魔法少女オレガ☆ヤンノ!?   作:かずwax

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杏子ちゃんが現れたら修羅場は間違いなし!


72話 青 vs 赤 間に挟まれる俺

「何でソイツを庇うんだよ優依!?」

 

 

何でだって?そんなもん、

 

 

俺が聞きたいわああああああああああああああ!!

 

 

何で!?何でこんな事になってんの!?

 

何で俺はさやかを抱きしめながら杏子と対峙してんの!?

 

何で杏子はあんなに殺気立って俺を睨んでるの!?

全然分からない!何がどうなってんのこれ?

 

 

「「「・・・・・・」」」

 

「・・・ひぃ!」

 

 

赤と青(+ピンク)の視線が一心に混乱状態の俺に注がれている。

視線がチクチクと俺の全身を突き刺し、ボロボロな精神を徹底的に痛めつけてくる。

 

 

ちょっとやめて!妙な視線を俺に向けるの!

俺が一番戸惑ってるから!

 

特に杏子!何なんだその目は!?

まるで彼氏の浮気を発見した彼女みたいな怒りと悲しみが入り混じった超複雑な目になってるぞ!

 

違うんだ!これには訳が!

決して君のさやかちゃんに不埒な事をするつもりはなかってんです!

 

 

俺がこんな事になったのはほむらとシロべえの仕業だ!

そうに違いない!それはきっとあの時に!

 

 

 

 

 

「うわー・・バトッてんなー・・」

 

 

ほむらによって拉致に近い形で連行された俺は杏子たちがいる路地裏の建物の屋上から赤と青の戦いを見下ろしてた。

 

到着した時には遠目からでも分かるほど激しい戦いが勃発していたのだ。いやこれは戦いじゃないな。

 

 

どう見てもさやかが嬲られてると言ったほうが正解だろう。

それだけこの戦いは杏子が圧倒していた。

 

 

さやかは赤の攻撃を受ける度に地面や壁に叩き付けられてる。

その度に得意の回復を施し、杏子に立ち向かっていってまた返り討ちに遭う、それの繰り返しだ。

 

さやかが勝利するのはほぼ不可能だろう。経験と実力が違い過ぎる。

杏子にトドメをさされるのも時間の問題だろう。

 

 

「遅せえよ!」

 

「きゃあ!」

 

 

それにしても杏子は一体何がしたいんだ?

 

本来ならさやかを一撃で倒せるはずなのにわざと手加減して痛めつけているようだ。

その様子はさながらナチュナル拷問と呼ぶべきものだろう。怖い。

 

 

痛めつけているのは分かるが理由が分からない。

 

原作では杏子がさやかに喧嘩をふっかける理由は忌まわしい過去の自分にそっくりだからだ。

その過去をさやかを倒す事で清算しようとしていたらしいが今はどうだ?

 

杏子がさやかを倒して過去の自分を断ち切りたいというよりさやかを痛めつける事自体が目的にも見える。

それほど杏子の戦いに本気を感じない。遊んでいるとさえ思えるほどだ。

 

俺が杏子の立場だったら自分の忌々しい過去なんて見たくもないからさっさと潰すなりなんなりすると思うんだけど・・ひょっとして好きな子は虐めたくなるタイプか?

 

杏子ってそんな感じがするけど趣味が悪いとしか言いようがないな。

そんなんじゃますます嫌われるぞ杏子よ。

 

 

まあどんな理由があるにせよ、絡まれるさやかはたまったもんじゃないだろうな。ホント気の毒に。

 

 

 

「終わりだよ」

 

 

 

とどうでも良い妄想してて戦いを見逃していたら杏子の奴、何故かブチ切れていた。

ここまで分かるくらい凄まじい殺気をさやかに向けていて身体が勝手に震えてくる。

 

 

さやかよ、一体何をやらかしたら杏子はあそこまで切れるんだ?

 

 

キレた杏子は行動が早かった。すぐさま空中で身を翻して槍を構える。狙いはもちろんさやかだ。

かわさないとやられる事が分かっているが鎖でぐるぐる巻きにされたさやかは身動きがとれない。

 

このままじゃまずい!トドメをさす気だ!

 

 

「危ない! ・・あれ?」

 

 

少し身を乗り出して注意を引こうとしたが、何故か時でも止まったかのように誰もピクリとも動かない。

てか、杏子に至っては空中に縫い付けられてるのかと思うくらいピタリと静止している。

 

 

こんな芸当出来る奴は一人しかいない。

てか、さっき何気に隣でガチリって音したし。

 

 

「グッジョブ!」

 

 

この不思議な現象の仕掛け人であろう隣にいるほむらに向けて親指を突き立てた。

 

 

今回は良い仕事したぞほむら!

