魔法少女オレガ☆ヤンノ!?   作:かずwax

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前回のあらすじ:
赤いジェイソンが現れた!


86話 触らぬ杏子に祟りあり

「ジャンボチョコパフェとビッグハンバーグとプレミアムステーキにカルボナーラの大盛り、全部二人前で」

 

「今のなしでりんごジュース二つとチョコレートケーキ一つお願いします」

 

 

店員さんが下がったのを確認して俺はほっと一息をつく。

向こうの席から「チッ、しけてんな」という文句はスルーだ。

不満そうな視線など難なくスルーしなくてはやってられない。

 

サッと視線を逸らすべくメニュー表を手に取った。

 

 

俺と杏子は今、ファミレスの中にいる。

どうしてこんな事になっているのかは少し時を遡る。

 

 

 

 

「HEY姉ちゃん!俺と一緒に青春を満喫してみなーい?」

 

 

「・・・何やってんだお前?」

 

 

 

アイドル騒動が終わり、魔女を倒してくると意気揚々なマミちゃん送り出した後、目の前に突如赤いジェイソンが現れ俺は混乱していた。

 

このままでは槍という名のチェーンソーによってズタズタにされるのは時間の問題だった。

 

俺はとてもテンパっていた。

どれだけかと言われればジェイソン対策にナンパというトチ狂ったとしか言いようがない蛮行をやらかしてしまう程に俺はテンパっていた。

 

案の定、杏子から冷たい目を向けられ、心が潰れる音が聞こえつつも殆ど自棄に近い形で近くのファミレスに引きずり込んだのだ。

 

 

 

咄嗟の事だったとはいえファインプレーだった。

 

連れ込んだ理由はもちろん杏子と話をするためだ。

 

しかし今の俺は杏子の事が少し(いや、かなり)トラウマになっているので二人きりになるのは恐怖で発狂するから無理。二人っきりになったらそれこそまた何が起こってもおかしくない。

 

なら単純な話、人の目があるなら問題はず。

話をするにはファミレスは最適だ。お財布にもまだ優しいし。

 

これなら流石の杏子も下手な事は出来ないだろう。

 

安全度は格段にアップしたし、落ち着いて話が出来る。良い事尽くめだ。

ただ奢るとは言ったけど誰が貴様の尋常ではない食欲を満たすと言った?

 

冗談じゃねえぞ。

今月かなりカツカツなんだから絶対支払い出来ねえよ。

 

俺の財布をどんだけ軽くする気だ?

既に風船よりも軽くなりつつあるというのに自重せねば。

 

 

メニュー表を見るフリして杏子を盗み見る。

奴は頬杖をついて窓の景色を退屈そうに眺めていた。

何か仕掛けてくる気配はないが油断は禁物だ。

注文した品が来るまでこのまま待機しておいた方が無難だ。

 

 

え?そういえばシロべえはって?

あの裏切り宇宙人なら俺を置いてさっさと逃げ出しましたよ!

ぶり○りざえもんレベルな裏切りの早さだ。

 

今度という今度は絶対許さん!!

アイツのご飯次からペットフードにしてやる!

三食専用の容器に入れて顔突っ込んでやる!

 

 

そうこうしている内に注文した品を持ったウェイトレスがやってくる。

 

 

机に置かれたジュースは速攻で自分の元に引き寄せた。

 

何でかって?もちろん睡眠薬とか盛られないようにだ。

ウェイトレスさんが不思議そうに俺を見ているがそんなの気にしてられない。

こっちは今後の生命がかかっているのでなりふり構っていられないのだ。

 

しかし当の加害者本人はこっちの事なんて全く気にする素振りも見せずに運ばれてきたケーキにガッつきだしたのでそれはそれでムカつくな。

 

 

「・・・・・」

 

 

杏子はケーキを頬張り、そんな赤の様子を警戒しながらストローでジュースを啜る。

俺たちの間にしばしの沈黙が漂っていた。

 

 

 

「別に盛ったりしねえよ」

 

 

やがて杏子がポツリと呟いた。

 

その際、俺を呆れた目で見ているがどの口で言ってんだこの赤は?

