特定事象対策機関 クロユリ   作:田口圭吾

41 / 43
感染する悪意のマリオネット症候群 第二十一話

 

「おう、エレイン。元気そうあねぇか! そっちのボウズはナニモンだ?」

 

 金髪の男、つまるところパイロットであるハリーが、ヘリコプターに乗り込んできた二人目掛け、大声で言葉を投げかけた。

 エレインはヘリのローター音にも掻き消されないその大声に苦笑を浮かべつつ、ヘリの内部にあったヘッドセットを装着する。藤次にもヘッドセットを渡しながら、彼女はゆっくりと言葉を紡いだ。

 

「ああこの子は…… この騒動で偶然一緒になった最重要保護対象よ。このことに関しては、あんまり他言しないように。こんなロクでもないことに巻き込まれたんだから、少しでも一般人の情報は秘匿されるべきよ」

「穏やかじゃないねぇ…… 空を飛ぶときは面倒なことが起こっているのは俺の気のせいか?」

 

 おどけたような口調で紡がれた言葉に、エレインは呆れたようなため息をつきながら言葉を返す。

 

「それはそうよ。貴方が飛ぶことになるのは、いつも厄介なことが起きたと判断された時だけでしょう? じゃなきゃ、こんなに早く救援が来るはずないものね。この島の電波は完全に封鎖され、天候のせいで衛星の情報さえ満足に届かない。ここは田舎で異常を察知するのにも時間がかかる。それでも早々に貴方が来たのはやっぱり……」

「ああ、察してるとは思うがこの島周辺で起こっていた異常気象。クロユリが保有している監視衛星に映ったそれに、一瞬だけ異常な霊力の波動が感知されてな。それから調べてみると、この島の電波は遮断され、連絡が付かないときやがった。説明してくれ、一体何がどうなってこんな状況になったんだ」

 

 彼はあくまでもおどけたような口調を崩さないが、その節々には真剣な色が滲みだし、それが事態の重さを物語っているようだった。

 その視線の先にあるのは島の至る所で上がる黒煙、そして島の道に敷き詰められるかのようにして倒れている人間の数々。

 

「確証は無いけど、贈り物よ。遺産と言ってもいいかもしれないわね。忌まわしい過去からの」

 

 エレインは忌々し気にそう吐き捨てると、ヘリコプターの内部に備え付けられたボックスを開き、その中にアイリスから奪い取った端末を放り込んだ。

 

「それよりも、まず私は遺留物の封印処理を行うわ。だからハリー、貴方は本部に増援をよこしてもらって。電波の届く場所まで移動してからね。島の人間をこの人数だけで対処しようなんて無謀にもほどがあるわ」

「了解っと。それじゃあ、一旦島から離れるぞ」

 

 ハリーはそう言うと、操縦桿を切って急旋回し島から離れていく。

 そして、操縦を続けている彼にエレインは再び言葉を投げかけた。

 

「ああ、それと派遣する人員全員が感染対策の防護服の着用を義務付けるように指示をお願い。理由は、この子に聞いて頂戴」

「おいおいおいおい! 防護服とは物騒だな…… ボウズ、いったいどういう事なんだ。エレインが最重要保護対象なんていうぐらいなんだから、事情は大体分かってるんだろう?」

 

 暗に、オカルトが関わる世界について知っているのか、という意図も織り交ぜられた言葉に、藤次はコクリと頷きながらゆっくりと口を開いた。

 

「ええ、大まかなことは。ウイルスを縁として支配系統の術が発動されて、島のあちこちで暴動染みたことが発生して…… 犯人と思われる女性を追い詰めて、その端末で事態を一時的に収めたんですが…… いつ、島民たちが再び操られるか分かりません。オカルト面のことは、僕はさっぱりで詳しい原理なんかは分からないんですけど……」

「ウイルスを利用しただぁ? そいつは…… くっそ! やっぱり厄介ごとじゃねぇか。ついてねぇなぁ、おい!」

 

 ハリーは紡ぎ出された言葉を聞いて眉間に皺を寄せた。そして、島から十分に離れた距離に達した時点で無線を繋ぐ。

 

