ない言葉。

こんな事しか言えない自分に嫌気がさすけど素の感情を出すのは苦手だからいつもこうやって誤魔化してしまう。

 

 

優依の事責める資格なんてあたしにはないのに・・。

 

 

 

 

あたしのバカ!何で素直になれないの!?

 

 

 

て、違う!今はそんな事言ってる場合じゃない!

 

 

あたしは早く屋上に向かわないといけないのに!

 

 

 

ふいに当初の目的を思い出して止まっていた足を動かしていく。

 

 

「優依そこどいてよ。あたし屋上に用があんの。話なら後で聞くから今はやめて」

 

 

無理やり押し通るために優依の横を駆け抜けようとするけど途中で足が止まる。腕が何かに引っ張られてる?

驚きながら引っ張られてる腕を見ると手があたしの腕を掴んでる。その先には優依がいる。

 

 

「ちょっと離してよ!」

 

「そんなに急いでまで屋上に何の用?夕日でも見に行くの?」

 

「そんな訳ないでしょ!いいからどいてよ!大事な用事があるんだから!」

 

 

ここで時間を過ごしてたらあっという間に優依のペースに巻き込まれる。

 

そうなる前にこの手を振りほどかなくちゃ!

 

 

 

 

「ふーん、それひょっとして上条の腕を治すために今からキュゥべえと契約するとか?」

 

 

「!」

 

 

 

図星を刺されピタッと身体の動きが止まった。

 

 

「何でその事・・?」

 

「あ、やっぱりそうなんだ。さやか分かりやすいからな」

 

「だったら何よ!?悪い!?叶えたい願いが出来たんだから別にいいじゃない!」

 

 

あたしの考えが読まれている事とからかうような優依の態度に逆上してしまってつい大声で怒鳴る。思ったよりも大きな声をだしてしまったから周囲にあたしの声が遠くまで響いた。

 

 

あたしが頭に血がのぼる毎に優依の視線が段々冷たくなっていくみたい。

向けられた目は今まで見た中で最も冷たい感じがしてまるで氷みたいに冷え切ってる。

 

 

「あのさ、勘違いしてない?これは上条の問題であってさやかがどうにかしようとする問題じゃないよ」

 

 

これ見よがしにため息を吐いた優依はまるで小さい子供に言い聞かせるような丁寧な口調であたしにそう告げる。

 

 

 

分かってる。そんな事。

 

分かってるわよ!!

 

 

反抗的なあたしの視線に気づいたのかもしれない。

優依は階段から立ち上がってあたしをまっすぐ見てる。

その視線は鋭くて思わず怯みそうになるくらい迫力があった。

 

美人は睨むと迫力あるって本当なんだ。

 

 

怯えを顔に出さないように努めながら頭の中ではぼんやりそんな事を思った。

 

 

 

「さやか、これは上条が自分で乗り越えなきゃだめだ。誰かが出しゃばる事じゃない。今ここで腐るようならあいつは負け犬人生決定だよ」

 

 

「っ!」

 

 

あまりの言いように絶句して言葉を失ってしまう。

 

 

優依の言い方はあまりにも冷たくて目の前にいるのは本当に優依本人なのかと疑いたくなるほど冷酷な言葉で何の感情も抜け落ちた能面のような表情。

 

 

理解が追いつかない。

目の前にいるのは本当に優依?分からない。

 

 

でも言ってる事は何となく分かる。

 

 

 

優依が言いたい事ってつまり、

 

 

 

 

「・・このまま苦しむ恭介を黙って見てろって言うの!?」

 

 

 

 

あたしと優依を除いたら周りには誰もいない人気のない階段。

その場所であたしの怒鳴り声がさっきよりも全体に響いている。

 

大声を出したから息が切れたけど今ある感情は怒りのみ。

優依に対して向けた怒りは全身に回り身体が震えてる。

 

 

頭に血が上って今にも優依に掴みかかりそうになるのを堪えるのに必死で手に力が籠る。

 

 

 

恭介を助ける邪魔するなら許せない!

