そう言えばDLCで何が判明するかさっぱりですので、矛盾が出来てもスルーします。部分輸入ぐらいはするかも。
「やはり斬らねば分からぬか、弦一郎…………ッ!」
「これも葦名の為…………!」
今日も狼と弦一郎は喧嘩していた。犬猿の仲は最早葦名一の有名さを誇る程の二人だが――――――いやどちらが猿かさっぱりというのはさて置き。
この二人の何が虚しいかと言えば、大抵
当然のように楔丸を構える。
「ふん。刀を構える時点で負け犬だぞ、せがれ殿」
「言わせておけば」
「はい喧嘩は駄目駄目~」
気色悪いぐらい満面の笑みで走ってきた道玄に二人揃って放り投げられる。何時もてつはうでも投げるように軽く投げてくるその様は何処か抜けた絵を見せるが、しかし二人も歳を揃えてきた男子に違いない、原理は未だ不明の力強い投げなのが実態だった。
地面にへたり込む二人の上から、何時ものあの得体の知れない笑顔。
「「ひっ…………!」」
怖気だって狼は気絶した。
「刀は構えちゃダメじゃないですか、抜いたら死ぬまで。ですよ~」
「道元殿、その理屈はおか」
何か言おうとした弦一郎が近づく道玄の顔に怖気だって泡を吹いた。
「やめろ…………首のないものが刀を振るうな…………うわ、何だ、その、こわっ。太刀筋こわっ…………尻子玉がぁっ!?」
何だか遠い未来に遭遇しそうな内容でうなされていた狼が、叫びながら飛び起きる。
あの酷くやらしい首なし武士の手付きを思い起こすだけで血の気が引いていたが、ともかくあれは夢であろう。信じながら辺りを見回すが、いやはや当たり前ながら夢である。
どうやら道玄が日が落ちるまでずっと膝枕をしていたらしい。狼が思わず頭を下げる。
「かたじけない…………」
「ん――――あ~、それはドーゲンが気絶させたようなものなのでお構いなく。頭を下げる相手は別に居ましょう?」
ちら。と目配せした先には背を向けてへたり込む弦一郎。
普段から何か切羽詰ったような顔をした子供では有るが、とうとう後ろ姿からも哀愁が滲み出している。夕日に影を吐き出す姿がまこと疲れというか、諦めというか、童子らしくないものを纏っている。
狼がすぐさま不機嫌に鼻を鳴らすが、道玄が見かねて耳打ちする。
「起きてからずーっとあの調子で困ってるんですよね。あれでしょうか、男子の意地? 言い過ぎたのは気にしてるようで」
「…………」
「頭を下げるは一時の恥ですが、下げられぬは一生の後悔かとドーゲン思いますよ?」
「…………」
狼が首を振ったり、吐きそうな顔をしたり、ともかく多種多様な”りあくしょん”を取ってから弦一郎の方へ歩いていった。
「フクロー殿のお話?」
「はい。養父上は己の武勇は語りませぬ、本当に何もないとも思い難く…………」
一心の手ほどきから帰ってきたエマまで後ろからやってくる。弦一郎も相変わらず仏頂面で座ってはいるが、話を聞く気は満々なのか。そんな気配が滲んでいる。
この手の面倒事は取り敢えず逃げるのが道玄の掟であるわけだが、こうわらわらと年端も行かぬ子供に寄りつかれては流石にそうとも行かない。
しかし梟についてあまり話すと、結構切実に怒られる。何故かは分からない。
「…………仕方ないか。ではフクロー殿の”いけいけえぴそーど”をお話しようではありませんか!」
結局喋る。
言うに秋のこと。葦名を手にした少し後、もう彼が”梟”で有った頃のお話です。
彼というやつはよく民草のお願いごとを聞いて回る癖がございまして、まあ葦名衆は民への善行。これを咎める訳にも行かず、時折消える梟をいつも放置していました。
彼が受けたお願いごとは沢山です。息子の遺品探しも有れば、男女仲の取り持ち、なんて。本当につまらないものも沢山ありました。けれど梟はそれが嬉しかったようですね、そんなつまらないものに悩める時代になったことが、本当に。
ある日、病気の鍛冶屋に頼まれました。
”私の大太刀を探して欲しい”
大太刀、如何様な。梟が問います。男は咳き込みながら。
”言葉通りの大太刀なのです。落ち谷の奥にありましょう、行けば分かりまする”
こうとだけ答え続けました。
梟は困りますね。何せ大太刀など世に多く出回っている、行けば分かると言われても何やらてんで検討もつかないものです。
心苦しくも、安請け合いが苦手な梟は当時断りました。
そして。男が死んだそうです。その次の日、でしたか。案の定、咳が祟ったそうです。両親も居なければ、つがいは攫われてもう居ない――――と力ない笑いで抜かしたその男は、呆気なく死んでしまいました。
彼は聞くなりすぐに墓に参り、静かにつぶやいたのです。
”相分かりました。貴殿の最後の願い、梟が引き受け奉りましょうぞ”
”どうか安心して眠られよ…………その大太刀、大忍びの手でこの墓へ”
そうして彼は落ち谷へ向かいます。
今も落ち谷と言いますように、あれはひたすら落ちる谷。道すがらには”蛇の目”が居ましたし、何よりあの恐ろしい、大きな白蛇がねぐらを構える場所。
幾ら大忍びと言えど七難八苦に藻掻きました。そも堅牢な守りを攻め落とすことは難しいものなのですね、例えば籠城というものが分かりやすいのでしょうか。兵力問わず、落とすのは大変なこと。