「こちらハリー。異常事態の被害は島全体に及び、テロ勢力がウイルスを島内に散布。テロ組織はそれを利用し、島民が支配系の術式の影響下にある。島内の鎮圧と一般人の保護のために対ウイルス装備を着用した人員の投入を求む」

『了解しました。予備隊及び戦闘班の人員を送ります。念のため確認しますが、医療部門統括の保護には成功しましたか?』

「もちろんだ。じゃなきゃこんな詳細に事情を説明できてるわけ無いだろう? アイツは今、敵から回収した端末を封印処理してるとこだ。まあ、今回はウイルスが絡んでたってことだし、返ったら俺ら三人とも仲良くメディカルチェックを受けなきゃだ。厳重な歓迎を期待してるよ」

『分かりました。ヘリが到着次第、消毒と隔離を行います…… 待ってください、三人?』

「おう、エレインが保護した一般人が一人このヘリに乗ってる。まあ、詳しくは帰ってから二人に聞いてくれや」

 

 ハリーはそう言うと、無線機を切ってエレインと藤次の方をちらりと振り返る。

 

「ところで、お前さんらウイルスの感染は大丈夫なのか? 島ではばら撒かれたって話だろう?」

 

 紡がれたのは当然とも言える疑問。回収したのは良いが、ウイルスに感染したままで帰投などすれば目も当てられない。

 

「当然よ。相手に拘束された時、しっかりと自分に感染してるのは治しておいた。その時コツを掴んだおかげで、藤次に感染した分はさっき怪我を治すついでにウイルスも除去したわ」

「相変わらずやるねぇ。その腕前にほれぼれしちまうよ」

 

 ハリーはおどけた調子でそう返すと、視線を前方へと戻した。

 

「だけど、返ったらしっかりとメディカルチェックは受けるんだぞ。本部でそんなヤバいウイルスがバイオハザードを起こすとか、俺は勘弁願いたいからな」

 

 しかし、藤次は今の会話の中に猛烈な違和感を覚えて首を傾げる。

 エレインは確かに「さっき怪我を治すついでにウイルスも除去した」と言った。

 

 これは実におかしい。何故なら、その言葉が事実であるとするなら、藤次がアイリスを撃った時に彼はウイルスの影響下にあったはずなのだ。それなのに、何故アサルトライフルの引金を引くことが出来たのか。

 藤次はそんな疑問を投げかけるかのように、エレインへと視線を向けた。

 だが、彼女はその視線を真っ向から受け止めると、しばし思案したのち「詳しい話はうちのボスも交えて」と言ってそれ以上の言及を避けた。

 そう言われてしまえば、藤次も追及をすることが出来ず、小さく頷いて黙り込む。

 こうして、二人はクロユリの本部へと移送されることとなった。

 

 

 

****

 

 

 

 

「と、ここまでが僕たちが分かっていることです。後はそちらのご存知の通りかと」

 

 語られた事件の顛末を一つ一つ吟味するかのように、小太郎は目を細めて顎を撫でる。小柄で幼く見える普段の様子とは違い、その姿からは老獪で長年の時を生きてきた男としての貫禄が滲みだしていた。

 

「なるほど…… 事件の概要はよく分かったよ。この悪辣極まる手腕、相手取るには苦戦を強いられそうだ。それに、時実黒乃、か」

「ええ、事件の最中は追い詰められていて思いだしている余裕はありませんでしたが、今ならはっきりと思いだせます。だからこそ、あの人が言っていた言葉の一つ一つが今回の事件を暗示していたようでなりません」

 

 人形劇と言う言葉を用い、藤次が事件に巻き込まれることをあらかじめ分かっていたからこその振る舞い。そうであったと言われなければ説明できない態度の数々。

 どれをとっても時実と言う男が真っ黒であると裏付けているようなものだ。

 だからこそ、藤次は理解できなかった。いや、理解したくなかったというべきか。

 

 何故、時実は彼にそんな意味深な言葉を残したのか。

 その一つ一つの疑問が藤次の心に重くのしかかる。

 それらを解消するかのように、小太郎の口からゆっくりと言葉が紡がれた。

 