たとえそれが優依でも!

 

 

 

 

「あー・・何か勘違いしてるみたいだけど違う、違う。そうじゃなくてもっと発想を柔軟にしろって言ってんの」

 

 

「は?どういう事?」

 

 

怒りが爆発する直前、気の抜けた優依の声に一瞬ポカンとする。

顔の前でヒラヒラと手を振る様は何となくマヌケな印象だ。

 

気まずそうに頬をかく優依は言葉を選んでるのか「あー・・」と言葉にならない声を出していたがやがて口を開いた。

 

 

「えっと・・さやかはさ、キュゥべえと契約したらどうなるかホントに分かってんの?最悪昨日みたいな事になるんだよ?」

 

「・・・っ」

 

 

優依の言う「昨日」の事なんて一つしかない。

 

マミさんが魔女に食べられてる光景が鮮明に思い浮かぶ。

あの時の恐怖が蘇ってきて身震いしそうになる。

 

だけど無理やり恐怖を押さえつけてキッと優依を睨みつけた。

 

 

「そんなの覚悟の上よ!あたしは・・!」

 

 

言い終わる前に優依が「どーどー」と変な言葉を述べて遮ってきた。

 

 

「別にさやかが契約しなくても良くない?」

 

「え?何言って・・?」

 

 

遮るように先に優依がケロッとした表情でそう言うから混乱してきた。

あたしが契約してなくもいい?訳が分からない。

恭介の腕は魔法でもない限り治らないって言われてるのに!

 

 

「一体何が言いたい訳?あたしが契約しないで誰が恭介の腕を治せるのよ!?」

 

「だったら先にマミちゃんに頼んで魔法で上条の腕治してもらえば良いじゃん」

 

「!」

 

 

え?

 

目をパチクリさせて優依をまじまじと見るとあいつは悪戯を思いついたような笑顔でにこりと返した。

 

 

「ほら、初めてキュゥべえに会った日ボロボロだったアイツをマミちゃんが治したじゃん?その要領でいけば上条の腕も治せるんじゃない?」

 

「そ、それはそうだけど・・何だかそれじゃマミさんに悪いし・・」

 

 

ごにょごにょと言い訳するように口ごもって目線を下に向ける。

 

いくらの人の良いマミさんでもそんな個人的な頼みをするわけにはいかないし・・。

 

 

言い訳ばかり頭を掠めて何の反応もしないでいたからか乗り気じゃないのは分かったみたいで優依は更に畳み掛けてくる。

 

 

「そこは気にしなくても良いと思うぞ?さやかは忘れたのか?マミちゃんは正義の味方だぞ。困ってる人を見捨てないのはさやかだって知ってるじゃん」

 

 

ハッとして再び優依の顔を見る。

 

 

そうだマミさんは正義の味方。あたしが憧れる魔法少女なんだ。

それに魔法少女の魔法なら恭介の腕を治せるかもしれない。

分かってはいるんだけど・・。

 

 

「それに俺には『シロえもん』という超優秀な発明家もいるんだからなんとかなるって!大丈夫さ!ねえ『さや夫』君!」

 

あたしの暗い気持ちとは対照的に優依は底抜けに明るい声でそう捲し立ててくる。肩に手をおいて少し馴れ馴れしい態度にさっきの神秘的な雰囲気とは180度違うから混乱しそう。

 

 

「は?さや夫って誰?あたしの事?そもそもシロえもんって何?」

 

 

何故か口に出たのがさや夫君の件だったけど優依は恍けたような表情をしつつ何も答えてくれない。

というかシロえもんって結局何なの?

 

 

それにどこからか「やあ、初めまして。僕、シロえもん(ダミ声)」と変な声が聞こえた気がするけど幻覚?

