――1ばんどうろ――マサラ付近――
「サトシっ!?」
フーディンのテレポートでやってきた場所はマサラ近くの草むら。
しかし、サトシの姿はどこにもない。
「これは、お守りがなんでこんなところに。くそっ、サトシどこだ!」
万が一に備えて持たせていた発信機入りのお守り。それが道の途中に落ちていた。
(マズい。さっきから嫌な予感が止まらない)
「くっ、みんな出て来い! 手分けして探すんだ!」
平和に暮らしたいだとか、そんなのは息子がいてこそだ。大前提から守れないのならば、隠し通すことに意味などない。
腰のホルダーとジャケットのホルダー、そのすべてのボールを宙に放り投げる。
スターミー、フーディン、メタモン、ドククラゲ、マンタイン、キングドラ。
カイオーガ、レックウザ、ジラーチ、サンダー、ルギア、レジスチル。
空に、周囲の林に、地の下に。あらゆる方向へ散らばる仲間たち。
念のためにポケギアでナナミさんに繋ぐ。
「もしもし、ハマサキです。今、1ばんどうろに居るんですが、サトシはまだ見つかっていませんか?」
「ごめんなさい、サトシ君はまだ……」
「そうですか。いえ、気を落とさないでください。あいつは私の息子です。7歳とはいえ、ポケモンも持っています。えぇ、絶対に大丈夫ですから」
震える指で通信を切る。
「サトシ、どこに居るんだ……」
――キュイアー――
「ジラーチっ! 見つけたのか!?」
――キュイアー――
イエス、と頷き宙返りをするジラーチ。
「でかした! 頼む、案内してくれ!」
――1ばんどうろ――???――
「……まだ居るや」
――ビチッ
サトシは雑木林の枯れた巨木、その洞の中にコイキングと身を潜めていた。
スピアーは強敵だった。
ただ不幸中の幸いとでもいえばいいのか。
進化したてだったらしく、レベルはそれほど高くなかったようで、どくばりといとをはくしか使ってこなかった。
これまでの特訓の成果が発揮されたのも大きかった。
敵の攻撃を見極め、はねるを上手く使ってかわす、再度攻撃をしようと中空から降りてきたところをたいあたりで叩く。
それを繰り返すことでなんとか撃退できたのだ。
しかし、サトシにとって不幸な誤算だったのはスピアーが近くにもう一匹いたことだった。
コイキングにはとてもじゃないがスピアー相手に連戦できるだけの体力なんて残っていなかった。
さらに毒を受けてしまったのか、痙攣を繰りかえしていて様子もおかしかった。
はねるでかわしたとはいえ、何度か直撃も受けていた。
サトシはそう判断するとコイキングをボールに戻し、すぐさま逃げ出した。
まっすぐマサラへ向かうつもりだったが、途中でさらにスピアーの数が増え、逃げ回っているうちにこんなところまできてしまったのだ。
「……はやくどっか行ってくれよ」
手を組みあわせて願い事なんぞをしてみるも、誰がかなえてくれるというのか。
サトシは、なんとなく洞の隙間から何かが返事をするようにきらめいた気がしたけど気のせいのようだった。
――ブーン――ブーン
――ブーン――ブーン
だって、スピアーたちはどんどんこちらへ近づいてくるじゃあないか。
どうもにおいか何かを頼りにこちらを探しているようだ。
こちらには毒状態と思われるコイキング一匹。レベルはどちらが上かわからないが……おそらくそう大差は無い。スピアーの進化するレベルは10、対してコイキングが進化するレベルは20だ。
サトシのコイキングはたいあたりを覚えたものの、まだ進化していないので19以下。スピアーは確実に一匹一匹がすべて10以上。極稀にそれ以下のレベルのものもいるが、そんな都合のいい考えは捨てておく。
これは、いよいよ、覚悟を決めるしかないんじゃないか?
