あっという間に新年ですね!
今年中に杏子ちゃんを登場させたい・・。
まどかside
「ソウルジェムは私たち魔法少女の魂よ」
「・・え?」
開口一番に言われた事を理解出来なくてポカンと口を開ける。
喧嘩がひと段落して、ほむらちゃんが話があると言われてマミさんの部屋にもう一度お邪魔させてもらった直後の事。
いきなり紫に輝くソウルジェムをわたしの目の前に差し出されそう告げられた。
「ごめん・・今なんて言ったの?」
「・・キュゥべえとの契約時に私たちの魂は取り出されて形をなす。それがソウルジェム。貴女が考えているようなただの変身アイテムではないの。魔法少女の命そのものよ。だから身体をいくら傷つけられても治す事が出来るけどこれを砕かれると私たちは死ぬわ」
ほむらちゃんがわたしが理解出来るように噛み砕いて説明してくれる。
そのおかげで内容は理解出来たけど受け入れられるかは話は全く別。心は理解するのを拒否してる。
最初は嘘かと思ったけど対面する形で座ってわたしを真っ直ぐ見つめる瞳は真剣のそのもの。
ほむらちゃんは本当の事を言っているのが嫌でも分かった。
そんなわたしたちの様子を少し離れた場所で座るマミさんはとても心配そうな表情で見つめている。
でも今のところ話に入る気はないみたいで口を噤んだまま。
この部屋にいるのはわたしたち三人だけ。
優依ちゃんはここにはいない。さやかちゃんが心配だからと病院に向かってるから。
こうして三人で話してるなんて信じられない。さっきまでの喧嘩が嘘みたい。
優依ちゃんがさやかちゃんの所へ向かった後、更に激しく喧嘩していたのに。
あの時は本当にどうしようかと思ったけど・・やっぱり優依ちゃんは凄いね。
その場にいなくても二人の喧嘩をあっさり鎮めちゃうんだもん。
マミさんとほむらちゃんを仲裁するために使った優依ちゃんの写真は効果があったみたい。
優依ちゃんの幼少期の写真。
以前優依ちゃんの家にさやかちゃんと遊びに行ったときに見せてもらったもの。
優依ちゃんが目を離した隙にさやかちゃんが勝手に携帯で撮影してたみたいで「優依には内緒だよ」ってこっそり送ってきた。
幼少期の優依ちゃんはふわふわの髪を今のわたしみたいにツインテールにしてて無邪気に笑うその姿は天使みたいでとっても可愛かった。
さやかちゃんが無理やり送ってきたものだから、すぐ消そうと思ったんだけどすごく勿体なくて今の今までこっそり取っておいた。まさか使う日が来ると思わなかったよ。
わたしがどれだけ止めても喧嘩は止まらなかったからダメ元で二人に「優依ちゃんの子ども時の写真欲しい?」と小声で言ったら一瞬で喧嘩が止まった。
その後は凄い勢いで頂戴と二人にせがまれて怖かった。
よっぽど欲しかったんだね。
確かにそれくらい小さい優依ちゃんは可愛かったもん。
喧嘩なんてやってる場合じゃないよね!
「・・・まどか?」
「へ?あ、ごめん!ボーっとしてた!」
反応のないわたしをほむらちゃんは心配そうな表情で声を掛けてくる。
それでハッと我に返り慌てて手を振って何でもない事を伝えた。
あまりのショックにいつの間にか現実逃避してたみたい。
ダメダメ!今は大事な話をしてるんだからちゃんと聞かなくちゃ!
「ごめんね!えっと、それでソウルジェムは魔法少女の魂なんだよね・・?何とか飲み込めたよ。それがわたしに伝えたかった事?」
「それだけじゃないわ」
「え?・・まだあるの?」
「・・まどか、貴女は魔法少女は最後どうなると思う?魔女はどこから来ると思う?」
「え?え?そんなの普通の少女に戻るんじゃ・・?魔女ってどこか別の世界からやってきたとかじゃないの・・?」
ほむらちゃんの急な質問にしどろもどろになりながらも回答したけどかなり恥ずかしい事言ってしまったと思う。
きっと呆れられる、そう思って恥ずかしい気持ちで俯きがちで二人を見た。
だけど肝心のほむらちゃんとマミさんは呆れるどころか顔を見合わせて悲しそうな表情をしていた。
・・嫌な予感がする。
「まどか落ち着いて聞いてちょうだい」
「・・うん」
ほむらちゃんが少し辛そうに顔を歪めて口を開いたから少し身構えながら頷いた。
この様子からきっと言おうとしているのはソウルジェムの秘密と同じくらい衝撃的な事実なんだとなんとなく察しがつく。
「魔法少女が絶望してソウルジェムが黒く濁ってしまえばグリーフシードとなり私たちは魔女に生まれ変わる」
「え?魔女・・?」
「魔法少女はいずれ魔女となる運命なのよ」
「・・・え?」
部屋はしんと静まりかえる。
ほむらちゃんは少し顔を歪めてわたしから目を逸らす。
マミさんは辛そうに顔を俯かせている。
魔女は魔法少女?
