魔法少女オレガ☆ヤンノ!?   作:かずwax

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幸せで昇天しそう・・!
ありがとうございます!


78話 黄色 vs 赤

マミside

 

 

嫌な予感がする。その予感は当たってしまった。

 

 

私の視界の先には佐倉さんがいる。

もう二度と会うことはないと思っていたのに・・。

 

 

 

 

パトロールの途中で美樹さん達とはぐれた後、ちょっとした用事もあって一人で行動してる所にシロべえが現れた。

 

何だろうと不思議に思っていたら切羽詰まった早口で佐倉さんが現れたと聞いた時は耳を疑った。

半信半疑ながらも優依ちゃんのいる位置をシロべえに教えてもらって急いでいる途中で優依ちゃんを連れた佐倉さんを見つけてしまった。

 

最悪のタイミングでの再会になるなんてね。

 

 

佐倉さん。

 

 

かつては正義の魔法少女として私と一緒に苦楽を共にした大切な仲間。

昔の彼女はみんなの幸せを守るために戦うのが自分の幸せだと笑っていた優しい女の子だった。

 

 

でも彼女の願いが原因で佐倉さんの家族が悲惨な結末を辿ってしまった日からあの娘は変わってしまった。

決別に近い形でコンビを解散させてしまったけど、また元気な姿が見れて嬉しくないかと言われれば嘘。

 

 

久しぶりに会えて凄く嬉しい。

積る話もあるし出来る事ならまた一緒に戦いたいとすら思う。・・でも。

 

 

佐倉さんの腕の中には優依ちゃんが眠る姿があり、さっきまでの私の思いがすぐさま消え心が冷たくなっていく。

衝動のままに銃口を引いてしまいたいと思うほど。

 

 

魔法少女の姿で優依ちゃんをお姫様抱っこする佐倉さんは見た感じだと優依ちゃんをどこかへ運んでいるように見える。これがもし昔の佐倉さんのままだったら安全な場所へ運ぼうとしていたのかもしれない。

 

 

でも私は知っている。

 

佐倉さんは優依ちゃんの事が好き。それも狂った愛と呼べるもの。

優依ちゃんを運んでいる理由は、あの娘を自分のモノにしようとどこか私の手の届かない場所へ連れ去ろうとしていたからだと確信している。

 

 

シロべえから佐倉さんの優依ちゃんに対する異常な執着心を聞いていたけど、とんでもないわね。

 

 

しばらくお互い睨み合いが続いて重い沈黙が漂っている。

私の方はどうやって優依ちゃんを取り戻そうかと考えていて、佐倉さんも私を睨みつつ抜け目なく隙を狙おうとさっきから目を動かすばかりで何も喋らないもの。

 

でもこれじゃいつまで経っても進まないわね。

 

 

「優依ちゃんに何をしたの?」

 

 

尋問のつもりで佐倉さんに問いただす。

頭に血が上っているから口から出た声は思ったよりも少し低かったけど声を荒げなかっただけマシなのかもしれない。

 

 

質問と同時に銃を展開し、いつでも佐倉さんを狙えるように銃口の全てを彼女に合わせる。

 

 

これは脅しじゃない。返答次第で佐倉さんを攻撃するつもりだから。

そう、決別する前の手加減とは違う。今度は本気で行く。

 

 

「・・・・・」

 

 

佐倉さんは何も答えない。

ただじっと私と銃を交互に見つめて口を閉ざしたまま。

 

 

「もう一度だけ聞くわ。優依ちゃんに何をしたの?」

 

「・・別に何もしてねえよ。ただちょっと眠らせただけだ」

 

 

ようやく口を開いてくれたけど、ぶっきらぼうな言い方だった。

 

しかも私に見せたくないのか佐倉さんは優依ちゃんを隠すように少し背中を向ける。

それはまるで小さい子供が自分の大事なものを取られないように必死に守ろうとする姿にも見えた。

普段なら微笑ましい光景かもしれないけど、私の中で怒りの炎が湧き起こる。

 

 

優依ちゃんは佐倉さんのモノじゃない!私のモノよ!

