魔法少女オレガ☆ヤンノ!?   作:かずwax

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ついにシロべえが参戦・・!?


82話 赤がブチキレて白がビビる

「シロ、べえ・・だぁ?」

 

 

えげつない光攻撃のダメージが回復したらしい杏子はうっすらと目を開けて突如現れたシロべえを見て(=睨んで)いる。その眼力はヘタレをビビらせる程の威力を誇っていた。

 

しかしシロべえはビビッてない。

それ所か隠れていたはずの俺の後ろからまさかの杏子の前まで歩いている。

 

 

「そうだよ。僕が天才にして超優秀なシロべえさ!」

 

 

天災にしてたまに超ポンコツなシロべえが自慢するような声でここぞとばかりに心底どうでも良い自慢紹介をしている。そのお調子ノリはさっきまで俺の後ろに隠れてた奴だとは思えない程ムカつく態度だ。

 

 

杏子が現れた途端、とんぼ返りのような素早さで逃げ出しやがったくせに、こんな時だけ調子良いなこのヤロウ。

 

というかお前、前に出てきて大丈夫なのか?

自ら殺されにいってるようなもんだぞ?

 

 

「僕が来たからには君の横暴もここまでさ!」

 

 

冷めた目でシロべえを見下ろす俺とだんだん顔が恐ろしい形相に変貌していく杏子。

シロべえはそれに気づいていないのか未だに自慢話が止まらない。

 

今まさに死亡フラグが急速に形成されていってるというのに!

殺されるぞお前!

 

 

 

「そうか、テメエが・・!」

 

 

何かを悟ったのか杏子は槍を取り出してシロべえに向かってそれを振り上げる。

それなのにシロべえはその場から動かずちょこんと座りこんだままだ。

 

 

何で動かないんだ?槍が向かってきてるんだぞ!

まさか杏子の事かなり怖がってたし、恐怖で身体が動かないとか?

それだったらまずい!このままじゃシロべえの串刺しが出来上がる!

 

 

! ヤバい!槍がもうシロべえの目の前に!

 

 

 

 

「あぶ・・・え!?」

 

 

 

しかし杏子の槍はシロべえ届く直前、キィンと甲高い金属音を立てて止まった。

まるで見えない壁に槍が突き刺さっているかのようだ。

 

 

いや、よく見るとシロべえの周囲を薄い膜が覆っていてそれに槍が突き刺さっている。

 

 

「く・・!」

 

 

歯を食いしばるほど杏子が力を入れているにも関わらず火花を散らすだけでビクともしない。次第に杏子の額に汗が浮かんできていた。

 

 

「無駄だよ佐倉杏子。君には見えないだろうけど今の僕は結界を張り巡らせているからね。君の攻撃は僕には効かないよ」

 

 

自信があるのかシロべえは微動だにしない。

むしろ見せつけるかのようにその場に寝転びだすというどう考えても杏子を挑発しているとしか思えない無謀な行動に打って出た。

 

 

何て恐れ多い事を・・・。

てか、そんなもの用意してるなら別にビビる必要はなかったんじゃ・・?

 

シロべえがあそこまで言い切るぐらいだからよっぽど自慢の安全性能なんだろうけどこんな事しでかしておいて後でどうなっても知らないぞ。

 

 

「はあ!」

 

 

シロべえの挑発が効いたのか、杏子は何度もあらゆる角度から結界に槍を突き刺しているが壊れるどころか傷が付く様子もない。

その様子に「チッ」と舌打ちをして悪態をついているもイラついた諦める様子はなく槍に魔力を込めている。

 

 

杏子の異様な迫力に意地でもシロべえを結界から引きずりだそうという執念すら感じる。

後の事を考えるとちょっと忠告しておいた方が良いかもしれない。

 

 

 

≪おい、シロべえ。流石にその辺にしておかないと後が怖いぞ?相手はあの伝説のヤンキー魔法少女なの知ってるだろ?≫

 

≪大丈夫さ!この結界は僕たちには見えてるけど佐倉杏子には見えてない。見えない上に防御マシマシな結果を壊すのはいくら攻撃力があっても至難の業さ。赤は怖いけどここなら絶対安全だよ!≫

 

≪ちょ!それフラグ・・≫

 

 

 

 

「おりゃああ!」

 

 

 

テレパシーで会話してる傍から今まで一番の大振りが結界に迫る。

その威力は周囲に衝撃が巻き起こる程で踏ん張らないと身体が吹き飛ばされそうになった。

 

 

ピシッ

 

 

 

「え?」

 

 

「・・・・え?」

 

 

今ピシって言わなかった?

