あ、今は気が乗っているので更新は早いですが突然遅くなったりもします。私は一応人間なので。
「弦一郎さま」
「何だ、梟のせがれ」
「養父上、なれなれしくは無いかと」
「一理あるな」
仏頂面でとんでもないことを言ってのける二人。何もかもが子供らしくない、と以前一心に叱られたことは彼らの中で変若水辺りに流された事案なのかもしれない。
弦一郎と狼は最近、よく会っている。一心と梟の方針で、アチラはアチラで話し、子供は子供同士ということのようだ。発端はかの大忍びからであると聞いたが、実態は誰も知らない。
そして現在。刀を持って交える寸前の鬼二人に、弦一郎が顔を顰める。
「しかし…………うっ。あの突きを思い出すだけで腹をこわした、ゆるせん」
「養父上の突きは素晴らしいものです。何の不満が」
詰め寄る狼に弦一郎が殊更呻く、かの化け梟を幻視したようだ。
「不満なきゆえの不満だ…………ッ! お前のような突き馬鹿には分からぬ悩みよな!」
「言ってくれますな弦一郎さま。俺の忍び刺しを受けたいと見える」
「やかましいぞ子犬! やるか!?」
「やってやりましょうとも…………!」
この二人、大変仲が悪い。
つばぜり合う直前、ふわりと二人の体が浮いたと思うと地面に叩きつけられる。
「二人ともすぐ喧嘩、喧嘩。おやめください」
勿論、大抵エマに二人共投げられている。まあ恒例行事だ。
涙を目に溜めはしても、流さぬのが彼らの流儀。別に誇りだとか掟だとか大層なものがバックに有るものではなくて、ただ単に泣いたら負けと言うような子供特有の意地の張り合いだ。
「エマ、取り柄が突きだけ突きも半端なこのへっぽこが悪い」
「エマ殿、こんな言葉遣いのなってない次期当主は許せぬ」
「どっちも酷いです」
「「うっ!?」」
身も蓋もないエマの止めで腹を抑えながら倒れ込む二人。
「し、しかしダメ当主さま」
「な、なんだへっぽこ忍び」
「養父上達が刀を構えています、これにて御免」
「な、何!? 忍びぃ、そういう事は早く言え! 諜報も出来ぬかへっぽこ!」
しかし力の話となるとすぐ意気投合。毎度のことながらエマはため息しか出ない。
「ショージョーの言う修羅というのはああいうもの…………?」
まさか、とくすくす笑った。
当たりなのだがまだ気づいていないらしい。
「一文字に勝とうというのは拘り過ぎだぞ、右近左」
「言うてくれまするな。儂はそれに幾度、いや歴史で今後も負ける命運と思っておりますが」
負けるというのは狼の使用頻度的な意味である。
いや実際体幹回復とダメージ重めというのはシンプルながら強いテキスト通りの効果なので勝てないというのは一理あるのだが、大忍び刺しは距離を詰めるという圧倒的なアドバンテージを持ち、一文字よりも道中攻略に使いやすいのではとも言いようは有る。何より一文字は全く忍びではないが大忍び刺しは梟が使っているというネームバリューだけで傷薬瓢箪一一四五一四個分の価値があるので忍びっぽい。それと大忍び刺しからの空中殺法は最後の狼の構えに梟の面影が有るのがエモエモ。だが一文字は強い、体幹回復が大真面目に強いのだ。しかも割に大忍び刺し程距離を取ると言った小細工が必要ないのは強い。とはいうものの、忍びが正面勝負を強いられる地味な謎要素の強敵戦においては忍び要素が補填できる。忍義手を使うと流れが乱れてならぬというKENDO系オラオラ狼諸氏、及び作者にとっては全く無視できない要素である。というか別に見た目とかだけで語りたくはないのだが設定と見た目が良すぎて其処ばかり語ってしまうのはどうかと思うのでこの話は終わりにしよう。
一言だけ言うと、狼は忍びで葦名流正統後継者ではないのでは。という話に尽きる。後一文字はダサい。いきなり中段で構えてしまうのはダサい、とても、かなり。君下段だよね?