 

 

思わずそう叫びたかったが優依ちゃんが佐倉さんに捕まっている以上刺激してはいけない。

ここは冷静に話した方が良いかもしれない。

 

 

「・・優依ちゃんを連れてどこに行くの?」

 

「マミには関係ないだろ?」

 

「関係あるわ!優依ちゃんは私の愛する女の子よ!」

 

 

私の我慢を無下にあしらうかのような答えについカッと叫んでしまい、すぐさま我に返って口を紡ぐも空間はシンと静まりかえっていた。

 

明らかに雰囲気が変わった。

緊張感が漂ってるのは変わらないけど何だか冷たい空気が混ざり合ったような底冷えする雰囲気。

 

 

「・・へえ、何?ひょっとしてマミは優依の事が好きなのか?」

 

 

佐倉さんが冷めた目で私を睨んでる。

私を睨むその目は明らかに侮蔑が含まれていて、心なしか更にギュッと優依ちゃんを抱きしめる力が強くなった感じがした。

 

蔑んだような笑みを浮かべながら佐倉さんは馬鹿にしたような口調で話しかける。

私の怒りが更に増していくのが分かる。

 

 

「それは残念だったな。コイツはアタシの、っ!」

 

 

それ以上聞く気はなくて、威嚇のつもりで佐倉さんの顔めがけて銃弾をお見舞いする。

 

 

当たっても構わない。

私達魔法少女はソウルジェムが砕かれない限り死なないのだから。

佐倉さんのソウルジェムは胸元にあるから顔が砕かれようと大した問題じゃない。

 

 

むしろそうなってくれた方が優依ちゃんを助けられるしありがたいわ。

 

 

そう思っていたけど結局佐倉さんは反射的に顔を逸らして銃弾を避けてしまった。

 

 

残念。当たれば簡単に優依ちゃんを取り戻せたのに。

 

 

「危ねえな・・優依に当たったらどうするつもりだテメエ?」

 

 

ジロリと人を射殺せそうな目で私を睨みつけながら見せつけるかのように優依ちゃんとの密着度が更に増している。肌に感じる殺気は並大抵のものじゃなかった。

 

 

出来る事なら私を殺したいのでしょうね?

全身から溢れる殺気がそう語ってるもの。

 

私も出来る事なら佐倉さんを殺してしまいたいわ。

優依ちゃんを奪うつもりなら許せないもの。

 

 

「当たるはずないでしょう?狙ったのは佐倉さんだけだもの」

 

「・・前に戦った時はアタシを殺す気なんてなかったくせに・・人間変わるもんだな」

 

「ええ、そうね。私は変わったわ。もう私は正義の魔法少女なんかじゃない。今は優依ちゃんを守るために魔法少女をやっているの。だから私の大事なその娘を連れて行こうとする人に容赦するつもりなんてないわ」

 

 

ガチャリと音を立てて銃口を佐倉さんに向ける。

次も威嚇じゃない。狙うは佐倉さんの腕。

 

 

お姫様のように眠る静かに優依ちゃんを支える憎たらしい腕を吹き飛ばして、彼女を悪い魔法少女から救わなくちゃ!

 

グッと引き金を強く引く。

 

 

「・・・ふん」

 

「! 待ちなさい!」

 

 

私が戦闘態勢に移行した雰囲気を感じ取ったのか、くるりと背中を向けて地面を蹴る佐倉さんの後を急いで追う。

 

 

絶対に逃がさない。

優依ちゃんを連れて行こうとする泥棒猫は許さない!

 

 

リボンを出現させ、佐倉さんに向けて放つ。

 

目的は優依ちゃんを奪取する事、そして出来れば佐倉さんを拘束する事。

佐倉さんを殺したいという気持ちも本心ではあるけど彼女はかつての後輩で仲間。殺したくないのもまた本心。

 

そんな矛盾した思いに板挟みして思ったよりも攻撃出来ない。

それに間違って優依ちゃんに当たってしまってはまずい。

 

 

「優依ちゃんを離しなさい!」

 

 

一斉に放った大量のリボンが津波のように佐倉さんを覆い尽くそうとするも、佐倉さんは重力を感じさせないスピードでリボンを躱していき、避けられなかったリボンは赤い楔の結界を出現させて防いでいる。

 

後輩の咄嗟の判断を感心するも捕まるのは時間の問題。

 

優依ちゃんを抱えている以上、思うように反撃は出来ないはず。

佐倉さんもそれは分かっているでしょうに。

 

私から逃げられると本気で思っているのかしら?

 

 

 

しばらくの間リボンを躱していた佐倉さんだったけど、やがて小さく「チッ」と舌打ちして地面に向かって降りていく。

 

「待ちなさい!」

 

 

すぐさま彼女の後を追い、地面に降り立つ。

 

ここで佐倉さんをどうにかしておかないと優依ちゃんを連れ去られてしまう・・!

 

 

「ここは・・?」

 

 

佐倉さんを追って地面に降りた場所は人気のない閑静な公園だった。

遊具がないこの広いだけの場所は私から逃げたいはずの佐倉さんには不利なはずなのにどうしてここに?

