トリッパーな父ちゃんは   作:ラムーラ

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息子とコイキング3

 

 ――クチバシティ――クチバ港――

 

 クチバシティは周りの海を消波ブロックで囲み、危険なポケモンや津波の被害を防いでいる。

 クチバの港はナナシマや他の地方との連絡船が行きかう大きな港だ。

 そしてその波止場は消波ブロックの間を抜けるようにうねり伸びている。

 

「ここからじゃあさすがに現場は見えないか」

 

 その最端に立って眼を凝らすも、何も見えない。あるのは遥かに向こうまで続く水平線のみだ。

 

「さすがにこの辺にはもう誰もいないか」

 

 あたりには人の気配はない。それもそのはずクチバシティではシルフカンパニーからの連絡により津波警報が発令されていて、人はみなとっくに避難済みである。

 風はゆるやかで、波も高くない。空にいたっては晴れ渡っている。ただ違うのはポケモンの気配がないことか。

 きっとポケモンたちもこれから起こりつつある災害に感づいているのだろう。

 

「ちょうどいい、出番だぞ、カイオーガっ!」

 

 そう叫んでボールを宙に放れば――ギィイイグゥォオオオ――と迫力満点の鳴き声とともに巨大な体が現れた。

 着水の衝撃で跳ねた大量の水を頭から浴びせられる。

 

「あぁ、そういやスーツのままだった……まぁ、いいか」

 

 カイオーガが出てきた途端、さきほどまで晴れ渡っていた空はみるみるうちに曇り始める。まだ雨は降ってこないが、ゴロゴロとなっているのを見ると時間の問題だろう。

 どうやら雷雲まで呼び寄せたようだ。

 

 体長、実に4,5メートル。体重352キロ。特性、あめふらし。流線型のフォルムに幾何学的な文様。どことなくクジラっぽいがホエルオーなどとは明らかに異なる。

 

 ある地域では海を広げたという伝説があり、神様のような扱いを受けるポケモンだ。

 他の地方の一般人ではまず知らないだろうが、ちょっと伝説に詳しい人間や学者、そして伝説の残る地方の人が見れば卒倒しかねないポケモンである。

 はっきりいって私の調べたかぎりでは目撃例なんて皆無に等しかった。50年前に大雨の中それっぽい巨大な影をみた、なんて見出しがとある地方のローカルな新聞に載っていたくらいだ。

 まして捕獲となると世界に私だけかもしれない。

 

 しかも紫色の色違いだ。その希少性といったら天文学的な数字になるのではないだろうか。

 

 まぁ、こいつを捕獲するための捜索や機材にはシルフカンパニーの協力があったのであまりおおっぴらに胸を張れないのだが。

 バトル自体は自力で行って手に入れたので問題なく俺の言うことはきいてくれる。

 

「さて、それじゃあ行こうか。今日は存分に暴れていいぞ。なみのりだ!」

 

 ――ギィイイグォオオ!!!

 

 カイオーガは伝説になるだけあってその戦闘力もまさしく超一級品。恐ろしくて公式戦では一度も使ったことが無い。

 他にも今回のような仕事でよく使っているので、恨みを買っている人間にばれたら困るという理由もあるけれど。

 普段の生活まで物騒な奴らに追い掛け回されたくは無いのだ。そうなっては何のために偽名と嘘の所属まで作ってもらったのかわからなくなる。

 

 元気よく返事をしてくれるカイオーガに跨り海を進む。

 

 バシャアアン、バッシャアアンと海を割るように水をかきわけて猛スピードで進むカイオーガの雄姿。そしてその背中で振り落とされないように必死でしがみ付くメタボな私。

 実に無様だけど、しょうがない。この子、わんぱくなんだもの。

 現実で厳選なんて……。シンクロも用意しておいたが見事に外れたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――クチバ近海――沖――

 

 現場についてみるとすでに何体かのギャラドスがシルフの貨物船と思われる船にたいあたりをかましていた。

 右から左から、次から次へと巨大なギャラドスたちのたいあたりで、船は沈んではいないもののボロボロだった。

 

