魔法少女オレガ☆ヤンノ!?   作:かずwax

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それぞれの認識

優依ちゃん:何で俺がケンカップルのイザコザに巻き込まれなきゃいけないんだ!?
杏子ちゃん:浮気しやがって!絶対許さねえ!
さやかちゃん:悪い魔法少女から優依を守らなきゃ!
まどかちゃん:(表)これからどうなっちゃうんだろう・・?
       (裏)凄い!何だか昼ドラ観てるみたい!


73話 早よ来いや!

「優依!あたしの後ろに隠れてて!すぐにこいつをやっつけるから!」

 

 

殺る気満々で剣を構えている青い騎士。

 

 

「その減らず口から削いでやるよ。二度とウザい事言えないようにな!」

 

 

もはや怒りのオーラがラスボスレベルに到達しそうな赤い槍使い。

 

 

「二人ともー・・お願いだから冷静になってー・・」

 

 

そして腰が抜けたせいでこの場から逃げられず半泣きで青い騎士にしがみつく俺。

 

 

「ど、どうしよう・・?」

 

 

ついでに蚊帳の外でオロオロしているピンク。

 

 

カオス過ぎてこの状況の行く末が全く分からない。

 

 

もはや何でもいい。この状況を打破する何かよ!今すぐ起きてくれ!

それが魔女でもインキュベータ―でも可!

 

とにかくこの空気をぶち壊してくれえええええええええええ!!

 

 

 

 

「えっと・・優依?」

 

「へ・・?」

 

 

俺の頭上から控えめな声が降ってきたので半泣きのまま顔を上げるとさやかが申し訳なさそうな表情で見下ろしている。

 

 

「あのさ、取りあえず離してくれない?これじゃ戦えないよ」

 

 

遠慮がちにそう告げると青い目は自身の細い腰にしがみつく俺の腕を見つめている。

 

なんて事はない。俺がしがみついる状態じゃ戦えないのだろう。

強引に引き剥がさない辺り、さやかなりの優しさを感じる。

ますます離したくなくなってくる程だ。

 

きっとさやかの目に映る俺はさながらどこかへ出かけようとする母親にしがみつく子供といった感じなのだろう。だってさっきから生暖かい視線を感じるもの。

 

 

「おい優依。さっさとそのザコ離せ。さもないとお前も痛い目に遭うぞ?」

 

 

それに引き替え、杏子の乱暴さときたら!さやかを見習え!

 

ムッと杏子の方を睨むと笑っているけど不機嫌さMAXオーラを漂わせている赤い魔人が目に入る。

 

大方俺が邪魔するせいで戦えない事に腹を立てているのだろうが、無理に攻撃してこないだけ優しいのかもしれない。多分。

 

杏子も優しいのは知ってるけどなんせ物凄く分かりくいしやり方が不器用だ。多分。

普段の意地悪ささえなくせば絶対好印象になるし、さやかも見直すはずなのに勿体ない事だ。多分。

 

心優しいのは確かだけど意地悪な性分もまた杏子の性格だからなぁ・・。

 

 

ていうか、お前のその意地悪で俺がどれだけ被害に遭ったか分かってんのコラ!

 

 

思い返せば楽しみにとっておいたチョコレートを食べられ、俺の愛用するぐで〇ま抱き枕をサンドバッグにし、トモッちの名を出せばガチギレ。ロクな思い出がない。

 

 

・・・なんか腹立ってきたな。よし、仕返ししよう!

これはまたとない機会だからちょっとくらい溜飲を下げてもきっと問題ないはず。

 

 

日頃の恨みを晴らすのも兼ねて杏子に見せつけるかのように更にギュッと強くさやかに抱き着いてみせるとたちまち鋭くなる赤の目つきマジ怖い。

 

 

しかしどんなに睨もうが凄もうが知ったことか!

今ここでさやかを離すわけにはいかないんだ!

 

大きく息を吸い込み全員に聞こえるような大きな声で叫ぶ。

 

 

「やだ!絶対さやかから離れない!今俺が手を離したら二人は戦うでしょ!?俺、さやかに傷づいてほしくないよ!(訳:どうせ杏子の圧勝は確定だろうし、そのせいでさやかが暴走、そのまま魔女化なんてされたら洒落にならんからやめてよね)」

 

 

ギッと杏子を睨みつつ本音部分は伏せて建前だけはっきり言ってやる。

 

察しは良いからこれで少しは杏子にさやかを傷つけるのはまずいと伝われば良いんだけどどうだろうか・・?