 

 

「・・ただ、シロえもんに関して言えば妙なこだわりさえなければなぁ・・」

 

「優依?」

 

 

何故か疲れたような目をあたしの足元に向けて呟く優依は不思議と哀愁が漂わせていてその理由は分からず首を傾げる。

夕暮れ時に感じる寂しさもあいまって優依の姿が一層儚い幻想に見える。

 

 

「・・それはともかくマミちゃんに言われなかったか?」

 

「何を?」

 

「自分の願いを履き違えたままじゃ後悔するって。今契約しても後悔するだけだぞ」

 

「そんな事、分かって・・」

 

「はい深呼吸して、一旦冷静になろう」

 

 

優依が至近距離まで顔を近づけて覗き込んでくる。

真剣な目であたしをじっと見つめてきて驚いたからか心臓がバクバクうるさい。何だか顔に熱があるみたいでさっきから熱いけどそれはきっと夕日の熱のせいだ。

 

 

「結論を言えば上条の腕を治すのは別の方法があるから契約を急ぐ必要はないって事だよ。分かった?」

 

「でも・・」

 

「もしマミちゃんの魔法でもシロえもんの技術でも治らないその時は契約すればいいさ。今は取りあえずやれるだけの事はやろう。契約は最終手段って事にしとこうよ」

 

「・・・・」

 

 

優依に言われたことを頭の中で振り返る。

 

 

シロえもんが何なのか知らないけどおそらくマミさんならきっと恭介の腕治すことだってきっと出来るはず。たった一つの奇跡。これから先何があるか分からないから願いを叶えられる機会はとっておきたい。

 

 

・・・うん、決めた。

 

 

優依たちを信じてみよう!

それにここまで来てくれた優依の頑張りを無駄にしたくないし。

 

 

どうしても無理ならあたしが契約すればいいだけだし!

 

 

 

 

「そうだね。契約はまた今度にするよ」

 

「よっしゃ!」

 

「? 優依?」

 

 

何故か夕日に向かってガッツポーズで喜ぶ優依に首を傾げると慌てたように取り繕いながらあたしに向き直った。

 

 

「あ、いや何でもない!えっと、じゃあ今から一緒にマミちゃんに頼みにいこうか」

 

「うん!」

 

 

優しい微笑みを浮かべながら優依はあたしに手を差し伸べてくるからあたしも笑顔を浮かべてその手を掴むため腕を伸ばす。

 

 

大丈夫。きっと何とかなるよ。

 

 

 

 

 

≪本当にそう思うかい?≫

 

 

 

 

!?

 

 

 

優依の手を掴む直前、頭の中に声が響いて思わず手が止まった。

 

 

この声まさか・・!

 

屋上で待っているキュゥべえがあたしに話しかけてるんだ!

 

 

 

「? どうしたさやか?」

 

 

不思議そうにあたしを見下ろす優依はどうやら聞こえてないみたい。どう説明しようか迷っている間にキュゥべえの声が再び聞こえてくる。

 

 

 

≪さやか、今ここで契約しないで君は後悔しないと言い切れるのかい?≫

 

≪分かんない!で、でもちゃんと冷静になって願い事を決めなきゃ!これから先、魔女と戦う運命ならなおさら・・!≫

 

 

そう、別に契約をしないわけじゃない。

他に選択肢もあるんだから契約に固執する必要はないんだ。

 

 

 

≪つまり君は逃げたんだね≫

 

 

 

淡々とした口調ではっきりそう言われて息が止まる。

そんなんじゃないと告げても心の中ではあたしは逃げたと納得してしまってる自分がいるのを否定できない。

 

 

 

≪実際はそうだよ。ついさっきまでは契約する気だったのに急に気が変わっちゃうんだもん。都合の良い言い訳を見つけたから逃げちゃったんだよね。所詮君の覚悟なんてその程度って事だ≫

 

≪違う!あたしはちゃんと覚悟できてるよ!でも他に恭介の腕を治す方法があるならそこからでも遅くはないでしょ!?≫

 

 

 

 

≪それまで上条恭介の心の均衡が崩れなければね≫

 

 

 

≪え・・・?≫

 

 

 

≪君がこんな事してる間に彼はもしかすると人生に絶望して自らその生を終わらせるかもしれないよ?≫

 

≪え?それって・・まさか!?≫

 

 

脳裏に浮かぶのはさっきの恭介の自暴自棄に陥った姿。

 

あの様子だと勢いで自殺してしまいそう・・・!

