魔法少女オレガ☆ヤンノ!?   作:かずwax

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冷え性だから指がかじかんでパソコンしづらい・・。


69話 長生きしたけりゃ軽率な事はするな

さやかside

 

 

恭介の腕を治すためにあたしは魔法少女になった。

この気持ちに嘘はないし後悔なんてあるわけない。

 

 

そう思ってたのに・・。

 

 

「美樹さん・・どうして早まったの?」

 

「美樹さやか、貴女は何てことを・・!」

 

 

何で二人ともあたしを責めるような目で見るの?

 

 

 

 

魔法少女の契約をした後、気まずさもあってあたしは優依から逃げ回ってた。

そしたら魔女の反応がして急いでそこに向かったらまさかの優依と結界の中で鉢合わせ。

 

しかも何故かまどかまでいたし一体どうなってんの?

 

気になるけどそれは後回し。

このままだと二人は危ない。あたしにとっては魔法少女のデビュー戦。絶対に負けられない。

不安だったけど特に苦戦する事もなく魔女を倒す事が出来て初めてにしては上出来だったと思う。

 

でもその後が大変だった。

 

魔女の結界が消えて部屋にいたのはあたし達三人だけ。

おまけにまどかは気絶してるし実質優依と一対一の状態。

 

気まずい空気の中、色々話しかけたんだけど優依は勝手に契約したのを怒ってるのかあたしの話を全然聞いてくれない。謝っても顔を逸らして目も合わせてくれなかった。

 

 

しかもそのタイミングでマミさんと転校生がやって来る始末。

 

 

それは別に構わなかったんだけど転校生がいきなり喧嘩を売ってくるから売り言葉に買い言葉で口論に発展してしまった。

一応マミさんが間に入って止めてくれたけどあたしを見る表情はどこか険しかった。

言葉にはしないけどマミさんもあたしが契約した事を歓迎していないのは何となく分かる。

 

悲しいけどそんなの関係ない。

二人に何を言われても恭介の腕を治すために契約した事を誇りに思ってるから。

 

 

・・でも二人がある事を言い出して、あたしの心は揺らぎ始めてた。

 

 

「優依は貴女を止めに行くと言って大慌てで飛び出していったわ。体力がないのにあんなに慌てて・・でも結果はこのザマ。きっとあの娘は辛い思いをしてるでしょうね」

 

「美樹さん、優依ちゃんと会わなかったの?それともあの娘の言葉は貴女には届かなかったのかしら?」

 

「可哀想に。貴女の身勝手さのせいで優依は責任を感じてるみたいよ。現に私に連絡せずにずっと貴女を探してたんじゃないかしら?」

 

「優依ちゃんを見てごらんなさい。今も苦しそうな表情をしているわ。美樹さんの魔法少女の姿を見てからずっとよ。貴女の契約を阻止出来なかった事を後悔しているのかもしれないわね」

 

 

マミさんと転校生は優依を方を見ながら口々にあたしを責め立てる。

しかもさっきよりも声のトーンが下がってる気がする。

 

 

何だかあたしが契約したというよりかは優依の思いを無駄にした事を怒ってるみたいだ。

二人につられて同じ方を盗み見るとそこには優依がいた。

 

 

「・・・・」

 

 

いつの間にか現れたキュゥべえと何か話してるみたい。

でもその表情は何かに耐えるようにとても辛そうで俯かせている。

 

何で?何で目を合わせてくれないの?

優依が辛そうにしてるのってあたしのせいなの・・?

あたしが止める優依を振り切って契約しちゃったから・・?

 

 

じっと優依の顔を見ていると視線を感じたからか一瞬目が合ったけどすぐ逸らされてしまった。

顔を下に向けてあたしと目を合わさないようにしてる。

些細な事なのにとても傷ついてるみたいでさっきから胸が痛い。

 

 

謝らなきゃ・・!

 

許してくれなくてもいい!あたしが出来るのはこれだけなんだ!

 

ずっとこのままじゃ嫌!