今明らかにヒビが入った音しなかった?

ここからじゃよく分からないけど絶対ヒビ入ったよね。

 

 

≪ひいい・・・・!≫

 

 

テレパシーから情けない声が聞こえてくる。

あ、シロべえ遠くからでも分かるくらい滝のように汗を流してる。

 

 

これは間違いなく結界にヒビが入ったな。

だから杏子を怒らせちゃだめだと警告したのに!

ていうかあんだけ自慢しまくってたくせにあっけねえなおい!

 

これがフラグの力というやつなのか、はたまた単純に杏子の力がえげつなかっただけなのか真相は分からないが結界が壊れるのは時間の問題だ。そうなったらシロべえの命が終わるのも残りわずか・・。

 

 

≪嘘でしょ!?魔法少女の力じゃ壊せないように調整したのに!?≫

 

≪謝れシロべえ!?靴底を舐めてでも謝っとけ!殺されるよりましだから!≫

 

≪やだよ!どっちみち僕殺されるから!≫

 

≪じゃあどうすんだよ!?グダグダ言い合いにしてる間に既に結界が崩壊寸前までヒビ入れられてんぞ!≫

 

 

俺の距離からでも分かるくらいヒビだらけの結界。

あんだけ自慢してたのになんてザマだ・・。

 

 

 

≪一か八か!≫

 

 

 

「む、無駄だって言っただろう佐倉杏子!この結界は鉄壁なのさ」

 

 

窮地に陥り自棄なったらしいシロべえ。

トチ狂った頭で出した作戦がまさかの強がり発言。

 

それで結界から気を逸らそうとしてるらしい。なんて無謀な。

 

絶対無理!絶対更に怒り煽ったぞあいつ!

だって杏子の目が更に吊り上ってるからな!

 

 

「ききき、君は本当に容赦がないね。いきなり殺しにかかるなんてどうかと思うよ」

 

「人の事言えた義理かテメエは?よくもアタシに発信機つけてくれたな?おまけにエグイ光まで浴びせやがって。目が潰れる所だったんだぞ。この礼はきっちり返さないと気が済まねえ!」

 

「え?ま、待って!ひい!」

 

「うらあ!」

 

 

更に大振りで槍を叩き付ける杏子にシロべえは情けない声を上げてビビりまくっている。

ここからでも分かるくらいどんどん結界のヒビが広がっている。

 

てか、発信機バレてたんだ。

そりゃ怒るわな。

 

 

何回か槍を叩きつけていたがやがて疲れたのか息を切らした杏子は槍を下げる。

 

 

「チッ、本当に硬ぇ・・。どんだけ頑強な結界なんだよ」

 

「! ほら、言っただろう!この結界は完全無欠の要塞なのさ!」

 

 

既に満身創痍なボロボロ結界の中で一人勝ち誇るシロべえ。

杏子は見えない事が幸いして今結界がどんな状態か分からない。

見えてたら躊躇いなく攻撃してるなこれ。

 

 

 

 

「・・仕方ねえ。これならどうだ!」

 

 

「!?」

 

 

 

 

手に赤い光を纏わせて地面に触れると地響きが起きて、地面から笑えない大きさの赤い槍が複数出てきた。

その鋭い先端全てがシロべえに向けられている。

 

どんだけシロべえにキレてんの!?

 

 

「これならその結界とやらにでもヒビくらい入れられるだろ?」

 

 

いや既に結界は崩壊寸前です!

さっきみたいに槍で攻撃すればすぐさま壊れる程ボロボロですから!

どう見てもそれオーバーキルですから!

 

 

「喰らいn「隙だらけだよ佐倉杏子」! な!?」

 

 

杏子が号令するのを遮るようにいつの間にか彼女の背後にもう一人のシロべえがちょこんと座っていた。

気づかぬ間に背後を取られていた事に杏子は驚きを隠せないのか目を見開いて構えている。

 

 

え?あれ?じゃあ結界にいたのは・・って、そっちもいるし。

 

杏子と対峙するシロべえの他にその近くでブルブル震えているもう一人のシロべえがいる。

 

 

え!?シロべえが増えた!?