「こりゃまずい。カイオーガ、かみなりだ!」

 

 すでに雨は降り始めている。雨天時のかみなりは必中だ。

 カイオーガが何らかのエネルギーを集めて天空へと放った。

 直後、暗雲の間からいくすじもの稲妻が一瞬の光と轟音を伴って落下し、貨物船を囲んでいたギャラドスたちに直撃した。

 

「まず8体ってところか」

 

 海を通じて電流が流れたのか、貨物船の周囲に居たさらに数体を巻き添えにしたようだが、海の底から次々にギャラドスたちが湧いて現れた。

 いっせいにこちらをにらみつけてくる。

 

「いかく、か。タイプ一致4倍でも数が多いな」

 

 ギャラドスの大群にいっせいにいかくされ怯えてしまったカイオーガの背を優しく撫でてやる。

 

「大丈夫だって。お前の方がずっと強いから。それに俺もいる」

 

 ――ギイグゥォォオオ!

 

 どうやらわんぱくなだけあってそれほど怯えていたわけではないようだ。抗議の声をあげてくる。

 

「わかった、わかった。相手の数が多くてちょっとひるんだだけ、だろ?」

 

 わかればいいんだとばかりに鳴き声をあげるカイオーガに苦笑してしまう。

 

「じゃあとりあえず、もういっかいかみなりだ!」

 

 再び、カイオーガがエネルギーを集め上空へ放とうとする。

 

 が、それを邪魔するようにギャラドスたちがこちらへ突進してきた。

 

「避けろっ!」

 

 バシャンとカイオーガがよこっとびに跳ねてギャラドスの群れをギリギリのところでかわし、そのまま泳いで離れていく。

 

「カイオーガ、囲まれないように動きつつ、かみなり! 船からギャラドスたちを遠ざけるんだ!」

 

 ――ギィグゥオォオ!

 

 全速力で水上を移動しながらときおりギャラドスたちにかみなりを落としていく。

 

 カイオーガの種族としてのすばやさはかろうじてギャラドスを上回っている。本来ならば積み技や持ち物、もしくはよほどのレベル差でもないかぎり抜かれることはない。

 しかし、今行っているのはは一対一のバトルではない。

 ただでさえ数が多いのに加え、カイオーガは俺を背にのせているため水に潜れない。

 いや、カイオーガは水を操れるので短時間なら問題ないだろう。しかし、今度は頭上も取り囲まれてしまう可能性が出てくる。

 その上、水中ではかみなりが落とせない。出せるには出せるが拡散してしまって必中ではなくなるし、自分も感電しないように防御をする必要が出てきてしまう。

 やはり水中へは逃げられなかった。

 

 右に左に、時に真下から突如として現れるギャラドスたち。

 

 確実に数は減っているはずなのだが、水中から次に次に湧いてくるギャラドスを見ているとむしろ増えているようにしか思えない。

 中には高レベルのやつも混ざっているのかはかいこうせんが飛んできたりもした。なみのりをしているのがカイオーガじゃなければ俺は死んでいたかもしれん。

 そうして気付けば周囲360度を囲まれてしまっていた。見た感じまだ3桁以上いそうだ。水中にも気配がある。それもうじゃうじゃと。ひょっとして世界中のギャラドスがここに集まってるんじゃなかろうか。なんてふざけた考えが浮かんでしまうほどだ。

 

 青青青、周囲はすべて青一色である。

 

「貨物船は……よし、離れたな」

 

 かろうじてギャラドスたちのすきまから遥かかなたに去っていく貨物船の姿を確認できた。

 

「もういいだろう。ありがとうカイオーガ」

 

 ギイグゥォー!

