fate red   作:岩戸 勇太

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第3話

 衛宮は話聞いた場所に向かった。

 教会の礼拝室で、二人の英霊が立っていたのだ。

「あなたが話に聞く私のマスターですか?」

 アーチャーの英霊はおだやかな物言いだった。

 シモ・ヘイヘだ。フィンランドの英雄でその銃の腕は正確無比で五百四十二名の射殺が確認をされているという。

「規律がなっていない。指揮官失格だぞ貴様」

 ライダーの英霊ミハエル・ヴィットマンだ。

 ティーガーという戦車に乗って戦った戦車兵で、最終戦果は戦車百三十八両、対戦車砲百三十二門という。

(シモ・ヘイヘはともかく、ヴィットマンはナチスの兵隊ねぇ……)

 今回召喚をされたサーヴァントは、英雄とは呼べないような者ばかりが集まっているという。

 衛宮はその荒くれ者の問題児達のまとめ役をする事になったのだ。

「二人しかいないのか?」

「いや、三人だ」

 礼拝堂のどこかから声が聞こえてくる。

「何処にいるんだ? 顔を出せよ?」

「用心だ。いつ、どこから敵に狙われるか分からん」

 話に聞いていたセイバーである。セイバーは宮本武蔵。

「私が不意打ちやだまし討ちで倒されたらいい笑い者だ」

「お前は不意打ちやだまし討ちばっかやっていたからな! やり返されるのが怖くなるのは当然だな!」

 宮本武蔵の真の姿は、一般的なイメージである侍の頂点の剣豪というものではない。

 巌流島では遅れてやってきた。

 病気のフリをして近づいていき、様子を見るために自分を覗き込んだ相手に不意打ちで切りかかったこともある。

 戦いぶりに激怒した相手側の弟子に追いかけられ、寺に逃げ込んでいったという逸話もある。

「他の奴らを集めないといけない。何か言っていなかったか?」

「なんか「英雄になりたい」とか、「愛を伝えに行く」とか、わけのわからん事ばっか言っている奴らだったぞ。大丈夫なのか?」

「人の批判をしたいんだったら、せめて面と向かって言うんだな。反論する気が起きん」

 衛宮が宮本武蔵の言葉にそう返した後、アーチャーとライダーは姿を消した。

 話はまだ始まりそうにない事を悟ったからだろう。

「ええと……ランサーと……キャスターと……アサシンと……バーサーカーか……ランサーが一番まともそうだな……」

 最初に探すのはランサーと決め、衛宮は教会から去っていく。

 

