魔法少女オレガ☆ヤンノ!?   作:かずwax

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休日に外出できないのが辛い。
大人しく執筆しろってか・・。


89話 女が集まれば修羅場の出来上がり☆

「・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

「・・粗茶にございます」

 

 

部屋全体に殺気が充満した重苦しい空気の中、俺は震える手で淹れたてのお茶を彼女たちの前に差し出す。

過剰な緊張感と恐怖のせいで身体が滅茶苦茶震えてまくってて、カップがカチャカチャと音を立てて止まらない。

 

 

怖い。ただひたすら怖い。

いっその事気絶してしまいたいくらいだ。

 

 

何故こんなに緊迫した空気になっているかって?

それは俺の目の前にいる戦闘民族共が漏れ出してる殺気のせいだ。

は?何だそれは誰だって?簡単だよ。

 

 

俺の目の前でマミちゃんと杏子が殺人鬼みたいなおっかない目ぇして睨み合いしてるんだよ!しかも何故か俺の部屋で!机を囲み俺を挟んで対峙する形で!

 

勘弁してくれよ!俺の部屋がとんでもない修羅場に成り果ててんじゃねえか!

今にも殺し合いが始まりそうで洒落にならん!

壊れない?俺の部屋、二人暴れ出して原型留めないくらい壊れない?

むしろ家が全壊しない?更地確定しちゃうんじゃないのこれ。

 

 

よりにもよって魔法少女の中でも一、二を争う戦闘力を有するベテラン二人をどうして我が家に入れてしまったのか?どういう流れでこういう事になったのか?

 

 

それはきっと先ほどの出来事が原因だと思われる。

 

 

 

 

↓以下、回想シーン

 

 

「佐倉さん、どうして優依ちゃんに抱き付いているの?」

 

 

杏子引率の遠足in使い魔の結界は色々あったが何とか終息を迎えた。

しかしそれにほっとする間もなくどこからともなくマミちゃんが現れてあわや修羅場再開まで秒読みと化した。

 

おそらくマミちゃんは魔女を倒して戻ってきたは良いが何故かいなくなった俺を探しにこんな所までわざわざ来てくれたのだろう。

それは非常にありがたいが、何もこのタイミングに来なくても。

 

ただでさえ昨日は殺し合った程の険悪な二人だというのに今、俺は杏子と抱き合った、もとい抱き付かれた状態だ。こんな光景を見られたんじゃ、また俺が誘拐されそうになってると余計な誤解をされかねない。

 

 

急いで誤解を解かなければ!・・解ける気がしないけど。

 

 

無事な俺の姿を見て安心したのかマミちゃんはほっとした表情をしている。

そのせいでこっちは黙っていなくなった事への罪悪感がダイレクトだ。連絡しとけばよかった。

 

 

「優依ちゃん良かった・・無事みたいね。心配したのよ?私が目を離してる隙にまた危ない目に遭ってるかと思ったわ」

 

「え?は、はあ・・」

 

「・・・・・ふん」

 

「ちょ、杏子!挑発しないで!」

 

「何度も電話したし、メールも送ったのに優依ちゃんから全く返事を貰えなくて焦ったのよ。おかしくなるかと思ったわ」

 

「既におかしいだろ」

 

「お願いします!一瞬でも良いから黙って!」

 

「それで・・」

 

 

とても優雅に微笑んでいるマミちゃん。

この笑顔を見ればとても彼女が生死と隣合わせなスリリングな毎日を送っているとは到底思えない。思えないんだけど・・。

 

 

「私がいない間に一体何があったのか・・きちんと説明してくれるかしら?」

 

「・・・・・ひぇ」

 

 

何だろう、この重い苦しい空気は。

にっこりほほ笑んだマミちゃんは大変可愛らしいのに纏うオーラは殺気立ったスーパーサ〇ヤ人のような荒々しさだ。今にもその金髪が逆立ちそうな気がしてならない。

 

 

あとこの雰囲気なんとなくアレに似てない?

