魔法少女オレガ☆ヤンノ!?   作:かずwax

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79話 夢だったら良かったのに、と思う現実が多すぎる

・・何か寒いな・・布団蹴っ飛ばしちゃった?

 

 

てか、身体のあちこちが痛い。

背中にあたってるマットが固いなぁ。

 

 

あれ?俺ベッドで寝てるんじゃないの?

ひょっとしてベッドから落ちたのか?

 

 

そこまで寝相酷くなかったと思うんだけど・・。

 

 

まあ、気にする事ないか。

起き上がってベッドに入ればいいだけだし。

 

 

あー・・でも何だか身体がとってもダルいから起き上がるのメンドクサー。

 

 

 

 

「何するのよ!?」

 

 

 

「うるせえな!黙ってやられろよ!」

 

 

 

 

うるさいなぁ。今絶対真夜中だろうが。

 

誰だよ、こんな真夜中にドンパチやらかしてる奴?

何?盗んだバイクで走り出してんの?

人がぐっすり寝てるのに騒音まき散らしやがって。訴えるぞ。

 

 

耳元に届く不愉快な金属音や怒声、そして固い床らしきものの寝心地の悪さにイライラがピークに達した俺は、重い瞼をゆっくり開ける。

 

 

 

「???」

 

 

ぼやけた視界に広がるのは自室の天井ではなく何故か満天の星空だった。

 

 

 

何故俺は星空を眺めているのだろうか?

俺の部屋の天井はいつの間に星空仕様にリフォームしたのだろうか?

 

 

 

疑問に思うも未だに続く眠気のせいで頭がボーっとする。

思うように思考が働かない。それどころか再び瞼が重くなってきた。

 

 

抗おうとしても効果は薄く、だんだん瞼が閉じていく。

 

 

ま、いいか。どうせこれは夢だ。きっと白昼夢ってやつだ。

次に目が覚めたら自分の部屋になっているだろう。

 

とにかく眠い。きっと疲れているからだろうな。

厄介な事は明日考えるとして寝よ寝よ。

 

 

 

 

夜空に光るきらりとした光の線がほぼ閉じた視界に入った。

 

 

 

 

 

あ、流れ星

 

 

 

流れ星はそのまま俺の視界の端に消えて、

 

 

 

 

 

 

―ドガアアアアアアアアアアン―

 

 

 

 

 

「!?」

 

 

 

 

 

耳元をつんざく爆発音に寝ぼけていた意識が一気に覚醒し、ほぼ閉じていた目を見開き慌てて上体を起こす。

 

 

何今の音!?

ひょっとしてさっきの流れ星落ちてきた!?

 

 

まさかの隕石ってやつ!?

 

 

パニック状態になりながらも、すぐさま自分の身体を隅々まで点検し怪我がないか確認する。

ざっと確認したがどこにも怪我はなかった。

 

 

 

良かった。怪我はないみたいだ。

・・あれ?何で俺パジャマじゃなくて制服なんだ?

 

 

 

何してたんだっけ俺?

 

 

 

 

ぼんやり着ている制服を眺めながら、未だに寝ぼけた頭で必死に何があったのかを思い出そうと記憶を探りやがて結論に達した。

 

 

 

そうだそうだ。思い出した。

 

 

確か杏子が我が家に不法侵入した挙句、イザコザがあって寝ちゃってたんだ。

急に眠くなるからおかしいなって思ったら杏子が俺に睡眠薬盛ったとかなんとか意識を失う直前言ってたような・・。

 

 

「え・・? あ!」

 

 

思い出した!俺、何故か杏子に眠らされたんだ!

 

何のために?全然分からん!

なんか眠らされる前に一緒に来いとか言ってたけど強引過ぎやしないか!?

 

 

てか、ここどこよ!?

 

 

混乱しながら周囲を見てみるも辺りは真っ暗でここがどこだかよく分からない。

ただ分かるのはきっとここは外だ。頬に風が当たってるし。

 

 

めげずに目をよく凝らしてみると、ようやくここが公園らしき場所だと見当がついた。

 

 

 

俺が寝てる間に杏子が連れてきたのか?

 

 

それはともかく、こんな人気のない公園に一人放置するなんて襲われたらどう責任取ってくれるんだよ!

危ないわ!!俺の事守るとかほざいてたくせに酷くない!?

