魔法少女オレガ☆ヤンノ!?   作:かずwax

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さむーい・・
手がかじかんでパソコン打ちづらいのが辛い・・。


66話 どんな人間にも大事なものは存在する

「まあ、お二人とも街中で堂々と手を繋ぐなんてとても仲がよろしいんですね」

 

 

内心パニックになりつつ「彼女」の姿を見て更にパニックを起こして冷や汗を流す。

 

普段ならともかく今日だけは会いたくなかったなぁ・・。

 

 

「仁美ちゃんどうしたの?今日はお稽古じゃないの?」

 

 

まどかは不思議そうに声を掛けてきた人物、緑もとい「仁美お嬢様」を見つめている。

 

見た感じは普段と変わらないが様子が明らかにおかしい。

おかしいっつーか首元に魔女の口づけがあるからそれが原因なんだけどさ。

 

普段お稽古で慌ただしくお嬢様に生まれなくて良かったと思うレベルの忙しさだ。

まどかの疑問は全うなものであるはず。

 

それなのに肝心の仁美お嬢様はその質問が気に入らなかったのかトロンとしていた目をクワっと見開きまるで怒ってるかのように顔を歪めた。

 

 

「・・稽古?稽古どころではありません!」

 

「!?」

 

 

怒鳴りつけるように言い放つ。かなりの声量でそう叫ばれたのでビクッと肩が震えた。

 

普段の温厚な様子を見ているので彼女の今の変貌ぶりは偽物かと疑いたくなる程だ。魔女の口づけ恐るべし。

 

 

「あら、失礼いたしました。大声を出すなんてはしたなかったですわ」

 

「あ、いえ・・」

 

「ですが今からここよりも素晴らしい場所に向かうのですからお稽古なんてしていられませんの!」

 

 

うっとりしたような表情で天を仰ぐ緑。随分な落差の喜怒哀楽だ。

事情が知らない人がこれを見たら危ない薬でもやってるのかと疑いたくなるくらいにはっちゃけている。

 

 

出来る事なら関わりたくなかったのに何で話しかけてきやがったチクショゥ!

 

 

「そうですわ!鹿目さんも神原さんもどうです?一緒に素晴らしい場所へ向かいませんか?」

 

 

名案だと言わんばかりにパンと両手を叩いて微笑んでいる。

 

焦点の合ってない目を俺たちに向ける仁美お嬢様に戦慄を覚えた。

 

 

貴女の言う「素晴らしい世界」というのは「あの世」の事ですよね?

 

今からみんなでLET’S HEAVEN!なんて勘弁して欲しい。

君たちのやろうとしている事はどう考えてもそれHELL逝きだから!

 

いや・・まさかそっちが素晴らしい世界とか言わないよね?

 

 

「・・・っ」

 

 

まどかさん、怖いのは分かる。

とってもよく分かる。俺だって怖いんだ。

 

だから人の制服にしがみついて背中に隠れるのはやめなさい!一人だけずるいぞ!

 

シロべえに至っては緑からは見えてないくせにぬいぐるみの振りしやがってこの野郎!

 

 

この場を切り抜けるのに頼れる奴が誰もいないから俺が対処するしかない!

一体どうすれば・・?

 

 

「さあ、参りましょう」

 

 

どう答えようか考えあぐねいてる間に進行方向に大きく手を掲げた緑さんはそのまま街灯の少ない道に向かってスタスタ歩き出した。フラフラしているが足取りは思ったよりもしっかりしていてどんどん先に進んでいく。この様子じゃすぐさま見失いそうだ。

 

 

「どうしよう優依ちゃん・・。仁美ちゃんの首に魔女の口づけがあったよ。このままじゃ危ないよ・・」

 

「うん、危ないね。取り敢えずそろそろ離してくれないかまどか」

 

「あ、ごめんなさい・・」

 

 

シュンと落ち込んだまどかは名残惜しそうに俺の制服から手を放す。あんまりにも寂しそうにするものだから罪悪感が湧いてきそうだ。俺悪くないのに。

 