自分の人生に絶望してそのまま身投げなんてまさか・・?

 

 

≪君に契約する気がないのは分かった。だったら僕は他に契約が必要な娘の元へ行くだけさ。もう君の前に姿を見せる事もないかもね≫

 

 

キュゥべえが行ってしまう?

このままだと恭介が・・・!

 

 

≪そんな・・待って!すぐ行くから!≫

 

 

 

気づいたらあたしはそう叫んでいた。

 

 

 

 

 

 

「・・・・・」

 

「さやか?」

 

「ごめん優依!あたしやっぱり契約する!」

 

「え?ちょっと待って・・!」

 

 

一気に足を踏み出して階段を駆け上る。

足元から「きゅぴい!」という声がして踏んだ感触が階段にしては柔らかかった気がするけど気にしていられない。

優依が驚いて固まっていたけどすぐに我に返って手を伸ばしてくる。

 

 

でもその手を今度は紙一重でかわしてそのまま屋上まで目指す。

 

 

後ろから「さやか!」ってあたしを呼ぶ優依の声が響いてその声に思わず立ち止まって後ろを振り返って出入り口を見る。

 

優依に悪い事したと思ってる。

わざわざ駆けつけてくれてあたしが危ない目に遭わないように説得してくれて、恭介の腕の治療をマミさんに頼んでくれるって言ってくれたのにあたし何やってんだろう?

 

 

優依を裏切ってしまった・・?

 

 

 

「・・・・・・・・」

 

 

 

屋上で立ち止ったまま出入り口をじっと見つめる。

 

 

 

 

 

もう少しだけ・・もう少しだけ待ってみよう。

 

 

これは最後の賭け。

 

 

もし優依が来たら勝手な話だけど契約は踏み止まろう。

またキュゥべえを探せばいいだけだし、魔法少女のマミさんの近くならきっといるはずだから。

 

 

 

もう少し、もう少しだけ。

 

 

 

・・・・・・・・・・

 

 

 

「・・・・・・・優依」

 

 

 

しばらく待ってみても優依は屋上にやって来る気配はなかった。

それが悲しくて寂しくてじわっと何かがこみ上げてくる。

 

 

どうして優依はあたしを追ってきてくれないの・・?

・・あたし嫌われちゃった?

 

 

あたしは契約するしかないんだね・・。

 

 

涙が溢れてくるのを袖で拭ってキュゥべえの方に向かって歩き出す。

やがて中央に佇む小さくて白い生き物と対峙するため立ち止る。

 

 

「本当にどんな願いでも叶うんだね?」

 

 

屋上庭園の中央にちょこんと座っているキュゥべえに確認するようにもう一度聞く。

 

 

「大丈夫、君の願いは間違いなく遂げられる」

 

「・・そう」

 

 

覚悟を決めたはずなのに未練がましく出入り口の方を見るも誰も来ない。

 

 

 

 

「じゃあ、いくよ」

 

 

キュゥべえが長い耳を伸ばしてあたしに触れる。

 

 

「うん・・うぅ!」

 

 

急に胸のあたりが苦しくなって呻いていると心臓のあたりから青い光が灯り宙に舞った後あたしに向かって落ちてきた。

 

 

「さあ受け取るといい。それが君の運命だ」

 

 

 

光を受け止めたあたしの手の中には青い宝石が光ってる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はあ、はあ、キッツイ・・」

 

 

 

階段をひたすら昇っていたが足がガクガク腰ヘロヘロのお年寄り顔負けの瀕死ぶりで泣きそうだ。

死にそうな思いをしつつ俺は今屋上に向かっている。

 

