転生者にした理由なんですが梟が適当です。「この世界は」ってことにしてください、一心と仲が良いかは分からない。竜泉の時の溜め的に仲良さそうですけど、狼のパパということで溜めたのかもしれない。
「遅いぞ、弦一郎!」
「くっ――――!」
梟は一心に大層気に入られている。いや、体裁上そう言われるが、実際関係性は完全なる対等を当人達は認めている。
かねてから剣聖に対して、ひいては葦名家当主に対して無礼であると息巻く臣下も居たことであるし、それは未だ終わった話ではないのだが――――――少なくとも。その太刀筋を見れば、大抵は言葉を捩じ伏せるに足る。
実際、それは弦一郎も一目置いていた。
「これしき――――」
「かかったな」
弦一郎が刀に滑り込むと同時に、刀に絡められていた糸が梟の振り上げた右足に釣られて消えていく。
一体どこで絡ませたのか。そもそも今もどうやって糸を操っているのか。不可解な動きはまぼろしお蝶のそれを幻視する。
青ざめた弦一郎の瞳が闘志に燃える。
「ほう? 来るか、心意気や良し――――――」
弦一郎の獣じみた気迫混じりの突進。梟は蓄えた髭の奥で内心苦笑した。
それでも彼は無策ではなかった。振り上げた右足のちょうど真横、そちらに膨らみながら走ってくる。確かに簡単な体勢の直しで対処は難しい。
気迫、知恵。それらはかの一心に届かずとも、面影が見えていた。
だが、未熟。
「しかし老獪近き梟には、それでは届かぬぞ?」
かたかた笑って独楽のように回りだす。
木刀ごと振られた糸に絡められた弦一郎は、そのまま柱までくるくると回る梟に釣られて叩きつけられてしまう。
「――――――さて。では儂の唯一つの見せ所、末端はお見せしようかの」
「や、やめ――――――参った! ”すとっぷ”だ梟殿、これは修練――――!?」
泣き叫んだ若かりし弦一郎。彼は死ぬその時までその情けない叫びを恥じなかったし、一心も責めなかった。
「では、心ばかりは死に給え」
「おのれ大忍び――――――――ッ!?」
曰く、一心は笑って酒を呑みつつこう語る。
『あやつ、構えだけで人を殺しよる。流石は大忍びよ! 気迫で殺し、剣気で殺し、三度も殺す。忍というやつはああでなくてはな!』
寄鷹衆はハードルが高すぎて苦笑いした。
曰く、弦一郎は怖気づいてこう語る。
『あの御仁は…………その、何だ。死んだと聞いて、安心した。葦名のために死ぬべき御仁だった――――――そう、これ、も、葦名のため。恐らく、な…………うっ、腹を壊した。少し休む』
明らかに後者は私怨の感想だな、と尋ねて回った若手の寄鷹衆も陰で含み笑いをしていたという。
「やり過ぎだったかの」
「やり過ぎよな! 呵々っ!」
そうだろうか、と梟は頭を掻く。一心がけたけた笑うと寄鷹衆はやや引いている、アレを孫にされて笑える精神がイマイチ分からないと来た。
梟は元々自己評価の低い男だ。その理由は彼が「正しく梟」と呼べぬ其処に有るのだろうが、知らぬ者からすればきっとそれは謙遜極まり皮肉の類と顰蹙を買う。
一心はその全てではないが、酔った梟から末端を聞いている。故にそれには、どうとも思わないようだ。
「しかしだな一心、おぬしが一文字を打つ時のほうが余程怖い」
「儂は無闇矢鱈に打たん」
「うーむ参った。然り」
あっさり折れる。其処が一心より優れているのだと、何より一心当人がよく言う所だ。
技では柔軟性を欠くのだが、心の柔らかさばかりは梟が勝る。逆に言えば、其処が固ければ唯一つの技で生き抜けない証左でも有った。
「しかし倅から匂うものでな、儂も生易しくは出来ぬ…………」
「――――ほう?」
内心一心は「どうせ酒を飲んでは本音が漏れて、努める意味はなかろうがな」等と思ったがそこは長い付き合いだ。言うと梟が死んでしまう。
「何せ狼には、ヤンデレの才がある」
「また面白い言葉を編み出しよる、”やんでれ”とは何だ。語ってみせい」
「愛深すぎる故に狂う者のことよ…………」
さて、では彼が何故狼を勝手にヤンデレ認定しているか。これは単に、育ててみた結果としての感想だけでは語りきれない。
梟が此処で触れているのは通称「修羅END」。御子を裏切り、梟に従い、エマを殺し、一心を殺し、そしてとうとう梟まで殺したとある修羅の末路である。