 

彼女に浮気現場を見られたような馬鹿な彼氏の重苦しい雰囲気に。

客観的に見ればこれは女の子同士抱き合ってるのをたまたま知り合いの女の子が見つけたといった何て事ない現場のはずなのに、とてもそんなほのぼのした雰囲気ではない。

 

どうしてこんな恐ろしい事に・・。

 

 

「・・・・・」

 

 

ニコニコ微笑みながらじっとこっちを見つめて来るマミちゃん泣きそうなくらい怖い。

笑ってるけど全く笑ってない目でガン見してくるのやめてほしい。軽くトラウマになりそうだから。

 

 

「ハン、くだらねえ」

 

 

耐えきれない程のプレッシャーに水を差すように杏子の声が割り込んだ。

あ、違った。水を差すんじゃなくて油差したやつだこれ!

笑っていなかった黄色い目が今や明確な殺意を孕んだものに変貌して赤を睨んでる。

あんな顔で睨まれたら俺は間違いなく恐怖でおかしくなると自信がある程のおっかなさだ。

 

しかし杏子の方は袖吹く風のごとく軽く受け流している。

それ所かマミちゃんの存在を感知していないかのようにガン無視して「ハン」と鼻で笑った後、再び俺の方に向き直って抱きしめてきた。

 

 

意味分かんない。でも何だろう・・嫌な予感が・・。

 

 

「!」

 

 

正面から押し寄せる荒々しい威圧感。

慌てて何事かと周囲を見渡すと発生源はマミちゃんだった。

とてもじゃないけど女の子が滲みだしていいような可愛らしいものじゃない。肌がビリビリと痛みを感じる程の殺気だ。

 

幸い俺は杏子に抱きしめられているから奴が防波堤となって黄色の殺気を受け止めてくれているから軽症だ。

もし全身で殺気を浴びていたらすぐさま視界がブラックアウトしていただろう。怖や怖や。

 

 

ナイスだ杏子!守ってくれるなんて君はなんて良い奴なんだ!

・・あれ?マミちゃんが怒ったのってコイツのせいなんじゃ・・?

 

 

 

―ドォン!-

 

 

 

 

「優依ちゃんを離しなさい!離して!!」

 

 

「ひ!?」

 

 

嵐は突然やってきた。

いきなりキッと表情が険しくしたマミちゃんの手のひらに黄色い光が集まっていくのが見えた瞬間周辺に響く銃声。気づけば目の前には白い煙が出ているマスケット銃の銃口をこちらに向けている黄色にクルクルが見えた。

どう見てもこれはあのイカレたクルクルが俺がいるにも関わらず発砲してきたとしか見えなかった。

 

 

 

「何してくれてんだあああああああああああああ!!」

 

 

怒りに満ちた俺の声が路地裏に響く。

 

 

危ねえなおい!

挨拶代りに撃ってくるなんてどこの暗殺者だ!

 

おい勘弁しろよ。俺を狙う暗殺者なんてストーカー紫でお腹いっぱいなんだよ!

最近の巴マミは魔法少女どころか人間として進んじゃいけない方向に進んでるとしか思えなんですけど!

何度「みんな死ぬしかないじゃない!」を繰り返すつもりだよコイツ!?

 

 

味方であるはずの奴に撃たれるなんてかなりヤバい事を経験したけど実際、俺は無事だった。

 

というのも肝心の銃弾は俺たちがいる一歩手前、正確に言えば杏子が展開した結界によって弾かれてしまったからだ。かなり頑丈に作ってあるのかあの過剰な攻撃力を誇る銃撃でも傷一つついてない。杏子のファインプレーが光ってるわ。

 

 

心の中で杏子にGJを送る俺の視界に映るのは悔しそうに唇を噛むマミちゃんの姿。

杏子に阻まれたのが余程気に入らないらしい。可愛い顔が台無しになりそうなくらい顔を歪めている。

試しにもう数発撃ってみるも結果は同じで阻まれてしまった。

 

 

 

ドオン ドオン ドオン

 

ガキン ガキン ガキン

 

 

 

「うわぁ・・」

 

 

壊せないのが悔しいのか若干自棄を起こしてそうなマミちゃんは馬鹿の一つ覚えみたいにひたすら引き金を引くも結界に阻まれていた。火花の散る場所からして狙いは明らかに杏子。飛び散る火花はかなり大きいもので結構洒落にならない。

鬼気迫るマミちゃんの様子に内心ドン引きだ。

 

 

「・・・・っ!」

 

「あの・・マミちゃん」

 

「ククク」

 

「?」

 

 

