当分週一投稿が続きそうな予感が・・・。
「ちょ!杏子待って!」
迫りくる杏子に恐れをなした俺はどうにか思い留まってもらおうと慌てて説得しようとするも全く聞く耳持たずらしい赤の戦士は、そのままほむら(+俺)にその凶刃を振るおうと迫っている。
頭に血が上ってるせいか一般ピーポーである俺がいる事、絶対忘れてるわこの赤!
「その腕、もぎ取ってやる! !?」
「随分と乱暴ね」
しかし相手はある意味歴戦練磨のほむら。
案の定、お得意の時間停止を使って杏子の背後に回って難なく攻撃を避けていた。
涼しい顔をしているが時間停止の裏側を知ってるのでぶっちゃけあまりカッコいいとは思えません。
「・・チッ、また妙な魔法使いやがって・・!」
苛立ったように杏子は舌打ちをして槍を引き抜いてこちらを見ている。
今のところほむらが優勢のようだ。それは良い。
だが一つ分からない事がある。
何故俺はほむらにお姫様抱っこされているのだろうか?
仮にほむらの首に抱き付いてる俺を置き去りにされれば、間違いなく抉れた地面と同じ末路を辿っていたのは想像に難くない。
それが分かっていたほむらは時間停止を発動した際、一緒に連れ出してくれたのは非常にありがたい。
ただ出来ればお姫様抱っこオプションではなくどこかに隠れてくれたほうが嬉しかった。
だってお姫様抱っこされてる俺と目が合った杏子が見る見るうちに目を吊り上げているもの!
煽ってるようにしか思えないぞこれ!
「優依、私から離れてはだめよ」
ほむらが何故か更にギュっと俺を抱きしめている。
おかげで密着度が増して顔にほむらの息がかかってくすぐったい。
あの、ほむらさん。どうして俺の頭に顔を近づけながら杏子を見てるんですか?
しかも勝ち誇ったような笑顔のオマケ付き。
何がやりたいんだお前は?
「・・・・・」
「ひぃ・・!」
そんなほむらと俺を交互に見ていた杏子は悔しそうに顔を顰め、ギリッと槍を握る力が増し増しに上昇していく。
見た感じ戦闘力が増したっぽい赤に冷や汗を垂らしていると頭上から第三者の声が聞こえた。
「逃がさないわ!」
「! げ!?」
何だろうと思って顔を上げたら、俺たちがいる頭上目掛けて隕石のバーゲンセールと見間違いそうな大量の火花が降ってきている。
これってどう考えても・・。
「優依ちゃんを離しなさい!」
「マミちゃん何やってんの!?」
火花の後ろにいる人物をよく見るとマスケット銃を並べたマミちゃんが頭上にいやがった。
という事は隕石モドキの火花は100%黄色の中二病のせいだろう。
杏子はともかく一応味方であるはずのほむらにまで何で攻撃してんだよ!?
ていうか俺がいる事忘れてないですか?
ほむらにお姫様抱っこされてるからしっかり攻撃範囲に入ってますよこれ!
殺す気かあああああああああああああああああ!!
「ひいいいいいいいいいいい!・・あれ?」
火花が被弾する直前、耳元にガチリという機械じみた音が聞こえた。
それと同時に俺たちに迫っていた銃弾が時が止まったようにピタリと静止している。
やっぱりこれは・・。
「! うわ!」
何が起こったか事態を把握する前に公園の広場からどんどん景色が変わっていき、気づけば近くの雑木林の中になっている。何だ何だとキョロキョロ目を動かしているとほむらと目が合った。
俺を抱えたまま、杏子とマミちゃんがいた場所からどんどん遠ざかるように走っている。
どうやらほむらは二人相手するのは分が悪いとみて撤退の判断を下したらしい。
大歓迎です!出来る限り遠くに避難しましょう!
