気泡が上へと上がっていくのが見える。
髪が流れに合わせてフワフワ揺れる。目を開けたのはアルトリア・ペンドラゴンの名を持つ英霊だ。
「ここは……」
何度も聖杯戦争で戦ってきた。
そのたびに願いを叶えずにきた。
士郎達との戦いから百年以上の時が経ち、皆との死別により英霊達の世界に戻っていたアルトリア・ペンドラゴンは見知らぬ場所にいた。
水の中にも見えるが、苦しくもない。もう体を持たない魂の存在なのだから、水の中でも息が詰まらないのは当然の事である。
「聖杯の中と言えばわかりやすいか? 詳しくは違うが」
アルトリアは答えが返ってくるとは思っていない質問の答えを聞く。
「願望をかなえてもらえるという事か?」
「そう急くな」
聖杯は願望をかなえる万能の願望器。その聖杯からの声となればそう思うものだろう。
「私も破壊されて万能とは言えなくなった。だが願望をかなえる存在という存在意義は変わらぬ」
そして、アルトリアは目を閉じた。それからの聖杯からの声に耳を傾けたのだ。
「お前は王の選定のやり直しを望んでいるな?」
「もう、そんな事を考えるのは無意味だ」
「結論を聞いているのではない。願望を聞いているのだ」
そう言われれば、アルトリアの胸の隅に、いまでもその願望はある。
「英雄ならざる英雄達と戦え。それに勝利したらお前の願望は成仏する」
「成仏?」
「意味はいずれ考えろ。それに、お前は好きな者をサーヴァントに選んでいい」
「私がマスターに?」
「説明しよう」
いままでの聖杯戦争とは違うようだ。
聖杯の声を聞くと、こう話していた。
セイバーとして地上に降り立ち、もう一組の英霊達と戦うのだ。
英霊とは呼べない奴ら、人によっては唾棄すべき大悪人だ。
すべての者を倒し切り、それで願いがまだ変わらなければ、願いが叶う。
「悪者退治をするだけでいい。それで願いをかなえてやろう」
「意味が……」
そこまで言いかけたが、言葉を止めた。
そもそも聖杯戦争の意味は、願いを叶える事。それで願いが叶うなら、それでいいというだけだ。
「約束は守れよ」
「もちろんだ」
そう最後に言い合って、アルトリアの意識は消えていった。
「聖杯戦争? 昔話だろう?」
魔術師協会に呼び出された衛宮は言われた。衛宮の直属の上司にあたるレーダスである。
「昔に起こったからって二度と起こらないという事にはならない」
「そういうのはいいから……」
昔、爺さんだかひいじいさんだかが、聖杯戦争に参加したという話くらい聞いた事がある。
だが、自分には縁のないものだと思っていた。
「英霊はすでに現れている。しかも、君のいう事しか聞かないようだ。そして、最近素敵な入れ墨が入ってオシャレになったと評判だな?」
「これは……」
朝起きたら腕に現れていた入れ墨。これが他人に知られたら自分の地位が危ういと思って黙っていたのだが、バレていたのだ。
「それが令呪だ」
サーヴァントを従わせる者の証だ。令呪が自分に現れたという事は、自分がサーヴァントを率いる資格があるという事だ。
「断る理由はないはずだ。君ならな」
危険な仕事だからと言って断る人間ではない。爺さん譲りの性格で、むしろ、他人に面倒事を押し付けるのを嫌う性格である。
「まあ、ないけどさ」
これから命を賭けた戦いになる事を分かっていないような返答だ。
レーダスはそれを了承と受け取る。
「それでは頼むぞ」