魔法少女オレガ☆ヤンノ!?   作:かずwax

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くそおおおおおおおおおおお!!
リアルが慌ただしいと思うように投稿出来ないじゃないかあああああああああ!!


おのれリアルめえええええええええええ!!


85話 お願いだから仕事して

「久しぶりに優依ちゃんと一緒に帰れるなんて・・私幸せものね」

 

「・・・・」

 

「いつ以来かしら?優依ちゃんとこうして手を繋いで帰るのは・・あ、暁美さんが来る前の話ね。あの時からおかしくなっちゃったもの」

 

「・・・・」

 

「でもそれはもう終わりね。彼女は佐倉さんに付きっきり。ようやく邪魔はいなくなったわ」

 

「・・・はぁ」

 

 

ギュッと俺の腕にしがみついてご機嫌に語るマミちゃんに思わずため息が漏れる。

 

どうしてこんな事になってしまったんだろう?

・・ああ、あの時か。

 

 

時は登校時に遡る。

 

 

俺は突如押し寄せたほむらに捕まってしまった。

ついに俺抹殺に来たのかと一瞬ビビったが、ほむらは身構える俺をスルーし、

「しばらく杏子と行動を共にするから」

なんて一方的に伝言残して去ってしまった。

 

 

突然の事態に言ってる事がきちんと理解出来なかった俺だったが、実際に学校にいる間試しにほむらに話しかけてみると見事に無視されるという典型的ないじめ仕様。マジ泣きそうになった。

まあ、その後、時間止めて何度も話しかけにきてたけど。一時間に数回のハイペースで。

 

 

ちなみにその時は特に会話もなく魔法が解除されるまでただじっと俺の傍にいるだけだった。

 

何がやりたかったんだあの紫?

嫌がらせ?嫌がらせなの?

 

 

ほむらの謎な行動に続いて昨日の疲れがまだ残っていたらしい。

俺の顔を見たまどかとさやかが何度も大丈夫かと訪ねてきた程だ。

よっぽど酷い顔だったらしい。

ここは気遣いの出来る奴として見栄で大丈夫と答えてはみたけどぶっちゃけ大丈夫じゃない。

 

 

なんせ昨日は赤いヤンキーに絡まれて誘拐未遂に遭うし、魔法少女達の殺し合いに巻き込まれるしで平凡な人生を生きてたら絶対起こらないであろう死亡フラグがてんこ盛りだったのだ。

 

 

体力平均より下回ってる一般人には耐え難き苦行よ。

 

 

そのせいで授業は半ば意識がなくなる程の辛さだったが良い事もあった。

 

 

さやかとほむらが仲良くとまでもいかないけど会話していた事だ。

会話と言ってもさやかが挨拶してほむらがそれを返したぐらいだったけど物凄い進歩だ。

だって原作では顔を合わせれば猫のように全身を逆立たせていた程険悪だったから(主にさやかが)

 

これに関しては幸先が良さそうだ。

ひょっとしてたら原作ではなかった紫と青の仲良し√もあるかもしれない!

 

 

そんな喜ばしい出来事を心の糧に何とか学校を乗り越えた俺は現在、護衛としてわざわざマミちゃんが俺のいる教室まで迎え(出待ちとも言う)に来てくれたので一緒に帰っている。

 

 

ちなみに向かう先は安全を考慮して再びマミちゃんの家にお邪魔する事になっている。

最近は冗談抜きで『ワルプルギスの夜』を倒すまで家に帰れない気がしてきて恐ろしい。

だけど我慢だ!原作が終われば晴れて自由の身!

それまでは耐えるんだ俺!

 

 

・・俺ちゃんと家に帰れるよね・・?

 

 

 

「ゆーいちゃーん♪」

 

 

脳裏を掠める嫌な思考は甘ったるい声でかき消される。

 

 

ぎこちない動きで顔を声のした方に動かすとマミちゃんが俺の肩に頭を乗っけて完全に甘えたモードに移行している。俺は彼氏ですかと問いたくなるような格好だ。

 

月に何度かあるマミちゃんの甘えたモード。

以前は室内限定だったのにここ最近ご無沙汰だったせいか悪化している。

一目も憚らないなんて微妙な所で恥ずかしがりやなマミちゃんからは想像がつかないぞ。

よほど我慢していたらしいな。・・勘弁してくれ。

 

一応君は俺の護衛なんだよね?