 

 

キョロキョロ顔を動かして両方のシロべえを見比べる。

杏子と対峙するシロべえはモノホンの鬼と化した仁王立ちの杏子に全くビビっていない所か余裕な様子。その態度は貫録すらある

 

 

「・・・何なんだテメエは」

 

「言っただろう。僕は天才なんだ」

 

「チッ、うぜえ・・!」

 

 

≪これぞ『身代わり君』の真の用途!これで勝つる!≫

 

 

混乱する俺の頭に声が響く。

ヒビだらけのシロべえが俺の方を(震えながら)見ている。

 

 

≪こんな時があろうかと仕込んでおいたのさ!僕に抜かりはない!≫

 

 

やっぱり偽物か。身代わり君ならいくら杏子でも騙せるだろう。

いやむしろ身代わり君を知らない杏子はシロべえが二匹に増えて混乱しているかもしれない。その証拠に何度も白二匹を見比べている。

 

 

「どうなってやがる・・?」

 

「次はどうする気だい佐倉杏子?僕は君の考えてる事の大半は予測可能だ。先回りして阻止してみせるよ」

 

 

どう考えてもお前シロべえじゃないだろうと思う余裕なシロべえ(身代わり君)は混乱と苛立ちで気が立っている杏子に向かって更に挑発を続けていく。

 

何コイツ?

杏子を挑発しろとかそんなヤバい命令でも下ってんの?

 

 

「イライラするのはカルシウム不足らしいよ」

 

「チッ・・邪魔くせえんだよお前!!」

 

 

 

「あ」

 

 

ムカつくシロべえ(身代わり君)の挑発によってついにイライラがピークに達したらしい杏子は怒りのままにその長い耳(?)を掴んで自身の顔の近くまで引き上げる。

相当苛立っているのか杏子に捕まれた耳は握り潰さんとする勢いで見ている方が痛々しい。

 

 

「失せろ!!」

 

 

大きく振りかぶってシロべえ(身代わり君)を地面に叩き付け、そして・・

 

 

 

 

「いっけえ!」

 

 

 

大声で合図を叫ぶ。

 

 

 

 

ドドドドドドドドドドドド

 

 

 

「いやああああああああああああああ!!」

 

 

 

 

無駄に大きく響くシロべえの悲鳴。

 

 

そりゃそうだ。シロべえ(身代わり君)の身体は執拗なまでに赤い槍によってぶっ刺しまくられてるんだから。

蜂の巣という単語が可愛く思えてくる程、隙間なく槍が貫かれていく。

 

 

ひいいいいいいいいいいいいいいいい!怖過ぎる!

杏子洒落にならんくらい怖い!!

 

 

≪きゃああああああああああああああ!!怖い!やっぱり赤怖すぎるよ優依!≫

 

 

恐怖に染まったシロべえのテレパシーが俺の頭に響く。

 

 

≪どうしよう優依!?トラウマになりそうだよ!というかもう既に僕の中で最上級のトラウマに君臨したよ!発狂しそうだよ!≫

 

≪やかましい!俺だって怖いわ!軽くトラウマものだよ!てか、あれだけ余裕ぶっこいといて何やってんだお前は!?そんな事やってる場合じゃないよ!すぐに謝るか今の内に逃げた方が・・・げ!≫

 

 

気づけばさっきまで騒音のように聞こえていた槍が刺さる生々しい音が消えていた。

代わりに聞こえてくるのは杏子の荒っぽい息遣い。

 

 

恐る恐る顔を向けるとそこには肩で息をしながらもスッキリした表情の杏子がいた。

その爽やかな表情でシロべえの方に向けている。

 

 

「次はテメエだ。今すぐその結界から引きずり出してズタズタにしてやるよ。こんな風にな」

 

 

足元にあったシロべえ(身代わり君)だったものを蹴っ飛ばしてシロべえ(本物)の前に転がした。

それは原型を留めないほど損傷が酷く、見るも無残な姿に変わり果てていた。

今や白かった何かくらいしか分からない。

 

 

「@#$%~!!」

 

 

変わり果てた自分のコピーの姿を見たシロべえは声にならない悲鳴をあげている。

 

 

まあ、自分のそっくりさんが無残な姿にされた上に同じ目に遭わせると事実上の死刑宣告を受けたようなものだからなぁ・・。

 

気持ちは分かる。俺もキツかったもん。

客観的に見る自分が殺される姿は。マジトラウマものよ。

 

 

ガタガタガタガタガタガタガタガタガタ

 

 

恐怖のあまりシロべえの奴、顔が真っ青を通り越して真っ白だ。

あ、これは元々だったわ。

 

つうかお前結局何しに来たんだよ!?

