大忍び刺しは流派技にて最強   作:杜甫kuresu

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言っておきますがこの梟、割と「大忍び刺しに関わる殺し」以外が並なのはマジです。後梟らしからぬ時もある。


突き抜ければ多分勝てる

 さて、俺がどうやって大忍びの偽物になれたかの簡単なご都合主義の解説をしておこう。

 何、構えなくていい。とても簡単な事だ。

 

 俺は突き以外に、正確には「大忍び刺し以外」の刀の構えをほぼ捨てた。アレだけを追求し、連なる動きだけを俺は探求した。

 剣士としてはさぞ愚か。

 

――が。

 忍なぞ、殺す決め技は一つで十分という話らしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「突きだけを極めた忍、人がそれを大忍びという。それがおかしいか?」

「おかしいねぇ。俺は…………実力なんて無い」

 

 酒の回った赤い顔が、影を落としながら声を吐く。背を丸くしても大柄な男の筈なのに、横にいる男の表情を見ると何だか小さく見えてしまう。

 

――剣聖。顔を真赤にした梟の横で酒をぐびぐびと飲む男は、そう呼ばれる。名を葦名一心。国盗り戦の葦名衆を率いた傑物であり、また葦名家を起こした戦いの鬼。

 それを梟は「主人公」と呼んだ。未だ意味を知るものは少ない、彼だけの旧い言葉だ。

 

 今回の宴。何処からともなくわらわらと人が湧いて始まった突然のものだったが、発端である一心は気づけば梟と共にその喧騒の輪からは消えていた。

 正確には同じ場にいるが、空気感が別だ。

 

 一心が一瞥を添えて語る。

 

「おぬしはその太刀捌きを『儂が用いては突くだけの粗末な技』と卑下したな」

「何か違うかよ」

「まるで、違う」

 

 また酒をかっ喰らうと、ひゅうと息を吐く。

 

「迷えば敗れる。儂はそれだけを信じておる」

「よく言ってたな。それで?」

「即ち、敗れぬものに迷いはない。同様にその鋭さに、曲がる所など有るわけもなかろうよ」

 

 一心はいかなる時にも迷いを捨ててきた。

 

 迷いは敗北を産む。敗北は、また色々な不幸を呼ぶ。戦の中では少なくともそうであり、ひいては生きるとはとまで言い切れる確信は強まっていた。

 梟はハッと、鼻で笑う。

 

「それは大きな間違いだ、剣聖さんよ。俺は迷ってるし、迷うし、そして敗れる」

「まだ言うか」

「言いますとも。迷えば敗れるって言うんなら、俺に負けた奴がたまたま迷ってただけなんじゃないかね」

「大きく出るではないか! 儂には到底分からぬ事を抜かす!」

 

 けたけた、と機嫌良く笑う一心。彼は、実はそんな歪んだ梟に興味があった。

 

 確かにその有り様には迷いが有った。一心の手元で力を振るった時も、出会った時も、今も。確かにゆらぎはかの薄井右近左に秘められている。

 しかしながらその刀は輝いている。確かに芸は一つであろう。なのにそれは、「一つだから良いのだ」と一心を感服させる何かの光が映っていた。

 

 一心にとって初めての理解できぬ、なのに己の上であるかもしれない存在。それは興味深くないわけがない。

 

「しかし忘れるなよ右近左。おぬしの性分を愚弄はせんが――――――――それは敗れなかった者が語るには、残酷過ぎる」

「殺したやつに対して殺してやった、以上に残酷な現実があるのか?」

「それも然り! だが、残酷なのだ。忘れるな、決してな――――――」

 

 梟は彼の言葉に耳は貸すが、共感が難しい。

 彼が迷ってきたのはやはり事実。本当にこのまま予定通りに始めて良いのか、それだって迷いっぱなしだ。

 

 そもそも、今に至るまで数多の苦悩が有った。

 本当に己が梟なのか。本当にこの技は天下に知らしめるに足るのか。本当にこれだけを突き詰めて正解だったのか。本当に名を轟かせて意義があるのか。本当にそんなことのために――――――倅にまで手をかけてしまう大義が有るのか。

