仕事帰りずっと考えて自分なりに書いてみました。
思いを捨てた気持ちは何処へ行くのか
を伝えられる物語にしたいです。
第1話 動き出す錆びた時計
……歌は嫌いだ。
いつからこんな気持ちを抱くようになった。
ギターを手放したあの日からか…
「私達のバンドでその力を貸してもらえないかしら」
「お断りします。もう僕は音楽にかかわるものは捨てたんです。今更戻る気はないですから」
目の前にいる銀髪の女の子は、それでも引く様子がないといった決意のある表情をしていた。
僕はそんな様子を見て、大きな溜息をつくのだった。
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時間は二日前に遡る。
授業を終え、行きつけの喫茶店に向かうことにした。
季節は6月、外に出ると日差しが春よりきついと感じるようになった。
これから暑くなると思うと、憂鬱になる。
高校を出て15分程歩いたところに、『羽沢喫茶店』と書かれた店がある。
ここは僕が幼いころから贔屓にしている店だ。
扉を開けると、チリーンと鈴が鳴る。奥のカウンターからエプロン姿の茶色いショートボブの女の子が
振り向き、笑顔で挨拶をする。
「いらっしゃいませ!!秋月先輩じゃないですか。いつもの席でいいですか?」
「つぐみさんこんにちは。よろしく頼むよ。」
つぐみさんは、そのままいつもの席である日差しの当たる窓際の席に案内した。
「お水です。ご注文は決まってますか?」
「じゃあいつもの日替わりケーキセットでドリンクはアイスティーかな」
「かしこまりました。今日のケーキは、秋月さんが好きなチーズケーキですよ。」
「おお!!ここのチーズケーキ旨いから、楽しみだな。」
「じゃあご用意するのでお待ちくださいね。」
彼女は会釈をして、キッチンのほうへ向かっていった。
僕は、バッグから図書室で借りた本を取り出す。
図書委員の子からお薦めされたものなのでどんな内容なのかわからない。
タイトルは『色をつけてくれた奏は』と書いてある。
読み進めていくうちに読むのを切り上げた。
内容は感情をなくした女の子が音によって
失われたものを取り戻していくものらしい。内容は面白いのかもしれないが
音という単語に反応して読むのをやめた。
テーブルの上にはコーヒーとケーキが乗っていた。
本に集中していた僕に気を使って、置いておいてくれたんだろう。
本当に良くできた子である。
コーヒーに手を付けようとしたとき、チリーンと音が鳴る。
扉が開き、入ってきたのは僕の見知った顔だった。
「あーいたいた。探したよ彩斗君。携帯に全くでないんだからもう。」
「まりな姉、ごめんな。携帯マナーモードにしたままだったよ。」
ムスっとした顔を浮かべながらまりな姉は、対面している椅子に腰掛ける。鈴のなる音と喋り声に反応したのかつぐみさんがキッチンから出てくる。
「いらっしゃいませー。ああ、まりなさんこんにちわ。」
「こんにちわ、つぐみちゃん。頑張ってるねぇ
ひとまずアイスコーヒーをお願いしようかな」
「アイスコーヒーですね。わかりました!!少々お待ちください。」
つぐみさんがカウンターの方へ向かっていくのを
見たあと、まりな姉は僕の方を向いた。
「いやぁ、ちょっと彩斗君にお願いがあるんだよね。」
「お願い?なんだよ珍しいじゃんまりな姉が俺に頼み事なんて」
基本自分のことは、大抵こなしていくまりな姉が
俺に頼み事をするのは年に一回あるかどうかのスパンであり珍しいことである。
「まあ、ちょっと困ったことになってね…」
「ひとまず言ってみなよ。僕にできることなら」
まりな姉は少し申し訳なさそうな表情で口を開く。
「ライブの音響スタッフを臨時でやって欲しくて…」
「断る。」
「デスヨネー」
「俺は音楽に関してのことは一切やらない前に言っただろ」
「うん…わかってるんだけど。大事なイベントで本当に人手がいるんだ…お願いこの通り!!」
まりな姉は手を合わせて、懇願する。
流石にほかの客達が見てる手前上、あまり目立ちたくない俺は困り果ててしまう。
手元にあるアイスコーヒーを手に取りストローで啜る。
透き通った苦味と相まった冷たさが心地いい。
「彩斗君…チーズケーキ好きだよね。受けてくれたらバイト代に加えて君が食べたがってた店のチーズケーキをホールで買ってあげるよ」
「!!?あの…雑誌で1位を取ったチーズケーキか!?…とんでもないものを交渉に使ってきたな。」
もので釣る行為
あのまりな姉がするとは思わなかった。
そこまで困っているのか…。俺は流石に気持ちが揺れるほど申し訳なくなった。
「アイスコーヒーおまたせしました。…これどういう状況ですか?」
つぐみさんの前では、手を合わせ懇願するまりな姉とそれを見て困った顔をしている僕がいる。何も無い状況ではないとは一目瞭然だろう。傍から見ればなにこれ?修羅場?とも捉えられる状況だ。
「彩斗君に今度やるガールズバンド合同ライブの音響スタッフをお願いしようと思ってて、
頼んでる最中なんだ…でも断るって言われちゃって…」
まりなさんは、苦笑しながらつぐみさん言う。すると彼女は、僕の方に迫って
「そのライブ、私が入ってるバンドも出るんです!!秋月さんに音響してもらえるなんて
心強いです。やってくれませんか!!」
つぐみさんが僕に頭を下げてお願いしてきた。
流石に日頃お世話になってる二人にこうもお願いされると、こっちも心が動いてしまう。
俺は、腹を切って
「分かった。今回だけ承るよ。今回だけだから、まりな姉チーズケーキ忘れないでよ。」
それを聞いた二人は向き合い、はにかみながら「やった!!」と喜んでいた。
こうして僕、秋月彩斗はライブハウスcircleの臨時音響スタッフとなるのだった。
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話がきまり、ケーキを食べた後、まりな姉に連れられてそそくさと羽沢喫茶店を後にした。
『早速だけど、もう本番まで3日しかないから打ち合わせをしたいんだ。circleまで来てもらえないかな』
とのことで今、俺はcircleの従業員事務室に来ていた。
事前打ち合わせとして
渡された資料には5つのガールズバンドが明記されていて、その中にはつぐみちゃんが
入っている『afterglow』の文字もあった。
目を通していると、まりな姉が口を開く。
「今回、君にお願いしたいのは計5バンドの音響担当だね。明後日のリハーサルで調整をして
明々後日に本番。一応事前に要望とかは、資料にまとめたんだけどどうかな。」
「そうだな、わかりやすくて助かるよ。しかしこのRoselia ってバンドの要望欄
すげえな…細かく書いてある。」
始まりから終わりまで各要所部分にすべて線が引かれており、内容から見て素人の集まりでは
ないのは容易にうかがえる。
「Roseliaはすごいよ。レベルがすごい高くて、ボーカルの湊友希那ちゃんはとてもいい声で歌うんだよ。
彩斗君といい勝負ができ…ああごめんね。つい熱くなちゃって…」
音楽が嫌いになった俺に遠慮したのだろう。
「いや、気にしてないから大丈夫だよ。にしても湊友希那ねぇ…」
そこまでレベルが高いバンドがどうして、無名の初回イベントに参加したのかが気になるが
ひとまず、受けたからにはこの要望に見合った働きをしようと俺は思った。
to be to be continued
次回から一気に絡んでいく人が増えていきます。
導入部分なのでまだ不明点も多いでしょうが
少しずつわかっていくようにしますので
お付き合いよろしくお願いします。
どうぞよしなに