「それは、おそらくその時実と言う男が君の能力に目を付けたからだろう。未来を見通し、体感することの出来る君の力にね」

「僕の力、ですか?」

「うん、そうなんだ。未来視の能力は元々数が少なく、稀少なものだが、藤次君のはその中でも特に異質で稀少なものなんだよ」

 

 小太郎が紡いだ言葉に、藤次はうなだれながら小さく言葉を溢した。

 

「何だすごい力みたいですけど、いい迷惑です…… 稀少なもの、と言われても、それがどれぐらいかなんて僕には分かりませんし」

「ま、確かにそうだね。降ってわいたような力なんて、実感もわかないし、何よりも迷惑だ。分かるよ」

 

 思うところがあったのか、小太郎も目を細め、神妙な表情をしながらそんな言葉を紡いだ。だが、彼はすぐにどこか重苦しい雰囲気を振り払うと、ぴんっと人差し指を立てる。

 

「まあ、かなり分かりやすく、今風に言うと…… ソーシャルゲームのSSレア、その中でも期間限定でしか排出されないようなレベルのものっていえば分かりやすいかな?」

「すっごく分かりやすいですけど、なんだかすごくスケールがチープになりませんでしたか今⁉」

 

 あまりにも俗っぽい例えに、思わず藤次はツッコミを入れてしまう。

 だが、小太郎はあくまでも真剣な態度を崩そうとせず、肩を竦めながら言葉を返した。

 

「分かりやすさというものは、説明をする以上もっとも重要なものだ。それで藤次君も理解が及んだんだから、何の問題も無いだろう?」

「そ、そうですけども……」

「分かってくれたようで何よりだ。こっちが馬鹿みたいに課金をしている横で、無償分のガチャ一発で欲しい限定SSレアを引き当てられた時なんて、本当に殺したくなるだろう? つまりはそう言う事なんだよ」

 

 何処か濁りきった瞳で小太郎は天を見つめる。その視界の先に何を捉えているか、それすらわからないほど虚ろな何かを感じ、藤次はそっと彼から距離を取った。

 

「あの、なにか私怨が籠ってませんか?」

 

 藤次は困惑が隠せないような表情で、小太郎を見つめる。

 先ほどまで組織の長としての威厳に満ち溢れていた気がするのに、今は最早ただの廃課金者にしか見えなかったからだ。

 そんな彼の思いを感じ取ったのか、エレインは額を抑えながらため息をつく。

 

「小太郎、話がずれていないかしら……」

「わざとずらしたんだよ。ほら、少しでも空気を軽くする努力は必要だろう? 胃が痛くなるような話だけを続けてたら、その内本当に胃潰瘍になるからね。これ、実体験」

 

 小太郎はそう言うと、小さく咳払いをして藤次に視線を向けた。

 先ほど空気が弛緩したはずなのに、それだけでどこか空気が張り詰め始める。

 

「でも、そろそろ本筋に戻そうか。あまり焦らすのもよろしくないからね」

「そうして下さると助かります。腹は据えました」

 

 藤次は真剣な表情で、小太郎の瞳を見つめ返す。

 彼はそんな眼差しを見て、小さく頷きながら言葉を紡いだ。

 

「よろしい。では、君の能力についてだけど、一見するとただの未来視の様に見える。未来視については多分字面からどんな能力化は分かってもらえると思うけど……」

「まあ、普通に未来が見えるってことでしょうか?」

「その通りだよ。で、その未来視の原理についてだけど、因果律などの揺らぎを観測するためのチャンネルがある存在がその能力を得ることが出来る。逆に言えば、そのチャンネルが無ければ未来の可能性を見通すなんてことは到底不可能だ。まあ、これは魔眼とか霊感とかにも通じるところがあることだけど」

「つまり、霊感がある人は幽霊を見るためのチャンネルが存在しているから見ることが出来るって言う事ですか?」

「そう言う事。まあ、霊視自体はチャンネルが無くても、霊力を目に込めれば出来るんだけど…… それは置いておくとして、この未来視に必要なチャンネルを持つものは非常に珍しくてね。人間に限定するなら世界全体で数えても三百人いるかいないかってところじゃないかな」