「必ず優依ちゃんを守るわ!」とかほざいてたのはどこの口だおい。

 

 

「ふふふ・・!」

 

 

だめだ。トリップして話を聞ける状態じゃない。

誰かこの黄色何とかしてください。

 

 

こんな状態だがある意味杏子から狙われている俺は甘んじて受け入れるしかない。

幸いなのは今いるのが俺達二人ではない事だ。

 

 

「優依ちゃんと二人っきりじゃないのは少し残念だけど・・」

 

 

そう言ってマミちゃんが俺の顔の方、正確には俺の顔の横にいる白い物体の方に不満そうに顔を向けている。

 

そう、実はシロべえもいるのだ。

 

このヤロウはマミちゃんと一緒に帰る時にどこからともなく現れ、俺の肩に乗って優雅に寛いでやがる。

なんか優依の護衛だよとか抜かしてたような気が実際はマミちゃんについでに自分も護衛してもらおうという保身が透けて見える。

 

ホント図太い奴になったもんだ。

 

 

「どうしてシロべえも一緒なの?」

 

「何だいマミ?君がそんなに僕と二人っきりになりたかったなんて初耳だよ」

 

 

何をどう聞いたらそんな解釈出来るんだ?

やっぱり調子に乗りやすいのはいつもの事のようだ。

心なしかその無表情がドヤ顔に見えるもん。

 

 

「どう解釈したらそうなるのよシロべえ」

 

「ああ、悪いね。マミのオーラがあまりにピンクだったから思わず口が滑っちゃったよ」

 

「何ですって?」

 

 

俺の挟んでどうでもいい口論をする二人。

仲良さそうで何よりだ。かなり五月蠅いけど。

いや五月蠅い事よりも優先すべき大事な事がある。

 

 

「二人とも離れろ。さっきから暑くてしょうがないだけど!」

 

 

溜まり溜まった不満がとうとう表面化し声に乗せて叫んだ。

 

 

暑い!とにかく暑い!

 

 

ただでさえ日差しが温かい上にこいつ等の体温が密着しているせいで汗が噴き出すほど暑い。

マミちゃんの家まではまだまだ遠いし、おそらく何も言わなかったらこのままベッタリ継続されるだろう。

そうなったら俺は脱水症状間違いなし。

 

 

一刻も早くこの蒸し暑い密着から解放されたい!

護衛だろうが甘えモードだろうが知った事か!

 

 

「早く離れ、ぐ!」

 

「いやよ!優依ちゃんと一緒にいれるチャンスなんて滅多にないのよ!?今日くらい甘えたっていいでしょ!?」

 

 

肉体年齢的には年上のくせに、うるうる涙の上目使いで更にギューッとしがみ付く黄色。

 

窒息する!脱水症状の前に窒息して死ぬ!

 

 

「えー?優依は寒がりでしょ?心優しい僕が君をあっためてあげようと思っただけさ。こういう好意は無下にしちゃだめだよ。ほらほら遠慮しないで」

 

「てめえ・・!」

 

 

白は絶対わざとだ。

 

明らかに面白がってるような軽い口調でそのムカつく程艶のある体毛を俺の頬に擦りつけてくる。

モフモフして気持ち良いがめっちゃ暑い。

 

 

俺が脱水症状になってもいいんか貴様ら。

ほんの少しの距離でも良いから離れろよ。

 

 

 

現実というのは本当に思うようにいかない。

そんな事は分かっている。

この世界に転生してから、それを嫌という程味わってきたからな。

 

 

でも、こんな些細な頼みくらい叶えてくれてもいいと思いませんか・・?

心折れそうだよ俺・・。

 

 

「うぅ・・何でこんな事に・・?」

 

「仕方ないよ。君は佐倉杏子に誘拐未遂されてるんだし」

 

 

打ちひしがれる俺の耳にダメ押しをお見舞いされる。

ムカつくが確かにシロべえの言う通り、一歩間違えば俺は今頃見滝原にはいなかっただろう。

それどころか生きているかさえ怪しかったかもしれないのだ。

 

杏子が悪意を持って誘拐したわけではないと信じたい。俺を守るとかなんとか言っていたし。

しかしそもそも俺はあの野生児のアウトロー生活に耐えられる生命力と精神力を有していないので全力でお断りだ。

 

ヘタレの貧弱性を舐めないでいただきたい。

一日持たずで衰弱死するわ。

 

 

・・それにしても杏子は何であんな暴挙に出たんだ?