 

「・・そういえばこんな時の魔法少女さん達はどうしてるの?」

 

 

この空気から逃れるためにも話題を変えたんだけど思いのほか的を得ている話だ。ナイス俺。

 

こんな時こそ魔法少女にお任せだろう。

彼女たちは対魔女のプロフェッショナルなんだから。

 

二人そろってまどかに説明出来たっていう超難易度高い事やってのけたんだから本職の魔女退治なんてお手のものだろう。

 

ところが俺ってとことんタイミングが悪いらしい。

まどかはキョトンとして全く嬉しくない情報をもたらしてくれた。

 

 

「え?えっと、マミさんとほむらちゃんならわたしに魔法少女の事を話した後、仲良く魔女退治に出かけたよ。確か『どっちが多くの魔女を狩れるか勝負しましょう』って火花散らしてた。ライバル関係みたいなものかな?仲直り出来てよかったよー」

 

「・・・・・」

 

 

無邪気に笑うまどかはとても可愛いけど今はとても虚しいだけだ。

 

 

すみません。それ仲良くなってないです。

堂々と喧嘩しに行ったようなもんですよそれ。

 

あいつら結局まどかの目を盗んで喧嘩しに行っただけじゃねえか!!

今日はまどかが危ないって言ったのに!

 

おいほむら!お前の大事なまどかそっちのけで何やってんだ馬鹿野郎!

 

 

「・・とにかく二人に連絡を取ろう!まどかはほむらに電話して!俺はマミちゃんに電話するから!」

 

「うん、分かった!」

 

 

爆発しそうになるのを何とか抑え、半ギレ気味にまどかにそう指示を飛ばし俺自身も携帯を耳に当てる。

 

 

prrr prrr

 

 

青筋浮かべながら待つこと何コール目。呼び出し音が無くなった。

 

 

「あ、マミちゃん?俺優依だけど。今大丈夫!?」

 

 

 

『お掛けになった電話番号は現在使われていないか電波の届かない場所にいるか・・』

 

「嘘だろ!?何で出ないんだよ!?」

 

 

まさかの留守電サービスに切り替わってしまった。

まどかも同様だったらしくほむらと繋がらないと首を力なく横に振っている。

愛しのまどかの電話を無視するとはいい度胸だなほむら。

 

 

「あ!どうしよう優依ちゃん!仁美ちゃんどんどん先に行っちゃうよ!」

 

「え!?」

 

 

まどかが指さす先にいる緑はほぼ点にしか見えないと言っていいくらい遠くまで歩いてしまっている。

このままでは見失うのも時間の問題だろうがどうしたものか。

 

 

 

 

「優依ちゃん!わたし仁美ちゃんが心配だから後を追うよ!」

 

 

 

「・・え? あ!待てぃ!」

 

 

 

 

まさかの自ら危険を冒す宣言してきたまどかに言葉を失いそうになるもハッと我に返り慌てて走り出そうとする暴走ピンクを止める。

 

 

「離して優依ちゃん!」

 

「危ないよまどか!行っちゃだめだ!」

 

 

マジで行かないでまどか!

 

ここで引き留めず危ない目に遭わせたなんて紫に知られたら俺は後ろから刺されるから!

サバイバルナイフ的なものでブッスリやられちゃうから!

 

 

「友達の様子がおかしいのに放っておけないよ!危なくなったらすぐ逃げるから心配しないで!」

 

「そう言われてもね・・」

 

「優依ちゃんはどうする?」

 

「ん?」

 

「一緒に来てくれる・・?」

 

「・・・は?」

 

 

コイツ今なんて言った?

この俺にわざわざ危ない目に遭えと言わなかったか?

 

 

「・・・・・来てくれないの?」

 

 

「・・うっ」

 

 

見ないで!

そんなうるうるとした目で俺を見ないでええええ!!