 槍を抱えて道を歩く姿がある。

「こ奴らをすべて奴隷として捕らえれば国が大きく発展するだろう」

 頷くランサー。

「もう、お前には国はないだろう? 恐怖政治を敷いて暗殺されたのを懲りていないのか?」

 エミヤはその後ろから声をかけた。

「なんど殺されようと、この世界にいる限り戦うのみだ。暴牛の力でな」

 ランサーはシャカ・ズールーという名のアフリカの王だ。

「人が何を考えるかなど、分からんものだ。一回暗殺をされたくらいで、反省や後悔などしていたら、宇宙の終わりの日までくだらん事に気をもみ続ける事になるぞ」

「お前、もう一回暗殺されてこい」

 ランサーの言いようにあきれた衛宮は言ったが、彼は重要な戦力の一人、暗殺されては困るというもの。

「聖杯は戦いに勝利した者の願いをかなえるというぞ。この戦いに勝ったら、国を一つ寄越せとでも言ってみたらどうだ?」

「そうだな。サーヴァントの姿では国の統治すら不可能だろう」

 サーヴァントは、力を与える存在が必要だ。

 衛宮には、七人のサーヴァントを支えるほどの魔力は存在しない。

 教会に魔力の内在されている宝石があり、その宝石から力を供給され続けているという話になっている。

 衛宮も詳しくは知らない。衛宮には魔法の才能がない。ある才能といえば物質の復元能力のみだ。

 昔話の聖杯戦争の話によると、その戦いに参加した自分の先祖も、物質の復元や再構築などの、トレースの能力しか持っていなかったという。

 昔の英雄の子孫という事で、生き証人という名の、実質、生物学で言う「生きた化石」や、考古学でいう「歴史遺産」的な扱いで、魔法教会に所属をしている。

「一人でうろついていると危険だぞ。相手の目的は英霊の魂だ」

 聖杯は、英霊の魂を依り代にして願いを叶えるという。

 敵の目的はサーヴァント達を倒して、英霊を聖杯の依り代にする事。

 つまりはランサーを倒す事である。

「教会に戻れ。俺はあとの三人を探してくる」

 そうランサーに向けて言う。素直に戻るとも思えないが、サーヴァントの首に縄を取り付けて引っ張っていくなど不可能。

 とりあえずはそう言っておくことしかできないのだ。

 

「君はなぜここに座り込んでいるのかな?」

 道端に座り込んでいる女子学生に向けて声をかける。

「あんたには関係ないでしょう?」

 ひげ面の中年の男が声をかけても、そう答えが返ってくるのは当然。

 だが、グリゴリー・ラスプーチンはそれでも声をかけた。

「君は何も悪くないよ」

 それに、その女子学生は顔をあげた。

「両親は君のため、君の事を想って、そう口にしているのだが、それだからと君は気持ちを汲む必要はない」

 彼女の事を突っ込んだ事はで話はじめる。

 かるで彼女の事を昔から知っているかのようである。

「確かに、将来の事は漠然とした不安だろう。声優になりたいという夢があるが、それは叶わないと自分でもわかっているのであろう? だからといって、無理して夢を追うか? それと、あきらめるか? その二つの選択肢しかないという事もないだろう」

 そう言い、彼女の手を握るグリゴリー・ラスプーチン。

「立ち止まるのが一番いけない。常に考えるのだ。夢を追いつつ、それでも失敗したときの保険がある方法。それを考えるというもの手だ。それとも、今から猛勉強をして、声優プロダクションへの就職を目指せばあるいわ……」

 そこまで話したところで、後ろから衛宮はラスプーチンの頭をはたいた。

「なんで十七世紀の人間のお前が現代の事情をそこまで知っているんだよ?」

 ラスプーチンの首根っこを掴み、立たせた。

「すまない。こいつは危ない奴だから君はすぐ逃げなさい」

 そう衛宮が言うと、女子学生は逃げていく。

「なんだい? 彼女に愛を教えようとしていたのに、君は神の愛の教えに背くのかい?」

「お前は神の教えを実行する前に人生の教訓を思い出せ。女侍らせて、嫉妬買って殺されたのを忘れたのか?」

「私が殺されたのはそれだけでは……」

「九割九分九厘がそれだろうが」

 人を癒したり、無くし物を見つけたりする能力を買われて、王宮に招き入れられた。

 皇帝夫妻からの信頼は絶大で、政治に口出しをするようになって、ロマノフ王朝貴族の反感を買っていく。

 一番大きかったのは、彼がハーレムを築いた事だろう。

 妻や娘が、髭面の胡散臭い男を妄信するのには恐怖や嫉妬や怒りをため込んだのだという。

「あと、アサシンとバーサーカーを探さないといけない。お前、最初の教会に戻れ。いいな?」

 そう声をかける。

 首に縄をかけて連れていく事は不可能なのはランサーと同じ。アサシンの事を探して、衛宮は歩いていった。

 