どうにかマミちゃんを宥めようとした矢先、耳元で聞こえる笑いを噛みしめたような声。この声は杏子のものだ。

さっきからずっと俺の首元に顔を埋めてるから表情は分からないが笑っているのは確実だろう。

だって杏子の身体が小刻みに震え「クク」と声が漏れてるから。

 

 

「・・ッアハハハ!」

 

 

ついに耐えきれなくなったのか顔を上げた杏子は口を大きく開けて笑い声をあげている。

その様子に俺もそして半ばキレてたマミちゃんでさえ驚いて杏子の顔をまじまじと見つめている。

 

 

「ハハハ!そんなナマクラ弾じゃ当たらねえよ。残念だったな!」

 

 

ポカンとこちらを見つめるマミちゃんが面白いのか杏子はとても楽しそうに、それはそれはもう心から楽しそうな声を上げてながら笑いすぎて出たであろう目尻を涙を拭っている。

ついでにマミちゃんに見せつけるかのように俺を更にキツく抱き寄せるという火に油を注ぐオマケ付きで。

 

 

「うわひゃ!」

 

 

案の上それを見たマミちゃんは再び発砲し、杏子の目の前で派手な火花が飛び散った。

今のは明らかに杏子を狙っていた。

しかも狙った所は胸元のソウルジェム・・明らかに殺りにきてるよあの娘!

 

 

 

ドドドドドドドドドド!

 

 

「ちょっとマミちゃんやめてええええええええ!!」

 

 

埒が明かないと判断したらしく複数の銃を出現させて攻撃力をUPさせてくる。

絶え間ない怒涛の銃撃は悲しい事に見慣れた光景だ。そして相変わらず威力は凄まじい。

どう考えても俺の身の安全を考慮してくれているとは思えない程の威力だ。

これ当たったら俺即肉片に変わるだろうな・・。

 

 

しかし手加減なしの怒涛攻撃は功を成したのか今まで傷すらつかなかった杏子の結界にヒビが入っている。

このまま壊れるのも時間の問題だろうが杏子も負けていない。崩壊しそうな結界を補強しつつ更に何重にも結界を施していく。

 

壊しては直すのイタチごっこ。

おそらく勝敗はどれだけ魔力が続くかにかかっているだろう。

 

手に汗握る展開だが正直よそでやってくれ。

死が間近に迫ってるし異次元過ぎて俺付いてけないから・・。

 

 

「面倒になったら銃の乱射で終わらせる。芸がねえな」

 

「その無駄口を叩く余裕はいつまでもつかしら?」

 

「アンタの方こそ無駄な真似してどうすんだよ?こんな程度じゃ足止めにもなんねえぞ」

 

「安心してちょうだい。ここから逃がすつもりはないわ。そもそも貴女は二度と風見野に帰る事も出来ないんだから」

 

 

怖っっっわ!それ遠回しに殺すって言ってません!?

 

 

「マ、マミちゃん・・? !?」

 

 

最初は錯覚だと思った。いや思いたかった。

何度目を擦っても目の前に見えるその巨大なそれはどう見てもティロ・フィナーレの砲台だ。

 

 

ティロ・フィナーレ(特大)が俺に向けてるううううううううううううう!!

 

 

確実に殺しにきてる!確実に杏子殺しにきてる!

赤を殺すためなら俺が犠牲になっても構わないってか!?それだけ杏子嫌いなのかお前!?

 

多分最初の方は俺がいるから巻き込まないように加減してくれたと思うんだけど今はどうだ。

『俺の命<<<杏子への殺意』に切り替わっちゃった!

どうみてもあれ俺もろとも杏子を始末するつもりだよ!どんだけ杏子を殺したいんだよ!?

 

 

 

「待てえええええええええええ!馬鹿!阿保!クルクル!俺を殺す気かあああああああああああ!!」

 

「だってもう、こうするしかないでしょ!?このままじゃ佐倉さんに優依ちゃんを・・!」

 

「そんな悲壮な顔向けながらこっちに砲台向けんな!それ当たったら俺死ぬんですけど!」

 

 

滅茶苦茶泣きそうな顔してるくせにティロ・フィナーレ発射準備の手を止めないマミちゃん恐ろし過ぎる!

これは下手に刺激したら駄目だ!下手すりゃ即お陀仏だ(俺が)

 

 

ここは慎重になってマミちゃんを落ち着かせないと・・!

