今年中に杏子ちゃんを登場させられたぞおおおおおおおお!!
「佐倉杏子は現在進行形で美樹さやかを攻撃しているわ。このままだとまどかにも危険が及ぶ。場所はここからそこまで遠くない建物の路地裏だからすぐに向かいましょう」
「え?」
ほむらが俺の腕を掴みベンチから立ちあがらせる。
訳が分かっていない俺はそのまま掴まれた腕に引っ張られる形でほむらの後を歩かされ、ようやく状況が理解出来た。
「向かいましょうって、え?俺も行くの?そもそもその情報ってマジなの?」
「本当よ。まさか私を疑っているの?」
「いや・・だってほむらがまどかをスト、見守っている最中に連絡来たら信じたけど俺の目の前にいるから何でそんな事分かるのかなぁと思いまして・・てか、さやかにはマミちゃんが付いてるんじゃ?」
遠慮がちながら率直な事を述べる。途中ストーキングと言わなかった俺を褒めたい。
疑問をぶつけられたほむらはピタリと立ち止まり俺の方に振り向いた。
一瞬怒らせてしまったかと冷や汗をかくが無表情で俺を見つめる様子からは感情を読み取れない。
「私がここにいるのがそんなにおかしいのかしら?」
「まあね。まどかに関する情報をどうやって手に入れたのかとちょっと疑問に思っただけだから」
「簡単な事よ。まどかを安全を守るためにあの娘に仕込んだ盗聴器とGPSがそう教えてくれたわ」
「・・・・・」
お巡りさあああああああああああん!
犯罪者がいます!
ここに犯罪者がいますううううううううう!
それも重度のストーカーな上に自衛隊基地不法侵入及び武器窃盗の重罪人です!
今すぐ逮捕してください!いろんな意味で俺が危ない!
おかしいな!
いつものムカつくすまし顔のはずなのに今はとんでもない狂気な表情に見えるのは絶対気のせいじゃないはず。
何思いっくそヤバい犯罪暴露してくれてんの!?何その自信に満ち溢れた表情!?
ちゃんとまどかを守っていると誇りに思ってんのか!?全くの見当違いだからね!
逆にお前がまどかを危険な目に遭わせてるようなもんだからね!
非難めいた目をほむらに向けていると俺の耳元にこちらも自信満々な声が聞こえてくる。
「大丈夫さ!ほむらがまどかに使用している盗聴器とGPSは僕が作ったんだ!魔女の結界の中でもきちんと起動するように設計してあるよ!」
「お前が共犯か!!」
まさかのシロべえがストーカーの共犯!
俺の首元にいる白いマフラーに抗議の視線を向ける。
目が合った白い顔は腹の立つドヤ顔で踏みつぶしたくなってくる。
何でよりによってほむらのストーキング行為に協力しちゃってんだよ!?
お前が協力したせいで紫の犯罪がより高度なものに発展しちゃってんじゃん!
俺の心を読んだかのようにシロべえは絶妙なタイミングで説明が始まった。
「実際問題、まどかを見張っとかないとまずいよ。どこにインキュベータ―の罠にあるか分からないからね。いつも見張るわけにはいかないしこの方がプライバシーは守れて安全だよ。でも大丈夫!まどかに仕込んだ盗聴器とGPSは一か月間しか使えないから期間が過ぎると機能は停止して保存したデータも消滅する☆三つの安心設計さ!」
「安心できるか!まどかのプライバシーのへったくれもないじゃん!それでいいのか!?」
「これも必要な事よ。全てはまどかを守るため。我慢してちょうだい」
「いや我慢するのは俺じゃなくてまどかの方だから。ついでにお前の言ってる事どう聞いてもストーカーの理論にしか聞こえないんだけど」
我慢ならなかった俺はとうとう禁断ワード「ストーカー」を口に出すもほむらは全く動揺せずうるさいとばかりに髪をバサァッと払われてしまった。
少しは思い直してくれればと俺の淡い期待はすぐに消える。
やはりほむらはほむら。さやかとは違った厄介な一途さだ。
「勘弁してくれよストーカー。その内泣いちゃうよ俺?」
「あらそう。貴女が泣きたいなら勝手に泣けばいいわ。時間がないからとにかく行くわよ。慰めは後よ」
人の話を聞かない奴はどこまでも聞かないものらしい。
俺の勇気を振り絞った抗議は華麗にスルーされてそのままほむらに引きずられていく。
さすが魔法少女。変身していなくても意外と力あるな。
抵抗しても全く意に介してないもん。
「待って!まだ質問に答えてもらってない!マミちゃんはどうしたの!?」
「知らないわ。途中までは美樹さやかと一緒にいたみたいだけど、はぐれたのか今は連絡がとれないの」
「えー・・」
まさかのマミちゃん行方不明事件。
おい勘弁しろよ。さやかの指導と護衛を頼んだのに何で放棄してんだあのクルクル!