 

 

 

 

 

「優依!」

 

 

 

 

はやる気持ちで優依に近づいて肩を掴む。

驚いた優依は顔を上げてあたしと目が合った。

 

そのままあたしは今言える精一杯の謝罪をするも優依は顔を歪めるだけで肩を掴んでるあたしの手をどけようと必死に抵抗してる。

 

 

「ねえ、お願いだからこっち向いて?」

 

「さやか離してくれ!」

 

「離さない!・・ねえ、どうしたら許してくれる?」

 

 

拒絶の言葉と裏腹に絶対離れないようにもっと力を込めて優依にしがみついた。

それが嫌だったのか分からないけど隠そうともしないあからさまな嫌悪の表情であたしを見下ろす姿はとても怖い。思わず怯んでしまったけど何とか優依に許してもらわないと。

 

 

そんな押し問答の後、無言であたしを引き剥がそうとする優依の様子に嫌でも拒絶されている事が分かる。

その事実が胸を抉られてるような痛みを感じて頭が真っ白になる。

 

遠くで誰かが手遅れだよと囁いてるみたい。焦点がきちんと定まらなくなってそのまま膝から崩れ落ちる。

 

 

目の前が真っ黒になるってこういう事なんだね。

 

 

 

「あたし、優依に嫌われちゃったの・・?」

 

 

 

口に出して言うと優依に嫌われた悲しみが徐々に実感させられて目頭が熱くなってきた。

 

 

うぅ・・涙が出てきた。あたしの馬鹿!

こんな所で泣いたら優依に面倒臭い女だって思われちゃうじゃん。

 

 

でも・・涙が止まらないよ・・。

 

 

涙を見られないように俯くも優依は気づいてないのか無視してるのか声を掛けてはくれなかった。

 

きっと優依は面倒くさい女だって思ってるかも。

ほら、今だって泣くなうっとうしいって怒ってるのか優依の身体が怒りで小刻みに震えてるもん。

 

 

どうしよう、これじゃ完全に嫌われちゃう・・。

ちゃんと謝らなきゃいけないって分かってるのに軽い嗚咽のせいで思うように言葉を言えない。

 

 

救いようないよあたし・・。

 

 

 

「可愛い!最高だあああああああああああああああ!!」

 

「え?ひゃあ!?ゆ、優依!?」

 

 

プルプル震えていた優依は突然そう叫んであたしに抱き着いてきた。

咄嗟の事であたしはされるがままギュウギュウ身体を締め付けられる。苦しくはなかったけど頭が追いつかない。

 

 

「いやぁその衣装すっごく似合ってるねさやか!全体像が騎士らしく凛々しさがあるのに女の子らしさを忘れていない!素肌にマントってツボついてるわー。それにアシンメトリーなスカートが男らしさと女の子らしさの絶妙なバランスを整えていてさやかの魅力を存分に発揮してるね!」

 

「・・・え?」

 

「ああああああああ!何その表情可愛い!どうしよう!?テンション上がってきた!眼福です!ありがとうございます!」

 

 

テンション高めな早口で捲し立てたかと思うと今度はいきなり頭を下げている。

次の行動が全く予想できなくて困る。

 

 

そもそも一体何が起こってんのこれ?

ひょっとして優依は魔女の口づけでも受けてんの?

それとも魔女に襲われた恐怖でおかしくなった?

 

どれだけ考えても今の優依の心理状態がどうなってるのか見当もつかない。

 

 

「・・ねえ優依」

 

「どうしたのさやか!?」

 

 

ボソッと名前を呟いたのから聞いてないと思ったのに、優依は聞き逃さなかったらしくガバッと頭を上げてあたしを見ている。何が嬉しいのかずっとニコニコしてるし目なんてキラキラ輝いてる。

 

見るからに上機嫌って感じ。

ホントに優依に何があったの?頭とか打ったりしてない?

 

 

「あんた怒ってたんじゃないの?」

 

 

素朴な疑問を聞いてみる。

 

さっきまではムスッとした表情であたしを無視してたから今の優依が信じられない。

それだけ今の優依とのテンションは落差がありすぎてどれが本当の優依なのか皆目見当がつかないわ。

 

 

自分でも失礼かなって思う事を言ったのだけど優依は嫌な顔一つせずニコリと笑っている。

 

 

「もちろん最初は怒ってたよ!でもそんな事どうでもいいと思えるくらい魅力的な衣装が目の前に現れてしまったんだ!怒りなんてどこかに吹き飛ぶよ!あ、助けてくれてありがとう!」

 

「え?あ、うん。そ、そっか。てっきりあたし嫌われたのかと思ったけど・・」

 

「そんな訳ないじゃん!無視してごめんね!さやかの魅力溢れるその衣装を堪能したい衝動を我慢していたんだ!」

 

「そ、そうなんだ・・」

 

 