犯人がする目じゃないからねそれ。

昨日の今日だから警戒するに決まってんでしょうが!

 

 

「ごめん、身体が勝手に警戒しちゃって・・」

 

 

悲しいかな。ヘタレの性分では文句を言う事も怒る事も出来ない。

それ所か逆に謝ってしまうなんて俺馬鹿じゃないの!?

 

 

「ふーん」

 

 

杏子は興味がなさそうな様子で発した言葉はそれっきり。

再びケーキの方に集中し始めて、そのまま会話が途切れた。

 

 

再びお互いの間に沈黙が漂う。

 

 

き、気まずい・・・!

ただでさえ昨日あんな事があって気まずいのに、その上赤に対するトラウマが発動したらしくさっきから身体ガタブル震えてるんですけど!

 

どうしよう発狂しそう!

一目も弁えずに雄叫びあげそう!

 

 

慌てて首を左右に振って悪い考えを追い払う。

その際、窓の方に視線が向いた。

 

 

・・マミちゃんもう魔女退治終わったかな?

俺がいない事に気づいて探してくれてるかな?

出来る事なら今すぐにでもここに来てほしいものだが可能性はわずかだ。

 

 

微かな希望に縋るよりここは俺が何とか切り抜ける方が現実的だ。

 

 

窓に向いていた視線を杏子の方に戻す。

ケーキに集中していてこっちを見ていないのはありがたいが既にそのケーキは三分の一にまで姿を減らしている。

このままでは早々にケーキを食べ終わり、嫌でも強制的に会話が始まるだろう。

 

そうなったら杏子に話の主導権を握られるのは間違いない。

昨日の尋問の続き再開だ。

 

昨日の様子から察するにちょっと、いや、かなり怒っていたし尋問で済むのかさえ怪しい。

ていうか生きて帰れるのかさえ怪しくなってきた。

 

 

! げ!あれこれ考えている内に既にケーキが残り一口分までになっている!

時間がない!くそ!こうなったら自棄だ!

 

俺から話を切り出そう!

先に俺から話しかけて会話の主導権を握るのだ!

そうなればまだ安全なはず!・・多分。

 

 

やれ!やるんだ俺!

自分の身くらい自分で守るんだ!

 

 

 

「そ、そういえば杏子!」

 

「ん?」

 

 

最後の一口をもぐもぐさせた杏子の目線は俺の方に向けられている。

 

 

よし、無事に話しかける事に成功した!

 

・・成功したけど何の話をしよう?勢いで話しかけちゃっただけだし。

 

! そうだ!コイツには聞きたい事が山ほどあるんだ!

それを聞けば紛いなりにも会話が出来るぞ!

よし!矢継ぎ早に質問していこう!

 

 

 

「俺と風見野で別れた後、何してたの?」

 

 

俺が知りたい事その一:

『目の前にいる杏子と俺を助けてくれるセコム杏子(?)の関係』

 

この杏子と別れて見滝原に戻った後の俺のピンチに幾度なく助けてくれた赤いセコム。

未来を知っているような言動や反則じみたスペックを持っていたが果たして彼女の正体は何なのか?

ちなみにシロべえの見解では同一人物ではないらしい。

 

確かに同一人物じゃないかも。

 

姿は一緒でもあの杏子は目の前のコイツと違ってどこか大人びてたし、ひょっとしたら杏子の姿を借りた別人という線もあるかもしれない。

 

でも俺はこの二人は何かしら関係があると思っている。

特に根拠がある訳ではない。ただの勘だけど。

 

 

今回を機にこの杏子の口からはっきり聞いておいた方が良いだろう。

 

 

 

「アンタと別れてから何してたって?何でそんな事聞くんだよ?」

 

「え、えっとただの興味本位・・です」

 

 

我ながらすごく苦しい言い訳してる自覚はある。

現に背中に滝のような汗が流れてるもの。

 

 

「別に大した事してねえよ」

 

「そうなの?」

 

「ああ、優依の事をずーっと考えてたぐらいだ」

 

「へ、へえ・・・そうなんだ・・・」

 

 

訂正、聞かなきゃ良かった。

頬杖ついて俺に微笑みかけるのめっさ怖いんですけどおおおおおおおおおお!