じゃあ今まで出会った魔女は全部、魔法少女?
それが本当ならほむらちゃんとマミさんはいつか・・。
「っそんな!?嘘だよね!?じゃあほむらちゃんもマミさんもいつか魔女になっちゃうって事!?」
結論が出るよりも先にわたしは叫んでた。
嘘だって言ってほしい。冗談だって笑ってほしい。
これが現実だなんて思いたくない!
縋るような気持ちでほむらちゃんを見るもただ首を横に振られるばかり。
「ええ、そうよ。私たちはいずれ魔女になる」
「・・・!」
きっぱりとそう言い切られて何も言えなくなってしまった。
呆然とするわたしにほむらちゃんはその後も淡々と説明を続けていく。
キュゥべえの正体は宇宙人で宇宙の寿命を延ばすために魔法少女の感情を利用エネルギーを集めていること
魔法少女が魔女になるときに発生する希望と絶望の相転移の感情エネルギーを欲していること
魔法少女として凄まじい素質を持つわたしは魔女になれば信じられないくらいのエネルギーが手に入るからキュゥべえはわたしを魔法少女にしようと狙っていること
どれも今のわたしを追い討ちするような話ばかり。
「貴女の憧れていたものの正体がこれよ。間違っても魔法少女になるなんて言わないで」
「・・・・・・」
なるも何も初めからなるつもりなんてなかった。
優依ちゃんと約束したもん。魔法少女にはならないって。
でも、そっか。やっぱり危険な事なんだ。良かった、契約しなくて。
魔法少女になる前に知れて本当に良かった。
・・・・え?
咄嗟に思った自分本位な考えにぞっとする。
わたし何考えてるんだろう?
ほむらちゃん達が辛そうな表情で真相を話してくれたのに自分は無事で良かったってそんな最低な事考えたの?
さやかちゃんは魔法少女の秘密を知らない。
何も知らないから契約しちゃうかもしれないのに、わたし何やってるんだろう?
どうしてさやかちゃんにこの事を話しにいこうとせずにただ黙って座ってるだけなの?
動こうとしない自分の身体に不甲斐なさと苛立ちで涙が出そうになる。
どこまでも情けない自分に吐き気を覚えそう。
「・・?」
自己嫌悪にまみれるわたしの背中に暖かい何かがふれている?
それは労わるように背中を優しく撫でてくれている。
「鹿目さん」
「マミさん・・」
わたしの背中をそっと撫でてくれたのはマミさんだった。
背中に触れた手は制服越しなのに暖かった。
「辛いけど暁美さんの言った事は本当よ。魔女になるのはともかくソウルジェムは魔法少女の魂だという証拠はこの目ではっきり見たの」
「マミさんとっても落ち着いてるように見えますけどその事実を受け入れたんですか?とっても酷い事なのに?」
気づくとマミさんにそう言っていた。
見た感じマミさんは傷ついた表情をしてるけど冷静さも感じられる。
ただの一般人のわたしはともかく当事者のマミさんにとっては残酷な真実のはず。
とてもじゃないけどすぐに立ち直れるようなものじゃないなのにどうして?
