皆さんは見ましたか?
自分は見逃した上に録り逃しましたよチクショウ
「・・何だって?」
杏子が言った事はひょっとしたら幻聴かもしれないと思った俺はもう一度聞き返す。
「だーかーら、一緒に来いって言ってんだよ」
失礼。幻聴ではなかったようだ。
あまりに頓珍漢な事言うから気のせいだと思った。
「・・誰が?」
「優依が」
「誰と?」
「アタシと」
「どこに行くんでしょうか?」
「これから先アタシが行くところ全部だ」
「・・・・マジっすか」
ソファの上でお互い見つめ合って馬鹿なやり取りを繰り返すこの光景は第三者から見れば実にシュールだろう。
理解が追いつかない俺に杏子は根気よく付き合ってくれるがこればっかりはどうしようもない。
一緒に来いって事はつまり杏子と同じようなアウトローライフしろって事か?
嫌です。一日持ちません。
ヘタレにそんな刹那的な生き方出来るわけないでしょうが。
確実に餓死しますよ。
「それって拒否権はあるの?」
「あぁ?」
あ、拒否権ないわこれ。
遠回しに拒否したら鋭い赤い眼光を向けられてしまった。
さっきまでの優しい雰囲気なぞ見る影もなく今や阿修羅でも降臨なさったような形相だ。怖や怖や。
「あー・・何でいきなりそんな事言うんだ?」
「いきなりじゃない。前から考えてた事さ。初めて会った時もそうだったけど、アンタ随分と危ない目に遭ってんだろ?今は無事だけどいつか魔女に食われるかもしれない。そうなったらアタシは壊れちまうだろうな」
「そんな大げさな・・」
「大げさなもんか。これは大事な問題なんだ。ありえない話じゃないだろ?」
「まあ、考えたくはないけど。でもなぁ・・」
どう答えたら良いのか分からない俺は口籠ってしまう。
そんな俺の様子を見た杏子は何故か非常におっかない形相に変貌し冷や汗が噴き出てきた。
「・・まさかとは思うがお前、魔法少女になりたいとか、舐めた事考えてんじゃねえだろうな?」
「ひ!そ、そんな訳ないよ!俺は絶対魔法少女になったりしないから!」
氷点下に到達しそうな声に慌てて両手を振って力の限り否定しまくる。
何を思ったのか杏子は俺が魔法少女になりたいかもと思ったらしい。
そんなトチ狂った願望ねえよ!
どう考えたって行きつく先は破滅しか待ってないだろうが!
絶対やだ!マジ無理!断固拒否!
全身に拒否反応が出て発狂しそうになったが、幸いにも杏子は納得したらしく表情が穏やかに戻ってくれた。
「ああ、間違ってもなるなよ。もしそうなったらアタシは容赦しねえから」
「何それ!?リンチですか!?」
杏子の目がマジだったので思わず後ずさる。
自分の願いによって家族を死に追いやってしまった過去を持つ杏子は魔法少女には否定的だ。
きっとそれは自分と同じような悲劇を繰り返して欲しくないという優しい思いがあるからだろう。
決してグリーフシードの取り分が少なくなるとか、そんなリアルな事情が理由だけではないと信じたい。
「俺の事を大切に思ってくれるのは嬉しいよ。守ってくれようとするのはありがたい。でもごめん。俺は行かない。俺はこの街に大事なものが出来たから離れたくないんだ」
考えた末、俺はこう答える事にした。
ちなみに訳をつけるとすれば、
どうせ逃げたってまどかが魔女化すれば最悪地球終わって逃げ場なんてないから意味ないです。
といった感じだろう。
いやだってマジでこれ逃げ場ないもん。
今の所まどかから魔法少女になる意思はないと言質をとっているが、これから先まどかが契約しなくてはならないという事態が来るかもしれない。
そうなったら破滅へのカウントダウン待ったなし!
