主を無くした、一室は静まり返っていた。
僅かだが、水滴がリズムよく床へと落ちる。
ーーーぴしゃん
ーーーぴしゃん
机と椅子、本棚しかない家具。
そして、誰も居ない部屋というものは、案外響くのだ。
「おいおい、勘弁してくれよ」
20代に見える、細くしなやかな印象を植え付ける彼は、真っ黒な髪をワシャワシャとかき上げると、大きくため息をついた。
自分の監視対象を見失ったとは、とても報告できない。
そんな事をすれば、ボンジュイは大騒ぎになる。
ましてや数日前、闇による゛殺人゛が起こったばかりだ。
今、連中を刺激するのは、極力避けたい。
デモンは頭をフル回転させたが、良い案は浮かばず、結局気の知れたグライアに相談する事にした。
もしかしたら、探し人もそこに居るかもしれないーーと、あり得ないと思いつつも、自分を納得させる。
思えばこの日をきっかけに、彼の回りは少しずつ変化がおき始めていた。
「ふふ、行ったようね」
隠れていた空間からスッと現れた少女はわずかに微笑をたたえていた。
16~18程度に見えるが、白のローブに殆ど純白に近いプラチナブランド、まさに全身抜けるような白だった。
唯一その瞳だけがわずかに赤みががったぶどう色で、ガーネットの一種に似ている。
華奢で生気をあまり感じないのだが、本人はいたって普通だった。
「ごめんね、デモン。ルゥとの約束だから。怒られてちょうだい」
本当に小さく、酷い事を吐き捨てると、少女は作業の続きに取りかかる。
見えないが、この部屋には膨大な構成点が展開されている。
これは普段、少女の仕事に使われるものだが、一部を書き換え、ルゥの魂へ接触を持たせる。
もちろん無断でやれば、明らかに人権侵害だが、あいにく当人の許可はもらっているのだ。
「当人次第だけど、今日中には出来そうね」
馴染み始めた術式を見届けると、少女は魔法の痕跡を、構成点以外は消し始める。
いわゆる証拠隠滅を図っているのだが、これが一番手間がかかりそうだった。
魔法の扱いにおいては、彼女の右に出るものは今のところ居ないが、油断はできないのだ。
何故なら今自分は、ラー一族に対する裏切りともとれる行為をしている。
元々同じ一族とは思っていないが、ある程度従ってはいた。
けれどそれは、少女のもくろみの上の、あくまで仮初めのモノ・・・
彼女の事をラー一族の上層部は図れないで居た。
そのために、デモンという監視役をつけたが、お世辞でも上手くいっているとは言えない。
現に、ルゥに課されるありとあらゆる検査をすり抜けるシステムが、完成しつつある。
「早くこれに気付かないと、逃げられなくなるわよ」
自分にできるのは、上手く行けばーーという可能性の提供でしかないと分かっているとはいえ、少々お膳立てしすぎたか?と思う。
周りが思ってるほど、今のルゥは大人ではないし、弱くもない。
イジラシイくらい我慢強い子供だ。
もしかしたら、自分は我慢ならなかっただけかもしれないーー色々な理由をつけて、ルゥに協力することにしたが、しばらくやる事はないだろう。
そっと、部屋を閉じ
デモンの帰りを待った。
モノローグ部分なので、動きはありません。