大忍び刺しは流派技にて最強   作:杜甫kuresu

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「薄井右近左よりは右近左衛門の可能性が高いし、右近は役職なので右近左は愛称たり得ない」といういや全く頷く子犬になるほかない意見を戴きました。
「右近左という妙な名乗りをした」というのは逆に面白いかなとか思います。梟は大忍び落としも倅に見せない臆病者なので、偽りが有ったとしても何とか、逃げ切れるかな。と。思いたい。です。

フロム脳を使わせるのも目的の作品なのでちょっと明言は苦しいです。ともかく「本名ではない」方針で。できればこういう穴も想像してください、この作品はそういうフロム的楽しみ方の余地も作ってあります。

後、これはエゴですが。
「原作で言い切られていない以上は採用したくありません」、故にこれは申し訳ないです。例え声優が発音しようとも、字幕はまだ無いのですから。想像して書いた、と自分で決めていないところでは、そういう感覚を大事にしたいです。ミスは勿論教えてくださいね。


では改め。どうして梟が突き以外出来ないのか。
出来ないのではなく、正確にはしないのだという話。

ちなみにこの弁明をするために予定を切り詰めて投稿しました。駄目だけどえらい。


”血濡鴉”

「ほう――――――梟が、突き以外出来ぬ訳。か」

「はい」

 

 道玄の注いだ酒を勢いよく飲み干すと、一心は遠い渦雲を見ながら考え耽る。

 興味本位、と言う程は安い感情ではなかったが、強い好奇が道玄を後押ししていた。

 

 彼の道程を見てきたものならば必ず自然と湧き出る違和感だ。いや、見てこずとも、その話の一端だけで感じられる仰々しい違和感。

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「問う事に銭は要らぬが、しかし何故問う。他ならぬ梟がそう宣ったはずであろうが」

「梟殿は嘘つきですから」

 

 嘘つきとは言ったものの、口端は緩く吊っていた。一心もその様子を一瞥すると、深く下げられていた道玄の頭を上げさせてカタカタと笑う。

 ひとしきり笑って、また酒を飲んだ。

 

「…………ふぅ。賢しき者ばかりかは、騙せぬようだ」

「私が疑り深いだけにございましょう、買い被りというものです」

 

 謙遜、事実。半々、一心はそう片付けた。

 

「しかし道玄。儂も其れに関しては相応の口止めというものがされておる、おいそれと零す訳にはいかぬぞ?」

「銭ですか」

「いいや、無理だと言っている」

 

 一心の静かな眼光が道玄に浴びせられる。端で座している寄鷹衆もそれに気圧されたのか少しだけ浮足立っていた。

 

 道玄は一転、いつものようにせらせら笑う。

 

「ああ~、では脅せばいいのでしょうか?」

「は? おい待て、道玄、今何と「そうでしょうねそうでしょうとも、やはり無理やりドーゲンが口を割らせた体がよろしいのでしょうね分かりますとも。男子の約束は硬いらしいとエマからも聞いていますよ、何と言っても学びに関して一家言ありますからねこのドーゲン」

 

 まくし立てる道玄の張り付いた笑顔に一心が思わず冷や汗を流す。

 

――これは、”まじでやばい”。か、梟よ。

 

「ではフクロー殿に宴を耳打ちするぞとドーゲン脅しましょう!」

「思ったより攻めてきよるわ!? 道玄、少しは迷いを見せぬか!?」

 

 一心が思わず立ち上がりかける。

 

 というのもその宴というのは所謂誕生日の祝い事のようなもので、各員滞りなく奇襲の算段を整えている。下手に耳打ちする原因を作ったとなれば道玄もろとも一心も不信を買う。下手をすれば一夜の罵倒は愚か、本当に家臣との信頼関係に深刻な傷を作りかねない。色々と言われるがあの梟、「一心に仕えるないし並ぶに相応しい忍」というのが一般認識であるし、何より今後もそうあれかしと期待されている。

 