血塗れのサイコパスに絡まれるぐらいなら比較的マシなストーカー兼重火器窃盗犯の方が数千倍マシです!
もの凄い速さで駆けていくほむらが何か言いたそうに俺の方に顔を向けてくる。
その目が何を訴えているのか何となく分かるが、回答に苦しむものなので答えようがない。
「一体何があったの?」
「俺が知りたいわ!目が覚めたら二人とも戦ってんだよ!」
予想通り聞いてきたほむらに八つ当たりする勢いで怒鳴る。
ほむらには悪い事してしまったが、ぶっちゃけ俺も全くこの状況がどういうものか理解出来ていないので勘弁してほしい。
いやだって、目が覚めたら何故か俺は公園で寝ていた挙句、その近くで何故か杏子とマミちゃんが殺し合いしてたんだもん。
それでも十分理解不能なのに、混乱する俺に向かって「どっちが好き?」とかどうでもいい事聞きながらこっちに詰め寄ってきて訳分からん。
しかも事態を収拾してくれそうであろうほむらに向かっていきなり攻撃してくるし、あれよあれよという間にこれだ。
勘弁してくれ。
魔法少女のバトル・ロワイアルに俺を巻き込まないでいただきたい。
やるなら遠くでやれ。その間に俺は逃げるから。
「ああもう!戦うなら勝手にしてくれ!俺は知らん!」
さっきまでの事を思い出して怒りに震える俺は発散するように大声を上げる。
そんな荒ぶる様子の俺をほむらは若干憐れんだ目で見ている。
「・・とにかく今はここから離れ「そうはいかねえよ!」く!」
「わ!」
会話の途中、突如爆発音が鳴り響き、近くの地面が吹き飛んだ。
ほむらは辛うじて直撃は避けたが、衝撃の余波は思ったよりも強く俺は空中に投げだされる。
周りの景色がスローモーションに映る。
ほむらが俺に気付いて慌ててこっちに向かってきているが果たして俺の頭が地面に激突する前に間に合うかどうか・・。
「!?」
だがどちらよりも早くに視界の端に赤い何かが過り、そのまま俺の身体に巻き付いて引っ張られた。
その際、何か柔らかいものに激突する。
この感覚何となく覚えがある。これは。
「やーっと戻ってきた。怪我はないかい優依?」
頭上から聞こえる聞きなれた声。どう見ても杏子の声だ。
「・・・・・」
確認のために顔を上げるとやっぱり杏子でショック。
しかも逃げられないようにかしっかり腕を腰に回され更にショック。
怪我はないかだと?既に俺の内面はボロボロで全身血だらけの瀕死状態だ。
怪我どころの騒ぎじゃない!どう責任を取ってくれるというんだこのヤロウ!
ていうかこいつ等何やってんの!?
俺をボールに見立ててラグビーでもやってんのか!?
「んがああああああああああ!」
「おいおい暴れんなって。可愛いな優依は」
チクショー!力の限り暴れてるのにビクともしない!
おいやめろ!その微笑ましい笑顔を俺に向けるの!
何気に傷つくからホントにやめて!
「!」
突如聞こえるパァンという発砲音が鳴り響く。
思わず肩がビクッと跳ね上がるもその後に金属がぶつかる音がすぐ近くで聞こえて更に身体が強張っていく。
拘束されてる身体を何とか捩じって、杏子の背中越しに顔を向けるとに赤い楔の結界が施されていた。その向こうにはこっちに銃口を向けたほむらが見える。
え?ひょっとしてほむらさん撃ちました?
「いきなり危ねえな」
「優依を離しなさい、佐倉杏子」
「そいつは無理な相談だ」
般若を背負ったようなオーラを纏うほむらを軽くあしらい、杏子は先ほどのお返しとばかりに見せつけるように俺をギュッと抱きしめる。
それが挑発になったのか分からないがほむらが発する圧が桁違いに跳ね上がっていく。
―ドォン ドォン ドォンー
「ひい!?」
その怒りを込めたように数発お見舞いされた(全て結界で防がれたが)。
―ドォン ドォン ドォンー
「ひいいいいいいいいい!ほむら!やめてやめて!」
尚も般若のような顔で発砲を続けるほむらは怖すぎる!