止める人いないから原作通りに赤と青が仲良く喧嘩しちゃうわけだよ!
「・・あ、そういえばほむらさんはどうやって俺を見つけたの?」
ただ引きずられるのも癪だし、この質問は答えてもらってない事を思い出したので聞いてみる。
お互い杏子を探すため二手に分かれたのだ。
大雑把にどこを探すかは事前に打ち合わせしていがお互いの場所まで把握していない。
大方盗聴器でまどかの所に杏子の乱入があったのを知って急いで俺を探しにきたとかそんな所だろうな。
「簡単な事よ」
「?」
今度の質問で立ち止まる事はなかったが答える気はあるらしく、ほむらは少しだけ俺の方に顔を向けて口を開いた。
「佐倉杏子を見つけるなら闇雲に探し回るより餌を用意して待つ方が効率的だと思ったからよ」
「??」
ほむらはじっと俺を見てなんてことない風に答えているが全然理解できない。
こちらを見るその視線に何故か鳥肌が立つのは俺だけだろうか?
取り敢えず分かるのはほむらは、杏子を闇雲に探すんじゃなくて罠を張って待機していたという事だ。
なるほど、それなら納得だ。
だから俺の所に。・・・ん?ていうかちょっと待って?
俺の所にいるって事はまさか俺を餌にしてたんじゃないよね?
杏子をおびき寄せる囮にされてたんじゃないよね?違うよね?
「・・まずい」
「へ?」
不穏な想像をしていた俺はほむらが何か呟いたのを聞き逃してしまったので何を言ったのか聞こうと顔を向けたらほむらは魔法少女に変身してました。
その表情は緊急事態でも起きているのか険しい。
ガチリと腕の盾から音が聞こえた途端、喧騒にまみれていた周りが一瞬で静寂に包まれる。
時間停止を発動させたようだ。どうやらマジで事態は事を窮するらしい。
「急ぎましょう。ぐずぐずしていたらまどかが危ないわ」
「え?いってらっしゃい」
「何言ってるの?優依も行くのよ!」
「は?ひゃあああああああああああああ!?ふぐぅ!」
そのまま俺を無視してまどかの元へ一気に走り出すのかと思いきや何故か俺を担いで一気に建物まで飛び跳ねる。建物との間を飛び移り、気分は怪盗になった気分だ。
下を見ると地面がとても遠く感じ人が蟻のように見える。
ちなみにシロべえ!
振り落されないようにしがみつくのは構わないけど俺の首を絞めるのはやめて!窒息死するから!
「ちょ、マジで行くの!?俺行く意味ある!?」
「決まってるでしょ?貴女が行かないでどうするのよ。期待してるわよ」
「・・へ?」
にっこりと不吉な笑顔を見せるほむらに戦慄を覚える。どうやら俺に拒否権はないらしい。
抵抗したら落下して死ぬので、そのままほむらにお姫様抱っこされつつ建物を飛び移っていくのを他人事のように眺めていた。
あの超絶近接バトルの中、俺に一体何を期待するというのだろうか?