ついでに言うと俺の腰が情けない事に抜けてて動けないのでさやかにしがみついてないと倒れちゃからというのもあります。

 

さあ反応はいかに?

 

 

「・・っ!」

 

「え!?」

 

 

・・あれ?俺の想像していた反応と全然違うんですけど?

何でか知らんけど杏子は絶句してすぐ俯いちゃったし、さやかは顔を真っ赤にして目を見開いている。

 

・・どういう事?

 

 

「えっと・・そうなんだ。そんなにあたしの事・・」

 

「??」

 

 

しかも何故か杏子よりもさやかの方に反応があった。

 

顔を少し俯かせて手をモジモジしながら何かをごにょごにょ呟いている。

その素振りは普通に可愛いが剣を持っている事とすぐ傍に俺がいる事を忘れないでほしい。

うっかりぶっささって死ぬなんてかなり嫌だぞ。

 

 

「あれ・・?」

 

 

呆れた目で未だにソワソワしてるさやかを見上げているとふとおかしい事に気づく。

 

 

 

 

 

おかしいな?何か急にあたりが寒くなった気がする・・?

 

 

 

 

「! 優依!」

 

 

 

「え?」

 

 

 

さやかに名前を呼ばれた直後、気づけば視界が反転していた。

そんな中、少し遠くでブォォンという何かを振り回したような音が耳に届き、顔に強い向かい風があたる。

 

そして視界に広がる青。

ようやく焦点が定まった目で青を見るとそれはさやかだった。

 

 

ん?ちょっと待って?さやかに抱きかかえられてる!?何で!?

 

 

 

 

 

「・・チッ。外したか」

 

 

 

 

 

杏子の声が遠くに聞こえるもその声はひどく冷たい声だ。

聞いていると背筋が凍りそうな低い声。

 

 

「優依大丈夫?怪我はない?」

 

 

茫然とする俺を抱き起し心配そうに見つめるさやか。

そしてさやかの背後には壁に槍を突き刺したままこっちに顔を向けてる赤い鬼の姿。

その表情は夕日の陰に覆われて見えなかったが何故か目が赤く光っておりその目がこちらを捉えている。

 

混乱と恐怖で頭はパンク寸前だったが何とか口を動かして「大丈夫・・」と告げる事は出来た。

そんな俺の様子に顔を緩ませて「良かった・・」と言ってくれるさやかさんマジ天使。

 

 

「優依が無事で良かった。・・・ちょっとあんた何すんのよ!?優依に当たったらどうするつもりだったの!?」

 

 

俺の返事にほっと安堵の表情を見せていたさやかだったがすぐに噛みつく勢いで杏子に向かって大声で怒鳴っている。一体どういう事だ?

 

 

いきなり抱きついてきたさやか

壁に槍を突き刺している杏子

そんな杏子を怒鳴るさやか

 

 

・・・まさか、杏子が攻撃した・・?

さやかの傍に俺がいるというのに・・?

 

 

嘘だと思いたかったが状況証拠が事実だと告げている。

 

信じられないものを見る目でそのまま杏子の方を見ると当の本人は悪びれもせず笑っていた。

ゾッとするような獰猛な笑みだ。夕日に照らされて迫力が増している。

 

その笑顔がどういう訳か俺に向けられているような気がしてならなかった。

 

 

「杏子、一歩間違ったら俺は大怪我、最悪死んでたかもしれないぞ?・・もしかして俺が怪我しても良いとか思ってません?」

 

「アタシが優依に怪我させるわけないだろ?狙ったのはコイツの方だ」

 

 

顎をしゃくってさやかの方をギロリと睨む杏子。

もはやその赤い瞳は抑えきられない殺意のせいで酷く濁っていた。

杏子はそのまま「まあでも」と言葉をつづける。

 

 

「この女の血で優依を汚しちまったらある意味傷物になっちまうか。その時は責任をきっちりとるさ」

 

「はあ!?あんた何言ってんのよ!?」

 

「俺もさやかに同意見だ。何言ってんの?」

 

 

頓珍漢な物の言い回しで全く答えになってない。

大至急俺でも分かるように訳してほしいのだがそれは無理そうだ。

 

だって杏子はそれ以上喋るつもりはないのか笑みをひっこめ無言で槍を構えてさやかの方を睨んでいるから。

言葉はなくても全身に纏う殺気的なもので杏子がこれから何をしようとしているのか分かる。

 

 

 

 

あいつ本気でさやかを殺すつもりだ!

