「みんなに私の想いを聞いてもらおうと思う」
アーサー王は、自分の集めたサーヴァント達の前で話す。
ここは夜の公園。切れかけた蛍光灯がチカチカと明滅し、ところどころ錆びた遊具が並ぶ。公園の隅には草が生えている。
あまり手入れをされているとは言えない閑静な住宅街の中心にある小さな公園だ。
「私は自分の王の選定のやり直しを望んでいる」
自分は英雄王となり、数々の戦いを指揮した。
だが、最期は円卓の騎士の一人であるモードレッドの裏切りによって大怪我を負って、心身ともに疲弊して引退をする。
「わたし以外に王にふさわしい人間はいたはずだ。石から剣を引き抜いたのが私でなければ、今でも平等で平和の続く国が作られていたかもしれない」
「平和と平等か。そうなればいいな」
感慨深くアサシンがつぶやく。
「この世界にも平和と平等を与えたいとも思っている。聖杯の力はそのためにも使いたい」
「願いは一つじゃないか?」
アーチャーが疑問を投げかける。いままでの聖杯戦争は、一人の願いしかかなえることはできなかった。
「今回は大盤振る舞いだ。一人につき一つの願いが叶えられるらしい」
眉根を寄せて言うアーサー王。
アサシンはそれに目を細めた。
「それじゃ、勝った後も争う必要はないのね」
キャスターがわざとらしくかぶりを振って言う。
「あやし……」
ライダーはその様子をつまらなそうな顔で評する。
ランサーは無言である。
「それはいい事だけど、作戦はどうする?」
「敵が分からないといけない。まずは偵察だ」
「ならエミヤ達の出番だな」
アサシンが言いアーチャーが頷く。
単独行動のスキルを持つ二人が、偵察には適任だ。大勢で行って相手を刺激してもいけない。
「それじゃ、どこを拠点にする? 守りやすい場所がいいが」
「人のいない場所だ。河川敷にしようと思う」
「人はいないだろうが、背水の陣になるかもしれないぞ」
「聖杯戦争で一般人の死者を出したくない」
アサシンとセイバーの会話。
セイバーの参加した聖杯戦争では、確かに一般人の死者がでた。セイバーとしては、自分のための戦いで無用な死者を出したがらないのだ。
不満顔のアサシンだが何も言わなかった。
「俺達は行くぞ」
アーチャーが投げかけると消えていく。アサシンも消えて敵を探すのだろう。
橋の下で丸く並び、二人の報告を待つセイバー達。
頭上の橋にはひっきりなしに車が通っている。橋が軋んで時折パラパラと埃が落ちてきた。
「犠牲者はゼロにしたいわね」
キャスターの言葉にはこの場の全員は同意だ。
戦いは苛烈で大規模。人々には秘匿されて行われるため、避難をしてもらうわけにもいかない。
「ゼロにする」
いままで自分が守り切れなかったものを思い出しているセイバーは地面を見つめながら言う。
今、セイバーの心にあるのはこれからの戦いに対する不安と恐怖だ。
高揚感を覚える戦いは今まで何度もあったが、敵は英雄とは言えない連中であるという。
騎士の誇りを賭けた戦いという気分にはなれない。
そこに爆発音が鳴った。
頭上の橋が壊れ、瓦礫が落ちてくる。
「大砲の音!」
こんな町中に大砲を持ち込めるわけもない。これは誰かサーヴァントの撃った攻撃のはずだ。瓦礫に紛れて落ちてきた刀を持つ宮本武蔵がバーサーカーに向けて切りかかった。
「不意打ち!」
バーサーカーが言うのに宮本武蔵が答える。
「奇襲と言え!」
剣を大きく振った宮本武蔵の剣は頭をかがめたバーサーカーの頭上を通る。
その直後にバーサーカーの鼻先に脇差の切っ先が突き出された。
「宮本武蔵は二刀流の剣豪だった!」
ランサーが剣を叩き落とす。脇差を捨てた宮本武蔵はランサーから十分に距離を取って後ろに下がる。
「電撃作戦だ!」
ミハエルのその声と共に、戦車のエンジン音が聞こえてくる。砲身がセイバー達に向けられる。
「コケ脅よ!」