 

理由は簡単、さやかの契約を阻止するため。

 

 

そのためには屋上にいるであろう白い悪魔の駆除とその内やって来るであろう猪突猛進な青を説得する必要がある。

 

ちなみに何でエレベーターじゃなくて階段で向かっているかというと現在シロべえがエレベーターをハッキングして使用出来なくしているから。

さやかが屋上へ向かうまでの時間稼ぎという訳だ。

だから今エレベーターは誰も使用出来ない。(緊急患者がいる場合は可能にするとかなんとか)

 

 

 

・・・・・・あれ?

 

 

今思えば俺が使った後にエレベーター停止させれば良かったんじゃないか?

 

 

 

 

一瞬思った事を振り払いひたすら階段を上る。

 

 

少しでも休もうとすればすぐにでもそこから動かなくなってしまいそうだ。

 

 

 

 

「はあ、はあ、ちょっと休憩・・」

 

 

 

 

屋上に辿り着く直前、さすがに体力の限界が来た俺は階段に座り込んでしまいそのまま動かなくなる。体力の回復を待って座りながらぼんやりと考え事に努めた。

 

うん、分かっていたけどやっぱり上条の階から屋上まではそこまで遠くないが階段で昇る距離ではない。断じてない!

 

だがこの距離なら階段昇るのにも時間がかかるだろうしシロべえの足止めもあるからさやかはすぐにはこないだろう。

 

 

今の内にインキュベータ―を屋上から追い出しておこう!

よし!頑張れ俺!

 

 

大雑把なポジティブ思考で奮起した俺は立ち上がろうとする。しかし、

 

 

「・・・優依」

 

 

「!? さやか・・?」

 

 

 

その寸前階段を上ってきたらしい少し息が切れてるさやかとばっちり目が合った。両者の間に気まずい沈黙が流れる。

 

 

 

ちょっと待ってえええええええええええええええ!?

 

 

 

早くない!?さやかさん来るの早過ぎません!?

俺が階段を上り始めてからそんなに経ってないのにもう昇ってきたの!?

運動神経良いと思ってたけどこれじゃ化け物級の体力してるよ君!?

 

どうしよう!?これじゃもう屋上にいるキュゥべえを追い払えない!

しかもばっちり俺が休憩中の所見られた!もう今更立っても意味ねえよこれ!

 

 

くそ!こうなったらここでさやかを説得するしかない!

この階段に座っている姿勢でさやかを待っていた風にするんだ俺!

 

 

自滅に近い形で追い詰められた俺は無理やり取り繕った笑顔を向けてさやかに話しかける。

 

 

「そんなに急いでどこに行くんださやか?」

 

「優依こそ・・何でここにいんのよ?」

 

 

誤魔化せた・・?すっごく取り繕った感があるけど誤魔化せた?

 

 

てか、めっちゃ夕日が眩しいし背中が熱いんだけど?今ここ動けない。だって動いたらそのままここを突破されそうなんだもん。

 

 

それはともかくさやかは出鼻くじかれて苛立ってるからかめっちゃ睨んできて怖い。

 

 

 

「俺がここにいる理由か(休憩してただけだけど)?(後々厄介だから契約を阻止をするため)さやかに会いたくなってここに来たんだ」

 

 

本当は来たくなかったけどね!

 

 

咄嗟に出た言葉に反応したさやかは夕日のせいか顔が真っ赤だ。

分かるここ熱いもんね。俺も背中火傷しそなくらい日射浴びてるもん。

 

 

あと君こんな時にどうでもいい俺の口調に突っ込んでくるな。

またうっかり出してしまっただけです俺の素の口調。

今更感があるけどバレてしまった以上はどうしようもない。

 

交渉というのは感情を相手に悟らせたら負けだ。

だから冷静にというか夕日による暑さに耐えるためにほとんど表情が抜け落ちてる。

内心では超ビビりながらも何とか青を宥めて話を聞くと案の定こいつは契約する気みたいだ。

 

 

予想通り過ぎて笑えてきた。ブレない青に半泣きで笑ってたらキレられたのは何故?