 

 

「ハン!良い表情だなマミ。これで少しはアタシの気持ちが分かっただろ?目の前で大事なモノ盗られる気持ちがさ。ザマーミロ!アハハハハハハ!」

 

「杏子てめえええええええええええ!!」

 

 

よりにもよって一番の刺激物である赤が黄色を煽ってきた。

すぐさま口を押さえつけようとしたけど効果はなし。ガッチリ両手固定されて動けません。

 

 

「あっはは!悔しいだろマミ?分かるぜその気持ち。アタシはずーっとそうだったからな!まだまだこんなもんじゃ足りねえな。もっと傷ついてもらうよ!」

 

 

何がそんなに面白いのか杏子は至極愉快そうな笑い声を上げつつ、マミちゃんを見据える。しかも今度は俺の顔を引き寄せて幸せそうに頬ずりしてきやがった。

暑い。ただでさえ体温高めのコイツが近くて暑いのに更なる密着度となったせいで脱水症状起こしそうだ。あれ?さっきのこんな事なかったっけ?

 

 

「・・・っ」

 

 

杏子のこの密着はマミちゃんを揺さぶるには何故か十分な効果があった。

現在彼女はこの世の全てを絶望したかのような表情でこちらを見ている。

その目には溢れんばかりの涙が今にも・・あ、零れた。

 

 

「そんな・・嘘よね優依ちゃん・・」

 

「? ・・ひ!」

 

 

あああああああああああああああああ!!

マミちゃんのソウルジェムが急速に濁っていくううううううううううう!!

何で!?どうしてこんな事に!?

 

 

 

ふと何気なく髪飾りにあるマミちゃんのソウルジェムを見ると元の黄色が原色が分からなくなる程、現在進行形で黒く濁っていた。すぐにでも真っ黒に変わり果ててしまいそうな勢いだ。

 

 

「応援してくれるって言ったじゃない・・傍にいてくれるって言ったじゃない・・」

 

 

茫然とした表情で涙を流す姿は非常に痛々しい。

聞き取れるかどうかの瀬戸際で独り言を言う姿は目を当てられない。

 

 

このままではマミちゃんが魔女化まっしぐら!

せっかくマミるを回避出来たのにこれはあんまりだ!

何かないか!この流れを中断させる良い方法は!?

 

 

「おいおい、これくらいで根あげんなよ。まだまだやられたお礼したいくらいなんだから」

 

 

頼りになりそうな杏子はとても愉快そうにマミちゃんを見つめている。

 

駄目だ。コイツは頼りにならない。

知らないとはいえよりにもよって自ら師匠を魔女化へ導こうしてるとか性質が悪いわ。

・・魔女化の事知らないんだよね?

 

 

ここはもう思い切って杏子に真相を話して協力はしてもらえなくてもせめて煽るのやめてもらうように頼まなきゃ!

 

 

 

「このまま優依ちゃんを盗られるくらいならいっその事全員ここで・・」

 

 

 

ただならぬ不穏な気配がマミちゃんの身体に充満している。

思いつめたその表情のまま、なにやらもぞもぞと手を動かしている。

 

 

「!」

 

 

出てきたのはこちらに向けられたものと同じ大きさのティロ・フィナーレ×10

それが所狭しと並べられ、杏子に逃げられないようにか知らないが俺達三人を取り囲むように設置されている。

 

 

ああああああああああ!何ですかこれ!?盛大な無理心中!?

そんなもん撃たれたら間違いなく木端微塵ですから!

コイツマミるの峠超えても根本は同じかよ!結局みんな死ぬしかないじゃないってか!ふざけんな!

 

これはまずい!このままじゃティロ・フィナーレのオンパレードで人生にフィナーレを決められちゃう!

急げ!考えてる時間はない!

とにかく何でも良いからマミちゃんの気を引かなくちゃ!

 

 

 

「は、話し合おう!」

 

 

 

気づけば俺は杏子の腕の中でもがきながらそう叫んでた。

出てきた言葉は毎度おなじみの言葉でした。

 

 

俺ってどうしてこれしか言えないんだろう・・?