ただ杏子を無駄に怒らせてるだけじゃん!

火に油注いだだけじゃん!どうすんのよこの状況!?

収集つかなくなってるよ!

 

 

 

「マミが来るまで時間稼ぎのつもりだったのか?そんなくだらねえ事に付き合うつもりはねえぞ」

 

「~~~~っ!!べ、別に時間稼ぎしてるつもりはないよ!僕はただ君と話がしたかっただけさ!」

 

「あ?テメエと話す事なんてねえよ」

 

 

めちゃくちゃ勇気を振り絞って言った事であろう提案を一瞬で切り捨てる。

あまりのきっぱりさに可哀想を通り越して滑稽ささえあるくらいだ。

ジロリとシロべえを見下ろす杏子はさながら赤い羅刹だ。

 

 

マミちゃんが来るまで時間稼ぎしていたのは図星だったらしい。

明らかに動揺して身体だけじゃなく声まで震えている。

 

 

そんなシロべえに赤い槍が向けられる。

 

 

流石にこのまま放っておくとシロべえが殺される。それは洒落にならん。

 

 

「きょ、杏子!その辺で勘弁してあげて!」

 

 

シロべえを庇うように杏子の前に立った。

ブチ切れてるとはいえ流石の杏子も一般人の俺を攻撃したりしないだろう。・・しないよね?

 

 

「ムカつく事ばっかしてるけどシロべえは杏子と話がしたいだけなんだ!だから聞いてあげて!」

 

「あ?アタシはねえって言ってんだろ?優依を誑かす奴となんてさ。まあ、アンタとなら話す事が沢山あるんだけどな優依?」

 

「すみません。満面の笑顔でこっち見ないで下さい。」

 

 

俺に向かってにっこり笑う杏子に背筋を凍らせながら速攻でお断りを入れる。

 

 

絶対嫌です!また睡眠薬盛られるかもしれないし!

これから先もう二度と杏子と二人っきりになれる気がしない!

軽くトラウマになったわ!

 

 

 

「・・あれ?」

 

 

 

「! 優依!?」

 

 

三半規管の後追いダメージか、杏子が盛ってくれやがった睡眠薬の副作用か、はたまた恐怖からかなのか分からないが急に頭がふらついてそのまま膝から崩れ落ちる。

 

 

杏子が慌てた様子で俺の方に走って来てるのが視界の端に映るが途中で身体が静止する。何かに身体を掴まれ支えられるようだ。

 

 

固い。とにかく固く。まるでまな板のよう。

・・なら奴しかいない。

 

 

まな板のような胴体で俺を支えてくれるこの絶壁の持ち主はまさしく、

 

 

「まn・・ほむら!」

 

「今なんて言った?」

 

「いえ、何も」

 

 

顔を上げるとすぐ近くにまな板もといほむらがいて俺の身体を支えてくれている。

どうやら杏子に拉致られた後、急いで追ってきてくれたらしい。

かなり疲労してるのか肩で息をしていて額に汗が滲んでいる。

 

 

「・・・・・」

 

 

助けてくれたのはありがたい。

しかし俺は何故睨まれているのだろうか?

こ、怖い!俺何かした!?いや、そんな事言ってる場合じゃない!

 

 

何とか機嫌を直してもらわなくちゃ!

 

 

「ほむら」

 

「・・・・・」

 

「助けてくれたんだよね?ありがとう」

 

 

人というのは感謝されれば弱いもの。

俺の身体を支えている手を重ね合わせてにこっと微笑んだ。

 

笑顔の成分は感謝一割、計算九割だ。

 

 

「お礼なんていいわ。人として当然の事をしたまでよ」

 

 

人として当然の何かが欠落しているほむらは表情を変えずにそう言い切った。

 

顔が引き攣るのが抑えられなかったが幸いほむらは機嫌が直ったらしく、相変わらずの仏頂面ながらも眉間に寄っていた皺が軽減されている。

 

どうやら感謝の言葉は思いの外、効果はあったようだ。

副次効果で赤面にもなるらしいが。

 