 

俺が見た限り今までまともだったと思う。

まあ、昨日の豹変ぶりのせいで俺の中の赤に対する常識人枠にヒビが入ったけど。

 

付き合いもそれなりに長いから俺のヘタレさだって熟知してるはずだ。

杏子の提案を素直に受け入れるはずがないって冷静に考えれば分かるはずだと思うだけどなぁ・・。

 

なんかどことなく悪魔ほむら並みの狂気を感じるぞ。

 

 

案外冷静に見えて実は素はほむら並みにヤバかったりしてな?

俺の前では隠してたとか?・・・違うよね?

頼む!誰か違うって言ってくれ!

 

 

そうだったらおそらく俺はもう立ち直れないかもしれない。

唯一のまとも魔法少女枠だったのに・・。

 

 

「・・杏子は俺に恨みでもあんの?」

 

 

何気なく呟いたつもりだったのに耳元近くにいる白い奴は聞き逃さなかった。

 

 

「あながち間違いじゃないんじゃないかい?大方君の尻軽ぶりに激怒してるんだろうね」

 

「はあ?俺のせいだって言いたいのかよ?」

 

 

度重なる疲労で憔悴してるのにこいつは俺に対して慈悲という言葉はないのだろうか?

 

 

脳内でビシっと何かが割れる音がしたぞ。

きっと俺のガラスハートにヒビが入った音だ。間違いない。

 

 

「それより不可解なのは、美樹さやかが契約したこのタイミングで佐倉杏子が現れた事だ。それだけでも面倒なのに、あの杏子はほむらの時間停止が効いていなかった。大方あのアンドロイド共と協力関係か利用されているとみていいだろうね。必ずまた何かしかけてくるだろうし油断は禁物だ」

 

 

若干シロべえにはぐらかされたような感じもするが不可解に思うのは最もだ。

ただでさえ悩みの種であるさやかが契約してしまって頭が痛いのに、その上杏子までとなると頭痛を通り越して脳が機能停止を起こしてしまいそうだ。

 

というかシロべえ。

昨日お前その時間停止事件の時いなかったくせに何で知ってんだ?

絶対隠れて見てただろ?

明らかに登場するタイミングはかってやがったなおい。

 

 

シロべえの事は置いてもここ最近、原作ではなかった事まで起きているし、行先は不透明。

そろそろ胃薬と頭痛薬を買いに走らなければならないかもしれない。

 

 

 

「はあ・・鬱になりそうだ・・」

 

 

「あ、あのね優依ちゃん?」

 

 

「ん?どうしたのマミちゃん?」

 

「このタイミングで言うのはちょっと不謹慎だけど話したい事があるの。ちょっといいかしら?」

 

 

こめかみを押さえる俺の隣でマミちゃんが少し遠慮がちで俺を見上げている。

この様子からおそらく話の内容は今話してる事と全く関係なくて水を差しそうだから遠慮してるのかもしれない。

 

 

「迷惑じゃなければ優依ちゃんに聞いておいて欲しいの。・・だめかしら?」

 

 

マミちゃんの黄色い瞳が不安そうに揺れながら俺を映している。

拒否されるというより、こんな時に関係ない話するなと怒られるのが怖いみたいだ。

 

 

 

迷惑だなんてそんな事・・・むしろ大歓迎です!

今のこの心が折れそうな現実を逃避出来る話題ならどんなものでもウェルカムでっせ!

 

チェンジ!話題チェンジ!

 

 

「何?悩み事?(魔法少女関連以外なら)相談に乗るよ?」

 

 

マミちゃんを安心させるように努めて優しく促す。

それが功を成したのかマミちゃんは指をモジモジさせながら小さく口を開いた。

 

 

「え、えっとね・・私・・スカウトされたの・・」

 

 

「へ?スカウト?何に?」

 

 

 

「・・・・・アイドルに」

 

 

 

「「え!?」」

 

 

 

シロべえと声がハモる。

 

 

アイドルってあのアイドルですか?