普段これくらい良い仕事してくれたら助かるんだけどな!

 

 

「馬鹿な事してる場合じゃないわ。この場をどうにかしないとまずい。手短にこれからどうするか言うからちゃんと聞いておくのよ」

 

 

俺の賞賛はポーカーフェイスを保ったほむらにあっさりスルーされ内心傷つくも表情には出さない。

今はそんな事やってる場合じゃないのは俺にも分かってる。

 

ともかく今はほむらの作戦に耳を貸すのが優先だろう。

 

俺は無言で頷いて続きを促す。

 

 

決して「無視?」と文句を言わないようにしているとかそんなんじゃない。

 

 

「まず私が佐倉杏子の攻撃の軌道をずらすわ」

 

「なるほど。その後にほむらが二人の間に入るんだね」

 

 

ほむらの作戦に納得した俺はふむふむと頷く。

 

ここは原作通りほむらが介入するのか。

まあ、何故かマミちゃんがいない今、あのケンカップルを止められるのはほむらだけだろう。

 

俺もそれに異存はない。

 

ただあの暴走娘どもがそれで素直に止まるとは思えないが。特にさやかが。

 

 

俺の考えは合っているらしくほむらはゆっくり頷いて先を続ける。

 

 

「えぇ、その通りよ。ただし彼女たちの間に入るのは私じゃなくて優依よ」

 

「え?」

 

 

ほむらの口から出てきた言葉は俺の耳は受け付けてくれたが頭が受け付けてくれなくてもう一度聞き返す。

 

なんか俺があの犬猫の激しい喧嘩の間に入るって聞こえたんだけど?

 

 

今の俺の目はきっと目が点になっている事だろう。

 

 

理解が追いつかない。いや追いつきたくない。

 

 

「ごめん、もう一度言って?なんか恐れ多くもあのケンカップルの間にお邪魔するって聞こえたんだけど?」

 

「その通りよ。何の為に貴女を連れてきたと思ってるの?行くわよ」

 

「ちょ、うひゃああああああああああああああ!?」

 

 

必死に理解しようと努める俺に対してほむらはどこまでも冷たかった。

 

 

いきなりほむらに担ぎ上げられてそのまま建物から紐なしバンジーの要領で飛び降りる。突然降りかかった浮遊感に一瞬意識が飛んだ。

 

すぐに浮遊感がなくなるも何故か周りにお花畑が広がっている。目の前には川が流れていた。

 

 

「さあ優依、準備して」

 

 

 

あれ?川の向こう側で誰か手を振ってる?

 

誰?男の子?ん?ちょっと待って?あれ邪神じゃね!?

 

 

 

「起きなさい優依!」

 

 

「! え!?ここどこ!?」

 

 

思いっきり肩を揺さぶられてようやく意識を取り戻した。

どうやら俺は気を失っていたようで白昼夢を見ていたようだ。

 

 

・・なんか不吉な夢を見ていた気がする・・。

 

 

「ほら、さっさと準備して」

 

「え?いや、ちょっと待って!俺やるなんて一言も言ってないよ!てか、あんな犬も食わないような夫婦喧嘩の中に入ったら一秒足らずで俺死んじゃうよ!」

 

 

俺の首根っこを掴んでさやかがいる現場(時間停止中)まで引きずっていこうとするから精一杯抵抗するも力及ばずズルズル引きずられていく。

 

 

「それについては心配いらないよ!ほむらが攻撃を逸らしてくれるし、僕だって簡単な結界を施してあげるから安全だよ!」

 

「いや例え攻撃を回避出来たとしてもすぐまた攻撃してくるじゃん!そうなったら俺死ぬわ!」

 

「それも心配ないよ!佐倉杏子が君を攻撃するなんてありえないからね!例え頭に血が上っていても君が目の前に現れればすぐさま攻撃をやめるさ!」

 

「何だそのめちゃくちゃな理論は!?どこにそんな根拠があるんだよ!?」

 

「大丈夫さ優依!君ならやり遂げられると隠れて見守っているからね!」

 

「他人事だなおい!嫌だって言ってんだろ!」

 

 

引きずられる俺の傍を悠然と歩く白い物体。

ムカつくので道連れにしてやろうと手を伸ばすもそれを見越してか微妙に届かない距離まで離れているので更にムカつく。

 