「私がヒーローだぁ!」

 子供たちの集まる公園で、おもちゃの剣を振り上げて子供たちに堂々と宣言をする姿がある。

「私が全ての争いを無くして見せる! 私を頼って大丈夫だよ!」

 意気揚々とする姿を子供たちはポカンとした顔をする。

 シャルロット・デ・デュノア。

 戦争を始めようとしていた政治家を暗殺し、戦争を止めたという功績を持つアサシン。

 彼女が有名なのは、処刑をされるその時の立ち振る舞いにあった。

 両手に手枷をはめられた彼女は、馬車で処刑台の前に送られる。馬車のドアが開くと、ピョンと馬車を飛び降り、ギロチン台に向けて駆けていった。

 これが、あの指導者を殺した子供か。

 そう悪意のある視線を向けられるのに、シャルロットは公然と言い放った。

「私は千人の人間を救うために一人の人間を殺しました」

 しん……とあたりは沈まりかえる。

「私は、ギロチン台で首を跳ね飛ばされた瞬間に、英雄になります!」

 それを見る観衆は、彼女が狂っているのかと思った。

 だが、彼女の言葉に同感する者をもいた。戦争を止めた英雄であり、国を憂い、戦争を覚悟した人間を一方的に悪と決めつけて暗殺したという側面もある。

 彼女は自分からギロチン台の装置に取り付けられる。

 子供がお菓子を待つような屈託のない笑顔で執行の瞬間を待つ姿。

 ギロチン台で首を跳ね飛ばされた時、誰もが複雑な想いでその姿を見つめたという。

「ヒーローになりたきゃ、教会に戻ろうか!」

 衛宮はアサシンの後ろに回り込んで剣を取り上げた。

「あと、バーサーカーを探さないといけないからな! お前は早く戻れ!」

 衛宮はアサシンに言う。

 最後はバーサーカー。どれだけ扱いにくい奴だろうかは、想像が難しくない。

 

「私はどうすればいいのでしょうか」

 十字架を握って町を歩く姿。

 行先も分からずに町を徘徊しているのがバーサーカーだ。

「おぉ! 神よ! 私に信託をお与えください!」

 人の通りの多い道端で空に向けて声を上げるバーサーカー。

「私の敵という者は皆に平等と癒しを与えようというのです。私は敵と戦わなければならないのでしょうか?」

 敵のセイバーがアーサー王であるという事は分かっているバーサーカー。

 彼女は、神の信託に導かれて王の元に向かい、フランスの勝利には自分が必要だと訴えた。

 何日にも渡る訴えにより、周囲が彼女に味方し、王への御目通りが叶った。

 それから兵を与えられ、何度も決死の突撃を行って勝利を重ねていったのだ。

「フランスのためじゃなきゃやる気が出ないって事か?」

 衛宮が言う。

 ここまで目立てば探しやすいというものである。

 バーサーカーの姿を見つけると、衛宮はバーサーカーの首根っこを掴んだ。

「神に祈るなら教会でやれ! ここで祈っても多分神は降りてこないから!」

 そう言い、一番面倒そうなバーサーカーを教会にと連れていく衛宮。

 バーサーカーの名はジャンヌダルク。

 彼女は後世に美化して伝えられているが、実際の彼女は神聖で清廉な人物ではない。

 彼女は神の信託を聞いたとなればすぐに王宮に向かった。

 そして、王城の前で、「フランスの勝利のためには自分が必要である」と喚き散らしたのだ。

 最初は無視していたものの、その姿に感銘を受けた民衆が彼女の支持をしだした事から、フランス王は、考えを変える。

 民衆を扇動する役にピッタリだと確信した王は彼女に兵と地位を与え、戦場に送り出した。

 兵を鼓舞し、弱気になっていた彼らに突撃を指示した。

 彼女には軍才はなかったが、ジャンヌダルクの求心力により、有能な幕僚が集まったのだ。

 ジャンヌダルクが兵を集め、幕僚たちが兵が突撃をすれば勝てる状況を作り出し、ジャンヌダルクが突撃を指示する。

 そして勝利を繰り返していったのであった。

 最後は、王の制止を振り切り、果敢に敵に突撃をして捕らえられる。

 そして、身代金交渉は決裂し、火あぶりになって彼女の人生は幕を閉じる。

 実際は悲劇とは程遠いマヌケな死にざまを晒したのが、ジャンヌダルクの真実だ。

「得意の突撃は、ここぞという時にやれ? いいな? ジ・ル・ドレは今いないんだからな?」

 昔の聖杯戦争に参加した、彼女の幕僚の事を言う衛宮。

 バーサーカーとしてこの世界に現れたからには、ジャンヌダルクとて、なにをするか分からない。

 バーサーカーを監視しながら、衛宮は二人で教会に、戻っていった。

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