 

 

内心カリカリしながら俺がここにいる原因の首謀者であろう杏子の姿を探しているとある所で目が止まった。

そこには人が立っており、向こうも俺の方を見ている。

 

 

よく見るとその人物はマミちゃんだった。

 

 

魔法少女に変身したマミちゃんが目を見開いて俺を見ている。

それは別に構わないけど、何で固まって微動だにしないんだ?

 

遠目だからあまり分からないけどおそらく手に持ってるのは銃だ。

て、事はマミちゃん戦ってるのか?ひょっとして魔女?

 

 

 

「・・ん?」

 

 

今気づいたけどマミちゃんがいる傍に誰かが俺に背を向けるように立ってる?

背格好からして魔法少女っぽいけど・・あのポニーテールって・・まさか!

 

 

正体を察知した俺の答え合わせをするようにその人物がこちらに振り向いた。

 

 

「・・杏子・・」

 

 

俺の予想通り杏子そのもの顔だった。

こっちも魔法少女に変身して槍を構えている。

 

 

ん?見た所近くに魔女はいないみたいだけど、何で魔法少女に変身して武器を構えているんだあの二人?

これじゃまるで二人が戦ってるように見えるんだけど・・え?

 

 

「え?ええ?」

 

 

見えてるんじゃない?実際二人が戦ってた?

 

 

「え、ええ?えええええええええええええええええええ!?」

 

 

 

 

人気のない公園に俺の素っ頓狂な声が響く。

眠気はもはや完全に吹き飛んで完全に意識は覚醒している。

 

 

嘘であってほしい!もしくは俺の勘違いでも可!

人がグースカ寝てた近くでドンパチやらかしてたなんて全く笑えないぞ!

 

 

というか何でこの二人戦ってんの!?

 

 

マミちゃんと杏子は原作で接点が描写されてなかったが、かつては師弟コンビで戦っていた仲だ。

二人の仲は良好だったが杏子の家族が一家心中が原因でその関係は終わった。

自棄を起こし去ろうとする杏子を引き留めるマミちゃんだったが、結局決別してしまった。

 

そんな過去があるから会えばお互い気まずい、もしくは険悪状態だろうなとは思ってた。

 

 

まさか殺し合いするほど仲が悪かったなんて誰が予想出来た?

 

てか、一体どういう経緯で戦ってんのこの二人?

俺が寝てる間に一体何があったんだ!?

 

 

「優依、起きちまったんだな。悪いな、うるさかっただろ?ホントはアンタが起きる頃に全部終わらせたかったんだけど、とんだ邪魔が入ちまってな。すぐ片付けるから、もう少し待っててくれ」

 

「は?え?」

 

 

状況が全く理解出来ない中、杏子が俺に話しかけてきて余計混乱しそうだ。

 

 

終わらせる?邪魔が入った?

 

どういう事?説明して。

あ、君の場合、俺に睡眠薬盛った経緯から話してほしいんだけど。

そこから理解出来てないから。

 

 

「優依ちゃん体調は大丈夫?痛い所はない?怖かったでしょう?」

 

「えっと、マミちゃん?」

 

「もう大丈夫。貴女に酷い事した悪い魔法少女は私がやっつけてあげるからね?」

 

「・・はあ?」

 

 

怖いも何もどういう状況なんですかこれ?

君はまず、何でさやかから目を離したのかその経緯を話して下さい。

 

 

「あの、二人ともこれは一体どういう状況?」

 

「ああ、ちゃんと説明してやるよ。でも、ここは少し優依から遠いな。待ってろ、今からそっちに行く」

 

「優依ちゃん、起き上がって大丈夫?無理しないで」

 

「え?何でこっちに来るの!?」

 

 

俺の質問は無視され、ゆっくり歩いてくるマミちゃんと杏子。

近くに街灯があり、暗がりできちんと確認出来なかった二人の姿がはっきりと見えてくる。

 

 

 

「だからこれはどういう状況で・・ひい!?」

 

 

 

”ぎゃあああああああああああああああああ!!”

 

 

 

杏子とマミちゃんの姿を確認した俺の口から悲鳴が生成され、夜の公園に木霊する。

 

 

マミちゃんと杏子、二人とも魔法少女の衣装だった。

ただし全身が傷と血で彩られた、それはそれは恐ろしい姿。

そんな姿でにっこり笑いかけてくる少女たちは、もはや一種のホラーと呼ぶべきものだ。

 

 

「優依ちゃん!?」

 

「優依!どうした!?」

 

 

俺の悲鳴に二人は血相を変えてこっちに向かって走ってくる。

もちろん血まみれの姿で。

 

 

怖いいいいいいいいいいいいいいいいいい!!