 

 

「正直今アンタとは戦うのは分が悪いからしたくなかったけど・・・仕方ねえ」

 

 

不思議に思いながら佐倉さんの方を見ると優依ちゃんを抱えたままゆっくりどこかへ歩いている。

向かう先にはベンチがあった。

 

そのベンチの上に優依ちゃんを優しく降ろし、慈しむような手つきで髪を撫でている。

その姿はまるでお姫様を守る騎士のように様になっているように見えて私の心を嫉妬でかき乱していく。

 

 

「悪いな優依。ちょっとマミを片付けてくるから少しここで待っててくれ」

 

「私を片付けるですって?随分と大きく出たわね佐倉さん」

 

「ああ。仮に優依を連れ出すのに成功しても、その後に連れ戻されたんじゃ話になんねえからな。だからここで邪魔なマミを潰しておこうと思っただけだ」

 

 

ベンチの上に眠る優依ちゃんから離れた佐倉さんは槍を取り出して私を睨んでいる。

まるで恋敵を見るような目。

 

 

私も同じような目で佐倉さんを見ているのでしょうね。

佐倉さんがとっても憎いんだもの。

 

 

「こんな絶好の狩場はそうはねえから、いつかまたアンタと戦う事になると思ってたんだ」

 

「・・・そう」

 

「それと優依を危険な目に遭わせた報いを受けてもらわねえとな。・・優依のキレイな首に痛々しい痕まで残しやがって・・絶対に許せねえ!」

 

「っ!」

 

 

前半はきっと建前、本音は後半。

私のせいで出来た優依ちゃんの首の痕の話をした後から明らかに殺気立っている。

 

でも今の私にはそんな事気にならない。

 

 

「・・私もね、佐倉さん。貴女の事が絶対許せないの」

 

「・・あぁ?」

 

 

静かに話し出した私を訝しげに眉を寄せて睨む佐倉さん。

 

彼女にとって今の私はおかしく見えるのでしょうね。

だって顔を俯かせてぼそぼそと喋ってるんですもの。傍から見たらおかしく見えてるはず。

 

・・そんな事どうでもいいわ。

 

 

嵐の前の静けさのような沈黙が私達の周囲に漂う。

意を決して顔を上げ、佐倉さんを睨んだ。

 

 

「優依ちゃんが最初に出会った特別な魔法少女が貴女だなんてどうしても許せないの!」

 

 

ずっと私の中で燻っていた嫉妬が言葉として外に出ていく。

その声は予想していたよりもずっとトゲがあって、私がどれだけこの事を妬んでいたのかを物語ってるようだった。

 

 

優依ちゃんが見滝原に引っ越して最初に出会った魔法少女が佐倉さん。

それはキュゥべえから聞いた知りたくなかった情報。

 

私は二番煎じ。ただの順番で佐倉さんは優依ちゃんにとっての特別な存在になった。

その事実を知った日からずっと佐倉さんに嫉妬していて胸に秘めていた。

 

忘れようと思っても優依ちゃんに会うたびにどうしても思い出してしまう。

だって優依ちゃんが普段つけてる髪飾りは佐倉さんが贈ったもの。

 

佐倉さんを象徴する赤が基調の黒いリボンのハンズクリップはまるで優依ちゃんは自分のものだと主張してるようで・・。

 

私が知らない所で逢瀬を重ねて仲を深めていった二人。

誰にも邪魔されない二人っきりの秘密の時間。

 

どれも私が優依ちゃんと欲しいものばかりで憎らしい。

 

でも好きで佐倉さんと一緒にいたとは思えない。

佐倉さんが優依ちゃんに強引に迫ったに違いない。きっとそうだわ!

それを優しい優依ちゃんが拒むはずがないもの。

 

 

 

優依ちゃんの優しさに付け込むなんて許さない!

私から優依ちゃんを奪うなら容赦する必要はない!

 

 

佐倉さんを殺さなくちゃ!

愛する優依ちゃんのために!

 

 

「ここで死んでもらうわ佐倉さん!優依ちゃんのために!」

 

 

嫉妬に狂った今の私には、もう佐倉さんを殺す躊躇がなくなっていた。

ただただ目の前にいる泥棒猫を殺そうと躍起になっている。

 

そんな私を佐倉さんは鼻で笑っている。

 

 

「ハッ!そうこなくっちゃな!アタシもマミには恨みがあるから容赦しねえ!」

 

 

槍を構えて佐倉さんは目で追いつけないほどのスピードで接近し、迎え撃つために私はその場から動かず、銃を生成していく。

 

 

そして十分な距離までやってきた瞬間、仲間だった少女に向けて妬みと憎しみを込めながら一斉に銃を発射した。

 

 

 

 

 

 

 

 

杏子side

 

 

 

ドドドドドドドド

 

ガキィン、ガキィン、ガキィン

 

 

アタシに向けて一斉に放たれた銃弾をひたすら弾く。

間髪入れずに撃って来るから防御に徹するのが精一杯で攻撃出来ない。

 

 

くそ・・やっぱりマミは強い。このままじゃジリ貧だ。

 

 

どうする?