コイツも十分サイコパスなの忘れてた!
駄目だ!ここにいる魔法少女は全員まともな奴いない!
誰がこの事態収拾すんだよ!?俺絶対無理だよ!
それこそまどか案件じゃないのこれ!?
「諦めろって。そんな攻撃じゃアタシの結界は破れねえぞ。それに優依が怖がってる。いい加減ソイツを下ろしな」
「・・・・」
流し目で見られたほむらは不愉快そうに眉間に皺を寄せながらも素直に銃を下している。
思ったよりも冷静なのかもしれない。
あ、違った。全然冷静じゃないわこいつ。
銃は盾にしまったけど何故かそれより威力ありそうなマシンガン取り出してこっちに向けてるもん。
俺を蜂の巣にするつもりかあの暴走紫は?
「一つ聞きたいことがあるけどいいかしら?」
マシンガンを向けながらほぼ疑問形じゃない質問を聞いてくる。
杏子が何か言う前にほむらが先に口を開く。
「貴女が攻撃してきた時、私はまだ魔法を発動していた・・・本来なら動けないはずなのに。どうして動けたの?」
「え!?」
慌てて杏子の方を見る。
言われてみれば確かに。
ほむらが俺を抱えて撤退していた時はまだ時間停止が発動していた。
盾が発動している所を見ていたからこれは間違いない。
それならその間動けるのは発動させたほむらか彼女に触れられている奴。つまり俺だけだ。
それなのに杏子は時間停止なんて効かなかったように攻撃をしかけてきていた。
どう考えたっておかしい。
目の前にいる奴があの謎が多すぎる杏子(?)なら時間停止が効かなくてもおかしくなさそうだが、ここにいるのはおそらく俺の知ってる杏子だろう。
あの杏子(?)はどこか大人びた感じだったし。
この杏子は年相応なのかは分からないが俺がよく知ってる性格の杏子だ。
どうなってるんだ一体・・?
「はあ?そんな事聞いてどうすんだよ?分かった所でどうにかなるもんでもねえよ」
俺とほむらの疑惑の眼差しなど杏子にとっては大したものではなかったらしい。
「ふん」と鼻で笑った後、俺をお姫様抱っこ(今日何度目だ?)をしてほむらに背を向けて駈け出した。
「待ちなさい!」
今度は逆にほむらが追いかけるターン。
必死に追いつこうと足を動かしているも、スピードは杏子の方が圧倒的に上だから見る見るうちに引き剥がされていき、次第にほむらの姿が小さくなっていく。
ぶっちゃけ俺の目は展開に追いつけてないから残像しか見えてないけど。
―ドドドドドドドドドドドドー
「ひいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!」
追いつけないと判断して撃ってきやがったよあの犯罪者!
やめて!当たったら俺死んじゃうよ!流れ弾で死ぬとかいやよ!
・・・あれ?そういえば銃弾が時間停止せず、こっちに向かってきてるって事はひょっとして魔法解除された?
て、事は・・・。
「ティロ・フィナーレ!」
「「「!?」」」
杏子の背後で激しい爆発音と衝撃が突如発生した。
咄嗟とはいえそこはベテラン。杏子は防御の体勢で衝撃をやり過ごすも腕の力が緩む。
その隙に今度は黄色いリボンが俺の身体を拘束し、主の元へ引っ張っていった。
その手際は非常に鮮やかで赤が絶句している内に俺は遠ざかって行く杏子をぼんやり眺めていた。
そしてポフンと今日一番の柔らかいものが俺を包み込む。
顔を見なくてもこの弾力で誰か分かる。
というか一人しかいないわこんなマシュマロ。
「・・・マミちゃん」
「優依ちゃん、もう大丈夫よ。私が助け出したからにはもう二度と貴女を危険な目に遭わせないわ」
「現在進行形で危ない目に遭ってるんですけどそれはスルーですか?というか何やってんの?」
リボンで身体をぐるぐる巻きにされた俺はそのまま地面に降ろされ、周りにリボンのバリアーが張り巡らされている。
まさに鉄壁の要塞。
俺の逃亡も魔法少女の攻撃も通さない完璧な仕上がりだ。
ていうかバリアーあるなら拘束解除してくれても良くない?