 

その上目づかいは一瞬「うん」と首を縦に振りそうになる威力はあったが何とか思い留まった俺は大きく深呼吸して体勢を整える。

 

 

「・・行かないよ。足手まとい確定だからね」

 

 

尤もらしい事言って残る宣言。

 

実際は面倒事に巻き込まれたくないからというのが本音なのだがこれは言う必要はない。

 

卑怯だとか臆病者とか何とでも言え。

命最優先ですが何か?

 

 

「そっか。・・・・・」

 

 

泣きそうな表情で俯くまどかに罪悪感の流星群が俺に炸裂する。

 

 

だめだ!負けるな俺!

ここで負けたらこれから先も押し切られる運命しか待っていないぞ!

 

 

「まどか、俺らが行っても足手まといだからここは大人しく・・」

 

「後で携帯で連絡するから優依ちゃんはマミさんとほむらちゃんを連れてきてお願い!」

 

 

「わ!え!?」

 

 

真剣な顔で俺にバッグを押し付けてくる。

猪並みの勢いのせいでバッグを受け取ってしまい俺が何か言う前にまどかは仁美お嬢様の後を追うべく駈け出してしまった。

 

あっという間にピンクの後ろ姿は見えなくなったのでマジで追いかけて行ってしまったようだ。

 

残されたのは茫然とする俺と首に巻かれた白い毛皮のマフラーだけだった。

 

 

 

「行かないの?」

 

 

白い毛皮のマフラー改めシロべえがそう聞いてくる。

 

 

「冗談じゃない。向こう見てみ?いつの間にか夢遊病患者が群れをなして歩いてるぞ」

 

 

まどかが走って行った方向に向かって夢遊病患者もといゾンビ共がふらふらした足取りで歩いている。目指すはどこかの廃れた工場だろう。

 

あんな連中と一緒に歩くだけでも嫌なのに行き着く先は神聖な儀式という名の集団自殺の場所。絶対行きたくない!

 

 

「何があっても俺は絶対行かないからな・・まあ何があるか分からないしもう一度マミちゃん達に連絡しておくか・・あれ?」

 

「どうしたの?」

 

「何でここにまどかの携帯が?」

 

 

預かったカバンのポケットにどこか見覚えのある携帯。それはまどかの携帯だった。

どうやら携帯を忘れてしまったらしい。

テンパっていたとはいえおっちょこちょいだなまどかは。可愛いけど。

 

 

苦笑いをしつつ再度電話をかけようと携帯を見ると俺はある事に気づく。

慌ててポケットやカバンの中を見るも見つかる素振りはない。

 

 

「ない!」

 

「何が?」

 

 

もしやどこかに落としたのかもしれないと思い、地面を見るも何も落ちていない。

 

 

「ない!」

 

「だから何が!」

 

「俺の愛しきサン〇オキャラ『ぐで〇ま』のストラップがない!」

 

 

俺の悲痛な絶叫が街中で木霊する。

 

何故だ!?どこで落とした俺のぐで〇まちゃん!

携帯にしっかり結んでいたのに!

さっきまでは確かにあのプリティなプリケツがいたはずなのに!

 

 

「はあ?ストラップなんて今はどうでもいいでしょ?というかまだあの死んだ目をした卵なんか集めてるの?」

 

「よくねえよ!あれ手に入れるのどれだけ大変だったと思ってんだ!死んだ目をした卵でも可愛いものは可愛いんだよ!」

 

 

ふと気になる事を思い出したので会話を中断しさっきの出来事を脳内で再生する。

 

 

まどかがバッグを俺に押し付けた時、微かだがブチッと何かが千切れる音がした。そしてその後、まどかの手は何かを掴んでいるかのように握りしめたままだった。

 

 

 

・・・・・まさか!

 

 

まどかが走って行った方を見る。

 

 

あのピンク何てことを!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で?どうするの?後をつけてきたはいいけど次のプランは?」

 

「・・・・・・・・」

 

「何も考えてないんだね」

 

「うっさいなぁ!とにかく場所は分かっただけでも良しとしようぜ!」

 

 

場所はとある廃れた工場の近く、俺とシロべえは物陰に隠れて中の様子を慎重に伺う。

 

 

ええそうですよ!結局俺も来ちゃいましたよ!