仕方ないじゃんか。

どこぞの死を招くノートを使う変顔の天才と違ってこの平凡な頭ではそれ以外の方法なんて全く思いつかないんだから。

 

それはともかくこの二人に今必要なのは腹を割って話し合う事だ。

手よりも言葉を出させないと。技を出す前に本音を出せ。

 

一番良いのは二人だけで話し合ってお互い納得できるのが理想だが難しいだろう。てか絶対無理じゃん。

昨日の殺し合いを見てるのでお互いだけで話し合うとか百パーセントありえない。

顔を突き合わせただけで間違いなくバトル開始しそうだ。

 

 

だから滅茶苦茶嫌だが俺がお膳立てしてやるしかない。

話し合いというのは第三者がいた方が頭に血が上りにくいというから俺が中立に立った方が良いだろう。

もっとも最悪お互い血が上って暴走してしまった場合は巻き添えで俺の死が確定するリスクがあるがそれを差し引いても話し合いが必要だと踏んでいる。

 

なんせこれからが戦いの本番なんだから・・ハハ・・。

 

 

「俺が見た限りだけどマミちゃんも杏子もロクに話し合いもせずに力でねじ伏せようとしているようにしか見えない。コンビを組んでた仲だってのにそれはあんまりなんじゃない?」

 

 

突然叫んだ俺にマミちゃんと杏子はじっとこちらに視線を向けてくるのでたじろぎそうになるがここは退くわけにはいかない。攻めるなら今しかない!

 

 

「どのみち戦うにしてもさ一回くらい話し合いの場を設けておくのは悪くないと思うんです」

 

「・・確かに、それは・・」

 

「でしょ?お互い誤解してる部分があるかもしれないし、やっぱりここは一度でも腹を割って話し合う訳にはいかないかなー?っと」

 

「する訳ねえって言ってんだろ。二度も言わせんな。マミと話す事なんて何もねえよ」

 

「! そういう事よ優依ちゃん。私が良くても肝心の佐倉さんが応じなきゃ意味ないわ」

 

「げ!ちょっと落ち着いて二人とも!」

 

 

ああもう!何でこうなるかな!

せっかくマミちゃんは納得しかけてたのに杏子が余計な事言うから振り出しに戻っちゃったよ!

これは先に杏子の方を説得しないとどうにもなんないな。

 

 

「杏子!」

 

「あ゛?」

 

「(怖っ!)えっと・・どうしても話し合い出来ない?」

 

「何でアタシがそんな面倒な事しなきゃなんねえんだよ?欲しいものは手に入ったんだ。とっととズラからせてもらうぜ」

 

「・・え?見滝原を狙ってんじゃないの?」

 

「それはまた今度でも構わない。他に優先したい事があるし」

 

「いやでもですねマミちゃんこのまま放っておくとかなりマズいんですけど・・」

 

「アタシは馴れ合うつもりはねえよ。・・マミの奴死ぬつもりだったんだろ?どうせならあのまま死んでくれた方がこっちとしてはラッキーだったんだけどな」

 

「えー・・そんな事言っちゃう?」

 

「ホントに堕ちる所まで堕ちたわね佐倉さん。せめてもの情けでここで貴女の生涯を終わらせてあげるわ」

 

「あの・・お二人さん・・」

 

 

俺の声は二人にはもう届いていなかった。

二人の目に映るのは嫌悪感まるだしの敵の姿なのだろう。

何をそこまで二人が憎み合うのか俺には分からない。分からないがこのままではまずい。

 

 

必死に考えた。この状況を打破できる術を。

そして俺はある決断をした。

 

 

スッパリ諦めよう!

 

 

悩み過ぎた俺は一周回ってある種の悟りを開いた。

 

 

何事も諦めが肝心だ!手を尽くす手段がないのなら仕方がない!

俺の愛するぐで〇ま(スライス)がそう言ってたんだし。

スッパリ諦めようって!

 

だから俺は諦めて帰る!後は当事者の問題です!

 

 

「分かった!じゃあ俺は帰るから!2人とも気の済むまでとことんやってくれ!」

 

「! お、おいちょっと待て!どこに行く気だ!?」

 

 

せっかく邪魔しないように帰ろうとしたのに慌てて俺の腕を掴んだ杏子に引き戻される。解せん。

 

 

「・・どこって、自宅。家に帰るんだけど」

 

「はあ?アタシが許すと思ってんのか?」

 

「何で杏子の許可がいるんだよ?話し合い出来ないなら俺、杏子と会う意味ないし取り敢えず帰る。戦うなら好きにどうぞ」

 

「帰すわけねえだろ。ふざけてんのかテメエ?」

 

「ふざけてねえよ。こっちは大真面目だからな。マミちゃん!君もだぞ!」

 