出来ることなら逃げ出したいけど、まどかを見張らないといけないので無理です!という裏事情がある。
しかし、それを杏子に喋ったら色々拗れそうな気がするので伏せさせてもらいます。
ないとは思うけど全部説明して、「じゃあそのまどかって奴を殺そうぜ」なんて冗談でも言われたら、紫&青、ついでに黄色との全面戦争に突入するかもしれないし。ないと思うけど。
「この街には大事な(俺の死亡フラグ握ってる)人達がいるから離れたくないんだ。だからごめんね」
こちらの都合により大部分省いてしまっているが、きっとこれで杏子に伝わるだろう。
全部でなくてもある程度は察してくれるはず。
そう期待して杏子を見つめるも何故か傷ついたように瞳をゆらし顔を俯かせてしまった。
重い沈黙がリビングを支配していてかなり気まずい。
「大事な人・・」
ようやく喋ったと思ったらとても小さな声でぼそぼそと囁く程度。
よく聞こえなかったので「うん?」と曖昧にぼかすと杏子はゆっくり顔を上げて俺を見つめている。
その目はどんよりとくすんだ赤色の瞳だった。
「・・アタシよりも?」
「え?」
「アタシよりも大事なのか?」
「え?ちょっと?」
「マミが大事なのか?それともあのイレギュラーか?」
「ちょ、杏子?一体何の話してんの?」
「じゃあ、あの良い子ちゃんぶってるピンクの髪の女の方か?」
「だから何の話して・・」
「それともアタシと一緒に行くのが嫌だから拒否するのか!?」
「っ!?」
またまた謎の癇癪を起こした杏子はグッと俺の制服を掴んで引っ張ってくる。
微かにビリィと不吉な音がし顔を青ざめた。
このままじゃ俺の制服が!
まどかによって生成されたシワを取るにも苦労したのに破けたりなんてしたら心折れる!
これ以上制服の破損は見過ごせず、すぐに杏子の手を掴んで引き離そうと力を込めるも一ミリも動かない。
さすがパワー部門第一位。ビクともしないぜ!
「杏子!ご、誤解だから!何をどう考えたらそんな思考回路になるんだよ!?」
「誤解だって証明したいならアタシと一緒に来ればいい!」
「だから行かないって!」
どっちも譲るつもりはないため、「来い!」「行かない!」のやり取りがしばらく続く。
普段と違って俺が全く折れないので杏子は段々泣きそうな表情になっていき、そして杏子によって段々破損していく制服を見て、俺はほとんど泣いていた。
「何で!?何でアタシを拒むんだよ!?」
「うぇ!?ちょっと!杏子落ち着いてくれ!」
「そんなにアイツらが良いのかよ!?アタシよりも!?やだ!そんなのやだ!やだよぉ・・!」
「うお!?」
ヒステリックに叫んで勢いよく俺に突撃し、胸に顔を埋めて泣きじゃくっている。
嗚咽を漏らしている最中やたらと「何で・・?」「やだぁ・・!」という言葉が聞こえてくる。
・・俺も泣きたい。
もうこの制服クリーニングでも綺麗にならないと悟ってしまったから。
新調するしかないかも・・。
しかし一体どうしたというんだ杏子は?
キャラ崩壊半端なくてお前誰?状態になってるぞ。大丈夫か?
リビングに響く嗚咽とむせび泣く声が止まらず途方に暮れる。
どうやらこれは落ち着くまで待つしかないなさそうだ。
「・・落ち着いたか?」
そろそろ制服絞れそうだなぁとぼんやり思う頃、ようやく泣き止んでくれた。
真っ赤に腫れた目がどれだけ泣いたのかを物語っている。
流石に女の子が目を腫らした状態なのは可哀想なのでタオルでくるんだ保冷剤を渡してやると素直に受け取った。
「・・悪りぃ。少し不安になっちゃってさ。ガラにもなく怖くなって・・」
「ぐふ!」
不安そうに揺れる赤い瞳は泣きそうでギュッと俺の背骨を折るつもりの力で抱きしめてくる。
すぐにでも離して欲しかったが、まるで絶対離さないという子供の意思表示みたいにガッチリ抱きしめてきて思うように声が出ない。
ちなみに俺の渡した保冷材は床に放置されてました。
せっかく渡したのに勿体ない。
危うく昇天しそうになる寸前で解放され何とか一命を取り留めた。
ほぼ瀕死の状態ながらも肩を掴まれ、再び杏子と見つめ合う形で対峙する。
「優依・・一緒に来てくれないのか?」
「あー・・悪いけど行かない」
じっと不満そうな目で睨んでくる杏子から目を逸らして再度のお断りを入れる。
「・・一つ聞きたいんだけどさ」
「ん?何?」
少しの沈黙の後、杏子は俺の顔に手を添えながらをじっと覗き込んできた。
先程の真剣さと打って変わって冷ややかに思えるのは幻だろうか?