 

 

 

目が据わった状態でさやかを見据えている姿は非常に恐ろしい。

 

何やったらあんな目で睨まれるんださやかよ。

杏子をここまで怒らせるなんてある意味レアだぞ。

 

 

「・・っ!あんたみたいな魔法少女認めない!」

 

 

さやかの方も殺気を感じ取ったらしく下げていた剣を再び両手に持ち直して杏子と対峙している。もちろん俺という腰巾着付きで。

 

 

「もう絶対許さないんだから!優依!いいから離れて!」

 

「え!?待って!ホントに待って!」

 

 

さやかも殺気立っているらしく今度は無理やり俺を引き剥がそうとしてくるので持てる力の限り腰にしがみつく。

 

やめて!今の君じゃどうやったって杏子に勝てないから!

ズタボロ、いや殺される未来しか待ってないからマジでやめて!

そして君から引き剥がされると俺は支えを失ってこの殺伐とした戦場の中、動けず倒れるだけだから!

 

 

「絶対離せないから!」

 

 

殺し合い阻止とさやかの死亡フラグ回避そして保身をかけて必死にしがみついて意地でも離れない俺。

 

 

「は、離れてよぉ優依・・」

 

「・・・殺す」

 

 

ギュウギュウ抱きしめる俺に比例するかのように、さやかの殺気は徐々にしぼんでいき、逆に杏子の殺気は猛スピードで膨らんでいく。その勢いはそのまま天まで昇っていきそうだ。

 

 

ジャリと砂を踏む音が鳴る。

杏子が腰を低くしてこちらに狙いを定めている。

 

 

そして踏み出そうとした瞬間・・!

 

 

 

 

 

 

 

「そこまでよ」

 

 

 

 

「「「「!」」」」

 

 

 

熱々の怒りが充満しているこの空気に水を差すような凛とした声が響いた。

 

 

突如聞こえた声に赤と青が反応し謎のこの正体を探ろうと目を動かしながら警戒している。

ちなみに俺は速攻でこの声の正体に気付いたので二人とは違う感情で声の発生源を探る。

 

 

 

 

「こっちよ」

 

 

 

 

「「「!」」」

 

 

 

声のした方はまどかがいる方向だった。

三人ともすぐさま、まどかの方に顔を向ける。

 

 

「!? 誰だ!?」

 

「転校生・・!」

 

「ほむらテメエエエエエエエエエエエエエエエ!」

 

 

三者三様の反応だった。

 

声の正体は俺の予想通りほむら。

ふてぶてしい表情で腕を組みながらまどかを守るように彼女の前に立っている。

 

 

 

何ちゃっかりまどかの近くで待機してんだよ!

 

 

おいまどか!

 

「来てくれたんだねほむらちゃん!」

 

って嬉しそうに声をあげてるけど騙されるなよ!

 

 

コイツ俺を置き去りにした挙句、命の危機だって時に傍観決め込んでた冷血な奴だからな!

出てくるの遅すぎるわチクショウ!

 

 

「何であんたがここにいんのよ!?」

 

 

唐突なほむらの登場に怒っていたのは俺だけでなくさやかもだったらしい。

 

キッと目を吊り上げてほむらに噛みついている。

戦いを邪魔された事に怒っているのは何となく分かるがそこまで怒らんでも。

 

しかしそんなさやかを前にしてもほむらはクールな澄まし顔。

そればかりではなく五月蠅そうに顔をしかめて髪を払っている。

 

これは俺の予想だが、おそらくほむらは今までの時間軸でもさやかを怒らせた事があったのだろう。

その様はやけに手慣れたスルースキルを感じさせる態度だったから。

 

絶対何回かは怒らせた事あるなあれは。

 

 

「本当は出るつもりはなかったんだけど優依が思った以上に役に立たなかったから仕方なく出てきたのよ」

 

 

開口一番でまさかの俺役立たず認定。

 

仕方ねえだろ!訳も分からずこんな殺伐とした戦場に放り出されたんだから!