出来る事なんて何一つないと思うんで勘弁してください・・。
さやかside
「ふーん、思ったよりしぶといんだ、アンタ」
「く・・!一体何なのよ!?何であたしを襲ったわけ!?」
傷だらけの身体を魔法で治しつつ、あたしの前で不敵に笑う赤い魔法少女を睨む。
何でこんな事に?
恭介の腕が治ったお祝いを病院でした後、マミさんとまどかと合流して一緒に街をパトロールしてたはず。
でも途中でマミさんとはぐれちゃったみたいで連絡もつかずに途方に暮れながらもまどかと一緒にパトロールしてた。
そしたら近くの路地裏で反応がして、駆けつけると周りが結界に覆われて奥には落書きみたいな使い魔がいた。
こっちは魔法少女になりたてだから練習相手には丁度良い。
そう思ったからすぐさま変身して使い魔を攻撃したんだけど、そしたらいきなり背後に衝撃を受けて壁に叩き付けられた。
最初は何が起こったか分からなかった。
頭がこんがらがっててどういう状況か理解出来ない。
唯一分かるのは背中の焼けるような痛みだけ。
「チッ、浅かったか」
使い魔の攻撃?と考えてたあたしの背後から声がして振り返ったらこの赤い奴がいたんだ。
その言葉からコイツがあたしを攻撃してきたと察して頭に沸騰しそうになる。
訳わかんない!あたしとあいつは初対面のはず。
少なくともあたしは見覚えがない。
なのにどうしてあたしを攻撃してきたの?
たい焼きを頬張りながらあたしを見下ろしてくるから余計にムカつく!
「そこをどいてよ!使い魔が逃げちゃうじゃん!」
「あ?グリーフシードを孕まない使い魔殺してどうすんだよ?魔力の無駄遣いじゃん。ちゃんと魔女に成長するまで待てっての。そうしたらグリーフシードが手に入るんだからさ」
「使い魔を見逃したら人が殺されるのよ!?それを見逃せって言うの?」
「人の心配してる場合かよ。自分が殺されそうになってんのにさ」
「・・は? ッ!」
地面に倒れてるあたしに向かって槍の先端を向けてくる。
ちょっとでも動けば当たってしまいそうな距離だ。あたしを見下ろすその目はとても冷たくて鋭かった。
どうして?どうしてあんなに憎々しげにあたしを睨んでくるの?
あたしが何したって言うのよ!?
「あたしに恨みでもあるの!?」
気づけばそう叫んで槍を剣で弾いた。
その拍子に赤い奴が後ろに飛んであたしと距離をとっている。
訳が分からないまま攻撃された理不尽に腹を立てていたから必然的に声もトゲが出てしまったけど気にしない。むしろ怒ってた方が身体に力が入る。
攻撃された傷はもう治ったからいつでも戦える。
グッと剣を地面に突き立てて立ち上がって前を睨む。
あたしが睨む先には赤い奴が意地の悪い笑顔でこっちを見ていた。
それなのにあたしを見るその眼だけは怒っているのか激しい炎でも宿しているような揺らぎを感じる。
「あたし、あんたと初対面のはずだけどいきなり何?憎まれるような事した覚えないけど」
「・・殺したいって思うぐらい憎いよ。まあ、アンタだけじゃないけどね。他の魔法少女もそうさ。全員ぶっ潰すつもりだけど手始めに一番弱そうなアンタから潰そうと思っただけさ」
「はあ!?あたしが何したって言うのよ!?」
「目障りなんだよ!」
「!?」
いきなりの声量にたじろいでしまう。
さっきまで張り付けてたムカつく笑顔が一瞬で消えて、代わりに瞳と同じような激しい炎をまとった怒りの形相であたしを睨んでくる。
何であんなに怒ってんの?
あたし知らない間にあいつを怒らせるような事した?