うら若き乙女がキラキラ輝く芸能界で熾烈な競争でのし上がっていく弱肉強食なあのアイドル!?

 

 

「それっていつ!?」

 

「昨日私美樹さんとパトロールしてたでしょ?その時にたまたま・・」

 

「え?・・じゃあマミちゃんと連絡取れなかった理由って・・」

 

「・・うん、スカウトの人と話してたの。私が『Ribbon』だって知って大興奮しちゃったみたいで、とんとん拍子に話が進んで気づいたら夜になってたの」

 

「あー、だから僕が君を呼びに行った時、事務所にいたんだね。あの時は焦ってたから何の事務所かちゃんと確認してなかったよ」

 

 

妙に納得したような声を出すシロべえ。

なるほど、昨日マミちゃんがフェードアウトした理由はそれか。

 

 

俺はかなり危ない目に遭ってる間にこいつ・・。

 

 

でもこれは責められない。

だって昨日のマミちゃん巡回ルートは繁華街メインにするよう勧めたの実は俺です。

 

理由は人通りの多いから杏子と遭遇しないだろうなんて浅はかな理由です。

しかし人通りが多いという事は必然的にその中にはスカウトマンなんて世にも珍しい人種だったいてもおかしくない。

 

さやかから目を離したのはどうかと思うが、結局杏子と鉢合わせさせた原因が遠まわしに俺にも原因の一部という事じゃないですか・・。

その災いが巡り巡って自分に来るって最悪だ!

 

 

 

・・・・・だが!

 

 

「優依ちゃん・・大丈夫?」

 

 

マミちゃんは心配そうに俺の顔を覗き込んでいる。

 

俺は震えていた。

それはプライベートな事情でさやかを放置した怒りではなく、自身の失策によって危ない目に遭った不甲斐なさでもない。

 

これは歓喜だ。

全身を駆け巡る歓喜によって俺は震えているのだ!

 

 

「マジかよマミちゃん!ついに・・ついに本格的にアイドルデビューしちゃうんですね!?ひゃっほぉ!めでたい!今日は宴だぁ!」

 

 

勢いのままマミちゃんの手を取って勢いよく振り回す。

さっきまで感じていた疲れがウソみたいに消えていくぜキャホウ!

 

 

「やったねマミ!君の輝きがついに認められたんだ!裏方の僕としても誇らしいよ!」

 

 

珍しくテンション高めな声を出すシロべえ。奴も嬉しいのかもしれない。

そのままマミちゃんの肩に飛び移って尻尾で周辺を叩きまくっている。

 

 

「・・・あれ?マミちゃんどうしたの?あんまり嬉しくなさそうに見えるよ?」

 

 

しかし浮かれまくる俺たちと違ってマミちゃんの表情はどこか浮かない様子。

返事も「そうね・・・・」と言ったきり何も口を閉ざしてしまった。

 

不思議に思って顔の覗き込むもマミちゃんは困ったような表情だ。

とても喜んでいるようには見えない。

 

 

・・まさか!

 

 

ここで俺はとある事を思いついてしまい、顔が引き攣りながら震える唇をゆっくり開いた。

 

 

「まさかマミちゃん・・実はアイドルなんて興味なかったとか?動画撮影も俺に気を遣って付き合ってくれてたとか?それなのにやりたくもないアイドルやらされそうになって不機嫌とか?・・だったらごめん!俺無神経だった!」

 

 

高速でマミちゃんに向かって頭を下げる。

 

思い返せば元々ネットアイドル動画を撮るきっかけになったのは俺の強引な押しがあったからだ。

マミちゃんはそんな俺に付き合ってくれたに過ぎない。

 

それなのに自分の望まない道を無理やり進まされようとしているから難色を示しているのだろう。

スカウトの話は俺のぬか喜びであってマミちゃんにとってはただの迷惑な話かもしれない。

 

だから今とても複雑な顔していらっしゃるんですね!

 

俺の馬鹿馬鹿馬鹿!何でその可能性を考えなかったんだよ!?

最悪だよ!マミちゃん怒らせてどうすんだよ!?

取り返しつくのかこれ!?