気絶しそう!いっその事気絶したい!

 

こんなサイコパスみたいな恰好した連中が俺の傍に来るなんて絶対嫌です!

 

 

これ以上の接近は俺の精神衛生上悪い。

慌てて俺は両手を上げたこっちに走ってくるサイコパス共を止めにかかる。

 

 

「ふ、二人とも(怖いから)止まって!何があったか知らないけど落ち着くんだ!ここは一旦武器を下げて話し合おう!(そして最初にその恰好を何とかしろ!)」

 

「それは出来ないわ。だって佐倉さんは優依ちゃんを連れ去ろうとしていたのよ?そんな、泥棒猫と話す事なんて何もないもの」

 

「え?」

 

 

マミちゃん今なんて言った?

 

杏子が俺を・・え?

 

 

「私が佐倉さんを見つけた時、優依ちゃんをお姫様抱っこして屋根の上を駆けていたわ。きっと風見野に向かおうとしていたのね。何とか阻止出来て良かったけど、もし私が見つけてなかったらと思うと・・」

 

 

それ以上話すのは憚られたのかマミちゃんは口を閉ざして杏子を睨んでいた。

※ただし足は止まる素振りは一切ない。

 

 

ていうか途中で言葉止められると逆に不穏なので、せめて最後まで言い切ってほしいんですけど。

取り敢えず首謀者に聞いた方が話は早そうだ。

 

 

目線でどういう事かと杏子に睨みつけると当の本人は悪びれた様子は全く見せず首を傾げていた。

 

 

「こうでもしないとまた優依は危ない目に遭うだろ?ましてやマミ、お前が優依を危険に遭わせてんだ。そんな奴にコイツを任せてらんねえよ。死なせるくらいならいっその事、安全な場所に閉じ込めた方が良いだろ。それの何が悪い?」

 

「悪いわ!俺の人権無視されてんじゃねえか!」

 

「心配すんな。不自由にはさせないさ。喜んで世話してやるよ」

 

「そういう問題じゃないから!」

 

 

ぜんっぜん、話通じないんですけど!

 

ニコニコと薄ら寒い笑顔しやがって!背筋が凍りそうだわ!

何であそこまで悪びれる事無く平然としてられんの?

 

 

杏子ってここまで話通じない奴だったっけ?

 

 

俺の中にあった杏子常識人説にヒビが入る音がする。

 

勘弁してくれ。

唯一の常識人が消えたらこの時間軸どうなんのよ・・?

 

 

 

「閉じ込めるって、どこに?大切にお世話しなきゃ優依ちゃんは壊れてしまうわ」

 

「出来るだけ壊れねえようにするけど、仮に壊れたってちゃんと世話してやるから心配すんな」

 

「でも、それは・・」

 

「アタシは自分に正直なだけだ。魔法少女ってのは自分を利益を優先するのが正解なのさ」

 

「・・・・。本当に変わってしまったわね佐倉さん」

 

「人の事言えねえだろうが。お互い様さ」

 

 

杏子とマミちゃんの口論が遥か彼方で聞こえる気がする。

ただでさえ状況がよく分かっていないのに、次から次へと厄介な事実が浮かび上がってきて頭痛がしそうだ。

 

一体これはどうやって切り抜ければいいんだ?全く分からん。

 

 

 

 

「おーい、優依!」

 

 

「は、はい!」

 

 

 

襲ってくる頭痛にこめかみを押さえていると突如杏子に名前を呼ばれ思わず背筋が伸ばして返事してしまった。

すぐさま後悔し、聞こえてなかったフリをしようとしたけど無理だった。

 

 

緊張感が全身を駆け巡る。

 

 

 

「! 何ですか杏子さん!?」

 

 

無視何て出来ない!精一杯真面目に対応しなければ!

何故なら赤と黄色の魔法少女が血走った目で俺を見ているからです!

これで無視なんてしようものならぶっ殺されそうだ。

 

ピンと背筋を伸ばして言葉を待った。

 

一体何の話を振られるんだろうという一種の危機が俺の中にある。

内容によって難易度が変わってくるからだ。

 

簡単な内容であって欲しいんだけど。

 

 

一瞬の静寂の後、杏子が息を吸い込んで口を大きく開く。

 

 

 

 

 

 

「優依はアタシの事好きなんだよな!?本命はアタシだよなー!?」

 

 

 

「・・・・・は?」

 

 

 

聞こえた内容にすぐさま思考が停止し、マヌケな声が口から漏れる。

 

 

 

え?好き?・・ん?