考えても全く思い当たる節がない。
今日だっていつも通りの日常を過ごしてた。
変わった事と言えば恭介のお祝いと優依に甘えたくらいだ。
それが原因とは思えない。だめ、やっぱり分からない。
「さやかちゃん!」
「! まどか!?」
様子を見守っていたまどかがこっちに向かって走ってくる。
「来ちゃだめ!あいつが・・!」
「おっと、動くなよ」
「!?」
「まどか!?」
あたしの傍に駆けよろうとするまどかの前に突然赤い楔の鎖がびっしりと張り巡らされて道を塞いでいる。赤い奴の仕業だ。
通せんぼをくらったまどかはオロオロしながら立ち往生してあたしと赤い奴を交互に見つめている。
「アンタにも用があるんだ。コイツを潰したら後で少し顔貸してもらうぜ。それまではそこで大人しくしてな」
「え・・?」
戸惑うまどかの方を苛立たしげに見ながら赤い奴ははっきりそう言った。
槍を向けてるって事はひょっとしてまどかにも恨みがあるの?
でもあの娘の性格上、誰かに恨まれるなんてありえない。きっと逆恨みだ。
あたしとまどかがあいつから恨まれてる理由って一体何?
「何で戦うの?さやかちゃんとわたしは貴女に何かしちゃったの?」
まどかが震えながらも果敢に赤い奴に話しかける。
身体の震えから相当怖がっているのは分かるのに、それでもしっかりした目で赤い奴の方を見ている。
そんな肝の据わったまどかをあいつは冷めた目で見返してた。
「・・・・ふん。それに答える必要があるかい?」
「あるよ!だって知らない間に貴女を怒らせるような事しちゃったのなら謝るから・・!だからこんな事もうやめて!」
「・・謝らなくていい。アタシはアンタらを見るだけでイライラするんだよ。謝るくらいならさっさとアタシの前から消えろ」
「・・・そんな」
勇気を振り絞った説得は無下にされまどかは意気消沈してるのか涙目だ。
それ以上話すつもりはないのか赤い奴はまどかから背を向けあたしの方に向き直ってる。
何でか分からないけどあいつは凄く苛立ってる。
今は下手に動いて刺激したら危険だからむしろこの方が都合が良いのかもしれない。
幸いまどかはあの妙な赤い鎖のおかげで動けない。
ここは大人しくしてもらおう!
「まどか動いちゃダメ!あたしは大丈夫だから、あぐっ!」
「よそ見してる場合かよ!」
言い終わる前に脇腹に衝撃が走ってまた壁に叩き付けられる。
すぐさま魔法を施してダメージを受けた身体を治すけど、すぐさま連続で攻撃してくる。
あいつの攻撃一つ一つが身体が動けなくなるほどの致命傷になる威力だからすぐには反撃できず防御するのが精一杯。
繰り出される攻撃全てに手加減なんて一切感じない。
本気であたしを殺すつもりだ!
反撃しないとこっちがやられる!
「あんたに恨まれるような事した覚えないわよ!」
剣を振り上げて赤い奴の頭上をめがけて斬りかかる。
「!」
でもあたしの攻撃は見切られてたみたいで、赤い奴が持っている槍で難なく防がれてしまいガキィンと金属がぶつかる音と火花が辺りに飛び散った。
「く・・!」
赤い奴は槍に片手を添えてるだけなのにどれだけ力を込めてもビクとも動かない。
涼しい顔の無表情であたしの剣を受け止めてるのに対して、あたしは歯を食いしばって必死の表情。
焦るあたしの頬に疲労と焦りの汗が流れている。
「この程度かよ」
「・・・っ」
「この程度の実力しかないのに何でアイツはこんな弱い奴に構うんだよ・・!」
「? うぁ!」
均衡状態だったぶつかり合いは赤い奴が薙ぎ払いであっけなく終わった。
薙ぎ払いの衝撃はモロに受けてしまい剣もろとも弾かれてしまって無防備だ。
あいつはその隙を見逃さなかった。
「ごほ・・う!」
無防備だったお腹を蹴られ勢いよく地面に叩き付けられる。
思った以上の衝撃で回復する事すら忘れてそのままうつ伏せで咳き込む。
遠くでまどかが「さやかちゃん!」と叫ぶのがうっすら聞こえた気がする。
苦しい!早く回復させなきゃ・・!
でないと・・!