此処までは良いだろうか。ここから一気に飛躍する。彼の発想はこうだ。
『修羅ENDってつまり「御子たんと早く会わないと拙者の呼吸がヤバイ。皆殺さなきゃ」って感じだな。御子たんLOVE過ぎて狼は邪魔する奴を全部斬るヤンデレ修羅ENDマンになった…………?』
大体RTAの見過ぎである。見えないというのも嘘であるが、ともかく見過ぎである。普通は裏世界を通ったりしてまで御子まで到達するRTAに挑戦する狼は居ない。
「”やんでれ”とは右近左、おぬし自身の話ではあるまいな?」
「は?」
「まあよいわ、狼に捻れた慈しみをぶつけ過ぎではないか――――という話をしておるだけよ」
階段で見つめ合う子供を見て一心は考え込む。
狼と弦一郎を会わせたのは、意外なことに梟の申し出だった。元々一心は城主に威厳は求めても堅苦しさは求めているわけでもなく、快諾した。
しかし結果はご覧のざま。二人はじぃ、とまるで死合う前のように見つめ合って階段で動かない。喋っている様子もなく、エマが心配そうにあちらこちらで取り持とうと何やらしているのが見えた。
一心は向き直ると、もう片割れの忍に尋ねる。
「が。猩々まで乗ってきたのは意外であったぞ、何故だ」
「――――――さて。興が乗っただけですよ、そこの化け梟よりは分かりやすくはありませんかね」
「何だ猩々、ちょっと美人を引き取ったぐらいで猿がつけあがるものではないぞ」
食って掛かった梟に猩々が乾いた笑いで返す。
「いーえ? オレぁ天下の大忍び殿にごちゃごちゃ言おうってんじゃないですぜ。ただ、ちょっとアンタはよく分からんもので」
「食えぬ狸よりは明快よ。この前儂の倅に勝手にエマを会わせたのを忘れんぞ、余計なことをしおってからに」
どうやら猩々の掴めぬ空気が梟は苦手らしい。それと狼が妙な女に色めき立つのが心配という事である。
梟をしてもエマはその歳で目を引く美しさが確かに有った。それは「梟」であった以前からも感じていて、幾ら狼が疎くとも揺れてしまわぬか心配だ。
あまり何かを背負いすぎた忍は役立たずになる。
「大体な、梟さんよ。アンタは「忍は背負わぬことこそ第一」と見てなさるようだが、ならあの餓鬼に手を加え過ぎだぜ。こうやって歳の変わらん餓鬼と会わせるのもアンタの信条からすりゃ毒ってもんだろ?」
「――――――ふん。おぬし程度の忍に、儂の何が分かる」
「まーた強がりなさる。そんな言い方、普段はしねえしオレにも思ってねえ。逃げるしかねえだけだろ? 自分が迷ってる事にさ」
「やかましい。叩き斬るぞ」
突然剣呑な空気が漂う。子供たちまでじっと見ているのを察したらしく、一心が大きく笑って二人の肩を叩く。
「辞めんか阿呆共、辛気臭い小童が殊更辛気臭うなりよるではないか! なあ!」
「あ、いえ…………」
「「そうですね」」
遠慮がない二人に梟と猩々が呆気にとられる。言うまでもなく狼と弦一郎だ。
「お、親は絶対だぞ狼よ」
「それはそれとして鬱陶しかったら素直に言いなさい、と他ならぬ養父上が仰っておりました」
「マジかよ」
「恐らく、”まじ”であろうなあ。梟よ?」
こくこくとうなずいた狼に一心が歩いていくとしゃがみ込んでけたけた笑う。
「どうせこれの事だ、酒が入ると言うこと為すことが真逆であろう?」
「それはそうかと」
「狼ぃ!?」
「なぁ! おぬし、面白いではないか! やはり梟の倅と来ればこうもなるものよな!」
言われたい放題の梟に猩々がにやつきながら耳打ちする。
「ほら、方針。変えてしまえばいいと思いますがね。オレは」
「ええい! 我が奥義受けてみるか猿!」
いきなり立ち上がって刀を持った梟にけたけた笑って回り込んだ猩々がからかい出す。
結局この日は猩々と梟のサーカスショーを子供と一心が眺めているだけ、というような様相で夕方まで時間は過ぎていったという。
ふくろう君は突き以外はマジで大半(突きに繋げる、突きから繋がる技を除く)がクソ雑魚ナメクジな代わりに、絡め手は天才です。
だって大忍び刺しって普通に考えたら真正面から刺さらないじゃないですか。彼は頭を使うタイプなんです。