 

 

「! 優依!」

 

「わっ!?」

 

 

ほむらが俺を後ろに下がらせた直後、目の前に赤い一閃が通る。

正体は赤い槍で正面に杏子がいた。

 

 

「今すぐ優依から離れろ」

 

 

「断るわ」

 

 

杏子の不意打ちを躱したほむらは俺を背中に隠し赤と向き合っている。

応戦する気なのか盾から銃を取り出し杏子に向けている。

 

 

「また殺り合おうってかい?」

 

 

槍を構えながら好戦的に笑う杏子はもうシロべえは眼中にないらしい。

ちなみに無視されたシロべえはこれ幸いと物陰に逃げ込んだ。

 

 

「次は容赦しねえからなぁ」

 

 

怖い!この人めっちゃ怖い!

 

何が怖いって赤の戦闘意欲がもはや執念と化している事だ。

まさに狂戦士と呼ぶに相応しきもの!

 

 

杏子から逃れるようにさっとほむらの背中に隠れる。

ヘタレにとって今の杏子は目と精神の毒だ。

 

 

すぐさま戦闘が始まるかと思ったがそんな事はなくあたりはとてもシンと静まり返っていた。

心なしか冷たい空気が流れている気がする。

 

 

 

 

 

「なあ・・優依」

 

 

 

「!」

 

 

ほむら越しに聞こえる杏子の悲しそうな声。

恐る恐るほむらの背中から顔を上げると杏子が辛そうな表情で俺を見ていた。

 

 

「全部・・嘘だったのか・・?」

 

「へ・・?」

 

「アタシを大好きって言ったのは嘘だったのか・・?」

 

「え・・あー、えっと。そんな事はないよ?」

 

「嘘だ!じゃあ何でアタシから逃げるようにソイツの後ろに隠れるんだよ!?アタシの事が嫌いになったからか!?」

 

「そ、それは・・杏子さんがカンカンに怒ってて怖いからで・・あ」

 

 

これは言っちゃいけないやつだ。

 

直感でそう思ったがもう遅い。

 

 

「怖い・・?」

 

 

ガタガタと身体を振るわせている杏子。

震えを抑えるためか手で身体を抱きしめているが止まる様子がない。

持っていた槍は支えがなくなってカランと冷たい音を立てて地面に転がっている。

 

 

「怖いって何?優依はアタシが怖いって言いたいのか?それってずっと前から・・?」

 

「杏子!誤解だ!」

 

「優依に怖がられてた?ずっと前から?・・う、うう・・うわああああああああああああああああああ!!」

 

 

杏子が苦しそうに胸を抱えて膝をついた。

握ってる場所は位置からしてソウルジェム。・・まさか!?

 

 

「ほむら!急いで杏子のソウルジェムを浄化しないと!」

 

 

慌ててほむらの肩を掴む。

 

 

あれってどっかのゲームで見た事ある!

確か杏子が魔女化する前兆みたいだ!

 

このままじゃ杏子が・・洒落にならん!

 

 

「ええ、分かっているわ。危険だから優依はそこにいなさい。私が行くわ」

 

「頼んだ!」

 

 

緊急事態だと察したのかほむらはすぐさまグリーフシードを取り出して杏子に近づいていく。

その間も杏子はずっと苦しそうに叫んでいてこっちの様子を気にする様子もなかった。

 

 

杏子のすぐ傍に近づいたほむらはソウルジェムを握っている手をどけてグリーフシードを近づけようとしているが何故か直前で止まった。

 

 

「ほむら何やってんだよ!?早くしないと杏子が・・!」

 

 

ほむらが血相を変えた様子で杏子から飛び退いた。

その際、杏子のソウルジェムが見える。

 

 

あれ?思ったより濁ってない・・?