 

 

「顔を上げて優依ちゃん」

 

 

頭上から優しい声が降り注ぐ。

ついに判決が下るんだと思い恐る恐る顔を上げるとマミちゃんは優しく微笑んでいた。

 

 

「謝らないで。嫌な訳じゃないの。まさか魔法少女の私がアイドルになる日が来るなんて夢にも思わなかったもの。これでも凄く喜んでるのよ?」

 

「え?そうなの?」

 

 

あれだけ眉間に皺寄せて難しい顔してたくせに実は喜んでいたらしい。

ぶっちゃけ信憑性に欠ける。

 

 

ていうか悩み事かと思って聞いたらまさかのアイドルってどういう事?

まさか一緒にやってくれとか?絶対やだ。

緊張でステージに立つ前に気絶するわ俺。

 

 

「えっと・・話ってアイドルにスカウトされた事でいいんだよね?」

 

「うん、私この話断ろうと思うの」

 

「え?」

 

「アイドルにはならないわ」

 

「何で!?」

 

 

信じられない言葉に思わずマミちゃんの肩を揺さぶって抗議するもマミちゃんの表情は固いまま。

 

 

「だってこんな事してる場合じゃないでしょ?これから『ワルプルギスの夜』が来るというのに。この街がどうなるか、私自身生きている保障さえないのよ?それなのにアイドルになるなんて言えないわ」

 

「う!」

 

 

まともな理由にぐうの音も出ない。

 

仰る通りです。確かにそこを乗り越えなきゃアイドルどころじゃない。

一歩間違えたら世界滅亡するし。

でもなぁ・・・そんなあっさり断るって言われると今まで頑張った分凄く寂しいんですけど。

 

 

「それに」

 

「・・・それに?」

 

 

マミちゃんは目を閉じて呼吸を整えている。

何やらさっきよりもシリアスな雰囲気だ。

 

ウソでしょ。ワルプルさん以上にヤバい理由でもあんの?

 

 

ビビりながら待っているとやがて意を決したのかマミちゃんはカッと目を見開いて大きく口を開いた。

 

 

 

「アイドルになったら優依ちゃんと一緒にいる時間が減るじゃない!それは絶対イヤよ!!」

 

 

 

「・・・・は?」

 

 

 

ごめん、今なんて言った?

え?俺といる時間が減るからとか聞こえたんだけど・・え?

 

 

混乱する俺を尻目に目の前にいる黄色は興奮しているのか頬を紅潮させて声高らかに叫ぶ。

 

 

「ただでさえ優依ちゃんとは学年が違うからそんなに一緒にいられないのよ!?それなのに今は暁美さんや佐倉さんまで邪魔してくるじゃない!こんな時にアイドルになんて自分から手を引くようなもんだわ!」

 

 

そんな理由かい!お前は駄々っ子か!

ふざけんなよおい!

選ばれし者しか出来ない仕事『アイドル』をなんだと思ってんだ!

 

 

「ちょっと!そんな理由で断ろうとすんなや!」

 

「そんな理由とは何!?私にとってこれは一番大事な理由よ!」

 

「ワルプルさんをついでみたいに言うな!」

 

 

何これ?何このコントじみた理由?

愛する妻と離れたくなくて仕事行こうとしない馬鹿旦那みたいな事言いやがって!

 

 

 

「・・それにあの時凄く後悔したの」

 

 

ふざけんなと抗議しようと思った矢先、マミちゃんが先程と打って変わってシュンと子犬のようにしょげてしまった。

 

やられた!これじゃ怒るに怒れない!

叫んだり落ち込んだり何なんだ一体?

 

 

「あの時ってどの時?」

 

「優依ちゃんが佐倉さんに誘拐されそうになった時よ」

 

「あー・・」

 

「アイドルになれるって浮かれていた私はシロべえが知らせてくれるまで優依ちゃんの危機に気付かなかった。そのせいで貴女を危険な目に遭わせてしまった。・・ごめんなさい」

 

「そんな!結局助けてくれたから俺は無事だったじゃん!気にしなくていいよ!」

 

 

涙ぐんで勢いよく俺に頭を下げて来るからマジ焦る。

慌てて頭を上げるように言うとマミちゃんは何故か俺をキッと睨んでいた。何で?