さっきから噛みつく勢いの態度にマジでビビりまくっている。

 

 

あー・・怖いけど今どうにかしないと契約するなコイツ

 

 

それだけでもうんざりなのに邪魔されて気が立ってから俺の睨む眼力半端ない!今すぐにでも逃げ出してえ!

 

 

 

それもこれも全部、上条のせいだ!

 

 

あいつがいい歳こいてみっともなく幼馴染の女の子に八つ当たりするから!

 

 

そのため「ほっとけば?」と恨みと妬みを合成した言葉を放つとさやかは更にキレられて墓穴を掘ってしまった俺はマジでアホだ。

 

 

チクショウ!やっぱり爆発させたい!いっその事俺の手で!

そした万事解決だろ!

 

 

・・待て?その上条の腕をどうにかすれば・・?

 

 

 

そうだ!その手があるじゃん!

突如舞い降りた閃きは俺に現状の打破に通じる道を導いてくれる!

 

そう、別にさやかが契約して治す必要なんてない!

すでに魔法少女になっている人にお願いして治してもらえばいいじゃん!

さしあたっては候補者はマミちゃんか?

おお!いけるじゃんこれ!きっと無償でやってくれるに違いない!

 

 

ビバ!マミちゃん!

 

 

いやほむらもあり!

その場合さやかもほむらを見直すはず!

むしろその方が一石二鳥じゃね!?

 

こんな事思いつく俺天才じゃん!

 

 

そう思ってホクホク顔で目線を上げるとさやかガチギレ寸前だったので慌ててさっき思いついた事をさやかに述べた。

 

 

ようは契約なんてやめてマミちゃんにお願いしちゃおうぜ!

 

 

って、事を馬鹿丁寧にさやかに熱く語っていると迷ってはいるが満更でもなさそうな表情をしていたので後一押し!

 

 

そう思ってふと下を見るとさやかの足元に白いぬいぐるみがいる。

 

 

あれ?何でシロべえここにいんの?

エレベーターはどうした?

 

 

さやかは気づいてないけどまたシロえもんキャラやってるし・・何がしたいんだコイツ?

 

ん?待てよ?シロべえの技術をもってすれば上条あんにゃろうの腕なんて簡単に治せるんじゃ・・?

 

おお!希望に満ち溢れている!

これは是非とも取り込んでおかなければ!

 

 

 

そこから俺は頑張った。

俺の持てるスキル全てを出したと過言ではないくらい熱く語りまくり契約しないメリットを吐きまくる。

さやかみたいな猪突猛進な性格の奴は真っ向から否定したら余計反発する。

 

「契約するな」なんて言えば反発して契約するのは目に見えている。

 

だから保険という形で契約を残すという選択肢を伝授したのだ。

それならさやかだって納得するはず!

 

実際それを聞いてからの奴の表情は納得した感じでしきりに頷いていた。

 

それに手ごたえを感じ俺は更なる説得を試みた。

時にマミちゃんの名前をだし、時に至近距離に顔を近寄らせて思考停止させるなどとにかく何でもやった。

 

 

 

 

そしてついに・・・!

 

 

 

「そうだね。契約はまた今度にするよ」

 

「よっしゃ!」

 

 

人前でガッツポーズをしてしまったけど悔いはない!

それだけの偉業を俺はやり遂げたんだから!

 

 

良かったー!これならさやかは契約しないだろう!

後はマミちゃんの治癒魔法次第だけどシロべえもいるし何とかなるだろう。

これで次の懸念材料が減った!

 

 

首を傾げて「優依?」と俺を見つめてくるさやかに慌てて向き直った。

 

 

 

予想外のトラブルがあったが昨日に引き続いて上手くいっている!