 

 

 

 

 

「・・なんてな?」

 

 

 

 

顔を上げた杏子はニヤリと笑っていた。

そして近くに落ちていた槍を掴んで一気にほむらとの距離を詰める。

 

 

「おらぁ!」

 

 

力任せに槍でほむらの身体を壁に叩き付ける。

かなり威力があったのか壁にクレーターが出来上がりほむらは「うっ」と呻いてずるずると倒れ込んだ。

 

 

「ほむら!「優依」!」

 

 

 

杏子が俺の目の前に立っている。

驚いている俺の肩を掴んでゆっくり自身に引き寄せて耳元で小さく囁く。

 

 

 

 

 

ツ カ マ エ タ

 

 

 

ゾッとするような冷たい声。

 

 

その直後、俺の前を黄色の光が過り、それが杏子を覆っていく。

突然の出来事に茫然としている内に杏子は全身をリボンでぐるぐる巻きにされ宙吊りにされていた。

 

 

「優依ちゃん!無事!?」

 

「マミちゃん・・!」

 

 

杏子に突き飛ばされてフェードアウトしていたマミちゃんが俺のすぐ傍までやって来て、抱きしめてくれる。

その柔らかさは俺の恐怖で凝り固まった心を解してくるようだ。

 

 

助かった・・!

あともう少し遅かったら俺どうなっていた事か・・!

ありがとうマミちゃん!君のおかげで俺の寿命は延びたよ!

 

 

「ぐ、マミ・・!」

 

「全く油断も隙もないわね佐倉さん。でも、もう終わりよ」

 

「もう少しだったのに・・!」

 

 

悔しそうに歯をギリッと鳴らしながら恨みがましい目でマミちゃんを睨んでいる。

リボンを外そうと足掻いているのか身体が左右に揺れて忙しない。

 

 

「遅かったわね巴さん」

 

 

ほむらがダメージから復活したようで俺たちのすぐ傍までやって来て杏子を見上げている。

 

 

「えぇ、思ったよりもダメージを貰っちゃったみたいですぐには動けなかったわ。でも何とか間に合って良かった」

 

「これで佐倉杏子を抑える事が出来たわ。それは良かったけどいつまで優依を抱きしめてるのかしら?さっさと離しなさい」

 

「あー・・頼むからもう仲間割れしないでくれよ二人とも。じゃないと泣くぞ俺」

 

「ええ、優依ちゃんのお願いはちゃんと聞くわ」

 

「今はそれ所ではない事くらい分かってるわ」

 

 

さっき分かってなかったから戦ってたんじゃないのとは言わない。

それは藪蛇だ。それはともかく杏子を捕える事に成功した。

 

 

でも・・この後どうやって説得しようか?

 

 

三人そろって杏子を見上げる。

 

 

「・・・・っ」

 

 

俺たちの様子を見て不利な状況を悟ったのか不機嫌そうに顔を歪めている。

どうやら俺たちが仲間だと理解したようだ。

 

 

「この状況がどういうものか分からない程君は馬鹿ではないよね佐倉杏子?」

 

 

状況が明らかに俺たちの方が有利だと悟ったシロべえは途端にいつものお調子ノリが復活し、杏子に畳み掛けてくる。

 

 

「佐倉杏子、これで分かっただろう?今の君は孤立無援だ。たった一人で彼女たちに勝てるなんて流石に思っていないだろう?」

 

「・・・・」

 

「睨んだって僕は動じないよ。それよりさっさと武器をおいて降参してもらおうか。蜂の巣になりたくなかったらね」

 

 

水を得た魚のような大活躍ぶりだ。

調子に乗るとどこまでも付きあがって手が付けられない。

 

 

「チェックメイトだよ佐倉杏子」

 

 

リボンでぐるぐる巻きにされて地面に座り込む杏子を囲い込むように正面にはシロべえ。

そしてその左右に布陣するマミちゃんとほむら。

 

 

俺はその三人+一匹を少し遠目から見守っている。

観念したように杏子は顔を伏せていた。

 

 

 

素人目から見ても完全に杏子を追いつめられている。

ここから挽回するのはもはや不可能に近い。

 

 

「ハハハ・・」

 

 

 

「きょ、杏子?」

 

 

 

「アハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」

 

 

 

顔を上げて狂ったように笑う杏子の声は夜の暗さとよく馴染んでいる。

壊れたように笑い続けるその様子に背筋が震えて仕方ない。

 

 

≪流石だぜ佐倉杏子!僕の予想の何倍も上をいってやがる!≫

 

≪しっかりしろシロべえ!恐怖のあまり完全にキャラ変わってるぞ!≫

 

 

 

「アハハハハハ!殺す!邪魔するなら誰だって!ハハハハハ・・!」

 

 

 

狂ったように笑う杏子は夜の光景と相まってかなり不気味だ。

笑いながらも所々で「殺す」「死ね」とめっちゃ物騒な単語が飛び出していて、どう考えたって精神病院行き確定しそうな不穏な雰囲気だ。

 