 

俺の事考えてたって何!?

いかに俺の苛めようかとかそんな陰湿な事考えてないよね!?

ちょっとやめて!どさくさに紛れて足絡めてくるの!

お前ブーツだから地味に痛いんだけど!

 

 

ぐ!負けるな俺!

相手のペースに呑まれるんじゃない!

質問してるのは俺だ!

俺が主導権を握るんだ!

 

 

「じゃあその間一度も見滝原に来てないの?」

 

「はあ?ここに来るどころか、風見野から出てねえよ」

 

「え?ホントに?洗濯物がはためく爽やかなセーラー服とかお菓子だらけのトラウマ級マスコットとか見てない?」

 

 

魔女とか言ったらブチキレられそうだと何となく思ったので遠回しに聞いてみる。

少なくとも杏子(?)にはこの魔女たちから助けてもらったし、ちゃんと対面したのもその場面だ。

シロべえが言うには他の場面でも助けられてるらしいが本当だろうか?

 

 

目でどうなの?と訴えてみると怪訝そうな顔されたのは何でですか?

 

 

「何訳分かんねえ事言ってんだ?そもそもお前が“会いに来るから待ってて”って言ったんだろうが」

 

「そ、そうでしたね」

 

 

ギロリと睨まれ思わず萎縮する。

まさか律儀に守ってるとは思わなかった。

杏子の事だから何か適当に理由つけて約束破ってくると思ったけど、やっぱり何だかんだで義理堅いなコイツ。

 

俺の中で杏子の株がちょっとだけ上がった。

 

 

「前も似たような事聞いてたよな?何?アタシのドッペルゲンガーにでも会ったのかよ?」

 

「アハハ・・まあ、そんな感じかな?」

 

「はあ?」

 

「あ、そうそう他にも聞きたい事あったんだけど!昨日杏子が退散する前に見せたあれってひょっとして幻術ってやつ?すごいね初めて見た!魔法少女には固有の魔法があるって聞いてたけど杏子は幻術なんだね!」

 

 

慌てて取り繕った感が拭えないがこれも知りたい事だ。

 

 

俺が知りたい事その二:

『この時間軸の杏子は幻術を使えるのか?』

 

昨日は逃走の囮に自身の幻を作り出し、ベテラン勢に気づかれずいつの間にか入れ替わるという離れ業をやらかしていたこのハイスペックな赤。

 

 

という事はこの時間軸の杏子は幻術が使えるのではないか?

 

 

ほむらに確認してみた事があるけど、今までループしてきた世界の杏子はほとんど幻術を使えなかったらしい。

一応使えた時間軸はあるらしいがそれは一瞬で自分そっくりの幻を作り出すには程遠かったとか。

だからここまで使いこなせた事にほむらは凄く驚いてた。

 

何がきっかけか知らないが(味方になってくれる場合に限り)悪い話ではない。

となると実はあのセコム杏子(?)はこの杏子が作り出した幻であり、無意識に発動させて俺を助けてくれたのかもしれない。

シロべえもその可能性はあるって言ってたし、俺もありえると思う。

 

 

「あれだけ凄い幻術ならもう一人の自分を遠隔操作で動かせるんじゃないの?」

 

 

遠まわしにあのチートっぽい杏子(?)は君の幻術じゃないの?と聞いてみる。

そうだとしたら一気に謎が解決するし一石二鳥だ。

 

 

「・・無理だ」

 

「え?」

 

 

しかし聞かれた本人はどこか浮かない顔だった。

 

 

「最近まで使えなかったんだ。あの時だって咄嗟に使えただけだし」

 

「あ・・そうなんだ」

 

 

 

本人曰はく幻術を使えたのは昨日からだと言う。

 

どうやら幻術は復活したみたいだが、本人がコントロール出来ていないみたいだ。

咄嗟に封印してた魔法が復活するなんてお前はどこの主人公だと言いたくなる。

 

しかし杏子が言う事が正しいなら昨日以前に現れた杏子(?)と辻褄が合わない。

無意識に作り出した幻術という線もあるかもしれないがシロべえが作った装置の時間停止が効かなかったり、魔女を倒す事が出来る程高度なものを作り出せるかは疑問だ。

 

今の所この二人の接点はなさそうだ。

 

 

・・なんかますますあの杏子(?)の謎が深まってしまった。

 

 

マジで何者なのアイツ?