「あの青髪の女・・美樹さやかとはホントの所どういう関係なんだ?」
「ひぃ!?」
「青髪の女」と呟いた時の杏子の顔は見れたものじゃなかった。
表情はさほど変わってなかったんだけど目が!
一切の光を遮断した深海のような真っ黒だ。
綺麗な赤い瞳なのに真っ黒に見える!
てか、唐突にさやかの話してきてこっちはビックリなんだけど!?
「えっとさやか?あの時も言ったけど友達だって「どうだか?」え?まさかの難癖?」
必死にさやかとの仲を解こうとするも途中で話を遮られてしまった。
抗議したかったがそれを阻まれるような杏子の不機嫌なオーラが邪魔をして何も言えない。
もうやだ、この情緒不安定な赤
めっさおっかないんだけど!ほむら、助けにきて!頼りないけどさやかでも可!
黄色どこ行ったんだチクショウ!
「ただの友達のために身体張って守ろうとするか普通?それこそソイツに特別な感情でもない限りそんな馬鹿な真似はしねえよ」
いやあれはマジで事故です!
紫と白に仕組まれた陰謀によって起こった事故なんです!
吐き捨てるようなぞんざいな言い方で俺を睨んでくる杏子に無意識ながら緊張し、ピンと背筋が伸びた。
さながら俺は警察に尋問されてる被疑者といった感じだ。
「随分と仲良さそうだったもんな?自分が死ぬかもしれないのにわざわざ間に入ってアタシから庇うようにアイツを抱きしめてたし、何より目の前で胸揉んでたもんな?」
「誤解です!全て誤解ですけどセクハラに関して言えば事実無根です!」
杏子に物申すの超怖いが、せめてセクハラの誤解だけでも解いておかないとこれから先、俺の未来は絶たれてしまう!人生的にも社会的にも!
うぅ・・無実なのに世辞辛い。
そして杏子さんよ、
「どうせアタシはデカくねえよ・・」
と落ち込んでいるがそこまで気にしなくても良いと思いますよ。
だってさやかと小競り合いのしてる最中、ほむらが杏子をまじまじと観察した時、
「この佐倉杏子はどの時間軸の彼女よりも大きいわね・・」
と、悔しそうに呟きながらじっと杏子の胸見てたからな。
どうやら君の胸は他の時間軸の佐倉杏子の平均以上はあるらしいから気にしなくていいぞ。
それはほむらが保障してくれるから。
それにしてもまさかこんな所で他の時間軸と差異があるとは驚きだ。
「さやかとはただの友達です!それ以外にない!」
「口では何とも言えるんだよ。実は美樹さやかはアンタの彼女とかだったりしてな?」
「違うわ!どこから出てきたんだそんな発想!?」
「だってアイツとやたら距離が近いし、特別扱いしてるじゃん!」
「それ絶対杏子の思い込みだって!」
そこからは大変だった。
杏子がやれ「アイツが好きなんだろ?」「ホントは付き合ってんだろ?」と、とんでもない妄想を披露してくるので俺はいちいち否定して回っていた。
機嫌が直らずプイッと顔を逸らされてしまって心が折れそうだ。
「・・何度でも言うぞ。俺とさやかは友達だ。嫁うんぬんはあいつなりのコミュニケーションだから忘れてくれ」
根気強く杏子に説明する俺はきっとノーベル賞ものだ。
ちなみに今の話のテーマはさやかの嫁発言。
どこで聞いたのか知らないけど、エラくご立腹の杏子さんである。
じっと奴の赤い目を見つめて無実だと訴えるとふいっと逸らされてしまった。
「・・そこまで否定するなら信じてやるよ。一応な」
あ、全く信じてないなこれ。
だって目が凄く疑わしそうな横目だし、何より「一応」って言葉を強調してきたぞ。
そんな目しなくてもさやかに手を出しませんよ。てか、出した覚えないんだけど。
・・セクハラを除いて。