 恐ろしいことに梟に口止めされている以上、原因説明に関してあの一心が言い淀まざるを得ないのだ。八方塞がり極まれりと言った所か。

 慌てふためきかける一心に整った所作と笑顔が襲う。

 

「”迷えば敗れる”、ですよね?」

「迷うべき時も有ると儂は思うぞ、道玄!?」

 

 

 

 

 

 

 

 暫く後。

 

「…………相分かった。儂の完敗よ」

 

 元からこうするつもりだったな、と一心が舌打ちをせざるを得ない程用意周到に叩き潰された。

 上手く行ったのが満足なのか、それとも作り笑いか。柔らかい笑顔で正座したままの道玄が佇まいだけで「早く話せよ剣聖殿(笑)」と言わんばかりの気迫を発している。

 

 迷えば敗れる。中途半端に言う素振りを見せる一心に非が有った。どちらにせよ教える気は有ったのなら負けるのは嫌だ、だって彼も男子だから。

 

「突きしか出来ぬというのは正しくない。正確に言えば、「突き以外しなくなった」というべきだ」

 

 酒も切れた一心がぽつり、ぽつりと喋り始める。

 

「以前、おぬしは大忍び落としについて儂から聞いたな」

「前もそう言えば脅しましたね」

「その話はやめい」

 

 ふふっ、と意味ありげに笑う道玄。

 

 一心の顔つきが、とたんに険しくなった。瞳には戦火が燻り、出で立ちからは少しばかりの焦げたような臭いの錯覚が脳裏をよぎる。

 

「何故使わぬのか、儂にはやはり到底分からぬが…………時に道玄。おぬしは”穢れた炎”について知っておるか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれが儂の前に現れたのは葦名衆がまだ国盗り戦を成し遂げる、ずっと以前の事よ。

 あやつは儂が荒地にした矢刀の群れの最中に、突然現れた。言葉通り、突然な。

 

 体の尽くが鮮血塗れの、まこと恐ろしい大男よ。瞬く間に現れる奴は常に鴉のような濡羽を舞わせて現れよる。それがまた奇妙な羽根でな、どんな刀をぶつけても傷もつかぬし、どれほど血を浴びていても最後には抜け落ちてしまう。奇妙なものだ。

 

 初めて儂と顔を合わせた背の曲がった梟の一言目は

 

”貴様に手を貸してやろう”

 

 であったな、さながら鬼神が契りを迫るがごとしよ。儂は酷く怖気づいてしまった故、咄嗟にその誘いは断ってしもうたわ。

――――しかしあやつ、存外にしつこいものでな。それこそ悪夢のように付き纏ったあの男に、とうとう儂は根負けした。

 

 儂はあやつを「血濡鴉」とも呼ぶ。古い呼び方であるがな。何せ常に血塗れだ、塗りたくっておるのか血を浴びねば死ぬのやら。そんな風体のやつで、儂に限らず大抵の者が儂の前に突然現れるあれを最初は恐れた。

 

 しかしあの時分の儂には、それでも必要な力だと言い聞かせるだけの愚かさは有ったのよ。如何に面妖で、恐ろしき力であれど、この国盗り戦の大義はあろう。だからそれがどれだけのものであろうと――――――手を貸せば、もう正義なのだと。

 迷えば敗れる故な。間違いであろうと、迷わぬべきであろう。

 

 話が逸れたわ。歳を取るにつけてこういう事ばかりするようになっていかんな、カカッ!

 

 

 

 

 

 そんな言い聞かせるだけの手ぬるい血濡鴉への妥協をしながら。葦名で戦を続けていく内に、殺しの話しかしなかったあの男が突然

 

”刀とは、どう振る”

 

 と儂に尋ねよるのよ。気でも違えたかと思ったが、どうやら違うらしい。

 

――――では、道玄。おぬしの欲しい答えであるが、梟は突きの他も間違いなく出来る。

 決して良い太刀筋ではない、早くもなかろう。取り立てた所はないが、出来ぬとは言わんだろう。ただし、それには一つだけ問題が有った。

 