じっとあたしの衣装に熱い視線を送ってきて思わずたじろいでしまう。

 

どうやらあたしのこの衣装がお気に入りらしい。

自分でも中々似合ってるとは思ったけど人から褒められるのは嬉しい。

嬉しいけど褒めちぎってくるのは勘弁してほしいんだけど。

 

そんなあたしの気持ちなんてお構いなしにその後も優依はひたすらあたしの衣装をベタ褒めしてきて正直恥ずかしさですごく居たたまれなかった。

 

 

「可愛いよさやか!」

 

「・・う!///」

 

 

極めつけはこれ。

 

 

真顔でそうきっぱり言い切った優依をまともに見れなくて、反射的に顔を横に逸らす。

 

 

よくあんな恥ずかしい事を真顔で言えるよね!

言った本人よりもあたしの方が恥ずかしいじゃん!

 

 

さっきまでの重い空気はとっくにどこかに吹き飛んでしまったと思う。

というよりそんな事気にしてられない。ああもう!顔が熱い!

 

 

 

 

 

 

「・・聞き捨てならないわね。優依は私の魔法少女の衣装を見た事があるはずなのに褒められるどころか何の反応もなかった気がするのだけど?」

 

 

 

「あら暁美さん、貴女はまだいいじゃない。私なんて随分前から優依ちゃんに見せてるはずなのに何も言ってくれなかったのよ?美樹さんの衣装は褒めて私には一言もなし。・・どういう事かしら優依ちゃん?」

 

 

「・・・っ!」

 

 

 

氷のように冷たい二つの声がどこからともなく聞こえてきた。

 

その声はそこまで大きくないのに部屋全体に届くような迫力があった。

心なしか部屋の気温も二、三度下がった気がする。おかげであたしの顔の熱もすぐに冷めた。

 

いつの間にか優依の背後に回っていたマミさんと転校生はそのままガッチリ華奢な肩を掴んでいる。

優依は「ひ・・!」と情けない声を上げて顔を青ざめていた。

 

そのままズルズルと壁際まで連行していく。完全にあたしの事を忘れてるのかそのままスルーだ。

 

 

死にそうな顔でこっちを見た優依が不憫に思えたから助けに行こうと足を踏み出した瞬間、下の方から「ん・・」と小さなうめき声が聞こえる。

 

 

この声は・・まどか?

 

 

急いでまどかの元に近寄って様子を確かめると意識を取り戻したのか薄っすら目を開けている。どうやら目を覚ましたようだ。

 

 

「まどか起きた?」

 

「・・さやかちゃん・・?」

 

 

まどかがトロンとした目を擦りながら状上体を起こしている。

魔女に襲われたみたいだからこのまま目を覚まさないかもって一瞬心配しちゃったけど大丈夫そうだ。

 

 

 

まあ、近くであれだけ騒いでれば嫌でも起きちゃうか。

 

 

 

 

 

 

「美樹さやかの衣装は絶賛しておいて私には何も言わないという事は遠まわしに似合ってないと言いたいのかしら?」

 

「いやそんな事は一切ございません!ただ好みの関係でして・・」

 

「それって私の衣装は好きじゃないって言いたいの?実は美樹さんの事が好きだからとか?ああいう活発な娘がタイプ?」

 

「何の話!?今それ所じゃないだろうが!」

 

 

騒がしい方に顔を向けると優依はいつの間にか変身していたマミさんと転校生に挟まれて必死に弁解してる。

ここからだと半泣きの優依の表情は見えるけど魔法少女二人は背中を向けてるからどんな顔してるのか分からない。

ただ纏うオーラは近寄りたくないほど威圧的だから怒ってるのは確かだ。

出来る事なら近寄りたくないかも・・。

 

 

 

「あれ・・?わたし一体どうして?確か優依ちゃんと・・え!?魔女は!?さやかちゃんどうしてここに!?それにその恰好どうしたの!?もしかして・・」

 

 

ようやくここにいる理由を思い出したみたいでアワアワしながらまどかは周囲を見渡している。

その様子に苦笑いを浮かべながら魔女はあたしが倒した事を説明してようやく落ち着きを取り戻したがすぐにシュンとした様子になる。

 

 

「まどかどうしたの?」

 

「さやかちゃん魔法少女になっちゃったんだね・・」

 

 

悲しそうにあたしを見上げるまどか。今にも泣きだしてしまいそうな表情だ。

どうしてそんなに辛そうなのかあたしには分からないけどきっと優しいまどかの事だ。

あたしを心配してくれてるのかもしれない。

 