 

 

「? 何でそんなに落ち込んでんだ優依?」

 

「いや別に。ただ謎が解明されると思って期待してたけど見当違いで落ち込んでるだけだから気にすんな」

 

「?」

 

 

杏子は首を傾げているが説明のしようがないのでそのままにしておいた良さそうだ。

 

だって言えないじゃん。

君のソックリさんが現れて危ない所を助けてもらいましたなんて言っても信じてもらえないし、それ言ったら“一般人が首突っ込むんじゃねえ!”と怒られそうだ。

 

 

落ち込む俺とは対照的に杏子はニヤリのニヒルな笑顔を浮かべて頭の後ろで手を組んでいる。

 

 

「まあ、咄嗟だったとはいえ一度出しちまえばこっちのもんだな。あの後、何度か試してみたけど使えたり使えなかったり。感覚が戻ってきてるみたいだ。・・これならマミに対抗できそうだ」

 

 

コイツまたマミちゃんと戦う気だよ。

好戦的にも程があるわ。ただでさえ杏子は今でも十分強いんだ。

そこに本来の幻術が復活したなんて鬼に金棒、いやラスボスに核兵器を与えるようなもの。

 

ひょっとしてあの夜、俺たちは開けてはいけないパンドラの箱を開けてしまったのかもしれない。

 

! いかんいかん!この話はやめよう!

このまま幻術の話をすれば、ロクな事にならなさそうだ。

話題を変えよう!他にも聞きたい事はいくらでもあるんだし!

 

 

「あの!盛り上がってるとこ悪いんだけど他にも聞きたい事があるんだ!」

 

「あ?まだあんのかよ?」

 

「はい!まだまだございます!何でほむらの魔法効かなかったんですか!?」

 

 

俺が知りたい事その三:

『昨日ほむらの時間停止が杏子に効かなかった理由』

 

俺を担ぎながら時間停止させていたほむらに向かって容赦なく杏子は攻撃していた。

マミちゃんにはしっかり効いていたのにどうして杏子には効かなかったのかが謎だ。

これは今後のためにも是が非でも解明させておきたい。

 

 

・・なんかドンドン赤の戦闘力が強化されていってる気がしてならないんだけど大丈夫かな?

 

 

「なんだそんな事か」

 

「そんな事って・・」

 

 

俺の不安をよそに杏子はケロッとした表情ですっごく腹立つなおい。

 

 

「ああ、それはキュゥべえがさ」

 

「・・・・・キュゥべえ?」

 

 

あれ・・?すっごく嫌な予感がしてきたぞ・・?

 

魔法少女の口から「キュゥべえ」の不吉ワードが出て来るって事は高確率でロクでもない話は確定だ。

最大限の警戒態勢に入る俺を尻目に杏子はポケットを弄ってやがて小さなガラスの箱を取り出し机に置いた。

 

 

「・・何これ?」

 

「あいつがほむらの魔法は時間操作かもしれないって言って、一回だけだけどそれを無効に出来る装置をくれたんだよ。ほら見えるか?」

 

 

そう言って視線を箱の方に移したので俺もそれに倣う。

ガラスの箱に見えるが中をよく見ると、複雑そうな文字列がびっしりと浮き出ていて一目で地球産ではないなと分かった。

 

 

「それを持ってると時間停止を無効にしてくれるんだと。半信半疑だったけどまさか本当だったなんてね。道理で闇雲に攻撃してもほむらに攻撃が通じない訳だ。正直アタシには瞬間移動にしか見えなかったしさ」

 

「・・・・・」

 

 

何て事してくれてんだ白いGがあああああああああああああああ!!

 

何そんなヤバい物をヤバさMAXの魔法少女に渡しちゃってくれたの!

何なのアイツら!?そんなに魔法少女の大乱闘誘発したかったの!?

 

エネルギー発生する前に大量の血液が発生するわ!

もはやエントロピーがどうのこうの関係ねえじゃん!