 

 

 

 

「違うわよね優依ちゃん!私の事が一番好きよね!?」

 

 

 

「・・・・・え?」

 

 

何故かマミちゃんまで参戦して大声で俺に呼びかけてくる。

いや、そんな切羽詰った表情でこっち見られても困るんですけど。

 

 

・・何を聞かれてんの俺?

 

 

「はあ!?妄想も大概にしろよマミ!」

 

「妄想は貴女の方じゃない!」

 

「ああ!?」

 

「ちょ、喧嘩するのは良いけどこっちに来んなって!」

 

 

何故か二人が罵り合いながら俺の方に向かってくる。

それだけでもかなり怖い。

更に向かってくるのは血まみれの魔法少女なので、それがまた恐怖を駆り立てる。

 

 

 

これは逃げた方が良いかもしれない!

 

 

一番安全そうなまどかの家にでも・・!

 

 

 

「!?」

 

 

身体が動かない・・?え・・?

 

 

急いで立ち上がろうと足に力を込めるも思うように身体を動かせない。

・・・どうやらまた腰を抜かしてしまったらしい。

 

 

絶対血濡れ魔法少女共が原因だろうな。

一日二回腰を抜かすというマヌケな体験をしてしまう俺って・・。

 

 

そうこうしてる間に二人はどんどん俺に近づいてくる。

恐怖に駆られた俺は脳内パニック状態でワタワタ身体を動かすもベンチから転げ落ちる。

 

 

「っ! ・・・?」

 

 

地面に激突した痛みが襲ってくると覚悟していたが、身体を何かに支えられ痛みはなかった。

 

しかし素直に喜べない。

 

 

 

「マミ、ここいらではっきりしようじゃねえか」

 

「ええ、白黒ハッキリつけましょう」

 

 

 

俺の助けてくれたのはいつの間にかすぐ傍にいたマミちゃんと杏子だったからだ。

がっしり身体を掴まれて微塵も動かせない。

 

 

 

・・・泣きたい。

 

 

 

 

「「優依(ちゃん)!!」

 

 

 

「! ひい!」

 

 

 

 

そうこうしてる内にマミちゃんと杏子がすぐ近くにいて俺を見下ろす形で話しかけてくる。

見下してくる目はまるで羅刹のようだ。無意識に身体が震えてくる。

 

 

「・・・何でしょう?」

 

 

逃げられないと悟った俺は半ばやけくそで二人の顔を見上げる。

二人とも真剣な表情をして俺の前に屈んできた。

 

 

「優依」

 

 

最初に口を切ったのは杏子だった。

じっと俺を見つめて来る。

 

 

 

 

「アタシとマミ、どっちを選ぶんだ?」

 

 

 

「はあ!?」

 

 

 

そして爆弾を起動したのも杏子だった。

本日何度目か分からない大声が公園内に響き渡る。

 

 

付き合ってられるか、バカバカしい。

怒りと呆れで跳ね除けようとする俺を引き留めたのはマミちゃんだった。

 

いきなりガッと俺の肩を掴んで無理やり目線を合わせてきた。

 

 

「私よね、優依ちゃん?正直に答えてちょうだい」

 

「あの一体どういう基準の選考ですかこれ?」

 

 

そんな必死な様子で言われても答えようがないわ。

 

 

てか、さっきから何なんだこの二人?

俺で一体何を競ってんの?

 

 

は!これはあれか?

 

 

子供に「パパとママどっちが好き?」っていう超厄介な質問と一緒じゃね?

これはどっちを選んでもアウトだし、はぐらかしてもしつこく聞いてくる面倒臭い感じのあれだ!

 

ひょっとしてこいつら俺を使って遠まわしな喧嘩始めやがった!

 

いや殺し合いよりはよっぽど平和なんだけどさ!

選ばされる俺は平和じゃなくなったわ!

 

だって「向こうを選んだらどうなるか分かってるな?」と言った感じの不穏な雰囲気を纏っていらっしゃるもの。

どっちを選んでも俺が地獄を見そうじゃん!女子って怖い!