「その回復は厄介だな」
「!」
咳き込みながら倒れるあたしを見下すそいつはとても愉快そうに笑っている。
夕日に照らされながら笑うその姿は何となくぞっとした。
本当に笑ってるのかと疑いたくなるほど暗くてどこか痛々しいとすら思えてくるほど壊れた笑顔だったから。
ここまで恨まれるなんてあたしは本当に何をしてしまったの?
分からない。必死に思い出そうとしても覚えがないから何も出てこない。
それよりも先に立ち上がらなきゃ!
「おいおい、そのまま地面にへばってろよ」
「うぐっ!」
立ち上がろうとするあたしの身体を赤い奴が足で押し付けてきて地面に叩きつけられる。
それでも何とか立ち上がろうとしたけど、あいつの力の方が上みたいでそのまま地面に押さえつけられ徐々に足に込められる力が強くなっていく。
「う・・!」
「ホントに厄介だなその回復力。まあでも、所詮魔力で治してるから限度ってもんがあるだろ?ずっと痛めつけてたらその内魔力がきれるから、ご自慢の回復も出来なくなるじゃん!だったらどこまでもつか試してみるのも面白そうだな?アハハハ!」
「・・っ!」
頭上で楽しそうに笑うあいつの声が聞こえてくる。
何でそんなに楽しい声が出せるのか分からないけどまともじゃないのは何となく分かる。
得体の知れない恐怖に思わず涙が滲んで視界がぼやけてくる。
悔しい!何でこんな目に遭わなきゃいけないのよ!?
ホントにあたしが何したっていうの!?
「・・まずは手から潰してやるか」
「!」
必死に足をどかそうと動かしていた手に赤い槍の矛先が向けられている。
その距離はほとんど触れいていると言える近さ。先端が肌に当たっていてそこから赤い血が流れていた。
それを見た瞬間、あたしの視界は真っ赤になった。
「ふざけるな!」
あまりの理不尽さに怒りが爆発して掴んでいた剣を赤い奴めがけて突き刺す。
殺すつもりでいかないとこっちが殺される!
なりふりなんて構っていられない!
やられる前にやらなきゃ!
咄嗟の攻撃だったけど切っ先はあいつの眉間をめがけて振り上げる。あともう少しで・・!
「ふん、遅いっての」
あたしの不意打ちに近い攻撃も赤い奴にとっては大した驚きもないらしい。
少しだけ顔を横にずらして難なく躱してしまった。
逆転のチャンスは一瞬で消え去ってしまった。
「!」
落ち込む暇もない内にあいつが槍を大きく振りかぶってる。
位置からして狙いはあたしの頭だ!
このままじゃマズイ!
「! 離せ!」
渾身の力を足にこめて地面を蹴る。
あたしを押さえつけてた足は槍を振りかざすのに力を割いているのか簡単に振り払えた。
そのまま勢いに任せて赤い奴から飛びのいた。
「く・・うぅ」
無理やり身体を動かしたからまともに受け身を取れずズザァァと派手な音を立てて地面に転がり込んだ。
背後でドゴォと何かが割れる音が聞こえた気がするけど一体何?
「・・・!」
痛む身体に魔法をかけつつ後ろを振り返るとあたしがいた場所に槍が突き刺さった地面は遠目からでも分かるくらい深く抉れている。
もし抜け出せていなかったらあたしがああなってたと思うと身震いしそう。
本当に危なかったんだ。ギリギリセーフだったけど何とか回避出来てよかった・・!
少し遠くで赤い魔法少女が抉れた地面に槍を突き刺して立っている。
取り逃がした事に腹を立てているのかあいつはあたしの方を睨みながら「チッ」と舌打ちをしていた。
「残念でした!あんたの攻撃外れちゃったね!次もかわして・・っ!?」
精一杯の虚勢は最後まで言えなかった。
呼吸がしづらくなるような息苦しい空気が辺りを支配している。
あいつだ。あの赤い奴の全身から威圧に似た殺気があふれ出てるんだ。
それがこの重苦しい空気の正体。さっきまでの激しい怒りが子供みたいに思えるほどの重圧。
「気が変わった。徹底的に痛めつけてやろうかと思ったけどやめだ。さっさと死ね」
抑揚のない冷たい声が響く。
さっきまでの取り繕った笑顔すら今は完全に消え失せてしまって何の感情も映さない無表情であたしを見ていた。
来る!