そうこうしてる内にさやかがいるすぐ近くまで来てしまった。

上を見上げれば今にも赤い槍を突き刺してきそうな奴もいるからめっさ怖い。

 

 

「つべこべ言わずにやりなさい。佐倉杏子を止められる可能性があるのは優依だけよ」

 

「出来ないから!俺にはあの赤い悪魔を止めるなんてそんな聖女的要素持ってないから!てか、どうやって止めんの!?」

 

「頼んだわよ」

 

「待っ・・」

 

 

そこで会話が唐突に途切れる。そして気づけば、

 

 

 

 

――ドゴオオオオオオン――

 

 

 

 

ひいいいいいいいいいいい!

 

 

 

気づけば目の前でアルマゲドン的な爆発が起きていて、ビビった俺は近くにあったものに抱き着いたのだ。

そして恐ろしい事に抱き着いたのがものじゃなくてたまたま近くにいた青い魔法少女だった。

 

俺の腕の中でもごもごと動くから何だろうなーと横目で見たら驚いたように目を見開くさやかの姿があって表情には出なかったが俺も驚いた。

 

まさかのナチュナルセクハラ!

訴えられてもこの体勢じゃ文句言えないぞ俺!

 

 

てか、ほむらとシロべえはどこいった!?

 

キョロキョロ周りを高速で動かして奴らを血眼で探すも見えるのは、

 

槍がぶっ刺さって出来たであろう抉れた地面

威圧感半端ない仁王立ちの杏子

さやかに抱き着くというセクハラ加害者の俺

俺に抱き着かれるというセクハラ被害で呆然とするさやか

心配そうに様子を見守るまどか

 

犯人共がいない上に何ですかこのカオスは?

あいつらどこ行きやがった!?

 

混乱を極めると表情って消えるんだね!初めて知ったよ!

 

今の俺の心の中はパニックと怒りと焦りでグッチャグチャ。しかし表情は能面のように無というアンバランスさだ。見た目では分からないがこの中で誰が一番驚いてるかで言えば間違いなく俺だと自信をもって言えるだろう。

 

 

 

 

「何でソイツを抱きしめてんだ!?」

 

「! ・・ひぇっ」

 

 

これからどうしようかとせわしなく目を動かしているとドスのきいた声が頭上から降ってくる。

 

 

弾かれたように顔を上げれば、いつの間にかすぐ近くまで接近していた杏子が怒りに燃える目で俺を見下ろしている。あまりの怒りっぷりのせいで身体が震えていらっしゃり握りしめた手は力を込めすぎて白くなっている。

 

そして俺の腕の中には杏子に対して警戒心剥き出しで身体が強張っているさやか。

 

 

俺の好きな魔法少女衣装二大巨頭が揃っている。

まさにパラダイスだというのに素直に喜べない。

 

本来なら二人の衣装を存分に堪能したい所だったが杏子の纏う触れたら全部傷つけそうな超おっかない雰囲気のせいでそんな邪な事が出来るほど俺は挑戦者じゃない。

 

 

「おい、聞いてんのか!?」

 

「!」

 

「何でこんな女を庇うんだ!?こんな弱い奴、庇う価値もないじゃん!」

 

「え、えっと」

 

 

何とか弁解しようとするも慌てて声を出すも、怒鳴り声のせいですぐ口ごもる。

 

 

どう説明すればいいんだこれ?

 

庇ったんじゃなくて、爆発に驚いてたまたま近くにあったものに抱き着いたら、それは実はさやかちゃんでしたなんてそんなアホみたいな言い訳通用する空気かこれ?

 

絶対通用しないだろうな。

 

 

それに今の杏子は危険だ。何故かかなり苛立ってる。

少しの刺激で爆発してしまう不発弾のような雰囲気だから一瞬でも気が抜けない。

 

 

「さっさと離せよ!今からソイツにトドメをさすんだ!巻き込まれて怪我してえのか!?」

 

「ひえ・・」

 

 

これが本当のヘビに睨まれたカエル。

前世含めて俺の生涯一番の目力で睨まれている気がする。

 

杏子の全身からあふれ出る殺気にあてられ、恐怖で身体がガタガタ震えてしまい言葉が思うように出てくれない。

しかも発言が思いのほか物騒なのも相まって恐怖が倍増だ。マジ怖い。

 

 

杏子様はまさか自分の未来の嫁であるさやかをぶっ殺すとおっしゃられているのでしょうか?