キャスターの言う通り、敵は戦車といえど、英霊としての強さは自分達の比ではない。戦車から弾が発射されたとしても、それほどの威力ではないはずだ。
「でも後ろには……」
ティーガーの背後には、民家がある。攻撃をする事はできるだろう。だが、それでは、まだ電気の煌々と輝く後ろの民家にあたってしまう。
頭上の橋の上を通っていただろう車がセイバー達に叩きつけられた。
ジャンヌが持ち上げ、セイバー達に投げつけたのだ。その車の中にはまだ人がいた。中の様子を覗き込むセイバーだが息つく暇を与えてくれない。
川に降り立ったジャンヌ・ダルクの背後に、いくつもの大砲が並んだ。
「これが神の怒りだ!」
バーサーカーであるジャンヌダルク。
ジャンヌダルクの軍の強さの理由の一つは、当時、威力の高さと残虐性によって使うのをためらわれていた大砲を惜しげもなく多用して戦った事だった。
当時のジャンヌ・ダルクは神に仕える自身であれば、これを使っても罪にはならないと考えていて、それを公言していた。
背後の大砲からガンガンと弾が撃ちだされる。
「これ、ゲートオブバビロンと同レベルよ!」
攻撃力は昔キャスターが戦った英霊の宝具と同レベルである。
まだ中に人が残る車の前に立ちはだかったセイバーは大砲の弾を切り捨てる。
ランサーとライダーは自分達を囲む敵に向かった。右方にはシャカ。左方には宮本武蔵。
ライダーはシャカ。ランサーは宮本武蔵だ。
シャカは槍を投げる構えをとった。
「暴牛だ」
暴牛の槍と名付けたその槍は投げると強烈な衝撃波を放ちながら撃ち飛んでいく。
車を粉々に砕いて弾き飛ばし、遠く彼方へと消えていく。
「貴様!」
中にはまだ人がいた。助けようと思った人を殺された。セイバーはシャカに怒声をなげかけた。
「アーサー王。噂に聞く蛮族の王か」
「蛮人は貴様だ!」
「伝説は聞く。実にマヌケであくびのでる。愚話である」
「私も少しは聞くぞ、暴牛という事はシャカ・ズールーだな。人心を無視した政治を行い、最期には暗殺をされたという」
「人心を無視か……そんなものを気にして何になる?」
「気にしないで裏切られたではないか」
「裏切られたのは貴様もだ」
お互いの事を知るシャカとアーサー。
「人は礼節と寛容によってのみ操ることができるのだ。人を慈しむ事ができぬ者に王の資格はない!」
ランサーと向かい合うシャカ。
ランサーはシャカとセイバーの話を聞き、話が終わるまで待つつもりだ。
それが騎士道である。
ランサーが攻撃してこないと知っているシャカは無防備にして高笑いをあげた。
「やはり蛮族! 頭が古代の時代の妄想家と同じである!」
がはははは十分に高笑いをしたシャカ。それに飽きるとしたり顔で話し出した。
「人間が何を考えて何をするかなんてわからんものだ。一回暗殺されたくらいで気をもんでいては世界の終りまでくだらん事で悩み続ける事になる」
アーサーはその憤りを感じる言葉を聞く。だが、それからのシャカの言葉で顔を青ざめさせた。
「部下が裏切るのを止める方法などない。女が浮気をするのを止める方法などない。どうすればよかった? 何をすれば止められた? 自分の何が悪かった? アホか。千年悩んでも答えなど出ぬぞ」
千年以上それで悩み続けたアーサーの心にグサリと刺さる言葉である。
「人は恐怖にしか従わぬのだよ。寛容と礼節? それが一番ダメだ。ちょっと気が変わって相手が調子に乗ったらそれで全て崩壊である」
アーサーは奥歯を噛む。そう、それで彼の築いた王国は崩壊したのだ。
「王の刺客がないのは貴様の方だ。貴様は人間というものを分かっていない」
シャカが言うと、アーサー王の剣が光り出した。
「セイバー! いくら河川敷と言っても民家は目と鼻の先よ! そんなものを使ったら!」
キャスターの制止の声はセイバーの耳に届いていなかった。
「貴様ぁぁぁぁぁあああ!」
怒声を上げたセイバーの光り輝く刃が、ランサーに向けて振り下ろされた。