実質芋虫状態で全く動かせないんですけど俺。
ただ這いつくばるしかないのは物凄く惨めな気分なんですけど俺。
「そこで大人しくしててちょうだい。すぐに片付けてくるわ!」
そう叫んだ後、雑木林の茂みがある方に向かってマスケット銃を配置させるマミちゃん。
するとすぐにその茂みが揺れ出したのと同時に銃が一斉に火花を吹かせる。
何だ?と呆気に取られながら雑木林の方に意識を向けていると、金属音と人の声が聞こえてきた。
「チッ!マミ!」
「巴マミ!一体何を!?」
茂みから先に出てきたのは杏子。その後にほむらが続く。
二人とも発砲された事にかなり怒っているのかマミちゃんを睨みつけ、それぞれの武器を取り出して構えている。
ちなみにほむらが取り出したのはショットガンだった。
「「「・・・・・」」」
三つ巴の膠着状態。
それぞれお互いに警戒し、神経を尖らせている。
そしてそれを少し遠くで見守る俺(芋虫状態)。
・・・何だこれ?
そもそもなんだけどさ、何で戦ってんのあいつら?
「はああ!」
先に仕掛けたのは杏子。
鞭のように槍をしならせ、頭上からマミちゃんにお見舞いする。
あんなの当たったら間違いなく俺は木端微塵になるだろうが、マミちゃんは少しも隙を見せない。
ひらりと華麗に躱してそのまま杏子に向かって銃口を向ける。
「その体勢なら避けられないわね」
「く・・!」
今の杏子は身体を空中に預けているためマミちゃんの恰好の的になっている。
その好機を逃さず、しっかり隙を狙ってくる。
「これで終わりよ きゃあ!?」
トリガーを引く直前、いきなりマミちゃんがバランスを崩しまさかの顔から転倒するというありえない展開が起こった。銃はその衝撃のせいで明後日の方向に発砲。
杏子は何事もなかったかのように地面に無事着地し、そのまま槍を構えてマミちゃんを睨む。
「危ないわね」
マミちゃんがうつ伏せで倒れている後ろの方にはほむらがいつの間にか立っており、髪を靡かせている。
どうやらほむらがマミちゃんの攻撃を妨害したようだ。ナイスほむら。
出来ればそのファインプレーをもっと早く発揮して欲しかった!
「何するのよ!?」
いきなり転ばされたマミちゃんはたまったもんじゃないだろう。
すぐさま上体を起こしてほむらを睨む。しかしあくまでほむらは冷静だった。
涼しい顔で文句を受け流している。
「貴女こそ何しているの?少しは頭を冷やしなさい」
いや、お前さっき杏子に向かって容赦なく発砲したのもう忘れてんのか!
何都合の悪い記憶消してご高説してんだあの紫!
今更取り繕っても取り返しつかなさそうだぞこれ!
「だからっていきなり転ばすなんて危ないじゃない!」
口論は続く。
起き上がったマミちゃんが服についた埃を払いながらほむらに文句を言いまくっており止まる気配はない。
こんな事してる場合じゃないってのに何やってんだあいつら?