「あー、冗談なんだけどさ、もし俺がさやかと付き合ってて嫁になりますーなんて言ってたらどうするつもりだったんだ?」
意地悪と好奇心に負けた俺は気になる事を質問してみた。
ぶっちゃけさやかが気になってるらしい杏子が一体どんな反応するのか非常に気になる所。
「もし・・優依がアイツと付き合ってたら・・アタシおかしくなってたかもな?」
「・・えーと、何を?」
具体的にどうなるのか知りたかったが、杏子はただ意味深に暗い笑みを浮かべるだけで何も答えてくれなかった。
何となくだがこれ以上この話をしない方が良いなという事は分かる。
話を逸らした方が良さそうだ。
そう思った俺は口を開きかけるも杏子に先手を打たれてしまった。
「しかし本当に仲良いんだなお前ら。人の目の前で胸揉むなんて事やってるし」
「ぶ!何度も言うけどあれは事故だから!さやかにもちゃんと謝ったよ!てか、女の子同士ならそこまで目くじら立てなくても!」
余計な蒸し返しに思わずむせそうになる。
かなり根に持ってるなこれ。やられたのさやかなのに。
いやむしろ、さやかだからこそかもれしれない。
アタシの嫁に~的な感じの。
てか、俺だってちゃんと悪い事してしまったって思ってますよ。
女に転生してしまって早十四年は経つのに中身は男のままだから、セクハラ認識なのはどうしても抜けない。
せっかく女に転生したんだからセクハラし放題だしそれを満喫すれば良いんじゃんと思うかもしれない。実際思ったけど。
しかしそこはヘタレな俺。
そんな大それた事出来るはずもなく今に至っております。
「罪の意識はあるんだろ?学校だって行きづらいだろうし、引きこもり確定だな。だったらアタシと一緒に来ればいいじゃん」
「まだ言うか!」
めちゃくちゃしつこい!
もうその話はとっくに終わったと思っていたのにまだ蒸し返す気らしい。
イライラを隠さない俺を杏子は不思議そうに首を傾げている。
「何でそこまで頑なに拒むんだ?お前かなり酷い目に遭ってんだろ?これだってそうだ」
「ひゃ!?」
杏子がそっと俺の首に指を這わせてくる。
そこはマミちゃんのリボンで絞められた跡が残るところだ。
シロべえが作った特製塗り薬のおかげでほとんど絞め跡は消えているがそれでもまだ少しだけ残っていて、その跡を杏子の指がゆっくりなぞっていく。
くすぐったいのもあるが人の体温とは思えないほどの指の冷たさに身体が反応する。
「聞いたぞ?マミにつけられたんだってな。ちょっとでも力込めたら折れそうなこんな細い首に、アイツ・・!」
「・・ひ」
杏子の顔が!杏子の可愛い顔が!
般若の仮面を被った人だけが出来る表情にいいいいいいいいいい!
やめて!それ女の子がしていい表情じゃない!
せっかくの可愛い顔が台無しだよ!
目の前の赤い般若に超絶ビビっていると「優依」と名前を呼ばれた。
ぎこちない動きで声のする方に顔を向けると杏子が真剣な表情で俺を見つめていた。
「アタシならこんな目に遭わせたりしない。アンタを傷つけようとする奴を全部叩き潰して守ってやる。だから・・!」
“一緒に来てほしい”
そう呟く杏子はどこか苦しそうでまるで懇願しているようだった。
杏子の態度を差し引いても個人的には物凄く一緒に行きたい。
だってめっちゃ安全な気がするもん。
だけど非常に残念ながら一緒には行けない。
確かに守ってくれるんだろうけどそれは一時の安全だ。
世界破滅フラグの規模で考えるとそれは悪手にほかならない。※基本まどか絡みで。
「・・ごめん」
なるべく杏子の方を見ないように目を逸らし、呟くように謝った。
顔を観たら罪悪感で潰れそうなので絶対見ないようにしないと。
マジでごめんよ杏子!