だっていくら探してもぐで〇まがいないもん!

 

わざとかどうかは知らないけどまどかが持っていったに違いない!

 

何としても取り返さなければ!

あのストラップめっちゃ欲しくてわざわざ遠方まで足運んだ上に買うのにどれだけ並んだと思ってんだ!

 

あ、もちろんまどかの事を心配してますよ?本当ですよ?

 

 

待っててね!俺の愛するぐで〇まちゃn、じゃなくてまどか!

今すぐ助けに行くからね!

 

 

 

目的の工場の外観は分かっているが肝心の場所がどこなのか分からないので、嫌々ながらこっそりゾンビ共を尾行で何とか突き止めた。

 

徘徊する生ける屍は徐々にその数が増えていき冗談抜きでゾンビだと錯覚しそうで恐怖で気絶しそうになったが工場には無事たどり着いた。

 

随分廃れた工場だ。アニメと外観は一緒だろう。

きっと経営が破綻して廃業してしまったんだろうな。

元社会人として胸が痛い。

 

 

ここに集まったという事だ今からあの中で仁美お嬢様曰く神聖な儀式(集団自殺)が始まるのだろう。ぐで〇ま(+まどか)もあの中にいるのはきっと間違いない。

 

急いで助けなくては!

 

 

 

「・・・・・・怖い」

 

 

だが流石に工場の中に入る勇気は俺にはない。

というか俺が入る前にシャッターを閉められてしまったから入れないというのが実情だ。

 

初めから入る気なんてなかったけど。

 

念のために工場の周辺をぐるりと回って他に扉らしいものがないか確認してみるもシャッターの閉まった所以外出入り出来る所はなさそうだ。万事休すだ。

 

こうなったら仕方がない。

俺に出来る事はこの場所をほむらとマミちゃんに伝える事だ。

 

 

 

 

『お掛けになった電話番号は現在・・』

 

 

 

「何でまだ連絡がつかねえんだよ!?」

 

 

まどかの携帯を勝手に拝借して発信履歴が一番最初のほむらにもう一度電話をかけるも繋がらない。試しにマミちゃんの方にも電話をしてみるもやっぱり同じく留守電に切り替わった。

 

 

あいつらマジで何やってんの!?

 

 

思わず携帯を地面に叩き付けそうになるがこれは俺のじゃないと思いだし何とか思い留まる。

 

 

「連絡が取れないなら仕方ない。この場所を撮影してメールを送るのはどうだい?」

 

 

事の様子を静かに見守っていたシロべえは超珍しく俺の頭を撫でながら慰めの提案をくれる。

心なしか上からの目線な気がするが今は気にしないでおこう。

 

 

「・・そうするしかないか」

 

 

電話に出ないんじゃ仕方ない。

シロべえの案で俺の電話は充電が切れて使えないので、まどかの携帯で工場の写真を撮影して送信。無事送信された事を確認して携帯を閉じる。

 

 

ついでにさっき撮影した写真のデータを探すためまどかの携帯のフォルダを弄っていたら何故か俺の少女時代の秘蔵写真が保存されていたので躊躇なく消去しておいた。

 

 

まどか・・前に見たいってねだられたから見せた俺の幼少期のアルバム写真をいつの間に撮影してたんだよ・・

 

 

 

油断も隙もないピンクに思わずため息が出そうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――ガシャァァァン――

 

 

 

 

「!? ビックリした!」

 

 

 

 

ガラスが砕ける音が辺りに響きその後カランカランと何かが転がる音が聞こえる。

 

 

「ガラスの割れる音がしたね。かなり近いよ。ちょっと行ってみようか?」

 

「え!?やだよ怖い!」

 

 

シロべえの提案に条件反射で即拒否反応が出た。

 

 

好奇心旺盛は時にロクでもない事を言ってくるものだ。

 

ほら言うじゃないか?好奇心は猫をなんとかって。

今の状況は絶対それだ。意地でも行かないぞ!