「よそ見してんじゃねえよ!」
「「!」」
口論に夢中になっていた紫と黄色は接近していた赤に気付かずそのまま二人仲良く鎖に巻き付かれている。その様はもはやコントのようで笑いが出てきそうなくらいマヌケな様だ。
「うおりゃあああああああ!」
二人分の体重があるというのに杏子はそれを意に介さずそのまま軽々と振り回し二人を地面に叩き付ける。その衝撃でかなり広い範囲に土煙が巻き起こる。
「ゴホ・・大丈夫か二人とも!?」
やがて煙が晴れ、周囲の状況が確認出来た。地面に誕生したクレーターが出来ている。
深さが威力の凄まじさを物語っており、その中心にいるマミちゃんとほむらは「うぅ・・」と微かにうめき声を上げている。
それを見下ろしていた杏子は再び槍を構えて二人に近づいていく。
おそらくトドメを刺す気だろう。槍の先端に目で確認出来るほどの凝縮された赤い光が集まっているから。
「ティロ・フィナーレ!」
その時、カッと目を開いたマミちゃんが一瞬で作り出したバズーカーを杏子目掛けて発射する。
しかし標的になっている杏子は取り乱した様子もなく砲弾に向かっていく。
※この時のほむらはマミちゃんと違ってリアルにダメージを負っているらしく倒れたまま。
「同じ手が何度も通用するわけねえだろうが!」
グッと足に力を入れた杏子はそのまま地面を高く飛んで回避する。
そのためこっちに向かってくる黄色い光がよく見えた。
「え・・?」
「しま・・優依!」
「ちょ、え!?」
簡単な事だ。拘束されている俺の前に立っていたのが杏子。
つまり杏子がティロ・フィナーレを避けた今、当然次の標的はその直線状にいた俺になる。
「ひゃあああああああああああああああ!!」
「優依!」
慌てて俺の方に向かってくる杏子。
反射的に助けようとしてくれるのは非常に嬉しいが悲しい事に速度はティロ・フィナーレの方が早い。
とてもじゃないけど間に合わないだろう。
頑張って!愛と勇気的な何かで奇跡の超スピードとか出してくれても良いのよ!?
「逃げて優依ちゃん!」
悲痛な表情で叫ぶマミちゃん。
どこに逃げろって言うんですか!?ふざけんな!
俺、貴女のリボン牢獄の中にいるし、ガチガチに拘束されているというのに!
ていうか叫んでないでさっさと何とかしろ!
君の魔法なんだから解除すればいいだけでしょうが!
何絶望したような表情でこっち見てんだ!
「・・・・・・」
ほむら寝てる場合じゃないよ!起きて!君の出番だ!
今すぐ時間を止めて俺を助けてください!
一番安全な救出方法だから!マジで起きてください!
「あ・・・・」
目の前に黄色の光が迫っている。
俺、死んだ・・・・。
「! ぐえ!?」
ティロ・フィナーレが今にも俺に当たりそうになった直前、突如拘束が解け、襟首を掴まれながら後ろに引っ張られる。
その直後、近くでドォォォォォンという爆発音と爆風が辺りを包みこんだ。
衝撃で吹き飛ばされそうになるが誰かが俺の身体を抱きしめて守ってくれてるらしく、何とか無事だ。
やがて爆発の衝撃がなくなり、土煙が周囲を漂っている。
「うぅ・・」
解放された俺は地面に手をついて嘆く。
襟首を引っ張られた事で直撃は避けられたが、それでも至近距離だった事もあり所々に傷が出来ている。
命が助かっただけマシだけど散々だ。
「悪いな。今回助けられるのはこれが限界みたいだ」
そっと俺の頭を誰かが撫でている。この声には聞き覚えがある。
こ、この感じは・・・!
「じゃあな優依」
「行かないでえええええええええええ!!今マトモそうなの貴女様しかいないの!お願いこの馬鹿乱闘止めてええええええええええ!!」
離れていく手を引き留めようと必死に手を伸ばすも空を切ってしまい、俺一人残される。
今回はこれっきりらしい。泣きそうだ。
これからどうすれば・・・?