じっと答えを待っているとマミさんはキョトンとしていたけどやがて穏やかに微笑んで口を開いた。
「そうね、本音を言えばまだショックを引きずってるけど私は大丈夫よ。もちろん最初にこの話を聞いたときは受け入れられなかった。これでも正義の魔法少女だったんですもの。自殺しようと考えた程よ」
「え?」
「でもね、そこまで絶望していたわたしを優依ちゃんが慰めてくれたの」
「!」
マミさんの口から優依ちゃんの名前が出てきたからピクッと反応してしまった。
恥ずかしいと思ったけどどうしても気になるからそのまま耳を澄ます。
「自分の存在意義を見失っていた私に優依ちゃんは『マミちゃんが必要だ』ってはっきり言ってくれて抱きしめてくれた。一人で不安にならないようにずっと寄り添ってくれたの」
その時の事を思い出しているのかマミさんは頬を染めてうっとりとした表情をしててとても幸せそう。
「・・・・・・」
「ひっ」
何だか威圧感を感じてそれがする方向に顔を向けるとほむらちゃんから凄い圧力を放っていた。マミさんを見る目がとても冷たい。
色々あったからすぐに仲良くとかまではいかなくてもそんなに憎々しげに睨まなくてもいいと思うのに。
・・でも、その気持ち少し分かるかも。
まるで優依ちゃんと一番仲良いのは自分だって言ってるみたいで何だかやだなぁ。
胸がモヤモヤする。わたしの方が優依ちゃんとクラスも一緒で仲良しだと思うのに。
そんな事をここで競い合っても肝心の優依ちゃんはここにはいない。
きっと今はさやかちゃんと会ってるはず。どんな話をしてるんだろう?
まさかさやかちゃん、もう契約しちゃったのかな?
優依ちゃん、出来ればここに・・傍にいて欲しかったな・・。
行かないでって言えばここにいてくれたのかな・・?
「だから私は正義の魔法少女としてはなく優依ちゃんのために生きるつもりなの。だって私を必要としてくれるあの娘を悲しませるなんてそんな事出来ないわ」
嬉しそうに話すマミさん。迷いはないみたい。それはこの会話だけでも十分に分かる。
きっとこれからもマミさんは戦い続けるんだろうな。
・・・・優依ちゃんがマミさんの傍で支える限り。
「そうですか・・」
幸せそうに声を弾ませてハキハキと言い切るマミさんにモヤモヤして気持ちを抱いているのを悟られないように俯きながら言うのが精一杯だった。
「はあ・・・」
ため息を吐きつつゆっくり歩を進める。
もう空はかなり暗くなっているけど街の中はとても明るい。
わたしの気分は夜と同じようにとっても重くて暗い。
ほむらちゃんとマミさんは魔女退治があるからとわたしを残して出かけてしまった。
今日は泊まっていきなさいとマミさんは言ってくれたけど今はどうしてもそんな気分にはなれなくて書き置きを残して部屋を出て当てもなくぶらぶら街を歩く。
家に帰るのも何だか気が重い。とにかく今は一人になりたかった。
魔法少女の真実がショックだったのはもちろんある。だけどそれだけじゃ説明つかない。
何故か魔法少女の真実以上に辛かったのが優依ちゃんの事を楽しそうに話すマミさんを見る事だった。
どうしてなのかは自分でもよく分からない。
「さやかちゃん大丈夫かな・・・?」
色々不安はあるけど今は一番心配なのはさやかちゃんだ。
試しに電話したけど繋がらない。
これからどうしようと思い足取りで街中を歩きながら胸に感じるのは自己嫌悪と罪悪感
マミさんやほむらちゃんが目の前にいるのにわたしは魔法少女にならなくて良かったなんて思った。
そして嬉しそうに優依ちゃんの事を話すマミさんにムッとするなんて・・わたしどうかしてる。
歩いてれば少しは気が晴れるかなって思ったけど全然そんな事なくて、むしろ歩けば歩くほど気が重くなっていくばかり。
「はあ・・。あれ、優依ちゃん・・?」
再度ため息を吐いて何気なく周囲を見渡したら見覚えのある長い髪が遠くで揺れているのが見えた。何か急いでるみたいで必死に手足を動かして走っている感じ。
優依ちゃんだよね?ううん、絶対優依ちゃんだ!
今追いかけて行ったら追いつけるかも・・?
「優依ちゃん!」
気づいたらわたしは走っていた。
優依ちゃんと話したい。まさか偶然会えるなんて!
何度も呼びかけても向こうは気づいていないのか立ち止まる様子も振り向く様子もない。
そんなの関係ない!とにかく今は優依ちゃんの顔が見たい!