「え!?」

 

「いやなに私も!?みたいな顔してんの?君もだから。喧嘩するならさっさと始めなよ」

 

「え、えっと・・」

 

「あー、言っとくけど俺当分二人と会わないから。命が危ないし。頭が冷えて話し合い出来るようになったら会いにいくよ。それまではお互い気が立ってるだろうから二人には絶対近づかないよ。取り敢えず仲良く喧嘩しなー」

 

「そんな・・」

 

 

一度諦めの境地に達するとそれまで気にしていた事は案外どうでもよくなるらしい。

今まで溜めに溜め込んでた不満の一部が噴き出している。思ったよりも俺はストレスを感じていたのか遠慮なしな言葉が出てきてマミちゃん再び涙目になっている。

 

これは仕方がない。爆発するよりはマシだろう。

二人にはしばらく会わないようにしよう。連絡は・・紫やピンクを通せばいっか。

 

 

「杏子、俺そろそろ帰りたいんだけど」

 

「・・・・」

 

「杏子?」

 

 

遠回しに手を放してくれと言ってるのが通じてないみたいだ。

更にギリッと力を込めてくるものだから思わず顔を顰めてしまう。

 

 

「杏子、あのさ」

 

「・・・・・・分かった」

 

「え?」

 

「話し合いしてやるよ。おいマミもそれで良いよな?」

 

「・・ええ、問題ないわ」

 

「え?」

 

 

突然の事態に訳が分からないまま結界を解いた杏子は俺を手を引いたままマミちゃんの方に自ら歩み寄っていく。まさか俺を戦いに巻き込む気か?

思わず警戒する俺だったが杏子に戦う意思がないと判断したのかマミちゃんの方もスタンバイさせていたティロ・フィナーレ方を解除して待っている。

 

 

「え?え?」

 

「ほら、行くぞ」

 

「さあ、行きましょう」

 

「え?ちょっと引っ張んないで。てか、どこに行くの!?」

 

 

状況が全然理解出来てない俺は至極まともな疑問を叫ぶ俺を二人は阿吽の呼吸で引きずりながら迷いなく歩を進めた。

 

 

↑回想シーン終了

 

 

 

で、訳も分からず二人に連行されて辿り着いた場所がまさかのマイホーム。

ここで話し合いするって言うから俺はガチガチに震えながらおもてなししてるって流れ。

 

 

・・・・・。

 

 

いや冗談じゃねえぞ!俺の家を戦場にするつもりか!

何当たり前のように俺の家に上がり込んでんだこいつ等!?

久々に帰れたと思ったらとんでもねえ死亡フラグまでセットで付いてきた!

 

 

くそ、逃げたい!でも逃げられない!

そもそも逃げるという選択肢は存在しない。

どうしてかって?そんなの俺の部屋を見れば一目瞭然だ。

俺の部屋にあるドアと窓、それらに意識を向けてほしい。

 

 

黄色いリボンと赤い鎖でぐるぐる巻きの雁字搦めだからな!

 

 

ネズミ一匹通す隙間もないくらいびっしり張り巡らされている。

二人は邪魔が入らないようにって言ってたけど絶対嘘だ。

 

どう見ても俺の逃亡を阻止するためのものにしか思えないんですけど!

その証拠に外よりも中の方が厳重に配備されている気がする!

俺の部屋がまさかの出口のないプリズンに!

 

 

「え、えーとかつては組んでた仲なんだし、積る話もあると思います。何か言いたい事はありますか?」

 

 

逃げられない自棄っぱちとなけなしの責任感でどうにか目の前のおっかない二人に話しかける。

 

ちなみに俺の言いたい事は一つ。

早く帰ってくれ、ただそれだけだ。

 

 

「そうね」

 

「アタシが言いたい事は一つだけだ」

 

 

そう言って杏子はゆっくりと立ち上がった。

心なしかマミちゃんを見下ろすその目は冷え切っているように感じる。

 

え?何で立ち上がるの?

 

 

「!」

 

「マミ、お前を倒す」

 

 

突如出現した赤い槍はマミちゃんの首筋に止まる。

どうやら話し合いは話し合いでも物理の方らしい・・・泣きたい。




今回の黄色vs赤の舞台は優依ちゃんの部屋!
果たして優依ちゃんは無事に部屋を守りきる事ができるのか!?

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