 

「佐倉さん・・何がそんなにおかしいの?」

 

「おかしいに決まってんだろ?アタシがこの程度で退くと思ってるお前らのお花畑具合にさぁ、アハハハハハ!」

 

 

おかしくてたまらないのか杏子は笑い声を上げ続ける。

マミちゃんが警戒したように拘束のリボンを強めてギュウと音を立てているのも気にも留めていないようだ。

 

 

「佐倉さん、貴女はおかしいわ」

 

「おかしい?アタシがぁ?でもそれって優依のせいじゃん」

 

「え・・?」

 

「だろぉ?・・なぁ優依?」

 

「ひ!」

 

 

間延びした声なのにどことなく不穏な気配を感じさせる。

見知ったはずの杏子は今じゃ得体の知れない恐怖の塊と化しているみたいだ。

 

 

「酷いよなー。アタシをこんなにおかしくさせたのは優依なのに。責任取らないどころか裏切りやがった。・・どれだけアタシが傷ついたか分かってるの?」

 

「・・ひぃ」

 

「ねえ優依、こっち見てよ。優依の顔が見たいなぁ」

 

 

ねっとりとした赤い目が俺を捉えている。

それはまるで獲物を狙う蛇のような目で無意識に身体が震えるもすぐさまそれがなくなった。

 

 

「優依、離れていなさい。今の佐倉杏子は普通じゃないわ」

 

 

杏子の視線を遮るようにほむらが俺を背中に隠してくれる。

 

 

「おい、どけよ。優依が見えねえじゃん」

 

「見せる訳ないでしょう。優依ちゃんを怖がらせないで」

 

 

マミちゃんも俺を守るようにほむらの隣に立っている。

しかも声を聞かないように耳を塞いでくれている配慮付きだ。

おかげで五感に杏子の情報が入ってくるのは完全に遮断された。

 

 

「・・ホント邪魔が多いなー」

 

 

隙間から杏子が見える。

相変わらず余裕の笑みでこちらを見ていた。

 

杏子が何か喋っているのか口を動かしているもマミちゃんに耳を塞がれているから何を言ってるのか聞こえない。

 

 

 

何て言ってるんだ?

 

 

 

 

 

 

「アタシは優依が欲しいんだ。でもお前らが邪魔するし、優依はアタシを裏切った。・・ならもう・・遠慮しなくていいよね?」

 

 

 

「・・!」

 

 

何かを言っていた杏子の身体が透けている。

 

 

これってまさか!

 

 

 

「幻覚!?まさかこの時間軸の彼女は使えるの!?」

 

 

「え!?どういう事!?」

 

 

近くでほむらとマミちゃんの混乱した声で叫ぶも、すぐさま俺を守るように背を向けて武器を構えている。

 

 

 

≪じゃあな優依。今度はちゃんと迎えにいくから≫

 

 

 

頭の中で聞こえる杏子の声。

優しい声だけど有無を言わせない強制力のようなものが含まれているようだ。

 

 

スーッと煙のように杏子は跡形もなく消え去り、あとには彼女を拘束していたリボンだけが取り残される。

 

 

どうやら杏子はいつの間にか封印していた幻術の魔法を復活させていたらしい。

普段なら頼もしいが今は厄介だ。

 

 

これからどうしよう?

 

 

そういえばシロべえは?

あ!いない!あの野郎逃げやがったな!

あいつマジで何しに来たんだよ!?

 

 

「優依ちゃんもう大丈夫よ。佐倉さんは逃げたみたいだわ」

 

 

周囲を警戒していたマミちゃんとほむらだったがしばらく経ってようやく武器を下ろす。

しかし二人とも顔はとても険しかった。

これからどうするか話し合っているのが何となく聞こえる。

 

 

「はあ・・」

 

 

緊張から解放されどっと疲労が出てきて立っていられない俺はそのまま床に座り込んでしまう。

 

 

危機は去ったみたいだけど・・疲れた。

 

・・誰か、水・・下さい。




相談者Y
災厄が近づいてきてるのに、友達の女の子たちがそれそっちのけでガチの殺し合いしてます。
いつか自分に火の粉が飛んできそうで怖いです。
どうやったら平穏が訪れるのでしょうか?
アドバイスをください。


回答

自業自得です。
諦めてください。

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