 

 

俺の中の杏さやの計画がガラガラと音を立てて崩壊していく。

今のままの二人をくっつけさせるとか無理!それ以前の問題だよ。

 

 

・・この杏子は本物か?

物騒過ぎるしこいつも偽物だったりして?しかし悲しいかな。

 

俺の勘が本物の杏子だと告げてしまっている。泣きそうだ。

 

 

 

「早く離れろ!!」

 

 

さやかに触れそうなくらい赤い槍を近づけてくる!

 

こんなバーサーカー状態の杏子をどうやって止めるんだよ!?

 

せめて指示くらい出してくれよほむら!

渦中に放り込んでおいて後は放置とか一番やっちゃいけないやつだからね!

 

 

く!モタモタしていたらさやかが危ない!急いで何か喋らなきゃ!

 

 

「い、いやー、杏子さんなんだか(ドッペルゲンガーっぽいのには会ってるけど)久しぶりに会う気がするね。会ったのほんの数日前だと思うんだけど・・」

 

 

咄嗟に思い浮かんだのはただの世間話だった。

「こんな争いやめて!」とか「さやかを傷つけないで!」とか他に言う事あったろと思うが修羅場慣れしてない俺にはこれが限界でした。

 

 

あははと愛想笑いを浮かべながら杏子の反応を伺うも、さっきと打って変わって非常に冷たい目で睨まれているのは何故ですか?

 

 

「アンタにとってはたった数日でもアタシにとってはその数日は永遠と思えるくらいとても長かった。どれだけ待ってたと思ってるんだ、あぁ?」

 

「ひい!」

 

 

ちょっとでも空気が和らげればなぁと軽い気持ちでさやかに倣い多少茶目っ気を含めて喋ってみるも、まさかの地雷だったらしい。

 

赤い鬼は怒りに震える声だったし、語尾の方なんてほとんど脅しに聞こえたから思わず口から小さな悲鳴が出てしまったぞ!

 

 

当てられた怒気&殺気で俺の身体はガタガタと震えだす。

 

 

うう・・杏子怖い・・。

 

 

「待ってたのに・・何でこんな女なんかと・・!」

 

 

ってそれ誰に向かって言ってんの?

 

まさか「こんな女」って俺の事じゃないよね!?

それに呼応するかのようにギリッと音を立てて槍をキツく握りしめてるしマジで怒っていらっしゃる!

 

 

だがここでビビってる場合じゃない!

死亡フラグ回避のためにも何とかここで杏子を宥めつつ戦いを止めなくては!

 

そしてあわよくば今ここで協力要請までいきたい!

 

頑張るんだ俺!

 

 

「杏子あの「・・なあ優依」え?あ、はい、何でしょう・・?」

 

 

俺の言葉を遮るように杏子が口を開いたので先に話すように促す。

だって無視して機嫌損ねると超おっかないんですもんこの人。

 

 

「アンタにとってコイツは何だ?」

 

「え?」

 

 

杏子の目線はさやかに向いている。その視線は刃物のように冷たく鋭い。

そしてさやかの後に俺を映す瞳もどこか責めてるような怒った感じがするのは錯覚か?

 

 

錯覚であってほしい!

だって俺、杏子を怒らせるような事してないもん!

 

 

「早く答えろ!アンタにとってこの女は何なんだって聞いてんだよ!?」

 

「へぁ!?」

 

 

怒鳴り声にビビり思わず肩がビクッと震えて声が出ないが赤い目がさっさと答えろと訴えてくるのでちゃんと答えなくては。

 

 

すみません、何故か傍にいる青の方も期待を込めたキラキラした目でこっち見ているのは何故ですか?

 

 

えっと俺にとって、さやかは何?

なにそれ難しい!考えろ!考えるんだ!

 

 

「と、友達・・」

 

 

震える声でそう呟いたがシーンと静まり返っていた。

 

 

考えてみたけどこれしかなくね?

逆に他は何があんの?

 

 

重苦しい沈黙がしばらく続いた後、ようやく杏子が口を開いた。

 

 

「ふーん、友達・・ね」

 

「はい・・」

 

「嘘つくな!!」

 

「!」

 

 

まさかの怒りのボルテージ急上昇にビビり更にギュっとさやかに抱き着く。

その様子を間近に見た杏子はますます目が吊り上がっている。

 

 

「目の前でイチャイチャしといてただの友達ぃ?アタシをおちょくってんのかテメエは!?」

 

「そ、そんな訳ないよ!」

 

「じゃあ何でさっきよりも強くソイツに抱き付いてんだよ!見せつけてんのか!?」

 

 

赤い槍がさやかの身体にしっかり抱きついてる俺の手に向けられている。

一歩間違えたらブスリといかれそうな距離感だ。

 

それが怖くてさやかに抱き付いてるのが分からねえかのか!?