ましてや数でも劣る梟は、まこと苦労しました。足がかりもございません、道を作るところから彼の仕事だったのです。
抜けても猿が面倒なこと面倒なこと。猿ども、何処で学んだのか鉄砲も刀も使います。二刀でかかる猿を見た時に梟は大笑いしながら突き殺したのだとか。
さて。よいせこらせととうとう菩薩谷、まだ見つからぬかと嘆いた梟の前に、其れはやってきました。
――獅子猿。
梟は獅子猿のねぐらのすぐ上に、明らかに大きすぎる大太刀が突き刺さっているのを目にします。
ああ、あれだ。やはりな、しかしてどうしたものよな。
そんな事をぼやき、梟は三日三晩を獅子猿と共にしました。
獅子猿は強靭な猿である以上に、不死です。梟は幾度となく心の臓に刀を突き立て、首を突き、みぞを突き、ともかく致命傷を与えました。
しかし死なない。とにかく死なず、梟は段々と疲れ果てていきます。逃げようにも獅子猿は素早く、万が一を思うととても逃げれません。
何より執念深きこの猿、落ち谷から出せばどうなるか彼には検討も付きません。何せ死なないのですから。殺せずとも、「儂には敵わぬぞ!」と身を以て教えなくてはいけません、きっと突然居なくなれば谷を登るでしょうから。
大人しくして大太刀を持ち帰りたい。この獅子猿をどうにかしたいと言う訳でもなく、恐らく梟はそれだけを考えていました。
梟は疲れ果て、困り果て、策が尽きます。諦めようかと、絶え絶えの息の渦で落ち込みます。
その時でしょう。大太刀が、光りました。それは現か幻か、偶然にも梟が突きに見る”きらめき”と同じものです。閃きだったと私は思いますが、彼が言うには「天運が儂に、意地汚く生きろと宣った」そうです。己の才を悪運だと思いこんでいるのでしょうね。
獅子猿の渾身の飛びかかりを大太刀近くの崖にぶつけ、とうとうふらついた獅子猿の首に――――――落ちた大太刀が突き刺さりました。
とても高いところから落ちてきた大太刀、獅子猿は首から抜こうと藻掻きますが、まるで抜けない。抜けず、抜こうと引き、失敗し、血を撒き散らして倒れ込みました。
もう、獅子猿は梟を見ても何もしませんでした。梟はねぐらの奥を見た後、大太刀を引き抜けぬ申し訳無さだけを持って村に帰ってしまいます。
彼は確かに大太刀の持ち主にも同情しましたが、同様に猿にも同情しました。もう猿としても生きられぬ哀れな獅子猿。
首まで奪ってしまおうなど、どうしても彼は思えなかったのです。せめて猿として、生かしたいという我儘でしょう。
加えて梟の強さは突きのみ。首を断ち切るような力は彼になく、きっと苦しめてしまいます。それでも猿は、きっと生きてしまいます。
生きていない鍛冶屋に物を届けられないことと、生きた猿の最後の手綱を斬ってしまうこと。どうしても生きているものを捨て置くことが出来なかったのです。
迷った故に、彼は猿に負けました。
「…………それで、養父上はどうしたのですか」
「何もないですよ。生きて帰ってきてくれてよかったと、男を養っていた親類のものに泣いて抱きつかれ、尚更申し訳なくなって、墓の前で静かに涙を流しただけ。それだけです」
あまりに後味が悪く、三人は閉口してしまう。
道玄もそうなることは分かっていたのだろうか、手を叩いて何時も通り朗らかに笑い出す。
「けれどですね、不思議な話ですが! それからというもの、墓の側には誰も植えてないのに桜が突然生えてきたそうですよ! いやー私も見に行きたいんですよねそれ、薬師としてそれを死んだ方の奇跡だとかそういう思い方出来ないので」
「皆さんも日を改めて向かいませんか!? すごく綺麗だそうですよ、その桜」
桜。桜か、と三人が顔を見合わせる。
常桜は枯れて久しく、そう言って興を求めて桜を眺めることはめっきり減ってしまった。特に狼は、そういうものだと思ったこともない。
エマがはしゃいで二人に桜の話を始める最中、道玄がぽつりと呟く。
「――――――まあ、その”きらめき”とやら。天運でもなければ、彼の技量でもなく。もしかすれば、鍛冶屋のもの、なんて思ったりしますが…………夢見過ぎなんでしょうね、こういうの」
「ロマンチック過ぎるが…………そうだと、俺は救われる」
聞き覚えのある声。道玄が振り向く。
「えっ――――――」
振り向く頃には、乾いた霧からすの羽根だけがひらひらと舞っていた。
狼がかなり面白いやつになってきた。でも公式設定で怖気づいたら死ぬし…………。
梟の過去に関しては血濡鴉時代が黒歴史なので広まってないだけで、突きを極めて以降は葦名衆では割と有名。
あの不自然な大太刀、DLCで川蝉のものですとか言い出されると私が倒れて死にます。
【無銘】
圧倒的な相手に立ち向かう為の言葉通り”大業物”。鉛の暴力であらゆるものを断ち切るが扱いは困難。
銘に関して不明であり、鍛えた者も高名ではなかろう。しかし男であり、また帰らぬ女を待ち続けたという話だけは実しやかに囁かれている。
しかし、偶然だろうか。ただ一頭を待ち続ける獅子猿に与えられたその刀。因果なことに、守るべきもののために猿は振るう事となる。
それを振るったのは果たして蟲か、猿か、人か。今は誰も解を語ることは出来ぬ。