咄嗟に対応出来る奴なんて勇者か馬鹿くらいだよこんなもん!

 

 

色々言いたい事は沢山あったがガツンと辺りに響き渡る鈍い音によってかき消されてしまった。

それは赤い槍を地面に叩き付けた音だったようで先端はほむらに向けられている。

 

 

「ふーん、その様子じゃテメエも優依と仲良いみたいだな?・・手加減しねえ!」

 

 

静かに事の成り行きを見守っていた杏子だったが、いきなり殺気全開でほむらに向かって槍を振りかざす。

しかしそこはほむら。

 

「落ち着きなさい佐倉杏子」

 

「な!?」

 

 

攻撃してくる事は見越しており時間停止による回避で難なく槍を躱して杏子の背後に立っている。

瞬間移動でもしたかのように一瞬で背後に立たれている事と自分の名前を知っている事に驚きを隠せないのか杏子は目を見開きつつ慌てて体勢を立て直してほむらと向き直る。

 

 

それにしてもほむらが瞬間移動したように見えたって事は今の俺って時間停止バリバリ通用するのね。

という事は気づいたら戦場に乱入していたのもおそらくその間に時間停止されたからだろう。

 

 

ほぼ間違いなくシロべえが時間停止無効解除しやがったな!

あのドクサレ宇宙人が見つけ次第八つ裂きに・・!

 

・・あれ?そういえばシロべえは?

 

 

一緒にいたであろう、ほむらの方を見てもそれ以外の場所をくまなく見渡してもどこにもあのムカつく白いボディを見つけられなかった。つまり考えられる事は一つだけ・

 

 

あのヤロウ!散々引っ掻き回した挙句、この場から逃げやがったな!?

そんなに杏子に会いたくなかったのか!?

俺は絶賛ピンチだというのに薄情な奴めええええええええええ!!

 

 

 

「なんでアタシの名前・・どこかで会ったか?」

 

「それは秘密よ」

 

 

俺が密かに怒りを滾らせている間にほむらと杏子の話は続く。

さすがにベテランというだけあって突然の事態にもすぐさま杏子は冷静さを取り戻しほむらと会話している。

出来ればさやかの時もこれくらい冷静だったらどれだけ良かったことか。

 

ホント何であんなに怒ってたんだ杏子は?

そんなにさやかは怒りの琴線に触れるのか?謎だ。

 

 

「・・そうか、アンタがイレギュラーって奴かい?優依を銃で脅した事があるらしいな?」

 

「誰情報かしらそれ?」

 

 

と思ったのも束の間、杏子が殺る気全開でほむらに向けて槍を構えた。

 

さすがほむらだ。俺が会話を聞き逃した間に安定の煽りスキルを駆使して出会って数分の杏子を戦闘態勢にもつれこませるとは!

何してくれてんだチクショウ!

 

グッと槍を構える杏子といつでも時間停止を発動させられるように盾に触れるほむら。

一触即発の気配。どちらが先に動くか緊張の瞬間。

 

 

「・・邪魔しないでよ転校生!」

 

 

しかしここで空気を読めないのがさやかだ。

KY気味に剣を振りかざし、ほむらに向かって突撃していく。

 

 

「待ってさやか!」

 

「きゃあ!ちょっと優依!?」

 

 

そんな猪突猛進な行動の予測がついていた俺はアメフトタックルを参考に全体重をかけてさやかに飛び掛かる。

思いのほか上手くいったようでさやかの背後に抱き付く事に成功し、俺のタックルと咄嗟の事に反応出来ず前のめり気味だったさやかの体重が合わさりそのまま二人して地面に倒れ込んだ。

 

 

「うぅ・・いった・・」

 

ガタンとかなり大きな音が響き俺の下敷きとなったさやかは痛みからかしきりに呻いている。

ちなみに俺はさやかがクッションになってくれたのでほぼノーダメ―ジ。

 

形はどうあれこれでさやかは動けないはず。

これならほむらに呆気なく気絶させられる事もないだろう。俺GJ!