 

 

「未遂に終わったからそう言えるのよ!あと一歩遅かったら佐倉さんに連れ去られてた。そうなったら探し出すのは困難だわ!優依ちゃんがいなくなったら私・・・」

 

 

怒ってんのか泣いてんのかよく分からん。

相変わらずの情緒不安定ぶりだ。

 

 

しかしマミちゃんの言い分は一部を除いて正論だ。

アイドルになってほしいなんてむしろ俺のエゴなのかもしれない。

 

だがアイドルになってもらわねば困るのだ!俺が!

 

 

よし!説得だ!

何が何でもアイドルになってもらうぞ巴マミ!

 

 

「マミちゃんはそれでいいの?」

 

 

「え・・?」

 

 

じっと目を合わせてゆっくり口を開く。

 

 

「アイドルになりたくないの?」

 

 

俺の超めずらしいシリアス雰囲気にマミちゃんは少し戸惑っていたがやがて小さく口を開いた。

 

 

「・・・出来る事ならやりたいわ。憧れがないかって言ったら嘘になるもの」

 

 

かかった・・!

 

そのままマミちゃんの肩を掴んでずいっと顔を寄せる。

驚いた表情をしているがそんなもの気にしない!

 

 

「だったら迷う事ないよ!アイドルになろうぜマミちゃん!」

 

「え?何言ってるの?だから私は・・」

 

「満更でもないんでしょ?俺、マミちゃんがアイドルになってくれると凄く嬉しい!」

 

「!」

 

「アイドルになったらきっとこれまで通り一緒にいられなくて寂しいけど、俺の大切な(護衛の)人が輝いてる姿見るのは楽しみだ。俺、マミちゃんの事誇りに思うよ」

 

 

「!」

 

 

感動したように目を潤ませて俺を見ているマミちゃん。

よしよし。これはもう九割成功したようなものだ。

 

もうちょっと煽っ、ゴホ、激励しておこう。

 

 

「優依ちゃん・・!」

 

「ひ・・!」

 

 

口を開く前にマミちゃんが俺の手をギュッと握りしめて息がかかりそうな至近距離まで顔を寄せてくる。

その様子はどこか熱に浮かされたような感じだったのは絶対気のせいじゃない。

 

 

「分かったわ!私アイドルになる!優依ちゃんの誇りになってみせる!」

 

「う、うん」

 

「私頑張るからずっと傍で支えてね優依ちゃん!」

 

「(遠くから)応援するよマミちゃん!」

 

 

激励が思いのほか効いたらしい。

目をキラキラ輝かせるマミちゃんに若干引きながらも何とか笑顔を取り繕えたと思う。

 

 

 

「!」

 

 

少しの間、お花畑状態のマミちゃんだったが何かに気づいたらしく緩み切った表情をキリッとしたものに切り替えた。

 

凄いなその切り替えの早さ。さすがベテラン。

 

 

「魔女の気配がするわ!ここから近いみたい」

 

 

そう言って、握っていた俺の手を名残惜しそうに離す。

 

 

「ごめんね優依ちゃん。すぐ戻って来るから待っててくれないかしら?」

 

 

申し訳なさそうに言うマミちゃんだったが近くに魔女が出たのなら俺が危ない。

なるべく素早く退治してもらわねばならない。

 

なので俺は心からの爽やかな笑顔で「大丈夫」と言っておく。

 

 

「うん、魔女が出たんなら仕方ないよ。てなわけで行ってらっしゃーい」

 

「ええ、行ってくるわ」

 

 

今にもスキップをしそうな上機嫌な黄色のクルクルの背中に向かってひらひら手を振って見送った。

 

 

見るからに浮かれてるけど大丈夫かな?

まさか「もう何も怖くない」と言って遅めのマミるとかやめてよね。割とマジで。

 

 

 

若干不安に思いながらも黄色が見えなくなるまで手を振っておいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「上手い事誘導したね優依」

 

 

 

「いやあ、上手くいって良かったよ!」

 

 

 

肩から聞こえる声に内心ではなく顔に出してほくそ笑む。

シロべえは俺の意図を察していたらしい。

だからなのか傍観に徹していて何も喋らなかった。

 

 

 

マミちゃんがアイドルになる。

 

 

 

それは確かに今まで頑張ってきた俺たちの努力が報われる形ではあるが、何もそれだけが理由ではないのだ。

 

 

