こころは恋を知りました   作:カイセイ

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六 こころは裁判をするようです

「というわけで裁判よ!」

 

「……どういうわけさ」

 

 つっこみも空しく、こころに逮捕され、連行された僕は裁判所っぽく机や椅子が並べられた部屋の被告人席に座らされた。

 いつの間にこんな部屋をつくったんだろう……どうせ黒服さんたちの仕業だろうけれど。

 

「花音! 薫!」

 

 裁判長の席に立つこころが呼びかけると、僕の背後のドアががちゃりと開いて呼ばれた二人が入室する。

 一人はこの前会った花音さん。もう一人は紫色の髪の、背の高くて顔も整った女優みたいな人。こちらが薫さんだろう。初対面だけど、随分絵になる人だと思う。

 花音さんが僕の右、弁護人側に立ち、薫さんは僕の左の検察官側に立った。つまり、花音さんは僕の味方だ。

 

「花音さん……ありがとうございます」

 

「うん……がんばろうね、虎太郎君」

 

 表情を崩した僕に花音さんが微笑みかける。

 もしかして、花音さんって天使?

 感極まりそうになる僕を戒めるように、ごんと大きな音が鳴った。

 

「静粛にしなさい、虎太郎」

 

 右手に木槌を持ってそう言ったこころの金眼はまたもハイライトを失っていた。

 こころってそういうキャラだっけ、なんて聞こうものなら手に持った木槌で打たれそうな威圧感に、僕は背筋を伸ばす。

 世界を笑顔に、じゃなかったっけ……?

 そんな言葉を脳裏に浮かべた僕の顔は真っ青である。

 

「か、かのんさん……」

 

 助けを求めて見てみた花音さんも、こころの迫力にふぇぇと震えてしまっている。

 だめだこりゃ……。

 

「君が虎太郎君だね? 君は自分が犯した罪をわかっているのかい?」

 

 役者顔負けの演技でそう問うたのは薫さん。真に迫った、本物の検察官だって言われても違和感がないような演技は、僕も思わず罪を告白してしまいそうになるはほどだ。

 実際何もしていないから、何も言うことはないんだけれど。

 

「答える気がないようだね……本当は自分の口で言って欲しかったが、仕方ない。私が言うしかないようだ」

 

 悲しげに、憐れむような眼で僕を見ながら薫さんは続ける。

 

「君はこころという姫がいながら、別の子を手篭めにしようとした……あの日のことを語るこころの表情は儚いという言葉以外で表現しようがないものだったよ」

 

「僕はこころ一筋だぞっ!」

 

「ツッコむところ、そこ?」

 

 声を荒げた僕に対して、首をかしげる花音さん。

 確かに、儚いってなんだ、とか言いたいことは色々あるけれど、それよりも僕にはどうしても許容できないことがあった。

 僕がこころ以外の子に手を出すなんて太陽が西から登ったってありえない。

 

「嘘はいけないよ虎太朗君。その日の君の行動はこころだけじゃなく、黒服の人たちからも証言をもらっているからね。」

 

「ぐぬぬ」

 

 本来味方であるはずの黒服さんたちによるまさかの裏切りに僕は唸る。

 完璧に冤罪であるはずなのに、僕にはそれを覆す手段がない。こういうときに頼れる黒服さんたちまで薫さん側についたとすれば、頼みの綱は花音さんだけだ。

 僕がちらりと目配せすると、花音さんは頷いてくれた。

 いける。まだ戦える。

 

「虎太朗君は、そんなことする人じゃないと思うな」

 

 花音さんの力強い声に僕も首を縦に振って賛同の意を示す。

 どうだと言わんばかりに薫さんに視線を送った僕を襲ったのは、ぞくりとするような寒気。肌が泡立つ、あの感じ。

 言うまでもない。薫さんにはまだ策がある。

 

「花音なら、許せるのかい?好きな人が他の女の子に尻尾を振っている姿を見てしまっても……」

 

 儚いという言葉以外で表情できない演技に、僕は涙を流しそうになる。が、耐えた。

 だってやってないんだもん。

 

「そんなの……許せるわけない」

 

 花音さんはダメだったみたいだ。

 涙腺をやられたらしい花音さんは両手で顔を覆って、声を震わせてそう言った。

 

「そんな……」

 

 濡れ衣を着せられることが確定した僕はその場に崩れ落ちる。

 涙なんて出るわけがない。僕は悪いことなんてなにもしていないのだから。

 

「最後に、何か言い残すことはあるかい?」

 

 薫さんの目は、罪を犯してしまった僕を哀れむようだった。

 

「それでも僕は、こころ一筋なんだ……」

 

 静まり返った法廷に僕の声が虚しく響いた。

 

「結論が出たようだね……どうするんだい、こころ。いや、裁判長」

 

 薫さんがこころを呼んだとき、僕は思った。そういえばさっきからこころが静かだな、と。まあ、こころが介入せずとも僕の負けは確定だし関係ないことといえばそうなんだけれど、こころが静かにしてるなんて珍しい。こういうとき一番楽しんでそうなのに。

 

「虎太朗、あなたは……」

 

 勢いよく裁判長席から立ち上がったこころは顔が真っ赤で目もぐるぐる回ってて……いったいなにがあったんだろう。

 うーむと悩む僕の前で、こころは力なく木槌を振り下ろす。

 

「無罪!」

 

「え?」

 

「負けたよ虎太朗君。敗北の味……儚い」

 

「え?」

 

「虎太朗君、次はもうこんなことしちゃダメだよ?」

 

「え……え?」

 

 戸惑う僕をよそに、薫さんと花音さんは法廷を去っていった。

 切り替えはやすぎでしょ……。なにしに来たんだあの人たち……。

 

***

 

 嵐のような裁判が終わって、その夜僕はテレビを見ていた。夕方見るはずだった、カラフルなアイドルが出てきた歌番組の続き。有能な黒服さんたちが録画しておいてくれたらしい。

 

「こころはアイドルになってみたいって思わないの?」

 

「世界を笑顔にするアイドル……それもいいわね!」

 

「だよね」

 

 ソファに座って、隣のこころと笑い合う。

 手錠をもって、なんてこともなく、至って平和な鑑賞会だ。

 問題があるとすれば、こころとの距離がものすごく近い気がすることくらい。いい匂いがして理性が吹っ飛びそうだからやめて欲しい。

 

「虎太郎はどの子が好きなのかしら?」

 

 何故か心配そうな顔をしたこころがすごく可愛く見えて、僕は思わず笑ってしまう。

 

「水色の髪の子かなぁ……こころみたいに笑うんだよね」

 

「そ、そう……あたしみたいに……」

 

「うんうん」

 

 僕は笑って頷く。

 「あたしみたいな子が好き……」って壊れた機械みたいに繰り返し呟くこころは見なかったことにした。

 

「と、ところで虎太郎、裁判で言っていたことに嘘はないわよね?」

 

「もちろんだよ」

 

 正直、色々ありすぎてどの言葉のことだかよくわからなかったけれど、

 

「そうなのね! それならいいわ!」

 

 こころが楽しそうに笑ってくれたから、それでいいやって思った。

 僕は一生、こころにはかなわないんだろうな。




恋愛裁判が出てから投稿しようと思っていましたが、遅くなりそうだったので。
春擬き、良かったですね。
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