それだけの思いで必死に足を動かしていたら何とか追いつく事が出来た。
肩を掴んで見えた顔は案の定、優依ちゃんだった。
嬉しくて嬉しくて息が途切れがちだったけどつい笑顔になってしまう。
「まどか」
優依ちゃんがわたしの名前を呼んでくれるだけで心が軽くなる。
わたしを見てくれるだけでさっきまで落ち込んでいた気持ちが嘘みたいに消えていく。
でもその優依ちゃんからさやかちゃんが契約したという話を聞いた時はまた心が重くなった。
それだけじゃない。
今度はさっきまで感じていた罪悪感とは比べ物にならない程わたしの心に重くのしかかる。
「優依ちゃん、ちょっといいかな?」
気づけばわたしはそう口に出していた。
ほむらちゃんとの会話を話していると知らず知らずの内に涙が溢れてくる。
話すたびに自分の嫌な部分が目に見えるようで苦しい。
一番辛いのは魔法少女の皆のはずなのにわたしに泣く権利があるの・・?
「ごめんなさい、わたし弱い子で・・」
我慢出来なくなって頬に涙が流れていく。
こんなはずじゃなかったのに。
とにかく優依ちゃんに話を聞いて欲しかっただけで困らせるつもりはなかった。
無理に話を聞いてもらったのに泣くなんて困らせるだけなのに・・。
「・・・ ?」
自己嫌悪で涙が止まらないわたしの頭にそっと何かが置かれる。
それはとても暖かくて思いがけず涙がピタリと止まって顔を上げる。
「大丈夫だよまどか」
上を見上げると優依ちゃんがわたしの頭を優しく撫でてくれていた。
マミさんとはまた違うぎこちない手つきだったけどそんなの関係ない。
わたしを安心せるような優しい笑みで胸が高鳴っていく。
その優しい笑顔で優依ちゃんはわたしの事を優しいと言ってくれた。
それを言葉で否定しても心は求めていたみたいでストンと胸に入ってくる。
また泣きそうになった。
今度はさっきと違って辛い涙じゃない。
「ほらほらそんなに泣いてたらせっかくの可愛い顔が台無しになるよ?」
そう言ってわたしの目尻の涙を拭う優依ちゃんはまるで王子様みたいに格好良かった。
おかしいかな?優依ちゃんはどっちかっていうと容姿はお姫様みたいなのにね?
でもおかげで心が軽くなっていく。全て上手くいきそうな感じがする。
魔法少女のことだってきっと何とかなるかも。
わたしの素質が本当に凄いなら願いでどうにかなるかもしれない。
・・・もしわたしが魔法少女になったら、優依ちゃんはわたしの事支えてくれるかな?
そんな事を考えつつ、つい優依ちゃんにギュッと抱き着いちゃったけど後悔してない。
この時のわたしは出来るだけ優依ちゃんと傍にいたいとしか考えてなくて魔法少女の事もさやかちゃんの事もすっかり忘れてた。
だからそれの罰がきっとあたったんだと思う。
「うぅ・・どうしよう」
優依ちゃんを家に招待しようと手を繋いだ直後、魔女の口づけをされた仁美ちゃんに出会った。
少しだけ会話したけどどこか虚ろな様子が心配になって付いていったら途中で同じ魔女の口づけがされた人たちと合流して人気がない廃れた工場に辿り着いた。
これから何が起こるか分からない。
ただ不安が募っていくばかり。
「・・優依ちゃん」
心細くなって名前を呟いてみるも優依ちゃんはここにはいない。
仁美ちゃんを追おうとするわたしを優依ちゃんが止めたけどそのまま振り払ってきてしまったから。
ううん、違う。
本当は優依ちゃんも一緒に来てくれる事を期待してた。
でも優依ちゃんは行かないとはっきり言われてしまってそれが悲しくてわたしは逃げるように仁美ちゃんについていったんだ。
感情だけで動いてしまった自分の浅はかさで優依ちゃんの警告を無視してしまった事に今更ながら後悔が募る。
「・・あれ?」
ぼーっとしてる間に動きあったみたい。
集まった人の中央に置かれたバケツに何か注ぎ込もうとしてる?
目を凝らしてみるとそれは塩素系の漂白剤だった。
それを量を気にせず流し込んでいる。
その後に今度はさっきと違う漂白剤を持った人がやって来て、それを同じバケツに入れようとしている。
わたしはそれをぼんやり眺めていた。
あれ?前にママが何か言ってたような・・?
あ!別の漂白剤と混ぜると危ないって!
じゃあこれってまさか・・!