 

 

「!? ひゃあ・・!ちょっと、どこ触ってんの!?早くどいてよ!」

 

「え・・? !?」

 

 

一人ほくそ笑んでいたら、さやかが何かに気づきすぐさま身体を捻らせながら真っ赤な顔で俺を見上げてくる。しきりに「早くどいて!」と真っ赤な顔で叫んでいるがどうしたのだろうか?

 

まさか公衆の面前で無様な姿を晒したのが恥ずかしがったとか?

まあ人前で転ぶなんてかなり恥ずかしいわな。俺はしょっちゅうやらかしてるけど。

 

 

「大丈夫ださやか。転んだくらいなんだ。人生は転んだら立ち上がればいいだけなんだから」

 

「何言ってんの!?そっちじゃないわよ!いいから早く胸触ってる手どけてよ!」

 

「!!??」

 

 

更に真っ赤な顔になり路地裏全体に届きそうな声で恥ずかしい事を叫ばれて俺は固まった。

なんか柔らかいなーと呑気に思っていた手に感じる柔らかい膨らみ。

 

 

恐る恐るさやかの身体にしがみつく手を覗き込むと丁度触れている位置がさやか様のむn・・。

 

 

 

 

 

「すみませんでしたあああああああああああああああ!!」

 

 

 

 

全てを悟った俺は高速でさやかに頭を下げつつ手をどかそうとするも微塵も動かない。

 

そりゃそうだ。だって何だかんだで俺の手はさやかの体重と俺の体重のセットの下にのしかかっている。

それだけでも動かすの困難なのに、今の俺は腰が抜けて思うように身体を起こせない。

 

手の甲は地面に直であたっている。動かすと物凄く痛い。

手の平はマシュマロ天国、手の甲は摩擦地獄という何ともまあ紙一重な状況だ。

 

手が傷だらけになろうと構わず強引に引き抜こうとするが全然抜けない。・・泣きそうだ。

 

 

「・・さやかさーん・・手が動かないですぅ・・」

 

「ええ!?嘘でしょ!?皆見てるんだけど!?」

 

 

自分の不甲斐なさと手の甲の痛み、そして公衆の面前でセクハラをやらかしてる罪の大きさに泣きべそかきながら報告するとさやかは勘弁してくれといった表情で俺を見上げている。

 

俺の表情を見てそれが嘘じゃない事は伝わったらしく半泣きだ。

 

 

「・・・うぅ、こんな事されちゃって・・あたしもうお嫁にいけない・・」

 

 

青が真っ赤な顔を覆って項垂れているが俺の方が絶望的だ。

訴えられたら勝ち目なんてない。示談で済めばいいがこれは・・。

 

あれ・・?別に俺が動かなくても今のさやかの力なら楽に俺ごと立ち上がれるんじゃ・・?

 

その事に気づいた俺はさやかの顔を覗き込むようにして声をかける。

 

 

「さや、・・ひぃ!」

 

 

しかしそれは途中で途切れた。突如として背筋に走る悪寒。

その悪寒の正体は修羅と化した赤い悪魔から発生している殺気だった。

このまま放っておけば魔女に変身しそうなドス黒いオーラが赤を包んでいる。

 

 

こ、こえええええええええええええええ!!

魔法少女うんぬんのレベルはとっくに越えてるよ!?

むしろ魔女と言った方がしっくりくるくらい禍々しいんですけど!?

 

 

「どうやら本格的にお仕置きが必要みたいだなぁ?その手癖の悪さ・・きっちり矯正してやるよ!」

 

 

地獄の底から発していそうなドスのきいた声が周囲に響く。

ジャラジャラと不穏な音を立てて杏子の周囲を舞う鎖たち。

 

それが俺めがけて・・、え!?

俺めがけてくるううううううううううう!?

 

 

「ひゃあ! ・・あれ?」

 

「やめなさい。無駄な争いをする馬鹿は嫌いよ。貴女はどっちなの佐倉杏子?」

 

 

ほむらが再び時間停止を発動させ、俺に向けて放たれた鎖は俺がいる位置から真逆の方向の壁に叩きつけられている。

 

そして再び杏子の背後に回り込み、今度は後頭部に銃をつきつけている。

こうなっては動けない。杏子もそう判断したのか「チッ」と舌打ちして動きを止めた。

 

 

ほむら、君はやれば出来る娘だって信じてた!

ありがとう!おかげで俺は生きてるよ!