 

 藤次はその言葉を聞いて、それがどれだけ異常な数値なのか理解できた。

 人間と言う種族は世界の至る所に、膨大な数が存在している。その中で、たったの三百人。

 

「世界の人口って今どれくらいでしたっけ……?」

「確か、世界の人口は七十億をこえているはずだから…… 三百人という数字が、とても少ない数であることは疑いようのない事ね」

 

 藤次が思わず呟いた疑問に、エレインは口元に手を当てながら大まかな数字を答えた。そして、同時にその能力の稀少性を裏付けながら。

 そんな二人の会話に頷きながら、小太郎は静かに言葉を紡ぐ。

 

「だけど、それだけじゃない。未来視はさっきの例えで言うなら、ただのSSレア。藤次君の力は期間限定排出のSSレアだ。君の特異性は何も未来視が出来る事じゃない。それには君自身も心当たりがあるだろう?」

「はい…… 支配系の術式として利用されていたウイルスに感染したのに、僕自身は何の影響も受けることはありませんでした」

「その通り。そして、それこそが藤次君の特異な能力が何なのかを決定づける重要な要素だったのさ。それを説明するために、君がこっちに移送されてから採取した血液を利用して支配系、精神干渉系の術がどれだけ君の霊子に影響を与えるかを観測してみたんだ。まあ、すると面白い結果が表れた」

 

 そう言って、小太郎は自身の手元にあるコンソールを操作すると、モニターに二つの線グラフが現れた。片方は起伏が限りなく少なく、ほぼ真一文字を描いているもの。もう片方は途中まで緩やかだが、ある一点から数値が跳ね上がっているものだ。

 その内の起伏が限りなく少ない方のグラフを指さしながら、彼はゆっくりと説明を開始する。

 

「これが、君の霊子に支配系、精神干渉系の術がどれくらいの影響を及ぼしたかを表すグラフ。そして、その隣がある程度の霊力を持った人間のものだ」

「こうやってみると、明らかに僕に与えられている影響が少ないですね」

「ああ、その通り。さらに、グラフの起伏が小さくて分かりずらいけど、君の場合はある一点を超えた時点で完全に影響が無かった時点と変わらない値になっている。普通は隣のグラフみたいに、本人の耐性値を超えた時点で、その影響力が強くなっているにも関わらず、だ」

 

 そこまで言葉を紡ぐと、小太郎の目はすうっと細められた。そして、そのまま藤次の顔を覗き込むようにして顔を横に倒す。

 

「元からそう言った類の術に対してかなり耐性が高いようだけど、それだけじゃあ説明がつかない。まるで、大きな力によって強制的に修正をかけられたかのように綺麗さっぱりと影響が無くなってしまったんだ」

「大きな力? それはまた、どうして……」

「君の力は並木藤次という個人のデータを用いて、そう言った異常を修正しているのさ。これは物理的な損傷には効力を発しないが、先ほど挙げたような精神干渉や支配などの術に対しては異様なまでの修正力を発揮する。簡単に言うと、パソコンがウイルスを検知した時に、セキュリティが働いてそれを駆除するようなものだよ。そして、セキュリティ自体はパソコンの物理的な破壊を防げない」

 

 小太郎の例えに、藤次は「なるほど」と言って小さく頷いた。身近にあるものを例えに挙げられたことで理解が深まったのだろう。先ほどと違い、俗っぽい例えでなかったおかげもあって、戸惑いなく知識の吸収が出来たというのも大きい。

 そんな藤次の様子に満足そうな笑みを浮かべながら、小太郎は居住まいを正して言葉を続けた。

 

「こう言った特性を持った能力は過去に数度観測していてね。君の能力はそれらにピタリと当てはまる」

「それは一体どんなものなんですか?」

 

 藤次はゴクリと唾を飲んでその言葉の続きを待つ。部屋に置かれた時計の針の音が嫌に大きく感じられる中で、小太郎はゆっくりと息を吸って口を開いた

 