 その太刀筋はそれほど綺麗でも、汚くもない。

 が、斬られた者は酷く苦しむのだと梟は僅かに眉間を寄せた。初めてあやつが感情らしきものを見せた、ああ忘れもんせんぞ。田村を討ち取る四百と五十と三日程前であったな。

 

 血塗れなのもそれが大きいのだと宣っておった。斬っても抵抗するし、苦しんでしがみつく。そんな調子で殺すことは出来るし、忍らしいことは出来ても最後は血塗れなのだと。

 

 最初はそれが成すべきことなのだから、知ったことではないと言い聞かせておったらしい。

 だが何度も、何度も。血塗れになり、火の中で裾を掴まれ、命乞いをされ、数多の地獄に袖を引かれる内に少し気に病むようにはなったのだと、そんな事を抜かしよる。

 

 

 

 

 

――――率直に言うとな、儂等は剣を教えてやったのだ。

 何と言えば良いか…………そうだな、哀れであった。手を貸そうという心意気やいざ知らず、任に真っ当であり、そしてその技を僅かにでも葦名盗りに用立てようとしておるのはいい加減、葦名衆の阿呆含め感じておったのだ。

 あれは、単にそれしか分からぬのだろう。とな。

 

 最初こそ勘ぐってはしもうたが、少なくともそう呟いた血濡鴉の顔は。儂等がよく知る人の子の顔であった故に。

 教えて、教えて、そして血濡鴉は最後に悟った。

 

”突きを除けば、振れぬと変わらないようだ”

 

 そう言って突きを覚えた。

 あやつは剣気全てが光として見えておるようであるが、時折あの頃の太刀筋について僅かに零す。

 

”俺の太刀筋は乾いた血みたいな色で燃えてた。突きは綺麗ではあったが、最初は穢れた炎が見えてたよ”

 

 

 

 

 

 

 

「――――――まあ、儂がその穢れた太刀筋を感じたことはないがな。ただ」

「ただ?」

 

 一心は道玄の差し出した酒を残り全て、何かを洗い流すように勢いよく飲み干した。

 

「殺すばかりであった。剣を教えている時ですら分かる、あれは殺し尽くす事が巧い――――――そして代わりに、ただ殺す事に関しては、ことそこらの寄鷹衆に劣っておるのよ」

 

――――道玄、心得よ。これはもう飛び去った、霧のような鴉の話でしか無いのだとな。

 

 そう締めると一心はそれきり何も喋らなくなった。




梟は突き以外も出来ないことはないです。下手っぴだとしても振るだけならタダというもの。
ただし、彼は殺戮は得意ですがその後がなりません。彼の本来というか自然な振りは「斬れるのになまくら」と評される程痛みます。

其れに反省し、突き以外を捨てました。斬るのはともかく、気合で生存するだけで剣戟は弱いしでメリットもないので。
要は「下手過ぎる」。痛いし、弱いし、忍らしくもない。虚刀流のようなものです。

【怨嗟の濡羽】
昏い色をした在りし日の血濡鴉の痕跡、鴉の羽根に似た鉱物である。
梟は一心に手を貸す頃は常に血塗れで帰り、身体が乾くことはなく、鮮血が跡を残していることもなかったという。
その頃を知る葦名衆はこぞって閉口する。梟の為ではなく、その姿に爛れて燃える化け鴉を幻視し、畏れたからだ。
その異様。一心は後に「修羅」と名付けた。

【突き】
原初、血濡鴉がそうとだけ呼んだ突き。言葉通りのもの。
ただし、その万物を殺した太刀筋に映ったのはきらめきなどではなく、煌々と燃え盛る「穢れた炎」であったそうだ。
故にその彩られた殺しの数を差し置いて、梟は語り継がぬ。奥義ではなく、禁忌であるからだ。

しかしおかしくはないだろうか。
梟は語り”継げぬ”のではなく語り”継がぬ”のだ。大忍びの心の澱で、鴉は未だ濡羽を燻らせている。
深淵に落ちれば、或いは。一端に触れることも在るだろう。
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