『ワルプルギスの夜』を倒す事が大前提だが俺の日常はこれからも続く。

そうなれば俺にはもう死亡フラグも何もない状態になるという事だ。

 

 

それなのに魔法少女と関わるなんて絶対嫌なので疎遠になる予定だ。

 

 

まあ、俺がキャラに関わらなくなってもあいつらならお互い仲良くするだろう。

ほぼ公式カップルであるピンクと紫、青と赤はぶっちゃけほっといても問題ないくらいだからそこは気にしていない。いないが一番の問題は黄色いぼっちだ。

 

ただでさえマミちゃんはハブられがちなのだ。

それなのにカップルが成立してしまえばさらにぼっち度が深まってしまう!

そうなったら必然的に俺の方にすり寄ってくるのが目に見える!

 

ふざけんな!ぼっちの相手なんてしたくない!

死亡フラグと余計に絡みたくない!

俺は平和を享受したいんだ!

 

もしここにあのチーズ大好きなぎさちゃんがいてくれれば話は違うのだが、残念ながら彼女はお星様になってしまったのでそれは見込めない。

 

 

どうしたもんかと悩んでいたがまさかのガチアイドルスカウト!

これは使わない手はない!

 

一人は寂しい!友達欲しいと嘆く暇もない程に動いてもらおうじゃないの!

ガチで『恋のティロ・フィナーレ』歌ってもらおうじゃないの!

 

 

「マミちゃんはこれで大丈夫だろう。アイドルは絶対忙しいだろうから寂しいって思う暇もないはず!」

 

 

思った以上に事がスムーズに進んでテンションが上がりまくる。

これでももう原作終わったらマミちゃんは俺と絡む暇もなくなるだろう。

原作を乗り越えるのも大事だけどその後の安全もきっちり考慮しておかないと。

 

俺意外と策士じゃね?

 

 

ムフフと一人悦に入っていると横から呆れた感じの溜息が聞こえた。

 

 

「ホントよくやるよ。君絶対営業の才能あるから案外インキュベーター向いてるんじゃないの?魔女化する女の子続出しそう」

 

「やかましい。俺を白いGにカウントすんな!あんな外道な事出来るか!」

 

 

インキュベータ―の仕事なんて絶対やりたくない!

そんな事したらもれなく紫の悪魔に地獄に叩き落されるわ!

その前に何回殺されるんだ俺?

 

駄目だ、考えるな。

他にも悩みは尽きないがマミちゃんの今後に関してはこれで大丈夫だろう。

毎日が苦悩だらけだから喜ばしい事は全力で堪能しなければ!

 

 

「・・一応言っとくけど、絶対君の企み通りにならないと僕は思うよ」

 

「言っとけ。さてと、マミちゃんが魔女退治してる間にちょっと飲み物でも買いに行くか。確かすぐそこに自販機あったはずだし」

 

 

シロべえが不吉な事言うのはいつもの事だ。

そんな事気にしてたらやってられないので無視だ。

 

 

すぐ後ろに自販機があったのはずだ。

いくら絶好調のマミちゃんでも魔女を倒すのには最低でも数分はかかるだろう。

その間に白と黄色の熱によって失われた水分を取り戻しておこう。

 

 

 

 

 

 

「何飲もうかな? !」

 

 

 

 

ルンルン気分で後ろを振り返って固まった。

 

 

 

 

「ゆーい、まさかこんな所で会えるなんてな?」

 

 

 

「きょ、杏子・・!?」

 

 

自販機の方に身体を向けるとあら不思議。

目の前に赤い悪魔が立っていらっしゃるううううううううう!

 

 

ニコニコ微笑みながらパーカーのポケットに手を突っ込むその姿は年相応で可愛らしいはずなのに、今の俺には悪魔が立っているようにしか見えない。

 

 

 

「会いたかったぞ優依」

 

 

頬を染めて微笑む杏子に恐怖で鳥肌が立ちまくる。

 

 

どうしよう!?今護衛のマミちゃんいねえ!!

さっき魔女の所に向かったばかりだ。

俺の馬鹿!何呑気に行かせちゃったんだよ!

 

 

マミちゃあああああああああああああん!!

すぐ戻ってきてええええええええええ!!




真のタイトル:
(マミちゃん)お願いだから(護衛の)仕事して by神原優依

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