 

「こらまどか、何であんたがそんな泣きそうな顔してんのよ?」

 

「だって・・」

 

 

まどかに視線を合わせるように膝を立てて人差し指を立てて眉間に触れる。

まどかはそれがくすぐったいのか少しだけ身をよじらせていたがそこまで嫌じゃないらしくされるだまま。

 

 

「あたしは大丈夫だよ。願いを叶えたんだから後悔してない。それにあとちょっと遅かったら大事な友達三人も失ってたかもしれないし」

 

「・・・・」

 

 

あたしが結界に突入した時、優依は殺される寸前だった。

 

 

もう少し遅かったら手遅れだったのかもしれない。

これから先、魔女を倒さないといけない運命が決まってるけど今この瞬間は魔法少女になって良かったって心から思う。

 

 

「だからそんな顔しない!まどかがそんな顔するとあたしまで悲しくなっちゃうから」

 

「・・・・うん」

 

 

涙を見られないように膝を抱えて顔を隠すまどかが少し心配で頭を撫でてやりながら隣に腰かけた。顔を上げない所を見ると本当に泣いてるのかも。

 

よっぽどあたしが魔法少女になったのがショックみたい。

それもそっか。昨日のマミさんの時みたいになるかもしれないもんね。

 

もちろんあたしだって死ぬのは怖い。

でも契約する時に覚悟はしてるから大丈夫。

 

 

正義の魔法少女として魔女と戦ってやるんだから!

 

 

 

 

 

「どうなの!?」

 

 

 

「はっきりしなさい!」

 

 

 

「ひい!誰か助けてええええええ!!」

 

 

 

 

 

マミさんと転校生に凄まれとうとう本格的に泣き出した優依がSOSを大声を叫んでいる。

 

 

正直自業自得な気がするけどしょうがない。

無理に契約した事を許してくれたみたいだしあたしの衣装可愛いって褒めてくれたんだもん。

 

 

サクッと助けてあげますか。

 

 

苦笑いを浮かべながらあたしは立ち上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はあ・・怖かった」

 

「自業自得だよ。ああなるって分かってたから止めたんだよ」

 

 

あの恐怖の包囲網を抜けた俺はシロべえと一緒に暗い夜道を慎重に歩く。

 

さっきはどうなるかと思った。さやかの衣装を褒めちぎっていた俺の背後より阿修羅と化したマミちゃんとほむらが何故か胸倉を掴まんばかりの怒り具合で詰め寄ってきた。

 

カンカンになりながら魔法少女に変身してこの衣装を褒めろとか言いだした時は困った。その上挟み撃ちにされたもんだからあの時ほど死を覚悟したのはないかもしれない。

 

結局俺を助けに来たさやかが次のスケープゴートにされ二人に連行されていったのでその隙に逃げだしたのだ。

 

あ、まどかはさやかが心配だって三人についていったみたいなのでご心配なく。

怪我もなかったみたいで何よりだ。俺はぐで〇まストラップ消失という痛手を負ったのに。

 

 

取り敢えず連行されていったさやかよ。すまん。

君の尊い犠牲は決して忘れないから。

 

 

 

 

「本当にここであってるのかい?」

 

 

「多分・・」

 

 

目的の場所に到着した俺とシロべえは顔を上に上げながら会話を続ける。決して夜空を眺めているのではない。

俺たちが見上げいてるのはとある鉄塔。しかしただの鉄塔ではないのだ。

 

 

ここはあの杏子が命綱なしでクレープを食べるという無謀な離れ業をやってのけたあの鉄塔だ。

 

俺たちは杏子を探しに例の鉄塔に来たのだ。

ここで杏子が見つかれば即捕獲の協力要請する予定でもし見つからなければ作戦の練り直しをするまで。

 

 

え?以前会った謎の杏子(?)さんはどうするって?放置!

 

だって正体が分からない以上は放置するしかない。

シロべえの見解は別人らしいからほっといても問題ないだろう、

 

 

それはともかく時系列的にはさやかの初魔女退治後でいるのなら今の時間帯のはず。しかし、

 

 

 

「・・いないね」

 

 

「・・いないな」

 

 

シロべえ発明「千里眼双眼鏡」を使って鉄塔をくまなく観察するも所々に錆が見えるだけで杏子の姿もましてやらあんな高い場所でクレープを食べてる人の姿なんてどこにも見当たらなかった。

 

 

何故いないのだろうか?考えらえるのは二つ。

 

一つはタイミングが悪かった。

実はもう既に食べ終わった後かそれとも俺が帰った後でやってくるのかもしれない。

 

 

 

もしくは杏子は見滝原に来ていない・・?