 

「さて、貨物船も離れたし、クチバからも遠ざけた。……よし、あとはこいつらを静かにするだけだな。みんな出て来い!」

 

 ジャケットの中の隠しホルダーから4つのボールを掴み、中空へと放る。

 

 ボールの中から出てきたのはレックウザ、ルギア、サンダー、そしてジラーチ。全員、カイオーガに勝るとも劣らない伝説を持つポケモンだ。

 

 あっちの世界でこんなパーティを対戦で使ったら伝説厨呼ばわりされても文句が言えない、そうそうたる顔ぶれ。

 

 当然だが、全員カイオーガと同じく自力で捕獲した。本当に信じられないほどの幸運が重なって手に入れたポケモンたちである。

 努力と幸運と恩情と偶然と人脈とごく一部の原作知識によるチート。そういった様々なもののおかげだ。

 

 私はレックウザの背中に飛び移ると上空から指示を出した。

 

「総員、かみなりだ!」

 

 

 フラッシュ以上の光と爆音が海上に轟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 あたりの海は凄まじい有様になっていた。

 伝説級5匹によるかみなりは海中に居たギャラドスたちも仕留めてしまったらしい。

 海を埋め尽くす、ひんしのギャラドスたち。

 

「……あー、調子にのりすぎたわ」

 

 自分のやった凄惨な跡を見せられると高ぶっていた気持ちが急速に落ち着いていく。

 

「モンスターボールは……足りないよなぁ」

 

 というか、こんな数のギャラドスを送ったらマサキんとこのパソコンが破裂する。

 

「しかたない。ジラーチ」

 

 宙に浮いていたジラーチをちょいちょいと手招きしてそばに呼ぶ。

 ジラーチはきらきらと光の軌跡を残しながら近寄ってきた。

 

「頼む、ねがいごとしてくれないか? さすがにこれを放置するのは気分が悪くて」

 

 まかせんしゃい、とばかりに小さい手で胸を叩くジラーチ。

 

 ――キュイヤー――

 

 鳴き声とともにジラーチが手を天にかざすと、雲の切れ間から数え切れないほどの光の束がギャラドスたちに降り注いだ。

 

「うん、これであとはほっといても大体大丈夫かな。ありがとうジラーチ」

 

 いやしのねがいで全快させないのは、このあと報復としてクチバの町や貨物船に再び襲い掛かられても困るからだ。

 これで元気を取り戻しても、どこかを襲うだけの余力は残っていないだろうし、冷静にもなっていることだろう。

 きっと深海か、元の海域に戻ってくれることだろう。

 

「それにしてもどこのどいつか知らないが、どうやってこんなにたくさんのギャラドスたちをこんなところまで誘導したんだ? 電波か?」

 

 少なくともギャラドスたちは操られている様子ではなかった。

 というか、操れるのならもっと効率的に襲えるはずだ。いや、それ以前に貨物船なんてけちなことを言わず、もっと重要な拠点を攻め落とすことだってできただろうし……。

 

「ま、あとは社長に報告して大体は終わりだな」

 

 これから向かう旨を報告しようとして取り出したポケギアに通信が入った。

 

「む、ナナミさんから? ……もしもしハマサキですが」

「あぁ、やっと繋がった! ハマサキさんサトシ君が見つからないんです!」

「え? ちょっと待ってください、どういうことですか?」

 

 まさか。嫌な予感がする。

 

「わたしが買い物に行ってるあいだに子どもたちだけで草むらへ入ったらしくて! シゲルたちは無事に帰ってきたんですけど途中でスピアーに襲われてサトシ君とはぐれたってっ。今、マサラに居る大人全員で探してるんですけど見つからないんです!」

 

 血の気が引くのを感じた。

 

「い、今すぐ戻ります!」

 

 ポケギアの通信を切り、急いでレックウザ以外のポケモンたちをボールに戻す。

 

「頼む、レックウザ! この際どこでもいいから一番近い陸に上がってくれ!」

 

 そうすればフーディンで息子のもとへテレポートできる。こういったときのために息子にはシルフの協力でフーディンの念力を応用して作った念動性の発信機を取り付けてある。

 

「急いでくれ!」

 

 轟!と空を翔るレックウザ。その背にしがみ付きながら私は息子の無事を祈っていた。

 

(サトシ! 無事でいてくれ!)

 

 

 

 

 


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