 

 

 

「ほむらに殺されるよりはマシだと思うよ?」

 

「行きましょう!」

 

 

シロべえの半ば脅しに近い言葉に屈した俺は急いで音がした方に忍び足で向かう。

 

 

 

十中八九まどかがヤバい液体が入ったバケツを投げ捨てた時に割れた窓ガラスの音だと思う。

 

 

俺の予想は当たっていた。

 

 

音が聞こえた場所に忍び足で向かってみると案の定地面にバケツが転がっている。

周囲にガラスの破片が散らばっていることから割れた窓の破片だろう。

辺りを見渡してみると少し遠くに割れた窓ガラスがある。

 

どうやら中では本格的に集団自s、神聖な儀式が行われていたらしい。

それがまどかが食い止めたと。まさに原作通りだ。

 

 

いやそれよりも驚きなのはまどかの筋力だ。

 

窓からかなり距離が離れているのにここまで液体の入ったバケツを放り投げたそのパワフルさに舌を巻くしかない。将来ハンマー投げ選手にでもなれるんじゃないの?

 

 

 

 

「きゃあ!」

 

 

割れた窓から女の子の声が聞こえた。

 

 

「!? 悲鳴?まどか!」

 

 

声に聞き覚えがあるというか状況からしてまどかしかいないので疑いようがない。

窓からは「やめて!」とか「来ないで!」というパニック状態のまどかの悲鳴じみた声と複数の足音が聞こえる。

 

 

 

まどかが危ない!

 

 

気づけば俺はまどかを助けるべく窓の方に駆け寄り、そして直前で立ち止まった。

 

 

「・・・・・・」

 

「どうしたの優依?」

 

「ここで突入なんてしたらあのゾンビもどきたちとエンカウントしちゃうんじゃないの?」

 

「そりゃ敵の本拠地な訳だし突入の仕方を間違えるとあっという間に囲まれるだろうね」

 

 

あっけらかんとした声でとても物騒な事を吐くシロべえのせいでますます足が竦んでしまう。

 

 

行くか?行かないか?

行かない方に傾きまくってるけど、どうすれば?

 

 

 

 

「誰だ!?」

 

「!」

 

 

割れた窓の前でうじうじと立ち往生していたら中から男の殺気立った声が突き刺さりドタドタと複数の音が聞こえてくる。

 

 

「やっべ!こっちに気付いた!?」

 

「足音がこっちに近づいている!優依、急いでここから離れて!」

 

 

言われるよりも早く俺は割れた窓から離れ工場裏に向かって走って行く。

 

捕まってしまったら殺されてもおかしくない。

早く逃げなくては!

 

 

 

「何チンタラ走ってるの!?もっと早く走ってよ!」

 

 

「うるさい!自分で走れよ!重量オーバーだ!」

 

 

さやかの踏みつけのダメージが未だに効いてるのかシロべえは俺の肩にしがみついたままだ。乗せてやってるのにこの言い草とは何事?

振り落したくなったがそう考えている間にも遠くで怒声が聞こえてくるのでそんな余裕はない。

 

 

 

 

 

 

 

「はあ、はあ・・脇腹痛い」

 

 

 

 

 

工場の裏側に回った俺は脇腹をおさえつつ誰か追いかけてこないか周囲を警戒する。

 

運よく逃げ切れたのは良かったが今日一日走りっぱなしのガタが来たのかもう走る体力も気力も俺には残っていない。見つかったらジ・エンドだ。

 

 

「・・・大丈夫だよね?まどか大丈夫だよね?」

 

「僕に聞かれても知らないよ。それよりこのままじゃ僕らも危険だよ。一刻も早くマミ達と合流出来たらいいんだけど」

 

「うん、そうだね。・・ところでシロべえ」

 

「何?」

 

「お前もう動けるの?」

 

 

ゼエゼエ喘ぐ俺の前で自称重症なシロべえがウロウロ歩き回っているのが気になる。ダメージ大丈夫なのか?