「よし、決めた。気付かれる前に外へ出て走るよコイキング」
ボールの中の相棒に声をかける。返事なんて出来ないだろうが、どちらかといえば言葉にすることで震える身体を動かそうという自己暗示に近かったので構わない。
一気に、洞を飛び出す。
こちらに気付いて飛んでくるスピアーたち。
恐怖が心を支配していく。とにかく怖くて足を動かした。
「へぶっ」
そして、本日三度目の転倒をかました。
木の根に足をひっかけてしまったのだ。
――ブーン――ブーン
「ひっ」
感情の読み取りにくい複眼がサトシを捉えた。両腕の針はギラリと輝いている。
あの鋭く太い針で自分は刺し貫かれるんだろうか。
無意識に想像してしまい、喉からかすれた声が漏れた。
歯の根は合わずガチガチと音を鳴らすだけ。
(怖い……)
自分が何をしたというんだろう。なぜこんな目にあるんだろう。
生まれてから最大級の理不尽を前にくやしさと恐怖で涙がこぼれた。
ふと、ホルダーに入れておいたコイキングのボールが激しく震えているのに気付いた。
「……コイキング?」
まるでここから出せと言っているように感じられて、サトシはコイキングをボールから出した。
すると……直後、光に包まれて、巨大な、赤い、竜。
いや、色違いの赤いギャラドスがそこに居た。
――ギシャアアアアアアア!!!
ギャラドスのいかくにスピアーたちはひるむ。
「ぎゃ、ギャラドス!」
サトシに返事をするかのように巨大な尾びれを大地へと叩きつける。それだけで地響きが起きた。
「進化、した。とうとう進化したんだ……。あ、ギャラドス! スピアーにたいあたり!」
――ギシャアアアアア!!
ドゴンッ!
その巨体をいかしたたいあたりで一度に二体のスピアーを弾き飛ばし、戦闘不能にした。
コイキングのときはあんなにてこずった相手がこうもあっさりと倒れるのを見てサトシは驚いた。
「すごい……すごいよギャラドス!」
しかし。
――ギ、ギシャアア
「え、ぎゃ、ギャラドス!?」
ギャラドスはどく状態が治ったわけではなかったのだ。
その巨体がまるで糸の切れた人形のように地に倒れこむ。
「ギャラドス! しっかり、目を開けるんだ! ギャラドス!」
倒れたギャラドスに駆け寄り揺さぶるサトシ。しかし、ギャラドスはひんしになってしまっていた。
そして叫ぶサトシに残ったスピアーが針を向ける。
「っあ、ああ、とう、ちゃん、助けて……助けて、父ちゃん!!」
サトシの声が引き金になったのか、スピアーたちがいっせいに彼へと群がって――
「サトシッ!」――キュイアー!
父親の飛び蹴りとジラーチのすてみタックルがそれらを弾き飛ばした。
「ぐすっ、えぐ、と、とうちゃあああん!」
「無事か、どこか怪我してないか!?」
「うん、うん」
「……無事でよかった」
「や、やく、やくそくっ、やぶ、やぶって、ごめ、なさ」
「あぁ、いい。あとでちゃんと叱ってやる。だから今はいい。とにかく見つかってよかった」
久々に大泣きする息子を抱きしめながらたった今弾き飛ばしたスピアーのほうを睨む。
「たぶん、お前らの縄張りが近くにあっただとか、お前らのお前らの理由があるんだろうが。家の息子を泣くほど苦しめた以上、落とし前はつけさせてもらうぞ」
「ジラーチ! フルパワーでサイコキネシスだ!」
――キュー、イァー!!
不思議な力がスピアー達を包み込み縦横無尽にあちらこちらへと叩きつける。
――ドガン――ベキン――ミシィ――メコォ――ズガン!
その様、まさにシェイク。
タイプ一致の効果抜群。
スピアーたちはあっさりと戦闘不能になった。
「……よくやった。先にボールに戻っててくれ」
――ビシュン
ジラーチをボールに戻し、息子と向き直る。
「話は家に帰ってから聞こう。ほら、まずは鼻を拭け」
「う、うん」
「それと……」
「?」
「よく頑張ったな。ギャラドス。かっこいいじゃないか」
「うん!」
おまけ
当日夜。
――理由や経緯を聞いた結果、息子の行為は褒めてやった。が、ドククラゲの刑は執行した。
これで当分、無茶はしないだろう。
しかし、子どもの成長速度には驚かされる。これはあの人に似たのだろうか……。
おまけのおまけ
仲間達の回収を忘れていた。ご機嫌取りに手作りポロック一年分を要求された。俺一人でどうしろと……。