 

まどかがいる手前かっこつけなきゃいけなかっただろうが大成功だ!

お礼に後でまどかへのアプローチ手伝うよ!

 

 

「手の内がまるで見えねえ。何の魔法だそれ?」

 

「・・・・」

 

 

二度も背後に回られた事が気に入らないのか杏子はかなりイラついた様子でほむらを睨み槍を構えている。

 

 

「答える気はねえって事かい?対策の仕様がないんじゃ仕方ねえ・・今回は引き上げさせてもらうよ」

 

「賢明な判断ね」

 

 

槍を肩に担いで戦闘態勢を解いた杏子に安堵の息が漏れる。

 

 

どうなるかと思ったが今回はほむらの活躍で保留になりそうだ。

 

 

・・・マジで俺出る必要なかったんじゃね?ほむらがいれば一発で解決じゃん。何で駆り出されたんだ?

 

 

いやそれより!ほむらがいる今なら杏子ともまともに話せるかもしれない!

幸い今のアイツなら冷静さを取り戻してるだろうし!

 

よし!話しかけてみよう!

 

 

 

「杏子・・ひえ!」

 

 

声をかけて速攻で後悔しました。

 

 

 

杏子がこっちを睨んでるうううううううううううううう!

 

 

 

いや睨むなんて生易しいもんじゃない!

怨念の籠った淀んだ赤い瞳が俺たちの姿を映しているといっても過言ではない!

 

 

ん?よく見ると赤の目線が俺よりも下に向いている気がするけど・・?

 

 

「命拾いしたなヒヨッコ。今度はこうはいかねえからよ。ズタズタにしてやるから覚悟しとけ」

 

 

地の底から出したような低い声でさらっと次も襲うぞ宣言してきた杏子超おっかない。

知らない内に俺の全身がガクブル状態だ。どうやらさやかに向かって言っているらしい。

 

 

俺じゃなくて良かった。もし標的が俺なら恐怖で精神崩壊してたわ。

 

 

「~~///!うるさいわね!あんたにとやかく言われる筋合いはないわよ!こっちだって容赦しないんだから!」

 

 

自分に向けて言われた事だと直感したらしい。

顔から手をどけたさやかは杏子を睨みながらはっきり言い切った。

 

ちなみに今も顔が真っ赤で涙目なのは俺が現在進行形でセクハラしているからに他ならないからです。

いやほんとすみません!杏さやの横やりしてすみません!

 

ちゃんと誤解は解きますんで!

 

 

 

 

「優依」

 

 

 

「え?・・ひい!」

 

 

 

 

突然名前を呼ばれ顔を上げると杏子がとても素敵な笑顔で俺を見ていらっしゃいました。

しかし全身から漏れ出る怒気は全く隠しておらず、そのせいで俺のビビり度がピークに達しそうだ。

 

こ、怖い!でもビビって何も言わなかったら更に赤鬼の機嫌を損ねてしまうかもしれない!

ここは是が非でも口を開かなくては・・!

 

 

「・・・何でしょうか杏子様?」

 

 

恐怖で口が震えているせいでかなり噛み噛みな返事になってしまったが杏子は気にしてないらしく小さい子を安心させる聖母のような微笑みで俺を見つめている(ただし怒気五割増し)。

 

 

「今のアタシは虫の居所が悪いから頭に血が上ってるけど、落ち着いたらゆっくり話そうな?二人っきりで」

 

 

子供をあやすような優しい響きでそう語りかけてくるが語尾の「二人っきりで」の所がめっちゃ強調された気がする。嫌だ。二人っきりで会ったら冗談抜きで殺されそう。

 

今の杏子の雰囲気ならありえない事じゃない。

 

 

「あの・・話し合いは大賛成ですが出来れば皆を交えてにしませんか?」

 

「じゃあな優依」

 

 

杏子は俺の提案をあっさり無視し高く飛び上がって壁をつたいながら退散してしまった。

 

 

残されたのは頭上を見上げる紫とピンク。

そして責めるような目で睨む青とそんな視線を甘んじて受け入れるしか項垂れた俺だった。

 

次に杏子に会う日が俺の命日にならないか不安だ。

しかしその前にさやかによって社会的に抹殺されないかとても不安だ。




結局優依ちゃんのやった事って杏子ちゃんの怒りを煽っただけじゃ・・?

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