 

 

 

 

「うん、もう治った」

 

 

 

「・・・・・・・」

 

 

ケロッとした表情で普通に歩きまわりながら俺を見るシロべえに殺意が湧いてくる。

 

 

走れるなら走らんかい!

 

 

ぶっちゃけお前軽いから何とも思わないけど耳元で毒吐かれながら走るのってキツいんだぞ!?

もう一回俺が踏んでやろうか!?

 

ギリギリ奥歯を噛みながら怒りを燃やすもそれはあと回し。

今はまどか救出と脱出する方法を探るためにもシロべえを沈めるわけにはいなかい。

 

 

チクショウ!ちょうど足元に毒舌白がいるのに何も出来ないなんて!

こんなのあんまりだよ!

 

 

 

「ところで優依」

 

 

俺の胸中の怒りなんて知らないだろうシロべえが呑気に尻尾を振っている。

そんな事でさえ今は怒りを覚えそうだ。

 

 

「・・なんだよ?」

 

「君の頭上に窓があるけど覗いてみる気はないかい?」

 

「え?」

 

 

唐突な事を言われたので試しに視線を上に向けるとシロべえの言う通りさっきの割れたのとは違う別の「窓」があった。

 

俺の身長だけなら届かない高さだが都合が良い事に近くにゴミ箱があるのでそれの上に乗れば窓を覗く事は可能だろう。

 

 

 

だがしかし、

 

 

「やだ」

 

 

シロべえに視線を戻した俺は速攻で却下申請を突きつける。

絶対ロクな事にならない。覗いた瞬間にゾンビに襲われたら俺は逃げる暇もなく終わるだろう。

 

てかその覗いた窓の部屋にゾンビいたらどうすんの?

 

 

「覗いてみないの?中の状況が分かるかもしれないよ」

 

「冗談じゃねえよ。ここにまどかがいたら話は違うけどさ」

 

「そのまどかがピンチの時に君は何もしなかったってほむらが知ったらどうなるんだろうね?」

 

「・・様子を見るためにも一応覗いてみるよ」

 

 

却下申請をシロべえに破棄された俺は渋々ゴミ箱を窓近くに引き寄せその上に乗る。

思ったよりも足場が安定しない。何があるか分かんないしさっと見てさっと降りよう。

 

 

「まあ、ここにまどかがいるわけ、いたよ!まさかの!」

 

 

恐る恐る窓を覗くとそこにはとっても見覚えのあるピンクツインテールが震えながら俺に背中向けて扉を見つめていた。

 

 

間違いない!まどかだ!ここに逃げ込んだんだ!

 

 

ひょっとしてこれはチャンスか?

 

 

ここでまどかを救出すれば魔女エンカウント回避出来るんじゃね?

よし!すぐ助けよう!

 

 

俺は早速窓をコンコンと叩いて注意を引く。

 

音に気付いたまどかはビクッと肩を震わせてゆっくり振り向いた。

音の正体が俺だと分かると強張った表情がパアッと花が咲いたような笑顔に変わってこっちに駈け寄ってきた。お前は飼い主を見つけた子犬か。

 

 

窓を開けてもらいまどかと対面。

 

 

 

「まどか大丈夫!?」

 

「優依ちゃんひょっとして助けにきてくれたの!?」

 

「え・・?うん、まあそんなとこ・・」

 

 

本当の理由は別にあるのでその嬉しそうな笑顔をまともに見れない。

目を逸らしながら曖昧に応えるしかなかった。

 

 

「本当に?ありがとう、嬉しい。とっても怖かったから・・」

 

 

本当に怖い思いをしたらしく俺の顔を見て涙ぐんでいる。

決して俺の顔が怖いから泣いてるとかではないと信じたいが真相はどうだろうか。

 

て、こんな事やってる場合じゃない!

 

 

「話はあと。ほむら達にここの場所知らせたからその内来るはず。俺たちはとにかくここから離れよう。ほら手を貸すから掴まって!」

 

「うん!ありがとう優依ちゃん!」

 

 

差し出した手を嬉しそうに掴むまどか。

 

それは別にいいけど何で照れたようにはにかんで躊躇いがちに掴むんだ?