 

優依を担いでマミを振り切るなんて無理だ。ここで倒すしかない。

いつまでも銃弾を捌くのは限界が来る。その前に攻撃したいが全く隙がないし・・。

 

 

「・・?」

 

 

策を考えながら銃弾を捌いていると突然ピタリと発砲音が鳴り止み銃撃が止まるが宙を漂う銃はアタシに向けられたまま。

 

 

「何の真似だマミ?」

 

「降参する気はないかしら?短い間だったとはいえ苦楽を共にした仲間である貴女を殺したくはないの」

 

「ハン!この期に及んでまだお情けをかけるなんて甘いを通り越して馬鹿なんじゃねえの?」

 

「もちろんタダじゃないわ。優依ちゃんを置いて風見野に帰りなさい。そしてこの娘の前に二度と姿を見せない事。これが見逃す条件よ」

 

 

優依を置いて惨めに逃げ出せって事か。冗談じゃねえ。

 

だが相手はあのマミだ。

しかも有無を言わせないような迫力が今のアイツにはある。

アタシがここで拒否すれば迷わず攻撃してくるだろう。はっきり言って分が悪い。

 

 

だけど余裕綽々といった上から目線で降参しろとほざく様子はためらいよりも怒りの方が上回った。

 

この様子だとマミが優依に執着してるっていうキュゥべえの話は本当らしい。

じゃあ、優依がさみしがり屋なマミの傍にいてずっと支えていたっていう話も本当なのか?

 

 

もしそうならアタシが優依に会えなくて辛い思いをしてる間ずっとマミと・・・!

 

 

「・・優依は連れて行く。これは決定事項だ。そもそもアタシがアンタに降参する訳ねえだろうが!」

 

 

苛立ちから叫んでしまった。

 

 

マミを相手に冷静さを欠いたら駄目だ。

 

それは分かってる。分かってるけど・・どうしてもイライラが止まらない。

今すぐにでもズタズタにその身体を引き裂いてやりたいほどに・・!

 

 

「・・あらそう残念ね。これが最後の忠告だったのに」

 

 

スッと手を上げたと同時に再び銃弾の嵐が炸裂する。

再び槍で捌いていく。

 

 

アタシが自滅するまでこのまま攻撃を続けるみたいだがそうはいかねえ!

 

一か八か攻めてやる!

 

 

「おりゃあ!」

 

「!?」

 

 

捌いた銃弾をそのままマミの方へ弾き返す。

予想外の出来事にさすがのマミも余裕の表情を崩し、慌てて銃弾を解除している。

その一瞬の隙を逃さず、すぐさま間合いをつめてマミの顔目掛けて突き刺した。

 

 

「くっ!」

 

 

逃げられないと悟り、アタシの振りかざす槍を咄嗟に銃で受け止めてるのは流石だと思うけど接近戦ならアタシの方に分がある。

 

 

このまま力任せに叩き潰してやる!

力の方もアタシの方が有利だ。

 

 

「・・・っ」

 

 

ギリギリとアタシに押されていくマミ。

その顔には汗が浮かんでいる。

 

一緒に訓練してお互いの事は分かってる。

だから次にする事も分かる。

 

 

「逃がすか!」

 

「! きゃあ!」

 

 

至近距離じゃマミの方が不利だ。だから必ず距離を取る。

 

そう予測していたら案の定マミは後ろに跳ぼうと足に力を込めたので同時にマミの足に鎖に巻きつけて勢いよく振り下ろして地面に叩き付けてやった。

 

随分と勢いがついてたのかマミを中心にクレーターが出来上がっている。

予想外のダメージらしく「うぅ・・」と呻くだけでマミに身体を起こす気配はないから仕留めるなら今だ。

 

 

地面を蹴って宙を舞い槍を構えてマミを見る。

下にいるマミを見ると今尚ダメージが残っているのか動こうとしない。

 

その機を見逃さず槍の先端をマミの心臓に向ける。

 

 

「悪いなマミ。この勝負アタシが・・! ぐ!」

 

「ごめんなさいね佐倉さん」

 

 

いつの間にかマミの周囲に漂っていた銃がアタシめがけて一斉に弾の嵐がドォンと発砲音が響いて降り注ぐ。

 