「優依ちゃん大丈夫!?」
「! げ!」
土煙の中から俺を呼ぶ声が聞こえる。
その声の中にほむらも混じってるので、どうやら復活したらしい。
何というタイミングだろうか。わざとやってるようにも見えるぞ。
「優依!無事か!?」
周囲を覆っていた煙が晴れ、ようやくお互いの姿を確認出来た。
三人とも俺の無事な姿が確認できてほっとした表情だ。
そのままこっちに向かって走ってくる。
しかし俺は怒りでプルプルと身体が震え、やがてギッと三人を睨みつけながら立ち上がった。
「殺す気かああああああああああああああああああ!!」
夜の公園に俺の怒りの絶叫が木霊する。
こちらに向かってくる三人がピタリと止まる。
それだけ今の俺の怒りオーラが凄まじいものだったらしい。
三人とも目を泳がせながらオロオロしてるもの。
「・・・・・・・っ」
叫んだ後、俺はその場で口を押えてうずくまる。
ガタガタと身体が震えだし、知らぬ間に目に涙が溜まっているようだ。
先ほどの死の恐怖を思い出し涙が出てきた
とかだったら良かったんだけどなぁ・・・。
気持ち悪い・・吐きそう。
そうです。俺酔って吐き気催しただけです。
簡単に言えば今の俺は車酔いにあったような症状が出ているのである。
ただでさえ強くない三半規管を長時間酷使させられた俺は既に瀕死状態。
身体能力が化け物の魔法少女共にラグビーボールのように扱われたのだ。
当然ただの一般人の俺の身体がそれに耐えられるはずもなく、現在そのツケを喰らっている。
真っ青な顔で口を押える俺はさぞ滑稽だろう。
グルグル目が回って正直まともに平衡感覚を保てているか自信がない。
気分は最悪だ。油断すればすぐにでもリバースしそうだ。
だがリバースだけはまずい!
年頃の女の子の前でゲロッたりなんてしたら黒歴史なんてレベルですまない!
それだけは駄目だ!堪えるんだ俺!
意識が朦朧とする中、俺にあるのはこの思いだけだった。
「優依!」
タタタと複数の足音が俺の方に近づいてくる。
うぐっ。走る振動が身体に響く。
タダでさえ心身ともにズタボロな今の俺にとってこいつらはストレス源だ。
そんな連中が近づいてくるとなると更にストレスが・・!
走る足音だけでなく、声の振動でさえ今は身体に響く。
おかげさまでより吐き気が増進されてしまった。
「ちょ・・・くんな・・・」
「! おい優依、無理すんな!怪我してんだろ!どこが痛いんだ?」
「え?ちょっと・・くんなって・・」
「優依ちゃん大丈夫!?顔色が悪いわよ!怖かったのね?ごめんなさい!」
「いや、だから・・!」
「動いたらだめよ!いいから大人しくしてなさい!」
「はい・・うぅ」
全く話を聞いてくれない。やっとの思いで言えた言葉も何事もなかったかのように無視された。
俺の真っ青な顔を見てぎょっとした三人は、魔法少女特有の思い込みの激しさで勘違いしたらしく人の話なんてなんのその、速攻で無視して騒ぎながら俺の顔を覗き込み、労わるように身体に触れてくる。
「うぐ・・!」
「優依!しっかりしろ!」
「すぐに治療するわ!」
「辛いなら横になりなさい!無理してはだめよ!」
「・・・耳元で声上げないで・・・」
近くで大騒ぎするものだから吐き気が促進され、慌てて口を押えてうずくまる。
俺のそんな様子にやかましい魔法少女共は更に大騒ぎ、そして俺の体調も更に悪化の悪循環。
・・・もうほっといてください・・。
魔法少女が集まる。それは優依ちゃんの不幸の始まり。
果たして優依ちゃんは無事に乗り切れるか!?