君の親切な気持ちを踏みにじって!
でもありがとう!
その優しさは嬉しかった!具体例を言えば泣きそうになるくらい!
君のその優しさは忘れないぜ!
「・・・・・・」
何かに耐えるように身体を振るわせ顔を俯かせている杏子。
するとその体制で手をポケットに突っ込んで何かを取り出し、それをスッと俺の顔に近づけてるのを視界の端に捉える。
これはもしや・・今度こそ殴られる!
そう思った俺は咄嗟に頭をガードして衝撃に備えるもいつまで経っても痛みはやって来ない。
恐る恐る目を開けると俺の目の前にチョコのスナック菓子が差し出されていた。
「さっきは悪かったな。お詫びにこの菓子をやるよ」
「へ?」
いきなりの提案にポカンと口を開けて固まる。
困惑する俺と裏腹に杏子は笑っている。それも不自然なくらいに。
一体何がしたいんだ?
「美味いぞ?食いなよ」
「え?あの・・」
「ほら、遠慮しなくていいから」
「ちょ、口に押し込むな!むぐ!」
断る暇もない内に無理やり口に押し込まれる。
その上、俺が吐き出さないようにするためか口を手で押さえてくるという徹底ぶりで、こうなっては仕方なく菓子を咀嚼し飲み込むしかなかった。
そんな俺の様子を杏子は不気味なくらいニコニコと笑いながら見つめている。
「どうだ?美味いだろ?」
「・・・・うん」
笑っている割に何故か発せられているプレッシャーが怖くて全く味なんて分からなかったなんて間違っても言えず静かに頷く。
相変わらず乱暴な事で。
しかし、それを差し引いても違和感を覚える。
普段の杏子なら人に食べ物を差し出す時は「食うかい?」と聞いてくるはずだ。
それが友好の証か距離を測っているのかは分からないが無理やり人に食べさせるような真似はしなかったはず。
だというのに今回、強引とも思えるやり方で俺の口に菓子を突っ込んできた。
しかも吐き出す事すら許さない容赦のなさだ。
そんな事をする理由がよく分からない。
まさかとは思うけど・・毒が入ってるとかじゃないよね?
「っ!」
ロクな想像していない俺など露知らず杏子がそっと頬に触れてくる。
その手が思いのほか冷たくて思わずビクッと肩が跳ねた。
さっきの指も冷たくてびっくりしたし普段体温が高い杏子にしては珍しい。
冷え症にでもなったのだろうか?
「心配しなくても毒じゃねえから安心しな」
俺の考えてる事はお見通しらしい。
安心させるかのようにポンポン頭を撫でている。その感触に思わずほっとしてしまった程だ。
どうやら仲直りのつもりで無理やり菓子を突っ込んできたらしい。
随分不器用なやり方だが杏子らしいと言えばそうだ。
今んところ身体に異変はない。
あると言えば身体に緊張感が抜けて眠気が襲ってきたぐらいだ。
「少しの間だけ、こうしててもいいかい?」
俺が何か言うよりも早く杏子が肩にもたれかかってくる。
今更言ってもどかないだろう。仕方ないのでそのまま好きにさせておく。何より少し眠くて面倒だ。
少し間、お互い寄り添ってソファに座る。
穏やかな時間が流れ、より眠気を増進してくるようで瞼が重い。
そんな中、杏子が唐突に俺の名前を呼んできたが眠気もあり「んー?」と気のない返事をしてしまう。
「どうしてもアタシと一緒に来る気はないんだよな・・?」
ウトウトと瞼がかなり閉じかけていたので杏子が今どういう表情をしているのか分からない。
けど決して嬉しそうな表情はしていないだろう。
声の響きが悲しそうだ。
眠気と戦うのに必死で「うん」としか言えなかったけど、大丈夫かな?