 

 道理が通っても、彼の中で筋が通りきらないまま歩いてきた。これは梟にとって大変な重荷である。

 

「マジでこんな阿呆のままで良いのか、それは分かんないからな」

 

 そして彼は、成長できなかった。

 同じ立場にあるものが居なかったから、比べられず、そして成長しなかった。彼の心は未だ、刀を取った在りし日のままで凝り固まっている。

 

 一心の目が、少しきらめいた。

 

「――――――成る程。迷うことに迷わぬ事…………決意をあぐね続けている事も、歪みながらも強さ足りうる、か」

「そんな良いもんだろうか? 一心、俺はまるで分からんよ。大忍びって言うのも、実は形だけじゃねえのかねえ」

「馬鹿者。大忍びに決まっておるわ、何せおぬしはいつも”まじ”であるからな」

「はっ! 意味分かんないくせに」

「分かるとも。おぬしが言わんとする事ぐらいならな」

 

 そうなんだろうか。

 薄っすらと梟は考えつつ、またぐびりと酒を飲む。

 

 直後に一心が破顔するなり梟の肩を奪う。

 

「皆の衆! 右近左がまだ飲み足りぬと宣っておるぞ、酒を注いでやらぬか!」

「は? 言ってないぞそれ!?」

 

 躍り出たのは赤鼻の特徴的な大男。いつも一心を慕う槍持ちの騎兵で、梟は「隙だらけで大忍び刺しが刺さりよる刺さりよる」と煽り立てて尚更鼻を赤くしている。

 

 もっぱらその光景は部下にも伝わっていて、実際に木刀であの大振りな突きを何度も見舞われる男を晒し者にしては、梟は「使える主は人のようではあるまいか、鬼のようなど真っ赤な嘘よ! おぬし達が付き従うは、何も変わらぬ、しかし強い人の子よ! まあ儂のが強いが!?」と言って男の闘志に火をつけていた。

 

 しかし褒めているのか馬鹿にしているのかは全く不明瞭で、というより当人は馬鹿にされていると思っている。

 

「梟。儂が注いでやる」

「エッアッイヤ。オニギョーブサマ」

 

 明らかに慄く梟に大男が詰め寄る。

 ちなみに今も大男は自慢の十字槍を片手に持っており、威圧感はなかなかのものである。

 

「ははは! 言うではないか~、ん~? 儂の酒が飲めぬとぉ??????」

「俺はちょーっと注いでもらうには下賤な身分ですので? 結構ですよ? 鬼刑部殿!? 待って!? 止まれ!?」

「やかましい! 飲め! 一心様にまで阿呆な言葉遣いをしおって! このまま倒れい!」

 

 ちなみに猿酒であった。梟は今でも猿酒が大の苦手である。

 端的に言うと、すぐに吐いて倒れる羽目となる。遠くで見ていた猿のような男も大層けたけた笑いだし、それはもう大変な騒ぎとなるが、また別の話に違いない。

 

「儂はあの奇っ怪な口調を憎めぬのだが…………しかし面白きことは良きことなり! その報復、良しとしようではないか!」

「おえ…………一心、たすけ「気張れよぉ、右近左ぁ!」

「アンタも呑ませてくんのかよ――――――おええええええええええええええ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

 身の丈、まだ小童。そんな子供が、月夜に木刀片手に静かに励んでいる。

 かつっ、かんっ、こんっ、ごんっ。音の乱れは心の乱れ、親の教えを思い起こして息が荒れていく。据えた瞳を一心に丸太に向ける姿は幼くして既に忍の気配を漂わせる。

 

 名は語られない。ただ狼と呼ばれる子供だ。

 

「……よわい、か」

 

 子供ならざる静謐なつぶやき。瞬間、凄まじい滑り込みと同時に突きが放たれる。前動作すら虚ろ、それは研ぎ澄まされた剣士のそれよりは、惑わす幻術の類に踏み入る技。

 