 

 

「優依ちゃん怖がらなくても良いのよ。本当は私を選びたいのに佐倉さんがいるから遠慮してるのよね?大丈夫、何があっても必ず貴女を守ってみせるわ」

 

「・・何を言ってるんですかマミちゃん?」

 

「ホントに何言ってんだマミ?お前を選ぶわけないじゃん。本当はアタシだって言いたいのに、マミがぐずるから優依が困ってんだろ」

 

「お前も大概何言ってんの杏子?」

 

「優依、正直に答えないと後が怖いぞ?」

 

「ち、近い!」

 

 

ズイッと顔を近づけてくる杏子から離れようとするもガッチリ頭を掴まれて身動きが取れない。

おかげで嫌でも赤い瞳と目が合ってしまう。

 

 

「優依ちゃん」

 

「・・マミちゃん?」

 

 

頭を杏子に掴まれている横でマミちゃんは俺の手を包むようにギュッと握っている。

 

 

「私が真実を知って落ち込んでいた時に言ってくれた事、嘘じゃないわよね?私を支えてくれるって・・」

 

「えっと・・それは・・」

 

「今頃になってごめんねなんて言わないでちょうだい。もしそうなったら私・・どうにかなってしまうわ」

 

 

遠まわしな脅迫をしている事にマミちゃんはきっと気づいていない。

あとそのご自慢のマシュマロを俺に押し付けて耳元で囁くのやめてもらえませんか?

 

 

健全な中学生がやって良い事ではありませんし、俺逮捕される。

 

 

チワワみたいにふるふる震えながら見つめてくるマミちゃんをどうしようか困り果てていたらすぐ隣から「優依」と呼ばれる。

 

振り向くと杏子が俺の首に槍の先端を向けていた。何故?

 

 

「前に風見野に来たとき、アタシの事『大好き』って言ったよな?だからアタシを選ぶに決まってるよな?・・もし、マミを選んだら、タダじゃおかねえから」

 

 

こいつはドストレートに脅してきたよ!

やめて!俺の首元に槍をちらつかせるの!

 

そもそも俺がこれを答える必要あるのか?

この質問の趣旨を全く理解出来ていないのに!

 

 

そもそもこの戦いの状況すら理解出来ていないのに!

 

 

とにかく説明してくれないと何も始まらないよ!

 

 

「あの、だから一体何のお話で「早く答えろ!」ひい!」

 

 

痺れを切らした赤に遮られ検討虚しく俺のターンは消え去った。

答えないという選択肢は二人にはないらしく目が「早く答えろ」とせっついている。

俺に残された時間はあまりないようだ。

 

 

どうする?どうすんの俺!?

考えろ!考えるんだ!

 

 

 

 

 

 

「え、選べないよー、二人とも大好きだし・・」

 

 

 

 

 

 

考えた末、愚かな俺は結局どっちも選ばないという浅はかな選択を選んだ。

 

 

だって仕方ないじゃん!

殺伐としたオーラを纏う二人のどっちも選んでも地獄を見るし、何よりそれ以上良いアイディア浮かばなかったんだから!

 

 

ともかくこれでいいだろ!

俺はちゃんと答えたんだから!文句はないはずだ!

 

 

 

「「・・・・・・・・・・」」

 

 

「うぅ・・」

 

 

重苦しい沈黙が俺たちの包み込んだ。

俺を見つめる二人の顔は恐ろしいくらい何の表情も映しておらず、さっきから汗が滝のように汗が背中を流れて止まる気配がない。

 

 

 

せめてなにか喋ってくれ!

こんな沈黙耐えられない!

 

 

 

 

「・・お前の考えは分かった」

 

 

 

「きょ、杏子さん・・?」

 

 

 

能面のような杏子は表情そのままの喜怒哀楽を感じさせない声でそう口を開く。

ようやく重い沈黙から解放されてほっとしたがこれはこれで怖すぎる。

マミちゃんも似たような表情で洒落にならん。

 

 

「優依ちゃん」

 

「は、はい・・」

 

 

抑揚のないマミちゃんの声。

むしろ冷たささえ含んでいそうで背筋が凍りそうだ。

 

 

「私はね別に貴女が他の人に手を出しても構わないと思ってるのよ?最後に私の元に帰ってきてくれるならそれで良かったの」

 

「は、はあ・・」

 

 

じっと無表情で俺を見つめるマミちゃん。

直感でこれが嵐の前の静けさなんだろうなとぼんやり頭の片隅に過る。

 

 

”でもね”

 

そう呟くマミちゃんは物凄く剣呑な雰囲気を纏っている。

 

 

来る!