「だめ!」
「いけません鹿目さん!これは神聖な儀式なのです!」
「!?」
今から何が起きるか悟ったわたしは急いで止めようとしたけど近くにいた仁美ちゃんに腕を掴まれてしまう。
「邪魔をしてはいけません。私たちはこれから素晴らしい世界へ旅に出ますの。それがどんなに素晴らしい事か鹿目さんもすぐに分かりますわ」
仁美ちゃんの演説に周囲に人は拍手喝采を送っていてゾッとする。
このままじゃわたし・・。怖い・・!
どうしよう優依ちゃん。わたしどうすればいいの?・・助けて!
「あ・・・」
恐怖でぎゅっと手を握ると何か固いものを握りしめていたらしくチクリと痛む。
手を開いて確認すると、それは優依ちゃんが好きなぐで○まのストラップだった。
どうしてここにあるの?
カバンを渡した時に引きちぎっちゃった?
それとも優依ちゃんがわたしに持たせてくれたの?
手の中にある理由は分からない。
でもこれを見た瞬間感じていた恐怖は和らいでいた。
だって優依ちゃんが傍にいるような感じがするもん。
後でどうしてわたしがぐで〇まを持っているのか聞かなきゃ。
そのためにはまずこの状況を何とかしないと!
ギュっとぐで〇まを握りしめて祈る。
お願い優依ちゃん!力を貸して!
「離して!」
「!」
自分に気合を入れて、わたしを拘束する仁美ちゃんを突き飛ばす勢いで振り払い一目散にバケツに向かって駆け出し、あっとういう間に辿り着く。
突然の出来事だからか仁美ちゃんだけじゃなく工場の中にいる人は誰も動かないでわたしのようすをただ見ていた。
今の内に!
掴んだバケツを近くの窓めがけて放り投げる。
ガシャアアアンとガラスが割れる音が響きバケツは外に向かって飛んで行ったのを確認する。
「はあ、はあ・・これで大丈夫・・じゃない!」
一息つく暇もなく後ろから大勢の足音が聞こえたから慌てて振り返ると工場の中にいる人たちがわたしを囲むようにゆっくり近づいてくる。
邪魔されて怒っているのか殺気立った様子でうめきながらわたしとの距離を縮めていく。
「やめて!」
怖くて思わず後ずさるけどそれに反応するように向こうもゆっくり近づいてきてる。
「来ないで!」
恐怖で固まる身体に喝を入れてたまたま目についたドアを目指して一直線に走った。
後ろからバタバタと足音が聞こえるから追ってきてるのが嫌でも分かる。
部屋に入り、追いつかれる前に何とか扉を閉じる事が出来たけどその後どうするか全く思いつかない。
「どうしよう?どうしようどうしようどうしよう?」
ドンドンと扉を叩く複数の音が聞こえる。
すぐには入って来れないだろうけどいつまでもつか分からない。
恐怖と不安で胸がいっぱいになってじわっと今日何度目かになる涙が浮かんできた。
助けなんて来るはずもないし、わたしこれからどうすればいいの・・?
トントン
「ひっ!」
後ろから叩く音が聞こえて小さく悲鳴をあげた。
まさか回りこまれた・・?
最悪の展開に想像して中々思うように首が動かせなかったけどいつまでもこうしてる訳にはいかない。勇気を振り絞って顔を音のする方に向けた。
「! あ・・!優依ちゃん・・?」
振りむいた先にいたのは優依ちゃんだった。
わたしの頭二つ分の高さはある窓から覗き込む形でガラスを叩いている。
え?どうして?さっきは行かないって言ってたのに優依ちゃんはここにいるの?
もしかして・・・わたしを助けにきてくれた?
胸に感じる嬉しさと安堵で笑ってるのか泣いてるのか今のわたしの顔がどうなってるか分からない。
今はそんな事よりも優依ちゃんの声が聞きたい。
すぐに近くにあった台を引き寄せて優依ちゃんがいる窓を開ける。
「まどか大丈夫!?」
「優依ちゃんひょっとして助けにきてくれたの!?」
「話はあと。ほむら達にここの場所知らせたからその内来るはず。俺たちはとにかくここから離れよう。ほら手を貸すから」
「!」
何でだろう?優依ちゃんは物語から飛び出したお姫様のような見た目。
そのはずなのに、今はとっても王子様に見える。
差し出された手は女の子の手なのにドキドキしてしょうがない。
「うん!ありがとう優依ちゃん!」
照れながらも優依ちゃんの腕に掴まるとすぐさまひっぱり上げられる。意外と力持ちみたいで身体はすぐに窓を抜け出してあっという間に足を引き上げれば良い状態になった。
「!?」
それなのにいきなりグッと後ろに引き戻されてしまう。
よく見ると何か煙のようなものがわたしに絡みついて後ろに引っ張ってくる。
きっとこの煙は魔女。部屋の奥の空間が歪んでいる。
わたしを結界に引きずり込もうとしてるんだ!