「それは様々な名を冠していてね。叡智の記録者、レコード・ホルダー、プロビデンスの目、ラプラスの魔…… まあ、これについてはさして意味のない事だ。名前なんて言うのはただの記号。大事なのは、その本質だ。君の持つ力は因果律を観測するのではなく、因果律に干渉しあうこと。歴史の分岐点に現れるという世界の触覚そのものだ」

「……は? え、なんというか、それは…… 壮大ですね」

「ははは、まあ、実感が湧いていないみたいだけど、未来視が出来る、とでも思っておけばいい。それに、精神干渉などに異常なほどの耐性がある以外は、通常の未来視に加えて過去視が出来るくらいしか違いはないし、それ以上のことが出来るようになったなんて事例も無い」

 

 困惑が隠しきれない様子の藤次に、小太郎は手をひらひら振りながらそんな言葉を紡ぐ。

 そこに気負った様子などなく、あくまでも世間話をするようなその態度を見て、エレインは額に手を当ててため息をついた。

 

「小太郎、相手の精神状態を慮るのは良いけど、気を使ってるだけじゃいつまでたっても話が進まないわよ。早く話を進めないと、この子も休めないでしょう?」

「……分かったよ。エレインの言う事にも一理ある。さて、ここまで軽く話してきたが、この手の力は貴重でね。通常の未来視の能力を持った人間ですらも、国が囲い込んで保護するレベルなんだ。君のような特殊な例ならばなおさらね」

「じゃないと利用されて、解体されて、悲惨な結末を辿ることになるかもしれない。いえ、過去に事実としてそうなったのよ。未来視の持ち主は、時の権力者や悪党、それだけじゃなくて一般人すら喉から手が出るくらい欲しがるような代物だから」

 

 小太郎に続いたエレインの言葉に、藤次は身を強張らせる。悲惨な結末。その言葉から、彼は島の惨状を思いだしてしまったのだ。

 僅かに項垂れ、藤次はゆっくりと口を開いた。

 

「また、あんなことが起こるかもしれないんですか?」

「可能性は大いに、ね。島に入る前に会ったと言っていた時実って男のことを考えると、あり得ないとは言えないわ」

「エレイン、流石にそれは拙速が過ぎる。彼が萎縮してるじゃないか」

 

 小太郎は諌めるように言葉を紡ぐが、藤次はそれを手で制した。

 

「大丈夫です。エレインさんの直球さは島で慣れましたから。それで、そうならないためにはどうすれば?」

「まずは、私たちが貴方を保護するわ。可能な限り、手厚い環境で。と、言う事でいいわよね小太郎?」

「やれやれ、気持ちは分からないでも無いけど、あまり肩入れをし過ぎないで欲しい所なんだけど…… まあ、本部内で生活をしてもらう分には信頼度の高い安全を保障しよう。だけど、ただで飯を食べさせてあげられるほどこっちも暇じゃないし、それなりの労働は覚悟してもらわないといけないけどね」

「例えば、事務職とかですか?」

「もちろん、そう言った安全な仕事を多く割り振るつもりだが……」

「小太郎!」

 

 小太郎が続けようとした言葉を察知して、エレインが咎めるように声を荒げるが、それに構わず彼は言葉を続けた。

 

「静かにしなさい、エレイン。君が言った通りさっさと要件を終わらせるだけだ。それに異議を唱える権利は君には無い」

 

 取り付く島もない、と言うのはこう言う事なのだろうと、藤次は静かに思う。そして、居住まいを正しながら続く言葉を舞った。

 既に彼の腹は据わっている。

 

「君の存在は既に知られている。そうでなければ時実と言う男があんな行動をした意味が無い。そして、既に存在が知られていた以上、どれだけ気を配ってもその痕跡を辿って奴らは君にたどり着くだろう。なら、この場所に居ても完全に安全とは言い難い。だから、君に選んで欲しいんだ」

 

 そこまで言うと、小太郎は言葉を切って息を吸いこんだ。そして、少しだけ悲しそうに目を細め、ゆっくりと口を開く。

 

「死ぬまでクロユリの保護下で一生震えながら過ごすか。それとも、危険は伴うが裏側の仕事に赴き、背後に潜む何かを引きずり出すために剣をとるか。この二者択一の選択肢をね」

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。