 

 

考えてみれば当然かもしれない。

だって杏子が見滝原にやって来るのはマミちゃんがマミった後だ。

 

空席のテリトリーを狙ってやって来るんだからマミちゃんが生存してるこの時間軸は原作通りにはいかないのかもしれない。

そう考えたのは俺だけではないみたいでシロべえもここには杏子がいないと判断したらしい。

 

 

「今の所、佐倉杏子どころか人影すら見当たらない。というか忘れてたけど彼女には発信機をつけてるんだから別に探す必要もないしただの無駄足じゃないか。今日はもう遅いし早く帰ろう。僕はもう眠いよ」

 

 

眠そうに俺の肩で小舟漕いでるシロべえ。

そのせいか後半はほぼ投げやりな感じだった気がするが気にしないでおこう。

 

 

そういや前にこいつが杏子に発信機つけてたって言ってたのすっかり忘れてた俺の落ち度もあるし。

 

 

・・・完全に無駄足だったな。

 

 

なら帰ろう。ひとまず帰ろう。バカバカしくなってきた。

 

 

「・・悪い。うっかりしてた。取り敢えず杏子の事は明日考えるとして今日は帰ろうか」

 

「賛成。はあ、とんだ無駄足だったね。全く優依は・・・ん?」

 

「どうしたシロべえ?」

 

 

いつもの毒舌が来るなと身構えてたのに何故かシロべえは途中でやめてじっと俺たちが歩いてきた道をじっと見つめている。

 

 

「向こう側でインキュベータ―が一瞬姿を見せた。これは何かあるのは明白だから確かめておいた方が良いね。優依、先に帰ってて。すぐ追いつくから」

 

「え・・?」

 

 

一方的にそう告げてシロべえはさっさと肩から降りた。

 

どうやら眠気よりも警戒心または好奇心が勝ったらしい。その足取りに一切の迷いが見られない。

 

 

「え!?こんな所で一人置いてけぼり!?怖すぎるんですけど!ちょっと!」

 

 

俺の声などシロべえにとって聞くに値しないらしく、そのまま無視され闇の中に消えていく。

辺りはすぐにシンと静まりかえり俺のシロべえを呼ぶ声も闇に溶け込んでしまった。

 

 

この人どころか街灯すらほぼない暗い夜道にポツンと一人立っている俺。

 

 

怖えええええええええええええ!物凄く怖い!

如何にも「ゆ」が頭文字の何かが出てきそうな雰囲気だ!

 

 

こんな所にずっといたらそれこそ発狂してしまいそう!

 

帰ろう!体力の続く限りダッシュで自宅に帰ろう!

ここからじゃ俺の家の方が近い!

 

ほむらとマミちゃんは今日もどちらかの家に泊まれと言っていたがそんな事知った事じゃない!

小言くらい後で甘んじて受けよう。

 

 

とにかくこの恐怖の夜道から今すぐにでも脱出しなきゃ!

 

 

ランナーよろしく俺はグッと足に力を入れて地面を強く踏む。

 

よーいドンだ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「優依」

 

 

 

 

 

 

「!?」

 

 

スタートダッシュを決めようと足を踏み出した瞬間、背後から名前を呼ばれて思わず動きが止まる。

全神経を声のした俺の背中に集中させると背後に誰か立っているような気配を感じた。

 

 

だ、だ、だ、誰だ?・・おかしいな?

さっきまで人の気配なんて全くしなかったしいるのも俺一人だったはずなのに。

 

 

変質者?不審者?

もしくはゆ・・・?駄目だ怖い!これ以上考えるな俺!

 

 

「やっと見つけた。アンタを迎えにきたのに中々見つからなくて探したんだぞ。・・あと聞きたいんだけどさ、さっき優依が抱き着いてた青髪の女は誰なんだ?まさか浮気相手じゃねえだろうな?」

 

 

すみません、何か言ってるみたいだけどほとんど聞こえません。

恐怖のあまり心臓が激しくお仕事しているみたいで鼓動が耳にダイレクトに伝わってくるのであなたの言ってる事が聞き取れません。

 

てか、後ろの奴、少しでも動けば触れられそうな距離に立ってないか?