これなら後は何の問題もないだろう。

ホクホク顔でさやかに手を伸ばして帰宅を促すと向こうも頷いて俺に向かって手を伸ばした。

 

 

 

 

伸ばしたはずなのに・・・。

 

 

 

 

 

「・・・・・」

 

 

「さやか?」

 

 

伸ばした腕は何故か途中で不自然にピタッととまり所在なさげに宙を掴んでいる。さっきから何度も呼びかけているのに一向に返事がなく俯いたままだ。

 

 

 

 

「ごめん優依!あたしやっぱり契約する!」

 

 

 

 

勢いよく顔を上げたさやかは何故か泣きそうな顔をしてて、そのまま俺の横を通り過ぎていく。その際、未だに足元にいたシロべえは思いっきりさやかに踏まれ「きゅぴい!」と可哀想な悲鳴を上げていた。

 

 

「え?ちょっと待って・・!」

 

 

突然の事に呆然とする俺だったがすぐ我に返り腕を掴もうとするも間一髪避けられてしまいそのまま屋上に向かった。

 

 

 

ヤバい!このままじゃ契約する!

 

 

 

 

俺はさやかの後を追いかけた。

 

 

 

否、追いかけようとした。

 

 

 

 

長い階段で疲労困憊な上に運動音痴な俺の身体は指示通り動くわけなく、駆け上がろうとした際、足を踏み外すと同時に勢いよく前のめりで倒れ込んでしまう。

 

その際、とある部分を階段でぶつけてしまった。

ぶつけたそこはとある人は歴史上の人物に例えてこう言う。

 

 

 

 

 

”弁慶の泣き所”と。

 

 

 

 

 

 

「しゃあああああああああああああああ!!」

 

 

 

 

 

 

 

ぶつけた所を手で押さえ苦悶の悲鳴を上げる。

 

 

この世の痛みとは思えない!これは弁慶泣くわ!実際俺も今泣いてるもん!

 

 

階段でぶつけた「すね」の激痛は留まる事を知らない。

俺は痛みが治まるまでしばらく動けなかった。

 

 

 

 

 

「なんとか着いた。・・げ!いない!」

 

 

ようやく動けるくらいには痛みがひいてきて壁伝いながらもなんとか屋上に辿り着くが当然というかそこは無人だった。

 

 

辺りを見渡すもさやかもインキュベータ―もどこにもいない。

 

 

 

・・・・どうしよう?

 

さやかの説得に成功したかと思いきや急に奴が「やっぱり契約する!」と振り切られて後を追おうとしたら階段ですね打って悶絶してる間に契約されて逃げられましたなんて事ほむらに知られたら俺は殺される・・!

 

 

身震いする俺の身体を慰めるかのようにそっと優しく風が吹いていた。

 

 

 

 

 

 

 

くそ!くそ!くそ!何でこんな事に!?

 

 

 

俺は苛立ちながら廊下を歩く。

右手にはシロべえだったもの、左手には本を持っている。

もし音をつけるとするならばドスドスという足音が相応しい。それだけ苛立っている。

 

 

そして目的の場所、「上条」と書かれたネームプレートのある病室の扉を勢いよく開ける。

 

 

そして大声で叫んだ。

 

 

 

 

 

 

「リア充なんて皆滅んでしまえばいいんだあああああああああああああああああああああああああ!!」

 

 

 

 

 

 

持っていた本を投げつけた。

俺にしては奇跡的な命中率で見事この病室の主の顔面にクリーンヒットさせる事に成功する。

 

「ぶっ!」と声が聞こえると同時に俺はすぐさま駆け出し病院を後にする。

 

 

目的なもちろんあのバカさやかを探す事。

 

聞き分けの悪い青には折檻が必要だ。

その前に俺が紫に折檻されそうだけど何とか回避しなくては!

 

 

ホント状況を掻き乱してくれるなさやかは!




大部分の皆様が予想していたかもしれませんがさやかちゃん契約しちゃいました!

魔女化まで待ったなし!
どうする優依ちゃん!?

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