 

 

「つってもそれは使い捨てだからもう使えねえけどな」

 

 

杏子は暇そうにガラスの箱を弄っている。

何て事なさそうだがさっきの一言で俺はとても救われた気分だ。

 

使い捨てなら杏子は次時間停止に対抗する術がないって事になる。

それなら一安心だ。良かった、良かった。

 

て、違う違うそうじゃない!

他にも聞かなきゃいけない事はあるんだった!

 

 

 

「じゃあ次はアタシが質問するから」

 

 

口を開く前に杏子が狙ったようなタイミングで話かけてくる。

弄っていたガラスはいつの間にか仕舞われたらしくどこにもなかった。

 

 

「・・俺まだ聞きたい事があるんだけど・・」

 

「はあ?アンタはさっきから質問しまくってるからもういいだろ?アタシも聞きたい事があるんだよ」

 

「はい・・・」

 

 

俺の流れは呆気なく終わった。

 

だよねー。杏子相手にいつまでも主導権握れる訳ないよねー。

むしろここまで握れて俺にしては凄いんじゃね?

 

・・俺ってホントヘタレ。

 

 

「なあ優依、さっきアタシと会った道は確かアンタの家と反対方向だったよな?」

 

「え?うん」

 

 

質問というより確認と言った感じだ。

何だろう・・嫌な予感がする。

 

 

「どこに行く気だったんだ?」

 

 

そこまで大きな声だった訳じゃないのにやけに耳に響く冷たい声。

おかしい。一瞬ざわざわしていた店内が静かになった気がするぞ。

 

 

じっと杏子が見つめてくる。

真顔だから顔で表情を窺い知ることは出来ない。

 

 

どう答えたらいいんだ?

 

馬鹿正直に険悪な関係のマミちゃんの所に行く気でしたなんて言ってみろ。

それこそ地雷だ。暴発する可能性大。

 

 

かと言って、他に言う事あるか?うーん。

駄目だ。全く出てこない・・。

 

 

「答える気はないのかい?」

 

 

無難な回答を求めて黙りこくっていると露骨にため息をつかれて内心焦る。

 

 

「当ててやろうか?」

 

「・・・・」

 

「・・マミの家だろ」

 

「!」

 

 

何で分かったんだ!?

まさかマミちゃんといた所見られてた?

 

 

「図星か」

 

「!」

 

 

コイツ謀ったな!?

なんて意地が悪いな奴なんだ!魔法少女のする事じゃないぞ!

やめろ!そのニヤニヤ顔すんの!めっさ腹立つから!

 

 

「マミの家に何の用だったんだ?」

 

「いや、紅茶飲みに・・」

 

「へー。実はアタシを避けるためだったりしてな?」

 

 

コイツ実は全部分かってるんじゃねえの?

そうとしか思えない程的確に言い当ててくるぞ?

 

 

何も答えられないので顔を俯かせるしかない。

 

 

これからどうしたものか?

杏子のペースに呑まれつつある。

急いで何とかしないと一気に負け確定だ。

 

何に負けるかは全然分からないけど!

 

 

 

「それ・・付けてくれてるんだ」

 

 

髪に何かが当たって慌てて顔を上げると杏子が慈しむような目で俺を見ている。

いや、微妙に顔からずれてる気がする・・・あ。

 

 

「ひょっとして・・これ?」

 

 

本日もつけていた杏子からもらった髪飾り。

別につけなくても良かったんだけど杏子は神出鬼没、今回のようにどこで鉢合わせするか分かったもんじゃないからご機嫌伺いのためにつけているようなもんだ。

 

今回はそれで功を成したらしい。

威圧感満載だった杏子のオーラが和らいだ。

髪飾り様様だ。

 

・・まあこれ付けてると黄色と紫の機嫌を損ねる副作用があるんだけどね。

 

 

 

「優依によく似合ってる。可愛いよ」

 

 

俺の髪をそっと手に取って笑いかけてくる。

その様子はお前はどこの王子様だと問いかけたくなる程様になっていた。

 

見た目(性格は省く)は可愛いから若干キュンとくるものがあるなあ・・。

さすが人気キャラ。

 

 

「このまま食っちまいたいくらい可愛い」

 

「・・・・」

 

 

うっとりした上目遣いで見つめて来るが、俺自身は一気に氷点下まで冷めた感じがする。

 

 

コイツさ、最近マジでどうしたの?