耳元近くで呼吸音聞こえるし。マジで変質者か?

 

どういう奴か分からないが一つだけ分かる事がある。

 

 

めっちゃ怒ってる!

どういう訳か知らないけど滅茶苦茶怒ってるのだけは分かる!

 

だって空気がピリピリしてて不機嫌なオーラが後ろからダイレクトに伝わってくるんだもん!

 

 

俺何かしましたか!?

 

 

く!振り向きたい!直接この目で正体を確認したい!

 

でも無理、怖い!

振り向いたら最後襲ってくるというのがホラーのお決まりだ。

それは絶対避けたい。俺は長生きしたいんだ。

 

 

しかし正体が分からない以上対応策がないしどうすればいいんだ?

シロべえがすぐ戻ってくる可能性は低いだろう。気になった事はとことん追求する性分だから。

 

 

・・詰んでね俺?

 

 

 

どうしようかと内心オロオロしてる間に後ろから「ハア・・」と呆れの混じった声が聞こえてくる。

その声のせいで俺の焦りは倍増に恐怖が到達点に届きそうだ。

 

簡単に言えばパニック寸前とも言える。

 

 

「だんまりかよ・・まあいいや。話なら後でゆっくりすれば良いだけだしな。今はお前を連れていく方が大事だ。ほら、一緒に行こうぜ」

 

「!」

 

 

聞いた!?こいつ今「逝こうぜ」って言ったよ!?

連れていくってどこに!?それはあの世にという事ですか!?

 

道連れ的な感じのもんですか!?

 

 

「! ひっ!?」

 

 

肩に重みを感じてつい小さく悲鳴をあげる。

 

肩に何かが乗っている?

それは滑るようにゆっくり首元を這ってくきてとても気持ち悪い。

まるで蛇が獲物に絡みつこうとしているような粘着質さを感じるのは俺の気のせいであってほしい。

 

 

震える俺にお構いなしにその感触はゆっくりながらも確実に身体を覆うように広がっていく。

 

 

ひいいいいいいいいいいい・・!

こわいよおおおおおおおお・・!

 

 

 

 

「これからはずっと一緒だ」

 

 

 

「ひゃっ!?」

 

 

 

俺の首元に冷たい何かがあたる。

勇気を振り絞ってぎこちないながらも目線を下げてそれが何なのか確認する。

 

 

 

手だ。

 

 

それもただの手じゃない。線の細い白い女の手。

 

 

 

その手がゆっくり俺の首を抱き込むようにまわしてくる。

 

 

 

こ、これは間違いない!

コイツ、いえこの方はゆ、ゆうれい・・様・・!

 

 

 

 

「ぎゃああああああああああああああああああ!!」

 

 

「!?」

 

 

 

正体に気付いた瞬間、恐怖がピークに達し腹の底から絶叫を押し出していく。

 

 

俺史上かつてない程の声量に驚いたのか首に回していた手が驚いたように弾かれた。

その隙をついて俺は幽霊の手をがむしゃらに振りほどき一目散に走る。

 

 

 

 

「おい待て! なっ・・!?」

 

 

 

 

幽霊が遠くで何か叫んでいたが無視してひたすら走った。

 

 

後ろの方で金属音や爆発音みたいなものが聞こえるが気にしていられない。

 

 

誰が後ろなんて振り向くか!怖すぎる!

走れ!追いかけられたら一巻の終わりだ!

 

 

無我夢中で走っててついさっき気づいたが足音が聞こえない。試しにそっと後ろを振り返ってみるも誰もいない。

どうやら追ってきていないようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「はあ、はあ・・はあ・・良かった。助かった」

 

 

「あら優依?」

 

 

「! ・・げっ」

 

 

安心していたら途中でまさかのほむらにバッタリ遭遇してしまい愕然とする。

 

何でここにいるか聞いてみるとほむらはあの後、さやかに案の定辛口コメントをお見舞いしてキレられたらしく追い出されたとか。ホント何やってんだよ紫。

 

ちなみに俺はこの後ほむらに捕まっ・・保護されてほむホームに強制連行。

そこで一晩過ごす羽目になってしまったが恐怖の夜を一人で過ごす事に比べたらマシなので甘んじて受け入れるしかなかった。




皆さんも人気のない夜道には気をつけてくださいね!
じゃないと幽霊に連れ去られちゃうかもしれませんよ?

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