――――――コホン。
さて。梟の構えは一部が想像する狼に似た其れではない、いや正確に言えばこの世界では狼と同じなのだが想像されるものとは別だ。
言い直そう。彼に「構え」はない。
「相変わらず刀で遊ぶか、忍びらしいと言えばらしいがな」
「違いますぞ、一心様。こうするからこそ「刺し」が意表を「突く」のです」
それを指して大忍び刺し。梟は目下そう定義している。
そもそも彼の奥義は奥義として原則機能していない。何故か。
彼が「刀を突き立てれば、もう奥義」であるからだ。それは決して彼がそう宣ったからではなく、一心はそう言う他無かったのだ。
その一撃は構えすら持たない。気づけば放たれている。
鋭さたるや骨すら砕かず突き抜いた。
速さたるや瞬きで人二人は優に詰めた。
気迫たるやそれだけで死を幻視した。
そしてその正確さたるや、鞘をそのまま放つことで相手を絶命させた経緯すら有る。
しかしそれを語ったのは葦名衆の、彼と親しいものだけだ。喰らえば必ず死んだ故。
故に刀を手先で回し、小刻みに脚が韻を踏み、体の力が抜けきろうがもう射程範囲内の時点で負けている。
近寄ってはならぬのだ。近寄れぬ概念こそが、ある種奥義と呼べる所以だろうか。そもそも彼は深く考えぬ為答えはない。奥義など、殺せれば良いだけと。
彼の思う本来の大忍び刺しは正しく構えを取るものだが、それは最早分派の一端と取られてしまっているようだ。
「とうとう儂でも奪えなかった大忍びの技、今一度見せい」
しかし梟には一心の一文字がよほど恐ろしい。
曲がらないのだ。しかも弾けない。そして何より、突きに正確にぶつける恐ろしい練度が有る。
恐らく一心が最も最初に覚えた基礎であり、そして一心の全てが篭もる一撃なのだろう。そう梟は察する、天才を恐れる理由はまさしくその異様さに有った。
無骨に、正面から叩き斬る。反撃が来るならば、もう一度叩き斬る。愚直で最短の発想。素早く二度目を打てぬ「とのたまう」梟にとっては脅威である。
「一心様。それは無理な相談でしょう――――――」
梟が少しだけ、殺気を放ってせせら笑う。
「殺す気が無ければ敢えて”芯”は外しております。死ぬ者だけが、儂の奥義を知るのです。言ったでしょう?」
その眼に一心のくすぶった闘志が滾る。話はもう耳に入らぬ、にやりと笑って叫んだ。
「来い――――――早う!」
「はぁ。無茶を仰られるものだ、剣聖殿には参りますわい――――――っ!」
その光に、何度でも狼は魅せられる。
その力強さに、何度でも弦一郎は手を伸ばす。
死ぬ間際にしか知れぬ奥義と、それすら砕いたと梟に言わしめた剣筋。
彼らは何時かそれを知りたいが故に、自然と木刀を手に取っていた。もう見ていたのは、互いの眉間とその剣先。
――大忍びと剣聖の余興は、もうエマだけが知る極致となってしまっていた。
語る予定ゼロなことはテキストで誤魔化せ。
余談ですがこの世界の忍び技スキルツリーは旋風斬りの代わりに「大忍び刺し」が入ってます。性能はツリー最終で一文字を優に超えるverになります。
梟が奥義を撃つときだけBGMとSEが消える演出が有る程度には彼の突きはヤバイです。後の刀の扱いは弱いけど。
【大忍び】
葦名の者のみが知る、剣聖に並び立つもう一つの異名。
その称号。これは決して多くの殺しをした故でも、その名が轟いた故でもない。
それは一心の口からのみ語られる。
「たった一度の死合」故だ。彼らはかつて袂を分かち、その魂までもを殺す手前まで刀で語り合った。今に面影はなく、故に彼らは対等であり、それは何者にも否定は出来ず、そして何よりも真実である。
一心は元々何かにとやかく貴賤をつける性分ではない。恐らく己と対等に思うものは数多く居ただろう。威厳は見せども、振り翳さぬ漢だ。
ただ。「他ならぬ当人が」対等を認めているのは、実際の所。
梟のみなのだ。これを一心は尊び、故にあの大男を慕っている。その在り様の呼び方ばかりは、一心は未だ知らぬらしい。