 

直感的に俺はそう悟った。

 

 

 

 

「一つだけ許せない事があるの」

 

「そ・・それは一体何でしょうか・・・?」

 

 

「・・私以外の人が優依ちゃんを独り占めにしちゃう事よ・・!」

 

「ひぃ!」

 

 

怖い!マミちゃんの顔が!可愛らしいマミちゃんの顔が!

子供が見たらギャン泣きしそうな顔にいいいいいいいいいいいいいい!!?

 

 

 

 

「へー、心が広いを通り越してマミは馬鹿だなぁ。欲しいんなら我慢しないで奪えばいいじゃん。・・こんな風にな!!」

 

 

「わ!?」

 

 

ガキィンと目の前で火花が走る。

杏子が槍を握っており、マミちゃんが銃を構えている。

 

 

いきなりの事に追いつけない俺をよそに二人はそのまま飛び上がる。

どうやら再び戦闘を開始されたようだ。

 

 

 

鳴り響く爆発音に金属音。それは徐々に激しさを増していく。

 

 

 

「! 何やってんだよ二人とも!?」

 

 

 

ようやく我に返った俺は慌てて(巻き込まれない程度に)二人に這いより大声を張り上げる。

俺の声が届いたのかマミちゃんと杏子はピタリと動きを止めるも不機嫌な様子でこっちを見ていた。いや、睨んでいた。

 

 

「あの・・何で睨むんですか・・?」

 

「優依ちゃんが悪いのよ!」

 

「え!?何で!?俺何も悪くないじゃん!?」

 

「うるせえな!お前がさっさと決めなかったのが悪いんだろ!」

 

 

怒りの形相で睨んでくる黄色と赤の瞳に超ビビった俺は情けなく「ひい・・!」とたじろいでしまう。

その隙に戦闘が再開されてしまった。

 

 

あんなマジ怒りな魔法少女を止めるなんて俺には無理だ。

無理に割り込んだら一瞬で消し炭にされてしまう。

 

 

・・このまま決着が着くまで待つしかないのだろうか・・?

 

 

目の前で激しくもみ合う光景に俺はただ無力感を感じながらぼんやり眺めるしかない。

 

 

 

 

 

 

 

 

「優依これはどういう事?」

 

 

 

「!」

 

 

 

 

 

そんな俺のすぐ近くからコツっとヒールのような音が聞こえ誰かがいるような気配を感じた。

 

隣から聞こえる凛とした声に反射的に顔を上げる。

声の正体を確認した俺は思わず涙腺が緩くなり視界がぼやけてしまうも止まる事はなかった。

 

 

「どうして佐倉杏子がここにいるの?それにどうして巴マミと戦っ「ほむらぁ!」きゃあ!?一体何!?」

 

 

感極まった俺はそのまま声の正体である救世主「ほむら」の首に抱き着いた。

ゲーセンで無駄足を食らったものの、第六感的なものが働いたのか来てくれたのかもしれない。

 

 

思わぬ所に救世主登場!

天は俺を見捨てていなかった!

 

 

「ほむら来てくれたんだね!ありがとう凄く嬉しい!愛してる!」

 

 

あらん限りの賞賛を大声で叫び、そのままギューッと密着度を上げていく。

 

 

君こそ俺の救世主!

良かった!これで争いは止まる!

 

 

「っ、いきなり何かしら?そんな事知って・・!?」

 

 

テンション急上昇中の俺を困惑しながらも抱き留めてくれたほむらであったが、何かに気付いたようで途中で言葉が詰まりどこかを向いている。

 

 

「ん?どうしたほむら?何見て・・ひえ」

 

 

ほむらが急に会話を止めて明後日の方に顔を向けるから俺も釣られて顔を向けてしまい、すぐさま後悔する。

 

 

黄色と赤が般若のような表情でこっちを睨んでいらっしゃるううううううううううううう!

怖すぎるううううううううううううううううう!!

 

 

睨んでるだけじゃない!

さっきまでやってた殺し合いを中断して、戦ってた時と比べ物にならない程の殺気を出しつつ武器をこちらに向けて構いている。

 

 

 

「暁美さん・・!」

 

 

「イレギュラー、テメエ・・!」

 

 

 

何で!?何で二人とも殺気全開なの!?

ほむらが何の恨みがあんの!?

 

 

目が据わったバーサーカー状態のマミちゃんと杏子は俺とほむらがいる方向に向かって突っ込んでくる。

 

 

 

いやあああああああああああああああああああ!

来ないでえええええええええええええええええ!!




紫参戦!次回、大乱闘!

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