 

 

「誤解だよ杏子!」

 

「誤解なわけねえだろ!ソイツと随分と仲良さそうじゃん?・・デキてんのか?」

 

 

まあ、確かにこのまどマギキャラで誰と仲良いですかと聞かれれば真っ先に挙がりそうなのはさやかだ。

もちろん他の娘達とも仲良いとは思うけど、一番気が合うと思うのは青。

簡単に言えば可愛い乙女心を持った男友達といった感じだ。

 

一緒にいて一番楽なんです。ノリ良いし話も合う。

だからと言って何でデキてるっていう発想になるのか全く分からん。

 

 

あのー・・さやかさん何でそこで「・・友達か・・」とボソッと呟いてるんですか?

 

俺、君の友達じゃなかったの?さすがに傷つくよ?

 

 

それにしても俺はどうして杏子に責められているんだ?

俺とさやかはただの友達なのに。

 

・・まさか俺が未来の嫁であるさやかに手を出したと思ってるんじゃ?

 

 

「えっと俺とさやかの関係がどうしたの?さやかを襲った事と何か関係が?」

 

「あるに決まってんだろ!」

 

「はい?」

 

「・・優依が悪いんだぞ?」

 

「・・・は?」

 

 

突然杏子は顔を俯かせて彼女にしては珍しいボソボソと呟くような声で呟いた。

 

 

俺が悪い?何で!?俺は悪い事した覚えないぞ!

 

 

泣きそうな顔でぼそりと呟く赤。

そんなシュンとした表情してるのに。すっと音もなくさやかに槍を向けるという物騒な事をやらかしている。

 

 

「コイツに思わせぶりな事するから調子に乗るし、アタシも勘違いしちまうだろ」

 

「?」

 

「はあ!?何よそれ!?」

 

「お前は黙ってろ!」

 

 

突然のこき下ろしに抗議を入れたさやかの首筋に赤い槍の先端が向けられている。

 

杏子はさやかと会話する気はないらしく殺気全開だ。

向けられた殺気と徐々に近づく槍に流石にさやかは押し黙る。ただし目はギロッと杏子を睨んでいるが。

 

 

俺はそんな光景を間近に見て恐怖で精神が崩壊しそうなんですけど。

 

 

「冗談抜きで杏子は一体何やってんの?いじめ?カツアゲ?リンチ?」

 

「何言ってんだお前?どれも違うに決まってんだろ。アタシはただ綺麗な花に群がる虫を退治してるだけだ」

 

「ごめん、全く意味分からない」

 

 

比喩なんていらないから具体的に説明してくれ。

そうじゃないとちっとも理解出来そうにないから。

 

何で理由聞いたらいきなり花とか虫が出てくるんだよ?

そもそも花って何の例え?グリーフシードの事か?虫ってさやかの事ですか?

勘弁しろよ。君の未来の嫁を虫呼ばわりなんてして良いのかオイ。

 

 

ああもう!こいつの相手すんのなんか面倒臭くなってきた!

さっさと話をつけてお引き取り願おう!この調子じゃあ説得なんて絶対無理だ!

 

 

「あのー、杏子さん?どうしたら戦いやめてくれますか?」

 

 

本音は「とっとと帰れ」と言いたいんだけどな。

内心をそのまま出したら炎上間違いなしなので表面は出来るだけソフトに話しかける。

 

俺の手持ちのグリーフシード渡したら帰ってくれるかな?

杏子はかなり現金なところがあるし案外この手でイケるかもしれない。

 

 

「・・優依がこっちに来てくれるなら・・」

 

「・・ごめん。何て言った?」

 

「優依がこっちに来てアタシを抱きしめてくれるならやめてもいいよ」

 

「・・・・はあ」

 

 

スッと俺の方に両手を広げている杏子。え?俺が抱きつくのこれ?何で?