恥らってる場合じゃないだろうが!

 

 

現に今も扉の方からドンドンと叩く音がひっきりなしに聞こえてくる。

すぐには破られないだろうが魔女の事もあるし時間の問題だ。

 

 

急いで引っ張り上げるしかない。

 

 

腕力幼児並の俺に人ひとりを引っ張り上げる事が出来るのか心配だが時間がない。

とにかく早くここから出ないと!

 

 

「引っ張るぞまどか」

 

「うん、お願い」

 

「よいしょ!・・え!?」

 

 

軽っ!まどか軽い!まるで天使の羽が生えてるような軽さだ。

これなら俺でも順調に引っ張り上げられそうだ。

 

 

 

 

「優依気を付けて!魔女の気配だ!」

 

 

 

「・・え?」

 

 

本当に俺は邪神に嫌われてるらしい。

あともう少し。まどかが窓に足を引っかける直前、シロべえの鋭い声がした。

それに気を取られてる間にグッと凄い力で腕を引っ張られる。

 

 

「うお!」

 

「きゃああ!やだ!」

 

 

慌てて顔を向けるとまどかの周りに青いもやみたいなものが絡みついていてそれが彼女の身体を部屋の奥に引っ張っている。

 

 

どうやら「ハコの魔女」がおいでなさったらしい。

まどかに狙いを定めたようで結界内に引っ張りこむつもりみたいだ。

 

まどかを危険な目に遭わせでもしたら紫のセコムが黙っていないというのに恐れ多い奴。

 

 

「く!」

 

 

どんどん部屋の奥にまどかの身体が引きずられていく。

必然的に彼女と手を繋いでいる俺も引っ張られる。

 

 

このままじゃ結界の中に連れ込まれる!それは嫌だ!

 

 

何とか踏ん張ってまどかを引っ張るも当然ながら力は魔女の方が勝り気づけば俺の上半身は部屋に入り込んでいた。

 

 

「やばい!」

 

 

これはもう無理!引っ張り出すの不可能!

 

シロべえが俺の足を掴んでくれてるけど素の身体能力は意外と貧弱だから焼け石に水にもならない。

 

 

「きゃあ!優依ちゃん!」

 

「ぐ!ちょ?え?まどかさん!?」

 

 

魔女に捕まったまどかはこれでもかという程ありったけの握力を使って俺の手を潰しにかかってくる。

これまでの力とは比べものにならない程の本気度な気がする。

 

 

いたああああああああああああい!!まどかお願い!

 

 

俺の手が潰れそうだから離してえええええええええええええええ!!

 

 

俺の手の配慮など皆無に近いまどかは手を離す素振りなど見せずそのまま俺を掴んだまま魔女に引きずられていく。

 

道連れ!?俺を道連れにする気なの!?

まどかって無理心中するタイプだったの!?

 

 

 

そういうのはほむらとやってくれ!喜んで付き合ってくれると思うから!

 

 

 

「優依ちゃん!わたしの事はいいから手を離して!」

 

 

何寝ぼけた事言ってんだ!?

お前が俺の手を離さないから一緒に引きずられてるんだろうが!

血が止まりそうなくらいガチガチに俺の手を掴んでるのが見えねえのか!?

 

 

「早く手を離して優依ちゃん!」

 

 

だったら早く手を離してくれまどか!

言ってる事とやってる事が真逆になってんぞ!

 

 

 

「あ・・!」

 

 

とうとう足が宙に浮いてしまいそのまま窓の中に落ちていく。

 

 

 

 

「いやあああああああああああああああああああ!」

 

 

 

 

「優依!」

 

 

シロべえの慌てた声が後ろで聞こえたが時すでに遅く俺はまどかの道連れで魔女の結界に取り込まれてしまった。




人というのはパニックになると自分を客観視出来ないのものです。
今回のまどかちゃんが良い例。


ちなみに優依ちゃんは「ぐで〇ま」の大ファン!
どれくらい好きかと言えばシロべえにドン引きされるレベル!
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