やけに俺に馴れ馴れしい、ていうか過保護だな。

 

 

何でだ?友達にしてはやけに執着してくるし。

 

 

ひょっとして杏子は友達としてではなく、恋愛対象として・・俺の事好きとか・・?

 

 

・・・・・・・。

 

 

いやいやいや何考えてんの俺!?

自意識過剰にも程があるわ!

 

単純に俺が杏子の唯一の友達だから執着されてるだけだから!

だってコイツ凄い友達思いだもん!

会って数日、しかも最初は殺し合ってた仲なのに最後は一緒に心中するような友情に熱いやつだもん!

そうだ!それに違いない!

 

何を勘違いしてるんだ俺!

 

これ数万歩譲って杏子に「俺の事、恋愛対象として好き?」なんて言ってみろ。

冷たいどころか汚らわしい目で見られる事山の如しだよ!

 

忘れよう!緊張と恐怖のあまりロクでもない事しか思いつかない!

 

 

 

「ほむらから聞いたけどこの街に『ワルプルギスの夜』がやってくるんだってな」

 

「ひぁ!?」

 

 

現在進行形で浮かんでいた俺の腐った考えなんて露知らずに杏子は呑気に俺の髪を弄りながら口を開くもんだから変な声が出た。

 

 

「・・何だ今の声?」

 

「気にしないで。それよりほむらと仲良くやってる?」

 

 

場当たりに近いような事を聞いておく。

 

正直こいつ等が仲良くやってる描写が全く想像出来ないが大丈夫だろうか?

ほむらの話じゃ昨日結構殺伐としたやり取りが行われたと聞いてるんだけど。

 

 

「ああ、アイツはマミ達と違って魔法少女の事を分かってるからな。上手くやれそうだ」

 

「あ・・そうなんだ」

 

 

身構えていたせいもあり露骨に安堵のため息が出る。

 

 

良かったー。

正直あの没コミュニケーションが杏子と接触なんて絶対無理だろって思ってたけど案外うまい事にいったらしい。

出来ればそれをもっと早くに発揮してくれていれば随分楽だったんだが・・。

 

過ぎた事だ。今はこれからに目を向けなくては。

 

 

「えっと、杏子・・」

 

「何だ?」

 

「今からでもマミちゃんと協力はありえます?」

 

「ありえねえな。あんな甘ちゃんなんかと」

 

「あ・・そっすか・・」

 

 

どうせ断れるだろうなと分かっていた。

分かってて言ったけど何もそんな間髪つけずに言い切らんでもよくない?

さすがに傷つくぞ俺。

 

 

「大体マミは分かってねえんだよ。魔法少女ってのは自分のためになるもんだ。希望と絶望の差し引きゼロなんだよ。なのにアイツときたら自己満足の正義の味方面してて気に入らねえ」

 

「・・はあ。そんなもんっすか」

 

「ああ、だから何度でも言うぞ優依。絶対魔法少女になるな。不幸になりたくないならな」

 

「うん。こっちも何度だって言うわ。ならないって昨日も言った気がするんだけど聞いてた?」

 

「・・話を戻すけどさ」

 

「無視?」

 

「この街に『ワルプルギスの夜』がやって来る」

 

 

何でコイツは俺の話ガン無視で話進めようとすんの?

いじめ?いじめなのこれ?

 

 

「ほむらの話じゃ街を壊滅させる化け物らしいじゃん・・・お前死ぬぞ?」

 

「そ、そんな露骨に脅さなくても・・」

 

「脅しじゃねえ。充分ありえる事じゃん。・・ここに居たって危ないだけだ。ほむらに協力する約束だけど相手が悪過ぎる」

 

「!」

 

 

驚いた。まさか杏子共闘承諾してたんだ。

ほむらもそれっぽい事言ってたけど本当だったとは。

 

俺はてっきり断ったのか思った。

 

でもこの様子を見るに乗り気じゃないのは明らかだ。

 

 