 彼の養父が語る、己の全てであり、原点であり、最期である技。大忍び刺し。その探求に彼は明け暮れていた。

――かんっ。鋭い音、内に紛れたわずか。わずかな奥義の真髄に狼の瞳が光る。

 

「……これか」

 

 掴んだ。だが、末端。養父はきっとそう言ってまたあのきらめきを魅せつける。

 

 狼はあのきらめきに躍ってしまう。何が輝いているのかは分からない。

 剣気だろうか。

 刀そのものだろうか。

 養父の強さだろうか。

 それとも、彼だけが知るなにかだろうか。

 

 あの光の糸に、狼はいつも小さな破顔をした。

 傍から見れば何と愚かだろう。その姿はまるで道化だ。突きだけを続けるさまは狂人、もしくは知恵の回らぬ馬鹿者だろうか。きっと誰かはそう後ろ指を指すだろう。

 

 だが。

 

「――――――ふっ!」

 

 また音に、小さな輝き。

 

 だが彼は見てきた。知ってきた。受けてきた。打ってきた。

 養父が作り出した、たった一つ。しかしそれだけで乱世で「大忍び」を葦名に轟かせた、あの夢幻の光輝に満ちた奥義を。

 それが生み出した、養父の強さを。それがとうとう、葦名の城主にさえ解されたことを。酔った養父は嬉しそうに零していた。

 

『俺は本当に突きと、小細工だけでやってきてるけど――――――あの一心に認められてるから、まだまだ行けると思う』

 

 そして続いた言葉も覚えている。

 

『だからな、狼。凄くなろうとしなくていい。俺は凄くない。我武者羅にこうしてつまらない一撃を極めて、そして此処まで来た、結構馬鹿とも言われた』

『だからお前にも、まず一個。何か極めて欲しい、もう無理ってぐらい頑張ってみてくれ。頂上から多くのものを見て、選ぶんだ』

『それがどれだけ素晴らしいかって語るぐらいが――――――――俺に出来る。親父らしいことってもんなんだから』

 

 忍具も自在に取り出した器用な養父は、しかし子を撫でる手付きだけは不器用だった。それこそ、刀を握る時のそれと同じように。もしかしたら真っ直ぐ過ぎる向き合い方なのかもしれない。

 その温もりを、優しさを、狼は頓着のない子供ながら分かっている。

 

 だからその愚かと言われる行為も、そう言われるなら成し遂げてみせよう。だって、親は絶対だ。

 それが、存外悪くないんだ。だから。

 

「――――――――ふっ!」

 

 今回の突きにもまた一つ。きらめきが宿っている、小さな小さな狼の牙の光。

 彼は本当に小さく、誰にも分からないようなくらい口端だけ、そっと吊り上げた。

 

――何時か梟と対峙するであろう。今は誰も知らぬ強き狼の、降り積もるばかりの一夜のことだった。




梟(偽)は少し阿呆ですが真っ直ぐでいい人間です。一心はちょっと弱いところも含めて気にいるだろうな、と思います。

葦名一心は個人的に前作主人公感を意識されていると思っていて、だからこの物語は「SEKIRO before」の後日譚として描かれます。
主人公ポイント、具体的には
・人のつながりの中心、かつ何か大きな出来事の中心でもがいた者。
・無心流、敵としての立ち回りから見える異様な程の多芸。王たちの化身に既視感が有る。刀、槍、銃、雷、炎、掴み。此処まで網羅した敵は一心しか居ない。
・他に比べても妙な「綺麗過ぎる避け」の概念。プレイヤーキャラの特権操作のような、そういう違和感。
・迷えば敗れる、が前作の合言葉っぽい。
・隻眼の老人。実は「SEKIRO」であり、ルートの大半で「DIE TWICE」にも該当する。

という訳でこの作品の主人公は梟であり、狼であり、御子であり、そして葦名家であるとします。
個人的に一心の一文字は初期技で「始まりにして究極」みたいなものとも見えますね。
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