・・・ん?別に一緒に行くのに拘る必要なくね?
てか、ここにいれば良くね?
そしたら対ワルプルギスの夜に参戦してくれるだろうし、さやかの問題が解決するかも(+マミちゃん)。
そうなればハッピーエンド間違いなし。俺の死亡フラグもなくなるという訳だ。
おお!これイケんじゃね!?
一石二鳥どころの話じゃねえぞ!
よし早速ここに住むように提案してみよう!
「杏子、俺から頼みが・・あれ?」
杏子に話しかけている途中、急激に眠気が襲われ頭がふらついた。
おかしい。普通の眠気と違う気がする。
一体何が・・?
「ㇷㇷ・・」
笑い声が聞こえ、気力を振り絞って杏子の顔を見る。
笑っている。今にも泣きだしそうに見える不安定な笑顔だ。
「・・仕方ないよな」
「杏子・・?」
どういう事かと問いただそうとするもフラフラとバランスを保てなくなった俺は前のめりに杏子の方に倒れ込む。
幸い杏子が支えてくれたから痛みはなかったが頭がボーっとして思うように思考がまとまらず意識がぼやけていく。
「残念だよ。素直にアタシと一緒に来るって言えばもっと優しくしたのに」
「は・・?」
「お前が食った菓子。あれに睡眠薬を混ぜておいたんだ。念のためにな」
は・・?睡眠薬?
お前どこでそんなもん手に入れたんだよ・・?
じゃあ無理やり菓子を食わせたのはこれが目的か。用意周到な事で・・。
てか、睡眠薬飲ませた時点で優しくする気全くないじゃん。どこが優しくだバカヤロウ・・。
せめてのもの抵抗で睨んでみるも当の本人には全く効かずに、ましてや俺を優しく抱きしめ頭を撫でてくる。
「そんな不安そうな顔するな。ガキでも飲めるやつだ。副作用も依存性もないから安心しろ」
そういう問題じゃねえよ!もちろんそれも心配だけど俺は怒ってんだよ!
人に睡眠薬なんて盛りやがって!
ったく親はどういう教育してんだ・・・!
あ、そういや・・コイツの父親はある意味ロクでもなかったわ・・。
「思ったより早く効果があるんだなこれ。もう少し時間がかかると思って待ってたけどこれはラッキーだな」
俺が見事に引っかかって満足なのか杏子はネタばらしとばかりに犯行を暴露してきてすっごくムカつく。
「ふ・・ざけ・・」
声に出して文句を言いたかったが身体がとても怠くてかすかに口を動かす程度だった。
とにかく眠い。一瞬でも油断すると眠ってしまうレベルだ。
何とか起きていようと意識に集中する。
「いいからもう眠れ。起きる頃にはここにはいないけどな。・・優依が悪いんだぞ?アタシの事、好きだって言っておきながら浮気なんてするから・・」
最後の方はほとんど聞き取れなかった。
瞼がとても重くて完全に閉じないように抵抗するのが精一杯だったから。
しかしそれをあざ笑うかのように杏子がそっと俺の目を覆うように触れてくる。
マズイこれ!寝たらダメ!起きてなきゃ!
起きて・・寝ちゃ・・だ・・・め・・・!
瞼が完全に閉じてしまい、ほとんど意識が夢の世界に連れていかれた。
俺・・ヤバい・・かも・・。
「おやすみ優依。これからはずっと一緒だからな」
杏子がそっと優しく頬を撫でる感触を感じながら俺は完全に意識を手放してしまった。
この時間軸の杏子ちゃんが他の杏子ちゃん達の胸の平均よりも大きい理由:
優依ちゃんへの恋心で女性ホルモンが大量生産&優依ちゃんが作った栄養満点料理が全て胸にいってるからかもしれない!
てか、優依ちゃん大丈夫かなこの後?