殺気が全てあたしに向けられているのを全身で感じ取ってたからすぐにでも攻撃してくる。
近距離は危険だから少しでも距離を離さなきゃ・・!
「え・・?」
耳元にジャラッと鎖の音が聞こえた途端、下に引っ張られるような感覚が起きていきなり視界が反転してガクッと地面に膝をつく。
慌てて身体を向けるといつの間にかあたしの身体に巻き付いてる赤い鎖。
いつの間に?これじゃ動けない・・!
「終わりだよ」
そんなに大きな声じゃなかったのにあいつの声が不気味なくらいはっきり聞こえる。
夕日が当たって表情は影で見えないのに鋭く光る赤い目が印象的だ。
「じゃあな!!」
赤い魔法少女が地面を蹴って空中で身を翻す。
そしてそのまま体制を整えて槍をこちらにむけながら向かってくる。
赤い槍の先端はあたしを真っ直ぐ捉えていた。
やられる!
さっきから拘束から抜け出そうとしてるけどジャラジャラ音を立てるだけで壊れる様子はない。
足も固定されているからこれじゃ逃げる事すら・・!
「!」
槍の先端があたしの目の前までスローモーションで迫っていている。
あと少ししたら槍で貫かれる。
あたし死ぬの?
恭介の腕を治すために魔法少女になってまだ一日しか経ってないのに・・。
ここで終わり?
「さやかちゃん!!」
ごめんねまどか。あたしここまでみたい。
ごめんなさいマミさん。あたしはダメな後輩でした。
ごめんね・・・優依。
「え・・?」
気づくと何故かあたしの視界は真っ暗になっていた。何も分からない。
分かるのは身体が何か包まれている事と、少し離れた場所からドゴォォンと何かが破壊される音が聞こえるだけ。
「一体何?」
何も見えない。目はちゃんと開いているのに真っ暗だ。
何かで目を塞がれている?敵?でも敵とは思えない。
だってあたしを包んでいるものは温かくてこんな状況なのにほっとしてしまいそうな安心感を感じるんだもん。
これは一体何?
何だか前もこうやって抱きしめられような・・?
「な、なんで・・?」
「?」
少し遠くで震える声が聞こえる。
この声はあいつだ。
何に向かってしゃべってるんだろう・・?
「何でだよ・・!?」
泣きそうな声を出す赤い魔法少女は誰かに向かって叫んでいる。
その声はあたしのいる方向に向かって叫んでいるのが何となく分かった。
じゃあ、あたしを包んでるのって人なの?
あいつの知り合い?あたしの知ってる人?
誰なんだろう?
「何でソイツを庇うんだよ優依!?」
「!」
本当に泣いてるんじゃないかと疑いたくなるほどの悲痛な叫びが届く。
それよりも今なんて言った?
「優依」って言わなかった?
え?まさか・・!?
すぐさま身体をよじって顔だけ外に抜け出した。
最初に目に入ったのは怒りと悲しみが入り混じった複雑な表情をしてる赤い魔法少女で何かを一心に見つめていてあたしには見向きもしない。
あいつが見つめている先に興味を惹かれ顔を向けると驚きのあまり目を見開いた。
視線の先には何度見てもムカつくくらい整った顔があってそれを支える身体があたしを抱きしめてる。
「優依・・?」
優依があたしを抱きしめながら赤い奴を睨んでいる・・?
訳が分からないからとにかく誰かに説明してほしいんだけど誰も口を開こうとしない。
赤い奴が信じられないといった表情で優依を呆然と見つめているし、その優依は黙って赤い奴を睨んでいる。
二人が知り合いなのは何となく分かったけど、一体どういう関係なんだろう?
次回 シュ・ラ・バ♪
杏子ちゃん絶対カンカンでしょうねーw