「優依・・」

 

「え?何!?」

 

 

ぼんやり失礼な事を考えていると杏子はごく自然な動作で俺の両手を包んでじっと顔を覗き込んでくる。

その事に驚いて包み込む手から逃れようとするも強く握りしめているから動けない。

 

 

「優依、アタシと一緒に逃げよう?」

 

 

杏子は俺を手をぎゅっと握って振り絞ったような声で言った。

提案のはずなのにその声はまるで懇願みたいだった。

 

その様子は首を縦に振りそうになる効果は十分にある。

 

 

俺だって逃げたい。

出来る事ならこのまま逃げ出してしまいたいですよ!

 

でも出来ない!

何度でも言うけどまどかが(以下省略)があるから行けないんだってば!

 

うぅ・・現実は残酷だ。

 

 

「ごめん!気持ちは嬉しいんだけどやっぱり俺、みんなを置いていけないよ・・」

 

 

穏便に、それこそ無難な理由でお断りを入れる。

言っちゃ悪いけど家族とか友達を出すと断りやすいよね。

アニメとかこういう理由で残ると人多い気がする。

みんな優しいんだね!

 

 

「っ・・・・・・・・・」

 

 

信じられないものを見るような感じで目を見開く杏子。

その表情は明らかに傷ついてるのが分かる。

 

 

ごめんよ杏子!

逃げ出したいのは山々だがこっち、というか世界にヤバい事情があるから逃げられないの。

 

 

「そうか・・」

 

「ごめん・・」

 

 

握っていた手が弱弱しい感じで解放される。

何か言葉をかけようにも俺を拒絶するような雰囲気を纏いながら俯いてしまった。

 

 

再び俺たちの間に沈黙が漂う。

しかしさっきと違って俺の方に非があるので気まずさはさっきの倍以上だ。

 

ホントにごめん杏子!

どうしても断らなきゃいけない理由が!

 

 

・・・あれ?杏子なら言ってもいいんじゃね?

魔法少女の秘密バラしても大丈夫じゃね?

 

だってコイツ真実知ってもその鋼のような精神で絶望しなかったし。

そうだ言えばいいじゃん!

逆に何で今まで隠してたかの方がおかしいわ!

 

ほむらも機会あれば言うつもりだって言ってたし、シロべえだって!

・・・あいつはタイミングを考えて話せって言ってたけど、どういう意味だ?

 

まあ、そのタイミングは多分今だ!

よし!決めた!

 

杏子に魔法少女の真実を話そう!

そしたらこっちの事情だって理解してくれる可能性大だ!

 

 

「あの杏子!」

 

「なあ優依、ちょっと寄りたい所あるんだ。一緒に来てくれる?」

 

「え?えっと・・どこへ?」

 

 

何というタイミングだ・・!

俺が話しかけた途端を見計らった感じで話を遮れた。

まるでそれは俺の話なんて聞きたくないといった態度だ。

 

おかしいな。一応提案のはずなのに拒否権がなさそうな感じがする。

有無を言わせない様子で俺を見据えて笑っている。

 

その笑顔は少女らしい優しい笑顔なのに何故か俺はゾクッと身震いする。

 

 

「いいから」

 

「わ!ちょっと引っ張るな!」

 

「ほらほら早く」

 

 

質問に答えてくれる事はなく杏子はそっと俺の手を掴むと立ち上がって店を出た。




IFストーリー

「杏子・・まさかとは思うけど俺の事、恋愛対象として好き?・・なんて」

「ああ、好きだ」

「え?」

「~~っだから優依の事が好きなんだよ!恋愛対象として!!//」

「・・・マジで?」

「好きだ!アタシと付き合ってくれ!(身体を乗り出して優依ちゃんに迫る)」

「え!?・・は、はい?(勢いに負けた)」

「! 幸せにするからな!(幸せそうに優依ちゃんを抱きしめる)」


エンダァァァァァァ イヤァァァァァァ!


もし優依ちゃんが口に出していたらこんな感じになってましたw
杏子ちゃん√突入!
途端にヤンデレからデレデレシフトチェンジしますが黄色と紫は黙っていないでしょう。
間違いなく修羅場起こりますw

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