 

 

「優依!こんな奴の話を聞いちゃだめだよ!」

 

「お前は黙ってろって言ってんだろ!」

 

 

槍の先端がさやかの首に少しだけ当たっているから血が流れだしている。

 

 

「っ!」

 

「優依こっちに来い。そしたら全部許してやるよ。魔法少女の事も、アタシに会いに来なかった事も、他の女に手を出した事も、全部。もちろんそのヒヨッコ魔法少女にも今後一切手を出さないようにするぞ?悪くない条件だろ?」

 

 

幼い子供に言い聞かせるように優しく微笑んでいる杏子。

しかしコイツの内面は今噴火状態とみていいだろう。だって殺気隠しきれてないし目が据わってるもの!

 

怖すぎるわ!無理!

 

 

「ほら、モタモタしてねえでこっちに来いって」

 

「え!?」

 

 

拒否する暇もなく俺の腕を掴んだ杏子が自分の方へ引っ張って俺を手繰り寄せる。

 

俺から行くんじゃなかったんかい!もはや杏子の傍に行くの確定!?

 

慌てて抵抗するも力で惨敗している俺は成すがまま引っ張られていく。

遠慮のない力で腕を掴んでいるからかなりの痛みを感じ顔はしかめっ面だ。

 

それに引き換え杏子はうっとりしたような表情で俺を抱えようとしてくる。

小声で「やっと捕まえた」って言ってるけど、どういう意味っすか!?

 

 

やめて!力の限り俺を抱きしめるの!

子供がお気に入りのおもちゃを取られないようにしてるように見えるけどお前がやるとその馬鹿力で死ぬから洒落にならん!

 

 

とにかくこのまま杏子の好きにさせるわけにはいかない!

何とかして話を出来る状態にしないと・・!

 

 

「ちょ、杏子!やめろって! !?」

 

 

 

「優依から離れろ!」

 

 

 

文句を言おうとする俺の真横を通り過ぎるように一筋の光が過った。

それと同時に後ろに引っ張られ杏子から引き離され何かが俺の身体をグッと抱きしめる。

 

顔を上げると凛々しい顔のさやかの横顔が見えた。

どうやら俺はさやかに抱きしめられているようだ。

 

 

「!」

 

 

杏子の方を見ると腕に一筋の赤い線が出来ておりそこから真っ赤な血がポタポタと流れ落ちている。

おそらくさやかの剣が杏子の腕を斬りつけたのだろう。

 

正直助かったがいよいよヤバい展開になりそうだ。

 

 

「テメエ・・!」

 

 

痛みからか怒りなのか分からないがさやかを見る杏子の顔はみるみる内に歪んでいく。

漏れ出す殺気はもはやこの空間全体を包んでいて息が苦しくなる程だ。

 

 

「あんたに優依を渡さない!あたしが必ず守るんだから!」

 

 

俺を引き寄せて剣を杏子に突きつけるさやか。やだかっこいい!

 

もし俺が純粋に女の子だったらキュンと来ていた事だろう。だが悲しいかな。

中身男の俺はキュンと来ないがこれが女の子なら惚れているかもしれないな。

 

て、そんな呑気な事考えてる場合じゃないわ!

 

 

「ハッ!お姫様を守るナイト気取りってか?弱いくせに出しゃばるんじゃねえよ!」

 

 

杏子の怒りのボルテージが上がっていく!

 

 

それに比例するかのように目を吊り上げて俺たちを睨んでいて恐怖のあまり気絶しそう。

両手に槍を構えてこちらにむき直っている。

 

 

 

何て事してくれたんださやか!

杏子がカンカンじゃないですか!これもうどうしようもないよ!

 

 

「殺してやる!二度と回復出来ないようにバラバラに引き裂いてやる!」

 

「やってみなさいよ!返り討ちにしてやるんだから!」

 

 

赤が槍を構えて青が剣を構えている。両者からは溢れんばかりの殺気が放たれている。

どうやらお互い完全に殺し合いモードに移行してしまったようだ。

もはや割り込む余地はないだろう。

 

・・泣きたい。逃げたい。

でも出来ない。何故ならまずい事に気づいてしまったのだ。

 

 

俺、どうやら最初の爆発の時に腰が抜けたらしく、身体に全く力が入らないという事に・・。

 

 

うわああああああああああああああ!

逃げられないよおおおおおおおおおおお!!

 

 

 

「二度と魔法少女に変身できなくしてやるよ!」

 

「望むところよ!」

 

「ひい!」

 

 

お互い武器を構えて怒鳴り合う赤と青に囲まれ、逃げられない俺の目は涙目だった事は言うまでもない。

 

誰か助けてえええええええええええええええ!!




案の定優依ちゃんは役に立ちませんでしたw
むしろ二人の殺意をヒートアップさせるという火に油を注ぐ愚行やらかしてます!

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