このままじゃ優依ちゃんも!
「優依ちゃん!わたしの事はいいから手を離して!」
でも優依ちゃんはわたしの手を離す事なく一緒に引きずられていくようにずるずる身体が引きこまれていく。わたしを絶対離さない。そんな事を語っているような苦悶の表情だ。
「早く手を離して優依ちゃん!」
もうほとんど優依ちゃんの身体は部屋の中に入ってしまっている。
周りの景色も魔女の結果になりつつあるのか部屋の原型がほとんどない。
「あ・・!」
ついに地面から足が離れてしまったのか優依ちゃんの身体はわたしに向かって倒れこんでくる。
その際、わたしを守るように身体を抱きしめてくれてこんな状況なのに心臓がうるさい。
どうしてわたしのためにここまでするの?
優依ちゃん死んじゃうかもしれないのに・・嬉しいだなんて・・やっぱりわたし少しおかしいよ・・。
ユラユラ揺れる俺の身体。まるで水の中で漂っているようだ。
俺の周囲はメリーゴーランドがぐるぐる回っており場違いファンシーさを醸し出している。
どう見てもこれ「ハコの魔女」の結界ですね?ありがとうございますチクショウ!
ちなみに俺を結界内に引っ張り込んだ張本人であるまどかは絶賛気絶中。
魔女の結界に突入しそうになる際、うっかり抱き着いてしまったのでセクハラで訴えられないか非常に心配だ。
意識がないはずなのに俺の制服をこれでもかとしがみつきクリーニング確定なシワを生産している。
その俺たちの周囲に蠢く人形のような使い魔が複数いる。
名前は「エンジェルヤッ君」
だってコイツの見た目って某鼻毛真拳主人公のハジけた金平糖な相棒が持ってた人形とそっくりじゃん。
それに羽が生えてるから天使っぽいし。
そのエンジェルヤッ君が何やらコンピューター画面のようなものをこっちに向かって運んでいる?
「! 貞子さん!」
それを目にした俺は愕然とする。
まずい!エンジェルヤッ君に誘導されて「貞子さん」まで出てきた!
「ハコの魔女」もといニックネーム「貞子さん」
初見で見たとき本気で「貞子の魔女」かと思ってしまったからニックネームもそれに基づいたものだ。
ん?俺たちの周囲に何やらアカシックレコードのようなものが漂ってる?貞子さんに気を取られて気づかなかった。
あ!これはあれだ!相手の精神を攻撃するために見たくない過去を映し出すんだっけ?
原作まどかに見せたのは「マミる」。
でもこの時間軸では「マミる」は回避されたからどうなるんだ?
俺を揺さぶるものなんてあるのだろうか?
首を傾げている間にアカシックレコード的なものが映像を映すためか砂あらしが起こりやがてとある映像が映った。
「! こ、これは・・!」
映し出された映像は俺が熱心にゾンビシューティングしてる所を杏子がバッチリ目撃する場面の映像が流れている。
それだけじゃない!
トモっちが送りつけてきた百合漫画が杏子に見つかり土下座している俺
自棄になってほむらに泣きつく俺。
そしてまどかが輝かんばかりの笑顔を向けられる中、憔悴しきった表情でコスプレする俺。
全部俺の黒歴史じゃねえかああああああああああああああああああ!!
やられた!まさかこんな形の精神攻撃があるなんて!
すぐさま映像を止めたかったがユラユラ揺れる身体は思うように進まず手が届かない。
あくまで俺を集中砲火で精神攻撃するつもりらしい。
画面がまた砂あらしになり新しい映像が映る。それも勿論俺の黒歴史映像だ。
いやああああああああああああ!!
これ以上見せないで俺の黒歴史いいいいいいいいいいい!!
まどかちゃんフィルター:身体を張って助けにきてくるなんて優依ちゃんは王子様みたい!
現実:まどかちゃんに道連れにされた優依ちゃん
結論:フィルターって怖い!