 

逃げ場がない。

 

 

咄嗟に槍を振り回して銃弾を弾き返すが、捌け切れなかった弾が身体のあちこちを掠めて鋭い痛みに顔を歪めながら地面に落下する。

 

 

「ぐ・・!」

 

 

痛みに呻きながらも何とか槍で身体を支えながら上体を起こそうとするアタシの前に気配を感じた。

 

 

「チッ・・」

 

 

見下ろされてる感じがして、ムカつく。

 

 

「・・だまし討ちか。まさかアンタがやるとはね。本当に正義の味方ごっこはやめたみたいだな」

 

「ええ、やめたわ。私の大切な優依ちゃんを奪う泥棒猫には容赦しないと決めているの。たとえそれが佐倉さん。今まで一緒に戦ってきた貴女でもね」

 

「ハン、それはこっちのセリフだ。・・泥棒猫はテメエの方じゃねえか!」

 

 

頭上の声がする方へ槍を突き出す。

不意打ちを狙ったつもりだったが上体を少しずらす形で躱されてしまった。

ただ反射的に躱しただけで完全に見越していた訳じゃなかったみたいで頬に赤い線が出来ている。

 

”女の子の顔に傷をつけて・・!”

 

なんてコイツの事だから怒りそうなのに、そんな事を言う事もなくただ無表情でアタシを見下ろしている。

 

 

「!」

 

 

目の前に銃口を向けられる。

 

 

「・・・!」

 

 

すぐさま顔を逸らすと至近距離で響く発砲音とピリッと頬の痛みを感じた。

頬に生暖かい何かが流れている。もしかしたら血が出てるのかもしれない。

マミから距離を取り、試しに頬を拭ってみるとやっぱり血だったらしく手の甲には赤い液体がついていた。

 

 

「お返しよ。少しは効いたかしら?」

 

「やりやがったなテメエ!」

 

 

頭にカッと血が上り、マミの元へ突っ込んでいく。

向こうも迎え打つ気なのか、銃で応戦してくる。

 

激しい金属音と発砲音が何度も響き、その度にお互いに傷が増えていく。

いつしかアタシたちの全身に血の赤で染まっていくが全く気にならない。

 

 

 

 

 

「優依ちゃんは私のよ!」

 

 

「ふざけんな!アタシんだ!」

 

 

 

あれからどれくらい時間が経ったんだ?

 

 

マミと戦い始めてかなり経った気がする。

出来る事ならこの場でマミと決着を着けたいけどそれ所じゃない。

 

 

優依が心配だ。

 

早くしねえと薬が切れて目を覚ましちまう。

マミと殺し合ってる所なんて、とてもじゃないけど見せられない。

 

 

「優依ちゃんは渡さない!絶対渡さないわ!」

 

 

アイツも完全に頭に血が上ってるからか、なりふり構わず攻撃してくるし、どうしようもない。

 

 

 

こうなったら何とかマミの隙をついて・・!

 

 

 

そう思っていたらマミの方に動きがあった。

次に何をするのか悟ったアタシはいつでも動けるように足に力を入れて構える。

 

 

 

 

「これで終わりよ!ティロ・・・!」

 

 

 

「・・?」

 

 

馬鹿デカい大砲を出して、いつかの恥ずかしい必殺技を叫ぼうとしたマミが何故か目を見開いて固まっている。

また、だまし討ちかもしれないと思って警戒していたが攻撃する素振りは全く感じられず、ただじっと何かを見ていた。

 

 

攻撃を中断して明後日の方向を向いているマミを訝しげに思うがこれは思いもよらないチャンスだ。

 

 

今の内にマミを仕留めれば・・・!

 

 

 

 

「優依ちゃん・・」

 

 

 

 

「!?」

 

 

 

 

マミの一言にピタリと身体が止まる。

 

 

 

優依?まさか・・!

 

 

 

慌てて優依が眠っているはずのベンチに顔を向け目を見開いた。

 

 

「優依・・・」

 

 

目を向けると寝ていたはずの優依が起き上がってこっちを見ていた。

 

 

マミと戦ってる時の音がかなりうるさかったのか、薬が切れてしまったのかは分からないが優依が目を覚ましていて、戸惑ったような表情をしている。

 

 

その光景にアタシは天を仰ぎそうになる。

 

 

 

・・あーあ。結局起きちゃったか。

 

 

 

せっかく眠らせたのにな。マミのせいで台無しじゃん。




投稿開始初期から登場している杏子ちゃんとマミちゃん。
それなのにお互い顔合わせするのが一年近く経ってからになるとは作者予想外・・。

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